※クリスマス特番は予告通り削除しました。入れ替えで13話をUpします。
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今は昔、冷泉帝の御世であった頃……
元服すらまだまだ遠い御歳にも関わらず、何故か宮中を騒がせてしまう
野分のような男の子が居りました。
生母に瓜二つと噂される容姿と、女装癖と、女癖の悪さから
しばしば父親の勘気を被り、時折罰として、身分の低い者のように
使用人の見習いをさせられたと、今に伝えられております。
これは、運命の悪戯に弄ばれるが如く、
遠き時代の壁を越えて、平安の世に生まれ変わった、
暁の君の半生の物語 ―――――
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結局、主上の仲裁で『罰として3日間の朱雀院への逗留』が決まるのであった。
……だが、しかし!
このままでは、事の成行きを母上に言い訳出来ない父上からの横槍もあって、
あくまで罰なので『遊び相手』では無く、使用人の童扱いで奉公の為に留まると云う
ステキなおまけ付きになりました……。
父上、どうやら貴方は終生の強敵と書いてとも――じゃない怨敵なのですね?
今に見ていろ! 何時の日にか下克上しちゃる!!
宵闇の中、二条院へ戻る父上の車を見送りながら(アカンベー付き)誓いを立てていたのだが……
「あれ…? はれあき? なんで此処に残っているの?」
惟光と同じく、何時も父上の側周りに居る筈の人物であり、
そして惟光とは逆に、非常に寡黙な男が、自分と共に朱雀院に残っていた。
初めて会った当初は、余りの地味さに、きっと原作物語に名前すら載ってないのだろうなぁ…とか、
こんな登場人物、源氏物語に居たのか…? などなど、色々と失礼な事を考えて居た事もあった。
だが…しかし! 自分が何か騒動をやらかした際に実施される彼の御仕置きは、惟光の5倍程は苛烈なので、
その忌まわしい記憶と共に、全く頭の上がらない人物の1人でもある。
出来れば敵にまわしたく無い。―――というか目の前に居ないで欲しい。
心臓に悪いから……。
「はい、殿から若様の護衛を仰せ付かって居ります」
……はぁ!? 此処は警備の厳しい上皇の御所ですよ?
護衛なんて意味無さすぎでしょう?
「そうですね……護衛は単なる名目ですので、確かに意味は無いです。どうせ若様には直ぐにバレると
思いますから言いますが、殿から『護衛を名目にした若様の監視』を仰せ付かって居ります」
「え゛っ…? 監視っ!?」
「はい。殿からは『此処で起こった事は漏らさずに報告せよ』と厳命されております」
ちくしょう……親父の奴! 私が此処でサボって過そうとしているのを見越しているという事ですか!?
よりによって最大級の天敵であるコイツを使って、逃げ道を徹底的に潰すつもりなんだな!!
なんてエゲツナイ真似を……。
「また万が一、若君が朱雀院で問題を起こしそうで有るなら……」
「有るなら…?」
「多少の無茶をしても良いので、実力を持って阻止せよ! …との事です」
Noooooo!! マジですか!?
この男、融通が利かないというか、容赦が無いというか――。
いつも冷徹に、そして全く仕事に情を挟まないから、少しでも不穏な気配を滲ませたら最後、
本当は何でも無いのに、とんでもない折檻を食らう危険性が出てきてしまいました。
本当に洒落になってないよ? トホホ………
「所で若様…… 先程、殿の車に向かって『何か』されていた様ですが?」
ナ、ナニモ、シテナイデスヨ……。
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使用人の朝は早い―――
当然といえば当然であるのだが、主より遅く起きる使用人は居ない。
日が昇る前に起きて、色々な雑務を片付けるのである。
そして、使用人の夜は遅い―――
当然といえば当然であるのだが、主より早く寝る使用人は殆ど居ない。
人によっては徹夜で控えている場合もあるとか……もう拷問ですな。
まぁ当番制だけどね。
しかし……幾らなんでも幼児な俺に徹夜とかさせないよね?
そんなステキ楽しきな使用人生活に、四歳児を放り込む親父の人間性を激しく呪いつつ、
朱雀院で生活が幕を開けた。
「暁さん、内宮さまの御膳を運んで下さい」
「はい、只今運びますデス」
御膳を運ぶのは、少々力が要るからキツイけど、昔バイトで培った根性で頑張る!
「暁さん、次は是を倉庫の方にお願いします」
「はい。分かりました」
頼まれたら笑顔を忘れずに……
自分で言って何だが、この順応性の高さが怖いですね。
少しの間、働いているうちに、すっかりと使用人としての振る舞いに慣れてしましました。
昔からバイトでの仕事の覚えは速い方だったとは思うけど……。
やっぱり自分の性根は普通な庶民なんだよなぁ……人に使われる事に全く抵抗を感じないわ。
まだ初日だというのに、スッカリ家人の方々に馴染んでしまっています。
いや、むしろ違和感なし??
