鬼畜王じゃないランス13
=LP03年06月1週目=
――――解呪の迷宮 最下層・28階。
俺とメルフェイスは、奥に存在すると思われる"解呪の泉(命名)"を目指して暫く無言のまま広い一本道を歩き続けた。
その間モンスターと遭遇することも無く開けたフロアに出ると、直ぐ目の前の視界に広い泉が飛び込んで来る。
何と言うか……特に照明が有るワケでも無いのにキラキラと光沢を放つ その様は、何とも神秘的な印象で目を奪われてしまった。
だがソレは傍に居たメルフェイスも同じだった様で、互いに言葉を失い沈黙を破るのに30秒以上を要してしまう。
「これが……"解呪の泉"ってヤツか?」
「そ、そうかもしれません」
「では早速検証してみるとしよう」
「検証……?」
「念の為だ。まさかとは思うがダミーだったら困るだろ?」
「成る程」
「よっ!」
「……(やっと"この時"が来たのね……でも……)」
≪――――ポチャンッ≫
此処でメルフェイスと会話を行う前に、段取りと言うモノを踏まなくては成らない。
よって俺はポケットから"斬れそうで斬れない呪いが掛かっているナイフ"と言うロクでもない効果の呪いの掛かったアイテムを取り出すと、それを泉に放り投げた。
そして予め結び付けていた紐を引っ張るとナイフを取り出し、その紐をスパッと斬る事で呪いが解除された事実を確認した。
ならば後の話はメルフェイスの出方を見てから……と言う事で俺はナイフを皮の鞘に納めると、そのまま腰に挿してから腕を組むと彼女の方に向き直って言う。
「ふ~む。どうやらコレで間違い無い様だな」
「その……様ですね」
「どうする? 浸かって見れば元のカラダに戻れる可能性が高いぞ?」
「は、はあ」
「何なら席を外しているが? いや……当たり前なんだけどな」
「……ッ……」
「メルフェイス?」
「……王様ッ」
「何だね?」
「つまらない話になりますが、聞いて頂けますか?」
「ああ」
「有難う御座います」
「…………」
俺が考えるに かなり賭博だったのだが――――少し解呪を煽って見たのに"話してくれる"様で良かった。
少なくとも最低"この段階"に行けなければ、浸かるのを止めてくれても結局は無意味なのだ。
例え共に行ってくれるとしても、何処かで"元の体"に対する未練や他の者への愛を残してしまうだろう。
つまり前述の様にメルフェイスが自分から解呪を思い留まってくれないと意味が無く、今の俺は畳み掛けるタイミングを窺うしかない。
「私は"こうなってから"今迄……呪いを払う事ダケを目的に生きて来ました」
「確か"リヴ"とか言う秘薬を服用してから"そうなった"んだっけか?」
「……はい……今や隠す必要は有りませんが、何倍も強くなれる反面……2ヶ月に一度以は自分より強い者に抱かれないと、狂い死にしてしまうという副作用が有る薬です」
「…………」
「本来で有れば故郷を救う為、その副作用で死ぬ覚悟もしていた筈だったと言うのに……終わってみれば、やっぱり死ぬのが怖くて傭兵として生き恥を晒してゆく事を選び……かと言って、ここまま治せず老いが始まると同時に狂い死ぬ未来を描く事しか出来ず……毎日の夜が悪夢で魘(う)される日々でした……リーザスに拾って頂ける迄は……」
「…………」
「リーザスの方達は皆親切で本当に良い場所でした。私はリヴの副作用を受けてから、其処で初めて安息と言うのを得れた気がしました」
「まァ 相手がエクスだしな」
「はい。ですから今もその気持ちは変わっていません……しかし……安息を得れた反面 痛感したんです……命を繋ぐ事を代償に、私は決して幸せには成れないのだと」
「どうしてだ?」
「仰る迄も有りません」
「すまん、野暮過ぎた」
「……いえ」
「(だが此処からが勝負だな)」
「…………」
「メルフェイス」
≪――――ザッ≫
「は、はい?」
