鬼畜王じゃないランス26
=LP03年06月4週目(月)=
リーザスに戻るも色々と有ってダウンした翌日の朝、俺を起こしてくれたのはマリスだった。
大事な謁見が待っているのに、俺とリアが何時まで経っても部屋から出て来ないので起こしに来た様だが……
どうやら彼女の期待した展開には成っていなかった様で、声を掛けて俺を覚醒させたマリスは少し不満気だった。
尚 誰にも邪魔されなければ昼過ぎまで寝ていても不思議では無かった俺の一方。
リアは先に目覚めていたみたいなのだが、愛する(?)旦那に夢の朝●ェラをしようと喜び勇んで臨もうとするも。
ふと昨夜の"浮気"に対して自分が癇癪を起こした事を思い出し、俺に対する不満やポカポカした事による負い目。
その他 諸々の感情が合わさり思い切った行動に移す事が出来ず……1時間以上俺の股間と睨めっこしていたそうな。
「それではランス王。朝食の準備は既に出来ておりますので」
「あァ。あのタダッ広い所でか……俺としちゃ~もっとアッサリ済ませたいトコなんだがな」
「そう申されましても(リア様が楽しみにしておられる一時でも有るし)」
「しかも和食とも成ると凄まじく違和感が……って今更言っても仕方無いか。行くぞ? リア」
「う、うんッ! 今日の朝御飯はリアが食べさせてあげるよ!」
「やめてくれよ……」(絶望)
だが初っ端から自然な流れでリアの唇を奪ってみると、アッサリと本来の明るさを取り戻してしまう。
ゲームではシィルを"うし"にしたりと面倒臭い性格&性癖をしているが、それは只単にランスの甲斐性が絶望的に無い為である。
よって俺みたいなヤツからすると、例えは悪いが典型以上の"チョロイン"と言え……気遣い次第でフォローは非常に容易だ。
何せ結婚してから今迄セックスを一度もしていないのに、今もこの様な不満を感じさせない笑顔を魅せてくれてるのだから。
……とは言え"この世界"での最終目的を考えると、妻として在るリアの性格は非常に有り難いのは間違い無いし他には居ない。
俺が抱いたのは現在3人。それでも浮気としては十分多い部類に入る以前に現代では問題外なのだが、原作ではその数百倍以上。
それなのに他の男には見向きもしない程のランスLoveで、最後まで一途に付いて来てくれるヒロインなんぞ滅多に居るモンじゃない。
良く見るヤンデレヒロインの暴走は基本的に主人公の馬鹿さが原因であり、ランスも大概だがリアに必要なフォローは極わずか。
しかも元リーザスのトップと言う事で"ランス"と言う英雄と、妻であるリアは"この世界"では最強で最高の組み合わせなのだ。
だとすれば彼女には是非 幸せにしてやりたいと言うのが素直な気持ちだが、まだまだ落ち着かない現状 深く考えるのは早いな。
「おっと。お前を忘れる所だった」
『つ~ん……』
「何時まで拗ねてんだよカオス!」
『いんや? 別に心の友が魔人と寝たからって怒ってるワケじゃ有りませんよ?』
「!? おまッ」
「ランス王……(何時の間に彼女と肉体関係を……)」
「ぶぅ……」←思い出したら腹が立ってきたリア
――――だがリアのフォローのみで無く、周囲の者達 全員を気遣う王として努める事も必然であり今が まさに"その状況"だった。
……
…………
……30分後。
露骨だが遠回しな催促をして来たカオスに、部屋を掃除しに控えていたウェンディを生贄に捧げて放置した後。
リーザスの情勢など自分にとっては"くだらない話"とは言え答えてくれるリアと共に朝食を摂る。
そしてフラフラと戻ってきた(地味に嬉しそうな)ウェンディからカオスを受け取ると、謁見の間に向かいマリスと顔を合わせた。
すると彼女は軽く会釈すると横にズれたので、俺は歩みを進めるとドカりと王座に腰を降ろす。
未だに此処で踏ん反り返っているのには慣れないのはさて置き……周囲に居るのはリアとマリスの他に数人の親衛隊のみだ。
「改めておはよう御座います。ランス王・リア様」
「あァ。おはようさん」
「は~い。おはよ~!」
「時間は平気か……?」
「少々余裕も有ります」
「それなら良かった」
「ダーリンが寝坊するからだよォ?」
「お話していた通り、間もなく新法王クルックー殿が此方に参られます」
「うむ。当然そのつもりで来たワケだが……」
――――そう言いつつ怪訝さを隠さず周囲を見渡す俺に対し、リアとマリスは揃って首を傾げる。
「ダーリン?」
「如何されましたか?」
「曲りなりもドコロか正真正銘の"法王様"が見えるんだろう? 思いっきり"以前"の仕事の時みたいな感じなんだが……?」
「どう言う事ォ?」
「それを疑問に思われる理由を申して頂いても?」
「何つ~かこう……俺が帰って来たダケで"あの騒ぎ"だったんだから、もっと盛大な出迎えをしてやっても良いんじゃないかと」
「あッ。そう言えばそうかも」
「確かに最もな御意見ですね」
「肯定するなら分かってて"何時も"みたいにした様だが……頭数も少なくないか? 相手にナメられたら終わりだろ俺達は」
『……!!』
――――此処でレッドカーペットの壁の如く立っている親衛隊の面々の表情が強張るが、軽くフォローを入れつつ俺は続ける。
「そんな訳で言い分を聞いてやっても良いぞ」←意図的に偉そうにしている
「どうなのォ? マリス」
「……第一に、法王殿が"それ"を望まれたからですね。忍ばれて訪れている身 故に大事にはして欲しくないと」
「うん? まァ……前例(ゼス王)が有ったしな……」
「????」
「その為 疑わしく思われるかもしれませんが、彼女は"一人"でリーザスに見えています」
「!? それは本当か?」(驚愕)
「はぇ~……一人で……」
「はい。私も最初は信じられませんでしたから。衛兵に城門で話し掛けて来たのが遣いでは無く法王"本人"だとは」
――――普通アニメとかだと"こう言う事"は後から分かって驚く描写に繋がるんだろうが、此処で問い詰めるのは自然だと思う。
「……とにかく会ってみた方が話が早そうだ」
「そ、そうだねッ」
「では法王殿を招いて頂いて結構です」
「はいっ!」
≪たたたたたっ≫
マリスが親衛隊に向かってそう声を掛けると、最も右奥の女の子が"例の敬礼"をしてから小走りで其の場を離れた。
その後ろ姿……靡くマントと太腿を眺めつつ、騎士の敬礼を親衛隊が行うのを見るのは原作基準では珍しいと無意味な事を考える。
しかし暫しの沈黙が訪れる中、何となく緊張に耐え切れず、妙にリアもソワソワしてるしで平然を装って口を開く。
