鬼畜王じゃないランス5
=LP03年04月4週目=
……攻略6日目。レッドの街の宿屋・午後10時。
今俺はランス(自分)が借りている個室でリーザスから戻って来た かなみと向かい合っていた。
ちなみに既に日が暮れているのは、只単に かなみが往復に相応の時間を費やして戻ったから。
されどメルフェイス&ジュリアと適当に街を散策した事で十二分な暇潰しは出来たので問題無い。
むしろ……"この世界"に順応していない俺に取っては幾ら時間が有っても足りないだろう。
「先ずはハンナの街だけど、喜んで合併に応じてくれたみたい」
「まあ500万ゴールドだしな」
「エクス将軍が交渉に向かったのも大きかったわね」
「違いない」
――――ゲームでもエクスやマリスに任せて置けば良いモノを、自分が行くのはランスらしいぜ。
「ハンナの天才軍師に関しては指示通りノータッチらしいわ」
「分かった(……そもそもランスが行かないと意味が無いからな)」
「じゃあ、次はレッドの事だけど」
「ああ」
「街の様子を見ても分かる通り、特に問題も無く合併が決まったそうよ」
「特に?」
「最初は"臨時徴収"の禁止を条件に出して来たみたいなんだけど、資金提供で流れたって聞いたわ」
「成る程な。他に何か有るか?」
「う~ん……しいて言えば……えっと」
「何だ?」
「リア様が御立腹だったわ」
「うげっ。何て言ってた?」
「"ダーリン絶対に許さな~いっ!"って伝えてと仰ってたわよ」
「全然 似てないな」
「う、五月蝿いわねッ。ともかくマリス様からの伝言だけど……」
「伝言?」
「"特にランス王の手に及ぶような自体には成っていません"との事よ」
「……そうか。良くやってくれてたみたいだなァ」
「でも2つの都市と同時に合併する事になったから、落ち着くまで2週間……
今週 いっぱい迄は時間が掛かるみたい。初めての事だしリーザス城内は大忙しだったわ」
「とは言え、その合間にレッドの臨時徴収も同時に遣ってくれるんだよな?」
「えぇ。都市長 同意のモトに明日にも始めるみたいだから、この辺りも騒がしくなりそうね」
直接 俺が関わる事は無いイベントだが、ガンジーを仲間にする為に行う必要が有るのだ。
つまりジオ→レッド→ラジールと臨時徴収を行えば、いずれプアーの街で暴動が起こる。
されどシステム的な条件なので時間が経過すれば勝手に暴動は起きるのか? イマイチ分からん。
そもそもガンジー関連のイベントが起こるのは、もう少し先な気も今更になってして来たが……
他にもラジールと合併するに当たってレイリィ・芹香も捨て難いが細かい事は後で考えよう。
「はははっ。まさか"それ"を命令した王様が こんな安い宿に泊まってるとは思わんだろうな」
「ハァ……全くだわ」
「ともかく御疲れさん。明日からペースを上げるからジックリ休んでくれよ?」
「……ッ……」
「んっ? どうした?」
「ねぇ、ランス……それって、やっぱりレベルを上げるのが目的なの?」
「ハッキリ言うと、そうなるな。財宝も大事だが、一番 重要なのはレベルだ」
「それって、やっぱりシィルちゃんを助ける為?」
「あァ。ヘルマンで盗賊やってて分かったが、アソコには強い奴が多過ぎるからな」(嘘)
実際には近い内に見(まみ)える魔人に勝つ為だが、未来を知っている事を宣言するのは不味い。
幸いヘルマンにはミネバ・マーガレットやロレックス・ガドラスを筆頭に強い人間が多いので、
ソレをレベル上げの理由にしてみる事にする。実際 今の段階じゃ奴らにも勝てそうに無いし。
だから かなみに対する返答としては十分だったと思うんだけど、彼女の表情は何故か曇っていた。
「まぁ……ランスなら、この調子で更に強くなってゆくでしょうね」
「そりゃ~俺は(自称)最強だからな。少し真面目に頑張りゃヘルマンなんぞペッだ!」
「……で、でも……私は……」
「かなみ?(――――あッ!)」
……此処で俺は初めて彼女が"才能限界値"だった事に気付いてしまった!!
最初は42だった様な気がしたが、別にそんな事は無かったぜッ! 実際には40だったなァ。
考えてみればランス(俺)の豪語している事は人類に取っては有り得ない様な事なのだ。
才能限界値が40とRPGでは低く感じる かなみさえ、10万人に1人と言う希少な人間。
つまりコレは給料が月100万なのに、月給20万の奴に月200万欲しいと言ってる様モノ!
い、いかん。少々 迂闊だったかもしれない……彼女は十分 良くやってくれていると言うのにッ!
