鬼畜王じゃないランス4
=LP03年04月3週目=
――――レッドの南東に位置する"ハイパービル"を見上げて俺たち4人は呟いていた。
「高いな~」
「高いわね」
「……高いです」
「たっかいね~」
――――そして十数秒の沈黙の後、右隣の かなみがコンコンと俺の鎧を軽く叩いて言う。
「これ……本当に登るの? ランス」
「ああ。頂上まで行くぞ」
「……出来るのでしょうか?」
「アイテムは出し惜しみしなくても良いし時間さえ平気ならイケる筈さ」
「はあ」
「只でさえ移動で丸2日使ってるからなァ、間に合わないなら潔く諦めるよ」
「……(それよりも、私の体が保つのかしら?)」
「でもぉ、何だか面倒臭そうだな~」
「言ってる傍からボヤくなよジュリア。またヌイグルミを買ってやるから」
「えっ、ホント!? だったら頑張るよランスちゃんっ!」
「はははっ。その意気だ、頼りにしてるからな~?」
≪ナデナデ≫
「えへへ~っ」
「……ッ……」
ハイパービル。その名の通り超高層ビルであり、地上201階にも及ぶ高さとの事。
このファンタジーな世界に何故こんなモンが存在するのか疑問だが、鍛錬には持って来いの場だ。
しかし"ランス3"の事は昔過ぎて覚えていないので、鬼畜王基準になってしまうが、
モンスターの質は"魔物の迷宮"と左程変わらない筈なので量を狩る攻略になるかもしれない。
そう考えれば俺と かなみダケにしないでメルフェイスとジュリアを連れて来たのは正解だったな。
道中で遭遇したハニー等の雑魚を相手させた時、実力を見てみたが2人の実力は本物だった。
されど大人しいメルフェイスはともかく我侭なジュリア(17)の士気を保たせるには手を焼いたが……
厄介な性癖を持つリアよりはマシなのでランスと違って俺はイライラもせず彼女を引っ張っていた。
よって今や自然にジュリアの頭を撫でたりしていると、かなみが見ているので小声で対応する。
「んっ? なんだ? かなみ、お前も撫でて欲しいのか?」
「!? ち、違うわよっ! それよりも、幾ら機嫌を取りたいからってそんな甘やかして良いの?」
「なんで?」
「出発してから"うし車"の中の荷物が増えていくばかりよ?(……そもそもランスらしく無いし)」
「そうでもないとヤる気になってくれないんだから仕方無いだろ?」
「で、でもアンタの性格って言うか……王様としてどうかと思うって言うか……」
「全く問題無い。じゃあ、とっとと行くぞ?」
「はぁ~い!!」
「分かりました」
「えっ!? ち、ちょっとランス!? 待ちなさいよ~ッ!」
……
…………
……攻略初日。ハイパービル25階。
「この階に敵は……居ないみたいだな~」
「随分と階層によってバラけが有るわね」
「じゃあ、早く次の階に行こうよ~っ!」
「あっ。ダメよジュリア、危ないわよ?」
いつの間にかメルフェイスがジュリアの姉orお母さんみたいな役割になっているのはさて置き。
面倒な事にハイパービルは一階一階が狭いので、次の階段に迄 辿り着くのには、
居合わせた敵を全滅させる必要が有った。……こんな様にモンスターが居ない時も有るけどね。
きっと1000人単位で攻略していた時は圧倒的物量で轢いていたんだろう。そりゃ楽な筈だぜ。
けど鬼畜王基準と違って50~100前後のモンスターは居たりせず、4人でも十分楽だった。
「まぁ、ジュリアなら一人で先に上がっても大丈夫だろうけどな」
「そうね」
「早くテッペンまで上がって、ランスちゃんにヌイグルミ10個買って貰うんだぁ~♪」
「多ッ!? せめて5個にしろジュリア!!(それに死亡フラグだろッ!)」
「……それでも十分多いわよ」
「(とても面白い方なのね、ランス王は……)」
――――こうして俺達4名の快進撃は続いてゆく。
……
…………
……攻略2日目。ハイパービル55階。
「ちっ! 多いがこの数なら……斬り込め、ジュリア!!」
「どっかぁ~ん!!」
≪――――ドドドドォッ!!!!≫
今回共に戦う事になったジュリア・リンダム。17歳としても童顔で小さな女性。
剣戦闘と盾防御の技能は"Lv0"と言う意味の無いスキルを持ち、高い才能限界(38)も宝の持ち腐れ。