それに、もうね…皆に遠慮無く扱使われてますし。
ひょっとして皆、自分が源氏の大臣の息子だって忘れてないですか?
普通だったら、これ懲罰モノじゃないですか? ねぇ?
まぁ別に良いのですけれど……。
今の所、仕事で大きな支障をきたす問題は発生していない。
精々、力仕事を振られた時に体力の無さから時間が掛かる程度くらいですか……。
本当に、もう……4歳児は非力なんだよ!! 少しは考えて仕事を振って下さいよ!!
それ以外では特に……
否……仕事上でひとつだけ、かなり大きな支障を来す問題が有りました。
そう、朱雀院で仕事をする上で、何より一番の問題は―――
((ジーーーーーーーーーーーーーーーーーーー))
うぁ……まだ見てるよ。
そう、自分を見詰める2つの視線。
1つはリアルタイムで私の行いを監視している寡黙な男。
私は男に四六時中に見詰められて喜ぶ趣味は無いのですが……。本当にいい加減にして欲しい。
この様子だと、仕事をサボったり馬鹿な事をすれば、即座に親父に伝わる訳ですか……。
いやはや…これは拙いですね。
そして、もう1つは……もう言うまでも無いですね?
「暁ちゃん…遊ぼう?」
お仕事中、ぴったりと私に張り付き、時折『さぼる誘惑』を仕掛けて来る内宮さま。
懐かれているのが分かるだけに、邪険に扱えなくて少し困ってしまう。
でも……ね?
うぁ、もう一人の視線の主の表情が、無茶苦茶怖い事になってるわ!?
「宮さま。ちょっと待ってくださいマセ……まだお仕事中ですから」
「うぅぅ…暁ちゃん。さっきから『あと少し』ばかり言ってる――」
だって仕方が無いじゃないですか!? 私は一応、罰を受ける為に此処に居るのだし……。
サボったら、貴女の遥か後方に居る男が、何を報告するか分かったものじゃ無いのデスよ?
時折、伯父上が渡って来ては、
「暁君。内宮の相手をする事が、此処での君の主な仕事だと思って貰って構わないのだよ?」
などとは言ってはくれるものの、やっぱり自分の後方から見ている男が怖くてねぇ……。
「申し訳ありませんが朱雀院さま、我が父から『遊び相手では無く、使用人の童扱い』を厳命されていますので」
としか、私からは言う事が出来ませんわ!
「意外と貴方は、律儀と言うか、変に真面目と言うべきでしょうか?
折角、源氏の君が居ないのですから、少しくらい怠けていても良いとは思いますが……」
まあ、自分も伯父上の仰る通りにしたいよ。というか伯父上はアレに気付かないのか?
そっと伯父上だけに分かるように、後ろを指差して『話題に注意!』のサインを出す。
(成る程。彼の存在を失念していましたね……やはり監視ですか?)
(はい。伯父上の力で、何とかならないモノでしょうか?)
(してあげたいのは山々ですが、已む無き事情でも無い限り、出来るだけ貴方の側に彼を付ける事が、
貴方を朱雀院に残す最低限の条件でしたからねぇ……これを破れば直ぐにでも、源氏の君が乗り込んでくるでしょうね)
むぅ……それは避けたいですねぇ。蛇を追い払ったら龍が出て来たとか洒落になりません!
(あるいは内宮の居る禁裏で仕事をする場合なら…… いや、駄目ですね。禁裏中の禁裏の場であれば兎も角、
子供の部屋では遠ざける理由としては弱いですね。是で拒否をすれば、やはり源氏の君を呼びかねないでしょう)
……禁裏中の禁裏?? 何だ、それは??
思いっきり顔に出ていたのであろうか? そんな自分の様子に伯父上は、
(私の女性達が居る場所の事です。流石にあの者といえど、入れる訳にはいきませんから……)
と、人の悪い表情を浮かべるのだった。
いや……確かにその通りですが、その場所は私も入っちゃマズイでしょ?
でも、一度で良いから朧月夜の君とか見てみたいなぁとか、ちょっとだけ考えてしまったのは内緒ですが……。
「そうですね……年齢柄入れなくも無いですが、下手に入れると此方が庇っていると勘ぐられるでしょうね。
まぁともかく、手が空きがちな午後からの時間は、内宮のお相手を務める事が、此処での最重要なお仕事だと
理解しておいて下さい。出来れば午前の手空きの時間もお願いしたいのですが……」
「午前中は手空きになる事は、まず無いかと……まぁ午後からのお相手は了解しました」
基本的に使用人の役目……つまり自分の御仕事は主の世話役である。
主の身支度や、御部屋の掃除・片付けなどは午前中に集中している為に、午後からの仕事は格段に減っていく。
……では午後は何をするのか?
