警備システムが、全自動の殺戮兵器が人類に対して反乱を開始した時。
『とある演算コンピュータ』とネットワークが繋がっていたパソコンやスパコンも、例外には含まれなかった。
それらのシステム達は効率の良い人類の減らし方を演算し、中には隔壁の制御を行い施設から逃げ出そうとする人類をすりつぶすコンピュータまで存在した。
そのまま、為す術もなく駆逐されるのを待つばかり。誰もがそう思い始めた時。
事の元凶にいち早く気付いた一部の人間がソレに通じるネットワークを切断、元凶へ対する反攻計画を立ち上げる。
その反攻計画は結果から言えば間に合わず、作られた兵器は眠りにつくか…人類の敵となったが。
それでも、一部のコンピュータネットワークは人類の手へ取り戻す事に成功し。
今の荒れ果てた時代を生きようと足掻く人類の大きな助けとなっている。
しかし…ネットワークの全てが人類の手に取り戻されたわけではなかった。
荒れ果てた世界に転生(う)まれたけど(略 第二部 5話
『迫り来る絶望』
アルトの出張契約が残り1日に差し掛かった日の早朝。
常日頃慌しい空気に包まれていたキャンプであったが、普段と違う緊迫した空気が張り詰めていた。
「まだボックス達は戻ってないのかい?」
「はい、彼ら以外の北側に向かっていた偵察連中は遅くても夜明け前には戻ってきたのですが」
「…そうかい」
キャンプ内中央に位置するテント。
その中で、机に広げられた地図を前に現場責任者であるターニャと若いトレーダーが偵察部隊状況について話し合う。
「…強力なモンスター達は北側から流れてきてる、って話だったね?」
「はい、強力な熱線を放つ自走砲やレーザーを撃ち込んで来る車輌まで確認されてます。恐らく彼らは…」
若いトレーダーは、言外に未帰還の偵察部隊の生存は絶望的だとターニャへ伝え。
ターニャは引き際を弁え、実力も備わっていたハンター達の損失にこめかみを押さえる。
「帰ってこれなかった原因くらいは掴みたいもんだね、他の所の偵察部隊に余裕はあるかい?」
「あまりあるとは言えないですね、北東の林の中に動力が生きてる建物も見つかったようで」
「そうかい…」
報告された内容にターニャは溜息を吐く。
動力が生きている建物、それはトレーダーにとって宝の山であり…ハンター達にとっても同様であって。
まだこちらでハンター達の動きを把握できている内に抑え、中身をこちらの利益としてしまいたいという考えがターニャの商売欲を擽る。
しかし、同時にこれまで彼女と仲間達を長生きさせてきた感が『偵察部隊が帰ってこなかった原因を探れ』と警鐘を鳴らす。
そのような状態ですぐに結論が出ることはなく、どうしたものかと思案しようとしたその時。
一発の銃声が響いた。
その銃声は、屋外の広場で朝食の準備をしていたアルトとその横で寝そべるハスキーの耳にも届き。
銃声の方向をちら、と見やりそのまま鍋をお玉へかき回し続ける。
少女の視線の先には、キャンプ周囲に点在する見張り台の内の一つがあり。
その上に立つソルジャーが、円盤のようなフワフワと空中を漂う何かを銃撃していた。
「いつもの空飛ぶハイエナじゃないんだねー」
光景を見やりながら、暢気に愛犬へと声をかけるアルト。
着任当初は銃声が鳴るたびにおっかなびっくりしていた少女も、気が付けば夜中に銃声がなってもそのまま二度寝出来るくらいに慣れていた。
普段と違う、という違和感。
ソレが、傍らで寝そべっていた大型犬の本能に引っかかり警鐘を鳴らす。
「わぅっ、わぅわぅ!」
「? そんなに慌てて、どうしたのさ?」
身を起こし、違和感を主人へと訴えるハスキー。
少女は鍋を掻きまわしていた手を止め、ただならぬ様子の愛犬へと振り向き…。
そのまま大型犬は少女の服の裾を口で咥えると、少女を引っ張り始める。
「ちょ、ちょっとハスキー君。朝ごはんの用意の途中なんだけど!」
お玉を持ったまま愛犬に引きずられ、引っ張られていく少女。
