鬼畜王じゃないランス16
=LP03年06月2週目=
――――エクスと別れてから3日後の昼。
俺は今迄の移動用で使っていた"うし車"とは違い、リーザスが管理している"うし車"の中で揺られていた。
それは"白の軍"が使う軍事用でも有る為、"うし"のガタイも一回り大きく馬車の内部の広さも同じな感じ。
≪ガラガラガラガラ……≫
「…………」
さて今現在の場所は"ラジール"と"カスタム"を結ぶ街道を8割ほど進んだ地点である。
経過としては野宿した翌朝"ラジールの街"に到着すると、直ぐ様 俺達を出迎えてくれたハウレーンと合流。
そして今迄の"うし車"を適当なリーザス兵に返却させ、誘われるがままに彼女が用意していた"うし車"に乗り換える。
更にその"うし車"で夜通しハイペースで行軍する事で、ラジールを出発した翌日の昼過ぎには早くもカスタムの街が遠方に確認できていた。
ちなみに白の軍の"うし車"の数は20台以上にもなっており、総勢500名ほどのリーザス白の軍が行動を共にしている。
だが二十数台の"それ"は本来ハウレーンの部下1500名で運用する台数らしく、今は500名 全員が馬車の中だが、基本的には他の白のリーザス兵達は行軍時は周囲を交代で歩いて警戒するのが常らしい。
そうなると必然的に移動のペースは落ちてしまうのだが、俺達が急いでいると言う事で街の管理・防衛の為1000名を残したラジールには"うし車"は置かず、カスタムを目指す500名に全ての台数を使わせる事で時間の短縮を図ってくれたのだ。
それに関してはハウレーンでは無くエクスの配慮が大きく、当然ラジールの防衛は都市長(+レイリィ)と連携して信用出来るリーザス側の人間に任せる様にしているのは さて置き。
前述の通り"カスタムの街"が見えてきたと言う事で、今はリーザス軍の(そのつもりは皆無だが)侵攻によるカスタム側の警戒も考えて ゆっくりとしたペースで街との距離を詰めている最中だ。
尚 今現在"うし車"の手綱は 見当かなみ(傷は殆ど完治)が握っており、大型だが車内には俺達のパーティーに加えてハウレーンしか居ない。
「どうやら見えて来た様ですね」
「そうだな……予想以上の早さだった」
「しかし生憎 夜は快い床では無く面目有りません」
「気にするな。急ぎで頼むって言ったのは俺だしな」
そのハウレーンは かなみの背中を前に車内の入り口の境に座って腕を組む俺の右隣に居り、何かと気に掛けてくれている。
う~む……なんだか原作を考えるとランス(俺)に対する態度が大分 柔らかくなっているのが感じられる。
部下達に指示を出している彼女は確かに凛々しく"生真面目"と言う単語がしっくり来るのだが、その数値を"10"と考えると俺に対しては7と8の間ほどの硬さに下がっている気がするのだ。
反面 原作のランスに対してはレイプ紛いな事をされているのも有って、彼に対しては10が15くらいに上がってる筈な分 良い意味で違和感を得てしまう。
だがプラスなのは間違い無いので自然に受け止める事にし、そんな何の変哲も無い考えをしつつ俺は馬車の周囲に視線を移すと、視線の先にはアームズ・アークが鼻歌を口ずさんでいそうな様子(実際に歌ってはいないが)で行軍の早さに合わせて歩いている。
どうやら馬車の中に居っ放しでは体が鈍(なま)るのと、そろそろ次の目的地で有るデンジャラス・ホールが近付いていると言う事でカラダを動かしたい気分だったらしい。
ちなみに彼女は早朝から馬車の外で魔物と戦いつつ自分の足で移動しているが、遣ろうと思えば俺も特に問題なく出来る程"こちら"の人間の体力や身体能力はレベルを上げれば上昇するのだ。
当初はレベルが上がっても精神的に付いて行かなかったが、今や俺も慣れたモンだな。ガキの時に来なくてホント良かった。
「……ッ……」
んで後ろを見て馬車の内部に視線を移すと、先ずは手前の方で体育座りしたウィチタがずっと熱心に本を読んでいる。
よく見るとゼスの学生 御用達の(上級生用)教科書っぽいのだが……"教員用"と表紙に書いて有るのは気の所為か?