「俺はオマエの呪いが解けた暁には、再びリーザスの魔法部隊 副官に返り咲いて貰い……引き続きリーザスの為に尽くして貰いたいと思っている」
「えぇっ!?」
「聞いた話では副作用が有りながらも真面目に部隊を纏めようと努力している様は将軍達ダケでなく部下からも評価が非常に高く、俺が軍の解体を命じた際には何人もの魔法兵がエクスへ反対の意見を寄越して来たそうだ。直接 俺に言って来なかった理由は何となく察せるけどな」
「……ッ……」
「だから呪いを解いても路頭に迷う心配なんぞ元より皆無だし、戦うのが嫌ならメイドなり給仕なり仕事を紹介してやっても良い」
「そ、それでは……(やっぱり王様は……私が呪いを落とした方が良いと……?)」
「あァ。メルフェイスは"治るべき"なんだと俺は思う」
「……ッ……」
――――此処で一気にメルフェイスの表情が曇ってしまった。
最近は只でさえ覇気が無い様子だったと言うのに、目に見えて分かるので"残念がっている"のは間違い無いだろう。
つまり自覚はしていないが、彼女は生きる目的でも有った"呪いを解く事"に躊躇いを感じているのだ。
だとすれば……畳み掛けるしか有るまい!? ……とは言ってもストレートと迄はイケないけどね。
「だが その前に一つダケ言わせて欲しい事が有るんだ」
「な、何でしょう?」
「もし呪いを解く事が出来なかったとしたら、当分は俺と共に行動する事に成っちまうが構わないよな?」
「……えッ……そうですね……お、王様が宜しければですが……」
「でも安心してくれ。例え此処での望みが潰えても、俺が必ずメルフェイスの呪いを解く方法を探して見せる」
「!?!?」
「勿論 俺とずっと共に戦ってくれる為に、今のチカラを失わないで済む最高の治療方法を……な」
「ど、どうして……何処まで考えて下さるのですか?」
「生憎 俺は他の男連中と違って、簡単に抱いた女を手放せる男じゃ無いんでね」
「お……王様……」
正直コレは嘘偽りの無い本心だ。メルフェイスは"此方"に来て抱いた2人目の女性……そりゃ感情移入もする。
さて此処で気付いた だろうが、原作基準で考えると彼女が今 解呪を選らばなければ秘薬の副作用から開放される事は無い。
しかしながら。俺は"その選択"をさせた彼女に責任を取り、他の方法を探す覚悟で今回の遠回しな勧誘に臨んでいるのだ。
……とは言え……勿論 治療のアテは有るので不可能を可能にするつもりで言っているワケでは無い。
な~に簡単な話だ。方法を知る代償として、ホ・ラガに掘られる位のメに合うダケで済むリーズナブルな捜索手段です。
ケツが痛くなるので さて置き。俺は余り作らないワザとらしい笑みを浮かべてそう告げると、メルフェイスの背を押した。
「ともかく……浸かるか浸からないのかを選ぶのはメルフェイスだ」
「……っ……」
「俺は通路の入り口で待ってる。覗いたりはしないから、ゆっくり遣ってくれ」
「わ、分かりました」
「けど何か有ったら直ぐに大声で助けを呼んでくれよ?」
「は……はい」
……
…………
……待つ事 憶測で10分程度。
「…………」
解呪の泉を立ち去って100メートル程 進んだ所で、俺は通路の壁に背を預けつつメルフェイスを待っていた。
その腕を組み瞳を閉じている様は、見た感じキマっているのだろうが……内心は気が気じゃなかったりする。
アレだけ恥ずかしい事を言った手前 振られてしまったら、それはそれで良いのだが何だか切なくなりそうだ。
一度 抱いて結局 惚れてしまった女性なら尚更であり……右足の指先をコツコツと鳴らしながら待っていると……
≪――――コッ≫
「……王様……」
「!? 来たか」
「遅くなって すみません」
「問題無いさ」
――――ようやく待ち人が現れたのだが、彼女は何故か靴ダケを残して全裸だった。マジどう言う事なのさ!?
