ほい、鉄砲モツ煮込みお待たせ。アツアツだから注意しな。
そいつはこの店を開いた人からの直伝でね、この店の中でも人気のあるヤツだよ。
ところでお客さんの仲間連中は何してるんだい?
…ああなるほど、メカニックはパーツ探しに夢中でソルジャーは宿で寝てるのか。
そりゃ確かにアンタがしっかり情報集めないとしんどそうだね…同情するよ、サービスはしないけど。
で、どこまで話したっけ…ああそうそう、ロドリゲスとバルデスが分かれた辺りだったか。
結論から言うとね、あの二人はね…。
生きて帰ってくることは、出来なかったよ。
荒れ果てた世界に転生(う)まれたけど(略 第二部 7話
『鋼鉄の鎮魂歌』
「装甲タイルが丸剥げになったヤツは急いで下がれ! 一瞬で穴だらけにされっぞぉ!」
小太りのソルジャー、ロドリゲスが肩に担いだヘンテコなミサイルを構え自走砲の群に発射。
まとめてソレらを吹き飛ばしながら声を張り上げ、周囲のハンター達に指示を出す。
「大丈夫だ! こっちはまだ耐えられ…ぐわぁぁぁ!」
装甲が薄くなった仲間達への攻撃を、前線に突出する事で引き受けていたチャレンジャー1のハンターが踏み止まりながら応戦し。
次の瞬間、脆くなった上部装甲を間接砲撃が貫通。断末魔の叫びと共に爆散する。
「ケイィィン!? …クソッタレがぁ!!」
「チクショウ! こんなんじゃタイル張りに戻る余裕すらねぇよ!」
「良い稼ぎ場所だって話だったってのに、どうしてこうなった!」
次々と倒れ、爆散してゆく仲間達の姿に泣き声のような悲鳴と怒号が上がる。
だがハンター達は我先にと逃げるような真似は見せる事なく、迫り来る自走戦車郡に砲弾やSEを砲身を赤熱させながら発射し。
今も空を漂う偵察UFOへ機銃を叩き込み続ける。
過酷な環境を生き抜いてきた、ベテランと呼ばれる戦士達は口で泣き言を言いながらも理解していた。
ここで背を向けて逃げれば、追い立てられ確実に殺されると。
「歌の1つも歌いたくなるが…そんな場合じゃねぇなこりゃ」
ボヤきながらギターガンで偵察UFOを次々と撃ち落し、煙と炎を上げるチャレンジャー1の残骸に隠れて砲弾をやり過ごしながらミサイルを再装填。
すぐに残骸から飛び出し照準が僅かに『逸れた』間接砲撃の爆風を回避しながら、ミサイルを熱線を発射しようとしていた自走砲へ発射。撃破する。
中央テントから全速力でやってきた伝令がもたらした、『偵察UFOを撃破する事で間接砲撃の照準が甘くなる』という情報は。
踏み止まり終わりなき戦いを続けるハンター達の寿命を、僅かかもしれないが延ばす事に貢献していた。
しかし、それでも尚敵の数は多く攻勢は熾烈。
奇跡的にも士気は高いままであったが、状況は依然絶望的であった。
「頼むぜバルデスの兄貴、こっちはそう長くはもたねぇぞ」
ぼそりと、砲弾の着弾音に掻き消えるほどに小さい声で。
ロドリゲスは呟いた。
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ロドリゲス達が死闘を続けていたその時。
今も終わりなき砲撃を叩き込んでくる存在へ向けて突き進む、バルデス率いる決死隊もまた絶望的な戦況に立たされていた。
シャシーを徹甲弾で撃ち抜かれ自走できなくなったバルカンが。
不幸にも砲撃が運転席を直撃したバギーが。
腹を括り敵の一団に特攻し、弾薬全てを起爆させて自爆したチェンタウロが。
時には泣き叫びながら、時には断末魔を上げる事なく、時には不敵に笑みを浮かべながら。
1台でも、1人でも多く到達させ砲撃を止める為に散ってゆく。
彼らをそこまで駆り立てるモノ。
ソレは報酬であったり、惚れた女が逃げる時間を作る為であったり、殺された仲間の仇討ちであったり。
人によってソレは異なっていたが、しかし目的は共通していた。
その目的とは…。
『砲撃を続けるクソ野郎を月まで吹っ飛ばしてやる』という、とてもシンプルな物であった。
そして、そのシンプルだが鋼鉄のごとき意志は。
「デカブツが射程距離に入ったぞぉ!」
冗談ほどに巨大な、要塞と見紛う程の戦車。
後に『ロンメルゴースト』と名付けられ、16万Gという莫大な賞金が掛けられる化け物戦車へと戦士達を到達させた。
「借りを…叩き返してやるぞ!」
物静かなバルデスらしくない、雄叫びのごとき叫び声を切欠に。
全車両が一斉に、持てる全火力を化け物戦車へと叩き付け…一斉に着弾、派手な爆炎が上がる。
「ヒィーハァー! 見たか化け物ヤロウ!」
「気ぃ抜くな! ヤツはまだ生きてるぞ!」
お返しとばかりに化け物戦車の小型砲塔からハンター達へ雨霰と砲弾が撃ちこまれ。
横転しそうになりながらドリフトし散開する軽車両達。
「踏み潰されない程度にヤツに接近しろ、お供の砲撃も一緒に食らわせてやれ!」
軽トラの荷台に乗ったバルデスが大声を張り上げながら。
化け物戦車の小型砲塔の砲身めがけて重機関銃で連射しながら狙撃するという、化け物じみた離れ技を見せる。
「了解…おらぁ!」
プラズマタンクの注意を引き付けていたハンビーがクイックターン。