されどハニーキングの改造により驚異的なパワーアップを遂げ技能も"Lv1"にアップした様だ。
よって今や親衛隊ご用達の細身の剣ではなく、リーザス正規兵が持つ長剣を装備し、
身長150センチにも満たない小柄な体で剣を振り回してモンスターを圧倒する騎士となった。
今も素早く斬り込んだジュリアが前衛のモンスターに剣の平を引っ掛けそのまま振りかぶる事で、
後方の魔法型のモンスター等をも巻き込みつつ吹っ飛ばし、そのまま息絶えさせる始末。
流石にタフなヤツは起き上がって応戦してくるが、其処は残りの3人がフォローすれば済む。
う~ん、まだレベル36の俺だとレベル18のコイツにも勝てないような気がするんだが……
やっぱりレベルのみでは相手の力量は計り難い。ジュリア程のスペックの人間なら尚更だ。
「片付いたわね」
「ああ。それにしてもジュリアの動き……かなみと同じ位 早い気がするんだが?」
「うぐッ……で、でも彼女には無駄な動きが多いもの。だから私ほどじゃ無いわ!」
「ぶ~っ、かなみちゃん酷ぉ~い」
「はははっ。馬鹿にされたくなかったら、しっかりと訓練を受けるんだな」
「え~っ、でもレイラちゃんと訓練すると疲れるんだも~ん」
「だったらリックを推薦してやろう」
「そ、それじゃ死んじゃうよ~ッ!」
「違いない」
「ぶぅ……ランスちゃんの意地悪!」
「でもジュリアは強くなってから、最近は真面目に訓練はしてるみたいよ?」
「そうなのか?」
「う、うん。"お空"じゃ最初は何も出来なかったけど、今なら頑張る分 強くなれるし……」
「あぁ~」
今の話によると一応ジュリアにも、以前は親衛隊の"お荷物"だったって自覚は有ったみたいだな~。
現代で言えば働かない国の役人を税金で賄ってる様なモノだし、そう考えてみるとムカつく。
けど今や立派にリーザスの騎士として王の俺を守る為に戦っている。何とも良い話じゃないか。
……しかしリア。凡人だったジュリアをイラーピュに派遣したのはどうかと思うぞ? マジで。
しかも親友の彼女の処女をランスに捧げさせる為に。いや真面目に考えると頭痛がするので終了だ。
「でも頑張りすぎると疲れちゃうから、ジュリアは今のままで良いかなぁ~って」
「別に良いんじゃないか?」
「……えっ?」
「少なくとも今は十分に"仕事"をしてくれてる……そうだよな? かなみ・メルフェイス」
「えぇ、間違いないわ」
「とても頼もしいです」
「だから訓練の話は冗談だ。この調子で頼むぞ~?」
「……ッ……わ、分かった! ジュリアに任せといて~っ!」
「ん!? おいコラ、だからと言って勝手に先には……!!」
――――元気付けが旨くいったか再び階段に走り出したジュリアを追って俺も走って行った。
「仕方ないわね……(もう違和感を感じるのも疲れたわ)メルフェイス様、行きましょう?」
「……ッ……」
「メルフェイス様?」
「何でもありません。それよりも王様とジュリアを……」
「は、はい」
「……(あんなに小さなカラダの娘が頑張っているんだもの。私も保つようにしないと……)」
……
…………
……攻略3日目。ハイパービル85階。
「え~いっ! いっくぞぉ~!!」
『!?』
≪――――ブゥウンッ!!!!≫
「あ、あれえっ? ……わっ!」
『たこやキーック!!』
ハイパービルのモンスターに置いて強敵なのが"たこやき"。1メートル弱の小型モンスター。
何故か"バグ"と言う仮面ライダーっぽい姿に変身する事ができ、手痛い必殺技を放ってくるのだ。
本来 変身する前に片付けるべきだが、小さいのでジュリアの攻撃を避けて反撃してくる事がある。
実際ジュリアは火力は圧倒的だがタフな方ではなく、防御は体格&レベル相応の低さな上に、
盾防御のスキルを持ちながら盾を持って居ないので食らえばダメージは必至なのだが……
「何いきなり蹴ろうとしてる訳!?」
≪――――ガコォンッ!!!!≫
『!?』
「ランスちゃん!?」
「ハイスラァッ!!」
『オンドゥルーッ!!』
俺が素早く割り込んで盾で攻撃を防御する。……流石はメイン盾は格が違った!!
