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No.13088の一覧
[0] 【習作】あなたの Lv. は 1 です 【オリジナル D&D風味・人外】[桜井 雅宏](2010/03/19 22:55)
[1] はいてない[桜井 雅宏](2009/10/30 23:00)
[2] まいんどふれいや[桜井 雅宏](2009/11/07 01:14)
[3] そういうぷれいですか?[桜井 雅宏](2010/01/03 04:08)
[4] あくとうのしごと[桜井 雅宏](2009/11/02 23:03)
[5] ふわ[桜井 雅宏](2009/11/03 23:35)
[6] しょや[桜井 雅宏](2009/12/05 02:10)
[7] あなだらけの「わたし」[桜井 雅宏](2011/10/30 10:30)
[8] みえた![桜井 雅宏](2009/11/10 04:08)
[9] おかいものにいこう[桜井 雅宏](2010/02/12 01:32)
[10] ならずものとそうりょ[桜井 雅宏](2009/11/25 00:05)
[11] まーけっとすとりーと[桜井 雅宏](2009/12/05 02:10)
[12] おかいもの[桜井 雅宏](2009/12/05 02:10)
[13] みざるいわざるきかざる[桜井 雅宏](2009/12/05 02:09)
[14] にゅーとらるぐっど[桜井 雅宏](2009/12/19 01:23)
[15] ゆめ[桜井 雅宏](2011/10/30 23:03)
[16] しゅっぱつ!…………あれ?[桜井 雅宏](2010/01/02 22:54)
[17] しんわ 1[桜井 雅宏](2010/01/08 00:41)
[18] しんわ 2[桜井 雅宏](2010/02/27 16:11)
[19] れぎおーん[桜井 雅宏](2010/02/27 16:12)
[20] ぎよたん[桜井 雅宏](2010/02/27 16:12)
[21] そらのうえ[桜井 雅宏](2010/02/27 16:12)
[22] ぐろちゅうい[桜井 雅宏](2010/02/12 05:53)
[23] しゅよ、ひとののぞみのよろこびよ[桜井 雅宏](2010/02/27 16:12)
[24] いんたーみっしょん[桜井 雅宏](2010/03/19 22:55)
[25] ゆめうつつ[桜井 雅宏](2010/03/30 02:01)
[26] でこぼこふたり[桜井 雅宏](2010/04/30 20:07)
[27] めざめ[桜井 雅宏](2010/04/30 21:13)
[28] ぱーてぃ[桜井 雅宏](2010/05/05 00:54)
[29] けつい[桜井 雅宏](2010/08/02 19:38)
[30] にっし[桜井 雅宏](2010/08/04 00:33)
[31] 真相01[桜井 雅宏](2010/12/01 00:37)
[32] 真相02[桜井 雅宏](2011/10/30 10:29)
[33] 真相03[桜井 雅宏](2011/12/12 23:17)
[34] 転変01[桜井 雅宏](2012/02/02 22:51)
[35] 転変02[桜井 雅宏 ](2013/09/22 23:33)
[36] 読み切り短編「連邦首都の優雅な一日」[桜井 雅宏](2011/12/12 23:14)
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[13088] れぎおーん
Name: 桜井 雅宏◆d56b063f ID:a6985db1 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/02/27 16:12
 クエスト一日目は何の問題もなく過ぎ去って行き、カオル達一行は街道の途中に一定距離で設置してある宿場で一夜を明かすことにした。
 宿場制度は帝国が出来てごく早い時期に整備されたもので、殆どの国を横切っている大街道と大小幾つもの街道網によって支えられている。すべての街道宿場には最低でも帝国軍団兵一個分隊が常に詰めていて、街道間を一定のルールに沿って巡回しては不逞の輩を排除しようと目を光らせているのだった。
 そうして彼女たちが利用した宿場にも当然ながら厳しい顔つきをした軍団兵が詰めており、街道を行き来する旅人たちに少しでも怪しい者が居ないかとチェックを怠らなかった。帝国はこの大街道網を使った輸送貿易にて巨万の富を得ているだけあって、特に密輸や禁制品の輸送には厳しくチェックをしている。
 カオル達も宿場に着くなり無骨なレギオンズ・メイルに身を包んだ軍団兵のチェックを馬車ごと受けたが、御者のカッサシオンがなにやら金属製の札を見せるとほとんど軽い審査のみで終了した。
 カッサシオンいわく「備えあれば憂いなしとはこのことですよ」との言であったが、具体的にその金属プレートがどういった物なのかは推測するしかない。
 何はともあれ、宿場の中でも一番ランクの高い部屋で欲日に干されたフカフカの布団に包まれながらカオルは安堵の溜息をついた。
 冒険者という言葉を耳にした時から旅の時は野宿前提だろうと密かに覚悟を決めていたのであったが、整備された街道網と宿場制度という存在に感心すると共に認識を新たにする必要を感じた。この世界は一見欧州中世の世界によく似ているが、似ているだけで全く別の世界であるという事をである。
 ウトウトと眠りの世界に落ちる寸前、彼女は今では少しだけその存在を信じ始めた神様に向かって祈るのだった。
 神様、どうか夢を見ませんように、と。


