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古の昔…… 何れの御世であったでしょうか……。
世の権勢を極めし大臣の御子息の中に、
生母に瓜二つと噂される美貌を持つ、珠のような男の子が居りました。
悪しき呪いを避ける為、女人に姿を変えられてしまった若君は、
やがて、1人の無垢な姫君と出会います。
それは、やがて『暁物語』と呼ばれる、巨大な疲劇の幕開けとなるのでした。
これは、数奇な運命を辿り、遠き世代の壁を越えて、
平安の世に『貴人一の問題児』(?)として生まれ変わった、
暁の君の半生の物語 ――――― の筈??
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汚れた姿では、朱雀院さまの御前に出せないという事で、仮釈放された暁です。
そのまま退出する事に………。今は、朱雀院からの帰りの牛車の中……。
そして………
「全く、貴方という人は……。撚りによって内宮に狼藉を働くとは……」
絶賛、お小言を受けております。 まぁ、物凄く拙いと自覚したから、反射的に逃げてしまった訳で、
捕まってしまった後、なんで逃げたんだろうと、素直に反省しています…………。
ちょっと浮かれ過ぎて、やっちゃいました……。
でも、言い訳させて貰うけど、相手が誰か知ってて、粗相をやった訳じゃないよ!!
それに、まさか、あんな簡単に入れる場所に、貴き方が居るとは思わなかったから……。
普通、奥向きな場所なら、入る前に止められるのでは無いでしょうか?
「あの場所に関しては、まぁ……私が入れる位ですから、恐らくは貴方の言う通りなのですが、
貴方の容姿では、意図せずに奥向きの場所に紛れ込むことも可能でしょう。今後は、くれぐれも注意して下さい」
そうですね、私、女童の姿でした……。家人の子供とか、下働きと勘違いされる可能性も有りますね……。
『隠密童女、暁!!』とか始めましょうか? 『暁は見た!!』の方が良いかな?
「そう云う迂闊な発言は、止めなさいと言っているのです。 それで無くとも宮中というのは
謀が多い場所なのですから…。失言ばかりしていると、何時の日か痛い目に遭いますよ!!」
そっか……やっぱり出仕しないと、駄目なんですねぇ……。駄目ですよね……。
なんか、そういうドロドロとした世界って、肌に合わないような気がするのですが……。
「……(汗)、まぁ、未だ若いですから…大人の常識の教育は後でじっくりとするとして、問題は今回の件です。
幸いな事に、朱雀院さまも内親王さまも、左程気にされて無い御様子でしたが、一度、貴方御本人から、
謝罪をするのが筋と言うものです。本来であれば、今日しなければ為らない所ですが、その泥まみれの姿を、
臥せっている院の御前に上げる訳には行きませんから……。日が整い次第…直ぐに謝罪に行きますから、
その御積りで……確りと反省するのですよ!」
はい………。
でも…もし、次回の訪問で朱雀院さまが、宮さまから詳細を御聞きになった後だとしたら――?
果たして私は、無事で帰して頂けるのでしょうか? ………とても心配です。
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それから少しの間、占いの結果が悪いとなんとかで、朱雀院に行くことはできなかった。
出来るだけ早く謝罪する努力などを見せて、誠意を示すしたかったのに~~~。とは表向きの気持ちで、
本音は…この生殺し的ビクビクな状況から、早く開放されたい気持ちで、いっぱいである。
取りあえず、『先に文で謝っておけば?』と云う母上の助言も有り、ひた誤りの御手紙は送ってあります。
何れにせよ、刑の執行の日は、何時かはやってくるもので、遂にその日は訪れるのでした。
前回と違ってテンションは、低気圧の横這い状態。
これでテンションが上がるなら、敬意を込めて『このMめ!!』と言ってやる。
気にしていないと既に言われてるものの…今日までに、気が変わっていたら? ……とか、
そんな事を考えると、軽く鬱になれます。思わず『ドナドナ』なんか歌っちゃう……。
前回、変な替え歌(ドナドナ)を、歌った祟りでしょうか??
…
……
………
「やぁ……よく来てくれたね。別に気にしなくて良かったのだけれども、
貴方達が、此処に訪れて貰える機会になったのであれば、此方としては嬉しい限りだよ……」
前回と変わらず、柔和な表情の伯父上です。詳細とか聞かなかったのかな?