「まさか護衛ナシとは…………たまげたなァ。話によると若い女の様だが?」
「前法王の御令嬢との事ですね」
「……若い女……御令嬢……」
「あ~ッ、リア。先に言って置くが流石に大陸最大の宗教団体と殺り合う気は無いからな?」
「……(それにしても本当に何をしに来たのかしら? 分かりかねるわね)」
……
…………
……体感で言ってカップラーメンが食えそうな時間の後。
「お連れ致しましたッ!」
「ご苦労様でした。控えて下さい」
「ははっ!」
『…………』
≪コッコッコッコッ……≫
新法王を迎えに行った親衛隊の娘が戻って来ると、再び敬礼の後 言われた通り元の配置に付いた。
すると静寂の中 直ぐ謁見の間の入り口から小さな足音が聞こえて来たので、その方向をジッと眺めていると……
法王の正装なのだろうか白と若干の青をメインとした神々しい法衣に身を纏った少女が歩みを進めて来た。
マリスの述べた様に若く見え、髪は短いモノの右目は前髪で隠れており……小柄な為かク●フトを連想させる帽子が大きく見える。
しかし最も印象深いのが美少女ながら無表情・無感情とも言える容姿であり、ぶっちゃけ人間なのか疑わしくなって来た。
鬼畜王による"レダ"の操り人形であったムーララルーのままだったら妙に思わないドコロか此処に来ていないだろうが……
全くの別人に成ってしまうとは、どうしたモンか……裏で何を考えてリーザスを訪れたのか微塵にも察する事ができない。
そんな事を一瞬の内に考えていると、新法王は有る程度こちらに近づいて来ると意外にも跪いて頭を下げてくださった。
「皆様 始めまして。この度は急ながら静かな場での謁見の機会を授けて頂いて感謝します」
「あ、あァ……って事はやっぱり……」
「はい。疑わしく思われるのは否めませんが……私が当代ムーララルー"クルックー・モフス"です」
「御丁寧にど~も。俺様の名も言うまでも無いが……」
「…………」
最低限の礼儀として俺に続きリアとマリスも名乗る事で、場の空気を僅かでも和ませるのだが。
彼女の最初の態度から考えると、無駄に畏まって接する必要は無いと判断しても良さそうだ。
ソレで気分を害されれば俺の買い被りと言う事で後に改めれば良いし、今は気に成った事を聞かせて貰おう。
「先ず何故"その立場"で一人で来た? "もしも"の代わりが居る筈でも無し10人20人の護衛を連れてもバチは当らんだろ」
「無論 一人で伺う事を懸念された者は少なくは有りませんでしたが、信者達は私の意志を最も尊重してくれますから」
「いやな? 俺が言いたいのは……」
「分かっています。簡単に言うと此処までは魔法の掛かったアクセサリを見付けていたので、其の恩恵で無事に来れました」
「!? そんな物が?」
「はい。立場上それなりに便利なアイテムや資金の都合は利きますので」
「まァリーザスにも色々と有るからな」
「尚 今は外しています」
「御丁寧に補足をどうも。それにしても困った法王サンだ」
「えぇ~ッ? 王様なのにリアを放って置いて一ヶ月も迷宮から戻らなかったダーリンが言わないでよーっ!」
「リア!?」
「同意です」
「????」
唐突なカウンターにリアからマリス→親衛隊達へと顔を移すと揃って頷いていたが、クルックーは案の定 首を傾げていた。
何度も誤魔化せる様な遠征では無いので国家機密にする必要は無いとは言っていたが……暴露するにもタイミングが有るだろ!?
……とは言え互いに大胆な行動に出ているトップと言うのは悪い響きでは無いので、気を取り直して会話を続けるとしよう。
「ゴホン。じゃあ前置きはコレ位にして、ワザワザ一人でリーザスまで来た理由は何だ?」
「それは……」
「うん? 人払いが必要か?」
「……ッ……」
ちなみに此処の親衛隊達は腕は勿論、例え敵に捕らえられても自白する前に自殺する程 忠誠心が高いとマリスが言っていた。
クルックー側も静かな謁見を望んで来たと言うのに、あえて配置されている親衛隊と言う事から俺達が買っていると察せる筈。
捉え方によっては自分を信用していない為に置いているのだと思うかもしれないが、希望すれば下げるつもりなので問題なし。
よって彼女の返事を待つワケだが、不意に先程から真っ直ぐに俺を見つめていて逸らしていなかった視線が少し外れた気がした。
……
…………
……ふ~ん、時間ピッタリか……つまんないの。
大した回数の蘇生はしてないと思うんだけど、早い段階で殺りネタに欠ける程度には従順に成ってくれて嬉しいわ~。
でも以前の法王達と比べればって話だから……アンタは その連中よりは白状なのは間違い無いわね。
うん? 勿論 褒めてアゲてるのよ? 居やしない神に大勢の信者を縋らせて、勝手に作ったくッだらない教えで説教をする。
そんな詐欺集団の筆頭がこのワタシに意見するなんて愚かな事 極まりないんだから。
あら? アハハハッ。必死で隠そうとはしてるけど、カラダが震えてるわよ~? まァ何時もなら勉強代がわりに殺してたかもね。
でも今の"世界"はなかなか面白い事に成ってるみたいだし、アレから貴女にやって貰いたい事を考えたから早く話を進めたいの。
……良い事? 今 魔人領は2つの勢力がブツかり合って凄く素敵な状況に成ってる。
なんだったかしら……ホーネット派とケイブリス派の戦争ね。
たった今でも殺しまくって死にまくってワンダフルって感じだけど、本当の"お楽しみ"は其の先と言っても良いでしょう。
戦力差からしてホーネット派が負けるのは早くて1~2年。
頑張り次第ではもう少し長持ちするのかな? 出来ればして欲しいトコロなんだけどね。
何せケイブリス派は魔王を捕らえる為に、魔人領を統一させたら人間界にも侵攻して来るのは間違いんだけど……
"このまま"だと勝負はアッサリと着いちゃうでしょうねェ。
今のヘルマンとゼスに魔軍を抑えられる力なんて有る訳が無いのは馬鹿でも分かる。
国ひとつとして見れば、どっちも根っこが荒んでて比較的 面白い部類には入るけど、ワタシ達が観たいのは一方的な虐殺じゃない。
人類と魔物が押しつ押されつつ、程よく殺し合って必死に成っている姿が見たいのよ。
ワタシの予想だと人類が統一されても魔軍が勝つと思うから、その場合はジル期に負けない支配を楽しめれば良い。
まァ人間側が勝ったら……それはその時 考えるとして、先ずは同じ土台に立てる戦力を持って貰わないと始まらないでしょ?
