第四十三話 新たなる旅立ちヤン・ウェンリーとペトルーシャ・イーストについてヤン・ウェンリーとペトルーシャ・イーストは同時期に活躍した同盟軍人だ。後世の歴史家や後世の一般人のヤン・ウェンリーへの評価はほぼ一致している。すなわち、『不敗の魔術師』等の呼び名をもつ優れた軍人、これがヤン・ウェンリーへの評価である。そして、ペトルーシャ・イーストへの後世の評価は大きく二つに分かれる。圧倒的多数とごく少数を同列に並べるとだが。ペトルーシャ・イーストの事を、後世の一般人と後世の歴史家の多くはヤン・ウェンリーを一方的にライバル視していた軍人と認識している。後年色々と製作されているヤン・ウェンリーが主役の映画やドラマではペトルーシャ・イーストはアンドリュー・フォークと共謀し、ヤンを陥れようとする人物として描いている。無謀な出兵案を提出したフォークと、アムリッツァ星域会戦でヤンの足を引っぱる為に全面撤退を指示した作戦参謀代理ペトルーシャ・イースト。そして、これ等の事がシドニー・シトレ元帥の怒りをかい、両名を二階級降格にした。反省し心を入れ替えたペトルーシャ・イーストは、以後真面目な軍人になる。これが一般的なペトルーシャ・イーストに対する認識である。しかし、ごく少数派の主張ではペトルーシャ・イーストは真面目ではなかったが、有能な軍人であったとする評価もある。そして、『不敗の名将』との評価はヤン・ウェンリーよりもペトルーシャ・イーストの方が相応しいと。両雄並び立たず。後世の人物の多くは一方を評価し、もう一方を貶すのが常であった。しかし、当時の人達はヤン・ウェンリーとペトルーシャ・イーストのどちらが優れているかなど大した問題では無かった。何故なら、それより重大な問題が山積みされていたのだから。 後世の歴史家 コペルニクス・スティーブン・ゲルガッチャ・ニコス・ヴィル・メイ・トロウ・ジャクソン4世今日は補給の失敗?の責任を取らせれたキャゼルヌが左遷先に出発する日だ。折角なので、三姉妹を連れて空港に見送りに行く事にした。お、ロビーで談笑中のキャゼルヌ一行を発見。後ろから付いて来ている三姉妹にハンドサインで合図を送る。『こちらペト、これより潜入任務を開始する。』よし、装備は現地で調達だ。よし、接近成功。まだ気付かれてない。「しかし、補給の失敗と云ったって、別にキャゼルヌ少将の所為じゃ無いでしょうに。元々あの作戦自体が狂ってたんだ。」その通りだ、アッテンボロー。狂っていたのは作戦だ。「俺の為に怒ってくれるのは有り難いが、まあそう言うな。誰かが責任を取らなきゃならん。誰も責任を追及されない社会よりは、まともってもんだ。」確かにそうだ、責任は取らなきゃならん。「しかし、」しつこいぞ、アッテンボロー。「アッテンボロー。」ほら、ヤンに怒られた。「まあ、辺境とは言え第14補給基地の司令官だ。フォーク准将のように二階級降格の上にアバシリ補給基地逝きになるよりは遥かにマシだ。」よし、今だ。「そうそう、二階級降格の上、辺境に飛ばされる俺に比べれば遥かにマシさ。」ミッション成功。「大体、侵攻作戦を考えたのはアンドリュー・フォークでしょうに、何故イースト先輩が責任を取らなきゃならないんですか。」あれ?驚いてくれないの?普通に返された。「一応作戦参謀だったからだ、仕方ない事だ。それより、なんで驚かないんだ?」「あれで、気付かれて無いつもりだったのか?」そう言ってキャゼルヌは俺の被って来たダンボールを指す。「何故、俺だと分かった。」「こんな所であんな事をする人はイースト先輩位しか居ません。」くっ、やはりダンボール万能説は都市伝説だったのか。いや、違う。そうでは無い。