鬼畜王じゃないランス12
=LP03年06月1週目=
……攻略8日目・及びリーザスを出発してから11日目。解呪の迷宮・第26階層。
現在は宿にかなみを残しているので、メンバーは先日とは目の色が違うウィチタ・相変わらず能天気なサイゼル・妙にソワソワしているメルフェイス・そしてリーザス王(笑)である俺の4人である。
そんな俺たちは昨日"ハウ・キュッ"を撃破した地点で、唐突に呼び出した"ある者"と向かい合っていた。
"その者"とは鬼畜王では一切 登場する事の無かったランスの"使い魔"であり、正直 俺も直前まで忘れていたと言う始末。
だが仲間として共に戦ってくれる戦力としては願っても無い存在な為、此処は原作みたく不幸に成っては欲しくないトコロだ。
よって任務を与える事に対しての見返りを"彼女"に伝えると、そんなモノが得れるとは思わなかったらしく最初は目を丸くさせていた。まァ……ランスの印象を考えると当たり前なんだけどね。
故に現在の彼女は怪訝そうな表情から一変しており、簡単に信じるのもアレとは思うが俺は騙す気は無いので問題無いか。
「では"フェリス"。今回お前に与える"仕事"の再確認といこう」
「はい!」
「俺達は"この迷宮"の最下層を目指しているんだが、此処のフロアのボスが倒されたと言う事で上層から雑魚どもが降りてくる可能性が有る。そんなワケで俺達の用が済むまで、君には"この場所"に留まって魔物達を抑えて欲しい。だが人間(冒険者)は殺さず気絶させろ。来る確率は殆どゼロだと思うけどな」
「(お……王様が"悪魔"を召喚するなんて……)」
「(本当に底知れない方だわ……幾らガンジー様でも悪魔の使役をしたりは……)」
「(ほんとランスは色々と驚かせてくれるわねェ。でも悪魔って聞いたら流石に違和感を感じるけど、今の あたしは魔人だから左程 関係無いかァ)」
――――当然 後方の面々の視線が気になるトコロだが、此処は受容して頂くしか有るまい。
「分かりました。人間以外の"通ろうとする者"を排除すれば良いんですね? そ、それでは……」
「あァ。此処 一帯に犇(ひしめ)いてるっぽい魂の採取は好きにして構わないから頑張ってくれ」
「えっと! あのっ! ……ランスさん?」
「何だ~?」
「ほ、本当に宜しいんですか?」
「宜しいって?」
「コレだけの量を好きにして良いかと言う事ですッ! 何が理由で此処まで彷徨える魂が多いのかは分かりませんが、全て採取出来るのなら再び第6階級に戻るのも夢では……」
「そんなに凄いのか? 俺は何も見えないんだけどなァ。メルフェイスとウィチタもそうなんだろう?」
「はい……生憎 目を凝らせば察せる程度でしかなく……サイゼルさんに言われなければ……」
「ですがAL教団の神官でも有らば分かったでしょうね」
「成る程な。ともかく俺達には何でもない話だがフェリスには願っても無い話なんだろ?」
「は、はい」
「だったら好きに活用すりゃ良いさ。んで関係無い俺達は気にせず奥を目指す……それダケの事だ」
「(ど……どう言う事なの? 今までの印象とは、まるで別人じゃない)」
『戦ってる時は気付かなかったけど此処、天使や悪魔が見つけたら小躍りするかもねェ』
"解呪の泉"の有る最下層を目指すに当たり、前述の様に"ハウ・キュッ"を撃破した地点を通過する必要が有ったワケなのだが。
サイゼルにとっては"何となく"言ったに過ぎなかったかもしれないが、其の言葉で俺はランスが悪魔を使役している事を思い出していた。
だが直ぐにでも召喚したいのを抑えサイゼルに理由を聞いてみると……此処 一帯には成仏する事が出来ないでいる冒険者達の魂がウヨウヨと漂っているらしい。
恐らく"ハウ・キュッ"の存在に気づく事無く大魔法で瞬殺された"現実"を朽ち果てて年月が経った今でも認める事が出来ていないのだろう。
されど今のサイゼルは魔人と言う事で魂 云々には全く興味が無いらしく、俺達には関係の無い話だと思われたが……設定ではフェリスならば成仏できない魂をラサウムに献上する事が出来たって記憶が有った。
