鬼畜王じゃないランス24
=LP03年06月3週目(土)=
最後にリーザスを出発してから約一ヶ月。
俺のレベルは努力の甲斐あって51から61と成長した。
欲を言えば"幸福の指輪"を手に入れたので更に2~3日粘りたかったが、ALICE教の法王が来るので戻るしか無いとして。
目標としては最低でもリックに模擬戦で容易に勝てる数値だったので、まァ許容範囲と言って良いだろう。
彼も忙しい為 可能性は低そうだが、出発の前に確認したリックのLvが41から"上がりまくってなければ"の話だけどな。
それにしても。
普通に働きながらもゲームなら一ヶ月も費やせば、ランスのレベルは100以上に出来るシリーズも有るだろう。
しかし現実は そう甘くは無く、ほぼ全ての時間をレベル上げに費やしながら今のレベルが精一杯である。
それダケでなくモンスターの一撃をマトモに食らったら自分含めてアッサリ死ぬ味方。
人類の中では滅茶苦茶強くても、魔人の様な強力な敵に比べたら低すぎる才能限界どころか通用しない攻撃。
更にはランスが抱かないと突破できない才能限界と、間違っても裏切りの様なリスクを背負えない複雑な人間関係。
島津やメディウサの様な理不尽なシステムによる"消滅"を食らう確率は現実だと極端に少ないと思うので安心とは言え。
以前のランスの様な酒池肉林の犯りたい放題でも、イベントでの離脱以外は不満なく戦ってくれる仕様は正直 羨ましい限りだ。
ハーレムと言うのは男なら誰でも憧れるモノだが……癖の強い本作のヒロイン達が大人しく順番待ちしてくれる気がしないのさ。
それでも今の環境は以前の俺からすれば……いや、過去の事なんてどうでも良いか。
「よ~し。準備は こんな感じだな」
「後でちゃんと返して貰うからね?」
「当然だ」
「それじゃ~後ろ向いて。そのまま動かないでよ?」
「はいよ」
「……ッ……」
「どうした?」
「べッ、別に」
さて予定の通りデンジャラス・ホール攻略の翌朝に出発するワケだが。
今の俺は鎧とカオスの最低限の装備しか持っておらず、聖盾はランス3の如く かなみに背負わせて戻って貰う。
またサイゼルのライフルは再び没収している上に再度 魔力を抑える首輪をさせているが飛行は普通に出来るらしい。
万が一を考えての かなみ・ウィチタあたりの意見の為だったが、俺を落とすダケなら魔人による怪力のみでも十分だろう。
それ以前にメルフェイスを抱えた事実や今迄の戦いを見た感じ今更 裏切らないだろうし此処で死んだら後でも詰む筈だ。
何にせよランスの悪運に頼る山場は多いだろうし、今回の同行なんぞ序の口なのは間違い無い。
そんなワケで旅立ちの直前、互いを革のベルトで固定する事が必須なのでサイゼルが軽く浮遊して背後に回りこんで来る。
よって自然と密着するワケであり、鎧を着ていなければ何とも言えない気持ちに成るのは必然だったであろう。
≪――――ガチン≫
「固定したぞ? 浮かんでみてくれ」
「ふふん。見てなさい?」
「生憎 真後ろの様子は見えないな」
「だったら あたしは今の時点で浮かんでるわよッ」
「そいつは失礼しました」
「分かれば良いのよ……っと!」
≪――――ぶわっ≫
「おぉ~ッ。凄いな! 重くないのか?」
「大丈夫みたい」
「みたいとは?」
「有る程度の重さなら"エンジェルナイト"の特性なのか あたし自身の力を出さなくても浮いてくれるの」
「もし重量オーバーだったら どうするんだ?(……正体についてはスルーしよう)」
「その場で少し羽ばたいてから風に乗らないとダメね」
「そりゃ大変そうだな」
「何年魔人やってると思ってんのよ? 慣れてるし別に問題無いわ」
「納得」
「しっかしアンタも変わってるわね~、飛べるヤツの事なんてイチイチ気にしてたらキリが無いわよ?」
「言っての通りだが、自分の立場とも成ると気にせざるを得ないだろ」
「ふ~ん。まァ良いけど……飛び立つ時は周りが特に"五月蝿い"のよね」
「どう言う意味だ?」
「あたしって氷の魔人だし、影で"寒い"やら"凍る"やら」
――――こんな会話をしつつも俺の両脇から自分の両腕を滑らせる感じで抱えつつ、既に北へと進んでいるサイゼル。
「確かにオマエが最初に現れた時は、とんでもなく寒かったしな~」
「やっぱり? だったら今のアンタは どうなの?」
「大した事は無いな。多少ヒンヤリとする程度だ」
「そ、そう?」
「何だかんだでメルフェイスに懐くようになってからは、カラダの冷気を抑えるように努力してたみたいだしな」
「別に懐いてなんか……」
「茶化してる訳じゃない。お前だって分かってただろ? 一緒に戦ってた誰もがサイゼルの冷気(パッシブ)に何も言って来なかった」
「…………」
「魔人の感覚がどうかは大して生きて無いから知らんが、人間が此処まで繁栄してる理由は今なら何となく分かるんじゃないのか?」
「……癪だけどアンタの言う通りかもね。あたしみたいなヤツなら、人間の世界でも別に不満も無く暮らせそうだし」
「だがケイブリスってのはホーネット達を始末して魔王となり、人間達をも支配して甚振り尽くす気だ。精々家畜が良いトコだな」
「…………」
「更にはケイブリス側が勝てばオマエの自慢の妹も、どうなる事か分かったモンじゃない」
「……ッ!」
≪――――ぐらっ≫
此処で最早トンでもない高度に成ってるが、地味に真面目な会話を交わしているので感動を得るのは後にするとして。
少し卑怯だが安全を確実にする為にハウゼルの事を話題にすると、サイゼルは明らかに動揺し続いてた風圧に大きく揺られた。
いかん危ない危ない危ない……リーザスへの道中の安全を確保するのに、今落下するというリスクを背負うワケにはいかん!