――――――――――――――――


 そうしてクエスト二日目に事件は起こった。
 結局一日目の宿場でセレナが追いついて来なかった事に若干イラついた様子のマーチに、カオルは気後れして話しかける事が出来なかった。
 険しい顔つきで窓の外を睨みつける彼の向かいで、カオルは前日に教わった文字を使って書き取りの練習を繰り返す。
 馬車内に重苦しい空気が充満していく。何か話しかけなければ、でも一体何を?
 ぐるぐると堂々巡りになる思考のせいで全く勉強に身が入らない。
 それでも何とか意を決して話しかけようとした瞬間に、まるで出鼻をくじくかのようにがくんと馬車が止まった。

「ストップ!! そこで止まれ! それ以上進むな」

 荒々しい制止の声に思わず二人で顔を見合わせる。
 御者台に向かう窓を開けて前方を見ると、そこには予想外の光景が広がっていた。
 街道を塞ぐように展開したテント群と軍馬の群れ、そして鋼鉄の鎧に身を包んでその上から軍団兵の身分を示す真紅のチョッキを身に纏った帝国軍団兵の部隊だ。全員が忙しく動き回っており、ガチャガチャと金属同士がこすれ合う騒々しい物音と共に兵士達の真っ白の吐息が辺りに漂っていた。
 十分離れているはずなのに、カオルは馬車の中にまで彼等が身に纏った鋼鉄からただよう鉄臭さが充満するような錯覚に陥った。それほどまでに兵士達の存在は圧倒的で、敵対者を無慈悲に粉砕する荒々しさに満ちていた。
 馬車を制止した兵士は鎖帷子にブロードソードを装備した伍長で、右手に持った槍を威嚇するように掲げ持っていた。もし馬車が止まらなければ威嚇ではなく実戦でそれが使われるであろうことは、荒事に詳しくない彼女にも容易に見て取れた。

「軍団兵(レギオン)! なんでこんな辺鄙なところに集まってやがるんだ?」
「と、とりあえず出ていく?」
「そうだな。こりゃ宿場みてぇに簡単な臨検で済まなさそうだ」

 その両目に警戒心を満たしながらマーチが降りる。
 それに続いて彼女も馬車を降りると、ちょうどカッサシオンが伍長を相手に会話をしている所だった。

「駄目だ! 此処から先は封鎖されている」
「そこを何とか、お願いいたします。ここからほんの少し行った所なんですよ、目的地は」
「知った事ではない。一週間もすれば封鎖も解除される、それまで待つんだな」
「……一週間も待てません。こちらにも事情というものがあるのです」
「もう一度同じ言葉を繰り返して欲しいのか? お望みならば何度でも繰り返してやろう、それが軍団兵が市民に持つ義務と責任というものだ。……「知った事ではない」、どうだ、もう一度言ってやろうか?」
「いえ、十分です」
「そうだと思ったよ」

 カッサシオンはくるりと踵を返すと二人のすぐ側までやってくると、声を潜めて話し始めた。

「これは奇妙な話です。この街道は若干寂れているとはいえ隊商道の一つですよ、そんな所を一週間も封鎖すれば軍団司令部に商人ギルドから抗議の文書が矢のように降り注ぐに違いありません。もともと軍団兵は帝国街道の交通安全を守って帝国の富を貯めこむために創設されたんです――表向きの理由はですが。そんな彼等が手に入る金貨を道端に捨てるような任務につくなんて、どう考えてもおかしい。理屈に合いませんよ」
「つまりこういう事か、突然いつもと違う事をし始めた奴らは何か問題を抱えているって」
「少なくとも、こんな仰々しいやり方をするだけの事態が進行中ではあるみたいです」
「で、ここをどうやって突破する?」
「考えがあります。まあ、見てて下さい」

