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No.12812の一覧
[0] 中の人などいない!!【王賊×オリ主】[ムーンウォーカー](2011/01/23 20:42)
[1] あ、ありのまま(ry なプロローグ[ムーンウォーカー](2011/01/23 20:11)
[2] 勢い任せの事後処理編[ムーンウォーカー](2011/01/23 20:18)
[3] 【人財募集中!!】エルスセーナの休日1日目【君も一国一城の主に!】[ムーンウォーカー](2011/01/23 20:23)
[4] ドキッ! 問題だらけの内政編。外交もあるよ ~Part1~[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:15)
[5] ドキッ! 問題だらけの内政編。外交もあるよ ~Part2~[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:16)
[6] 【過労死フラグも】エルスセーナの休日2日目【立っています】[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:17)
[7] ドキッ! 問題だらけの内政編。外交もあるよ ~Part3~[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:18)
[8] 【オマケ劇場】エルスセーナの休日3日目【設定厨乙】[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:19)
[9] 婚活? いいえ、(どちらかというと)謀略です。[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:20)
[10] いきなり! 侵攻伝説。[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:21)
[11] 始まりのクロニクル ~Part1~[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:22)
[12] 始まりのクロニクル ~Part2~[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:23)
[13] 始まりのクロニクル ~Part3~[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:24)
[14] 始まりのクロニクル ~Part4~[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:25)
[15] 始まりのクロニクル ~Part5~[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:26)
[16] 始まりのクロニクル ~Part6~[ムーンウォーカー](2010/08/15 13:22)
[17] 始まりのクロニクル ~Part7~[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:29)
[18] 始まりのクロニクル ~Part8~[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:39)
[19] 始まりのクロニクル ~Last Part~[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:40)
[20] それは(ある意味)とても平和な日々 ~Part1~[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:44)
[21] それは(ある意味)とても平和な日々 ~Part2~[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:44)
[22] 【休日なんて】エルスセーナの休日4日目【都市伝説です】[ムーンウォーカー](2010/06/27 18:15)
[23] 動乱前夜 ~Part1~[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:46)
[24] 動乱前夜 ~Part2~[ムーンウォーカー](2010/05/23 12:27)
[25] 動乱前夜 ~Part3~[ムーンウォーカー](2010/06/07 00:10)
[26] 【公爵家の人々】エルスセーナの休日5日目【悲喜交々】[ムーンウォーカー](2010/06/13 13:19)
[27] 【誰が何と言おうと】エルスセーナの休日6日目【この人達はモブな人】[ムーンウォーカー](2010/07/18 20:18)
[28] 【意外と】エルスセーナの休日7日目【仲の良い人達】[ムーンウォーカー](2010/07/18 20:17)
[29] 面従腹考[ムーンウォーカー](2010/12/12 10:00)
[30] 合従連衡[ムーンウォーカー](2010/08/15 13:35)
[31] 伏竜鳳雛 ~part1~[ムーンウォーカー](2010/08/29 12:19)
[32] 伏竜鳳雛 ~part2~[ムーンウォーカー](2010/12/12 10:43)
[33] 伏竜鳳雛 ~part3~[ムーンウォーカー](2010/12/12 10:43)
[34] 伏竜鳳雛 ~part4~[ムーンウォーカー](2011/01/23 20:33)
[35] 伏竜鳳雛 ~part5~[ムーンウォーカー](2011/01/23 20:01)
[36] 登場済みキャラクターのまとめ その1(始まりのクロニクルLastPart終了時点)[ムーンウォーカー](2010/05/23 12:49)
[37] 【あとがき的な】各話後書きまとめスレ【何かっぽい】[ムーンウォーカー](2011/01/23 20:02)
[38] 生存報告[ムーンウォーカー](2011/03/14 20:34)
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[12812] 伏竜鳳雛 ~part5~
Name: ムーンウォーカー◆26b9cd8a ID:4ee04a98 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/01/23 20:01



 ■ 前回までのあらすじ





 複数のヴィスト王国軍軍集団が旧ヘルミナ王国‐ビルド王国国境を突如として超える

 ↓

 クルガは何とか睨み合いに持ち込めたが、マックラーはカーディル王とガチンコ確定

 ↓

 あと、クングール終了のお知らせ

 ↓

 危機的状況を察したリトリー公、エルスセーナを雷発(笑)

 ↓

 到着前に第3次マックラー会戦終結 ←いまここ!





















