鬼畜王じゃないランス23
=LP03年06月3週目(金)=
来週アタマにリーザスに意外な人物の訪問が有る事が分かった訳だが。
本来 大慌てして帰還しても仕方無い人物とは言え、知っての通り俺はダンジョンを優先させていた。
それに関して特に仲間の皆からの追求は無く、JAPAN組みは大陸の教団には疎いので仕方無いとして。
かなみとメルフェイスすら特に何も言って来ないのは、俺が決めた選択が何よりも優先させる事だと思ってくれているからだ。
マリスの様に何事であれ最初からリーザス(特にリア)を最優先させる者ならともかくとして。
どちらかと言うと優柔不断ともいえる性格な2人が、躊躇無く俺との旅の継続を選んでくれるのは地味に嬉しいモノである。
それはさて置き、先日のカオルの訪問から3日経った今 ダンジョンの攻略は急速に進んでおり……
――――デンジャラス・ホール48層。
このダンジョンに置いて、今更ながら分かっていた事だが敵の湧きには大きく3パターンあった。
ひとつ目は"中尉ハニー"の様な指揮官型が大量のモンスターを集めて待ち構えているモンスターハウス。
ふたつ目は此処でも他の迷宮でも多く見られる、指揮官も強力なモンスターもいない容易に経験値を稼げるパターン。
そして みっつ目が魔物の洞窟の"マーダー"や解呪の迷宮の"ハウ・キュッ"の様なボスモンスターが待ち構えているパターン。
今現在がまさに"それ"であり、此処みたいな大迷宮にも成ると原作以外の場所でも普通に出てくるらしい。
「少し数が多いが……指揮官のハニーは居るのか!? かなみ!」
「指揮官の姿は有りませんッ! でもアレは……ひ、ヒトラー!?」
「何だと? まさか"こんな場所"で目にするとは」
「皆 緊急事態だ!! 即 攻撃魔法を撃てッ! 前衛は近寄って来るヤツだけ相手にしろ!!」
48層に降りて先ず行ったのは既に定石ともなる、かなみによる敵の戦力の確認。
すると今回はランスⅥのトラウマとも言える2メートル越えの人造魔法使い"ヒトラー"が待ち構えていた模様。
だが熟練の冒険者で有っても一生 見る事も無いような強力なモンスターなので、脅威が察せたのは一部の者ダケだった。
それはアームズも含まれており、後から聞いた話によると彼女でさえ今日初めて遭遇した模様。
一方ミルみたいな娘が脅威を認識できる筈も無く首を傾げていたが、俺の只ならぬ雰囲気に表情が動揺を表した。
「ど、どうすれば良いの!?」
「最悪 幻獣を壁として使わせて欲しいッ! 何時でも出せる様にしてくれ!!」
「!? うんっ! 分かった!!」
「えっと、えっと……」
「エレノアも魔法役だ! とにかく撃ちまくれ!」
「は、はい!」
「もう詠唱を始めていますッ!」
「早くしろッ! 間に合わなくなっても知らんぞーっ!?」
「氷の矢……どんどんゆきますッ」
「(溜めて置いて良かったわ)先手必勝!! ファイアーレーザーッ!」
「何にせよ何時も通りね!? スノーレーザーッ! スノーレーザー!!」
指揮官が居ない事から敵の前衛はまだ接近して来ておらず、申し訳程度の雷魔法を撃ちながら指示を出す俺に他の者達も続く。
それにより目の前に居る殆どのモンスターが先制により薙ぎ倒され、残ったモンスターが近づいて来るがヒトラーは詠唱継続。
此処で指揮官ハニーが居る・居ないでのとの最大の違いを考えると、真っ先に浮かぶのが魔物の数と統率能力なのだが。
味方を巻き込む事を理由に戦術的に不要なのか"大"魔法を使って来ないと言うのも大きな特徴であり普通に助かる仕様だった。
だが今回は普通の(ボス)エンカウントであり……元ネタに関係が有るかは謎だがヒトラーは魔物ごと俺達を葬る気な様子。
威力は謎だが"フォッケウルフ"を使われたらサイゼルと俺以外は蒸発する確率が極めて高いので、何としてでも対応せねば!