「……ッ……これ以上……強くなれないから……」
「なれないから?」
「もう今以上は、ランスの役には立てないのかな?」
「!? ず、随分と甲斐甲斐しい事を言ってくれるじゃないか」
「そうね……自分でも変だと思う。でも前にレベル神を呼び出してた時、凄く残念だったの」
「才能限界を告げられて……か?」
「うん。前ランスと戦った時は悔しさなんて微塵にもなかったのに、何でなんだろう?」
「だが……深く考えると後戻り出来なくなるぞ?」
「分かってる(……だって今のランスは、私の主君だから……)」
――――正直"こっち"で彼女は最も俺が好ましく思う存在。されどソレを口にする事は叶わない。
「それはそうと、いま何となく気が変わった」
「えっ?」
「今日は夜伽を命ずる。こっち来い、かなみ」
「う、うんッ」
「くんくん。ふ~む……流石に汗臭いか? だったら先に風呂に入った方が良いな」
「ど、何処 嗅いでんのよ!? それに、こんな時に デリカシーの無い事……ッ!」
「じゃあ早速 行くぞ~? 勿論 俺も一緒だからな?」
「それは良いけど……って、引っ張らないでよぉ~っ!」
――――そんなワケでランスの特性に縋って彼女を抱いた結果、不思議な事に限界才能が伸びた。
……
…………
……攻略9日目。ハイパービル201階。
「最上階に到着~っと」
「ふ~ん……他の階と同じで造りも大差無いわね」
「手強い魔物も待ち構えておらず安心しました」
「ねぇランスちゃ~んッ、宝箱が有ったよ~っ!」
「ちょっ……待て待て勝手に開けるな、絶対に開けるなよ!? かなみッ!」
「えぇ。任せて」
更に強くなった かなみ、まだまだ強くなるジュリア……そして体調を取り戻したメルフェイス。
彼女達のチカラの恩恵によりアレから3日で俺達はハイパービルの最上階へと到達してしまった。
勿論 俺もレベルが49に上がっており、当初と比べれば見違えるほど強くなった様な気がする。
かなみ程では無いが人間の"素早さ"の限界を既に越えており、100mを10秒切れるだろう。
パワーにもなれば相当なモンで、ランスアタックを使えば殆どのモンスターを一撃で倒せる程だ。
けど魔人が相手となると自惚れるワケにはいかない。どの道 一人じゃ絶対に勝てないんだから。
さて置き。ジュリアが見つけた宝箱の罠を かなみがチェックし、待つ事 数十秒で変化が起こる。
≪――――パカッ≫
「ざっと こんなものね……」
「かなみちゃん、すっご~い」
「これは……指輪ですか?」
「詳しくは"知恵の指輪"だな。名前の通り頭の回転でも速くなるんじゃないか?」
「知ってたの? ランス」
「偶然 知ってたダケだよ」
「まぁ、元冒険者だものね」
「そう言う事だ」
「それより終わったし早く帰ろぉ~っ? もう疲れちゃったよ~っ!」
「いくら竜角惨でも精神的な疲労は嵩張りますから……」
「同意。さっさと帰るか」
「帰り木ね? ちょっと待ってて」
「ああ」
――――そんな中、いつの間にか指輪を俺から奪っていたジュリアが当たり前の疑問を浮かべた。
「そう言えばランスちゃん」
「なんだ?」
「この指輪、誰にあげるのぉ?」
『!?』×2
「う~む」
『……ッ……』×2
≪じ~~~~っ≫
「いや、そんな目で見られても困るんだが」
「べッ……別に期待なんかしてないもん!」
「……(いけない……つい意識してしまった……)」
「やっぱり、リアちゃんなの~?」
「普通ならそれが妥当なんだろうが……今リーザスで一番 頭を使ってる奴に渡そうと思う」
「!? リーザスで一番……?」
「頭を……ですか?」
「えぇえ~、それダケじゃ誰だか分からないよ~っ」
「だったら帰ってからのオタノシミだな」
「ぶぅ……」
「(恐らくマリス様でしょうね)」×2
アホの娘であるジュリアは答えが分からない様だったが、かなみとメルフェイスは理解した様子。
"知恵の指輪"は本来 作戦成功率を上げる為のアイテムだけど、俺的に考えた別の利用方法が有る。
ソレはリーザスの大黒柱であるマリスに指輪を持たせる事で、内政効率のアップを図ると言う事だ。
聞いた話によるとリアの我侭により彼女の一日の睡眠時間は4時間を切ってるらしいからな……
本人は様々な健康アイテムの投与により全く苦になっていないらしいが、少しは楽して貰いたい。
ともかくハイパービルでのレベル上げは49で終了だ。コレで何とか成るとポジティブに考えよう。
……
…………
……翌日。4月4週目の現代の曜日で言えば金曜日で、時刻は正午あたり。
此処に来て一ヶ月程度が過ぎたが、考えれば思い出した内容には間違いも有った事に気付いた。
実はメナドは迷宮攻略でマイナス補正が有ったが、個人戦では関係無かった為 些細な事として。
魔人ラ・サイゼルがリーザス城に現れるのは"リーザスの反乱軍を鎮圧した翌週"なんだった!