コレは微々たる効果とは言えアンチ・創造神ルドラサウムな俺にとっては有益な行為なので、早速 召喚したフェリスに有効活用して貰う事にした。
当然ランスに対する認識を改めて貰う事が狙いでも有るので、ラサウムやら献上やらについては知らない振りをし、極力ボロが出ない様にするのは忘れない。
それにしても此処の魂を献上したダケで第6階級に上がれそうとか……あのボスは一体 何人の冒険者を葬ったってんだ? くわばらクワバラだぜ。
またフェリスを召喚した事でメルフェイスとウィチタは勿論、サイゼルさえ最初は目を丸くさせていたのだが、才能限界値を上げれると言う奇想天外な事が起きた後でも有るので左程ツッコミは受けなかった。
無論 後に改めて紹介するつもりだが……何となく今 フェリスを紹介すると以前のランスの"酷さ"が無駄に知れてしまいそうなので、使い魔の主人に対する好感度を先に上げとこうと思ったワケです。
よってシッカリと皆には説明せず奥を目指す事にしようと思ったんだが、此処を立ち去ろうとフェリスに背を向けて歩き出した俺に予想通りツッコミが入る。
「ランス~」
「んっ? 何だサイゼル」
「どうしてアンタが悪魔を扱えるのよ?」
「冒険者の頃に ちょっと有ってな……詳しくは気が向いたら話す」
「それって何時に成るの?」
「まァ今は奥を目指すのが先だ。出来れば今日中、遅くても明後日には此処を出発したいからな」
「ヤケに気が早いわねェ」
「当たり前だろ? 只でさえ無理言ってリーザスを一ヶ月 留守にしてるんだし、可能な限り早く帰りたいんだよ。リアの奴にも内緒で来てるしな」
「ふ~ん」
「そもそも"誰かさん"がリーザスを襲って来なかったりしなけりゃ、もっと余裕を持った旅が出来ても良かったんだが?」
「そ、ソレは あたしダケの所為じゃ無いでしょッ? ケイブリスが命令したから来たんだもん」
「その際 ハウゼルとか言う娘とはモメたくないから即 立候補したオマエの姿が目に浮かぶな」
「うぐッ!」
「図星かよ……(何て分かり易いヤツなんだ)」
「だ、だって出来るワケ無いじゃない……ハウゼルと戦うだなんて……」
「なら遣る事は一つだろ? さっさとカミーラとか言うのを倒して人類圏も統一して、魔人領を目指す……その為には俺達が手っ取り早く力を付ける事が必要なんだよ。だから悪魔の力を使うのも其の一環ってワケだ」
「(や、やっぱりランス王は考えている事が根本的に違う……)」
「(其処までリーザスだけで無く……世界の未来の事を見据えているんですね……)」
「な、何て言うか……人間で有るかも疑わしい奴ね……アンタって」
「褒め言葉として受け取って置こう」
――――サイゼルの疑問に上手く責任転嫁をする事で話を纏めると、改めて歩みを進めた俺だったが。
「ランス王!」
「何だ? ウィチタ」
「今回の攻略は私に先導させてくださいッ!」
「んっ? (下層に降りてから言うつもりだったが)そりゃ有り難いな。頼めるかい?」
「畏まりました!!」
「エラいヤる気ねェ」
「サイゼルも少しは見習ってくれよ?」
「ふんだ分かってるわよ……いちいち一言 余計なヤツねッ」
「う~む。ガラじゃ無い筈だったんだが何故かオマエが相手だと説教臭くなっちまうんだよな」
「どうしてよッ?」
「先天的なモンだと思うぞ」
――――個人的に真面目タイプなウィチタよりも、ツンデレ系のサイゼルの方が弄りたくなるとも言う。
「意味分かんないわよ(……それにしてもコイツ……何だかハウゼルみた)……ハッ!?」
「サイゼル?」
「な、ななな何でも無いッ! ともかく!! 急ぐんだったら早く奥に進むわよ!?」
「ハハッ。了解」
「笑うな~ッ!」
「(やっぱり私でも魔人と互角に戦う事が出来る様に成れる可能性が有る? 同行させて頂いている事で"知ってしまった"ランス王が話されていた"魔人領"での話を考えると、人類の平和の為にも私は強く成るべきなのは間違い無い……だけど……私にはガンジー様という敬愛するべき方が居る……)」