その動作の直後にプラズマタンクの砲身から放たれた閃光が、化け物戦車の巨大なキャタピラへ傷を付ける。
「へへ! ざまぁみやがれぇ!」
中指を突き立て哄笑するハンター。
その間も油断する事なくハンドルを操作し、最後のミサイルを発射。
化け物戦車に更にダメージを与える。
次々と砲弾を、ミサイルを、熱線を化け物戦車へぶつけダメージを蓄積させてゆくハンター達。
与えられるダメージはそれほど大きくないが、しかしそれでもダメージは確かに蓄積していき…ハンター達にも希望が見え始めてきた。
しかし。
「ぐぁぁぁ?!」
次々と砲撃を撃ちこまれ爆散するハンビー。
散発的に追い払うようにバラバラに攻撃していた小型砲塔郡が1つのターゲットへの集中攻撃を。
間接砲撃を続けていた巨大砲塔がバルデス達に向けられた時。
希望はあっけなく吹き飛び、絶望へと転がり落ちていく。
到達したときは10台以上いたクルマ達が1台、また1台とスクラップへ変えられ。
瞬く間に、バルデスが荷台に乗る軽トラ1台にまで磨り減らされてしまう。
「…ここまで、か」
浴びせられる砲弾の欠片、自走砲台からの熱線によって傷付き。回復ドリンクもカプセルも尽きたバルデスが呟く。
しかしその目に絶望はなく。
「…あのデカブツに出来る限り寄せられるか?」
「何するつもり…いいや、ここまできたら関係ねぇな! ピタァっと寄せてやるよ!」
今も回避運動の為にハンドルを捌き続ける軽トラの主に問いかけ。
問いかけの意図を聞き返そうとするが、ヤケクソ気味に笑いながら答える。
「…助かる」
「いいってことよ!」
砂塵を巻き上げ、蛇行をしながら化け物戦車へ向かう軽トラ。
当然ソレを見逃すワケはなく、小型砲塔から次々と榴弾や徹甲弾が放たれ…回避しきれない砲弾が次々と軽トラの装甲を穿ち、シャシーを歪めてゆく。
そして。
横合いから撃ち込まれた砲弾が軽トラの運転席を撃ち抜くと同時に、化け物戦車へと到達。
躊躇なくバルデスは荷台から化け物戦車へと乗り移り…砲撃の衝撃で横転し、巨大なキャタピラに踏み潰される軽トラとその主へ無言の感謝の念を送る。
「…付き合ってもらうぞ、地獄までな」
傷だらけの肉体に、今までの戦いの中でも最も気力を滾らせて。
バルデスは単身、化け物戦車へと挑んだ。
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バルデスが決死の戦いを挑んだ、同時刻。
防衛組もまた、壊滅を迎えていた。
「さーてっとぉ…生きてるヤツは……いねぇよなぁ」
口元から血を流しながらおどけた口調で周囲を見回すロドリゲス。
気が付けば砲撃が止んでいた、しかし。
その事を喜び合える戦友は、既に居なかった。
「たくよぉ、装甲タイルはげたらすぐ下がれって俺ぁ言ってたじゃねぇか」
腹に金属片がめり込み内臓を傷つけ、血を流す肉体。
それでも尚ロドリゲスは2本の足で立ち、仲間が残した銃を拾い使いながら迫り来るモンスター達を迎撃していた。
「あの嬢ちゃんは無事逃げれたかね…まぁ、マッドが居るから大丈夫だろうけどよ」
荒れた世界に似つかわしくないほどに呑気で朗らかな、料理のやたら上手い少女を思い浮かべながら1人ごちる。
そして。
「さぁて、最期になりそうだからな…一曲歌わせてもらうぜ? 聞いちゃいねぇだろうけどよ」
バズーカを発射し自走砲台をまた1台撃破し、愛用のギターガンを構える。
「オレは早撃ち ガンマンさ~♪」
ギターガンを掃射し装甲の薄いバイオニックを撃ち落し。
「モンスター蹴散らし 西、東ぃ~♪」
最後のへんてこなミサイルを発射、熱線を発射する自走砲台を撃破。
そして、続けての歌詞を口ずさもうと息を吸い込み。
一際大きく咳き込み吐血、モンスターの群の目の前で膝を付くロドリゲス。
そんなロドリゲスに、情け容赦なくモンスター達の銃口が向けられる。
「ああちきしょう、最後まで歌わせろよな…クソッタレ」
そして。
小太りの凄腕ソルジャーは、砂漠の補給キャンプで。
モンスター達の放火の中に消えた。
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───抵抗戦力ノ沈黙ヲ確認
───損害診断……甚大
───『マスターノア』ヘ指令継続困難ト報告
───『マスターノア』ヨリ指令
───指揮ユニット撤退承認
───随行ユニットヲ殲滅目標ノ追撃ニ割リ当テ
───ミッションタスク 人類殲滅ヲ継続
【あとがき】
すまない、また。なんだ。
こんな不定期連載だけど、頑張って完結まで走ります。
ロドリゲスとバルデスログアウト、しかしバルデスはロンメルさんに単独で多大な被害を与え。
ロドリゲスと愉快な仲間達も、非戦闘員や負傷者が逃げる時間をかなり稼ぐ事に成功しました。
果たして脱出組が生き残れるかどうか、結末は2-08をお楽しみにお待ち下さい。
そして、この作品を読んでる人にMIXIのメタルサーガやってる人いたら聞いてみたい。
悪名高いナインテイルの為にくじを100回回した作者はアホかどうか…いや、うん。解ってるんだ、アホだって。
結果? ナインテイルは幻だったんじゃよ。