「ど、どうしましょう~? 謙信様」
「ランス王の指示通り後ろの者達を守る様に努めるしか有るまい」
「(だったら防御式神よりもランス王を信用して……)」
「此処は通さないよ~っ!」
「命が惜しくなければ来るが良い」
「今日で全部 使うしか無いって事ね!? 式神・鳥ッ!」
戦闘を開始している仲間達を様子を見て思うが、3日間の攻略によって得た事の一つとして。
"上杉 謙信"が目覚しい成長を遂げており、アームズと肩を並べて戦える程の剣士へとレベルアップしている事が挙げられる。
それダケでなく原作と違って直江の命令を無視して突っ込む様な猪突猛進では無く、指示通り行動する謙虚な戦闘スタイル。
更に常に3人固まって行動していたJAPAN組みだったが、連戦の中で信頼度が上がったのか戦闘開始後は皆に紛れている。
今は基本的に俺の前にアームズが立ち、左右に謙信と大道寺が控え……メルフェイスやサイゼルの近くに南条も立つ。
コレに置いて前衛の立ち居地は非常に重要だが、中衛以降は其処まで重要では無く細かい指示は俺が行うようにしている。
短い間とは言え頼りに成る前衛が3人に増えた事から、それなりの戦闘力を持つ俺だが真っ先に直接攻撃はしないのだ。
「このっ!」
「当たれ!」
確かにヒトラーは恐ろしいが他の魔物の質や数は大した事が無く、大半のモンスターが魔法の嵐によって蹂躙される。
だが生き残りは突っ込んで来るので前衛3名が抑え、かなみと魔法を放ったウィチタが後衛の魔法型モンスターに飛び道具を投げる。
それぞれが手裏剣・投げナイフを急所に向かって放ち、原作では強いモンスターも人間と同じく急所を損傷すれば即死なのだ。
コレが俺が最も恐れている死に様で有り、危機察知能力が高い かなみは既に欠かせない存在。
戦国ランスのイベントを見る限りでも、忍者の恩恵で何度も御都合主義でランスは即死を免れており密偵の充実も課題である。
「仕留めた! 残りはゲーリング2体!」
「クッ……(私は一体に当たったのみね)」
「でかしたぞ!? メルフェイスとサイゼルで確実に一体づつ殺れ!!」
「はいッ!」
「左頂き!」
「良しっ! これで奴を俺が――――」
「!? ら、ランス様ッ! 魔法が来ます!」
「そう来たか!?」
『"ビスマルク"!!』
≪――――キュボボボボボボボボッ!!!!≫
「なッ!(避けられん!)」
「アームズ!?」
「ミル! 幻獣を!」
「わ、分かった!」
無論"この世界"の戦いでは鬼畜王の"兵士ゼロ"以上に容易に人間は死に至り、ランス6の様に戦闘不能による戦線復帰も無い。
その危機感を"ハウ・キュッ"との戦いにより強く認識した事から、今回のヒトラーも行動も想定の範囲内だった。
ヒトラーの"溜め"は"フォッケウルフ"の段階に迄 至っておらず、撃ちたいモノなら その前に必殺技で倒せば良いダケだ。
しかし素早く取り巻きが倒された事から早い段階で魔法を放って来るのが予想でき、まさに"そうなった"と言うワケである。
何処から出した声だか一直線に放たれた"それ"にモンスターを倒した直後のアームズは身構えるしか無かったが……
≪シュウウウウゥゥゥゥ~~…………≫
「ら、ランス」
「大丈夫か?」
「それよりッ」
「問題ない。レベルが高いからな」
「……っ!!」
「かなみ!!」
初撃の魔法以外は何も行動していなかった俺が、地味に背負っていた"聖盾"を右手に咄嗟に割り込む事で魔法を防御。
貫通型の魔法の為に謙信と大道寺は無害だったけど、2人のどちらかに放たれていたら当然 其方を庇っていただろう。
また後ろに流れたビスマルクの余波は、エレノアの指示によって幻獣を放ったミルの活躍より被害は無いに等しかった。
よって上手く切り抜けたと言って良いのだが……全身が明らかに熱いので、それなりのダメージを被ったらしい。
魔法耐性も有る高級な鎧とは言え今装備を外したら普通に火傷を負ってそうだ……少なくとも生身の人間なら蒸発だろう。