この程度の揺れならサイゼルは慣れているだろうが、少し俺のを抱える力が緩んでいるので事の重大さをアッピルしなくては。
「うおぉおいッ! 危ないだろうが!!」
「あっ。ゴメンゴメン」
「全く……腕が放れたらベルトが切れたら俺は終了なんだぞ? マジで勘弁してくれ」
「ランスが縁起でも無い事 言うからでしょッ?」
「それについては悪かったって!」
「ふふん……流石のアンタでも高い所が苦手なのねェ」
「あァ。(飛行機は何度も乗ってるが)一度"こう言う"経験はしたんだが、簡単に慣れる筈も無いってな」
「でも一度は有ったんだ? それはそれで意外かも」
「そうか?」
「……うん」
「…………」
「…………」
「だったら景色を眺めてるダケなのも退屈だし、少し長くなるが聞いて貰えるか?」
「!? い、良いけどォ?」
――――仕方なく話題を変える事にしたワケだが、話を振りつつチラッと見たら露骨に喜んでて可愛いなチクショウ。
「ゴホン。以前"ノス"達がヘルマンを手懐けてリーザス攻め込んで来たのは知ってるよな?」
「当然。でも信じられない事に人間達に負けてアイツらは死んで、結果ホーネット達の首を絞める事に成ったのよねェ」
「だが"その戦い"に俺様も絡んでると言ったら?」
「!? な、何ですって? そう言えば あたし……ランスの事何も知らなかったわ」
「反面サイゼルの事は自分から色々と喋ってくれたし、まだ見ぬ妹についも無駄に詳しく成っちまったけどな」
「うぐッ!」
「話によると凄く良い娘らしいし、初っ端からガラスをぶっ壊して100万ゴールドの借金をした姉とは大違いだ」
「も、もう勘弁してよ!」
「はははッ。冗談は置いといて。先ずは空の話だったな……少し前に"浮遊大陸イラーピュ"ってのが有ってだな?」
「ふんふん」
……
…………
……数時間後。
「ようやく"ジオの街"も近くなって来たな」
「暗く成る前に着けたみたいね」
「そうだな。降ろして貰って構わないか?」
「はいはい。それにしてもランスが其処までイカれた奴だったなんてねェ」
「褒め言葉として捉えとくさ。ともかく丁寧に頼んだ。乱暴にするなよ?」
「あ、あたしを何だと思ってんの?」
「貴重な仲間の魔人だ。ともかく街に入る前に俺はフードを被るから、サイゼルは出来るだけ羽を収めるんだぞ?」
「……ッ……」
何気に(故人)ランスの旅路はⅣまでであっても結構 長いので、話のネタが尽きる事は無かった。
ナンダカンダでサイゼルも常識には かなり疎いので、俺の話には興味深く耳を傾けてくれ今に至る。
そのスケールは弱体化"ジル"を倒す程 壮大なモノだったが、途中でカオスが口を挟んだりもしたので彼女は信じてくれた。
別に信じてくれなくても痛くも痒くも無いけど、思った以上にサイゼルは話の分かる娘だった模様。
……と"そんな事"を思っているウチに久し振りに大地を踏みしめた俺はややフラつきながら歩き出すワケだが。
ふとヒンヤリとしたモノが右腕に触れたので視線を向けると、何とサイゼルが腕を絡めて来ていた。
その頬は氷の魔人ながら ほんのりと紅くなっており、あえて剣を振る左側にくっ付かなかったのを気遣いと捉えて良いのだろうか?