 そう言って、カッサシオンは楽しそうに笑った。
 彼は再度踵を返して伍長の方に歩いていくと、ことさら憐れっぽい口調で話しかけた。

「兵士さん、お願いしますよ。どうにかこの先に行けませんか? お固い軍団兵の方々も、我々の目的を知れば通してやろうという気になろうかと思うのですが」
「目的?」
「はい、実は我々はこの街道の先にあるサルシオン修道院に向かっているのです」
「サルシオンだと? あそこには――」

 そこまで言って、伍長は何か苦いものでも飲み込んだように顔を顰めて口をつぐみ、カオルとマーチの両方をチラチラと見た。

「どっちだ?」
「女性の方です、はい。まだ今は比較的軽度の状態なのですが、不幸な事故で肉親がすべて帰らぬ人となってしまい、恒久的に世話をする人間がいなくなってしまったのですよ」
「お前たち二人は一体なんなのだ」
「彼女の両親に生前契約を結んでおりまして、もし自分達に何かあった時は頼むと」
「ではなぜサルシオンに向かっているのだ! 死者との約束など守る必要がないと抜かすか」
「まさか! 兵隊さんは私がそんな非情な人間に見えますでしょうか? あれのためにわざわざこのような立派な馬車まで商人様にお借りしておりますのに」
「む……」

 一同が乗ってきた馬車は確かに冒険者が乗り回す類のものではなかった。
 これほど手入れが行き届いた高級品ならば維持費も馬鹿にならず、その日その日を食うや食わずの生活が暫く続くこともままあるような博打者の冒険者風情が乗り回すには、確かに少々無理のある話だ。
 馬車の存在がカッサシオンの言葉に真実味を与えたのか、伍長が一同を――特に何故かカオルを見る目には深い同情の色が混ざり始めていた。

「そうか……それで、なぜサルシオンなのだ? 頼まれていたのならばお前たちが共にいるべきであろう」
「はい、確かにその通りであります。私たち二人も当初はそう考え、冒険者時代に手に入れた少ない蓄えを切り崩して帝都の片隅に小さな家を借りて慎ましながら生活を営んでおりました。しかしながらもともと冒険者という荒事ばかりで稼いでいたろくでなしの男二人がいきなり堅気の仕事で生活していこうとしても無理があるというもの、もともと少なかった蓄えはみるみるうちに目減りしていきました。そうしてついに借家の賃金まで滞納するまでになり、ますます生活は厳しくなりました。それに加えて……」

 そこで彼はいかにも言いにくそうに言葉を濁した。
 伍長は無言で先を促すと、カッサシオンは溜息を吐きながらようやく続きを話し始める。

「その……このような事は実際我々と同じ立場になければご理解出来ぬ事とは存じますが……その……」
「話せ」

 そう促され、彼は苦り切った顔をして唇を噛むと、右手で額を覆って「おお、神よ」と嘆いてみせた。

「彼女のような……その……なんというますか、ああいった症状は段々と進行していくもので、一時的に遅れたり、あるいは停滞する事はあっても良くなる事はまずありません。日に日に進行して行くその様子に、共に暮らしている我ら二人の心も平安を得られず……もちろん、伍長殿に分かって頂こうなどとという偉そうなことは申しません、言い訳じみているという事も重々承知でございます。ですが――」
「いや、よくわかる」
「今なんと?」
「よく分かると言ったのだ。私も――」

 そこで伍長は思わずといった様子で言葉につまり、心なしか涙の滲んだ目でカオルの方を見てから正面に向き直った。

「私も、同じようにサルシオンへ入れた姉がいる。お主の気持は痛いほど分かるつもりだ」
「おお……なんということだ! これぞ神の采配というべきか…………お辛いでしょう。心中お察しいたします」
「いや……辛いのはお主達も同じだろう。誰しもみな何かしら重荷を背負って生きておるのだ。彼女たちは特別に我々よりも目に見えて重い荷を背負ってこの世に生を受けてきたが、神はそういった者たちにこそ恩寵を与えるのだ。……私はそう信じている」
「アーメン」
「光輝神よ、お恵みを……」

 事ここに至り、カオルは自分が今まさにとんでもない設定(バックボーン)を勝手に組み上げられていることに戦慄と共に気がついた。
 彼女は思わず隣のマーチにしがみつくと、ほとんど形振り構わないような必死さで問いかけた。

