クライムカントリー北西に広がる広大な砂漠、の入り口に新しく興された町『サンタ・ポコ』
その町の入り口付近、人の出入りが最も激しい商売をするのに適した場所にその店は存在する。
朝は狩りへ出かけるハンターへの朝食と出先で食べる簡単な食事の販売。
夜は狩りから戻ってきたハンターの胃袋と舌を満足させる食事の提供。
二通りの営業方式で商売を行うその店は、食材買取及び下処理を行う提携トレーダーの協力もあり…。
未だ娯楽に乏しいこの町において、食という重要な娯楽を提供する大事な店であった。
そして、とある日の夜の事。
「店長ー! 亀シチューと血塗れトマト汁と鉄砲モツ煮込みと火炎ポークスープ、注文入りましたー!」
「見事なまでに汁尽くしだね!」
ピンク色、という独特な色の長い髪をツインテールでまとめている少女が厨房をめまぐるしく動く小柄な少女へ注文内容を伝え。
その注文内容にヤケクソ気味に突っ込みを入れながら…。
「カレンさん、まだ中身は大丈夫?」
「全部大丈夫だよ! だけどモツ煮込みはもう2人前くらいで終わりそうだね!」
弱火で煮込まれている大型寸胴鍋をオタマでかき回す、鍛え抜かれた小麦色に日焼けした体の右足が義足の女性へ問いかけ。
女性が中身を確認した上で少女へと返すと。
「了解、メイさんも留意しておいて! ゴネるお客さん居たらハスキーくん呼んでいいから!」
「了解ですー!」
メイ、と呼ばれた忙しそうに店内を駆け回るツインテールの少女へと若干物騒な事を告げ。
両手にお盆を持つ女性もその内容に突っ込みを入れる事なくひたすら職務へと励む。
その様子は…まさに、戦場であった。
荒れ果てた世界に転生(う)まれたけど(略 第二部 2話
『1人だと忙しいからと3人に増えても、やっぱり忙しいというお話』
最近まで少女1人で回されていた店に、新たに追加された女性2人。
2人ともアルトの料理にほれ込み弟子入りした、という事はなく。
店先、ないし店内に張り出されていたチラシを見て数分の簡単な面接のみで採用された従業員である。
その時のチラシの内容が…。
『未経験者でも歓迎、やる気のある人大歓迎。誰か雇われてくれないと明日にも潰れるかもしれません。 食事つき、時間応相談』
という辺り、その時少女がどれだけ切羽詰っていたか易に想像がつくであろう。
そもそも、何故今まであちこちの町で屋台をほぼ1人で切り盛りしてきた少女が泣き言にしか見えないチラシを張り出したかと言うと。
現在のサンタ・ポコの町が抱える娯楽の少なさと問題が根源に存在する。
通常の生活拠点を求めて入植してきた人々によって出来た町と違い、狩りと探索における最前線として興された町の為。
ハンター達の至高の贅沢商品であるインテリアショップや、夜の慰めの相手をしてくれる商売人が現状中々寄って来る事がなく。
あるとすればいくつか出来てきた酒場か、少女が営業する食堂くらいという状態なのである。
最も、少女の食堂が忙しい理由がまた。サンタ・ポコ周辺のモンスターから得られる食材によって確立された目新しく美味いメニューという辺り。
半分は少女の自業自得と言えるかもしれない。
ともあれ、そうやって新たな従業員を獲得する事をチラシを張り出してから雇用主ともいえるカールから事後承諾をもぎ取ったアルトであったが。
張り出してすぐに2人希望者が出た事は、そろそろ倒れるかもしれないと思い始めた少女にとって僥倖であった。
1人は狩りの際、長年の戦友である仲間と右足を失い義足となったレスラーの女性。
もう1人は、見習い砲弾職人であるがゆえに給料が雀の涙のアーティストの少女である。
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「邪魔するよ、このチラシの事で話があるんだけど。今大丈夫かい?」
