やれやれ、本当にありったけ食ってったねあの坊主共は……。
まぁ、良いくいっぷり見れたし良しと……おや、どうしたんだいハスキー?
……手紙? あの人から? どれどれ……。
……なんだい、あのメカニック坊が母親に全力で止められたって愚痴ってたけども。
『出来る限りの助けになってあげてほしい』とか、あの人も母親になったんだねぇ……。
で、ハスキー。アンタは目付け役と護衛ってところかい? ……ああ、やっぱり。
過保護なのも考えモノだよねぇ、そうは思わないかい?
……おや? 客かい?
悪いねぇ、もう食材が片っ端から食い尽くされちゃって今日は店じまいさ、明日来ておくれ。
……え? 客じゃなくてマッドから預かってきた代物受け取りにきた?
アンタ、あいつの娘って割りにはでかいが……ああ、弟子かい。
見たところ、ナースの心得があるソルジャー……いや。レスラーかい。
まったく、いずれ必要になるだろうから仕上げておいてくれとは言われてたけどねぇ……。
まさか、アイツの弟子が受け取りにくるなんて夢にも思わなかったよ。
ちょいと待ってな、今からとってくるから適当にかけといてくんな。
……ん? なんでメカニック坊についてた犬がここにいるかって?
……なんだいアンタら、チーム組んでるのかい。さっきまでここでたらふく飯食ってたとこだよ。
……あー、食べ物の恨みってヤツ晴らすのは構わないけども。殺さない程度にしてやってくんな。
荒れ果てた世界に転生(う)まれたけど(略 第二部 最終話
『語り継がれてゆく事』 後編
重い空気が未だ晴れない酒場の中、バズが周囲を見回す。
この酒場に来た当初は確かにいたはずの、とある青年が居ないことに気付いた彼は口を開く。
「そういえば、カールはどこにいるんだ?」
ベテランハンターのその言葉に、ターニャはどこか愉快げに笑みを浮かべる。
状況も事情もわかっていないバズにそれだけで理解できる道理はないが…。
来る途中も、青年がとある少女を非常に気にかけていたことを思い出し。
「もしかして……アルトのところか?」
「その通りさ、ちょっとあの坊にも事情あってねぇ。アイツとはこの町でお別れになるのさ」
寂しくなるさね、とバリバリソーダをターニャは喉へ流し込み。
唇を湿らせて、続きを話し出す。
「カール坊は元々ここからだいぶ南に行ったところにある、ポブレ・オプレってところ出身なのさ」
「ソレと今の状況が、俺にはいまいち繋がらんのだが……」
もったいぶったターニャの言い回しに、後ろ頭をぼりぼりと掻くバズ。
そんな男の様子に苦笑を浮かべ、そう話を急ぎなさんな。とターニャは呟き。
「あの坊はその町の責任者の一人息子、行ってみればボンボンでね……付き合いの深いアタシらが修行もかねて面倒見てたのさ」
「……ああ、そう言う事か」
ようやく話の流れを理解し、バズはぽんと手を打ち。
さらに首をひねり、もしや……と言葉を口にする。
「……別れを一足先に伝えに言っているのか? あのすっとこどっこいのカールが」
「アンタも大概酷い評価してるねぇ、まぁその通りなんだが」
ぐぃっと酒を呷りながら肯定するターニャ。
そして。
上階から少女……アルトが仰天したような声が響いてくる。
「おやおや、カール坊もしかして言っちゃったのかねぇ」
「……何をだ?」
アルトの声に驚き天井を見上げていたバズが、頭にハテナを浮かべながら聞き返す。
それに対してターニャは。
「今生の別れになるかもしれない、惚れた女に対して男が言う事なんてひとつだろ?」
ニヤァ、とまるで他人の恋路を安全圏で眺める性悪婆さんのような笑みを浮かべた。
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そして、今まさに話題の渦中となっているアルトとカールはと言えば。
「じ、実家って…………あ、りょ、旅行ですよね!」
「いいえ、アルトさんが了承して頂けるのならば結婚相手として両親に紹介しようかと」