「(結局 考えは纏まらなかった……王様は自身ダケでなく仲間達も強く有るべきと仰っているけど、数ある中で此処を攻略する迷宮として選んだ時点で私には"元の体"に戻るべきと言っている様なモノよね……ハッキリと告げられては居ないけど、やっぱり私では今の力を持ってしても王様の助けと成るには役不足だと言う事なのかしら?)」
「(……だから今は答えを出す事は出来ないけど、先ずは目の前の任務に集中しないと本当に命に関わる……自分で臨んだ手前ガンジー様の顔に泥を塗るワケにもいかないし、少しでもランス王の力に成る事を考えないとッ! 悩むのはリーザスに帰ってからでも遅くは無いんだから)」
「(だとすれば私の呪いを解いてくださる為に此処を鍛錬の場として選んだ王様の気配りは確かに嬉しい……のだけれど……釈然としないのは何故なの? 私は今迄"元の体"に戻るのを目的に生きて来たって言うのに……途中 諦めて死ぬ事も考えたりもしたけど……いえ、それはともかく……どうして能力を失う事を名残惜しく感じているのかしら……?)」
「メルフェイス」
「!?!?」
「何をボーッとしてるんだ? 次"あんな事"が起こった時に気後れしてたら死ぬぞ~?」
「す、すみません……王様」
「まァ何を思ってるかは大体 察せるけどな」
「えぇッ?」
――――彼女は真面目な性格だから治す治さないで未だ悩んでいるんだろう。傍から見てもバレバレだ。
「だが考えるのは"その時"に成ってからで良いだろ?」
「……御見通しなのですね……」(小声)
「うん?」←聞こえなかった
「い、いえ……そうですね……私も直面してみないと答えが出ない様な気がします」
「そうか。だったら先を急ぐしか無いなァ」
「すみません」
「二度も謝るなって。ともかく後を追うぞ? ウィチタの奴 だいぶ先に行っちまった……って、立ち止まって俺達を待ってるみたいだな。まァ先行しすぎたら危険だし当然なんだが」
「ランス王。どうかなされましたかッ?」
「何してんのよランス~ッ! 早く来なさいよ!!」
「すまんすまん。今すぐ行く――――って訳で話は後だメルフェイス」
「畏まりました(全く私ったら……コレじゃ誰が守られているのか分からないわ……)」
――――此処で急かされたので互いに駆けるワケだが、唐突にカオスが俺にしか聞こえない声で喋った。
『結局 委ねる事にしたのか? 彼女は お前さんに借りを作っているから頼めば普通に付いて来そうだし、必要でなくともスケベは幾らでも出来るんだぞ? 何より王様でしょ?』
「それはそうなんだが、立場を利用してたら"その辺"の村娘を抱くのと変わらんだろうが。それ以前に最後のサイゴまで連れ歩くには自分から来てくれないと意味が無いんだ」
『う~ん。何だか勿体無い気がするがのう……って、最後まで一緒って事は其処まで本気で魔人領の事 考えてるワケ?』
「当然だ。皆レベル100以上にする気で選出してるぞ? 実際に奴等と見(まみ)えるのは当分先の話だが、この時点で下積みを始めて置かないと後々キツいだろ」
『確かに実際に戦ってみて"無理でした"では済まん相手だしのぅ』
「そう言う事だ……まァ詳しい話は後日って事にしてくれ」
『うんにゃ。相棒の"意気込み"を知れたダケで十分よ? 早くも斬るのが楽しみになったわい!』
「そりゃ~心強い限りだ。帰ったらまたウェンディの折檻役を奢ってやろう」
『9回で良いぞい!?』
「自重してくれ(……早くも肖りやがったか)」
尚 何時も持ち歩いているカオスとは"このような会話"を交わす事が結構 多かったりする。
……とは言え最初コイツはベラベラと何時でも何処でも喋っていたので少ないもクソも無かったが、現在は空気を読んだか"他の連中には聞かれない様に話し掛けて来る事"が殆どになっていた。
恐らく以前のランスに抱いていた印象と"今の俺"が変わっている事に気付いた結果、馬鹿を遣らずに謙虚にインテリジェンス・ソードとして(気持ち)装う様にしたみたいだ。