思わずブロントってしまったのは さて置き。弾き飛ばされた"たこやき"を聖剣の一刀で倒す俺。
……そう。実を言うと俺は今回リーザス聖盾を持って来ており、皆を守る役割を担っていた。
火力はジュリアとメルフェイスで足りており、撃ち漏らしは かなみが居れば大抵は大丈夫。
勿論 俺も火力に含まれるが適材適所を考えると、どちらかと言うと守りに入った方が良かった。
今みたいに幾ら かなみでもジュリアの攻撃を避けた敵に対する対処はし難いのは確定的に明らか。
「大丈夫か?」
「うん。有難うランスちゃん」
「流石ですね王様」
「それほどでもない」
「……(け、謙虚なランスとか……)」
「世色癌が勿体無いしな」
「もうランスちゃんったら素直じゃな~い!」
――――ふむ。昨日からジュリアが我侭に対するフォロー無しに士気が高い様な気がするぜ。
「とにかく油断は禁物だぞ? 世色癌で傷は癒えても食らえば痛いんだからな」
「分かってるよ~それよりも、今の御礼してあげるっ! んん~っ!」
「どわっ!? 殲滅の確認が済んでも無いのに抱き付いて来るんじゃない!!」
「はいはい。ちょっと見て来るから其処で待っててね?」
……
…………
……攻略4日目。ハイパービル115階。
「数が多いわね」
「だが"この程度"の質なら……メルフェイス!!」
「はいッ! ――――氷雪吹雪!!」
≪ビュオオオオォォォォーーーーッ!!!!≫
ハイパービルの攻略が100階を越えた辺りでメルフェイスの中級広域 魔法が戦果を発揮する。
10階に一度は多くのモンスターが待ち構えている事が有るので、彼女が一掃してしまうのだ。
……かなみが曰く、メルフェイスの範囲魔法は往来の氷雪吹雪より一回りは威力が高いらしい。
考えてみれば連射してた氷の矢も殆どの敵を一撃で沈めていたので、今更 感が有るけどね~。
「残っているモンスターは居ないみたいね」
「流石はメルフェイスだ」
「ジュリアも魔法、使ってみたかったな~」
「……ッ……」
≪――――どっ≫
「えっ!? め、メルフェイス様ッ!」
「どうした!?」
「メルフェイスちゃん!?」
「…………」
「き、気絶してるみたいね」
「うおっ? 凄い汗じゃないかッ」
「もしかしてぇ、魔法でカラダの熱を~?」
「まさか其処まで……」
「とにかく今日は切り上げるぞ? かなみ、帰り木だ!」
「う、うんッ」
……
…………
……攻略5日目。レッドの街の宿屋・時刻は午前10時。
「……うっ……」
「おっ? 目が覚めたのか」
「!? お、王様……此処は……?」
「レッドの宿屋だ。急に倒れちまった時は驚いたぞ」
「す、すみません……足手纏いになる様な事を……」
「いや」
「本来 私が王様を守らなければいけない立場だと言うのに……」
「だから」
「いっそ私の事など置き去りにして頂いても……」
「待て待て待てッ! 幾ら何でもネガティブ過ぎるだろそれは!!」
「で、ですが私は……その……」
「事情は かなみから聞いた」(キリッ)
「!?」
勿論 最初から知っていたが、再度かなみにメルフェイスの"呪い"について聞き出している。
率直に言えば彼女は故郷を賊から守る為に禁断の秘薬を飲み、強大な魔力を身に付けたのだが、
薬の副作用で2ヶ月に一度は自分より強い男に抱かれなければ狂死してしまうのだ。
よってエクスが居ない今"この流れ"だと確実に俺が"強い男"の役割を担う事になるだろう。
正直こんなトップモデルみたいな長身の金髪美人を抱けると思うだけで股間が疼いてたまらない。
されど彼女にとっては冗談では無いだろうし、真面目な顔を必死で作って話を進める事にする。
「もう抱かれないで、どれ位になるんだ?」
「……ッ……1ヶ月以上になります」
「!? だったら余程 我慢してたって事になるんじゃないのか?」
「はい……時間としては手遅れで無いですが……王様に無礼な姿を見せる訳にはいきませんし……」
「今は?」
「目覚めたばかりな為か抑える事が出来ていますが……徐々に"別の私"が来て……くぅッ……」
「…………」
自分の体を抱きしめる様にして俯く、ネグリジェ姿で上半身を起こした状態のメルフェイス。
彼女の看護をした見当かなみは一週間の途中経過を伝えに、リーザスに戻っているのはさて置き。
メルフェイスは有る程度 抱かないと淫乱になるんだが、その状態の彼女は全くの"別人"になる。
彼女で有って彼女では無く、セックスを終えて人格が戻ると事を思い出しては死にたくなる程だ。
今までの戦いを振り返ってみると極めて真面目だった彼女を考えると、それも無理はないな……
だから王様である俺に淫乱な自分を見せまいと必死で"別の自分"を押さえ込んでいたんだねェ。
エクスが俺の元に彼女を置いた時点で隠しても無駄だと言うのに……あれっ? だったら何で……?
