鬼畜王じゃないランス27
=LP03年07月1週目(月)=
クルックー・モフスを客人として迎え、侵攻の方向性が纏まってから一週間。
俺は"それなり"に忙しい時を過ごしており、主にリーザスの騎士や貴族との謁見を中心に行っていた。
だが初っ端に殆どの課題を消化してしまったので、別に拘束時間は大した事は無い。
今となっては午後に2時間程 使うのみで良く、午前は自由にリーザス城内を動き回れていた。
もし書類整理が有れば そうはいかないだろうが、全て口頭で済んでしまう辺りマリス様は偉大である。
また"王様"という立場から表現が難しいが、全てが俺を中心に回る様むしろ周囲が気を遣ってくれていた。
対してソレを当たり前の様に労うダケで逆に感謝されてしまうのだから、ストレスが一切無く極めて気が楽。
しかしながら、魔人関連等の選択肢を間違えれば世界の崩壊を招く重要な立場なのを忘れてはならない。
"魔王を犯すべからず"と言う単純な事から始め"ラ姉妹を破壊神化させてはならない"と言う認知度が皆無な件。
更には"2人の忍びに将軍を暗殺されない条件"等、原作の様にピンポイントで気を付けていれば済むのでは無い。
極端だが女性への対応によってはエレノアだけで無くウィチタや謙信に自害されてしまう可能性も有り得るのだ。
そう考えれば無限に不安要素が浮かんで来てしまうが、行える事も多種多様なので旨く相殺する他ないだろう。
よってヘルマンやゼスみたいな酷い国を"立て直す所"から始めなくて済んだダケでもマシだと思うべきである。
「…………」
「…………」
≪――――ペラッ≫
「うぅ~む」
「…………」
そんな現在は暇である午前のひととき。
俺はリーザス城・(殆ど自室だが)別室のデスクの前で唸っていた。
基本的に"こう言う事"をする時は寝室では慣れない為、ソファーも完備されたオフィスみたいな造りにしたのはさて置き。
目の前には主に通信販売を中心としたカタログが積み上がっており、甚大な個人資金の使い道を考えているのだ。
ちなみに部屋のソファーの端にはファッション誌に目を通している かなみが座っている。
リアと彼女とメルフェイス……サイゼルは立場的に残念だが……前述の3人は用が無くても自由に入室を許可している。
よって常に護衛も兼ねているかなみは、誰も訪問者が居なければ天井裏に潜むよりも部屋の中に居る事が専ら多い。
だがマリスやウェンディが用事・仕事でノックをすれば瞬時に消えるので、己の立場は十二分に理解していた。
「それにしても15億ゴールドかァ」
「正確には1億減って、14億1144万ゴールドだ」
「1億はマリアさんの研究所の建設費だっけ?」
「最初は財政的に5000万と言ってたんだが、予想以上に余裕が有って2倍にした」(原作では9800万ゴールド)
「う~ん……リーザスの必要予算を全部 差し引いて……余裕を持って使える資金が何処に其処まで……」
「早い話 魔人に対しての戦果や侵攻による領地の話を聞きつけて、貴族達から大量の融資が来たからだ」
「確かに"家"によっては使い道に困ってる程 裕福な所も多いしね」
「あァ。ヘルマンやゼスだと趣味の悪い娯楽が多々有る様だが、リーザスは極めて厳しく規制されてるからな」
「リア様は本当に極端だからね……どんな人でも発覚したら重さによっては死刑か、良くても財産の大半を没収するから」
「うむ。俺としても罪人には情けは無用みたいなことを煽ったら、リアの奴 更に遣る気に成ってたぞ」
――――"極めて厳しい"と言えば、副将の立場で有りながら一瞬で解雇された加藤や処刑されたキンケードやザラックが良い例だ。
「ランスも大概だったと思うけどな~。今更 野暮だとは思うけどね」
「痛いトコを突くな……と言うか最もだが……残念でした。王に成った時点で迷惑を掛けた連中には十分な金を払ったさ(予算で)」
「うぅう。私の免罪にも回して欲しい~ッ」
「別に構わないんだが、かなみの場合は実力で諦めさせるのも良いだろ。今じゃ殆どの忍者相手でも負けない筈だ」
「う~ん。身体能力は上がっても技術的には まだまだよ。速さに頭が追いついて来なくもなってるし、もっと精進しなきゃ」
「(限界反応ってヤツか)俺としてもリックの速さに剣が追いつくかってトコだし、強くなっても課題は多いよな」
「そ、そうね」
尚 大量の資金は俺のさり気ない発想が"こちら"には非常に斬新で、特許みたいなのが多く発生した事も極めて大きい模様。
マリスに さり気なく不便だった事や便利な道具のアイデアを告げたダケなのだが、知識の指輪のブーストの恩恵だろうか。
当然 世界観をブチ壊す様な考えは怪しまれるので出していないが、容易に儲けを期待できるからか貴族達が目を輝かせたのだ。
更に罪人に対する予算は"元の世界"と違い僅かにしか使ってない等 やはり税収が費用を大幅に上回っている事に他ならない。
言っちゃ何だがリーザスの政治の旨さ・騎士達の国に対する想いに比べたら、日本の遣り方なんぞ比較にならないレベルである。
常に発生するモンスターや法律に縛られない人間達による死人の多さが欠点だが、リーザス圏で真っ当に暮らす者の未来は明るい。
しかしながら。大量に資金が有っても才能限界値や所持技能のレベルを上げられるワケでは無いので、使い道が見当たらない。