だが当然スケベなのは全く変わっていないが、その気持ちさえ有る程度 汲んでやれば基本的にコイツは外だと大人しい上にシッカリ働いてくれると言う事なので有り難い。
カオスは封印期間が長かった為"この世界"の常識には比較的 疎くなっているのか、現代知識を交えた俺との日常会話や冗談の交し合いも気に入ってくれている様で、既に良好な関係を築けていると言えるだろう。
……
…………
……30分後。解呪の迷宮・第26階層。
25階では魔物はボスを除いて皆無だったが、階段を下りると多少の遭遇戦が有ったモノの俺達は迷宮の奥を突き進んで行っていた。
そんな中で特にウィチタが素晴らしい働きをしてくれており、弱いモンスターは直ぐ様 投げナイフで仕留め先日の かなみと遜色無い働きを魅せてくれていた。
しかも手持ち無沙汰の時は忍者の働きを無視してブツブツと愚痴を言うサイゼルの事をも考慮し、器用にも自然な流れで"モンスターを流す"事で彼女のウサ晴らしをさせていた。
流石にコレは かなみでも難しい配慮だと思うと同時に、やはり奇特な性格なガンジーと有能だが天然なカオルと共に行動していたダケ有って普通に感心してしまった。
つまり現状の働きをする彼女が普段のウィチタであり魔法Lv2を持つ一流の魔法剣士なのだ。エレノア・ランさん乙。
「ランス王、また泉を発見しました!」
「今度も変な色をしてるわねェ」
「……どうして所々に泉が有るのでしょうか……?」
「分からん。大方 解呪 出来るのも"特定の泉に入ったら"だったりしてな」
「成る程」
「だったら試してみる~? メルフェイス」
「えっ? で、ですが……」
「馬鹿 言うなって。その色(緑)だと、どう考えても触れないほうが良さそうだろ」
「確かに今迄 まともと思える泉は殆ど有りませんでしたね」
「つまんないの~ッ」
「すみません」
「其処で謝ってどうすんだよメルフェイス。ともかく先を目指すぞ」
ちなみに"ハウ・キュッ"を倒し解呪の迷宮の26階層に進んでからは幾つもの泉が俺達の視界に現れた。
大きさや色も泉によって違うので、それぞれ効果も違って来るのだろうが……解呪・成長するモノも有ればRPGで良くある麻痺・石化・毒を齎(もたらす)す害しかない泉も多そうで、どれも色が酷い故に大半が外れなのだろう。
迷宮探索で役立つ"メリム・ツェール"が居れば軍を動かして一個一個 効果を調べる事でリーザスの発展に役立てても良いのだが、今は居ないのは勿論 現状でも兵達の数には不安を感じるのでスルーするしか無い。
まァガチで世の役には立ちそうな迷宮では有るので、全てを終わらせてから指示を出すのも悪くないな。
そう言う訳で。ミル・ヨークスを大人化する予定が微塵にも無い現状、メルフェイスの解呪が終われば"レディ"関連のイベントでしか来ないっぽいし、道中の泉に関しては記憶の片隅に留めて置くダケで良さそうだ。
「有りましたッ! 階段です」
「今回は早いわね~」
「段々と迷宮が狭くなって来ていると言う事は……」
「ゴールが近いって事だな」
――――しっかし暇過ぎて注意しようと思いながらも考え事をしちまう。俺もウィチタを見習わないと。
「……あれっ?」
「ど~したの?」
「ウィチタさん?」
「今 何か揺れた気がしたな」
「ランス王も御分かりでしたか?(私しか気付かないと思ったけど)」
「あたしは飛んでるからねェ」
「それでは……?」
「油断大敵ってヤツだな」
――――尚どうでも良い話だが、俺は地震帯国に住んでいたと言う事から他の連中より揺れには敏感だった。
……
…………
……更に30分後。解呪の迷宮・第27階層。
情報では28階が最下層と言う事なのでゴールが近いのは確かだが、そう簡単に解呪の泉には行けない様子。
幾つもの更なる泉を通過する中 見た目も綺麗な"成長できそうな泉"とかも有った気がしたとは言え、地下26階で感じた"揺れ"による緊張が誰もが拭えず話題にすら出来なかった。
それはともかく。下り階段を探す俺達の行く手を塞いだのは、高さが成人男性の4倍以上は有りそうな巨大な影だった!!