だからアンタは直ぐにでもリーザスに行って人類統一の手助けをして来なさい! 教団全体で贔屓するのは不公平だから無しよ?
何よ? 返事の"はい"が無いわよ? 即答しなさいよ死ね。
……はい起きる。
仕方が無いから教えてアゲるけど、理由としての一つは魔人領に隣接していないから有る程度 侵攻が早まっても時間に余裕が有る。
二つ目は元魔王"ガイ"を殺した張本人である人間と現魔王が逃げ込んでいるから、必然的にリーザスが人類の最後の砦になる事。
そしてリーザスは3国に囲まれているって言うのと、新しくリーザスの王と成ったって男が此処最近 世間を騒がせてるヤツだから。
何が目的かウロチョロと動き回ってるみたいだけど、ソレは別に良いとして貴女は そのリーザス王に人類統一を煽るのが最低条件。
無理なら勿論 土下座でもカラダを差し出してでもして実行に移させなさい。
アンタの貧相な体じゃ後者は微妙でしょうが、地面に頭を擦り付けた法王の願いを断れる者は そう居ないと思うから。
あら……何か言いたそうねェ? えっ? 気の所為ですって?
でも分かってると思うけどワタシ達にとっての法王って地位は、本当の意味で"都合が良い"ダケに過ぎないから忘れない事ね。
暫くは戻って来なくて良いから、精々楽しく観て貰える様に足掻いてみせなさいな。
……
…………
「どうした? 法王殿」
「…………」
「別に遠慮は要らないんだが――――」
「あッ……」
「気分でも悪くなったのか? 少し目が泳いでいた様が」
「いえ……その……少し言葉を選んでいました」
「急な質問だったしなァ」
「すみませんでした。人払いも必要ありません」
「そうか」
――――此処でクルックーは僅かな動作で身形を正すと、再び真っ直ぐとした瞳で此方を捉えつつ口を開いた。
「……ランス王。今 人類に未曾有の危機が迫っているのを御存知ですか?」
「危機だと?」
「大陸の西で起こっている魔人同士の紛争。それを示唆させる出来事が少なからず周囲で起こっているのではないでしょうか?」
「まァ現に魔人から襲撃を受けている位だしな」
「えっ?」
「んッ?」
「コホン」←マリス
「はぇ?」←リア
「失礼しました。それでしたら詳しい説明は不要かもしれませんが、長い時は経たず争いは終結してしまうでしょう」
「だとすれば……?」
「次に狙われるのは間違いなく、我々人類と言う事ですね」
「そうなるよね~、大変だよね~」
――――クルックーの言葉にワザとらしく左右に視線を移すと、マリスとリアが何気に他人行儀な言葉を口々にする。
「はい。ですから人類は一刻も早く統一されるべきであり、迫り来る脅威に抗わねばなりません」
「ならば法王殿的に考えて、それを成すのがリーザスでいて欲しいと言う事……と捉えても良いのか?」
「そうです」
「何故なんだ? 他にもゼスとヘルマンと言う大国が有るだろう」
「最もな指摘ですが……信者を通しての情報によると、ゼスは国王が頻繁に不在な上に極めて不公平な差別と法律が存在します。
またヘルマン帝国は此処 数年で国力の腐敗が著しく進んでおり……どちらも信者の多い平民層では良い声を全く聞きません。
よって私の独断で今 人類を統一できる力を持っているのはリーザスのみと判断させて頂き、こうして訪れた訳なのですが……」
「うん?」
「旅の道中。教会の神父・神官達に今のリーザスは自由都市を次々と吸収し続けていると聞きました」
「大事にはしていない筈だがな。何か迷惑でも被(こうむ)ったか?」
「いえ。元より私はAL教団を代表してではなく"個人的"にリーザス王に人類の統一を頼み、微力ながら助力するつもりでした」
「個人的にだと?」
「まぁ……」
「えっ? だったらALICE教団の力は借りられないのッ? だったらパーッと済ます事も出来るかも知れないのに~ッ!」
「落ち着けリア。法王殿にも色々と都合が有るんだろう。そもそも教団の力で国を落としても、付いて来るのは信者ダケだ」
「…………」
「気に病む必要は無いが法王殿。リーザスが自由都市を吸収しているのは、俺様を陥れた憎きヘルマンを倒す下準備と言って良い。
癪だが連れも掴まってるのは"ついで"として……どうせなら世界を統一して、いずれは喧嘩を売って来た魔人連中も倒す予定だ」
「……ッ!」
「よって頼まずとも人類は統一させるつもりなんだが、一人で此処まで来たのは本当に"個人的"に手伝いたい為なのか?」
「はい……大層な事を述べたと言うのに、殆ど押し付ける様な形で申し訳ありませんが……」
「押し付けも何も言われなくっても遣ったドコロか既に実行中な件だ。むしろ協力者が増えてくれるのは願っても無い」
「既に似た様な方も居らっしゃいますしね」
「うんうんッ」
「????」
「今じゃ意味不明だと思うが、滞在してれば おのずと見えてくるさ。サプライズも色々と有るだろう(主に魔人関連で)」
「……宜しいんですか?」
「どう言う意味でだ? 何にせよ問題ない。マリスの言った通り今に始まった事じゃ無いし、要人が一人増えても大して変わらん。
(ガンジーや魔王を受け入れて法王を断るのも不自然だし)よって居たいなら拒まないが、過度な口出しは謹んで貰えると有り難い」
「元よりそのつもりです」
「では不躾ながら話を纏めさせて頂いても宜しいでしょうか?」
「頼んだ。マリス」
「…………」
「はい。それに当たって先ず今の段階では法王殿に御教え出来ない情報も有る事を予め理解 願うとして……始めさせて頂きますね。
現在 我が国は"ある事情"により魔軍からの襲撃を受けており、前述の"魔人同士の紛争"の勢力の片側と見て間違い無いでしょう。
既に4回もの攻撃を受けていますが大規模な侵攻では無く、いずれも"魔軍"の撃退には成功しており甚大な被害は有りません」