「すいません、今準備ち………ささどうぞどうぞ! こちらへおかけになってください!」
朝から昼にかけての一仕事を終え、夕方へ向けての準備を少女が1人店内で行っていた所。
CLOSE、と札が下げられた戸を開け入ってきた女性と思しき人影に少女が申し訳なさそうに断りを入れようとし…。
次の瞬間女性が手に持つチラシが何かを理解、今行っている仕込が中断して大丈夫と判断。
速やかに手を洗うと、あわただしい足音と共に食事用スペースへと駆け込み女性が座りやすいよう椅子を引いて案内する。
「あ、ああ……」
自分よりも小さい、ともすれば子供と見間違いそうな身長の少女の剣幕に気圧されながら褐色の肌を持つ女性は頷き。
右の義足を引きずるように椅子へと近付き、腰をおろす。
テンションが上がりつつも少女もその様子に気付きはするも。
とりあえず後回しにする事にしたのか言及することなくテーブルの向かい側へと座ると…。
「まずはお名前と料理経験と志望動機をお願いします!」
にこやかに、しかし立て続けに女性へと問いかけを発する。
見る人が見ればアルトが必死なのが切に伝わる状態であるが、この店に来た事がなく初対面な女性にソレが解るはずもなく。
足の様子に気付いた素振りを見せつつも気にする様子を見せない少女に、ただ外見と口調だけではないのかね? と少し警戒を強める。
「名前はカレン、料理経験は適当に焼いたり煮る程度。志望動機はー…狩りでドジってね、片足をオシャカにしちまったのさ」
エナジーカプセルでもダメだったわと続け、自嘲気味に肩を竦める女性。。
この時、女性の内心は…既に馴染みの酒場の時と同じように片足が不自由なのを理由に断られるであろう。と暗澹たる気持ちであった。
「ふむ、んー……カレンさん。辛いモノは辛いと、酸っぱいモノは酸っぱいと感じますか?」
「へ? あ、ああ」
他の店同様、形だけの同情を見せて断る。と思いきや考え込む仕草と意図の読めない質問をぶつけてくる少女に。
思わず間抜けな声を出しつつも、カレンはその質問に呆けた顔のまま頷く。
「じゃあ採用です、内容はボクが逐次教えるので今日の夕方から来て下さい」
「へ?」
自らの中で結論を出したのか、満足げに頷きながら告げる少女の言葉に再度ぽかんとするカレン。
しかし少女はそんな女性の様子を気にする事なく、良かった良かったと満足げに頷くのみで。
そんな極端なまでにマイペースな少女に釣られるように、久しく浮かべた事のなかった穏やかな笑みを女性は浮かべ。
「…ああ、宜しく頼むよ。店長さん」
幾つものモンスターを素手で屠ってきた、鍛えた手で少女の柔らかい手と握手を交わした。
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「すいませーーん! ちょっとよろしいですかー?」
「店長さん、仕込みはこんな感じでいいのかい?…と、今は準備中だってのに」
「うん、そんな感じで…んぃ? ごめん、ちょっと見てくるね」
重要な新戦力を少女が確保してから三日後。
その時と同じぐらいの昼下がりに、戸を開けてツインテールの少女が店へと入ってくる。
「すいませーん、今準備中……そのチラシは、まさか」
「はい、私もこのお店で働きたいな。って思いましてー」
首輪付きのもふもふした獣がプリントされたエプロンをつけた、店長である少女と同じぐらいの年と年若く。
しかしアルトよりも幾分か背が高く、恵まれた体型の間延びした口調の少女が入店した意図を告げる。
「…ええと、ではこちらへどうぞー」
「? なんでか、店長さんの目が怖いようなー」
「きのせいだよ」
コレが天の不平等さか! と内心で嘆きながら、桃色という独特な髪をツインテールにした少女の疑問をさらりと流すアルト。
そんな妬みを持つ時点で、心が敗北しているという事に少女が気付く事はない。