だがガクリと膝を着きながらも既に消えていた者の名を叫ぶと、既に かなみがヒトラーの後方でカラダを反らしており……
「(死ねッ!)」
『!?!?』
≪――――ガッ!!!!≫
駆け足で軽く前に踏み込みつつ放ったに過ぎない短剣の一撃でしかなかったが。
コレが"暗殺"と言う技なのだろうか、背後から直撃を受けたヒトラーの首が宙を舞いクルクルと回転しながら地面に落ちた。
それにより戦闘終了と成り、直ぐに立ち上がれない状況の俺に背後のアームズと2人の剣士が声を掛けてくる。
「すまない……命拾いをした」
「その為の装備と立ち位置だ。気にするな」
「だ、大丈夫なんですかぁ~っ?」
「かなり熱いが世色癌を飲めば問題ないさ」
「しかし かなり焦げている様ですが……(お肉が焼けそうだ)」
「そうだな。メルフェイスに冷やして貰おう」
≪――――たたたたっ≫
「た、直ちに!」
「早く立ちなさいよ~っ、情けないわね~!」
「そうよランスッ! 男でしょ~!?」
「あ、あのね? 2人とも……」
「良いさエレノア。サイゼルとミルの言う通りだ。それよりも南条。"取って置き"は まだ有るのか?」
「は、はい。残り一回分のみですが……」
「ならば一気に50層まで抜けるか。レベル神を呼び出したら次に進むぞ? ウィチタは周囲を警戒しててくれ」
「か、畏まりましたッ」
「かなみ! そんなモン睨んで無いで早く来い!」
「……了解」
恐らく"これ以上"の迷宮ともなると、才能限界レベルの低い者達を連れて潜るのは不可能に近くなるだろう。
レベル30程度ならば、上級モンスターの初級魔法を受けたダケでも体の一部が吹き飛び死に至るのは明白だ。
それを高レベルの者達が防ぎつつ戦う事も"可能"では有るが"確実"では無く、何度も渡れる程 安全な橋ではない。
また無理について来た者も死の恐怖と隣り合わせに成るのは勿論、足手纏いだと言う劣等感に悩まされる。
よって かなみやメルフェイスの様な"強化"が可能な者や、謙信やサイゼルの様な才能限界が高い仲間が必要な訳だが……
たかが3ヶ月程度で解決される問題では無いし、無理に上の迷宮を目指すより今回の様な下積みの攻略をメインにするべきか。
しっかし夢とも言えるハーレム・パーティーだと言うのに、敵が強くなる度に新たな悩みが増えちまって皮肉なモンだな。
……
…………
……数分後。
『ランスさんは経験豊富とみなされ、レベル61となりました』
「はっはっは。また強くなってしまった」(棒)
『かなみさんは経験豊富とみなされ、レベル58となりました』
「まだまだ精進しますッ!」
『メルフェイスさんは経験豊富とみなされ、レベル56となりました』
「あ、有難う御座います」
『サイゼルさんは経験豊富とみなされ、レベル91となりました』
「へぇ。今回も上がってたか~」
『謙信さんは経験豊富とみなされ、レベル50となりました』
「これも皆様と毘沙門天の加護の御蔭です」
『今回は以上ですね。それでは皆さん御機嫌よう~っ』
≪――――ぽんっ≫
ウィリスによるレベルアップの儀式に置いて、以前からレベルアップした者だけの名を告げるように頼んでいたのだが。
毎度の事"上がっていない娘"の視線が痛く感じるように成って来ており、素直に喜びを表す事が出来ず苦笑いする俺だった。
警戒中のウィチタは勿論の事、アームズを含む才能限界の誰もが"この時"は少し居た堪れない様な・怪訝そうな表情をしている。
"才能限界を告げられていたのにレベルアップした"事は前述のウィリスへの配慮により一部の人間にしかバレてはいないが……
今回の冒険は今日のデンジャラス・ホールの攻略で終わる流れだが、再度 新たな冒険を続けてゆく事でいずれは知られてしまい、強さに対する執着によってはメルフェイスの様に最大の選択を強いられる。
……かと言って俺から誘導できる事では無くメルフェイスの例の通り、自分から"ランス"を選んでくれなければ意味が無い。
「相変わらず気が重い儀式だな」←以下小声
「そ、そうね」