「撃退……」
「様々な捉え方が有るでしょうが、私としては非常に良い結果に収まっていると思っております」
「むう~ッ(サイゼルの事を言ってるんだ)」
――――意図が分かる筈も無いマリスの言葉にクルックーは首を傾げるが、案の定リアは面白く無さそうに頬を膨らませていた。
「またランス王の仰った通り、リーザスは世界制覇に向けて現在は自由都市との合併・或いは攻略を行っており極めて忙しない状況。
しかし対魔人・攻略どちらも明確な方向性が定まってはおらず、それはランス王が頻繁にリーザス城を離れる事が原因と言えます。
ですが初戦は"その遠征"による恩恵が非常に強かった戦いでして……今後 軍事力のみならず個人の実力も重要視されるでしょう」
「…………」
「よってリーザスは一人でも多くの手を借りたい状況。故に相手が魔人であれ法王であれ疚(やま)しさ無ければ身分も問いません。
そう考えれば我々としては法王殿の在住を拒む理由は無い為、あくまで個人の協力者としての待遇とはなりますが歓迎致します。
当然 法王殿の今後の働き……と言っても多々有ると思いますが、戦果によっては より良い報酬や階級を与えられるのですが……」
「うむ。そちらの立場が立場の為に危険な戦いをさせる事は遠慮したい。それドコロか有る程度の監視を付けさせて貰う事に成る」
「…………」
「だからテンプルAL(本部と続くが確か変わってたな)……いやカイズに居た時より かなり束縛された生活になってしまうだろう。
正直マリスが言った最後の方は矛盾してると思うが、それでもリーザスに"個人的な協力"をして貰えるって事で良いのかな?」
「はい」
「(即答したか……)ならば宜しく頼むぞ」
「此方こそ暫くの間 宜しくお願いします」
――――こうして新法王のクルックー・モフスのリーザス滞在が決定し、俺と彼女は互いに歩み寄ると握手を交わした。
「リア君もやりなさい」
「えぇ~? 仕方無いなァ」
「…………」
「はいはい! 宜しくね~ッ、ダーリンに色目使ったら駄目だからね!?」
「……!?」
「はははッ。全く誰が相手でもブレ無いなアイツは」
「そうですね(……でも僅かに眉間が強張った? 流石に考え過ぎかしら)」
「ところで言い忘れてしまったのですが」
「何をだ?」
「私の正体を知るのは、リーザスの一部の方ダケと言う事でお願いしたいです」
「マリス」
「大体予想はしていましたので、その様に手配致しましょう」
「すみません」
「気にするなって。んでこの後は出席できる将軍達を集めてでの会議だったか?」
「そうですね。法王殿の出席の可否については如何なさいますか?」
「当然 参加して貰うさ。俺様が許可したと言えばバレス達は何も思わんだろう。必然的に正体はモロバレだが」
「現在リーザスが直面している最も重要な問題について理解して頂くには、其方に立ち会われるのが一番ですからね」
「結論から言うと大丈夫だったんだけどォ~、ダーリンが居なくってスッゴク怖かったんだからッ!」
「そりゃ悪かって。まァ相応の能力を得れた事だし勘弁してくれ」
「むぅ~ッ……」
「(……私が何をせずとも……"アレ"が望んだ形と成っていた? ……だとすれば……此処で暫くの間は……)」
「ともかく次に進むぞ。将軍達を直ぐに集めさせてくれ」
「畏まりました。親衛隊各員、宜しくお願します」
『――――ははっ!』
≪ダダダダダダッ!!≫
「……椅子でも持って来させるか? 法王殿」
「お気持ちだけ受け取って置きます」
「う~む。座ってるのが俺様ダケと言うのも、どうもなァ」
「些細な気遣いも出来るダーリンも素敵~ッ!」
「あッハイ。どうも」
「(抱きつかれても動じないなんて、早くもリア様の行いに慣れてしまわれたのですね)」
長ったらしく会話したが、結論からすると新法王の処遇に関しては"保留"であり万が一にでも死なれたら困るので戦闘は論外。
いちファンとしては能力が非常に気になるトコロだが、ランスならランスで口説くのは勿論 望めば戦闘にも出すんでしょうね。
戦死したら間違いなくゲームオーバーだろうけど、そうしたらロードすれば良いし生き残ったら彼は自分の采配の恩恵と考える。
尻拭いをしているのはイベント以外 全てプレイヤーなんだが……今考えればヘルマンに粛清される迄 良く生きてたよなアイツ。
さて置きイレギュラーとも言える彼女は普段が無表情っぽい事から何を考えているか分からず、危険人物の可能性も否定できない。
仮に彼女が普通に良い人だったとしても、新法王を影で操る"天使"が善だとは100%有り得ないので踏み込まず警戒を維持しよう。
……
…………
……先程の流れのまま纏わり付いてきたリアを膝の上に、適当にイチャイチャ(?)する事 数分。
約一名の分かり易い足音で将軍達が到着したのだと察せたが、律儀にも現れたのは"一人づつ"で先ずは黒の将バレスから始まり。
続いてコルドバ・リック・レイラさん……と簡単な挨拶と会話を交わすと、その4名は俺の正面に並び改めて跪いて下さる。
尚 今から行う会議(のようなモノ)は此処まで人数を絞る必要が有る程 極めて機密かつ重要だったりするのは さて置き。
参加する権利を持っている"エクス"の姿が無い理由は"今後"のリーザスの侵攻に大きく影響しているからと言えば予想できる筈だ。
「先ずは皆に紹介したい者が居る」
『…………』
だが今の将軍達が気に成っているのは間違いなく"謎の少女"だと思うので、早速 彼女が"当代ムーララルー"だと紹介するのだが。
いくら特徴が似ていたとは言え、やはり目の前の小柄な少女が"本物"だったのは流石に驚く事実だった様である。
だがリーザスの将軍らしく驚きはしたが"それだけ"であり、クルックーが再び後方に控えると直ぐに気持ちを切り替えていた。