しかし"こう言うタイプ"は指摘すると(良い意味の)逆ギレを食らうので、俺は軽く口元を歪ませながら街へと向かってゆく。
その際 互いに無言だったのだが……ガチでサイゼルの魅力がヤバいので別の事を考えざるを得なかったとも言える。
よって此処でデンジャラス・ホールに残して来た仲間達の予定を振り返って置こう。(最終的にリーザスに向かうのは共通)
かなみ:リーザス聖盾を背負って最速でリーザスに帰還(頑張って走るらしい)
メルフェイス:ハウレーンとエクスに今回の旅の戦果を伝えつつ"うし車"で帰還
ウィチタ:メルフェイスの護衛(互いの仲は全く悪くなく、むしろウィチタはメルフェイスに憧れている感じ)
アームズ:メルフェイス&ウィチタと足並みを合わせる(何故か途中で依頼を片付ける気は無いらしい)
ミル:姉のミリと引越しの準備を終えてから来る(もう終わってるかもしれないが)
エレノア:マリアと魔想さんの軍の編成を手伝ってから一緒に来る(終わってればミリを手伝う)
謙信たち:直江達との軍の再編成を終わらせ次第 全員で来る(カスタム組とは別行動)
……既に かなみが傍に居ないと(特にJAPANからの)暗殺が怖いぐらいにまで依存してしまったのが恥ずかしい限りだ。
だが明日にはリーザスに戻れるので、そんな恐怖など抱く事も無いほど忙しい毎日が待っているだろう。
しかし"その前"に目の前の氷の魔人の出す今回の"運送"の条件を飲まねばならず、それが最後のイベントってワケだな。
「注文は決まったか? それじゃ~褒美その1だ。タップリ食って構わないからな?」
「う、うん」
「お~いッ! こっちだ姉ちゃん!!」
「…………」
――――さて真っ先に宿に向かって食事を始めるが、殆ど食わなかったサイゼル。だが"まだ"慌てる時間じゃないと思いたい。
……
…………
……1時間後。
ジオは重要な中継地点でもある街な為、リーザスが自由都市の支配に乗り出した今かなりの繁栄を遂げている。
頑(かたく)なに傘下に入るのを拒んだジオの貴族達は既に手懐けられたり粛清されたりしてるのは さて置き。
俺に気付いたリーザス兵達には既にマリスが手を回しており、目立たない様に遠目から見守る指示を受けてるのも余談として。
そんなに繁栄していれば宿が賑わっているのも当然であり、こうして泊まってる"俺とサイゼル"も今は只の客に過ぎない。
そう……皮肉にも店が混んでいた事から相室しか残っておらず、俺は彼女と密室で2人っきりで更にベッドは1つである。
「…………」
「…………」
さて此処に至るまでサイゼルが出す条件に関しても余裕が有れば考えていたが……先ずはカミーラ達と戦いたく無いって事。
2つ目は妹である"ラ・ハウゼル"と会う為に魔王城に戻りたいと言う言う事、コレも彼女の性格を考えれば可能性は極めて高い。
しかし"今のタイミング"に成るまで"条件"を告げて来なかったと言う事は……もう覚悟を決めるしか無いのかもしれない。
よって見た感じは冷静を装いつつも、何時もの様にベッドに飛び込まず立ち尽くすサイゼルに対し、俺は腰を降ろしつつ言う。
「さてと。そろそろ話してくれても良いんじゃないのか?」
「…………」
「今話してくれないんなら、もう風呂に入って寝るぞ?」
「そ、それは駄目」
「ですよね~」
「…………」
「サイゼル?」
「えっと……アンタとメルフェイスの関係なんだけどさ」
「うん?」
「……聞いた話……何度も一緒に寝たり、お風呂入ったりしてるのよね?」
「あァ。まだまだ短い付き合いだけどな……これからも続いてゆくだろう」
「なら知ってると思うけど……あたしMランドでメルフェイスに抱かれた」
「半分は俺の采配だな。今は反省している。それに彼女の副作用を抑えてくれた事には本当に感謝してるよ」
「礼は別に良いわよ。そ、それよりも本題なんだけどッ!」
「おゥ。ドンと来い」
「あッ……あのさ? そのランスが……メルフェイスと夜に遣ってる事……を……」
「……(意外と早く落ちたなァ)」
≪――――ばっ!≫
「その……あたしにも遣って欲しいな……ッて思ってェ!」
「!?!?」
「はァッ、はァッはァッ(言っちゃった言っちゃった言っちゃった言っちゃった)」
「な、なん……だと……」
……最初はサイゼルを"魔人の仲間"としての立場を確実とする為に同行させたに過ぎなかった。
だが彼女にとって俺の存在は必要以上に大きく成るに至り、俺もこの機会を設けた事から何処かで告白を期待してたのかもしれん。
これは本来のランスならば大喜びのシチュエーションかもしれないが、俺はサイゼルを受け入れた後の選択をも考える必要が有る。
よってトマトの様に真っ赤になって何とか"条件"を吐き出したと言った様子の彼女に対して、俺はワザとらしく驚くしかなかった。
女々しくも"この後"の会話の切り出しで時間稼ぎがし易くなる為であり、今夜も長い夜と成りそうで俺の理性の限界が懸念される。
●あとがき●
短いですがキリが良いので今回はコレで終了です。ランスとサイゼルのイベントはもう少しだけ続きます。もう少しでリーザスだ!
また感想のほう皆さま有難う御座います。今は本編を打つ事に集中してしまっていますが、近いウチに返信は纏めて行うつもりです。