つまり時期が定かではないので5月1週目に現れるかは分からず、悩みの種が増えてしまった。
ハッキリ分かっていればランス3でサテラを追い詰めたが如く迎え撃てるって言うのに……
まぁ、仕方ないので予算にモノを言わせて魔人が攻めて来る迄は臨戦態勢で待つしか無いか。
『おっほっほ。久し振りの外の空気~!』
「いきなり叫ぶな、変な目で見られるだろうがッ」
『しかし心の友。良くあの堅物 嬢ちゃんが封印を解いてくれたな?』
「そりゃ~普通に話したからな。かなみとメルフェイスの説得も大きい」
「だ、だってランスは……(シィルちゃんを本気で助けたいみたいだし……)」
「王様は彼女の言う様な方では有りませんから」
さてリーザスへの出発を控えた今日、その前に俺はレッドの教会に赴き重要なイベントを済ませた。
お察しの通り"魔剣カオス"の入手であり、面倒だと思ったセルさん(前髪有)の説得も旨くいった。
今迄のランスの価値観を持っている彼女に対し、意外にも かなみとメルフェイスが活躍したのだ。
簡単に言えば"今のランスは そんな奴じゃないから渡して下さい"と御願いしてくれたのである。
コレは俺が下手な芝居でジークの様な台詞を言うより余程 効果が有り、セルさんは折れてくれた。
……余談だがジュリアは一緒に説得させても ややこしくなりそうなので、うし車で寝させている。
「ともかく素直に渡してくれて良かったよ」
「1時間も掛かっちゃったけどね」
「……それ程この魔剣は危険なモノだったのでしょう」
『それと儂的には心の友の変わり様にもビックリなんですけど?』
「お前を握っても何とも無かったし根本は同じって事にしてくれると助かる」
「……(つまり今迄のランスは死ぬほど自分勝手だったけど、根は優しかったって事?)」
『……ッ……』
「な、何か?」
『ね ね。とりあえず、この金髪の姉ちゃんの味見して良い?』
「駄目」
『えぇ~っ? 別に良いじゃん』
「何故ならメルフェイスは、俺様の……女だからな」←言ってて恥ずかしい
「!?(……お、王様……)」
「だから許可無く手を出したら"うし車"で引き摺ってリーザスまで連れてくぞ」
『そ、それは勘弁~ぐすん』
――――"こう言う台詞"は性に合わないが、僅かでもランスらしさを出す為にも言わなければッ。
「えぇい剣なのに瞳をウルウルとさせるなッ。まァ楽しませてやるぞ? 今は王様だからな」
『何時の間に!? グヘヘヘ……だったら期待できそうだの~ッ』
「な、何だか以前のランスが1人増えた様な気がするわね……」
「……(以前の王様が"こんな性格"を? それ程シィルと言う人は彼を変えるに至った……?)」
こんな感じで10日に及ぶレッドでの冒険は無事に終了し、俺達はリーザス城を目指した。
その際 帰路の途中の街の遊郭で触手プレイをさせて欲しいとカオスが喧しかったモノの……
カオスを気に入ったジュリアに生贄として差し出し、違う意味で弄ばれる事で彼の夢は潰えた。
……
…………
……一方。
「うえぇえん、ダ~リ~ン。怒ってないから早く帰って来てよぉ~っ」
「(伝言を頼んだ後に後悔されるとは、不憫ながら可愛い……いえ可哀想なリア様)」
「あっ……お、王様の大切な壷……割っちゃったの……?」
「け、健太郎君、健太郎君~っ!」
「お気を確かに美樹殿ッ、リーザスに保護を頼めば……」
「……妹より優れていると言う事を証明して見せなさい、サイゼル」
「カミーラが五月蝿いし探すしかないか~。さあリトルプリンセスは何処ッ?」
「くッ……幾らリトルプリンセス様とは言え我侭が過ぎる!! 急ぐぞメガラスッ!」
「…………」
――――今後 数多くのイベントが待っている事への危機感は、あの時点での俺は欠落していた。
●レベル●
ランス :49/無限
かなみ :42/40(+2)
メナド :36/46
ハウレーン :33/36
メルフェイス:42/48
ジュリア :31/38
●あとがき●
連休にマブラヴSSの続きを書こう思った直後2度目の風邪。残った僅かな時間にコレを書きました。
しかしチラ裏なのにコレだけ多くの方が読んでくれているとはsYレにならんでしょ……感謝です。
追記:セルさんの登場をゴッソリ省略しましたが、続くなら以後同じ事が多くなりそうです。