……と言う事は また俺に教える事を考えての勉強なのだろうか? 非常に有り難いが"この冒険"の方向性とズれてる気が。
だが"勉強"を教わると言う事で、今回の冒険でウィチタを引き込めなくとも次回に繋げられると言う事なので良しとしよう。
「…………」(苦笑)
「……~~ッ……」
また更に奥の方を見てみると、其処で肩を並べて馬車の壁を背にしているのはメルフェイス&サイゼルの2人。
本来なら既に此処に居る筈の者では無かったのだが、話を聞くとサイゼルがメルフェイスを抱えて飛んで来たらしい。
何故なら遊ぶに遊んだ その日の晩……寝込みを襲って来たメルフェイスの発情の影響をモロに受け、抵抗しようにも感じてしまってカラダに力が入らず、処女喪失は免れたが何度もイカされ朝までレズプレイに付き合わされた結果。
襲われた側は当然として再びシラフに戻ったメルフェイスも互いに顔を合わせる事が出来ず、非常に居た堪れない雰囲気に成ってしまった事から、サイゼルは思い切って"初めての相手"を(前述の通り)後ろから抱えて飛ぶ事で一気に長距離移動をし、昨日のウチに俺達に追いつく事で"二人っきりでの行動"と言う状況を打破したのであった。
それから少しの間サイゼルは馬車内での食事や休憩は やたら俺と共にしようとしていたが、今では何と言う事でしょう。
不機嫌そうな表情をしながらも彼女は(超距離移動による顔面蒼白から回復した)メルフェイスにコテンと肩を預けており、その体勢の為 迂闊に動けないメルフェイスは絵に描いたような"苦笑い"で膝を崩しながらガタゴトと馬車に揺られ続けていた。
はいはいツンデレですよね? 分かりますとも。
後から考えてみれば何だカンダで"あの一夜"が満更でも無かったらしく、だとすれば次もメルフェイスが副作用で発情したら付き合ったりするんだろうか?(尚 副作用の件についてはメルフェイスに許可を貰いサイゼルには説明した)
そうなると俺の立場が無くなる気がするけど、旨く遣れば俺がサイゼルの本当の意味での初めての相手に成れるかもしれん。
原作だと木の枝でセルフとか言う死ぬ程 勿体無い展開が待ってるしな……まだメルフェイスにブチッとされてた方がマシ。
だが本来の未来を知らないサイゼルは冗談では無く思う だろうから、肝心な処女は守られた事を安心して置くべきだろう。
しかしながら。メルフェイスの相手をする者が(俺みたいに)男だったら直ぐ決着が付くが、サイゼルが"受け側の女性"だったと言う条件からレズプレイが無駄に長引き、実のトコロ危機一髪だったそうな。
よって今後は発情状態のメルフェイスにサイゼルを生贄に出すのは止めた方が良いかも知れない……とは言うかシラフの彼女がレズる光景はイマイチ想像が難しいので、今後の展開を見守ってゆくしかあるまい。
「…………」
「ランス王」
――――そんな事を考えて馬車に揺られる中。不覚にも股間に熱を感じて来た辺りでハウレーンに再び声を掛けられた。
「んっ? どうした?」
「何か考え事ですか?」
「あいや。大した事じゃない……そっちこそ何だい?」
「個人的な事でしか無いのですが、宜しいでしょうか?」
「あァ。遠慮は要らないぞ?」
「感謝します」(頭を下げる)
「そんな事で礼とか止めろって。それよか何なんだ?」
「えっと……その。ランス王は、少し見られぬ内に逞しく成られていると思いまして」
「たくましく?」
「はい。雰囲気"そのもの"は何時もの気さくな……失礼。何時ものランス王なのですが……」
「早い話が有り得ん位にレベルが上がっていると?」
「!? そ、其の通りです」
――――まァ予想通りかもしれない。合流した時から俺や かなみの様子を見て何か言いたそうなカオしてたし。
「そう言えば以前ハウレーンと潜った時と比べれば、軽く20は上がってるな」
「……私からすれば、信じられない話です」
「そうか?」
「当然でしょう。更にランス王のみで無く"彼女"も今や隙が無く以前とは まるで違います」
「(かなみの事か……)つまり何が言いたいんだ?」
