△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼
エンカウント!
ふいうち だ!
敵対的レベル6シーフ の 攻撃
慣性の鎧(Inertial Armor) が 発動しました
力場展開(Force Screen) が 発動しました
AC(アーマークラス) +12
命中判定………………回避成功
あなた は 立ち竦んで いる
反撃 します か?
【y/n】
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼
突然切りかかられて、良く分からない半透明の力場にそれが弾かれた。
そしてそれと同時にまたしても頭の中に響き渡った「声」に彼女は混乱した。
だが、元来「イエスかノーか」と言われると「ノー」と言えない性質だったため、殆ど脊髄反射のスピードで頭の中に声に向かって「'y' Enter」と答えてしまっていた。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼
《狂気の反転》 技能判定……成功
ボディ・イニシアチブ を クトゥーチク司教 に 変換します
カオス を 讃えよ!!
武器召喚(Call Weaponry) ……詠唱成功
高品質レイピア を 召喚 しました
《武器の妙技》 発動 命中ボーナス+14
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼
「カオスに帰依するのだ!!」
「ッ!?」
自分の口からしわがれた老人のような声が漏れ、恐ろしく正確で鋭い突きが放たれた。
彼女の思考は二つの異なる存在がごちゃごちゃに入り混じり、マーブル状の混沌とした状態に陥ったが、辛うじて一時的な主導権を握った彼女の意識は、右手のレイピアが哀れなホビットを串刺しにする寸前で軌道を変える。
喉元を貫くはずだった剣の切っ先はスケルツォの頬を浅く裂き、耳たぶにぱっくりと横一文字の傷跡をつけて通り過ぎたあと、すぐに引き戻された。
そして流れるような動作で3フィートほど後退し、身体を相手に対して半身に構え、レイピアの切っ先を斜め下に構える。
その構え方は一見無防備なノーガードのように見えるが、実際には飛び込んできた相手の下腹をカウンターで突き殺す危険な戦闘体勢である。
そして、そんな浮き上がってくる知識と経験した事もない体捌きは、ますます彼女の頭を混乱させた。
が、乱れきった頭の中身とは正反対に、身体はまるで何百回と繰り返したような正確さでレイピアを油断無く構えて目の前のスケルツォに相対した。
奇しくもそれは、背後に腰を抜かしたマーチを庇うような配置となる。
彼等が仲間だという事実を鑑みれば危険極まりない位置取りではあったが、彼女のぼんやりとした意識は「マーチ=味方」「スケルツォ=敵」という図式が構築されてしまっていた。
そしてまたしても彼女の口から先程までとは似ても似つかないしわがれた声が漏れる。
「どうした小さき人、仕掛けて来たのはおぬしだぞ。さあ、その毒の滴る短刀でわしの臓腑を突いて見せろ。毒は何だ? 蛇か? 蠍か? 鳥兜か? それともバジリスクか? そんなちっぽけな針金でわしを殺そうというのだ、最低でもバジリスクの血は塗ってあるのだろうな」
「ぐ……」
「どうした、来ぬのか? 腰抜けめ、白痴の女は突き殺せても、武器を構えた怪物には足が竦んで動けぬと見える。薄汚い犬畜生にも劣る戦い方だ、このごろつきめ」
「くそ! マーチッ! 逃げろ!!」
決死の覚悟でスケルツォが突きこんで来る。
「盗賊ふぜいが、百年早いわ!! くらうがいい!」
まるで良く撓った竹が勢い良く跳ね上がるように、ランプの明かりに銀光を反射しながらレイピアがスケルツォを迎撃する。
長年の経験から生み出される勘だけを頼りに、それを左手の袖口から抜き出した短剣で弾くと、スケルツォはまるで軽業師のような身軽さで彼女に突きかかった。
「化け物め!」
「蛆虫めが!」
右かと思えば左、そうかと思えば含み針や目潰し、短剣を弾かれればすぐさま体のどこかに隠し持った新たな短剣を抜き放つ。そして僅かにできた隙に向かって彼は足払いを仕掛けた、が……。
「しまった!?」
「馬鹿めが! わしに足などないわ!」
思わずいつもの様に二足歩行の敵に向かって戦うように足払いを仕掛けてしまったスケルツォは、そのフレアスカートの下にあった触手の群に絡み取られ、まるで磔台に上らされた罪人のように宙吊りにされる。
恐ろしい怪力で締め付けられ、体中がバラバラになりそうな激痛にスケルツォは苦悶の声を上げる。
その様子を眺めながら、先程までにぼんやりとした顔からは想像すら出来ない愉悦と狂笑にひき歪んだ顔で彼女は嗤った。
