ナキスナ・市場通り。
港湾施設近くの大通りであるそこは、人間用の装備や道具に限らずさまざまな生活用品を売る店が立ち並び。
海を渡り仕入れられた装備や道具、生活用品等が幅広く売られているその場所は。
ハンター達にとっては勿論のこと、住民にも欠かせない場所であった。
荒れ果てた世界に転生(う)まれたけど、私は元気です 16話
『子供扱いされてる気がするんだよね』
買い物客でごった返す昼下がりのナキスナ市場通り。
客と店主のやり取りがあちらこちらから聞こえるその場所で、アルトは人ごみに流されそうになっていた。
「ちょっとちょっと、アルトちゃんしっかりしな!」
小柄かつ華奢な体躯の少女があうあう言っている内に流されそうになっていたのを、
付き添いにきた恰幅の良いトレーダーの女性が慌てて引き寄せる。
女性の名はターニャ、護衛の仕事の間にアルトが最も仲良くなった女性でもある。
しかし彼女もトレーダーの一員でありその中でも中堅に位置し若手を束ねる一人でもある。
そんな、けして暇ではない女性がなぜ付き添いに来ているかと言うと。
1.アルトとハスキーがワンセットで市場を見て回る。
2.美味しそうなお店を発見、ハスキーのご飯買って攻撃がアルトを直撃。
3.アルト耐え切れずハスキーへオヤツを買ってあげる。
4.1に戻る。
以上の流れが…アルトが立ち直ってからの市場巡りの際に三日連続で発生。
さすがにコレでは目的を達成できない、と心を鬼にしてハスキーを宿で留守番させる事になったからである。
コレに待ったをかけたのは、アサノ=ガワから仕事仲間としても同行してきたベテランハンターのバズである。
愛車が順調に入院中な彼曰く。
「嬢ちゃんが一人で混雑の中フラフラ歩くなんざ、ゴールドアントがトレーダーの前をうろついてるのと同じだぞ」
この発言をした瞬間、アルト以外の全員が頷き納得したという辺り彼女が周囲にどのように見られているのか如実に表していると言える。
閑話休題。
では誰が同行するか、という話になれば。
バズは工場のメカニックと共に愛車の修理に忙しく、カールはカールで本業の取引で手が離せない。
最近海に不法投棄され翌朝頭に斬新な海産物製のカツラをつけたディックは…。
報酬受け取りのドンチャン騒ぎで見せた醜態によって満場一致可決で同行却下となった。
そして、そんなまるでダメな男連中を見かねて手を上げたのが。
護衛仕事中に世話を焼く形で積極的に会話をしていた恰幅の良い女性、ターニャである。
そして、話は冒頭に至る。
「結構、その…独創的な魚が売られてるんですね」
「見てくれは悪いけど味はイケるよ、骨ばっか多いから食うのが面倒なのが難点さね」
少女が店に並ぶ前世の知識からは珍しいものを女性に聞いては、女性が朗らかに応え。
そして料理のネタとして使えそうな物が見つかれば…。
「バイオ昆布、ですか…」
「変わり者がそのまま齧ったりしてるね…何かに使えそうかい?」
「はい、試してみてからですけど」
少女が真剣な目で見つめ吟味し、女性は何に使うのか首を傾げながら尋ね。
考えがまとまった少女はその問いに満面の笑みを浮かべて応える。
途中昼食を挟んでまで市場通りを二人で巡る事数時間。
気が付けば太陽は傾いており、二人の両手には本日の成果がた袋となってぶら下がっていて。
「…すいません、こんな時間まで」
「子供が気にするんじゃないさね、それにあたしも楽しかったからおあいこさ」
見た目相応にはしゃいだ末に、せっかく同行してくれたかなり年上の女性を引っ張りまわした事に少女は今更気付き。
汗を一筋流して謝罪、しかし女性はそんな少女の言葉を豪快に笑い飛ばす。
「さ、宿に戻ろうかい。あのでかいワンコも腹空かして待ってるだろうしね」
留守番を申し付けられ、まるで人間のようにしょんぼりとしていた大型犬を思い出して愉快そうにターニャは笑い。
それにつられるようにアルトも笑みを浮かべ、二人たわいない話をしながら宿へと戻る道を歩く。
やれ、うちの旦那は今でこそ太っているけど若いときはソレはソレは逞しいソルジャーだったとか。
やれ、騾馬亭の常連は時々……自覚しているとはいえ指摘されると腹が立つ起伏が乏しい体をからかってくるとか。
人生経験豊富な女商人とのそんなたわいない話は。
ハンター、という職についた関係上同姓と話す機会が少なくなりがちな少女にとって。
どこか、ホっとする時間であり会話であった。
(続く)
【あとがき】
立ち直ってまずする事は、本腰入れての市場めぐり。
しかしやってる事は食材購入とウィンドウショッピングもどき、元男という意識ランナウェイ。
短めとなりましたが、今回からまたしばらくまったり時空が続きます。
どのくらい続くかというと、引き締まった大型犬のハスキーくんがもこもこ太るくらい。
そして名前付きレギュラー女性、肝っ玉系おばさんトレーダーさん登場です。
正確にはそこそこ前から出ていたのは内緒です、初期は普通のおばさん系でしたが書いてる内にこうなりました。
次回は汚染された海の幸を用いての料理人タイム!
…なぜだろう、あまり美味しそうに聞こえない。