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時は、平安…… 冷泉帝の御世であった頃……
光る源氏の大臣の御子息の中に
美しさの方向性が、性別的に逆の方向に突き抜けた、珠のような男の子が居りました。
その美貌は、生母に瓜二つと噂され、
振りまく笑顔は、多く公達を魅了し、
若君の居る所は、まるで、春の陽光の中に居るような暖かな感覚と、
初冬に吹く、木枯らしような喪失感を味わうことになると、人々は語り継ぐのでした。
これは、数奇な運命を辿り、21世紀の時代から、平安の世に生まれ変わった、
暁の君の半生の物語 ―――――
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兄上が元服しました。
後学の為に、元服の儀式とか見たかったのですが、他所の屋敷で儀式を行った為、見れませんでした。
元服というと、四十七人の武者が乱舞する映画の影響で、
若武者が父親から、切腹の作法を教わるイメージしか思い付かなくて…。
流石にそれは、無いと思うけど……。
どうやら自分の元服まで、儀式の詳細は不明になりそうです。(我が家の男児は、もう自分だけですから…)
そんなこんなで、今まで母方の祖母の家に住んでいた兄上も、お隣の二条東の院に、お引越し……
これから兄上様と初対面です。
………
なんというか、顔立ちは、すごく父上に良く似ています。
女癖の悪さまで似ていないと良いのですが……。
たしか原作だと、比較的まともな人だったよね!?
違っていたらどうしよう…
親バカすぎる父上や…、 と・く・に、姉上の例が有るから、正直な所、自分が覚えている人物イメージは
全くといって良いほど、役に立ってないような気がする。
明石の姫って、あんなに活動的だったかなぁ?
もしかして、ここでの姉上の実母である明石の御方って、凄い豪傑なのでしょうか?
う~~~~ん…?? 良く覚えていないけど……。
『女だてらに琵琶の名手』とか…… って、記述が有った??
普通の女人がしない事を、するのが得意な人なのは確かなような気がするけど…………。
まぁ父上の性格からして、御方様方と顔を会わす機会なんて、まず無いと思うから、深く考えるのは止めよう。
「初めまして兄上。暁です」
これから対姉上で、多々お世話になるでしょうし、初めての印象は大事ですから、礼儀正しく挨拶をします。
ハテ? なんか戸惑っています。心なしか目が泳いでいるし。
まぁ………、理由は考えるまでもないな。
「あっ…… いや、今まで弟が居るって聞いていたものだから…。まさか姫だとは思わなくて……」
いぁ…まぁ…… 無理も無いよね……。こんな格好(女装)していたらねぇ………。
隣でニヤニヤしている親父を、蹴り倒したいです。
まだ袴着すらしてないのに………。
其のうち、この格好で外に連れまわされるとか
…………無いよね?
「いえ、弟で合っています……」
正直この格好で男だと認めたくはないではあるが、誤解は速やかに解かねばならないし……。
「………………………」
ああああ、沈黙しないでぇぇぇ!!
「念のために言って置きますが、この格好は、そこの変態親父の趣味ですので!!」
流石に、無実の罪で、変態趣味持ちの汚名を着せられるのは、遺憾であります。
万が一、このまま噂話が、都を闊歩したら……
とても恥ずかしくて、元服した後、堂々と外を歩けません……。
ひたすら隠し通さないと、悲惨な未来が待っているよぉぉ。(涙)
でも、人の口に戸は立てられないと言うしなぁ………。
見知らぬ姫の噂が立つ
↓
親父がすっ呆ける
↓
主上の耳に入る
↓
噂の姫を見てみたい。出仕させなさい!!
………… 何!? その『とりかえばや物語』的な展開!!
御伽噺じゃないんだから、洒落では済まないだろう!!
………って、この世界は、御伽噺でした!!
嫌だ!!! 女御入内だけは嫌っーーーーーーー!!
