世間的に見ればほんの些細な事が、当人にしてみれば大事件で。
当人にしてみれば些細な事が、世間的には大事件で。
今回は、そんな日常の一幕である。
荒れ果てた世界に転生(う)まれたけど、私は元気です EX01話
『短編集なんだよね わん』
【ハンターオフィスに行こう】
とある日、愛犬のハスキーと共に不意討ちをやらかしてきたキャノンホッパーを昇天させたアルトは。
ふと、ソレが今週のターゲットであった事を思い出し。BSコントローラという便利な代物持ってない為…。
「たーのもー」
キャノンホッパーの残骸を手に、ハスキー君と共にハンターオフィスにやってきた。
なお、一応認められている形式である事を補足しておく。
たまに顔を会わすくらいの、そんな顔見知りな受付の胸が妬ましい受付の女性に。
アルトは満面の笑みを浮かべ、持ってきた残骸を見せる。
受付はソレを一瞥し、爽やかな営業スマイルでハンター達に見せる為の画面を手で指し示す。
そこに映っていたのは、とても簡素で分かり易い内容。
『今週のターゲット、キャノンホッパー は終了しました』
『今週のターゲットは 一発屋 です。皆さん奮って退治しちゃってください』
落胆して肩を落とし、しょんぼりするアルト。キューン、と慰めるように一鳴きするハスキー君。
賞金稼ぎを狩る気なんてゼロだから、とこまめに顔を出す事をサボりがちな少女が良くやるポカであった。
【妖怪ギリースーツ 爆誕】
肩を落とし溜息を吐いて気分を入れ替え。
ふと、遠目に見ても気になるデザインのモンスターが記載されている手配書に気付き。小走り気味にソレを見に向かう。
そこに、スケッチで描かれていたモンスターは…。
「………なにこれ?」
全身に葉っぱを隙間無くくっつけた、モサモサっとした格好の人型っぽい何かが。狙撃ライフルを森の中で構えているデザイン。
更に名前が特徴的であった、その名も『妖怪ギリースーツ』。
「お、アルトが来るなんて珍しいな」
「あ、バズさん。…ちょっとキャノンホッパー倒したので賞金もらおうと思いまして」
「……そうか」
それだけで全てを察したのか、優しく少女の肩を武骨な手で叩き。慰める。
しばらく慰められる事数十秒、微妙な空気を振り払うべく少女は本来の話題に戻る。
「…で、この妖怪ギリースーツって。何なんです?」
齢14歳のアルト、この姿でこの世界に生を受ける前に。平たく言うと前世で見た覚えがあるソレを指差す。
少女は思う、なんなんだよ。せめて万博で見た覚えのあるフサフサした樹木っぽい何かのでっかい方だろう、と。
「なんでも、森の中でヒッソリと過ごしているらしい」
「めっちゃ無害じゃないですか」
「ただ、ステンバーイステンバーイ…と。まるで何かタイミングを測ってるような囁きが不気味がられてるとかなんとか」
「あー…」
そういえば、元ネタとなったゲームでそんな事言ってたよなぁ。などと呑気に考えて思わず天井を見上げる。
転生してきたこの世界の、色んな意味での広さを再認識した瞬間であった。
【とある日の騾馬亭】
現在、アルトが身に纏い。給仕を行っているウェイトレス服。
基本的にこの衣装がスタンダードであるが、ごく稀に違う衣装を着ている事がある。
ソレはもしかすると無口で無愛想なマスターの趣味かもしれないし、一部常連の熱烈なるリクエストによるものかもしれない。
だがしかし、取りあえず一つだけ確実に言える事があるとするならば。
大体のケースにおいて、最も被害を被るのはほとんどアルトである。
コレは、そんなとある日の一幕。
ベテランハンターの、スキンヘッドが眩しいディック。
彼が一日の疲れとストレスをぶっ飛ばすべく、アルコールと美味いものを求めて騾馬亭に入った瞬間の事であった。
「いらっしゃいませー」
「…っ!?」
いつもの微妙に立て付けの悪い扉を開けた男の前に居たのは、黒を基調としたドレスの上に。前掛けのようなエプロンのついた。
各所にヒラヒラとしたレースがついた衣装。平たく言うとメイド服に身を包んだアルトであった、頭にはヘッドドレスも完備。
「……何してんだ? 嬢ちゃん」
「……聞かないで下さい」
思わず尋ねるスキンヘッド、深くは聞いてくれるなとサメザメと泣くアルト。
何故か周囲の酔っ払いから飛ぶブーイング、ディックは思う。いや俺は絶対悪くない、と。
「……わかった、とりあえずハンバーグとぶっとびハイ頼む」
「かしこまりましたー」
注文に返事を返し、メモを取って。メイド服に身を包んだ少女は喧騒に包まれた酒場の中をこまごまと動き回る。
ふとなんとなく隣のテーブルに座る、アルトの動きを目で追う男達に視線を向けるディック。
その内の1人がディックの視線に気付き、目が合うと…良い笑顔でサムズアップを送ってくる。
いや違う俺はトキメいてないから、お前らみたいな幼女趣味と一緒にするな。と叫びたい心をこらえ、目を逸らす。
「お待たせしましたー、ぬめいもハンバーグとぶっとびハイですー」
「あ、ああ」
いつもの、言ってみればいつものヒラヒラした服がメイド服に変わっただけの少女が気が付けば注文の品を持ってきており。
硬派で武骨を売りにしていたはずの、スキンヘッドのソルジャーは歯切れの悪い返事を返すのみ。
彼はいまだ気付いていなかった。
その居心地の悪い、胸のざわめきが…己のメイド萌えの始まりである事を。
(おしまい)
【あとがき】
本編がハードな展開が続いてるので、ついうっかり浮かんだネタをつらつらと書いた短編集を掲載してみました。
でも、大体においてアルトが酷い目に遭います。なぜなら主人公ですから。
不定期に、ごくまれにこんな感じのしょうもない日常短編集が入ると思いますが。今後ともよろしくお願いします。