"まんが肉"など身体能力の基本値を上げるアイテムが有れば大量に買いたかったが、残念な事に永続的なモノは一切無かった。
同名なのは 存在せど摂取による効果は無く、戦闘時に1個所持する程度な上に効果が数値アップ扱いでLv上昇で恩恵が薄れてゆく。
最大Lv10程度が当たり前な一般人には"まんが肉の骨"だろうと大人気らしいが、仮に最大HP5000が50上がろうと雀の涙であろう。
よって考えた挙句やはり"魔法研究所"をマリアの施設と両立して建てられないかとマリスに変更させる事を思い浮かんで立ち上がる。
言い忘れていたが、リーザスに戻った直後はチューリップ研究所が魔法研究所より需要が高いと感じ優先させる事にしていたのだ。
しかしJAPAN侵攻にはどっちにしろ間に合わないし人員を両立させ、魔力上昇を永続させる事が出来る後者も同時に建てるべきだろう。
さて かなみと話していた事で自然と椅子と体を彼女の方に向けており、立ち上がった"ついで"に思い浮かんだ事を口にしてみた。
≪ガタンッ≫
「ところでかなみ。何か欲しいモノとか無いか?」
「!? ど、どうしたの唐突に」
「考えてみりゃリーザスには何でも有るし、俺が必要な商品は無かったからな。今の所だが」
「えっと、えっと……」
「遠慮は要らないぞ?」
「……えッ……遠慮は要らない……?」
「そうだよ」(肯定)
「だったら私は……"これ"の方が良いかな」
――――俺の質問に ふと"欲しい物"を思いついたらしい彼女は、静かに俺に近付くと何と股間に手を添えてきやがりました。
「えッ? それは……」(MYN)
「率直な希望よ? い、今一番欲しいモノって言ったら……」
「正直で結構」
「それじゃあ……」
「(マリスに用が浮かんでるんだよなァ)」
≪ビシッ!≫(デコピン)
「痛いッ!」
「生憎だが朝ッぱらから盛る気は無いんだなコレが」
「え、遠慮しないでって言ったのに~」
「だが叶えるとは言ってない」
「何気に酷ッ! でも地味に痛い……グスン」
「悪い悪い。急に魔が差してな。マリスに相談事を思い出したから、それが済んだら何にだって付き合ってやるよ」
「!? だ、だったら買い物に付き合って欲しい!」
「良いぞ。金に関しては問題ないのか?」
「何でか先月の お給料が2倍になってたし大丈夫よ」
「(そりゃアレだけ働けばな)……そうか。じゃあ先ずは俺に付き合って貰うぞ」
「は~い」
――――結局 魔法研究所との両立は施設のみ優先・人選は先送りにする条件で飲んで貰い、このあと滅茶苦茶 買物させられた。
……
…………
……数日後。
俺は相変わらずノンビリとした日々を送る事が出来ているが、城内は相変わらず忙しない雰囲気なのでマリス様々である。
その間で既にカスタム軍・JAPAN軍は既にリーザスに到着しており、現在は軍事費を惜しみなく投資し軍の再編成中だ。
うちカスタム組はリーザスに従軍経験が有るので自然に受け入れていたが、JAPAN組は高待遇に面食らったのは言う迄も無い。
本来であれば新参者が何故 将軍位を……とでも思うのが当然だが、俺が認めてしまえば誰も文句を言わないので凄まじい忠誠だ。
だが肝心な将軍が弱ければ加藤の様に陰口くらいは叩かれるとは言え、現在の謙信はレベル50なのでリックとも引き分けるだろう。
それに直江・南条・大道寺も各副将に匹敵する優秀さなので、聞いた話リーザスの騎士達にも一目置かれ期待されているとの事だ。
無論 女武士ばかりとは言えリーザスには親衛隊と言う女性部隊が在るので、彼女達が最も懸念していた男女差別も存在していない。
よって初っ端の謁見&困惑を終えてからの直江達の士気は鰻登りであり、再度 会うのは編成が一段落してからにした方が利口か。
「あッ。ランス」
「ランス様……」
「サイゼルにメルフェイスか。どうしたんだ? 2人で」
「あたし達は今から買い物に行くの!」
「急にサイゼルが洋服が欲しくなったと言いまして……付き合う事にしたんです」
「ふむ。そういや服装を変える概念すら無かったんだっけか? 元が人間なら話は違うらしいが」
「そうなんだけどねェ。何気にメルフェイスって、こう見えて結構 色々と可愛い服 持ってたりすんのよ? 正装が大事とか何かでランスの前じゃ恥ずかしくて着れないみたいだけど、そう言うの眺めてたら あたしも何となく欲しくなっちゃってさ~ッ。特に下着とかつけると男ってエッチの時 興奮するんでしょ? だったら あたしも肖ってみるのも良いかと思って」
「さ、サイゼル!?」
「ほほぉ。前者は初耳だな。興味深い(後者に関してはスルーするが)」
「そんでランスは何してんの?」
「謁見の間に行く途中だ。緑の大将代理と副将の都合が付いたらしい」
「ふ~ん。一緒に連れて行ってアゲても良かったのに」
「もう……何を言うの……買い物より余程 大事な公務でしょう?」
「はははッ。流石に下着売り場の入り口で立ってる罰ゲームは勘弁だな」
「まァ、ボチボチ相手してよね? 何ならメルフェイスも一緒でも良いからッ! それじゃ行こ~♪」
「えっ? だから引っ張らないでって……す、すみませんランス様。私も何時でも待ってますのでッ」