「……ッ……」
「それより、どうしたんだ?」
余りにも予想外でマニアックな姿に素で驚いてしまったが、雰囲気を読んで最低限のリアクションに抑える俺。
う~む……彼女の裸体は目の保養に成りそうとは言え全裸と言う事は、既に泉に浸かってしまったのだろうか?
だが生憎この距離では濡れてるか分からないので結果を聞くと……彼女は叱られた子供の様な笑みを浮かべて口を開く。
その時のメルフェイスの表情は、後方から届く"解呪の泉"の輝きに照らされて まるで女神のようだった。
「やめました」
「良かったのか?」
「はい。後悔はしていません」
「……有難う」
「お構いなく」
「ところで」
「はい?」
「何で全裸なんだ?」
「此処で王様に抱いて欲しかったからです……今日の記念に」
「ず、随分と大胆だなァ」
「私も そう思います」
「訳が分からないよ」
――――そんな話をしているウチに、何時の間にかメルフェイスが俺の直ぐ近くまで来ていた。上目遣い反則!
「ダメ……でしょうか?」
「いや。構わないぞ?」
「ふふふっ、良かったです。断られたら恥ずかしくて死んでしまうトコロでした」
「流石に其処まで野暮じゃないさ」
≪――――きゅっ≫
「……ぇとッ……その……大好きです……王様……」
「俺もメルフェイスの事がダイスキに成ったっぽい」
「う、嬉しいです」
「とりあえず布団敷こう……なッ?」
「有りません」
「ですよねー」
――――(恥ずかしいが)新たな絆で結ばれた俺とメルフェイスに、それ以上の言葉は要らなかった。
……
…………
……更に10分後。
「そろそろ入れちまうぞ~? メルフェイス」
「……ッ……遠慮せずに……御願いします」
まあ流れ的にラブ・シーンなワケで……俺はメルフェイスにキスしたり愛撫したりした後。
壁に両手を付けさせオシリを向けさせると、立ったまま犯っちゃおうかな~とか思ってたんだが。
何時もの国家を脳内BGMに自分の分身を挿入しようとした瞬間、思わぬ者が登場しやがる。
≪――――ぱっ!≫
「ランスさんッ! 全ての魂の採取 終わりました!!」
「……えっ?」
「んなッ!?」
「突然で驚かせて済みません!! えっと、先ずは何て言ったら良いか……アレだけの量の魂を献上させて頂けて、本当に有難う御座いました!! お陰でかなりラサウム様に貢献出来たと思いますッ! 其処で思ったんですけどねッ? 採取が済んだからには、アソコで留まっているよりランスさん達と合流した方が私も力に成れるので良いかな~と思ったんです!! だから急いで合流したと言う訳――――なんです――――が?」
「ハァ……」
≪ゴソゴソ≫ ←(一瞬で)萎えたハイパー兵器をズボンに戻すランス
「ふ、フェリスさん……?」
「メルフェイス。俺のマントで良ければ」
「あ……有難う御座います」
「悪いな。記念のセックスは見送りになっちまった様だ」
「しょうがありませんね」
「取り合えず戻って、服を何とかしないとなァ」
「すみません」
「おいおい。直ぐに謝るのは悪いクセだぞ?」
「気をつけます」
「……~~っ……ぅあ――――がッ……!!」
ちなみに俺とメルフェイスの営みを絶妙なタイミングで邪魔したフェリスは、服を取って戻って来るまで"その場"で固まっていた。
その後 正気を取り戻すと彼女は しどろもどろに成った挙句に土下座して謝罪して来たので、互いに苦笑しつつ許すに至る。
ちなみにメルフェイスは"その時"の困った様な笑顔も魅力的に写った事から、何やら憑いていたモノが取れた様な印象を感じた。