「率直に申しますと如何にすれば、短期間で"それ程"の力を得る事が出来るのでしょうか?」
「簡単な事だ。迷宮に潜って頑張ってレベルを上げれば良いに限る」
「最もな答えです。ですが……本当に"それだけ"なのでしょうか?」
「どう言う事だ?」
「只の勘でしか無いのですが彼女達の様子を見るに、ランス王にしか出来ない"何か"が有るのでは無いかと」
「…………」
「故に差し支えなければ是非 御教授して頂ければと思いまして……」
「難しい質問だなァ」
「……ッ……と言う事は、私には成長する見込みが無いのでしょうか?」
――――ふ~む。才能限界 云々の事は何も知らない筈だが、俺達の遣り取りを観察したダケで其処まで勘ぐったか。
「そうでもないぞ?(しっかしウィチタみたいな事を言ってるなコイツ)」
「な、ならばッ!」
「とは言っても恩恵をダイレクトに受けてる人間は一人しか居ないけどな。メルフェイスの実力とかは本人のモノだよ」
「!? と、と言う事は……(只単に強くなりたいと言う意思だけでは何もかもが足りない?)」
「うむ。何となく分かると思うが、少なくともオマエがバレスに認められる位には成長して貰う必要が有るな」
「……うッ……」
「いわゆる個人の武力も結構な事だが、ハウレーンには白の軍を率いるって言う大切な仕事が有るだろ? これから大陸の制覇に乗り出して大掛かりな戦争も始まるし、先ずはヘルマンやゼスとの戦いが落ち着いてから考えるべきだ。とは言っても……王としての仕事を放って置いてダンジョンに篭る俺が言えた事じゃ無いけどな」
「……ッ……前者に関しては最もな御言葉ですが……ランス王の行われている事は間違ってはいないと思います」
「ん? それは意外だな。何でだい?」
「記憶に新しい魔人の襲撃。それはランス王の実力を無しに撃退する事は叶わなかったでしょうから」
「まァ思ったより襲撃が早かった(嘘)が"そう言う時"の為のレベル上げだったしな。だから突出して強い連中は俺達に任せてくれて良いから、ハウレーンは軍を纏めてくれ。俺は軍を纏める事は素人同然だからな」
「(良く王座で軍事関連の参考書を読まれているとの事だが)畏まりました。出過ぎた事を申してしまった様で恐縮です」
「其の程度 気にするなって」
「は、はあ」
「だが――――」
「????」
「もし"個人での力"を本気で求めたいのなら、副将の座から降ろしてでも付いて来て貰うから覚悟して置けよ?」
「んなっ!?」
「……ッ……」
――――半分は冗談だったのだが此処に来て全く反応を示して居なかった、後姿を晒す かなみの肩がピクリと揺れた。
「別に深くは考えなくて良いさ。ともかく自分に与えられた事を成せば良い」
「ははッ(これ以上の質問は無粋か)」
「……って流石に警戒されているか? かなみッ」
「どうぞ」
「有難う……ふ~む……」
「どうされます? ランス王」
丁度良いタイミングでカスタムの街の入り口がハッキリと見えて来た際、俺は かなみの背に向かって彼女の名を呼んだ。
すると眼の良さで既に状況を理解していると思われる かなみは軽く背を逸らして俺に双眼鏡を手渡して来たので、ソレを受け取ると俺はレンズ越しで街の様子を窺う。
……とは言えカスタムは魔想さんの魔力により"地面に陥没した街"と言われているので確認できるのは入り口で展開している防衛隊ダケである。
視線を逸らせば見張りの高台の様なモノも見えるので、既にリーザス軍が接近している事には気付かれていたのだろう。
だけど人数で言っても100人も居ないな……確か防衛隊は記憶では250名前後だったハズなんだが、其の半分以下だ。
しかしながら。魔想さんっぽい人が纏める魔法隊は勿論、マリア・カスタードの狙撃部隊の姿も見えるので、大国に喧嘩を売る事は無いとは思うが先制攻撃されると凄まじい被害が出るのは間違い無いだろう。
まァ旅中の道中リーザスの悪い噂は殆ど聞かないので、其処まで歓迎されていない訳では無いと思うのが妥当なトコかな?