「だから王様ッ! ……こ、これ以上……私の事は気にしないで……」
「いやだから待てって!! なんでそうなんだよ!?」
「えっ?」
「すまない事を承知で言うが、今考えるとエクスは君が俺に抱かれる事を承知で寄越したんだろ?
なのに何故 倒れるまで我慢してたんだ? ましてや、そんな大事なコトを今迄 隠してるなんて」
「そ、それはッ」
「だったら秘密 以前に俺は死んでも抱かれたくない程 威厳も実力も足りない男だったってのか?」
「――――!?」
「確かに君に"見分けられる"んだったら、それも仕方ないかもしれないけどなァ」
「そ、それは違いますッ!」
「じゃあ何で?」
「今までの戦いから……ランス様は王として……だ、男性としても素晴らしい方でした……
常に私達の状態を気遣い……戦いでも身を挺して仲間を守り……助けられたのは私達です」
「……(あれ~? 何で評価高いの?)」
「そんな王様に……私の淫らな姿を見られるのが……耐えられなかったんです……」
「な、成る程。――――だったら遠慮は要らないワケか?」←後者は小声で
「はい?」
「いや何でもないぞ」
「はあ」
「それにしても……メルフェイスはアホだな」
「あ、アホ?」
「仲間を気遣い身を挺して守る。そう捉えられた俺が君を狂死させられるワケが無いだろうが!」
「!? じ、じゃあ王様……」
「俺は君の命を繋ぎ止める為に抱く。問題無いな?」
「……ッ……はい、有難う御座います……」
「礼なんて必要無いさ」
「――――でも」
「今度はなんだ?」
「い、いえ……何でも有りません……(情が移ってしまいそうで……怖いかもしれない……)」
……
…………
……2時間後。
「メイルフェイス、起きてるか~?」
「はい……起きています」
「カラダの方はどうだ?」
「もう何とも有りません。本当に有難う御座いました」
「だから礼は良いって。むしろ俺も溜まってたしな(……ランスの肉体の所為で)」
「ふふふっ、そうだったのですか」
「おっ? 何気に初めて笑ったのを見た気がする」
「!? ……こ、これも王様の御蔭だと思います」
「何故に」
「あんな気持ちで抱かれたのは……久しぶりでしたから」
「あんな気持ちって?」
「そ、それは言えませんッ」
「ちょっ」
メルフェイスのカラダは一度 果ててしまえば、それでカラダの疼きは止まってしまう様だった。
されど俺の興奮が全然 治まらなかったので、トコトン彼女の体を堪能してしまったのでした。
きっとランスの肉体だったからだと思うよ? うん。……んで今現在は裸で肌を重ねてたんだけど。
彼女の言葉に疑問を感じた直後、メルフェイスは背を向けてシーツに包(くる)まってしまった。
まぁ~笑顔が戻ったので有ればソレで良しとする事にしよう。ついでに強化も施されていれば完璧!
「とにかく、明日からもまた頑張りますからッ」
「期待してるぞ~? まぁ少し休む事にしようか」
「は、はい」
「そしたら街に出てるジュリアと合流して昼食ってトコだな~」
「……(エクス将軍……私は御命令の通り、この方に付いて行こうと思います……)」
そんなワケで幸いメルフェイスを抱け、こんな流れで4月の3週目が終わろうとしていた。
ハイパービルの攻略は順調だし……余裕を持ってリーザス城に戻る事が出来るだろう。
後の課題は此処でのレベルの底上げと、魔剣カオスの入手だ。後者が特に重要と成るなァ。
「(う~ん、一人で買い物してもつまんない。やっぱりランスちゃんと一緒が良いよ~)」
「(才能限界になったし、またランスに……でも今はメルフェイス様と……もうっ!!)」
――――ちなみに再会したジュリアと かなみは機嫌が悪そうだった。ランスの神経が羨ましいぜ!
●レベル●
ランス :40/無限
かなみ :40/40
メナド :36/46
ハウレーン :33/36
メルフェイス:33/48
ジュリア :22/38
●あとがき●
この駄作をサイトで紹介してくださった方が居たのが嬉しくて、また続きを書いてしまいました。