「おゥ。周囲の温度調整はくれぐれも忘れるなよ~?(やっぱ何件か苦情も来てたし)」
何時もの様にリア&マリスが待っている謁見の間に赴く途中、偶然メルフェイスとサイゼルの2人組に遭遇したのだが。
俺がサイゼルを抱いた事でメルフェイスと彼女の確執を多少だが懸念していたが、考える迄も無く互いの仲は良い様子。
この時点でJAPANへの同行は確定しており、念の為に聞いてはいたが何も言わずとも向こうから促されるのは間違い無い。
けど他の旅のメンバーの承諾は俺の要領の悪さで受けていないので、携帯電話も無しに組織的に動ける城の連中に感心する。
気軽に会いに行ける立場ならとっくにエレノアやアームズにJAPAN行きを持ち掛けてるが、地味に予定が組み難かった。
だがサイゼルとリーザスに飛ぶ前に言葉を交わした際、再度の同行を軽く煽ると前向きな意見を聞けたので返事は期待したい。
だとすれば次は目先の事に集中するべきだと考えた俺は、何時の間にか到着していた謁見の間でリア&マリスと合流した。
「マリス。先ずポルトガルとロックアースについての状況は?」
「どちらも問題なく吸収済みです。またランス王の命の通り、ブルーペット商会・DXの会の所業は黙認しております」
「良しヨシ」
「でも放って置いて良いの~? 自由都市じゃ好き勝手やってたみたいだし、リーザス領の税収にも影響が出るんじゃ?」
「その筈なんだけどな。奴等はグレーな悪事も遣ってるが、ライバルや愚かな富豪を落とし込む事の方が目立つんだよな」
「つまり他は多額の損を被りますが、我々の収入への影響は殆ど無いと言う事に成ります」
「だけど酷い事をしてるんじゃッ」
「あァ。以前のリアみたいな事をヤらかしたのを掴んだら罰を与えるし、侵攻を邪魔する様だったら組織ごと潰してやるさ」
「一応 目立った悪徳は行わぬよう警告はしていますが、リーザス側に付かせると何かと有用なのも事実ですからね」
「偽善も良いトコだが他国に取り込まれるよりは圏内で泳がせる方が利口と判断した。何にせよ今は二の次で考えて良い」
「ふ~ん……ダーリンとマリスが そう言うんだったら気にしないよ」
「では続きまして。ロックアースに駐屯中の赤の軍は、続いてアイスの街に向かう予定です」
「書状では良い返事を貰ってるみたいだし、問題は無さそうだな」
「はい。ごく僅かな反対意見も有る様ですが、赤の軍を見れば考えを改めるでしょう」
「反対意見が出たのは……主に俺が原因かもしれんが些細な事か。闘神都市のサーナキアに関しては?」
「率直な話 闘神都市に流れ着いた難民への援助と少数ながらの自衛団の再雇用を条件に面会を承諾して下さいました」
「資金に関しては そのまま飲んでやれ。んで雇用ってのはリーザス兵として再度 闘神都市を守るって解釈で良いのか?」
「そうなります。ですがサーナキア殿は副将としては未熟なのでは……と言う話を使者を兼ねた騎士より耳にしています」
「初っ端にオマエが腕を認めた"上杉謙信"も一ヶ月前は確実に"それ以下"だったんだ。余計な心配はしなくて良いんだぞ?」
「申し訳有りません。出過ぎた事を口にしました」
「別に謝る程じゃないぞ」
「恐縮です。尚 面会は5日~7日後の間になるでしょう」
「何時でも構わないさ。アールコート・マリウスについてはどうなんだ?」
「ダーリンの推薦が有ったし調べたら、ホントに使えそうな娘だったみたいだね~」
「はい。まだ14歳ながら飛び級で既に学院の全課程を終了させてしまい、今や来年より何処に勤めるかの段階だったそうです」
「そりゃ凄いな。まさに秀才か」
「しかしながら。リーザスの核心に迫る位置付けと成るには家柄も非常に重視される為、彼女に置いては苦学生な上に性格が極めて大人しく・消極的な事もあって完全にノーマークでした。現時点では僅かな商会が"多少は使えそうだ"と目を付けた程度でしたね」
「女子の仕官学校でも出来りゃ話は違ったかもしれんがな」
「はい……身分を問わず優秀な学生を募り、仕える人材を育成する中 彼女が現れれば確実に"天才"と言われ御耳に入ったと思います」
「苦学生らしいが何故なんだ?」
「御両親が借金を抱えていて奨学金をも費やしており、そのままでは卒業できないと言う事態にまで陥っていたそうです。しかし社会経験が不足しているアールコート殿に働く勇気は無かったそうで、課程を全て終えてからは一日中 内職をして過ごされていると」
「親御さんってのは全うな人間なのか?」
「人が良い事で近所で有名だそうですが、其処を心無い者達に突かれ今に至るそうです」
「小癪な奴等も居たもんだ。折角の才能を社会に出る前に潰してどうする気だ?」
「愚かな者達の考えは分かりかねますが、彼女の周囲では家を潰した後に何処が拾うかと言う話が交わされていたと」
「な、何だか(原作より遥かに)複雑そうじゃないか。じゃあ結果だけ教えてくれ」
「はい。マリウス家はリーザスの多額の資金援助により安泰となっています」
「周囲で邪魔して来てた連中は?」
「一家にはともかくリーザスにとっては何の隔たりでも有りません。妨害は一蹴し法を犯していたならば厳正に処罰しました」
「まァ、そうなるな」(日向)
「女の子の方はどうなったの~?」