「な、なんなの、ねぇまーくん! なんのはなし? ねぇ、どういうこと?」
「大丈夫だ……大丈夫だからな……」
「こ、こたえになってないよ!? まーくん、ねぇ!」
「しっ……静かにしていなさい、分かるな? ほら、いい子だ」

 そう言ってマーチはそっと優しくカオルを抱きしめた。
 突然の事に彼女の脳味噌は熱暴走を起こした。

「はぁあ!? え、ええっ? なに? なんなの、いったい何が起こってるの!? ガレオさんヘルプ!」

 なんとなく頭の隅に「知らんがな」というニュアンスの答えが帰ってきたような気がして、カオルは真っ赤に火照った頭のまま諦めて大人しくなった。
 その年に見合わぬ舌足らずの声と落ち着きのなさを見て、伍長の両目は重苦しい悲哀と悔恨に染まった。
 思わず溢れてきた涙をチョッキの袖で拭うと、彼は無理やりカオルを視界の中から引き剥がした。

「分かった……そういう事情ならば致し方あるまい。だが最終的な判断をするのは私ではなく隊長だ。お伺いを立ててみるのでそこで待っていろ」
「ありがとうございます……ありがとうございます……」
「まだ礼を言うには早いぞ。中尉! ガミジン中尉! こっちへ来ていただけますか!」

 伍長がそう言って声を張り上げると、50フィートほど離れた先で数人の下士官と頭を突き合わせていた集団のうち、頭ひとつ飛び抜けた立派な体格の男性がこちらへ振り向いた。
 年の程は40を過ぎたくらいか、立派な鷲鼻と彫りの深い顔立ちは歴戦の士官を思わせるに十分な風格が漂っていた。
 身長も高ければ肩幅も広く、およそ常人ならば持ち上げることすら難しいであろう幅広のブロードソードを腰に佩いていて、全身をくまなく覆ったプレートメイルはなんども磨いた下にうっすらと幾つもの傷跡が残って見えた。
 男はきょときょと視線を巡らせるが、もう一度伍長が呼びかけると大きく頷いて………………すぐ隣で地図を広げて下士官達に何か言っている、こちらは逆の意味で飛び抜けた身長の人影の耳元に身を屈めて声をかけた。

「中尉、伍長が呼んでます」
「ああ!? なに?」
「ベリス伍長が呼んでますよ」
「あ? ボルテッカ! このクソが! テメェそんなもん私の耳元でささやくのが仕事か? ええ? 違うだろ、見て分かんねぇか、私は今吐き気がするくらい忙しいんだぞ。馬鹿どものケツを追い掛け回して片っ端から吊るして回るってぇいう最高に楽しい仕事でクソ忙しいんだ、分かってんだろうが、え?」
「しかしなにやら指示を求めていますが」
「はぁん?」

 下士官連中に指示を出すのを一旦中断してくるりとこちらを向いたその人物は、一言でいう「小さい」である。
 その隣でまるでそびえ立つ山脈のような体格のボルテッカと比べれば誰でも低く感じるが、それでも軍団兵の平均身長は6フィートから6フィート4インチというところで、どんなに低くても5フィート8インチは最低あるのが普通であった。
 ところが振り向いたガミジン中尉は4フィートあればいい方というとんでもない低身長であったので、隣にいたボルテッカの巨体のせいで完全に隠れきっている。厳しい鎧姿の偉丈夫達がうろつく軍団の野営地で、その姿はいかにも浮いていた。
 中尉は数瞬の間その視線を下士官と伍長の間で行き来させたが、最後には大きく溜息を付いて両手に持っていた地図を綺麗に畳んでバッグに詰め込んだ。