「こ、こんな貧相でちんちくりんなのお断りされますよ!?」
「問題ありません、旅先で家族を持つことについては出る前に両親から許可されてました」
混乱のさなかにいた、主にアルトが。
カールも爆弾発言した当初はかなり混乱していたが、それ以上に混乱している少女が扉の向こうにいるおかげか。
そこそこ、いつものペースを取り戻している。
「ぐ、ぐいぐい押してくるね君も!」
「ここで言わないと、もう機会もなさそうですし……それに」
思わず、プライベートのときのような丁寧語を外すほどにテンパりながら扉の向こうのカールへ言い返すアルト。
そう言葉を投げかけられれば、涼しい声でカールは受け流し……。
「陳腐な話ですが、先の件でアルトさんへの気持ちも再認識したもので」
「恥ずかしい事を言うね君も!」
ふかー!と叫ぶアルト。
「……今この場所ですぐに返事を下さいとは、私も言いません」
けども、前向きな返事がもらえると嬉しいです。
そう言い残し、扉の向こうの青年は部屋の前から立ち去っていった。
そんな言葉を投げかけられたアルトはと言えば。
「ぅー、わー、ぅー」
ぎゅぅ、と隣に寄り添っていた愛犬を全力で抱きしめ部屋の中を転がる。
ハスキーが簡単に抵抗できる程度の力であったが、主人が望むことだからか愛犬も飼い主と一緒に素直に転がっていた。
「どうしようハスキーくん、どうしよう。顔が凄い熱くてドキドキする」
「わぅー」
どうしようどうしよう、とうわ言のように呟く少女。
愛犬は、知らんがなと言わんばかりにやる気なさげに一声鳴いた。
「こ、これアレだよね。プロポーズだよね、実はドッキリとかないよね!」
ぴゃーー、とか奇怪な声を漏らしながら愛犬を抱きしめる少女。
そんな飼い主に対してハスキーは。
「わぅ」
「はう」
ぺし、と軽く前足で主人の額をはたいた。
「……ごめん、ハスキーくん。凄い取り乱した」
「わぉん」
割と痛かったのか涙目で額を手で摩りながら、愛犬に少女は詫び。
ハスキーは、いいって事よ。とばかりに一声力強く鳴いた。
「……とりあえず、うん……外に出るのは怖いけど。でも」
みんなに、相談しないと。と呟いて少女は立ち上がり。
部屋の中にある、ここ最近良く使うようになった鏡を見て自分の顔を見る。
「あはは……自分の顔だけど、酷い顔してるなぁ……」
鏡にうつるその顔は、目の下にクマが浮かび髪の毛はぼさぼさで。
とてもじゃないけど、人様の前に出れる顔じゃなく。
「……え、ええと……」
櫛で髪を整え、ターニャはメイに手解きされた化粧をし始める。
この時アルトは気付いていなかったのだが……
そのときの化粧は、いつもの適当な化粧よりも何割か気合が入った仕上がりとなった。
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そして、瞬く間に日は過ぎ去り。
引継ぎの全てを終え、アサノ=ガワの町を旅立ったアルトは……。
「……怖いのなら、トラックの荷台の中にいても良いのでは?」
「だ、大丈夫。それになんとか直さないといけないから……」
カールが運転する大型トラックの、助手席に座っていた。
少女は迫る期日の間考え、考え鏡にうつった自らを見てようやく自覚したのだ。
青年の前にたつ時は、普段よりも自らに女を意識していたという事実に。
「そうですか」
「そうなのだよ」
Cユニットの補助を受けながら危なげなくハンドルを操りながらカールは少女の言葉に相槌をうち。
どこかやさしさを含んだ青年の言葉に、柔らかい笑みを浮かべて少女は応える。
『あー、ご両人ー仲良くしてるとこ悪いッスけども。 ちょっくら大物が先方にいるんで潰してくるッス』
「了解しました、ボーナス弾みますね」
『ソレは有難いッス。 愛する嫁と生まれたばかりのウルフのためにも、稼ぐッスよー!』
先行してルートを走っていた、下っ端口調のハンターからの通信を受けカールは応答し。