「でも……もっともっと強く成らなければ、ランス様を御守りできません……」
「嬉しい事 言ってくれるじゃないの。この調子で頑張ってくれ給え(しかしアレだけ狩って60から、たった1レベルか)」
「(うぅ……毎回 私から"お願い"するのにも勇気が要るのに……でもランスから誘って貰うより私が待ちきれなくって……)」
「私は今回の反省を活かして、回復の魔法も嗜んで見ようかと思いました……」
「う~む。何かをされる前に倒せれば一番 良いんだが、ヒーラーの勧誘も課題か?」←フラグ
「流石にマリス様に御一緒して貰うって事は出来ないし……(心当たりはシィルちゃん位しか居ない)」
「申し訳有りませんが、優れた神魔法の使い手に心当たりはありません……」
――――かなみ&メルフェイスと小声で話していた中、スタスタと近づいて来ていたサイゼルが両手を後頭部で組みながら呟く。
「……そう言えばハウゼルのレベルって幾つ位に成ってんのかなぁ~?」
「89だろ」
「えっ? 何でランスが?」
「いや適当に言ったダケだ、気にしないでくれ(データで知ってるから勝手に口を開いてしまった)」
「あんですって?」
「と、とにかく儀式は終わったッ! さっさと潜って帰って、飯食って寝るぞ!!」
――――此処で失言を無理なテンションで強引にスルーしようとすると、今の台詞に露骨に反応した剣士が一人。
「やった! 今夜は御馳走かもしれないッ」
「今夜も何も毎度の事に成ってますよ~? 謙信様~(王様も毎日 無理に対抗して食べてる気がするし~)」
「それに宿の店の人が食材が無いって悲鳴を上げてたし、そろそろ勘弁して上げなさいね?」
「うぐッ」
「もう~、折角 滅茶苦茶強く成れたって言うのに~」
「残念ながら食欲は変わらず仕舞いか(だけどランス王達は更に強く成られてるし、王の器と言うのは既に疑い様も無いわね)」
――――その上杉謙信の腹ペコ仕様と、俺達の前では当初は繕(つくろ)っていた彼女への言葉遣いを今は余り通そうとしていない。
「…………」
「ねぇラン。さっきから どうしたの~?」
「!? えッ? な、何でも無いよ? それよりも さっきは助かったわ。調子はどう?」
「全然 平気だよ! 只 付いて行って適当に幻獣を出してるダケだしッ」
「そう……(私は格の違いにビックリだよ。でもランス君はちゃんと私も活かしてくれるし、今度も一緒に行って良いのかな?)」
「さっき"も"ちょっと怖かったけど、ちゃんとランス達や幻獣が守ってくれるよ!」
――――また相変わらず冒険を楽しんでいるに過ぎないミルに対して、何か思うトコロ有りそうなエレノア。
「(コレがリーザスの王と、その側近の力なのか……一体 何処まで伸びる? 全く留まる気配が無い)」
「(色々と誤魔化して戦って来ているけど、此処までの場所に成ると明らかに かなみさんとメルフェイスさんとの違いが出ている)」
「(先程のヒトラーの魔法の事に対しては、完全に"お荷物"でしか無かった。だがそれも当然の様にランス王は動いていた)」
「(その"違い"を埋める為には何らかの"恩恵"を受けるのみ……かと言って私の役目はガンジー様への旅の結果の報告)」
「(危険な迷宮な攻略。私は井の中の蛙に過ぎなかった様だ。しかし再び彼らと赴く為にはどうすれば良い? ……どうすれば……)」
「(だから今は足手纏いに成らない事を考えるしか無い。解呪の迷宮での二の舞は絶対に避けないとッ。考えるのは帰ってからね)」
そしてウィチタとアームズに置いては黙って一人で何かを考える素振りで集まって来るのだが。
今の俺には彼女達の心情を測れる筈も無く、踏み込む時間も残されてはいないので全てはリーザスに戻ってからだ。
……とは言えカミーラの部隊や法王の訪問を始め、帰還してから片付ける事は山ほど有りそうなので頭痛がする。
故に次の遠征が何時に成るかも分からないので、特にアームズの様な人材は旨くリーザスに繋ぎ止める様にしなければな。
……
…………