「四半刻休憩!! 解散! クソどもを速やかに引っ捕えてこい! ボルテッカ軍曹! お前はいっしょに来い!」
「イエッサー」

 本人はズンズンと偉そうに胸を張ってこちらへ歩み寄っているつもりだろうが、残念ながらその短い歩幅のせいでズンズンというよりも「ちょこちょこ」か或いは「ぱたぱた」といった方が良さそうな歩き方であるし、隣を歩くボルテッカが一歩歩くごとに三歩歩いているようでは威厳もへったくれもなかった。
 そのユーモラスな光景に、カオルは元の世界で小さな頃に見たドキュメンタリーを思い出していた。それは過酷な南極大陸で子育てをする皇帝ペンギンの一年を追ったドキュメンタリー映画で、その中でひょこひょこと短い足で必死に歩くペンギンのヒナはまさにガミジン中尉が歩く様子そのままである。
 そうして中尉が近くまでやってくると、カオルは自分が思い違いをしていた事に気がついた。
 まず、中尉が胸を張って歩いていたのはそうしなければ歩けないからだった。
 中尉の服装は標準的な軍団兵の真っ赤なチョッキと外套だったが、その下に一体何枚着込んでいるのか、着膨れという単語を使うのも憚られるようなとんでもない厚着であった。マフラーと手袋まで装備しているというのにその顔は寒さに凍えて真白で、カタカタと小刻みに震えていた。
 そしててっきりその口の悪さから如何にも軍隊らしいがっちりした小男かと想像していたのに、その顔は思わずはっとするようなほど華奢で線の細い女性的な容姿であった。
 やがてその顔の細部まで判別出来る距離まで来て、カオルは思わずあっと小さな声で驚きの声を上げた。
 中尉の両耳はその肩口まである黒い髪の両側からぴこんと飛び出していたが、その形は常人ではありえない柔らかな正三角形を描いていた。
 彼女がその両耳を凝視しているのを見て、マーチがそっと囁いた。

「ロップイヤーエルフだ、珍しいな、もっと東に住んでる種族だぞ」
「え……えるふ……あれが……」

 カオルの頭の中にあったエルフ像に少しだけヒビが入る。
 彼女にとってエルフとは森深いところで詩歌と芸術を嗜む優雅な妖精で、まかり間違っても軍隊のど真ん中で部下に向かってスラング混じりの罵倒をひっきりなしに投げつけるような存在ではない。
 が、現に目の前にそれはいた。
 現実は非情である。

「で? 糞忙しい私をわざわざ呼び寄せるだけの理由があるんだろうな?え? まさかとは思うがこのアホ面を並べ立てた馬鹿どもを先に通したいとかぬかすんじゃなかろうな」
「大雑把に申し上げれば、そうです」
「なんとこいつは驚いた! おいボルテッカ、軍団兵は一体いつからここまで質が落ちたんだ? 大雑把にしろ詳細にしろ、この不届きな馬鹿者共を通らせるという事には変りないだろ、ここを、この野営地を、この私の野営地をだ! お前には失望したぞ伍長、お前の受けた命令は何だ? ここで、この場所で、この私の目の前で復唱してみせろ」
「ハッ! 街道を封鎖せよであります!」
「なら……」

 ガミジンは伍長の襟首を引っ掴むと無理やり自分の視線に合わせるように引っ張り下げた。

「なぁんでコイツらを通す理由がある? ああ? 一欠片もない。だろうが! それと、人と話す時は目線を合わせろと兵学校で教わらなかったのかっ」
「んなむちゃな……」

 思わずカオルがそう呟くと、凄まじい眼光でガミジンがカオルを睨みつけた。
 中性的で整った顔であるだけに、怒りの顔も迫力がある――などということはなく、どう控えめに表現しても小さな子供が癇癪を起こしているようにしか見えなかった。
 ちなみにガミジンの後ろでボルテッカはうんうんと頷いている。
 当然、彼にとって「目線を合わせる」など難しい事この上ない注文であろうことは容易に想像ができた。
 ――特に、平均以下の身長しかない隣の上官相手には。

「聞こえてるぞ! てめぇ……首切って馬糞でも流し込んでやろうか、ああん?」
「ちゅ、中尉……彼女は病人なのです……どうかお手柔らかに」
「病人?」

 伍長がこちらに背を向けて腰を屈めると、中尉の耳元でこそこそと話し始める。
 最初は胡散臭げな顔をしていたガミジンだったが、伍長の語り調が徐々に他人事とは思えない真剣味を帯びるに連れ、中尉の顔にも同情と気まずさが満ちてくる。とうとう伍長が涙混じりに語り始めるに至り、ガミジンは「おお神よ」と天を仰いでから伍長を慰めてハンカチを差し出した。

「分かった、済まなかったな。とりあえず下がっていろ」
「了解しました……」

 ガミジンがこちらの方に歩いてくると、カッサシオンは自然と背筋を伸ばした。

「さて……大詰めだ……」

 マーチがそう呟いて、緊張で少し強張った顔をしたまま前方のカッサシオンと小さなエルフを見つめた。
 この対話が今後の進退に大きく関わってくるのは疑いようのない事実である。






――――――――――――――――
休みとれたから久しぶりに早めの更新。


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