帰って来ました。
いや、真面目にリアル的な意味で……
(詳細は後編の『あとがき』を参照してください)
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時は昔、冷泉帝の御世であった頃……
尊き血筋に生まれながら臣籍に下られたある大臣のもとに
元服すらまだまだ遠い御歳にも関わらず、大変利発な若君がおりました。
彼の残した様々な書物は、後の日ノ本の様々な分野に多大な影響を与えており
時の尊き方々の寵愛を一身に受けていたと語り継がれております。
これは、遠き時代の壁を越えて、平安の世に生まれ変わった、
暁の君の半生の物語 ―――――
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そして、最終日……
…えっ!? 『あの後どうなったか?』デスカ?
そんなむかしのことは……きれいさっぱりわすれたのサ!!
そお、ぼくは過去を振り返らず泣かないで歩く、つおいおとこのこなのだ!!
(決して作者が筆を止めている間に展開を忘れたという訳じゃないんだからね!?)
…
……
………
月日は百代の過客にして、行きかふ日々もまた旅人なり。
まぁ色々とあったものの、無事に最終日のお昼過ぎになりました。
そろそろ父上が迎えに来る頃合でしょうか?
泣いても笑っても、もう間も無く朱雀院での生活が終わりを迎える。
やっと……
やっと終わるよーーーー!!
長かった…… きつかった……
何より、何か大事なものを失ったような…そんな喪失感がてんこ盛りの日々だった。
でも、もう終わりなのだぁぁ!!
最初のうちは色々とストレスが溜まった生活ではあったのですが、
人間の慣れって凄いよね?
気が付くと何時の間にか、幼児にはキツイ早起きとかお仕事だとか慣れてしまっている体になっていたのである。
監視の目も何時の間にか気にならなくなっているし―― なんかこう精神的にタフに成った??
最も監視の方は、直ぐに父上が乗り込んで来る気配も無いので、悩む事を止めたというだけかもしれませんが、
精神的に吹っ切れたというだけで、此処での生活は、自宅のゆるーい空気とはまた違った要素であったので、
実は予想外に楽しめたという気も少しある。
気分は親戚の家に泊り込みのバイトをしに来た子供といった所ですか?
給料が出ないのは非常に残念である。
正直な本音をぶっちゃければ「重労働に見合う報酬を寄こせやああ!!!」なのだが、
そんな独り言を呟いていたら、伯父上に「報酬を出したら罰にならないでしょう?」と突っ込まれたのも良い思い出である。
まぁ紆余曲折波乱万丈天変地異出前迅速落書無用な滞在期間は、もうすぐ終わりを迎える。
この様な機会は、恐らくもう二度と訪れることは無いのだろう。
一応僕は大臣家の若さまですので、勝手に屋敷の外に出る事は叶いません。
(「えっ?」とか「どの口が其れを言うか!」とか突っ込まない!)
それと此処の方々とは血縁であるのだが、相手は皇族でこちらは臣下ですから。
そんなに気楽に此処には訪ねる事は出来ませんよ?
感覚が未来人な自分は余り感じないのであるが、生粋の現地人の方々は凄いくらい気にするのである。
そう、『一位の人』と都人から呼ばれ、位人臣を極めたあの傍若無人な親父でさえも――である。
そう考えるとこの三日間は、かなり貴重な経験だったのである。
まぁ2度目は御辞退申し上げます……な心境ではありますが。
一緒に苦楽を共にした家人の人達は、名残惜しいのは同じ気持ちの様で、
お世話になった挨拶をして回っていたとき、皆さん今朝は色々と話掛けてきてくれました。
少納言さんに至っては、将来内宮付きの女房をやらないかと言われたくらいだし。
………でもね?
な・ん・で? 女房なんだよ!!
自分、男っすよ!?
もう、いい加減にしてください。いや……マジで頼むよ(涙)。
いや、僕には分かっているよ。
君ら絶対ワザとだろ!!
なんか最近、弄られ癖が付きつつ有る様な気がする……。
マズイなぁ
帰ったら対策を考えねば!!
そんな事を考えつつ、帰るまでの暇つぶしに釣殿から釣り糸を垂らしていた。
そこ! 「お前、また落ちる気か?」「懲りてない!」と言わない!!
今度は太公望宜しく、針は付いてないのだよ!
その上、水面が見える釣殿の端から3m以上離れているのだよ!!