「援助に当って少々テコ入れを行わせて頂き、彼女はランス王"個人"への恩を強く感じております」
「将軍として迎え易くしてくれたってワケか」
「出過ぎた真似でしたら御詫び致します」
「気にするな」
「有難う御座います。ですが気持ちの整理等を行いたいとの事で、謁見までには少し時間が欲しいと希望されておりました」
「全く問題ない。出来る限りサーナキアとのタイミングに合わせて置いてくれ」
「畏まりました」
サーナキアとアールコートについて俺は何もしていないが、上手に接触し俺との話に漕ぎ着けてくれているようだ。
ならばしくじらずに正式に将軍として働いて貰う様に促す以外に無いが、マリスの計らい有るし大丈夫だと自信を持ってゆこう。
よって2人の話題は終了となるが、次に俺が気にするのは例の"彼女"の事……もはや"こう言う場"では毎回 聞いてる気がする。
"魔王"や魔人がリーザスに居ても問題を起こさない事は最初から知っているが、原作知識で知らなければ報告が全てなのだから。
「クルックー・モフスに関しては変わりないか?」
「一度カイズに手紙を出された程度で目立った行動は皆無です」
「それなら良いが……」
「もうッ! ダーリンったら その娘の事ばかり気にする~!」
「返す言葉も無い」
「後はランス王が自ら確認された件 程度でしょう」
「あァ……リックと模擬戦した時だったっけか……」
……
…………
……少し遡りクルックーとの対面・及び将軍達との会議を終えてから3日後。
約束通り俺はリック・アディスンと戦う予定を組み、模擬戦と言うか稽古みたいな事をする機会を作った。
それに当って幾ら赤の将軍と言う立場であれど、模擬戦であれ王様を叩きのめす様な行為は許されない。
だがリックにとって"そんな気"は毛頭無く、ガチで尊敬している"ランス"と修行し切磋琢磨する事が至高の喜びなのである。
対して原作のランスが彼と現在のレベルが大して違わなければ本当に"疲れそう"なので、断った気持ちも分からなくは無かった。
「ハァッ! ウラララララーーッ!!」
「ちィッ! くッ……うおおォっ!?」
≪ガキッ! ガキィンッ! ガコオオォォンッ!!≫
さて置き今はリックの全力の剣撃を必死に抑えている真っ最中で、興味本位で受けてはみたが案の定とんでもない消耗である。
レベルが上がるに連れて、最も"伸び"が緩いのは"速さ"と言える事から20のレベル差が有ってもスピードに大きな差は無かった。
何故か目で十分に追える様には成っているのだが、なかなか腕が追いついてくれず打ち合いではリックの技量の高さに為す術ない。
「ラアァッ!!!!」
「98・99・100です」
「良しッ! 受けきったぞ!? 今度は俺の番だ!!」
「……いざッ!」
「どりゃああぁぁッ!!!!」
≪ガキイイィィンッ!!!!≫
よって俺が太刀を受ける回数を予め決めて置き、クルックーが100を数えるとリックが攻撃を止め俺の反撃の一撃を受ける。
それによってリックは練習用の剣で防御した体勢のまま吹っ飛ぶと、途中で受身を取って着地した。
スピードは互角でテクニックは彼に分が有るが、パワーは断然 俺の方が上であり今の攻撃は避ける方が無難だろう。
だが"今回"は前述の様に100回打ち合いをしたら俺が攻勢に出るので"リックは防御以外はしない"と言うルールを決めていた。
もし"200回で反撃"と言うルールだったら途中で集中力が切れてしまい、彼の剣圧に押し込まれてしまうのは間違い無い筈。
何せ既に何度か100回に到達する前に胴や肩に重い一撃を食らって中断しており、更に鍛錬を繰り返さないと無理そうだからだ。
最初から部位にダメージを貰っても力押しに徹すればリックを倒す事は容易だろうが、実戦で代償として手足を失ったら困る。
そんなワケで俺は余り行っていない防御・リックも同様に敵の捨て身に対応しての咄嗟の防御の技術を磨く事で同意していた。
何と言うか……剣の鍛錬なんぞ一度も行った事が無かっし、今回の訓練メニューは本当に"何となく"考え付いたに過ぎない。
学生時代の剣道・柔道の2択も後者を選んでいたのは余談として、初っ端から俺が全力でリックの防御ごとブチ抜くのは気が引けた。
結果この様な単純な稽古しか考え付かなかったんだが、肝心なリックが意気揚々と臨んでくれた事が全ての不安を打ち消している。
「ふぃ~ッ、やっと凌げたか」
「御見逸れしました。キング」
「しっかし一撃で"そのザマ"とは、ちゃんと飯食ってんのか~?」(震え声)
「予想以上の"重さ"で驚いた次第です。一瞬 意識が飛びかけましたよ。それにしても……もう手の内を読まれてしまうとは」
「いや100回ダケだから何とかなったに過ぎない。技術はまだまだリックの方が上だろう」
「恐縮であります」
「さてと。もう一本付き合ってくれ」
「よ、喜んで!」
「……回復は必要でしょうか?」
「俺は必要無いな。リックは?」
「自分も大丈夫です」
「だそうだ。最初は何度も回復を掛けて貰って助かったけどな」
「……いえ」
この時 何故クルックーが居たのは俺が訓練の様子を見ないかと招待したからである。
その際 攻撃を受けた時の治療を申し出てくれたのは予想外だったが、軽い打撲とは言え瞬時に治せるモノなのだろうか?