今回は、隣に、三の宮さまも居ます。別に機嫌が悪そうという様子も無いので、内心ホッとしました。
一応『公式の場』に当て嵌まるけれど、几帳とか立てずに、そのまま居るのは、まだ幼いからでしょうか?
もう少ししたら、顔を隠す様になるのでしょうか?
「先日は、内親王殿下とは知らずに無礼を働き、誠に申し訳ありませんでした…」
頭を床に擦り付けるように下げる……。相手から正式に許しを得るまでは、下げっぱなしです。
「――別に、怒って……ないです…。気にして……ません……」
なんとか首は繋がったようです。どっと、力が抜けました。
「私としては、寧ろ感謝している位ですよ……」
「……?」
伯父上、別に感謝されるようなことはしていませんが……。
「この子は、私の他の子と違って、早くに母親を亡くして居るので、私が育てていてね。
同世代の子と遊ぶ機会が少なかった為か、何時の間にか、内に篭りがちになってしまって……」
「……………………」
じっと黙っている宮さまを見る。この子も、大変な人生送っているんだな………。
「ですから先日、嬉しそうに貴方と遊んだことを報告するこの子の姿に、どれ程、慰められたことか…………」
姉妹とか乳姉妹とかが居たのでは?
「他の子は、皆、夫々の母親の下です。乳姉妹は身分柄ちょっとね………」
成る程。我が家は、異母兄弟だけど、姉上が一緒なのは、姉上は母上の養女扱いだからでしたね。
兄上に至っては、元服まで会う機会もなかったし。
「やっぱり、同じ世代の子を遊び相手に連れて方が良いんじゃ?
腕白で逞しくが理想なら、家の姉上とか、お勧めしますが(バキッ!!) 痛ッいーーーー!!!!」
父上!! 笏で叩かないで下さい!!
「クスクス……そうだね……。貴方も、時々姫の相手をして頂けたら嬉しいですよ」
「はい、私で良ければ!!家を抜け出す良い口実に(バキッ!!) 痛ッいーーーー!!!!」
ちょっ!! 幾ら何でも叩きすぎ!!
「貴方は!!迂闊な事を言うなと、何度言わせれば気が済むのですか!!(バキッ!!)」
暴力反対ーーー!! 朱雀院さまと三の宮さまに笑われています。
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「クスクス………文、ありが…とう……。お話……面白か…った…」
父上の折檻が終わりを告げた頃、三の宮さまがトテトテと近づいて来た。
あぁ、気に入って貰えましたか……。
お詫びの文と一緒に、異国の御伽話として『白雪姫』を書いて贈ったんだよ、たしか……。
「何でしたら、後でまた何か…知っている物語を書いて贈りますが?」
まぁ、書くのに時間が要りますから、少し待って貰いますが……。
「今が…良い……」
フルフルと頭を振る宮さま…。ちょ!? 幾らなんでも無理!!
「えっ!無理、そんな直ぐには書けない!!」
「書かなく…て、良い…ですから、お話……して……」
いぇ…あの……。そんなに長居は……しないと…思うよ? 助けを求めるように父上を見る。
そっぽ向きやがった!! 親父っっっ!!!!
「じゃあ暁君……。私達はここで御話をしているから、暫く姫の相手をお願いしても良いかな?」
そう云う断れない依頼をするのは卑怯です。伯父上………。
……
………
そんな訳で、場所を移して宮さまの遊び相手を、暫しの間勤めることに…
宮さまの希望通り、知っている御伽噺をいくつか語ることになりました。
勿論、完全に覚えているわけでは無いので、適当に補完したり端折ったりしています。
元の世界であれば、大抵の人が知ってるであろう「桃太郎」「鶴の恩返し」「舌切雀」「浦島太郎」とかでも
行き成り間違いなく語れ、とか言われても完全に語れる人なんて、略、皆無でしょうから……。
…
< -- 暁 お話し中 -- >
葛篭を開けると、中からは恐ろしい妖怪やら虫やらがウジャウジャと……
いじわるお婆さんは、腰を抜かして気絶するのでした。
欲張りや意地悪をすると、碌でもない目に遭うというお話……でした。
宮さまは、多分…大丈夫そうだけど、気を付けようね………。
コクリと頷く、三の宮さま……。素直ないい子だよなぁ……。
じゃあ次は、ちょっと毛色の違う(?)『一休さん』を
昔~昔~、ある所に………
……
< -- 暁 お話し中 -- >
『立て札を見たのに、何故、橋を渡ったのですか?』
すると一休さんは、こう答えます。
『端では無く、真ん中を渡ってきましたよ?』
「…………??」
いや、宮さま……。箸じゃなくて橋と端ね? う~ん……。ちょっと作品選択をミスったか??