まぁ、場所に関しては単に宮さまが、水場に近い釣殿の端に近づくのを嫌がったという事情がある。
流石に前回の記憶のショックがまだ残っているのか? 宮さまは私が泉の近くに寄る事を快く思ってない様で
釣殿の端に行こうとすると、首根っこを掴まれて引き摺り戻されるという姉上並の暴挙に及んでいた。
宮さま以外と力持ち…… じゃない、この場合は4才違いの体格差のアドバンテージといった所か。
おかげで、釣殿の端から3m以内に近寄る事ができません。
色々と抵抗するも、最終的にはがっちりと抱き抱えられてしまい、釣殿端に腰掛けて過ごすのを諦める事となった。
この状態で暴れたら、昔姉上とじゃれていた時と同じ様に、ふとした拍子で河童掛けとかをまた食らいかねないしなぁ。
あんな生死の境は、もう沢山である。
しかし……
「もう近づきませんから、そろそろ離して「…だめ」」
…
「そろそろ場所を「…だめ」」
…
「あの…「…だめ」」
この拘束は何時解かれるのでせうか……?
■
季節は桜の咲く春の真っ盛りで、ぽかぽか陽気の穏やかな水辺なぞでボーっと過ごしているのも悪くないのであるが、
流石に眠くなって来ます……
魚信のくることの無い釣竿を握っていても、緊張感なぞ有りはしない為、時々意識が朦朧として来る。
見ている宮さまも同じ様であり、何時しか宮さまは静かに寝息を立てていた。
(今はまだ可愛らしい姫君なんですどねぇ……)
この姫が、天然系で世間知らずでKY気味な印象の姫になるとは……歳月って惨い。
ふと、懐かしい故郷で読んだ「源氏物語」の内容が思い起こされる。
古文なんて真面目に勉強していた訳では無いので、うろ覚えではあるが、それでも大筋の話はこの身の記憶として残っていた。
曰く『朱雀院女三宮の人生は、余り…否とても良いものと言えるモノに為らない』
六条の御息所という最悪な例には負けるが、物凄く不遇な扱いを受けた上に若い身空で出家する事になるのである。
扱い的にはワースト2か3といった位置づけじゃないかな?
そういや母上(紫の上)も、女三宮騒動で不幸になっていたよね?
父・桐壺帝、義母・藤壺は地獄行き、正妻の葵の上は嫉妬に狂った生霊に殺され、生霊の六条の御息所は浮かばれず……
まったく、あの親父に関わると碌なことない!!
自分はまだ男だから大して…… いや十分に奴から不幸な目を受けているよな!?
例えば、女装とか女装とか女装とか女装とか女装とか―――
いかん。真面目に考え出すと、何か沸々と黒い感情が湧き上がって来る。
落ち着こう。とにかく落ち着こう。
何か楽しい未来でも思い浮かべて心を静めるのだ!
そう、僕の将来は薔薇色なのさ!
薔薇色……薔薇?
薔薇ッ!?
(アーーーーーーーッ!!!!)
……いかん。本気で疲れているようだ。おぞましい未来図が出てきてしまったわ。
将来は明るい!
そう、明るいのだ!! 将来は――
はぁ……将来かぁ――
「そろそろ将来の事を良く考えておかなきゃなぁ……」
思わずそんな言葉が漏れてしまう。
今までも時々考えていた事。まだ小さい身であるが故に、深くは考えるまでをしなかった事。
折角大筋の流れを知識としてもつアドバンテージを生かさずどうするのか?
そう、此処より俺様のオリ主のオリ主によるオリ主のための「ヒャッハー!!」が始まるのだ!
……とまでは言わないけれど、せめて目で見える範囲の不幸は減らしたいと思う訳である。
「宮さまの件をどうするか? 何か良い案はないかねぇ……」
宮さまが親父に降嫁する事態だけは、なんとか避けなければならない。
そんな事態になったら、宮さまも母上も柏木も不幸ロードをジェット戦闘機で一直線である。
考えると溜息が出て来るだけの難題であるが、これを避けては『バッドエンドにようこそ!』の為、真面目に考えるしか無いのである。
期限は姉上が女御入内する時期位まで……大丈夫、時間の余裕はまだ有るはずである。
…
……
「仲が良さそう姿で微笑ましいのですが、随分と難しそうな顔をされていますね?」
不意に伯父上に声を掛けられて、意識が現実に戻された。
何時の間にか自分達の近くに伯父上が来ており、人の良さそうな笑みを浮かべて立っていた。
よく見れば周りには監視人や伯父上だけではなく、女房やら家人の姿もちらほらと……
子供が2人が寄り添って、春の陽気でうたた寝していたら
((((あらあら、まあまあ……。なんて可愛い~わぁ))))
なんて……気持ちは分かるが、此処、野次馬が多すぎじゃないか?
