(初出: 2009/11/18 以降、修正版)
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これは、遥か古の昔のお話……
父親の名前は、光る源氏の君
母親の名前は、紫の上
ごく普通で無い父親は、
ごく普通の幼女の母親を引き取り、強制執行した後に、
全く普通で無い結婚をしました。
でも……… 一番、普通で無かったのは、
2人の間に生まれた御子息は、転生者だったのです。
これは、数奇な運命を辿り、次元の壁を越えて、平安の世に生まれ変わった、
暁の君の半生の物語 ―――――
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最近、お勉強に和歌が追加された、暁です。
史記なんて読む前に、古今和歌集の歌の1つでも覚えなさいと、父上に色々な歌集を渡されました。
只今、こちらも最近になって、和歌の勉強を始めている姉上と一緒に勉強中です。
勉強といっても、只の丸暗記みたいなモノで、そこから自分なりのアレンジを加えていくらしい。
まぁ…何時の世も、最初は、他人の模倣から始めるのが、常ということでしょうか?
だからと言って、参考の元ネタの歌を、1000首以上も暗記させるのは、ちょっと簡便して欲しく思います。
(最初は、百人一首とか三十六歌仙のイメージから、多くても100超える位だろうと、思っていたら、
余りの数の多さに、眩暈がしてきた……)
「流石に全部を覚える必要は、無いかもしれないけれど、出来ることなら、出典となる引き出しの数は、
多いにこした事はないでしょう? 文句を言う暇が有るなら、1つでも多く覚えなさい!」
とは、隣で一緒に勉強中である、姉上様の言………よく飽きずに、暗記出来ますね?
「嫌な事は、さっさと終わらせた方が、気分的には楽なのよ!」
御尤もです……まぁ、理性では自分でも、分かっている積もりなのですが………。
えっ!? 自分ですか?
どうも集中力が足りないらしく、1つ覚えると、一番古い記憶の歌を1つ忘れるとかねぇ。
うん、なんて!素晴らしき…FIFO機能。 これでお店の野菜の鮮度は、常に新鮮!!(違)
う~~~ん、
どうしても、総数10個以上の歌が覚えられん……メモリを増設するべきでしょうか?
気分転換に、載っている歌をアレンジしてみるか―――。
う~ん………ポク…ポク…ポク…ポク…ポク…
……ポク…ポク…ポク、チ~ン!!!!
姉さん!姉さん!! 此処に載ってる歌を参考に、一首作ってみました!!
「ちょっと! 今は、歌を覚える時間でしょう!? 貴方一体何をやっているのよ!」
え~~~、だって覚えるの、飽きちゃったし……
それに作る練習も、やっておいた方が良いかと思って……。
其れよりも、お願い! 聞いて、聞いて下さいよ!!お願い!! 会心の出来なんです!!
「分かった、分かったわよ! もぅ…仕方ないわね……」
では(コホン)、吟じます!!
我が家を憂しとやさしと思へども逃げ出しかねつ姉上ゐるから (暁)
どうです! この『貧窮問答歌』ってやつを参考に――へぷっ!!
「それは『万葉集』でしょう!! 『古今和歌集』を読む時間に、何を読んでいるのよ!!!」
―――どうやら、読んでいた本自体が、既に間違っていた様です。(泣)
…
……
………
やがて、お昼過ぎになり、父上が、お仕事から帰って来ました。
午前中しか仕事しないとか――― それで良いのか?平安貴族!!
母上を探して流離い歩き、何時の間にか、子供の勉強の間に湧いてました。
そして、今、家族が、子供の勉強部屋に、何時の間にか揃っている状況になっています。
折りしも今日は、冬の合間の小春日和…… ぽかぽかと暖かいです。
あぁ…………平和です。
今日も一日、平穏に過ごしました(マル)
(おしまい)
「若様! 文が届いて居ります――――」
………訂正、終わってくれない様です。
私宛に、文っすか…!?
交友関係が狭すぎて、送り主の心当たりに、嫌な予感しか出てこないデス……。
ええっと……? 誰からでしょうか?
「朱雀院様の女三の宮様からです……」
―――旅に出ます!! 探さないで下さい!!
「ちょ! 貴方、何、逃げているのですか!?」
すかさず、父上に取り押さえられる自分…… しまった!逃げ遅れたか?
手足をバタバタさせて、なんとか逃れようとするが無理の様です。
嫌だ~~~~!! 父上の嘘吐き!! なにが『返事が無いから、もう大丈夫です』だ~~~!!