じゃあ定番の『竹取物語』とか話そうか?
「―――知ってる…」
ですよねぇ………。
う~~~ん、そうなると………ん? 宮さまが…何か?言いたそうにしている。
何かな?
「私が……お話し…する………」
えっ!?…………(汗)
「私が……竹取物語…お話し…する………」
< -- 三の宮さまの お話し中 -- >
――――不老不死の…妙薬を、姫の帰った……月に一番近い……山の頂上で…
焼いて……しまうのでした……。やがて…その山は、不死の山と……呼ばれ、焼いた……
薬の煙は…、今もまだ……遥か天に向け…昇っている……と言われています。
長~~~~~い!! でも、凄いよ、宮さま!!
今まで自分の聞いた事のない、竹取物語の細かい部分まで語りきったよ。
(求婚した貴族の名前なんか初耳でしたよ)
ちょっと時間が掛かったけど……。素直に誉めてあげる。
いい子、いい子と、調子に乗って、宮さまの頭を撫でる。
あれ? なんか…年下の子を相手にしてるみたいだな? 一応、自分の方が年下だよね??
じゃあ次は、私が…異国の物語で『人魚姫』を語りますね……
昔~昔~、ある所に………
……
< -- 暁 お話し中 -- >
……こうして、人魚姫は、海に身を投げ、その体は海の泡になったので……(ゲッ!!拙い!!)
「可哀相…………」
気が付くと、三の宮さまは、大粒の涙を零して、大泣き状態………。
いや…これ物語だから……あのね? お願い!!泣き止んでーー!!!!
「おや……随分と賑やかですね?」
伯父上キターーーーーーーーーーーーーーーーー!!! なんてお約束を!!!
あぁ……何か目が、普段と違って凄く怖い……。父上は頭を抱えてる!?
もしかして? かなり…ピンチ!?
「状況を話して貰えるかな? 暁君………。包み隠さずにね………」
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伯父上の誤解も、なんとか解き、今は帰りの牛車の中……。
疲れた……。いや、本当に………。
色々と…考え無しに行動すると、大変な目に遭いますね。
「まぁ……貴方が懲りて、その様に本気で思えるようになったのなら、良かったです。
院にも宮さまにも、感謝しなければいけませんね………」
本当にいい教訓でした。三の宮さまにも感謝しています。
確か、今の気持ちに似たような内容の和歌を、聞いた事があったので
お礼に、三の宮さま宛てに、送ってみました。(エヘン!!)
「ほぅ…。貴方にしては気が利いてますが、何と送ったのですか?」
『逢ひ見ての後の心にくらぶれば昔は物を思はざりけり』です。
貴女に会って、私はちゃんと考えるように変わりましたよ………って、何で頭を抱えるのですか?
何で!何で溜息吐くんですか!?
「暁……。貴方それは、『貴女に会ってから恋煩いするようになりました』という恋の歌です!!」
「「…………………………………………」」
惟光!! さっきの文、送っちゃダメーーーーーーーー!!
「わっ!? 何ですか若様…。文使いなら、もう既に届けて、戻って来ておりますが………」
「「…………………………………………」」
OWATTA!!!
(暁日記:第8巻 「不省人」より抜粋)
あとがき:
感想を書いて下さった諸氏に、感謝の意を……。
水曜日投下しようと、書き上げた第1稿目のチェックをしていたら………これXXX行きじゃね?
急遽、書き直しが決まり、話が上手く纏まらずに苦しむことになりました。(3回位書き直した)
実はもう1人ヒロイン候補を予定して居る(こっちはノーヒントで)のだが、書き直したせいで
三の宮さまに大きく溝を開けられた感になってしまった。このまま突っ切られたどうしよう…。
(了)