『イ"モオオオオォォォォッ!!!!』
≪――――ズウウウウゥゥゥゥンッ!!!!≫
「い、イモムシDX!? それにしては……」
「ちょっ!? デカ過ぎでしょ!?」
「まさか……突然変異モンスターッ?」
「その辺の泉が影響してるのは間違い無さそうだな」
「そう言えば此処 一帯には魔物が居ませんでしたから……」
「全部コイツが食ったって事ォ?」
「……有り得ますね……」
「つまりこの階の食物連鎖の頂点って事か……って来るぞ!?」
『…………』
「くっ!?」
≪ダアアアアァァァァンッ!!!!≫
――――原作には居なかった、卑猥で定評の有る強大化したイモムシDXの頭突き攻撃を回避するウィチタ。
「サイゼル!! メルフェイスッ!」
「見苦しいのよッ! 死になさい!!」
「氷の矢・展開」
『…………』
≪バシュウウウウゥゥゥゥッ!!!! ――――ドドドドドドッ!!!!≫
カオスをしっかりと握り直しながら叫ぶ俺の声を聞いた時点で、サイゼルとメルフェイスも戦闘態勢に入っており既に魔法を詠唱していた。
その直後 サイゼルはライフルから極太のスノーレーザーを放ち、メルフェイスが⑨のアイ●クル・フォールの如く氷の矢の弾幕を放ち9割 以上がイモムシDXのカラダに突き刺ささる。
普通のモンスターで有れば氷結耐性が有ろうと無かろうと、問答無用で御陀仏な攻撃と言っても良かったのだが……
「んなっ!?」
「さ、再生?」
『……ッ……』
≪――――ビュヒュッ!!!!≫
「!? 馬鹿ッ! 避けろ!!」
「さ、サイゼルさん!?」
「熱ッ! 熱い熱い!! な、何なのコレェ!?」
「酸!?(そんな攻撃をするモンスターじゃ無い筈なのに!)」
『…………』
「ウィチタッ! それ浴びたら死ぬぞ!?」
「ちぃっ!!」
≪――――ジュウウゥゥッ!!!!≫
突然変異の魔物ダケ有って凄まじい体力と再生能力を持っており、サイゼルに凍り付かされたのを瞬時に破った上にメルフェイスに受けた氷の刃による出血も数秒で治ってしまっていた。
更に鈍いのかダメージを感じた様子も無く反撃に移り、ゲームには無い口からの酸攻撃を放って来た!!