よって俺は双眼鏡から目を離すと、右手で日差しを抑えながら遠方を凝視しているハウレーンに向かって口を開く。
「ハウレーン。移動を止めさせろ」
「!? 承知しました――――全軍停止せよッ!!」
『――――はっ!!』
「此処からは俺達と少数で行こう。目的が合併だし、無駄に頭数を揃えて行っても警戒されるに過ぎん」
「しかし……いえッ……ランス王が そう仰られるので有れば」
「かなみ?」
「…………」(コクリ)
≪――――ッ≫
俺が かなみの名を言って少し其方から視線を逸らした後には、彼女の姿は もう其処に無かった。
恐らく念の為に"カスタムの街"に何か不穏な動きが無いか先に調べに行ったのだろう。
JAPANの状況が原作と大きく違がっていた事から、カスタムも何らかの変化が起こっている可能性も有るのだ。
RPGで久しぶりに戻ってきた村が滅ぼされてました……って展開は良く有る事だしな。
さて置き。今の状況をメルフェイス・ウィチタ・アームズも察したらしく、地面に降りた俺の方へと近付いて来ていた。
「あの……ランス様。私はどうすれば?」
「私はゼスの人間ですし、今回は此方で待機していた方が良いのでしょうか?」
「指示を頼む」
「う~ん。とりあえず皆 付いて来てくれ(……次の迷宮に備えて紹介する展開の可能性も出てくるしな)」
「……分かりました」
「はいっ!」
「分かった」
――――尚サイゼルは話が ややこしく成りそうなので待機で、既にメルフェイスが"暫く待っていて下さい"と宥めている。
「ハウレーンは何人かの騎士を集めろ」
「ははッ! 少々御待ち下さい」
≪タタタタッ≫
「うむ。さて……旨くいけば良いんだけどなァ」
「あの。何が問題でも有るのですか?」
「ランス王の御話ではカスタムで勤めている者達の中には、以前共に戦った方も居るとの事ですが?」
「そうなのか? それにしては今 苦虫を噛んだ様な顔をしていたが」
「ありゃ? 俺とした事が表情(カオ)に出ちまってたか」
――――正直なトコロ"今のランス"に成ってしまった俺に対する"彼女達"のリアクションが全く予想 出来ないのだ。
「それでは……問題とは?」
「今更ですが私に何か出来る事が有れば遠慮なく仰って下さいッ!」
「……(生憎 私が出来る事は無さそうだ)」
「いや"大きな"問題では無いんだが……腕は立つが癖の多い連中な上に"俺"も俺で関わった当時は相当バカな事をやったからな。今は立場的なモンも有って王らしくはしてるんだが、其の反応に対するシミューレションが全く出来んから不安が有る。状況によっては俺に対して皆 失望するかもしれんな」
「ば、馬鹿な事?」
「……(このランス王が? 失望する程だなんて想像 出来ないわね。でもガンジー様も若い頃は奥様に魔法を何度も当てた事が有るって言う信じられない事を していたって話も聞くし、誰にでも知られたく無い過去くらいは有る筈)」
「ふむ。そんな事を気にしているのか? 相手は合併を拒否できる立場では無さそうだし、そう迂闊な事は言え無いだろう」
「まァそうなんだが~」
「その……セルさん? ……も話せば分かってくれましたし、私は何にせよランス様の事を理解してくれると思います」
「わ、私も そう思います!」
「……(そんな事より早く手応えの有るモンスターと戦いたいのだが)」
「有難う。そう言う訳だから、何か喚かれてもスルーしてくれると俺としては助かる」
「分かりました」
「ははッ」
「それでサイゼルは話が纏まる迄は暫く漫画でも読んで暇潰しでもしてろよ? 大人しくな!」
「分かってるわよ~」
――――俺が馬車(仮名)の中のサイゼルに声を掛けると、彼女は漫画に視線を向けたまま左手をヒラヒラと此方に振った。
「ランス王。招集が終わりました」