各々は何の用件で集められたかは十二分に理解していて、彼女も十分サプライズだが本題は"魔人"と"侵攻"の2つに限られている。
「(儂らは勿論だが法王殿にも既に一目 置かれていたとは、流石はランス王じゃな!)」
「(どうも胡散臭い気がして成らんが……機会が有ればハーモニカを聴いて貰おう。うむッ)」
「(ALICE教団の眼が有ると遣り難くなりそうと感じたけど、キングが問題無いと仰るなら僕の考え過ぎだったか)」
「(ランス君とリア・マリス様に続いて新法王も護衛の対象との指示か……これは責任重大ね)」
「では続いて。"小川 健太郎"を通せ!」
「――――ははッ!」
更なる親衛隊への指示に一人の娘が去ると、何も言わずとも将軍達は2名づつレッドカーペットの左右に分かれた。
ちなみに先程まで"その位置"で壁を作っていた親衛隊達は当然 場を譲るように後退しており、警備の任務を静かに こなしている。
そして沈黙が訪れる事1分程で相応の足音と共に一人の青年が姿を現し、日光片手に珍しそうに謁見の間の造りを眺めながらの登場。
見るからに緊張している様子だが、常人なら威圧感を得そうな"この面子"より場の構造の方を先に気にする辺り強いメンタルだな。
また喜ぶべき事にミンナラケンの仕様であり爽やかな好青年……来水 美樹の安全さえ保障すれば快く働いてくれるのは間違い無い。
反面 死んでしまったら"リトルプリンセス"の覚醒を意味するので、魔人を攻撃でき限界レベルも高いとは言え取り扱い注意である。
しっかし幼馴染と共に現代から異世界に召喚されたとか……俺と同等・それ以上の"もう一人の主人公"と言っても良いキャラですね。
正直"どんな時間軸の日本"から来たかを始め、好きな牛丼屋あたりまで色々な事を聞きたいが……極めて親しくなってからに限る。
そんな事を考えながら近づいて来る"小川 健太郎"を見下ろしていると、彼は丁度 将軍達の中間で跪き頭を上げないまま喋り出した。
「始めまして。ランス王。私は"小川 健太郎"と申します。この度は危ない所を保護して頂いて本当に有難う御座いました」
「なに。大した事はしていないさ。頭を上げても構わないぞ」
「はい」
「何と言うか……随分と大変だったそうだな。有る程度の話は来水とサテラに聞いているが」
「そうですね。此方で目を覚ましてからは、今迄"この世界"で過ごしていた日々と比べると本当に安全に過ごさせて頂いています」
「結構な事だ。だが体の方は随分と衰弱していたとの事だが?」
「はい。意識を失う寸前は死んでしまうかと思いましたが、皆様の御蔭で生きてますし御医者様の話では順調に回復していると」
「そうか。では引き続き体力の回復に努めてくれ」
「で、ですけど……此処までの待遇を頂いて宜しかったのでしょうか? 資金等については気にしないで良いと聞いていますが」
「全く問題無いぞ。何せ俺様が指示した事だしな。それ以前に来水がケイブリス派に捕らわれたら人類が終了してしまう」
『其処まで御存知でしたか』
「うん?」
「……日光さん」
「刀が喋ったのか?」
『それにしては余り驚かれていない様ですが?』
「同じのが身近に有るからな」
『!? お、おいッ! 今の声はブッ!?』
――――此処で"聖刀日光"の声でカオスが身を乗り出そうとしたので、鞘に強引に押し込んで場の空気が壊れるのを未然に防いだ。
『今の声はやはり……』
「懐かしの再会と言う事に成るんじゃないか?」
『そうなりますね』
「まァ話はカオスからアホみたいに聞いている。人間体が気に成るトコだが、ややこしく成るので次の機会で宜しく頼む」
『畏まりました。何時でもお声掛け下さい』
「そ、それよりも王様ッ」
『大人しくなさいカオス』
≪ぐぐぐっ、ぐぐぐぐぐぐッ≫(強引に魔剣が出てくるのを抑えている)
「……やっと諦めたか。ゴホン。ともかく予算に関しては"気にするな"と言う事だ」
「あ、有難う御座います」
「それよりも話は変わるが、レベルが随分と下がってしまった様だな」
「は、はい。怪我の影響で一気に10まで……」
「だが来水を守りたいという気持ちは変わらないんだよな?(そうでも無きゃ此処まで逃げてくる事すら出来なかった筈)」
「!? 勿論ですッ!」
「ならば暫くは鍛錬を行って魔人と戦える実力を見に付けて貰う。見返りの代わりに働きたいと言うのならソレが堅実だ」
「……分かりました」
「当然"聖刀日光"を持つ貴重な戦力だ。全面的にリーザスがバックアップさせて貰うから安心してくれ」
「何から何まで感謝の言葉も有りません……期待に添えられるように努力させて頂きます」
「共に戦える時を楽しみに待っていよう。では下がって良いぞ」
「はいッ。失礼致しました!」
――――勢い良く立ち上がると深く頭を下げてから去ってゆく健太郎の背中を眺めていると、真横に居たリアが口を開いた。
「彼も魔人を斬れる剣を持ってるって事ォ? びっくりした~」
「俺はサテラからポロッと聞いてたから大してな」
「どちらにせよリーザスにとっては良い"拾い者"が出来た様ですね」
「あァ。だが万が一にでも死なれちゃ厄介な事に成るけどな……よって将軍各位・成るべく力を貸してやってくれ」
『ははっ!』×4
「続けるぞ? 魔人サテラを呼べ」
……
…………
……1分も待つ事無く次の者が姿を現す。
「ランス!! サテラを待たせるのは良い度胸ッ! ……じゃないのか?」
「……何で其処で俺に振るんだ」
「う、五月蝿いッ! それよりもサテラは忙しいんだ。話なら手短にしろ」
「分かっているさ。始めてくれ。マリス」