さて置き。フェリスは先程の報告以外でも言う事が有った様で、暫くして落ち着きを取り戻すと興味深い事を言った。
「ランスさん忘れる所でした。魂の採取 途中に、一人の冒険者と思われる女性が現れたんです!」
「な、何だとォ~?」
「それも一人……?」
「はいッ! 人間にしては強くて少し苦戦しましたけど」
「なら殺したのか?」
「まさか。御命令 通り気絶させて置きました」
「それでは……王様……?」
「あァ。直ぐに確認しよう」
「急いだ方が良さそうですね」
「!? ま、待ってくださ~い!」
……
…………
……30分後。
≪――――ダダダダダダッ!!≫
「ランスさんッ! アソコです!!」
「うおっ!? 本当に居やがった!」
「ハァハァ……でも無事の様ですね」
「…………」
俺・メルフェイス・フェリスの3人は駆け足で26階層まで上がると、使い魔が倒したと言う冒険者を探す。
すると27階層に降りる階段付近に女性がうつ伏せに倒れているのを発見し……近くには彼女の武器を思われる(槍の)ランスが転がっていた。
近くに寄るとマントを纏い羽飾りの付いた銀色の長い髪だと分かり、目立った外傷は無い事からフェリスの手加減の上手さが窺えた。
「おいっ! 大丈夫か? しっかりしろ!」
「…………」
「どうですか?」
「う~ん、ダメだなァ。綺麗に入ってるみたいだ」
「ごごごゴメンなさい~ッ!」
「謝るな謝るな。ともかく介抱してやらんとな……じゃあ帰るぞ? メルフェイス」
「分かりました」
「フェリスも御苦労だったな。もう戻って良いぞ?」
「は、はい!! また御用の際は宜しく御願いしますッ!」
こうしてメルフェイスの正式な加入と共に"解呪の迷宮"の攻略は完了し、俺達は翌日にはハンナの街を後にするのだった。
ラストに思わぬ"拾い者"も有ったが、全く見た事が無いキャラだったので御利用は計画的にってヤツだな。
ともかく。次の予定は"Mランド"付近でのエクスとの対面・及び交渉or指示……続いてラジールでハウレーンと合流した後でのカスタム攻略。
更にカスタム東の"デンジャラス・ホール"の制覇が控えており、引き続き戦力の増加に努めなくては成らないなァ。
正直2人だけでも"男"としては満足なのだが、仲間の数としては不安が有り余るので色々な意味で頑張るしか無いだろう。
「(もう迷わない……私は これから王様と……いえ、本当の意味で自分を愛してくれたランス様と……共に最期まで戦って果てる事を選ぶ。それが"新しい私"の……生きる意味なのだから……)」
――――尚。たった一人で"解呪の迷宮"の制覇に挑んだ冒険者の女性は、目を覚ました後"アームズ・アーク"と名乗った。
「ふむ……貴方達に着いて行けば色々と面白そうだ。以後 宜しく頼む」
「あァ。期待しているぞ?」
「えェ~ッ?」
「(……かなり出来るわね)」
「(やっぱりランス王にも、ガンジー様にも劣らぬカリスマが有るって事?)」
「(彼女達に負けない様に頑張ります……ですから見ていて下さい……王様)」
●あとがき●
短めですいません。何となく区切りが良かったので投稿してしまいました。
今回はランス・クエストのキャラクターが登場。彼女のレギュラー化の予定は今の所ありません。
尚ランス・クエストは一応クリアしましたが、まだ周回はしておらず未クリアのクエストも結構あったり。
ちなみに鬼畜王のアームズ・アークは一人でハウ・キュッに戦いを挑んで大魔法で死んだと言う事で。