荒廃し秩序が崩壊したこの世界において、個人で長距離を移動する事は自殺行為とされており。
ハンター、トレーダー関係なく信頼の置ける仲間や家族とグループを組み旅をする事が通例となっている。
では、それらの例から外れる町から町へ移動するトレーダーにくっついて仕事をしつつ旅をするとある少女がどう言う扱いかと言うと。
人畜無害な珍獣扱い、とするのが最も適切とされるかもしれない。
荒れ果てた世界に転生(う)まれたけど(略 第二部 予告編
『流れ流れるまな板娘』
いつも通りアサノ=ガワの町を沈み始めた夕日が赤く染め。
今日を生き延び稼ぎを手にしたハンターが驚愕の騾馬亭の扉を開ければ、そこには既に喧騒が満ちており。
その中に顔馴染みが集まるテーブルを見つけ声をかけながら空いた席へ腰掛ける。
男は近くを通りがかったウェイトレスへ酒と食事を注文し。
さり気なくその魅力的なお尻へ手を伸ばそうとし、気付いたウェイトレスに白い目で見られおずおずと手を引っ込める。。
「下手クソが、もっと手際よくやりやがれ」
「うるせぇ」
一連の流れをしっかりと目撃したハンターの顔馴染み達はゲラゲラ笑いながら男を馬鹿にし。
笑われた男は不機嫌そうに顔馴染み達を半眼で睨み付ける。
「でもまぁ運が良かったなお前、前のウェイトレスん時は機嫌悪いとトレイで意識刈り取りに来たしな」
「んだな、アレは今思い出しても恐ろしい」
「…なんだそれ?」
ヒゲ面の男が何かを思い出したのか少し遠い目をしながら語り、その言葉に隣に座っていた男が同意するように頷く。
件の人物との面識がないハンターは胡散臭そうに2人を見ながら、酒の肴くらいの気持ちで問いかける。
「そういえばお前あの娘が居なくなってからこっちに流れてきたんだっけか、あー…何と言えばいいんだろうな。あの娘」
「そうだなー…見てる分には面白くて美味しい珍獣、か?」
「……ワケわかんねぇ」
男達の言葉に件の人物の概要が浮かばないハンターは溜息を吐き、届いたバリバリソーダを喉へ流し込むと。
ぬめいもハンバーグをフォークで適当に切り口の中へ放り込む。
「俺ぁ泣いて謝っても無表情で殴り続けてくるあの娘に、おたずねものレベルのおっかなさ感じたね」
「お前さんの自業自得極まりねぇけど、その意見には俺も同意だな」
テーブルを挟んだ向かい側の屈強な男の言葉に、ハンターは全身筋肉に覆われた屈強な女ソルジャーのようなウェイトレスを思い浮かべ。
自らの想像にげんなりしつつも酒とぬめいもハンバーグを味わい、噛み締めるたびに口内に広がる肉汁に舌鼓を打つ。
「お前も、よくそんな娘の尻触ろうなんて思ったな」
「勿論からかい半分さ、俺の趣味はボンキュッボンだからな」
冗談半分でやったらエライ目に遭った、と大笑いするヒゲ面の男。
その発言にそうだよな、とつられるように笑うハンター。
お互いが頭に描いている女性像は全く別であったが、不幸にもこの場にその事に気付き指摘するような人物はいなかった。
「へっくし」
ジープの運転席で大きくクシャミをする、長い黒髪を持つ少女。
そんな少女の様子を、背もたれを倒した助手席で伏せていた飼い犬と思しき大型犬が心配そうに見上げる。
「ん…大丈夫だよ」
体調管理もうちょっと気をつけないと、などと考えながら愛犬を優しく撫でる少女。
かつては幼児体形と称するのが正しかったその体は、一年前に比べ幾分かは女性らしい体つきへと成長していた。
「今日は毛布一枚余分に使おうかなー」
「わふん」
ひっついて移動しているトレーダーのトラックに近付きすぎず、離れないように運転しながら呟く少女。
そんな飼い主に、寒ければ自分がひっつくのにと言いたげな愛犬が不満そうに鳴き声を漏らす。
生まれ育った町を離れ、馴染みのトレーダーにひっついてあちらこちらを旅してきた少女と愛犬。
そんな1人と1匹が新たに訪れた町で騒動に巻き込まれるのは、一ヵ月後の事であった。
(続く)
【あとがき】
プロットがまとまりましたので、生存報告とあわせて予告編を投稿させて頂きました。
次回から、まな板娘とわんこの新たな珍騒動が始まります。
…うん、町から町へ旅をして~。という流れだとプロットがまとまらなかったんです、期待を裏切る形になって申し訳ありません。
連載再開は9月上旬ごろには行いたいと思います。
ここから下は本編とは無縁ですが…。
メタルマックス3買いました、プレイしました、クリアしました。
大満足でした。