「畏まりました。皆様。既に御存知でしょうが、ランス王が遠征に発たれてからリーザスには計3回の魔軍による襲撃が起きています。うち2回がリーザス城・西のノースの街と北東のバランチの街。其方は各2体の魔物将軍が率いていたモンスターの混合軍であり、合計1000匹程の規模でした。しかしドチラも直ぐ様 出撃したバレス将軍・黒と青の副将による混合軍の迎撃により敵指揮官を含めて全滅しております」
『…………』
――――開幕で睨みを利かせたら場の雰囲気に負けたっぽいサテラはさて置き、マリスはペラリと資料を捲ると淡々と話を続ける。
「その際≪既に知っていたがサイゼル経由でランスが出発前に教えた≫両方の現場で襲撃の直前。魔人カミーラの使徒の特徴と一致していた者の目撃情報が確認されており、十中八九 来水殿を狙った侵攻だと考えて良いと思われます」
「だがカミーラの行動は妙に感じたぞ? 仕方なくサテラ達が向かった時は……」
「はい。3回目はバラオ山脈の近隣のマウネスの街への侵攻。ヘルマンの脅威を考えれば万が一にも落とされる訳にもゆかず、コルドバ将軍の部隊が迎撃するも対するはドラゴン女を主力とした軍。前述の魔軍とは桁違いの強さで、リーザスは止むを得ずサテラ殿とメガラス殿へ救援を要請しました」
「統率は全く執れてなかったから思ったよりも被害は少なかったが、空を飛びやがるし遣り難いったら無かったぜ……」
「それに魔人が指揮しているならば儂らは耐えるしか選択肢が残されておらん。良く持たせてくれたものじゃて」
「しかし無理はなさらず引く事も場合によっては。奪われた領地あらば私達"赤の軍"が直ぐ様 奪取するべく動きます」
「……(私達 親衛隊はリーザスを離れられないのが歯痒いわ)」
「……(思った以上に苦戦していた様だが、リーザスの連中は本当に優秀で助かる。確かに冒険中の俺に言う様な被害でも無い)」
――――かなり苦しい戦いを強いられたコルドバが口を開いた事で、空気を読んで少し間を置いたマリスは再び話を続ける。
「結果。早い段階で救援に駆けつけて頂けましたが、魔人カミーラはサテラ殿・メガラス殿の姿を確認すると直ぐに撤退。ドラゴン女達も退却してしまい、残ったのはリーザス騎士の僅かな被害と甚大な物質的な損害に留まりました」
「流石に追ったりはしなかったか」
「癪だが奴にはサテラとメガラスで掛かっても歯が立たないからな……レイが何時 出てくるかも分からないし無理は出来なかった」
「まァメインは来水の護衛だし捕らわれたら困るしな。ところで魔人レイの目撃情報は?」
「リッチの街で既に確認されています。まだ目的は不明なので引き続き監視している最中です」
「でかした。場所が固まるまで絶対に悟られるなよ?」
「はい」
「ところでサテラ。さっき妙だと言っていたが何故だ?」
「あァ。カミーラが本気でリトルプリンセス様を攫う気なら、あの時サテラ達を蹴散らしてでもリーザスを目指した筈だからだ」
「ふむ」
「よって相応の戦いは覚悟していたんだが、アッサリと引いてしまった。妙に思わない方がオカしいだろう?」
「(ダメージさえ食らって無いのにか)ひょっとしたら遣る気が無い? 或いは奴もケイブリスの意志に反している?」
「!? それなら話せば分かってくれんじゃないの~? サイゼルみたいにさッ」
「とんでもなくプライドが高いみたいだから無理だろ流石に。そもそもアイツを説得できたのは倒した後だったぞ?」
「(リアの馬鹿は良いとして)……もしかしたら、本当に遣る気が無いのかもしれないな」
「何だとォ?」
「知ってるだろうがカミーラはケイブリスが嫌いだ。奴の女々しいアプローチに逆上して襲い掛かって負けてしまった事が有る程」
「そりゃまた……」
「けど今回の任務で暫くは顔を合わせなくて済んだモノの、直ぐ目的を達成させれば奴は"魔王"となり求愛による服従は防げない」
「だとすればカミーラにとって、今の状況は何時までも維持していたい絶好の期間って事か」
「それが本当なら……考えたくはないが……ホーネット様達が健在なウチは大きな侵攻はして来ないのかもしれないな」
「極端な話リーザス軍は眼中に無いって事か……」
「だろうな。そもそもカミーラ程の魔人が本気で魔物を招集させれば、人間領だろうと1~2万は呼び掛けに応えるだろう」
「反面サテラの部下はガーディアンが200体ダケか。悲しいなァ」(KBTIT)
「さ、サテラは人間達への悪影響を考えて控えてやってるダケだッ」
――――今の一連のサテラとの話の内容で、俺は何とも思わなかったが将軍達はナメッぷりに流石にカチンと来たらしい。
「魔軍どもめ……フザけやがってッ! 上等じゃねぇか!!」
「本気で潰して来ないのは幸いじゃが、今のリーザスには人類を統一するという目的が有る。その妨げに成るのは厄介じゃな」
「害を成す存在は早めに消してしまいたい所です」
「ドラゴン女が主力で有れば、再びリーザス城が直接攻撃される可能性も有るでしょうし……」
「だが今のリーザスは多岐に渡って勢力を伸ばしている最中で戦力を集中できない。悪いがもう暫く耐えて貰う事になるな」
「では纏めさせて頂きます。魔軍に対してはバレス将軍・コルドバ将軍の部隊を主軸に黒・青の軍で迎撃して頂きます。もし魔人が前線に現れた場合はサテラ殿・メガラス殿に援護を要請し時間稼ぎに徹して下さい。厳しい戦いを強いますが宜しくお願いします」
「承知致しましたぞ」
「了解だ!!」
「それに関してドラゴン女が非常に厄介だろうから、カスタムでスカウトした戦力もアテに成るだろう。適当に役立ててくれ」
「はい。既に南方よりリーザスへと向かって来ている集団を確認しております」
「サテラもソレで問題無いか?」
「……良いだろう。だがホーネット様が努められている間に、人間領を統一してしまう位の意気で戦わないと承知しないぞッ」
――――此処でホーネットよりも来水を優先させる辺り、余程 彼女に釘を刺されているのだろう。(前科が有るし当然かもだが)