その発言をきいてやる気を多めに出したのか、真紅の装甲を持つ重戦車……レッドウルフが速度を上げはじめる。
『ちょ、お、おま! バカ野郎!急に加速すんなぁ!!』
『すまんッス』
その上にのん気に座ってた、スキンヘッドのソルジャーが落ちそうになったのは。
きっと些細な事なのだろう。
「ふふ……ディックさんも、頑張ってください」
『おうよ任せとけ! しかし、アルトちゃんが人妻になるとはなぁ…」
「ひ、人妻って…!」
通信機のむこうから響く逞しい声が、しみじみと感慨深く呟き。
その言葉に、アルトは顔を真っ赤にする。
やがてレッドウルフとソルジャーが向かった先から戦闘音が響き始め。
少女とカール、それと荷台で丸まって寝ているハスキーを乗せた大型トラックは巻き込まれることを防ぐため停止する。
「……大丈夫ですか?」
「……うん、大丈夫」
時折響く砲撃音に身を震わせるも、こくりとうなずくアルト。
そして、少女は口を開く。
「カールさん……ボクね。色々語り継いでいこうと思う」
砲撃音が響く方から目をそらさないまま、ポツポツとアルトは語り始め。
運転席に座る青年は、ただ頷き。少女の言葉の先を促す。
「生きてきて怖かったこと、楽しかったこと、嬉しかったこと、そして……」
散っていった人達のこと、と少女は呟く。
その少女の言葉に青年は。
ただ、何も言わずに肩を抱き寄せた。
「……ほとんど忘れちゃったけど、今回の黒幕のことも……」
「……ノア、ですか」
「……うん」
もしかすると、もっと早く思い出し対策を打ってれば悲劇を防げたかもしれない存在。
その事を思い出せなかった事もまた、少女にとって枷となっており。
青年の想いに応える時に、詰られる事を覚悟でアルトはカールに打ち明けていた。
そして、青年は。
「……惚れた女の荷物も担げないで何が男ですか、トレーダーってのはね。担いだ荷物は死んでも守る生物なんですよ」
あの時、少女に返した時とまったく同じ言葉をアルトへ告げた。
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「ふぃー、楽勝ッスね」
「そりゃなぁ、お前さんももはや重鎮ハンタークラスだし」
自慢の真紅の重戦車で目標を吹き飛ばし、ボーナス確定となったハンターはのんきにため息を吐き。
スキンヘッドのソルジャーはといえば、欠伸しながらのん気に応える。
「いやー、照れるッスよ」
「ま、調子にのらないようにだけしろよ。なんかお前ヒョッコリ死にそうだし」
「ひでぇっす!」
げらげら笑いあう二人、しかし周囲への警戒は解くことなく。
依頼人である護衛目標の下へ行こうとして…。
『こちらマッド、しばらくその場で待機せよ』
「了解……て、なんでッスか?」
トラックの護衛兼医者役としてついてきていたマッドからの通信で動きを止める。
そして、ハンターの怪訝な声に対してマッドは含み笑いをしながら応答する。
『簡単な話だ、キスシーンの時にもどって気まずい思いはしたくないだろう?』
【あとがき】
まずは、この話を読んでいただき応援していただいたこと。
その事について、改めて深く感謝を申し上げたいと思います。
そして、実はこの結末はある程度最初から決めてはいました。
ただ、自分の力量不足で心情の描写とかを練りこめなかったこと。
そして、付かず離れずのToLoveる的展開を盛り込めなかったこと。
そこだけが、後悔が残る状態でもあります。
しかし、そのあたりをやるだけやってたらいつまでたっても終わりそうになく。
また更新停止しかねない自分がいたので……甘えではありますが、ここでひとつの区切りとさせて頂きました。
何度も更新停止した作品を、ここまで応援していただき、誠に、誠にありがとうございました。
次何か書くとしたら、番外編で息子編か人妻編を書くかもしれません。
もしくは、艦これとメタルマックスのクロスか……予定は未定です。