考えて見れば彼女は"法王"なので神魔法Lv2~3は間違いなく有りそうな為、フリーの冒険者として拾えないのが本当に悔やまれる。
しかし"手紙"の事を何となく聞いてみたら、心当たりの有る女性ヒーラーを一人紹介してくれるとの事で期待せざるを得ない。
テンプルナイトの派遣に関しては長い時間が掛かってしまうみたいだけど、今のリーザスの軍の規模に文句は無いので些細な事だ。
さて置き。この後もリックとの稽古を行う中、何度も"例の笑み"の威圧感に負け一撃を貰う事も有ったが彼は大変 大満足してくれた。
尚 他軍は既に出払っており殺到した見学者の殆どは秘密厳守を徹底できる"赤の騎士"で有った為、法王の同席も問題も無かった。
よって"やはりランス王は強かった"と言う結果ダケが残り、クルックーの存在感より俺とリックの激しい戦いの方が目立った模様。
俺としてもリックとの稽古で得れた物は多く、法王に関しても全く怪しい素振りは見せなかったので安心していたのを思い出した。
「(王や将軍を始めとした軍全体の質の高さに加え、リーザスに協力する魔人……コレは予想していた以上の……)」
……
…………
「ダーリン?」
「ランス王?」
「ん? あァ……特に気に成った点は無かったなと」
「それはそれで怪しいけどね~ッ」
「……とは言え迂闊な接触は避けた方が良いかもしれませんが」
「そうだな。もう暫く様子を見るか」
――――ちなみに火星大王の行った"交信"みたいな事さえ見逃さない様に徹底させているので、今は本当に何もしていないのだろう。
「それよりも話はコレで終わったんだよねッ? 早くリアとお散歩行こうよ!!」
「御疲れ様でした。ランス王」≪ニコニコ≫
「そっちこそな。引き続き……って引っ張るなリア~ッ」
……
…………
……時刻は夕方の18時。
リアとの寛ぎを終えた後、午後の謁見もこなした俺は適当に城を抜け出し、かなみを伴いリーザスの城下町を歩いていた。
目指すはエレノア・ミル・アームズ・ウィチタと待ち合わせしている場所であり、適当な庶民の飲食店をチョイスしている。
その際 先日でのサイゼルとの2人旅の時の様に、カモフラージュとしてかなみに片腕を絡めさせているワケだが。
最初は"謁見の間に呼べば良いのに"と僅かにゴネていながら、この動作を指示すると直ぐに機嫌が良くなったのは言う迄も無い。
まァ彼女の言い分も最もなのだが、各々を一人づつ呼ぶとなると"それなり"の時間が掛かる上に影で意外と人も動いてしまう。
現代の政治家の討論程の経費は掛からないが、俺が赴けばタダだし何より独裁政治なので一人で動いて決める方が効率的なのさ。
要は高いを金を掛けても俺や衛兵が"めんどくさい"か逆かの違いしか無く、他の目も有り好きな会話が出来ないなら前者を選ぶ。
……と、そんな御託を並べているモノの……実は最大の理由は謁見の間の雰囲気にエレノアの精神が飲まれそうだったからである。
原作では初っ端の"ウッ!"で印象深い陽気なBGMとランス&リアの性格で砕けたイメージが有ったが、全然そんな事は無かった。
謁見の間には俺が居なくても常駐している親衛隊が(良い意味で)気張っており、当然 他の人気が無いので広さも合わさり殺風景。
最初は左程でも無かった気がしたがサイゼルの襲撃による影響が大きく、何時 特変が起きても良い様に謁見中でも警戒している。
そんな慣れないウチは空気が重く感じる場所での謁見などミルは当然、アームズも柄じゃ無さそうなので止めて置く事にしたのだ。
「さて此処の店だが……随分と人が多いなァ」
「それが狙いなんだから仕方無いわよ」
「御尤も。エレノア達は何処か分かるか?」
「アソコの角ね。見える? わざわざ目立たない場所を選んでくれてたみたい」
「うん? それっぽいのは見えたが……(何か違和感が)」
「と、とにかく行きましょう。案内するからッ」
そう言う かなみに右手を引っ張られて歩みを進めると、待ち人を常に探していたっぽいミルが いち早く接近に気付いた。
だがエレノアに口止めされているのか"ランス"とは叫ばず、コッチコッチと立ち上がって手を振るのみで地味に助かる。
一方 当初は立ち上がって頭を下げたりもしたウィチタと苦労人のエレノアは軽く会釈をするのみで、アームズはと言うと……
「よう。既に揃ってたみたいだな」
「うん。ランス君。こんばんわ」
「(ランスッ!)おっそ~い!!」←前者は小声
「先日は本当に御疲れ様でしたッ。無事 戻られた様で何よりです!」
「ありがとう。皆で戻る際 特に何も無かったと言う事は聞いている」
「ねぇッ。今度は何処に行くの~ッ? その為に呼んだんでしょ!?」
「まだ気が早すぎるっての。お~いッ! 姉ちゃん、ビールくれ!!」
――――元々酒に弱いランスだったが、徐々に嗜んでゆく事で体が慣れてくれ今は普通に楽しめる。(飲み過ぎる気は無いが)
「お、お酒……?」
「何か問題でも? 飲めるなら遣らんと損だぞ~?(都市長の頃は全く飲んでなかったみたいだし)」
「エレノアさんって倹約家ですよね。今も一人だけ水を飲んでるし。私は……を御願いします。彼女にはコレを」
「あ、有難う かなみさん」
「"かなみ"で良いですって」