「当たり前だよなァ? じゃあオマエは下がって良いぞ」
「ふんッ! サテラとの"勝負"も忘れるなよ!?」
「あァ。リックの相手が済んだら頃合(十分に勝てるレベル)を見て付き合ってやるさ」
「絶対だからな! 首を洗って待っていろッ!」
「……アレは俺が言う方が正しくないか? マリス」
「どうでしょうね」
「ゴホン。さて部外者も去ったしドンドンゆくぞ。今度はリーザスの"方向性"についてだ」
「方向性ですと?」
「次は何処を攻めるかって事ですかい?」
「…………」
「(私達 親衛隊の出番は無さそうかな?)」
――――サテラが去った事で会議は次の議題へと進み、俺の言葉に4人の将軍達はそれぞれの反応をする。
「うむ。情報によると今現在。JAPANが大陸に侵攻するべく準備を進めているそうだ」
「何と!?」
「俺様としては自由都市の制圧が終わればヘルマンを叩きたいトコロだが、挟まれるのは厄介だと思うし早めに対処したい」
「その準備ってぇ、どれ位 掛かるの~?」
「詳しくは存じませんが早くて1ヶ月。長くて3ヶ月程と捉えると宜しいかと」
「ふむ。余り猶予は残されておりませんな」
「だからエクスとハウレーンの白の軍をポルトガルに向かわせている。それに俺の緑の軍とかを加えるが……準備はどうなんだ?」
「ランス王 直属の正規兵千名は何時でも出撃が可能です。ですが1ヶ月も有れば他の将軍と同数の1200名規模に拡大できます」
「グッドじゃないか。ソレなら何も問題は」
「また現在 副将の座が空いておりますが1500名の緑の一般兵の採用と修練が既に完了しており、直ぐにでも招集が可能です」
「なん……だと?」
「あッ! だったら丁度良い機会だし、ダーリン今此処で副将決めちゃおうよ~!」
「リアさん!?」
「確か1500名もの人数ながら、志願者が殺到して採用には随分と骨が折れたらしいぜ?」
「コレもキングの人望の成せる業でしょう(……戦うしか能がない僕も肖りたいモノだ)」
「ランス王。御采配を願います」
「誰か都合の良い人間は居なかったのか? マリス」
「流石に私の一存では」
マリスが"優"の人間を見つければ採用したかもしれないが、人材の確保はエクスも非常に力を入れているしそう簡単に拾えない。
俺の副将と成るなら尚更で有り、そう考えれば彼女の審査は極めて厳しくハウレーンでさえ"良"でメナド辺りだと"可"になる模様。
されど俺が認めてしまえば全会一致で"優"が確定するらしく、ステッセルみたいな奴が王だったら国の体制が崩壊するのは確定的。
無論"俺"と言う人間を認め・信頼しているからなんだろうけど、原作ランスは良く"その辺"が大丈夫だったよな……と感心するぞ。
さて置き。カスタム組もJAPAN組も部隊を率いて貰う事が確定していて、既にその流れで準備を進めつつ此方に向かっている。
よって完全に新規の人物を選出しなければ成らないワケだが、確かにリーザス城内のモブ(?)にも良さそうな者が居たとは言え……
「ポルトガルの西。闘神都市の"サーナキア・ドレルシュカフ"を緑軍の副将として迎え入れろ」(他に思い浮かばなかった)
「畏まりました」
「えッ? 誰ェ?」
「また俺は軍を率いない事も多いし大将代理として一流校 主席の"アールコート・マリウス"を採用しろ。メンタル面は何とかする」
「!? ……確かに彼女で有れば……」
「もう少し視野を広めるべきだったな」
「恐れ入りました」
「誰か異存が有る者は居るか?」
「滅相も御座いませんぞ」
「その娘の噂は妻(フルル)から聞いた事も有りますしな」
「早急な決断力……感服した次第であります」
「有りません(マリス様が知ってたみたいだし)」
「そんな訳でだ。1ヶ月後に魔軍を抑えつつJAPANへの侵攻を開始する。緑・白の軍を主軸に今回の遠征でカスタムで勧誘した部隊(+謙信達)も投入する事に成るだろう。ウチ(マリアは研究を兼ねるので)一部は魔軍対策に回すが、恐らく短期決着が予想される。よってリック・メナドの"赤の軍"には来週より未制圧の自由都市を中心に攻略して貰うのだが、決戦の際には援護を要請する可能性が高いから、ソレを踏まえて無理をせず侵攻していってくれ。ちなみにリック。今週中には戦ってやるから御手柔らかに頼むぞ?(震え声)」
「あ、有り難き幸せ!! 任務に関しましては、命を賭けて務めさせて頂きますッ!」
「それでは解散!! より忙しくなるぞッ! 皆 頑張ってくれ!!」(小学生並みの励まし)
『――――ははッ!!』
総括すると。
緑の軍は1ヶ月で調整を終わらせてから1週間の移動を経て白の軍と合流し、JAPANを全力で責める。
黒の軍は魔軍の侵攻を抑える。(メインは東)
青の軍も魔軍の侵攻を抑える。(メインは西)
赤の軍は残っている自由都市を制圧しつつ、リックの軍だけJAPANからの援軍要請に備える。
白の軍は1ヶ月以内にポルトガルも制圧し、緑の軍との合流を待つが先に攻められたら全力で防衛。
親衛隊はリーザス城の防衛がメインだが黒・青の軍が対応できず街を落とされたら直ぐに取り戻す。
魔法部隊は黒・青の軍の迎撃 状況で穴が有れば埋める。(しっかり前線が機能すれば後衛の攻撃はアスカには届かない)
サテラとメガラスは魔人が前線に現れたら即 抑えに行く。(先に気付いたら伝令を受けなくても勝手に行く)
カスタム組はマリアの部隊はリーザスに留まらせるが、魔想さんは承諾して貰えればJAPANに来て貰う。
JAPAN組は投資を惜しまず戦力を整えて貰い、緑・白の軍に並ぶ主力としてJAPANを全力で攻める。
尚リーザス全軍は以下の通り。ついでに部隊を持たない者の名前も、連れて行く予定も含めて挙げて置こう。
■魔人迎撃■
バレス:正規兵1200名
疾風:一般兵1500名
