長年に渡る、環境を顧みない消費活動によって汚染された海。
その際限なき消費活動と汚染の連鎖は大破壊によって一度リセットされたが…。
大破壊から1世紀以上過ぎた現在も、人々に対して海はけして優しくはなく。
しかしそれでも、人々は海から離れられないでいた。
荒れ果てた世界に転生(う)まれたけど、私は元気です 14話
『事後処理とか、なんだよね』
港町『ナキスナ』
大破壊前から生き残ってきていた港町が母体となって作られた、付近の街にとって欠かせない交易の要となっている街である。
街の港にはクルマの搭載すら可能な武装船と、大破壊以前から修理を重ねて騙し騙し使用を続けている大型船がつながれており。
市場では交易によってもたらされた、付近では見られない薬や武装に食材そしてクルマのパーツ等が大量に並んでいる。
そして、アサノ=ガワの街を出発したトレーダー達の目的地でもあり…。
襲撃によって横転、破損したトラックをバズのエイブラムスによって牽引し。
動作可能なごろつき達の使用していた装甲車やバギーを接収、ソレらによってトレーダートラック達の護衛を再開して一週間。
ようやく目的地のナキスナに到着、で全てが終わるわけもなく。
捕虜として捕えたごろつき残党、1万G級の賞金首となっていたごろつき首領の撃破報告にトレーダー本来の目的である交易品の売却。
さらにそこに、破損した戦車やトラックの修理やらが重なって……。
「申し訳ありません、お待たせしていた商隊護衛の報酬です」
到着してから二日後の街の酒場、時刻は夕方前。
青年トレーダーカールの手によって生き残ったハンター、ソルジャー達に報酬が支払われた。
「…貰えるのはありがてぇけど、明らかに量多くねぇか?」
報酬が入った袋の質量に、怪訝そうに首を傾げるのは現在愛車修理中のバズ。
彼自身は今回の護衛は失敗したも同然であるという認識であり、ここまでの報酬が支払われる理由は無かったからだ。
「例のごろつき達が賞金首になってましたので、ソレの賞金を分割した分ですよ。 まぁ報酬も満額支払ってますけど」
バズの言葉にサラリと応えるのは青年トレーダーのカール。
彼らの周囲では、生き残ったソルジャー達が報酬の中身に歓声を上げており飲んで騒いでのドンチャン騒ぎが始まりはじめている。
「……満額出る仕事内容だったか?」
「…そこを問われたら正直採点は厳しくなりますけど、生き残った全員に支払ってもまだ支払い予定だった報酬より安上がりですし」
一息酒…イチコロを飲んで問いかけてくるバズの言葉に、肩を竦めて正直な所を述べるカール。
ここで更に報酬を絞って利益を上げるより、結果的に護衛成功した面を取り上げて報酬を支払うメリットを取ったのである。
「…正直な所を言えば、多少の出費より人が集まらなくなる方が怖いんですよ」
「………まぁ、普段お前さんとこの護衛引き受けてる連中の半分以上が死んでしまったしな」
溜息と共に本音を述べるカール、そしてコレは彼が所属する商隊の総意でもあって。
金払いが良い、と言う噂が広がる事によって護衛の仕事を引き受けてくれる人間をもっと増やそうという魂胆で。
ソレによって良からぬ人間を引き寄せる事も危惧されたが、護衛する人間が激減しては元も子もないと言う結論になったのである。
「そういう事です……ところで」
「ん?」
「アルトさんはどこに行ったのでしょうか?」
会話の内容を変えるべく話を打ち切って、先ほどから姿の見えない起伏の乏しい体つきをした長い黒髪の少女を探すカール。
視線の先では、屈強なソルジャー連中の中に混じったスキンヘッドのディックが豪快に一気飲みする姿が見えたりするも…。
可愛らしい部類に入る顔つきもあり、そこそこ目立つ少女が見当たらない事に首を傾げる。
「ん? ハッハァン、まさかお前…惚れたな?」
「なんでそうなるんですか」
そんな青年の様子に、半目になりやらしい笑みを浮かべて問いかけるベテランかつ中年のバズ。
予想だにしなかった言葉に、何を言っているんだコイツ。と言う心境を隠す事なく表情に浮かべて対面の中年を睨むカール。
「いやいや、そう隠さなくてもわかる。しかしライバルは多いぞ青年」
「話聞いて下さいよ!? と言うか何が悲しくてあんな起伏の乏しいちんちくりんに色目を…」
何も言わなくてもわかる、と言わんばかりに頷く鬱陶しい中年の様子に思わず言葉を荒げ。
