『戦車』
それは、この世界において力の象徴であり。人の身で抗うには強大すぎる暴力に立ち向かう為の牙であり鎧である。
廃墟となった博物館、無人の殺戮空間と化した軍事基地、薄暗い洞窟の奥底、お尋ね者となった存在からの強奪。
入手手段は何通りか挙げられるが、その全てに共通した点がある。
ソレは、入手するまでに生きていられる保障が限りなく低い事。
変り種として商人から買い上げる方法もあるが、その場合においても法外な金額を要求される事から難易度が高い事には変わりがなく。
その結果戦車を持つ人物はハンターの総数からすると一握りでしかなく、更にその事が自前の戦車を持つハンターの株を上げる事に繋がっていた。
荒れ果てた世界に転生(う)まれたけど、私は元気です 02話
『クルマがあると便利だよね』
岩陰に隠れた少女、アルトが手にボルトアクション式のライフルを構え機会を待つ。
狙うは、赤い体から複数の細い触手をゆらゆらと伸ばし密集している殺人アメーバ達…の目。
そして、少女は軽く息を止め…射撃を開始。
第一射は狙い違わず一匹目の血走った目玉を撃ち貫いて絶命させ。
突然の攻撃に動きが止まっている間に次弾装填、少し慌てたせいで狙いが逸れるも。幸運にも良い所に当たったのか2匹目も一撃で仕留め。
その時点で慌てて残ったアメーバが一斉に散り散りとなって逃げ出そうとするが、逃げる一匹に狙いを定めて射撃。
着弾のダメージによって動きが鈍った所を更に銃撃され、3匹目のアメーバの死体が出来上がる。
続けて次の獲物を狙おうとするが、その頃には他のアメーバは既に逃げおおせており。狩猟場と化したその場所にはアメーバの死体のみが転がっていた。
悪くない狩りの結果に少女は満足そうな笑みを浮かべ、ライフルを背中に担ぎ腰から小型拳銃を引き抜き。ソレを構えながらアメーバの死体へ向かい。
足先で突つき、動かない事を確認。拳銃を仕舞うとナイフを取り出して速やかなる解体を始める。
そして、お世辞にもよいと言えぬ感触と臭いに顔を軽くしかめながら。目的の部位を切り取ると次々と取り出した袋へ仕舞っていく。
やがて2匹目の解体とぬめぬめ細胞の回収を終え、鼻歌混じりに3匹目の死体から採集しようとしたその時。
アルトの背筋に、氷柱でなぞられたような悪寒が走り。本能の赴くまま全力で横に飛んだ次の瞬間。
今先ほどまでその場にあった殺人アメーバの死体が爆発、否。
いつの間にか忍び寄ってきていた、筒に4つ脚が生えたような飛び跳ねる砲台のようなモンスター。
キャノンホッパーの砲撃により、今先ほどまでアルトが立っていた場所が小さいクレーターと化していた。
(Side:アルト)
「……で、キャノンホッパーとドンパチやらかした結果そんなナリになったと」
「…そう言う事」
いつもの定例の品物納入タイム。
そんな中、かなりボロボロなボクの格好を不思議そうにしたマスターにかくかくしかじか。
ちなみにキャノンホッパーさんは、発煙手榴弾で見失ってる間に手榴弾ぶち込んで鉄屑になってもらいました。
とは言ったものの、あそこで本能が囁かなかったら砲弾を撃ち込まれていたわけで。
「…戦車欲しいなぁ」
心から切実な響きを込めて呟く。
あれば仕事がもっと楽になるし、毎日地味にある命の危険もグっと下がるし。一度に運べる荷物も増える。
「……最近来たトレーダーの話によると、アシッドキャニオンのグラップラー共が居た施設跡に戦車がありそうだって話だぞ」
「…遠い、それに命の危険がデンジャラス」
「……なら、諦めるんだな」
「ですよねー」
てっどぶろいりゃんがスーパーなハンター達にやっつけられた後とは言え、そんな小市民に優しくない地域を勧めないでください。
そんなこんなで他愛もない言葉のキャッチボールを楽しみつつ報酬を受け取り帰宅。
「……うへぇ、改めて見ると酷い状態」
母さんが残した姿見でなんとなく自分の姿を見て思わず呻き声。
あちこち煤と土ぼこりで汚れ、後ろで適当に縛ってる黒髪も今回のキャノンホッパーさんとの戦闘のせいかバサバサのぼろぼろである。
女として生を受けた事は勿論不本意であるが、ソレと身嗜みを粗末にすると言う事はイコールじゃないと思うわけで。
「お風呂にでも、入るとするか…」
装備を外し、愛用のツナギを壁にかけ。上着を脱いでサラシと下着のみの格好で『風呂場』へと向かう。
家の裏口を開けると、周囲をトタンで覆われ。中央に風呂釜として誂えられたドラム缶がある空間に出る。
単純に、この分も土地を買って。廃材を色々と調達して作った自慢の空間である、壁の穴もトタンを重ね張りして問題解決だ。
この世界に生まれて辛かったことの一つが、風呂に入る習慣が皆無で。入ろうと思うとそれこそ宿屋で大金払って松の間に泊まる必要が冗談抜きであるわけで。
それで困らないのか、と思ってしまいそうなものだが。どうも大体は水浴びで事足りてしまうものらしい。
閑話休題
入ろうと思い立ってからしばらくして、ようやく準備が整った。
前世では風呂大好きな人間だったボクとしては、思わずこんな所でもかつての文明社会が素晴らしいモノだったと噛み締めてしまう。
水を溜めておいたタンクからバケツで水入れて薪に火をつけなくても、蛇口を捻れば熱いお湯が出てくるって…とても大事。
木を切ってスノコ状にしてある場所でサラシと下着を脱ぎ、程よい温度のドラム缶風呂にその身を沈ませる。
水浴びと違う、体の芯から温まっていく感覚と。お湯の中に汚れと一緒に一日の疲れが溶け出してくのを感じる。
「……温泉行きたいなぁ」
お風呂の有り難味を味わいながら呟く。
大破壊のせいで自然環境も大きく変わってるので、あるかどうかは正直不明だが。
もし戦車が手に入ったら、ソレを探しに遠出してみるのもありかもしれない。
そんな、普通のハンターに聞かれたら一笑に付されそうな野望を胸に抱くボクだった。
(続く)
【あとがき】
大体、1でも2でもRでも。キャノンホッパーが最初の鬼門ですよね。
というわけで2話をお送りさせていただきました。
あの世界、冷蔵庫とかテレビとか見るけどじみーに風呂関係みないよなー。
そんな思いからこんなネタが出ました。