「御苦労様。ではトットと済ませるとするかな」
「はい(……ランス王の次の探索の為にも手早く済ませねば)」
会話をしているウチにハウレーンが5人の百人長の騎士を集めて来たので、俺達10人は馬車を待機させて歩き出した。
そして歩く事 数百メートル。街の入り口を塞いでいる防衛隊(大半が女性)の方まで近付くと、自然と道を開いてくれ その先には周囲の連中を指揮していたと思われる"魔想 志津香"と"マリア・カスタード"の姿が有った。
まァ指揮と言っても今回は只の様子観察なのだろうが……ヤバいな。やっぱり本物だ、人気キャラに会えると感動するぜ。
さて置き。魔想さんは俺と目が合うと見るからに敵対的な視線を返し、マリア・カスタードは敵対心は無さそうだが率直に言うとハラハラとした感じの表情をしていた。
対して俺は眉一つ動かさずに更に近付いて"久しぶりだな。元気だったか?"と声を掛けると、当然の如く"リーザス王がワザワザ御苦労な事ね"とか言う返事が誰かと言う迄も無く来たが、当たり前の反応なので気にする事も無く話の分かりそうなマリアに向かって話を続けた。
「"俺様"が此処まで来た理由は他に有るが、リーザス軍が訪ねた理由は他でも無い」
「な、何なの?」
「リーザスと"カスタムの街"の合併の為に外交に携わる"エレノア・ラン"に取り次いで欲しい。既に此方が出す好条件 其の他 諸々の有る程度の準備は出来ている。故に後方で控えているリーザス軍の受け入れを頼む」
「ちょっと待ってよ。急にそんな事を言われても……」
「文官も連れて来ているから分からなければ聞いてくれ。それで言われた通りにして貰えれば良い。そもそも"今の状況"を円滑に進める為に、こうやって出向いてくれてたんじゃ無いのか?」
「無論"リーザス"の名に置いて、決して悪い様にはしない事を約束します」
俺の言葉に当然 警戒している魔想さん&マリアだったが、ハウレーンの言葉に明らかに緊張の色が解けた印象だ。
確かに彼女達の価値観を考えると下心 有ってでの行動と考えるのが当然の話だからな……もはやヘコむ意味すら無い。
さてさて。マリアは此方の言葉に少しだけ額に手を当てて唸っていたが、直ぐに顔を上げて表情を改めると今は"カスタムの街の防衛隊"としての仕事を行おうと割り切った様で、眼鏡の位置を戻すと再び俺達に対して口を開く。
まだ凄く何か言いたそうな様子も見え隠れしているが、俺と同じで他の積もる話は後ほど行えば良いと判断したのだろう。
「分かりました。先ずは この魔想に都市長に報告に行って貰いますので、先にリーザス軍の受け入れを承ります」
「そりゃ有り難い。任せて良いか? ハウレーン」
「ははッ(確かにランス王は必要以上に警戒されていた様だが、最初から安堵感も察せたのは何故だろう?)」
「志津香。御願いできる?」
「……ッ……仕方無いわね……まあ構わないわ。私としては1秒も長く此処には居たくないし」
「!?!?」
「(止せウィチタ。何故オマエが反応する? スルーしろと言ったろ? 最初の皮肉は耐えたと言うのに)」
「(で、ですが――――)」
「(俺はそう思われても仕方ない事を"しでかして"るんだ。だから何とも思ってない。気持ちは有り難いが自重しろ)」
「(す……すみません)」
「何よ? ボソボソと」
「いやいや何でもない。それより何分 待ってれば良いんだ?」
「30分から1時間。あの娘も忙しいのよ? 察しなさいよね」
「ふ~む。なら適当に暇を潰してるから一時間後に都市長の居る屋敷に向うからな?」
「貴方にしては謙虚じゃない。それで構わないわ。はいッ! 皆 行くわよ!?」
「感謝する。文官達にも そう伝えて置けよ? ハウレーン」
「畏まりました(だが……私も気に入らんな。一国の王を何だと思っている?)」