「だ、大丈夫かい? なんか先程から顔色が赤くなったり青くなったりしているけど……」
「ハッ!! いえ、ちょっと先の事に思いを巡らせて、つい取乱してしまって……」
「そうか……… 君も苦労しているんだね」
嗚呼、分かります……。この兄上は、私と同じ糞親父の被害者なのですね……。
「兄上!!何時か偉くなって、一緒に、あの節操なしをギャフンと言わせましょうね!!」
「暁!!!!」
「兄上!!!」」
「やれやれ……。本人が居る前で、口さがない事を………」
悪口を言われたくないなら、息子達にも「真っ当な」愛情を注いでください!!
「こんなにも、貴方達のことを気にかけているというのに………」
歪んだ愛なぞ、息子達は望んでおらんわ!!
後で聞いた話なのですが、当時兄上は、態と無茶苦茶低い官位を
元服後に授けるように手配した父上に、少々切れていたらしい…………。
でも癪だけど、その件は、親父の方が正しいんだよね。
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「所で父上…。無理矢理とはいえ、父上の望み通りの格好になったのですから、
代わり1つお願いしたい事があるのですが?」
「貴方が御強請りとは、珍しいですね………。
先に言って置きますが、女装させるのを止めろというのはダメですよ……」
「出来れば、其れもお願いしたいのですが、今日のお願いは別件です………」
「ほぉ…… 何ですか? 其れ以外であれば、1つ位なら多少の無理は聞いてあげますよ…」
「折角兄上が戻られた事ですし、男兄弟同士なら気楽ですから、
これを期に、(二条東の院の)兄上の近くに部屋を移りたいのですが………」
「なっ!! いえ、何でもありません! 因みに、母上と姉君に相談はされたのですか?」
「いえ……。ですから、父上から説得して頂けたらなぁと………」(ニヤッ)
「クッ…… そう来ましたか………」
「如何しました? 父上………。『やっぱり今のは無し』ですか?」(ニヤニヤ)
「いえ……。宜しいでしょう。私からお話をしてみましょう……。 た だ し!!!」
「?」
「お願いは1つ………。つまり、私が説得するのは1人です!!!」
「!!!!!」
「母上には、私からお話をして置きましょう。姉君の説得は、御自分でされるように………」
「!!!!!!!!!!!!!!」
――――― 翌日
「……あっ、……父上。 昨日のお願いの件ですが……」
「あぁ………。あれですか……………。実はですね…」
「いえ、やっぱり部屋を移るのは、一寸早いかなぁ……… と思い直しまして……… ハハハハ…」
「そうですか……」
「「ハァァ…………………………………………」」
「御願いは取消しするそうですが、私は昨日、上にお話をしましたので、今回はこれで終わりですよ……」
「あっ、イイデス………。無理言ってすみませんでした……」
「なに…構いませんよ……。昨日の時点で予想は付きましたし…。今回は痛み分けですね……」
「「ハァァァァァ…………………………………………」」
「所で父上……。この時間から母上の所に渡るなんて珍しいですね?」
「昨夜から上の機嫌が頗る悪くなっていてねぇ……。暫く御機嫌を取る必要が有るのですよ」
「はぁぁ~、この分だと、袴着が終わるまでは引越しは無理っぽいなぁ………」
「私は元服が終わるまで、無理だと思いますけど…………」(ボソッ)
「エッ!? 何か言いました??」
「何でもありません。では、上の御機嫌伺いに行きますので……」
(暁日記:第3巻 「夕霧」より抜粋)
あとがき:
感想を書いて下さった諸氏に、感謝の意を表します。
聡い方は気付かれているでしょうが、物語時点の一部の官位・役職が若干変わってます。
「源氏」 太政大臣 (原作:内大臣)
「葵の上の兄」 内大臣 (原作:中納言・大将)
「紫の上の父宮」 式部卿宮 (原作:兵部卿宮)
「源氏の弟宮」 兵部卿宮 (原作:帥の宮)
本当は、春になったら昇進するんですが、物語の人名は役職で書くことが多いので
すぐに呼び名が変わるのもなんだしなあ…と思ったからです。
(了)