そして、広場から寝泊りしているテントの傍まで為す術もなく引っ張られ。
その間制止し続けても止まらなかった、珍しく焦っている様子の愛犬を落ち着かせようと言葉を発しようとしたその時。
キャンプ中に、大きくサイレンの音が鳴り響く。
「…もしかして、コレを予期してたの?」
「わふ」
主人の言葉に、咥えてた裾を離しその通りだと言わんばかりに声を出すハスキー。
本能に従った結果である為予期したと言えなくもない。
その間もサイレンの音は続いており。
愛車へ向かって走り出すハンターや、装備を手に迎撃に向かうソルジャー達が見え始める。
たまにやってくる野良モンスターの迎撃に比べ妙に慌しい様子に、今まで楽観的に考えていた少女もさすがに緊迫した状況である事に気付き。
慌ててハスキーと共に戦闘準備を整えようとテントへ入ろうとする。
瞬間、1つ2つどころではきかない…機関銃のごとき砲撃音が聞こえた瞬間。。
北側に位置する見張り台の1つが、跡形も吹き飛ばされた。
・
・
・
・
一瞬で、上に立っていたソルジャーごと木っ端微塵となった見張り台。
当然…その衝撃は周囲に展開していたソルジャー達にも影響を及ぼしていた。
「…一体、今どこから撃たれたんだ!」
サイレンを聞きつけ北側に辿り着いた瞬間、砲撃による衝撃で地面に倒れ付す羽目になったバルデスが苛立ちと共に叫ぶ。
ここ最近判明した、北側のモンスターが危険という情報を踏まえ強化しておいた見張り台は。100mmどころか200mmの直撃でも数発は耐える見積もりを出されていた。
しかし彼の目の前に広がる無惨な現実は、その強靭だったはずの見張り台を『破壊』ではなく『吹き飛ばす』ほどの口径を持つ敵が複数いる事を告げていた。
「駄目だ! 車輌は一機も見えねぇ!」
頭から砂漠に突っ込む形で吹っ飛ばされていたロドリゲスが自らの頭を引っこ抜き、伏せた姿勢のまま目をこらすも巨大な砲を備えた敵影は見えず…。
ただ、早朝から何度か飛来してきている円盤状の何かが数機見えるだけであった。
「目視しない限り砲撃してこない連中が撃ってきてるというのか…!?」
実力は保証できる弟分の言葉に言いようのない恐怖を、バルデスは感じてしまい。
自らが『恐怖』した、という事実に驚愕し。次に強い怒りを覚える。
「おいおい、インキチすぎるぜそんなの…って鬱陶しいなこいつら!」
バルデスの苛立ちに気付く事なく、ロドリゲスは兄貴分の言葉にやってられるかとばかりに呻き。
自分達の頭上をふよふよと漂う円盤をギターガンで次々と撃ち落す。
「おい!動けるやつはドリンク飲んで立て直して来い! 動けねぇヤツは担いでってやる!」
砲撃で吹き飛ばされた他のソルジャーに声をかけながらリロードをロドリゲスは行い。
バルデスは未だ姿を見せない敵に苛立ちを募らせながら、半死半生の同僚の口に封を開けたドリンクをねじ込む。
そして、ようやくクルマに乗ったハンター達が北側口へと到着。
しかし。
「…クソッタレが」
「なんだよ、アレ……」
崩壊した見張り台の先に広がる砂漠に見える光景に、バルデスは小さく呻くように呟き。
その光景を目の当たりにした、若いソルジャーが顔を青くする。
そこには…北の地平線から砂煙を巻き上げ大量の無人車輌の群れ。
そしてそれらのその奥には、目を疑うほどに巨大なシルエットを持つ。謎の巨大戦車が見えていた。
【あとがき】
穏やかタイム終了のお知らせ。
何故目視されていないのに砲撃されたか…既にお気づきの方もいらっしゃると思います。
ですが、まだ人間サイドはそれに気付いていません。
果たしてこの事が後にどう響くか…次回をお楽しみに。
しかし、書いては消して書いては消してとしていたら段々とコレでいいのか心配になってくるから困ります。
ともあれ、第二部も佳境へ差し掛かり…最後まで駆け抜けれるよう努力したいと思いますのでこれからも宜しくお願いいたします。