その世界は、荒れ果てていた。
かつて昔、世界中の軍事基地から放たれた。命令されていない筈の大量破壊兵器を搭載したミサイル達。
ソレらが引き起こした未曾有の大災害によって、人類の文明社会は沈黙した。
様々な生命を育んできた大地は割け、生命の源と呼ばれていた母なる海は汚染され。
しかしそれでも人類は死滅していなかった、だが…。
生態系の汚染によって歪められた生物、研究施設から逃げ出したバイオモンスター、制御を受け付けなくなった殺戮機械。
そして、同胞である人類を躊躇なく獲物とする邪悪な人間。
ソレらにより、生き残っていた人類は更なる窮地へと立たされていた。
しかし。
かつて栄華を誇っていた人類が生み出した兵器『戦車』を乗りこなし、人に仇なす存在を狩るもの達がいた。
人々は、畏怖を込めて彼らをこう呼んだ。
『モンスターハンター』と。
荒れ果てた世界に転生(う)まれたけど、私は元気です 01話
『定期収入って大事だよね』
アサノ=ガワの町にある酒場の中でも、最も大きい酒場である『驚愕の騾馬』亭。
店内では古ぼけたジュークボックスが適当なミュージックを流し、強面の堅気には見えない風貌の男女が酒を酌み交わしていて。
そんな、真昼間から退廃的な空間が広がる酒場に。たてつけの悪い扉が軋み、開く音が響く。
入ってきたのは筋骨隆々で顔に痣を持つ強面の男…。
と言う事はなく、肩に荷物が入っているらしい背負い袋を背負った140cm程の小柄で顔に幼さが残る可愛らしい顔付きの少女で。
頭に巻いたバンダナや、使い古した皮製のツナギである程度緩和されてはいるものの、しかしその空間に似つかわしくない事は変わらず。
だがしかし、店中から扉が開く音により一瞬注目が集まるも…ヤジが飛ぶ声はなく。
「よーぅアルトちゃん、今日も納品かーい?」
むしろ、入り口に近い席に座っていた程よく酔っ払った客から気さくに声をかけられている事。
その事が少女…アルトがこの店の常連である事を証明していた。
「マスター、依頼のぬめぬめ細胞にいもいも細胞、鳥のササミだよ」
背負っていた中身の詰まった袋をカウンターに置き、更に袋で小分けされている中身を店主の前で確認を求めるように広げる。
店主はグラスを磨いていた手を止めると、無言で広げられたソレらを確認し…。
「…いつも通り、確実な仕事だな。 ほれ、報酬だ」
店主は重苦しい声で無愛想に労うと。
あらかじめ用意していたのか、カウンター内側の棚から通貨の入った袋を取り出し少女へ手渡す。
どこの酒場でも、今のやりとりのように酒のツマミの元となる素材の買取は行っているが…。
「しかし、あのアルトって娘も良く思いついたよな。ぬめぬめ細胞の安定供給なんてよ」
「全くだぜ、まぁおかげで俺達は安く美味いもんにありつけてるんだがよ」
コレで酒も安くなりゃぁいい事尽くめなんだけどな、と誰かが呟きドっと酒場に笑いが沸き起こる。
今までは、『モンスターハンター』や旅人が小遣い稼ぎに持ち込んできた素材が酒場のツマミの材料となっていた関係か。
普通の稼ぎからすると聊か割高な高級品であったのだが、ソレ専門で定期的に仕入れてくる人物。今先ほど売り込みにきた少女が来てから状況が変化。
かつてはよくある酒場の一つであったが、今では安定して美味いものが安く食える店として町一番の酒場となっていた。
(Side:アルト)
「へっくし」
酒場から出て帰路の途中、クシャミが出た。
「…風邪、かなぁ」
真っ当な経験と知識を持った医者が少ないこの世界、風邪だってバカにならないし薬代なんてもっとバカにならない。
装備の点検は明日に回して、今日はとっとと寝てしまおう。そう心に決めて我が家…バラック小屋の鍵を開けて中に入る。
おかえり、と声をかける家族もなく。かつては両親もいたけど今はいない、そんな環境。
頭に激痛感じた瞬間意識なくして、次に目覚めたら母親の腕の中でした。
我ながら正気の沙汰じゃないが、誠に残念ながら現実である。
かつては男であったものの、女性として生を受けた事に軽く打ちひしがれ。
当初はよくある転生モノかと胸を高鳴らせてみたものの、荒廃した世界に打ちひしがれ。
まったり生きていくには少々どころじゃないくらい難易度の高いメタルマックスの世界、と言う事に思い切り打ちひしがれた。
「………せめてもの救いは、メタルマックス2の後っぽいことだよなぁ」
ベッドに寝転がり、天井を見上げながら呟く。
転生した先の世界で、人体実験の材料として攫われました。
そんな愉快すぎる運命は勘弁である。いや本当に。
ともあれ、少しでも健やかにかつ元気に生を送りたいと願うばかりであった。
(続く)
【あとがき】
メタルマックスのSSが、もっと増えればいいと思うんだ。
そんな気分で書き始めました、後悔はしていない。
多少のプロットと浮かんだネタ、後ほんの少しのロマン。
ソレをメタルマックス愛にブレンドして不定期になりそうですが、連載したいと思います。
キャラクタの設定や、町等の設定は以後少しずつ文中で出していきたいな。と夢を見ております。
※2010/07/04 身長について微修正しました、地味に。