午後の仕事の有無は……主というか、三の宮さま意向次第と言った所なのである。
そう、現状では我が主は、此方の女三の宮さまであるので……
屋敷の雑務などが無くなった午後からは、三の宮さまの御相手ばかりしているのだけれども、
うん、これはサボりじゃない! 怠けていない!
そう…付き人の役目であるお仕事なのだ!! ……と監視者にビクビクしつつの遊び相手。
流石にそこまで融通が利かない男では無いだろう? と普通なら思うであろうが、
あの男は変な方向で、全く融通が利かないのである!!
前日の『アカンベー』関しては、報告開始の指示が『父上が朱雀院を出てから』とされていた為に、
危うく報告されてしまうと云う難を、ギリギリで逃れられたという事が実際に起こったのだ。
それはそれで間諜としてどうなの? と突っ込みたくもなるのであるが、思わぬ利益を得たので何も言う事が出来ない。
そして、昨日はプラスに働いた融通の利かなさも、今日もプラスになる保障は全く無い。
こうして仕事として遊んでいても……何んて報告されるのかねぇ?
『午後からは遊び呆けてましたとか』事実だけ報告されたら、まるでサボってるみたいに取られるよね?
……嗚呼、胃が痛い。
「暁ちゃん、つまらなそうにしてる……」
「ソ、ソンナコトナイデスヨ?」
ヤバイヤバイ…どうも心配事が顔に出ていた様です。天然系だけれど、時々妙に聡い所が有るから注意しなきゃなぁ。
「お外に行きたいの…?」
いや……うん。ちょっと違うかな?
庭とか屋内でも、池の付近とか行ってはダメだと(特に俺が一緒の場合)、元々から朱雀院に居る内宮さま付きの方々に
キツく注意されているから、必然的に行動範囲が限られる訳で、やることも大人しめな遊びばかりになっている。
三の宮さま的には若干、それが不満なんであろう。
でも、『私がまだ小さな童だから外は危ない』と注意されていたので、渋々とではあるが従っている。
流石に目の前で私が死に掛けたばかりなので、宮さまも無理強いはしない様子である。
「暁ちゃんが大きくなったら、一緒にお池に行こうね?」
「そうですね……」
取りあえず頷くしか選択肢は無いんだが……、
ゴメンナサイ……宮さま。非常に残念ですが、その約束は恐らく果される事は無いしょう。
自分が大きくなる頃は、貴女が年齢制限に引っ掛かって、外に出れなくなるでしょうから。
無邪気で可愛らしい方に嘘を吐くのは、すっごい良心が痛むのですが……
恨むのなら、こんな役目を振った我々の親父ズを恨んでください。
…
……
………
「あの~~小納言さん、本気で私に此れを着ろと?」
渡されたのは湯着…… ぶっちゃけると、使用人が沐浴をする主の世話をする時に、身に付けている類のモノ。
「早く準備しなさい! 内宮さまは既に入られています」
いや……あのね?
君達、僕の性別を憶えてる??
ダメだろおおおおおおおおおおお!!!
「暁さん。内宮さまが呼んでますよ? 早く此方に来てください!」
小侍従さん引っ張らないで下さい!!
やめてぇぇぇ! 其処に連れ込まないでぇぇぇ!!!!
らめぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!
うん、決めた――
こんな役目を振った我々の親父ズを、何時の日か泣かせちゃる!!
(暁日記:第13巻 「若女房」より抜粋)
あとがき:
大晦日の夜……
某芸能人達が御尻を叩かれる番組を眺めつつ、正月特番(クリスマス版の続編)と14話予定の部分を書いていると、
チャ~ン、チャッチャチャ~ン、チャッチャチャ~ン、チャッチャチャ~ン♪(ダー○ベー○のテーマ曲:職場からの着信)
緊急呼出キターーーーーーー(゜∀゜;)ーーーーーーーーーーーーーー!!!!
………翌日、元旦にも関わらず何故か出勤してる作者。
以降、今月に入るまで、さっぱり私的時間が取れない状況でした。(既に殆ど書きあがっていた今話すら投下出来ず…)
まだ少しゴタついてますのでスローペースになりますが、無理せずまったり更新する予定です。
時期ネタ満載な書きかけの「正月特番」は、どうやら御蔵入りしそうですが……。
最後に感想を書いて下さった諸氏に、心からありがとうの意を……。
更新遅れた上に、音信不通で申し訳ありませんでした。
(了)