対してサイゼルはイモムシDXに抱いていた価値観から油断していた様で、酸性雨の一部がカラダに掛かってしまい(幸い丈夫なので)左腕が火傷・また衣服(ハイレグ)の一部が溶けてしまっている。
その一部はウィチタにも来ていたが、直感で反射的に避けていた様で大事は無かった……のだが、今度は彼女を標的にして再び大量の酸を放つイモムシDX。どう考えても放送禁止です、本当に有難う御座いました。
だがウィチタは動じる事無く精子……いや酸を身を低くして回避しながらイモムシDXに接近すると左手に籠めていた火炎魔法を放つ。
「炎の矢!」
『…………』
≪――――バヅンッ!!!!≫
「(弱点の筈なのに、やっぱり外からの攻撃は弾かれる……それなら、これはどう!?)」
『……!?』
≪――――ザシュッ!!!!≫
「(炎の剣)」
『!?!?』
「き、効いてるの?」
「痛がってるし間違いないな」
『それじゃ~行くか?』
「当たり前だ!!」
≪――――ダダダダダダッ!!!!≫
ウィチタが右手で握っていた"炎の剣"でイモムシDXに擦れ違い様の攻撃を向かって左の胴に食らわせると、攻撃に怯まなかった奴の様子に変化が見られた。
(言う迄も無く卑猥だが)明らかに苦痛の感情を表しており、食らった箇所は燃え広がっているダケでなく再生もが遅くなっていたのだ。
そんな好機を俺が逃す筈が無く……背後に回り込んで炎の矢で追撃するウィチタに、苦しみながらも応戦するイモムシDXに向かって既に走り出していた。
「目障りだから動くなって言ってんでしょ!?」
「(王様に力を……)攻撃強化」
そんな俺の意図を察してか、メルフェイスは俺に物理強化の補助魔法を掛け背中を後押ししてくれる。
またサイゼルは一転集中させたレーザーを放ってイモムシDXの胴を貫通させ再生の無駄遣いを誘発。
更に酸が当たらずヤケクソになったか再び体当たりをした事で、大きく隙を晒したイモムシDXから逃れたウィチタが、剣を納めて何時の間にか俺の前方で両手に魔力を収束させていた。
「ランス王ッ! 私の炎の力を!!」
「何だか良く分からんが任せるッ!」
『えっ? ちょっと待って。儂 熱いの苦手なんですけど?』
「火炎付与!」
「おおおおぉぉぉぉッ!!!!」
『うあず~っ!!』
『……ッ……!?』
≪――――ザシュウウウウゥゥゥゥッ!!!!≫
俺が剣を振り上げて跳躍すると、ウィチタはタイミング良く"何か"を放ちソレはカオスに吸い込まれてゆく。
どうやら言葉の通り火炎属性を付与してくれた様で、コレで(巨大)イモムシDXの撃破は確定的となった。
よって炎を纏ったカオスを勢い良く振り下ろすと胴を激しく斬り付けられた事で激しく燃え上がり、やがて第二の迷宮ボスは肉体を黒焦げにされて絶命したのだった。
「(たった一撃で勝負を決めてしまうなんて……流石はランス王ね)」
「何とかは成ったが……悪かったなウィチタ。囮に使わせちまって」
「!? と、ととととんでも有りません」
「サイゼルは大丈夫か?」
「も、問題は無いわよッ」
――――そんな事を言っているがサイゼルは地面を溶かす程の酸を食らっており、メルフェイスが気遣う。
「ちょっと、ちゃんと見せて下さい。皮膚が爛(ただ)れている様に見えました」
「だから大丈夫だってばッ! 魔人は丈夫に出来てるんだから!!」
「ムッ。だったら隠している左手を見せてくれますよね?」
「そ、それは」
「ますよね?」(ニコッ)
「……う"~ッ……こ、この魔人サイゼル様が何てザマよ~……」
「!? これは骨が見えて……かなり酷い傷の様ですね」
「マジか? 少なくとも世色癌で直ぐに治る傷じゃ無さそうだな。元々体力の高い魔人には効果が薄いし」
「でも……痛ッ……もう直ぐゴールなんでしょ? この程度で引き返すなんて止めてよ?」
「分かったから取り合えず飲んどけ。止血くらいには成るだろ」