……デンジャラス・ホール49層前。
「早かったな。どうだったんだ? かなみ」
「次も交戦必至です。"中尉ハニー"が鼓舞していた声が聞こえた為、直ぐに引き返して来ました」
「やっぱりか……下層に関しては全く容赦の無いダンジョンだな……攻略させる気が無いだろッ」
「どうされます?」
「やらいでか。だが今回も南条のアレを頼んでも良いか?」
「!? はいッ! 此処まで来れれば出し惜しみをする理由は有りませんので」
「だが……1回で2~3週間掛かるんだったか?(それに結構な資金)」
「はい。しかしランス王が気にされる事では有りません。私達としては謙信様が此処まで成長されたダケで十分な収穫ですので」
「そうか。まァ遠慮はするな。十分な報酬を約束しよう」
「そ、その御言葉を頂ければ十分です」
「蘭~ッ、ちょっと赤くなってる~っ」
「そ、そそそそんな事は無いわよッ!」
「(大道寺は陰陽師が嫌いだった筈だが"信長"の征服で今が在るってか)」
決戦前ながら相変わらずニコニコしながらも唐突に水を差す大道寺を見て、近いウチに本気でアイドルにでも育てようかなと考える。
現実のアイドルには興味は無く新聞やニュースを見るとスキャンダルばかり目に入る為、安い夢を売って金を儲けてる印象しか無い。
だが原作通りなら俺が手を出しさえしなければ正真正銘の清純アイドルであり、本来の彼女が最も望む位置付けとも言えるだろう。
そう考えて見ると大道寺の"強化"による側近ポジへの条件は、自分から"その道"を完全に諦めて俺一人を選ぶ事……難易度高過ぎだ。
『ランスさ~ん!』
「うぉおっ!? な、なんだフェリス! 突然 出てくるな!!」
『酷いじゃないですか~ッ、どうして私を呼んでくれないんですか!?』
「えっ? それに関してはミルやらエレノアやらが危なかったら助けてくれりゃ良いって指示してたろ?」
『で、でも……先日から危ないんだか楽勝なんだか判断が難しい戦いばかりで結局 今に至るんですッ!』
「なら どうすりゃ良いんだよ?」
『此処を攻略すれば暫くは迷宮には潜らないんですよね? よって最後の戦い位は最初から戦わせて下さい』
「そりゃ大助かりだ。よぉし、ならば此処のダンジョンの魂はフェリスにくれてやる。好きにしろッ!」
『!? さっすが~、ランスさんは話が分かります!!』
「……(呼んだら簡単に来てくれるワケだが、ひょっとして脳と脳とが見えない"何か"で繋がってたりするのか?)」
サイゼルを含めて軽く周囲の娘達が引いている中、少し鼻息を荒くしながらパーティーの一員として付いて来るフェリス。
更に元より南条の"切り札"も有るしで、こう成れば楽勝モードと言っても良いが……油断はせず即効を心掛けるとしよう。
そんなワケで各々が武器を構えて階段を降り切ると、少し離れた前方でモンスター達がズラリと隊列を維持しながら控えていた。
『侵入者パーティー発見~っ! はにほ~、総員突撃~!!』
「良しッ。前衛は待機だッ! まだ手を出すなよ!? ギリギリまで引き付けろ!!」
「ははッ!」
「は~い!」
「分かった」
≪……ドドドドドドドドッ!!!!≫
「(そろそろか)南条ッ! 頼んだ!!」
「畏まりましたッ。――――行って!」
単純ながら熟練の冒険者から見ても脅威以外の何物でも無い、数十のデカント達の突撃による接近を許している俺達だったが。
ただ一人指示を受けた南条が、両手で取り出してビラりと広げた数百枚にも成る"お札"を頭上に勢い良く放り投げると。
その"お札"らは瞬く間に巨大な白鳥へと形を成し、南条は何時の間にか天井に向かって掲げていた右手を振り下ろすと同時に叫ぶ。
≪――――ばっ!!≫
「朱雀ッ!!」
≪ズゴオオオオォォォォーーーーッ!!!!≫
すると間違い無く"朱雀"と呼ばれた白鳥だったモノは、モンスターの群れに突っ込んでゆく最中 炎を纏う不死鳥へと姿を変えた。
まさにゲームで言う"召喚獣フェニックス"であり……モーション的に言えばグライダー・スパイクか?