「フハハハハハ! 四肢を引きちぎり臓物を啜ってや――」
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼
3ラウンド 終了
《狂気の反転》 技能判定……失敗
ボディ・イニシアチブ を ■■■■■■ に 変換します
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼
「声」と共に唐突に戻って来た体の自由。
彼女は慌てて、バラバラにする寸前だったスケルツォの身体をそっと地面の上に下ろした。ついでに頭の中の「声」に向かって「かいふくまほうありますか」と問いかける。
しかしその問いかけに対してずらずらと頭の中に広がった「回復魔法」は相手の体力を吸い取ったり時間経過によって「自分の」体力を回復するものだったり、とにかく自分自身が生き残るための魔法しかなく、彼女は落胆した。
「うぐっ、げほっげほっ」
「スケルツォ! セレナ、回復を!」
「あ、あわわ、わ、わか、わかった」
脂汗を滲ませてバラッドがブロードソードを油断無く構えて相対する。
その背後では、気絶から回復したばかりのセレナが倒れて咳き込むスケルツォにキュア・ウーンズの魔法を唱えていた。
そんな光景を見ながら彼女は途方にくれてしまっていた。
今更剣を捨ててもどうにもならないかもしれないが、それでも取り敢えずは敵意がないことを示さなくては。
そう考えて、彼女は持っていたレイピアを少し離れた所に投げ捨てた。
「……?」
「あの、ごめんなさい。もうしません」
「……どういうつもりだ」
「えっと、その、いきなりだったので、おもわず体がうごきました」
我ながら酷い言い訳だなと思ったが、相手も同じ感想を持ったようで相変わらず油断無く剣を構えている。
どうしよう、どうすればいいんだろう。
焦った脳みそは、またしても記憶の奥底にあった記憶を掘り起こした。
こういうときは、土下座しかないね!
「もうしわけありませんでした!」
「は――」
その場になんとも言えない空気が充満した。
あれ? もしかして間違えたのだろうかと彼女が背中にいやな汗を掻いていると、その背中に向かって乱暴な声が投げかけられた。
「おい、取り敢えず顔を上げやがれ」
「はい」
指示にしたがって顔を上げると、苦虫を噛み潰したような顔でマーチがしゃがみ込んで彼女の顔を覗きこんでいた。
しばしじっと彼女の目を覗き込んだあと、思い溜息をついて彼は彼女の頭に付いた埃を払った。
「……ようリーダー、もうこいつは安全だ」
(さっきまで「何か」を降ろしてやがった、魂の色が違う)
「……信用出来ん。マインドフレイヤだぞ」
(その「何か」がもう一度降りて来ない保証はない、殺すべきだ)
「まあ、そう言うなよ。なんならセレナの邪悪感知(センス・イービル)を使ってもいいぜ」
「……よし、セレナ。やってみろ」
「ええ!? 本気!?」
再度要請されて、渋々ながら前に進み出た彼女は呪文を詠唱した。
その魔法に体が反応して抵抗しようとしたため、彼女は慌ててそれを押さえ込めた。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼
呪文抵抗…………任意失敗
アライメント 【混沌にして善】
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼
その判定結果に、セレナは引き攣った顔をする。
「こ、混沌にして善(反乱分子)って……どう見ても混沌にして中立(自由人)に見えるんだけど…………」
「属性は絶対確実な指標というわけではない……とは言っても限度はあるがな」
「まあ、混沌ってのは当たり前だろうな……」
「げほっ! これがさっきの化け物と同一人物とはな……正直信じられん」
四者四様の視線を向けられ、彼女は居た堪れないやら恥ずかしいやらで顔を真っ赤にして俯けた。
そしてそのタイミングを見計らったように、激しい運動をしてエネルギーを消費した彼女の肉体は栄養を欲しがった。
きゅぅぅ……
静寂の中に大きく響いた腹の虫に、彼女は耳まで真っ赤にしながらそっとマーチを盗み見た。
「あ、あの…………」
「………………はぁぁぁぁ…………取り敢えず、大人しく付いてくるなら飯を奢ってやってもいいぞ」
「あ、ありがとうまーくん」
「まーくんは止めろ!!」
牙をむき出して一頻り怒鳴り散らしたあと、彼は両手で顔を覆って盛大に嘆いた。
「くそったれ(Holy shit)! 何で俺が!」
(……うーむ、マーチはモンスターテイマーの才能が有るのかも知れんな)
(さっきもマーチの事だけ庇って戦ってたよね)
(言われてみればそうだったなぁ)
「勘弁してくれ!!」