問題だったのは俺がキャゼルヌ一行の視界に入っている時に動いた所為だ。やはりダンボールは万能だったんだよ。「大体、なんだってイースト先輩をフォークと同じ扱いで・・・。」アッテンボロー、今のは惜しかった。そこは『なんだってー!!』が正しい。そんなどうでもいい事を考えながら、三姉妹がユリアンやシャルロット達とじゃれ合って居るのを眺めているとアッテンボローがシトレ元帥・・・いや、退役したから元(もと)元帥か?そのシトレ元帥を発見した。俺的には凄く気まずい。今生の別れを交わした相手と、その翌日に道を歩いていたらバッタリ出くわした感じだ。シトレ元帥の方も気まずいらしく、俺達はお互いに敬礼をしただけだったがヤンは何か話があるらしくシトレ元帥へと近づき何か話している。・・・・そう言えば、シャルロットの妹の名前って何だっけ?相変わらずどうでも良い事を考えながら時間を潰しているとシトレ元帥との話しが終わったヤンが戻ってくると同時にキャゼルヌが口を開いた。「それじゃ、俺達もそろそろ行くよ。」「キャゼルヌ先輩、実は今度イゼルローン方面軍の司令官と云う辞令を受けそうです。」「おお、そりゃ凄い、おめでとう。」「ついては先輩に要塞事務総監として、要塞の都市機能の運営など後方勤務の全てを引き受けて頂きたいのです。」ヤンも抜け目無いな、早速キャゼルヌをスカウトしてる。確かに、キャゼルヌの事務処理能力は凄いからな。「しかし、俺はこれから・・。」「ええ、分かっています。ですから直ぐには無理でしょう。ですが、なるべく早い時期に赴任して貰うよう軍に働きかける積もりです。来て頂けますか?」「ああ、その時は喜んでお前さんの下で働かせてもらうよ。」「それまで」「ああ、しばしのお別れか。」「お元気で。」「お前さんこそあまり無理するなよ。仕事しているのが似合うガラじゃないんだからな。じゃあな。」「またね。」 「ばいばい。」キャゼルヌ、無事に戻って来い。俺もお前に聞きたい事がある。お前の娘の名前とか。キャゼルヌ一家に手を振りながら去り行く背中を眺めていると隣に居たヤンがアッテンボローにまで魔の手を伸ばした。「アッテンボロー、お前さんにも来て貰うぞ。イゼルローンへ。」「アイアイサー。」・・・・・・・え!?俺は?「ヤン提督、どうしてイースト准将を誘わなかったんですか?」「ユリアン、イースト准将は私の先輩だ。」「はい。」「以前は上官だったし、この前までは共に戦場に並んで戦った同僚だ。」「はい。」「私が上官になった途端に、『私の下で働け』ではイースト准将も気分を害するだろ?」「なるほど。」「私も少しは気を使っているんだよ、ユリアン。まあ、人事部の方へはこっそり要請して置くさ。」自由惑星同盟軍はアムリッツァの敗戦を受けて上層部人事を一新した。№1、№2だったシドニー・シトレ元帥、ラザール・ロボス元帥は共に退役し、宇宙艦隊総参謀長クブルスリー大将は査閲部長に転出。その為、空いたポストには新たに統合作戦本部長ボロディン大将、宇宙艦隊司令長官アレクサンドル・ビュコック大将、宇宙艦隊副司令官ウランフ大将、宇宙艦隊総参謀長ホーウッド大将、№3である統合作戦本部次長は代わらずにドワイト・グリーンヒル大将が勤める事になった。そしてアル・サレム中将、アップルトン中将両名は負傷の為、退役となった。なお、現在同盟軍で健在な艦隊はパエッタ中将の第1艦隊、ルフェーブル中将の第3艦隊、司令官不在の第11艦隊、そしてヤン・ウェンリー大将の第13艦隊だ。ただ、それ以外の艦隊が壊滅と云う訳では無く、司令官達の昇進及び4万隻以上の艦が修理点検の為のドック待ちの状況であり再編には時間がかかる状況だ。