「……ッ……」
「それよりも"見慣れない"娘が居るみたいだが?」
「むぅ。貴方まで"そんな事"を言うのか?」
直ぐに運ばれて来たジョッキに口を付けつつ視線を"最後の一人"のアームズに移すと、其処には まるで別人の様な美女が居た。
頭のヘアバンドは変わっていないが、武器は勿論マントと軽鎧が外されており今はオレンジのノースリーブとショートパンツ姿。
更には此方から見て右の頭のモコモコの所で長い銀髪をサイドテールにしており、僅かに眉を落とした表情が何とも言えなかった。
「すまない。今のは冗談だが、こりゃまた何でだ?」
「……悪いが少し疲れていてな……」
「エレノア」
「えッ? えぇっと……アームズ。結構 有名な人だったみたいだし、あの姿だと握手やサインを求めて来る人が多くって」
「ふむ……(呼び捨てだと?)」
「そっか。地方の宿だと近付き難かったけど、大勢で群がれば怖く無いって事かもしれませんね」
「間違い無いと思います。私でもアームズさんの名前くらいは知っていましたからッ」
「へぇ。ウィチタもか……」
「暫くは都会に近付いてすら無かったみたいだから、予想外の反応だったみたいで困ってたの。それで私が……」
――――尚アームズはエレノアより1つ年上の23歳らしく、何時の間にか互いに良い友人として落ち着いた様である。
「成る程。目立つ"装備"を外す事でイメージ・チェンジを計ったワケだが……」
「……別の意味で視線を集めちゃったんですね」
「(うぅ。本当に綺麗なのよね……私も後3年くらい経てば……?)」
「あ、あははッ。特に問題無かったら、後で私の服でも貸そうと思ったんだけど」
「止めて置いて正解だったな……理由(ナンパ対策)はイチイチ言わないが、エレノアの"催眠"も役に立ったんじゃないのか?」
「!? それは~」
「あァ。エレノアには色々と助けて貰った。今や私の恩人だ」
「使ってたんかい。だが少し見ないウチに、結構 仲良く成ってたのか」
「エレノアさんは料理と お花の知識に長けていて、私も色々と学ばせて頂きました!」
「ウィチタとも良い関係を築けてて何よりだな。流石は元都市長(……重圧が消えてからの冒頭は、なかなか良い滑り出しか)」
「別に私がどうかじゃなくて、皆が良い娘なダケだよ」
「エレノア本人も含めてな」
「あぅうッ」
「ともかく本題は少し食ってからにするか。始めちまってるのも居るし」
「モグモグモグモグ……」
「そ、そうだね(ミルったら)」
「……(嗚呼……お呼びは掛かったけど結局は力不足だったし、流石に次回の旅には……)」
「おい。ウィチタ。好き嫌いは無かった筈だよな? よそってやるから遠慮なく食えって」
「!? す、すみませんッ。恐縮です!」
安易に想像できると思うが、リーザス城下町に限らず"この世界"の人間達はピンキリとは言え男女共に美形の比率が全体的に高い。
この俺(ランス)の容姿に勝る男はリーザス騎士に沢山居るし、親衛隊に"見た目"が原因で落とされた者の顔を見て驚いたりもした。
しかしアームズの美しさは"それら"を凌駕するレベルであり、着飾りでもしてたら大変な事に成った筈。(尚リアは最高水準の容姿)
だが"この世界"での美女・美少女にイチイチ驚いていてはキリが無いドコロか既に満たされているので、直ぐに俺は話題を変える。
すると明らかにホッとしたような一瞬の表情に少しヤられたが、気持ちを切り替えて面々から今の状況を聞き出す事にしてみた。
「そう……今度はJAPANに行くんだ……」
「うむ。次回も迷宮に潜るのがメインに成るな」
「でもリーザスはJAPANに侵攻するんでしょ? そんな暇有るの?」
「何とか作るさ。戦争するにしても別に王が先陣を切るワケじゃ無い」
「ソレはそうだけどリーザス陥落の件の時は……でも王様に成ったし立ち位置も変わっちゃうか」
「あァ。地味に色々と五月蝿いんだコレが。迷宮に関しては魔人撃退の件も有るし暗黙の了解だが」
「だったら……ランス君が居なかったら、今頃リーザスはどうなっちゃってたんだろ」
「聞くだけ野暮だとは思うが、奴等の目的のモノは無かったし別にどうにもしなかった筈だ」
「何で分かるの?」
「聞いたんだよ。サイゼル本人に(後からリトルプリンセスが来たと知ったけど、特に拘っては無かったが)」
「な、成る程……」
「そんなワケで次もエレノアに来て貰えると有り難いんだが?」
「!? 唐突だね」
「部隊に入る予定は無いだろうし、居てくれると何かと助かるからな(後方で大型モンスターに催眠を掛けてくれるダケでかなり)」
「あ、あまり役に立った覚えは無いんですけど……」
「早い話ミルの面倒はずっと見れないから頼みたいのもある」
「やっぱりソレが本命だよね。ミル。ランス君と別れてから、ずっと次の冒険にも付いて行くって言ってたし予想はしてたけど」
「……(地味に前者の方が重要なんだが)」
「立場が立場なんだから、迷惑なら断ってくれても良いんだよ?」(小声)
「それなら最初の時点で連れて行かんさ。本当に足手纏いになった時は正直に言うけどな」
「御願いね? 私が"こんな事"言ってどうするんだって話だけど……」