「まずは、名前と料理経験。それと志望動機をお願いします」
「ええとぉ、名前はメイですー。料理はしてみたいんですけど止められて中々した事がないです、動機は今の見習いのお給料だと少なくて…」
気を取り直して、今現在も厨房で手順を思い出しながら簡単な仕込を行っている女性にしたのと同じ問いかけを行い。
メイ、と名乗ったツインテールの少女は若干口調を間延びさせながら一つ一つ答えて行く。
「…幾つか質問、いい?」
「はいー」
一つ聞き捨てならない言葉に気付いたのは、少女がそれだけ熱心に面接をしていたのか。それとも第六感が働いたのか。
ともあれ、ここでソレを確認した事は間違いなく正解であった。
「今まで君の料理を食べた人はどんな反応をしたのかな?」
「食べた後、そのまま寝たりしてましたー」
行儀悪いですよねー、と暢気に続ける少女に。アルトは戦慄を覚える。
まさか、食材を見事に刺激物へと変化させる…通称暗黒料理人に出会えるとは思っていなかったのだから。
「…あー、うん。よくわかった…それと、見習いって今言ったけど掛け持ちして大丈夫?」
「ええとー、朝とお昼が仕事時間なので。できれば夕方と夜働きたいですー」
「そうなのかー」
目の前の少女の返答に、若干口調が移りつつ思考をまわす少女。
今の短いやり取りの中で、この少女に厨房は危険と判断は完了し。朝は2人になるだけで十分現状回っている為。
昼の仕込みも関係なければ、夜のウェイトレスをしてもらうだけで状況は大幅に変わる。と思考で結論をつける。
「夜の、とは言ってもいかがわしくはないからね」
「?」
「ああごめん、なんでもない」
変な方向に思考が行きかけ思わず口走ってしまった内容を聞かれ、首を傾げられてしまい…。
慌てて手を振って気にしないよう告げ、アルトは逸れていった思考を中断させる。
「ともあれ、うん。採用で」
「わーい、宜しくお願いしますー」
きゃいきゃい、とアルトの手を取り嬉しそうにはしゃぐ目の前の少女の様子を微笑ましく思い笑みを浮かべ。
1人で煉獄、2人で地獄だった労働環境がかなり改善される未来を脳裏に浮かべ。
「よし、それじゃ…頑張るぞー!」
「おー!」
「…若いのは元気だねー」
一念発起、気合を入れるべく腕を振り上げて叫び。向かいに座っていた少女も元気よく腕を振り上げ。
厨房スペースから覗き見ていたカレンは、そんな2人を眺めて肩をすくめながらも柔らかく笑みを浮かべていた。
しかし、この時アルトは思っても見なかった。
回転率が上がると言う事は、時として更なる地獄を呼び込むという事を。
(続く)
【オマケ】
[レスラー?]
「…で、カレンさんって何だったんですか?」
「ん? アタシはレスラーだよ」
「れすらー? ソルジャーじゃなく?」
「あんな鉄砲やら大砲担がないと何もできない連中と一緒にしないでくれよ」
「???」
[アーティスト?]
「メイは何の見習いなの?」
「えー? 私は砲弾職人、アーティスト見習いですよー」
「アーティスト?」
「アーティストですー、死んだフリや着ぐるみの修行もしてますー」
「???」
メタルマックスはPS2のサーガまで、そんなアルトさんにとってMM3の新職業は未知の領域でした。ってお話。
【あとがき】
ひゃっはー、週刊の予定なのにまた遅れたぜー!
…うん、すまなかった。
初期プロットではカールも出張る予定でしたが、書いてる内にいまいちだったので…。
カールの出番全削除、従業員組みのエピソード重視へと変化しました。カール涙目。
次回、皆大好きマッドなマッスルや。バルデスロドリゲスが活躍します。
そして、前回のカップ麺はアルトとハスキーくんが美味しく頂きました。
そいえば全く関係ないのですが…皆さんはMM3の戦車なんて名付けました?
私はR-TYPEシリーズで名付けたり、パトカーにセイブケイサツって名付けたりしてました。