「う、うん――――ゴクッ」
「(案外 素直に飲んだな)次はウィチタ、包帯を」
「ただちにッ」
自分の所為で足止めはプライドが許さないのか、観念して素直に応急処置を受けているラ・サイゼル。
だが俺もイモムシDXが強酸を放って来るとは思わなかったので、サイゼルの被弾を責める気は全く無い。
そう考えればウィチタが食らったと思うとゾっとするぜ。仲間を失う上にエグいシーンなんてゴメンだ。
さて置き。サイゼルは続投したい様だが"他の場所"が有るので無理はさせたくない……そうなれば後は……
「サイゼル」
「な、何よ?」
「お前はウィチタと先に地上に戻ってくれ」
「!? ど、ど~して"そうなる"の?」
「もう大した魔物は居ないと踏んだからだ。雑魚しか残って無いのに魔人の手を煩わせる訳にはイカんだろ」
「生憎だけど皮肉にしか聞こえないわよッ」
「(私の役目はランス王を お守りする事だけど、怪我人を放って置く訳には……これは難しい選択かもね)」
「癪に障った様だったら謝る。だがコレは良い機会だと思ってるんだ」
「どう言う事よ?」
「……王様……?」
「ちょっくら奥に辿り着いたらメルフェイスと2人で話したい事が有るんだ。少し早いが席を外してくれ」
「!? 御二人ダケで大丈夫なのですか?」
「大丈夫だ。問題無い」←根拠無し
「(ガンジー様のように溢れ出す位の自信を感じる……コレなら問題無いかも知れないけど……)」
「何よそれ……だったら始めから そう言いなさいよ」
「正直すまんかった。メルフェイスは大丈夫か?」
「……ぁッ……はい……実は私も王様と話したい事が有りましたから……」
「だから無理はするなサイゼル。それに今の姿で戦うとポロリと行くぞ~?」
「な、なななな!? 何 言ってんのよッ! スケベ!!」
――――(本来なら)私は一向に構わん!! そして後者は俺にとってもランスにとっても褒め言葉です。
「まァ其処まで元気なら一晩 寝てれば治りそうだな~」
「うふふッ。そうかもしれませんね」
「はぁ……なんだかムカつく気も失せたわ……早く帰って休もうっと」
「そ、それではランス王」
「僅かな活躍で悪いが一足先に帰っててくれ。フェリスも此方で回収して置くからさ」
「畏まりました……それでは」
「ちゃんと守ってアゲんのよ~?」
≪キュ――――ィィイイン――――≫(帰り木 使用)
「何だか意外な一言を聞いた気がする」
「さ……サイゼルさんが私の心配を?」
「何だカンダで満更でも無かったのかもなァ」
「良く分かりません」
「聞いた話によると良く出来た妹が居るらしいぞ? メルフェイスと雰囲気が似てるのかもな」
「そ、そうだったのですか」
「だったのだ」
「……ッ……」
「それより。さっきも言ったが話は例の泉を見つけてからだ」
「やはり泉なのでしょうか?」
「道中で類似品が多数有ったからな」
「成る程……」
先にサイゼルとウィチタを帰すと"こんな感じ"の会話を最後に、俺とメルフェイスは奥に有った階段を肩を並べて下りていった。
此処で2回目のボス戦は勿論サイゼルが負傷するのも予想外だったが……そうでなくとも2人は直前で戻す予定だったので、苦しい(と思われる)言い訳を考えずに済んだダケ幸いだったと言えよう。
ともかく。次の展開で一人の女性が最期まで俺と共に歩むか、女として幸せな生活に戻るかが決まるのだ。
よって俺は期待と不安を胸に階段を一歩一歩 踏みしめながら……必死でメルフェイスに面と向かって何を言おうかと考えているのだった。
「(……やっぱり王様と出会ってからは何もかもが新鮮……私には呪いを解く以外の道は無いと思っていたのに……)」
●あとがき●
実はまだランス・クエストはクリアしていません。ヘルマン3軍がカラーの森を襲うシナリオの手前かな?
さて今回は かなみちゃん出番無し。またサイゼルが かなりヘタれています。だがそれがいいと思うんだ。