大破壊を経てなお生き残った町並みを元に築かれた集落であった『アサノ=ガワ』
他の地域に比べて水源の汚染が軽く、周囲に凶悪なモンスターがうろつく事が稀なその集落は。やがて人が集まり町へと成長し。
やがてトレーダーや旅人が立ち寄るようになり、ハンターオフィスの支部も設けられ。
いつしかその町は、付近の軍事基地跡や。北上した地域にある湾岸倉庫跡等で稼ごうとするハンター達の拠点となっていた。
荒れ果てた世界に転生(う)まれたけど、私は元気です 03話
『ハンバーグは鉄板だよね』
町の中心部から少し離れた所にある酒場の、驚愕の騾馬亭。
いつも酒飲み客で賑わっている店だが、その日は少し様子が違っていた。
けして客がほとんど入っていないと言う事はなく、客の入りは順調である。
様子が違う点、ソレは。
「初めて食ったけど、うめぇなコレ」
「ああ、最高だ」
酒場に入れば、大体潰れるまでか日が沈むまで酒を呑みっぱなしの。普段ツマミを頼まない男達が言葉を交わしながらソレを口に運び咀嚼する。
男達の目の前にあるのは、両面がこんがりと焼き上げられ香ばしい匂いを放つ小判形の茶色い肉の塊。
有体に言えば、ハンバーグと呼ばれるモノであった。
「アルトちゃん、こっちにもぬめいもハンバーグ!」
「こっちにも2つ!」
「こっちは3つだ!」
「か、かしこまりましたぁ!」
両手にそれぞれお盆を持ち、注文を受けながらテーブルと厨房の間を行ったりきたりする少女こと。アルト。
その姿はいつもの皮のツナギではなく、普段到底着そうにないヒラヒラとした衣装に包まれており。
ハチマキのようにいつも頭に巻かれているバンダナもなく、長くたなびく髪も合わさってか…とても少女らしい外見となっていて。
たまに注がれる邪な視線に笑顔を引き攣らせながらせわしなく店内を動いている。
新メニューであるぬめいもハンバーグを、アルトが開発したのは些細な思いつきであった。
下拵えをしてなおぬめりが強く残るぬめぬめ細胞と、生食には向かないくせに焼くとパサパサしてしまういもいも細胞。
この2つを、ミンチにして混ぜてこねて焼いたら美味なんじゃないのか? と言う、とても単純な思いつき。
そして、その思い付きは幸運にも大成功。2つの食感が見事に融合し劣化ハンバーグ的な、しかし前世以来のハンバーグにアルトはありつく事ができた。
更にそこで、取引先である驚愕の騾馬亭にも新メニューとして提案。マスターの舌という試験も見事に合格しメニューとして採用。
ソレが、少女にとってある意味で地獄の幕開けでもあった。
「ハンバーグまだか?!」
「てめぇ5つも食ってるじゃねぇか、そろそろ控えとけよ!」
「…アルトちゃんって、こうやって見ると結構イケてるよな…」
「胸はねぇけどな…がふぅ!?」
「お、お盆が厨房から飛んできたぞ!?」
「メディック!メディィック!」
ある意味で、通常時よりも賑やかとなった驚愕の騾馬亭であった。
(Side:アルト)
最初は、本当に簡単な思いつきだったんだ。
たまに仕入れ依頼くるけど、微妙に不人気ないもいも細胞をそこそこ高く売れるようになったり。
更に新メニューが大当たりすれば…レシピ伝授の報酬だけじゃなく、追加報酬も期待できちゃうかなとかそんな感じの思いつきだったんだ。
そう思っていた時期が、ボクにもありました。
途中までは思惑通りトントンだったのに、『給料を出すからウェイトレスもやってみないか?』というマスターの囁きに頷いたのが運のつき。
果てしなく終わりの見えないウェイトレスとしての戦いを繰り広げる羽目となってしまいました。
…途中から、やらしい視線をチラホラ感じるようになったぞ。
「もうううぇいとれすしない」
あの後、時折休憩を挟むことができたものの。結局閉店までウェイトレスをする事となり。
精魂尽き果てたボクは、着替える気力もなくお店のカウンターに突っ伏していた。
「……客の評判は上々だったぞ」
あまり人を褒めないマスターの多分お褒めの言葉、違うんだ。違うんだよマスター、嬉しいといえば嬉しいけどソレは違うんだ。
そう返したいのに、返答する気力もない。
「……これからもウェイトレスを…いや。なんでもない」
不穏な事を口走ったマスターを、顔を起こし。顎をカウンターにつけたまま見上げる。
今のボクなら、視線だけでスナザメにも立ち向かえる。きっと。
「……今日の報酬だ。良い働きだったからな、色をつけておいたぞ」
マスターの言葉と共に、ボクの顔の横に報酬の入った袋が置かれる。
だけど、ボクがソレを受け取って。着替えて家に帰れるほどに気力が回復するのは暫く後だった。
(続く)
【あとがき】
頂いた感想にあった…
>主人公は素材獲りを生業にしているんだから,いっそDSの「メタルサーガ~鋼の季節~」で追加された料理人になるというのは。
そ れ だ。
と言う有難いネタと…「普段女っぽくない格好してる子が、ヒラヒラ服着させられるのっていいよね」と言う振って沸いた閃き的な電波で、3話が仕上がりました。
ちなみに、ぬめぬめといもいもの食感は捏造です。なんとなくそんな感じがしたのでソレっぽく書いてみました。
ほら、びっくりドン○ーにハンバーグがないのは嘘ですし。
次回あたり、わんこを出したいなと企んでいます。コーギーにするか、それともハスキーか…。
そして、主人公ことアルトの女っぽさですが。
今のところ、それほど描写していないのですけど。その辺りの匙加減について悩んでいたりもします。
お風呂描写とかセウトギリギリのセーフラインをいくべきか、今の当たり障りない範囲でいってみるべきか。