自らの性癖を暴露する事も躊躇わずその誤解を解く言葉を口に仕掛けた青年の脳裏に、ごろつきのアジトで目撃した。
少女、アルトの際どい姿が鮮明に浮かび上がる。
「……ちんちくりんも、まぁ良いかもしれません」
「…今お前の頭の中で何があったのかすっげぇ気になるんだが」
「まぁ些細な事ですよ、報酬の支払いをしようと思いまして」
数秒の間にガラリと意見を曲げた事に対するバズの指摘をサラリと流して。
姿を探した理由をバリバリソーダを喉に流し込みつつ告げる。
「そう言えばあんまり酒場だと見ねぇなぁ……前にチラっと市場で見たけど、声かける前に姿消したし」
「それだけ聞くと微妙に不安になるのですけど、宿には戻ってるんですよね?」
「ああ、診療所で怪我も治してるしな。 話聞くと暗くなる前には部屋に戻ってるらしいぞ」
そう言えば、どこに行ってるんだろうなアイツ。首を傾げるバズとカール。
とりあえず文殊の知恵、とばかりに浴びるように酒を呷っていたタコのように真っ赤になったスキンヘッドを呼びつける。
「あん? アルトの行方ぇ?」
「バズさん、見事に出来上がってるけど話成立するんですか?」
「何、問題ない」
酒瓶を片手にドッカと空いた椅子に座るレッドスキンヘッド。
そんなタコを横目に、青年トレーダーとベテランハンターは小声で話し合い。
「お前さん、確か前市場見て回ってたろ? アルトの嬢ちゃんがどの辺りにいつもいるか知らないか?」
「あー、知ってるぜぇ。いちばの外れのさんばしの所にいつもいるなぁ」
若干呂律が回っていないが、それでもしっかりと応答するディック。
「桟橋? なんでまたそんなところに」
「さぁなぁ、ただ見てるとけっこうそこにいるみたいだぜ」
カールの不思議そうな言葉に、俺が知るかと言わんばかりの様子のディック。
「ま、ただなんかしらんがなやんでるぽかったけどなぁ」
「……なるほどな」
「どう言う事です?」
呂律の回っていないディックの言葉に、顎に手をやり考え込んでいたバズが合点が行ったとばかりに頷く。
まだピンと来ていないカールは、先に答えに行き着いた様子のハンターに意見を求める。
「コレは推測だが、あの嬢ちゃん撃って撃たれてってのに参っちまったかもしれんな」
「参っちまった…って、彼女もハンターでしょうに」
バズの言葉に、そんなバカなと言わんばかりの態度で不思議そうにするカール。
そんな青年の様子に、まぁそうなるよな。と口にしつつ言葉を続けるバズ。
「腕は決して悪くないんだが、コレでもかってくらい慎重な上に特定のモンスターしか相手にしてなかったからな」
「…その結果人間相手の経験も無く、あそこまでの戦闘も経験がなかった。と」
「そういう事だ、まぁ推測でしかねぇけどな」
そう言って杯に残ったイチコロを飲み干すバズ。
カールはその推測と、こんな世間であんなにも呑気だった少女を組み合わせて思考し。
根拠こそ薄いが、バズの推測はけして的外れではない事に気付き。
「ちょっと、席外しますね」
対面で呑気に酒のおかわりを注文するカールに声をかけて、席を立つ。
目的地は、市場の外れにある桟橋にいるであろう少女の下だ。
特に理由らしい理由もなければ、声をかけにいく必要性も皆無であるが。
その時、青年は惜しいと思った。
このようなどうでもいい事で、あの少女の美点ともいえるくらいに突き抜けた呑気さが欠けてしまう事を。
「おーう気をつけてな、んでもって頑張れよ」
届いたおかわりのイチコロを呷りながら、呑気に青年の背に手を振る中年ハンター。
意図不明の応援を背に受けながら、青年は酒場の扉をくぐり…桟橋へ向かって早足で歩き出した。
(続く)
【あとがき】
オマケ『青年が出て行った後の光景』
「そういえばお前さん、前に包み抱えてたけど市場で何しいれたんよ?」
「聞いておどろくな、サイズが小さいむねがちいさいこでも着れるバニースー」
「よしわかった、お前はもう何も喋るな」
少し台無しにしつつ、14話投稿完了です。
人を撃ったり顔なじみがかなり死んだ事に弱ってる少女に対する周囲の認識のような話でした。
賛否両論になるかもしれないですが、ともあれ前回よりも早いスパンで投稿できました。
次回は、少し後ろ向きなアルトが出てきます。
そして、バズはとてもオッサンですが結構良識派です。でもオッサンです。
カールはおっぱい星人で紳士です。
ディックは……もうダメかもしれません。