そんな(使い捨てなのが悔やまれるが)朱雀の進行方向に居たモンスターは全て業火に身を焼かれ炭屑となってゆく。
コレが前にも述べた南条の"切り札"であり、凄まじい火力を誇るも燃費が極めて悪いらしくリーザスでの札の量産が求められる。
本来 寝ないで作り続けても一撃分1週間は掛かる事から出し惜しみしていた様だが、謙信に促されると素直に投入してくれた模様。
確か南条の才能限界は38だった筈だが、彼女やマリアの様にアイテム次第で不相応な火力を出せる者も居るのだと改めて実感した。
……とは言えサイゼルなら必殺技で同等の火力は出せるだろうが、朱雀は途中で発火する為 味方を巻き込まないと言う強みが有る。
「今だッ! 斬り込め!!」
「上杉 謙信……推して参るッ!」
「がんばっちゃお~っと!」
「どけっ!」
『死になさい!!』
さて今こそが攻勢のタイミングで有り、リックの台詞をパクると同時にフェリスを含めた4人の前衛たちが突撃してゆくのだが。
彼女達がカチ合う前に何本ものレーザーが各々の間を通り抜けてゆき、朱雀の突進+着弾による爆発で生き残った敵をも薙ぎ倒す。
よって前衛モンスターで残っているのは殆どはハニーであり、僅かに残ったデカントも含めて各個撃破して戦線を押し上げてゆく。
もはや12人で出せるような戦果では無く、驚きを通り越していた"中尉ハニー"が かなみに暗殺されるのは僅か30秒後であった。
……
…………
長い道のりの末 遂に50層へと足を踏み入れた俺は、予想はしてたが極端に狭くなったフロアを歩く事 約30秒ほどで。
ポツンと台座に置かれている宝石箱を発見すると"わ~い指輪ら!"とレトロな鬱ネタを言わんばかりの勢いで歩むと立ち止まり。
無言で近くに居ると思われる かなみに開錠を催促すると、即座に彼女は罠が無いのを確認すると箱を空け中の指輪を差し出す。
「どうぞ」
「よ~し、良しッ。よくやった! くっくっくっ……(遂に手に入れたぜ!)」
「どうしたのよ? 男が指輪 見ながらニヤニヤしちゃって気持ち悪いわね~」
「何を言うかッ。コレは経験値が2倍に成る神アイテム"幸福の指輪"だぞ? サイゼル君」
「はァ!? それホント? だったら頂戴」
「誰が手放すかッ! 早速 装着!」
「あ、あァ~っ!」
「う~む。他に装備などは落ちていないな」
「仕事はやいなアームズ。んじゃ帰還っと」
「早く早くッ! あたしお腹減った~!」
「(そう言えばランス君が毎回払ってる食事の領収書……凄い金額が見えた気がしたけど大丈夫なのかな……?)」
――――こうして後半は完全に効率重視な攻略となり、喜ぶ間も無くアッサリと帰還し小さな祝勝会をも手早く済ませるのだが。
「それじゃ~サイゼル。悪いが明日から頼む」
「はいはい。でも"途中"で一つ条件を出すって事……忘れないでよ?」
「把握してるが、何故 今の段階で教えてくれないんだ? しかも場所が"ジオの街"とか中途半端 過ぎるだろ」
「う、五月蝿いわねッ。ともかくアンタは黙って抱えられて、途中で出す条件を飲めばソレで良いのよッ!」
本来 今直ぐにでもサイゼルに抱えて貰って出発したいが、今夜も例の2人とのハッスルが有るので翌朝にしたのは さて置き。
全員での豪勢な夕食を済ませると、忘れられては非常に困るので再確認の為にサイゼルを呼び止めた訳だが。