「謙虚で結構。まだ都市長を終えてからの"今後"は考えて無いんだろうし、新しい事が見つかる迄 付き合う程度でも良いからさ」
「あ、有難う(……本当に他意は無さそう。只の私の自意識過剰だったみたいで、何だか恥ずかしいな~)」
「ちなみに結構な報奨金が出たみたいで、実は金を預かってる。前回の同行だと"この額"だな」
「えッ……(確認中)……嘘!? じゅじゅじゅ10万ゴールド!? こ、こんなに!?」
「何気に王様の護衛を何十戦もした一人に成ってるからな。普通の冒険としての戦果にゃ高すぎるが"そう言うモン"らしい」
「……(加えてミルの分も少なからず入ってる……も、もう少し頂いちゃう方が将来の為なのかな……?)」
「ちなみに俺が出したんじゃなくて、王を護衛したと言うリーザスからの正当な報酬だから贔屓してるワケじゃないぞ?」
「…………」
「だが今回みたいなケースは俺が王な時点で増えそうだから見直されるそうだ。今のウチに稼いで置くのが利口だと思うが?」
「…………」
かなみは言う迄も無いので置いとくとして、先ずは早くも揺らいでいるエレノア。
彼女はマリア達と一緒にリーザスの女子寮に部屋を借り、アームズを招いて一緒に時を過ごしていたらしい。
その際アームズとは前述の様に良い友人と成っていて、彼女はエレノアとの相室で孤独な"戦い"から少しの間 離れた際。
一般人とは少しズれている価値観に今更 気付いたらしく、新たに出来た"友人"から助言を受けた事で今に至っている。
対してエレノアは苦笑するしか無かったが、集合まで特に遣る事が無かった彼女は性分から無駄に親身に付き合った結果。
アームズに"恩人"と言われる程 信頼されてしまった様で、メルフェイスとサイゼルに続き新たなペアが完成したと言えた。
「どうする? 聞いてる? 次回も同行してくれれば更に高い報酬が"勝手に"用意されるんだぞ~?」
「ラン~?」
「!? そ、そうだね……良い報酬なのも有るけど、他に遣る事も無いしランス君が良いなら行かせて貰おうかな……」
「グッドだ。ならばミルは来るとして、アームズも"恩人"とやらに便乗してみる気は無いか?」
「……むぅ……それなのだが……(此処で迷うのは無粋だと分かっているとは言え……)」
「もしかして気乗りしなかったり? 折角"オロチ"を始めとしたJAPANのレアなモンスターと戦える機会が――――」
「是非 次も同行させて欲しい。足手纏いに成らない様に精進しよう」≪キリッ≫
「お、おう。それなら期待させて貰うぞ?」
「ハッ!? す……すまない。ありがとう」
「アームズさん現金~」
「ち、ちょっとミルッ」
「……(まずいですよ!)」
悩むような表情から始まり、キリッとして返したと思うとソレが無意識だったらしく困惑する一連が何とも魅力的なアームズ。
彼女は先日遥かに高いレベルアップをする俺達を見てポカンとしていたし、庇われた事も有ったしで気持ちの懸念は容易に察せる。
だがワザとらしい追撃で思ったよりアッサリ折れてくれたので、どうやら筋金入りの(レア)ハンター気質と言っても良さそうだ。
流石に魔人相手では力不足なのは間違い無いが、中堅以上の雑魚相手には無双していたので何らかの特別なスキルを持っている筈。
つまり集団戦に置いては俺よりも余程 優れているので、数を狩る"レベル上げ"に置いては同行して貰えると非常に有り難い存在。
更にレベルが上がってくれれば言う事ナシなんだが、その"判断"は全て彼女に委ねるしか無いので俺は共に戦う事を促してゆくのみ。
原作に置いてもランスに数ヶ月掛けて口説かれていた女性も居たくらいだし、まずは頼れる仲間同士って所から始めてみるべきか。
俺は心の中で そう結論付け凹んでるアームズから視線を外すと、今度は"自分の番か"と姿勢を正しているウィチタに向け口を開く。
「…………」
「ウィチタ」
「はいっ!」
「若いモンが そんなに固く成らんでも。食いながらでも良いってのに」
「す、すみませんッ」
――――正直 静かな雰囲気の店に行けなかったのは、彼女の大声が目立ってしまう為と言えた。
「謝るなって。それよりもガンジーに先日の事は報告したのか?」
「無論ですッ。差し支えない件 以外は全て御伝えさせて頂きました」
「(限界レベルの事か?)……何と言っていた?」
「率直に申しますと"その際 自らが同行 出来ていれば、どれほど有意義な時を過ごせた事か"と非常に関心を示されておりました」
「ふむ。だったら解呪の迷宮での一件については?」
「な、何と申しますか……私を咎めるよりも、むしろメルフェイス様を庇われたランス王の行動を極めて評価されていた次第です」
「……あ~ッ……」
『わっはっはっは。危機の1つや2つ問題では有るまいッ! 流石はランス王の器の大きさ!! わしは改めて惚れ込んだぞ!?』
「……ランス王?」
「あッいや。何となく言っていた事が想像 出来てしまってな?」
「そ、そうですか(……確かに分かり易い性格でらっしゃるけど)」
「さて置き。ウィチタは次回どうする? 戦闘面もさる事ながら色々と面倒事を引き受けてくれてたし、付いて来て欲しいトコだが」
「…………」