そう……女三の宮さまに、間違って(?)贈った歌の件ですが、
当日に、何のレスポンスが無かった上に、
もう結構日が経つけど、朱雀院側から特に何も言われないので、
もうスッカリ、終わったモノかと安心して居ました。
どうやら、甘かったようです………。
時々、垂らしの父上に、
『返歌が来ないのですか? 無視されたんでしょ? 残念でしたねぇ……』
――などと、からかわれて、多少ははムッ!としましたが、
『父上の様に、女性関係で身を破滅させるよりは、遥かにマシ!!』――と、
ぐっと堪えつつ、何処かに居るかもしれない神様に、日々の平穏をひたすら祈って来たと云うのに。
信じていたのに……
そう…… 今の今まで……ずっと。
何故に今頃? 時間差プレイとは……
あな恐るべし!! 女三の宮!!
ちょっと取り乱して、ジタバタしたものの、無視する事が、出来無い文であるのも確かです。
散々ゴネた末に、ようやく仕方が無いので、覚悟を決めて文を開くことにします。
「「「……………………………………………」」」
――というか、なんで家族の前で開封ですか?
プライバシーって無いのですか? こんな羞恥プレイを………。
「「「いいから、早く開けなさい!!」」」
「……………はい」
頂いたお歌のお返しです。
君さりて枯るる三つの花吾が宿に春呼ぶ暁待つ身しあれば (女三宮)
「「「「…………………………………」」」」
送られた文を見詰める、自分と家族達……。
心は、1つ……『どうするんだ?これ?』 である。
歌の心得の乏しい自分でも、言いたいことが、何と無く伝わって来ています。
本気か!? 本気なのか!? なんか洒落にならない事態に成ってないか!?
父上は、ニヤニヤと嫌らしい笑みを湛えて、此方を見ている。
母上は、溜息を吐いて、朱雀院からの帰宅時に、父上がしていた表情と同じような表情になっている。
姉上は、顔を真っ赤にさせて……どう見ても『触れるな危険!!』的な状態………。
いや、待て! もしかすると、実はこれは、大した意味の無い文面なのかもしれない!?
そうだ! ちゃんと確認すれば!!
「あの、ちなみに母上? これは女性的に、どういった場合に送られる文面なのでしょうか?」
母上は、ただ首を横に振り、溜息を吐くのみで返事が無い。
あ~の~? 聞こえてます? 母上??
『血は争えない』『父上のそういう所だけは、貴方には、似て欲しくなかった…』だの、
なんか不穏な言葉を呟いているし………。
「いやはや……。名前入りで『待つ身』とか『春』(結婚)とか……なんとも直球ですが、
宮の御年齢を考えると、素直で微笑ましいと言うか……」
黙れ!!親父!! アンタには、聞いて無い!!
「おやおや…これ程の熱烈な返歌を頂いて……。これが、お年頃でしたら、即、婚約か結婚行きでしょうに……」
だから、黙れ!!! 事態をこれ以上、引っ掻き回さないでくれ!!
「こんな歳で父上に似るなんて………。私は何処で、育て方を間違ってしまったのでしょうか?」
は~は~う~え、お願いですから、本気で嘆かないで下さい。アレの血を引いてる、自分が悲しくなります!!
「弟に先を越された…弟に先を越された…暁のくせに…暁のくせに…暁のくせに…暁のくせに…」
うん。あれは、冷めるまで触れちゃいけない。触れたら終わる―――――。
今の気持ちを、吟じます!!
災難は忘れた頃にやって来る隙を見せるな見せたら負けだ (暁)
…
……
………
後で知ったことなのですが、
どうやら三の宮さまに、返歌の文面を相談された伯父上が、悪戯心で
『早くまた会いたいの意を』意味を捻じ曲げて、教えただけの様でした。
酷いよ…伯父上………………。
面と向って文句を言える立場では無いので、良心が痛むような手紙で、意趣返しをしてやる!
拝啓、伯父上さま……
お願いですから、悪戯の文面は、影響を考えてから、送って下さい。
冬の夜空は、凄く寒いのです……。
ちょっと傷身している甥より
敬具
おまけ
「ねえ、暁?」
「なに? 姉さん……」
「 昼間の、『私が居るから、家が死ぬほど辛くても逃げれない』って歌、どういう意味かな? かな?」
「…………………………」
災害は緩んだ頃に振り返し語る涙の短歌を残す (暁)
(暁日記:第9巻 「野分歌」より抜粋)
あとがき:
こんな稚作を読んで頂き、誠にありがとうございます。
暁君のせいで、作者も『古今和歌集』を読む羽目になっております。
この作品が完結する頃、作者は平安文化に、かなり詳しくなって居そうな気がして為らない……。
新嘗祭(現:勤労感謝の日)に、お仕事が入った。勤労を感謝する日に休めんとは、
そろそろ年末の修羅場が、始まりそうな予感がする。
(了)