彼女に出された"リーザスにまで運んで貰う条件"の"途中まで進んだら一つダケ言う事を聞いて貰う"ってのが気に成っていた。
……だが今は教えてくれないのは相変わらずであり、やや声を荒げつつ去ってゆくサイゼル……少し機嫌を損ねたかもしれない。
「ランス様……」
「メルフェイス。そう言えば風呂だったな。コレで4度目か?」
「は、はい。一緒に背中を洗いっこする事……好きですから……」
「ははッ。初回みたく氷の魔法が得意なのにノボせるのは勘弁な?」
さてコミュニケーションに置いては、今みたくメルフェイス&かなみとは肌を重ねてるしで接触は他の娘達と比べ極めて多目である。
そもそも好感度的は互いにMAXなので気にする必要すら無いのは さて置き。
積極的に擦り寄って来るミルに対しても俺が常に好きにさせているので、必然的に彼女との関わりも多かったと言えよう。
しかし此処 数日は時間を惜しむ攻略だったのを御存知の通り、前述の3名以外との会話はハッキリ言うと少なかった。
特に迷宮の攻略が終わって意識を"仲間"に戻した事で、急成長した勇ましい剣士から瞬時に元の"姫様"に戻った謙信に関しては。
自分が此処まで強く成れたのは俺(リーザス)の御蔭だって事で礼を言いたい様だが、直ぐ赤面して躊躇する素振りが多々有った。
……とは言え今の段階では俺の事より直江達との軍の再編成に集中して欲しい為、少しの別れの間に気持ちを整理して頂くとしよう。
またウィチタ・スケートにとっては本来の主君であるガンジーへの今回の旅についての報告が優先され。
エレノア・ランには帰路で合流する筈のマリア達のサポート、若しくは自分やミリの引越しの手続きとかが優先され。
アームズに置いては、夕食での会話の中でエレノアと足並みを合わせてリーザスに来てくれると言う話に迄 漕ぎ着けたダケで十分。
よって全てはリーザスに戻ってから改めて関われば良い……俺には俺の公務も沢山 溜まってるだろうし……そう自己完結させる。
そんなワケで俺はメルフェイスと肩を並べて廊下を歩いてゆく中、かなみの方はどう料理してやろうかなとか邪な思考へと移った。
「あッ。先に行っててくれメルフェイス。カオスを部屋に置いて来るから」
『がァ~んッ! 折角 自然な形で混ざろうと思ってたのに!!』
――――尚カオスが全く喋っていなかったのは完全にコレが狙いだった為であり、一度メルフェイスが損害を被った事が有る。
●レベル●
ランス :61/無限
かなみ :58/40(+18)
メルフェイス:56/48(+8)
サイゼル :91/120
ウィチタ :35/35
アームズ :44/44
ミル :34/34
エレノア :30/30
上杉 謙信 :50/70
南条 蘭 :38/38
大道寺小松 :43/43
●あとがき●
サイゼルフラグ不回避。ランスが一足先にリーザスに帰還するので、今回同行していたキャラ達の出番が少しの間減ると思います。
その間に魔人やら法王やら公務やらランスがマリスに押し付けていた事を消化させ、再登場時が"運命の分かれ道"と成るでしょう。
さて高レベルの女性のヒーラーとなればランクエ含めてAL教団には有力な候補が2人居ますが、主人公はかなり困惑するよなあ。