「ハウレーン様……ですね? 私はマリア・カスタード。御迎えさせて頂いて宜しいですか?」
「んっ? あァ。少し距離が有るが案内しよう。すまないが頼むぞ? 私は白の副将ハウレーン・プロヴァンスだ」
「はい……って貴女も来てよ? カスミ(プロヴァンス? 何処かで聞いたことが有るけど今は考える時じゃないわね)」
「分かりました。皆で御手伝いします」
「マリア」
「な、何? ランス……っと王」
「先ずは大まかな合併条件の書類を手渡して置く。後に関わるだろうし歩きながらでも読んでろ」
「うん。有難う(……ってイキナリ1000万ゴールドとか見えたんだけど……け、研究費とかも貰えないのかな~?)」
こうして第一波は乗り切った様で、先ずマリア&ハウレーンと互いの部下達はリーザスの"うし車"の方へと戻って行った。
そして魔想さんの部下の魔術師達は彼女を追う様にして街の入り口にへと消えて行っており、既に人の姿は少ない有様。
恐らく俺は酷い王様だと教え込まれているのだろうか、魔術師さん達の視線が少し痛かったのは気の所為ではないだろう。
だがソレも考えてみれば仕方無いので、俺は気を取り直すと同じくカスタム防衛隊の"ミリ・ヨークス"の姿を探してみた。
されど彼女の姿は確認できず、後から聞いた話によるとミリはランスにゾッコンで有る妹のミル(12)を此処に来させない様に抑えていた&あまり遣る気が無かった為に来なかったらしい。
一応 後者は冗談だと言っていたが、そうでもないかもしれん。
よって狙撃隊と魔法隊が居なくなるとカスタムの入り口は前述の通り早くも殺風景と成ったのだが……ふと俺は信じられない者を見た!
「アレがリーザスの王様……?」(獣耳)
「魔想さんが言ってたよりは普通の人って感じ」
「…………」
「……って姫様?」
「ど、どうされました?」
「…………」
カスタムの前衛部隊はミリの"遣る気"が無かった為か人数が少なく、其の者達も立ち去ってしまったのか残ったのは数名。
だが此方を遠目で見ている"3人組"が……特に頭に見覚えるの有る"獣耳"のヘアバンドの少女が俺の脳に大打撃を与えた。
どう考えてもオカしいだろ。何で此処に"彼女達"が居るんだ? そもそも織田に全部 滅ぼされたんじゃ無かったのかよ!?
≪――――カスタムは上層部の人間に有能な女性が多いと言う事で、多くの女性が名声を求めて集まって来ている様です≫
「(つまり……あれか?)」
「……ランス様?」
「其方の方に何か?」
「ふむ……どうした?(JAPANの防具? こんな所で拝めるとは)」
道中でハウレーンに"そんな事"を聞いた気がするが、ソレが今のJAPANの情勢とカスタムの構成に繋がっていたとはッ。
何にせよ俺達は更なる"戦力"を確保できるかもしれない。此方で"使える"かは まだ分からないが、聞くダケなら只だろう。
よって唐突にカラダを震わせ視線を固定した俺に違和感を得たメルフェイス・ウィチタ・アームズの言葉を気にもせず、目が合った瞬間に瞳を大きく見開いた黒い長髪の女性(+お供2名)の方へとゆっくりと近付いて行くのだった。
鬼畜王ではなく"原作"基準だとすれば、今の瞬間も俺から視線を離そうとしない彼女の運命は機転を迎えた事と成るだろう。
●レベル●
ランス :54/無限
かなみ :50/40(+10)
メルフェイス:48/48
サイゼル :88/120
ウィチタ :35/35
アームズ :40/44
ハウレーン :33/36
■補足■
JAPANの某国は織田に滅ぼされましたが、生き残りの何名かは大陸に逃れ其処で女性でも立派に戦っている事実を知る。
よって女性が力を振るえるカスタムの街に少女達は辿り着き、其処で頼りに成るマリア達の下で防衛隊の職に就いたとの事。