「だが次も決して短い遠征とは言えん。何せ一国……JAPANと闘り合うしな。ガンジーの傍に居たければ強制する気は全く無い。彼の部隊を連れて来られれば一番良かったんだが、初の他国 侵攻と成っては新参を向かわせるのに良い顔をしない者も多いらしくてな」
「……(ガンジーさんの将軍待遇はランスの一言ダケで決定した位だし、それに関しては文句なんて無いでしょうけど)」
「ラン~ッ。ガンジーって人 誰なのォ~?」
「話の邪魔をしちゃダメよ(知らないけど)」
「まァ重要なのはウィチタ自身が"どうしたいか"だが、今回は見合わせとくか?(縁は続くだろうからポジティブだ)」
「いえ。(この様子だと本当に大丈夫そうだし)私はガンジー様よりリーザスの手でJAPANが如何に変わるかと言う、歴史的な瞬間を"この目で"見て報告せよとの命を受けている為。私の力不足は重々承知の上ですが、次も迷宮攻略の末席に置いて頂けると幸いです」
「(自分の気持ちってのはスルーしてるが、ツッコむのは無粋か)それなら同意と見て良さそうだな。改めてよろしく頼んだぞ?」
「はいッ! 此方こそ足を引っ張らない様に精進 致します!!」
「(お、温度差が違うなァ。でも今のランス君"そのもの"が誰でも付いて来いって雰囲気を出してるんだよね)」
「(当たり前とは言え まだ畏まりによる距離感が有るのは否めないが、今回は嫌がって無さそうだし凄まじい前進と見て良いだろう)」
「(つい口を滑らせてしまったが……ランス王ならば私の扱いを理解していそうだ。後は出来る限り遅れを取らない様にするのみッ)」
「俺としても可能な限り皆が無事に済む様に采配してゆくつもりだから、肩の力を抜く程度で頑張って欲しい」
「しかし忘れないで欲しい。私達 全員よりも貴方自身の命の方が重いと言う事を」
「かしこまりッ! とにかく食えよ? さっきから食ってるのミルだけじゃないか」
……こうして誰一人 掛ける事無く次回の遠征に繋ぐ事ができ、俺は当たり前の様に受け入れたが内心で胸を撫で下ろしていた。
ランスⅥ等の"仲間の集まりっぷり"を考えれば当然の結果だと言えるのだが、ダメだったら"彼とは違う事"を痛感しちまうからな。
さて置き。コレで侵攻前に済ませときたい事は、上杉組のメンバーとの接触と法王の言ってた"冒険の力に成れそうな者"の件と……
いやカスタム組の事も忘れちゃいけないのに加えて、9000人以上の応募が有った給仕については面倒臭いので絞らせて後回しで……
緑の軍 関係は待てば良くって、最後に思い浮かんだのはスキンシップは多々しているモノの未だに抱いていないリアの事だった。
正直 余裕がある時はしっかりと相手しているので"このまま"でも大丈夫そうなんだが、好い加減 タイミングを見計らって攻めるか。
尚 正史と違って鬼畜王基準の性格なので頭は良くともアホの娘なのだが、性癖による歪んだ思考を旨く付き合いで矯正できている。
そうなるとパーフェクトな可愛さと親しみ易い人柄しか残らず、後はシィルに対する懸念をどうにかする事で完全攻略してしまいたい。
「(最初はガンジー様が何を言われているのか良く分からなかった。けど今は少し理解 出来た気がする。今迄の私はゼスを離れてもガンジー様の傍から動かずに"違う視点"から周囲を見る事なんて一度も無かった。だけどランス王に同行した結果、初めてガンジー様の為ダケに行動するという日常から外れ……個人で考えてチーム為に動く事を考える様に成った。その結果は良かったとは言えないけど……この上ない舞台なんだし、もう一度努めて経験を積みたいみたいと言うのが紛れも無い本心。だからランス王が漏らした"若い"と言うのも皮肉や苦言ではなく間違い無い事……なんだけど……)」
「そう言えば"オロチ"と言う魔物は人間の手に負えるような存在なのだろうか?」
「ん? まァ無理そうだったら見学ダケに留める要領の良さも必要だろう。JAPANが健在って事は何らかの抑制はされてる筈だし」
「さ、流石に"その時"は置いて行ってくれないと困っちゃうかな……」
「(アームズさんもエレノアさんも凄いなァ……私も"大きく"成るのかな?)」
■あとがき■
お待たせしました。中々執筆に至らず毎度遅れてしまっております。今回は関係ない私の動画を宣伝してまで催促してくれた氏に捧ぐ。
しかしながら。打ち込んでいる時は楽しいのでモチベーション維持の為に有償でイメージイラストを依頼してみる事も検討しています。
それは他の作品に置いても対象と成るのはさて置き。次回は残りのリーザスでのイベントを済ませJAPAN遠征に繋げる予定です。
Q:何で主人公たまに例の語録つかってんの?
リーザス城内では親衛隊を始め魅力的な女性の比率が多い上、主人公が極めて全うな為に殆どが"むしろ抱かれても"と思ってます。
只関係を持って家の点取りに繋げたいと言うデメリットの無いハニートラップみたいな者も多く、それも暗黙の了解と化しています。
しかし彼は現時点で満足しており、そろそろ4人目に突入する間近な故 度々例のホモビの1シーンを思い出しては誇張を抑えてたり。
追記:魔法研究所の建設は前回の遠征途中で既に始まっており、ランスとかなみの会話内容に矛盾が有った為 修正を加えました。