此処の人達、そんなに暇なのか?
大丈夫か? 朱雀院?
あぁ、隠居の御所だから、基本的に皆さん暇なのか……
「将来が如何とか言っておられたようですが?」
むぅ……心のボヤキが何時の間にか口に出ていた様です。
独り言まで言うようになったら、そろそろ心労が末期ですかねぇ。
まぁ先程考えていた内容なんて、他に人に聞かれたとしても、相手には全く意味不明でしょうが。
「ちょっと、今まで父上から受けた仕打ちとか、これから受けるだろう苦労を考えていたのですよ」
と、溜息まじりに答える。まぁ8割方事実だし嘘じゃないよな?
「源氏の大臣の様な立派な方を父親に持てて、将来を喜びこそすれ悲観するような立場でも無いでしょう?」
伯父上は、私が父親に対して的違いな不満を持ち、思い悩んでいると受け取ったらしい。
せっかくだから、話を合わせておくべきか?
でも、そっちの意味でも、正直あまり将来的に嬉しい事が有ると言えないような気が凄いするのですが……
普通なら太政大臣の父親を持つっていう事は、羨望の的の筈ですよねぇ。
でも……兄上の例を見るからに、あの父上が息子に楽をさせるなぞ、全く考えられないのですが?
下手をすると元服するまで起こした騒動の恨みとばかりに、6位どころか7・8位で社会人デビューとか普通にやってくれそうだ。
そして、よく考えたら私は次男だから、扱い悪くてしても問題無いじゃん!
そんな様な事を言ったら、確かにと言った様に伯父上は頷いた。
そこは否定してくれよ……(涙)
「暁君は………」
ん?
「……暁君は、宮中で栄華を極めたいのですか?」
「それはまた……。激しく似合わなそうな未来図なのですが?」
踏ん反り返って宮中を歩く自分を想像……
うぁ、恥ずかしい。誰かあいつに盛者必衰って言葉を教えてやれよとか突っ込みそうである。
「貴族に生まれたからには、最上を目指さないのですか?」
うーーん。食うに困らないだけの役職くらいなら一生懸命目指しますが、何か気疲れしそうだし、
もう落ちることしか出来ない最上位を目指してもねぇ。
祗園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり
娑羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらわす
驕れる人も久しからず、唯春の夜の夢の如し
たけき者も遂にはほろびぬ、偏に風の前の塵に同じ
あの有名なこんなフレーズが流れてくるのである。驕れる平氏(私は源氏だけど)も久しからず!
嗚呼、悲しいかな元庶民…… 真ん中が一番だよね?とか平均並を求める普通思考。
「そっちは兄上に任せます。(たしか位人臣を極めるはずだし)」
思わず面倒だしと続けそうになったのは御愛嬌で。
伯父上はそれっきり何も言わなかったので、これでこの話は手打ちでしょう。
■
「ところで、先程の『祗園精舎』からの言い回しの出典は何なのですか?」
「それは、もちろんへい……ッ」
「へい…?」
やばい…………どうしよう?
言うまでも無く『平家物語』は平家滅亡の物語である。
つまり正確な時期は知らないが、少なくとも鎌倉時代以降に成立したという事になる筈。
うっかり『平家物語』なんて言ったら、今まだ御存命の平氏の人に『なにそれ?』突っ込まれそうだ。(汗)
落ち着け! 『へい』で始まる何かを考えろ!
平安、兵員、へいうち?、閉園、平穏、兵科、平均、兵九朗………………出てこねぇぇぇぇ!!!
「へい…? 何ですか?」
ま、待ってッ!! 今、考えるから!!
平坦、平地、へいつくばる、閉店、ヘイト、塀無し………
……結局、あいうえおの最後の方で苦し紛れに出た「へいりんじ」という寺で、
父上がそんな説法を聞いたということにした。
そんな寺……在るのか? もし本当にあったらどうしよう??
■ 後半へ続く……
掲示版の使用方法忘れてしまった。
ついでに前に使っていたトリップも忘れた。
そして何故かプレビュー画面が出てこないので、体裁を整えずに投稿しました。
読みずらかったら、ごめんなさい。