これ等の状況により、同盟内部での軍人の飽和がおこり、更にペトルーシャ・イーストの行った無人艦隊5000隻の使い捨てにより軍人の飽和が進んだ。つまり、働く所が無い軍人が大量に発生した。その為、自由惑星同盟軍では専門職や専門技能を持っていて徴兵された軍人約200万人を退役させ民間に戻した。これによって、僅かに自由惑星同盟の経済は向上する事になる。そして、自由惑星同盟軍はヤン・ウェンリーを大将に昇進させ、イゼルローン要塞及びその駐留艦隊司令官に任じた。副官フレデリカ・グリーンヒル大尉、参謀長ムライ少将、副参謀長パトリチェフ准将、要塞事務総監代理オディ・オー・ブランドー准将艦隊副司令官エドウィン・フィッシャー少将、分艦隊司令官グエン・バン・ヒュー准将、ダスティ・アッテンボロー准将空戦隊長オリビエ・ポプラン少佐、イワン・コーネフ少佐、要塞防御司令官ワルター・フォン・シェーンコップ准将そして兵卒待遇の軍属として、ユリアン・ミンツもイゼルローンにその第一歩をしるした。だが、そこにペトルーシャ・イーストの姿は無かった。皆さんは今頃イゼルローンで楽しくやっているのか?今日、俺はハイネセンから新任地へと旅立つ。丁度イゼルローン要塞の反対側。つまり、フェザーンだ。フェザーン駐在弁務官事務所が俺の新たな勤め先、駐在武官ペトルーシャ・イースト准将の誕生。正直これは予想していなかった。普通は大佐より上の階級の人物が駐在武官になる事は無い。少なくとも俺の知っている限りは無い。だが、俺の知っている限りと云っても俺は駐在武官の事など何も知らないけどな。どうやら、トリューニヒト議長のお声がかりらしい。そこで先日、俺が議長に言った事を思い返してみた。『ハイネセンから離れた所が良いですね。』 うん、フェザーンは確かにハイネセンから離れている。『ただ、余り辺境な所もちょっと』フェザーンは辺境では無い。どうやら、俺の希望を聞いてくれたらしい。ありがた迷惑だよ、コンチクショー!!「それじゃ、行ってくる。」「いってらっしゃい。」「提督(元)、気をつけて。」「早く帰ってきてください。」「お気をつけて、イースト准将。」三姉妹とフック・カーン大尉に見送られてハイネセンからフェザーン行きの船に乗り込む。キャゼルヌと違い、俺は単身赴任になってしまった。三姉妹は学校があるし、カリンはもうすぐ母親の手術が控えているし、フック・カーン大尉は元々は俺が艦隊勤務になった時に艦隊勤務の経験の在る人材としての副官にした。今回、俺は提督で無くなった為、フック・カーンは副官から外れてもらった。統合作戦本部の方からは、代わりの副官を用意するとか言っていたが誰になるんだろ。「そういえば、フェザーンの駐在弁務官事務所には小官の兄が勤めていますので、色々とこき使って下さい。」「フック・カーン大尉のお兄さん?・・・もしかして、ベン・ム・カーンさんとか、そんな感じの名前だったりするのか?」「いえいえ、流石にそれは無いですよ。チュウザーイ・ブ・カーンです。」その発想は無かった。・・・・つづく。 豆 「例のSS捜索掲示板でこの作品が紹介されて仕舞った、如何しよう。」ポプラン「面倒臭いヤツだな、お前は。」豆 「ポプランさんも面倒臭いですよ。なんて渾名にすれば良いんですか?ビッテンは『黒猪』、シェーンコップは不良中年は略して『不中』。」コーネフ「保母さんの『保母』で良いんじゃないかな。」豆 「それ頂ました。」保母「それだったら、コーネフの野郎は如何するんだ?大体コーネフだと、アイツと被るだろ?」豆 「クロスワード、略して『十文』で。でも、もう出番は無いと思うけど。」十文・保母「・・・・・・。」