コルドバ:正規兵1200名
キンケード:一般兵1500名
アスカ:魔法兵400名
マリア:砲兵250名(予定)
サテラ:ガーディアン200体
メガラス:ホルス600体
健太郎:レベル60以上で参戦
■JAPAN侵攻■
ランス:正規兵1200名
(かなみ・メルフェイス・サイゼル・アームズ・アールコート)
サーナキア:一般兵1500名(予定)
エクス:正規兵1200名
ハウレーン:一般兵1500名
志津香:魔法兵350名(予定)
(エレノア・ミル)
謙信:武士300名(3倍以上に増える予定)
(愛・蘭・小松・勝子・虎子)
■遊撃・救援■
リック:正規兵1200名
メナド:一般兵1500名
レイラ:親衛隊1000名
ガンジー:魔法戦士500名
(ウィチタ・カオル)
……とまァ、即位したばかりの初ッ端と比べたら戦力を拡散させても特に問題無さそうな顔ぶれと成ってくれた。
けど魔人相手には幾ら人数が居ても足りないが、本来の原作基準なら更に少ない戦力だったんだし泣き言は御法度である。
むしろカミーラがⅥ基準では無い上に遣る気が無く……JAPANも戦国の様に馬鹿みたいな兵力では無いのを喜ぶべきだ。
しかし原作の様に各部隊を即席で飛ばせないネックが、今の圧倒的な戦力の恩恵を相殺してしまっているけど条件は敵も一緒。
そう考えればメリットの方が目立ち、リーザスの味方同士の連携や信頼は他の国と比べたら桁違いに優れているのは間違い無い。
……と言うかゼスとヘルマンが酷すぎるダケだが……確認していないにせよ、クルックーの先程の言葉から確信が持てたとして。
今後も良い人材は勧誘し、親しくなった娘は"強化"してゆけば"ここぞ"と言う時に一気に状況を有利にしてくれると期待できる。
まだまだ"下積み"が続いていて未だリーザスの情勢に大きな影響を与えたりはしていないが、次回の遠征で そろそろ報われるか?
そんな事を考えながら去ってゆく将軍達の背中を眺めていると、ふと存在を忘れていた"クルックー"の事を思い出し首を向けた。
「……ッ……」
「さて。どうだった? 少しは現状を理解して貰えたか?」
「!? はい。協力してくれる魔人まで居たとは……リーザスが"西"の影響を此処まで受けていたとは思いませんでした」
「只単に攻められてるダケじゃ無いって事だ」
「やっぱり……何か私で協力できる事が有れば良いのですが……」
「いや。手を煩わせる気は毛頭 無い。危険だと思ったら帰って貰っても構わん」
「……いえ……世界の危機とまで来れば、教団としても何も行わない訳にもゆきません」
「ふむ」
「差し支えない範囲で、私の権限で"テンプルナイト"の招集と"冒険"の御力に慣れそうな者の手配を致します」
「しかしなァ……」
「ランス王。それ位なら宜しいのでは有りませんか?」
「そうだよォ(他の兵隊なら魔人の盾には丁度良いしッ)」
「マリスがそう言うなら構わんか」
「リアは!?」
「……と言う事は……」
「あァ。くれぐれも他国の信者を不穏にはさせなくでくれよ? それよりも"冒険"に関しての人材の方が気に成るゾ」
「それでしたら」
≪ゴソッ……≫
「ん?」(吃驚)
「私がその冒険者です」
――――唐突に法衣を脱ぎ出したと思ったら、其処にはゴーグルの付いた茶の帽子とジャケットに身を包んだ少女が居た。
「却下だ~ッ!」
「……冗談です」
「そうは聞こえなかったが?」
「気の所為かと」
「うぬぅ。ところで其の姿は?」
「突然失礼しました。アレでは目立ち過ぎますし"この服装"で居ても構いませんか?」
「問題ない。むしろソッチの方が良いな」
「有難う御座います」
「(改めて見ると結構 可愛いし)」
「…………」
「どした?」
「やっぱり私も同行を」
「駄目ったらダメだ!」
「(クルックー殿……思ったよりも、付き合いやすい方なのかもしれません)」
「(やはり王としての責任の方を優先する様ですし"あの人"に頼みましょう)」
「ダーリン!! それよりも早く御飯 食べに行こうよ~ッ!」
「おッ? そうだな……って良いのか?」
「はい。午前の予定は終了しましたので」
この後は他の誘いを断ってリアと2人で昼食を共にし、昨夜の失態により損ねた彼女の機嫌を改めて取る事に努めた俺だった。
そして午後には山の様に積まれた保留事項をマリスとの口頭によって消化する事で過ごし、相変わらずの手腕に驚かされる。
共に戦ってくれる者は大切だがマリスの様に影で皆を支える人ってのも尊敬に値……ッて言うか好みなんだよな参ったなマジで。
リアも何だカンダで常に俺の後を付いて来ており、何時もの様子に戻ると逆に俺の機嫌を伺う仕草に好感がマッハに成って来た。
JAPAN攻め迄には踏ん切りを付ける予定だったが、そんな割り切った感情を抱いていた以前の自分を殴りたくなる程に……
「今現在ランス王が自由に使用して頂ける資金は15億1144万ゴールドです」
「は?」(驚愕)
「先日リア様の案によりランス王の直属の給仕を募集したところ、応募人数は9119名でした」
「えッ? 何それは……」
――――それにしてもリーザスの内政は どうしてしまったんだ。知識の指輪の効果にマリスの頭脳が合わさり最強に見えた。
■あとがき■
次回はリーザス城に帰還したメンバーとのコミュが中心になります。Ⅵがピークだったサーナキアは此処で出さずに何処で出す!?
クルックーへの対策は彼女を全く知らない主人公には何も無いので、現在は遠回しな監視をつけ客人として扱うしか無いと思います。
教団を影で操っているのは"女神アリス"ですが世界観が鬼畜王なので、正史ほど大陸の情勢を自分で動かそうとは思っていません。
当然凄まじく強くて人間・魔人を瞬殺する技能を持ちますが主人公は無効化でき精を受けた娘も同様と成るので戦いが成立する妄想。