 ――という訳で、全く完全に間に合いませんでした、っと。


「間に合わなかった事を嘆くべきか、味方の勝利を喜ぶべきか……」

「味方が勝った事は素直に喜んでおくべきでしょうな。
 果たして勝ったと言える程の結果であるのかどうかは別としましても」

「敵を撃退したのだから勝ったに決まっている。
 と、フリッツならそう言うかと」


 俺のボヤキともつかない言葉に、オイゲンとマーチカ男爵も何とも言えない表情でそう返してきた。

 なにせ、俺達が援軍として到着して以降未だに全軍の再編作業が終わっていないのだ。
 戦闘そのものでは全く役に立っていないが、この局面で纏まった数の騎兵が索敵やその他任務に使えるのは有難いと有形無形の感謝をされていたりする。

 この場にいないエステマット伯爵は麾下の兵を連れて北へ偵察に出ている。当然、カーディル王の動向を探るためだ。
 ある程度断片的な話を聞いた中から推測するに兵站を叩かれたんだから素直に後退するはずではあるが、そう思わせておいて、なんて可能性が無いとは言い切れない。

 まぁ、万が一に備えてという性格が強い偵察だな。隙があれば本国まで帰るその尻に一度くらい噛みついて来いとは言っておいたが、ま、無理だろう。



 それにしても。
 こう言うのは何だが、まさか撃退できるとは思っていなかった。

 ヴィスト軍が動員した兵力とこちらの動員兵力はほぼ互角で、ヴィスト軍はカーディル王をはじめとして国許に残ったアライゼル将軍以外の有力将帥が全員動員されてる状況だったんだぞ。
 補給線の事まで考えれば一発でエルト国境まで押し寄せて来るとは考え難かったが、マックラーは確実に落ちたと思っていたからな。

 そうならなかった原因は、“獅子吼”ラルフウッド団長の奮戦とアルバーエル将軍の果断な戦域支配に尽きる。
 特に、人中のカーディルとでも言うべき英雄王とガチの一騎打ちなんていうどこの英雄豪傑かと言わんばかりの大立ち回りを演じたラルフウッド団長の活躍が無けりゃどうなっていた事か……。

 つーか、大剣片手に戦場を単騎駆けして大将首落とすような化物と敵騎士を馬ごと一刀両断してのける人外のドリームマッチなんて勘弁してくれ。
 しかもその結果如何で戦闘のすう勢が決まりかねないとか悪夢以外の何物でもない。
 こちとら直接武力は専門外なんだ。戦術指揮だって専門外みたいなもんの中で必死扱いて「戦う前に勝つ」算段付けようと足掻いてみたり、戦略的敗北を戦術的勝利で糊塗しようとしたりしてんのに、個人戦闘で戦術的勝敗を決せられたら立つ瀬が無い。

 いやホント、チェスや将棋で盤面優勢にしかけた所でちゃぶ台返し食らうようなもんだから。



 ……まぁ、ちゃぶ台返しを未然に防げてマックラーの防衛に成功したんだからこの戦場では勝ったと言ってもいいんじゃなかろうか的な見解だし、そう悪くない結果だから文句を言う謂れもないんだけど。


「……この惨状で勝ったとは、ねぇ」


 誰にも聞こえないよう口の中で呟いた俺の視界には、会戦最終盤で戦場を離脱しようとするダヴー将軍の隊に突っ掛かって返り討ちにあったと思しきビルド王国軍の成れの果て・・・・・が再編の途上にあった。



 ビルド王国中央部に所領をもつ貴族の混成集団を主軸とする2万名の戦闘集団のうち、現在戦闘可能な状態にある人数は僅かに5千と少し。
 再編が済んでいる――組織的戦闘に投入可能な数で言えば、さらにその半分以下になる。

 数字だけ見れば完敗と言っていい状態だった。





















 エルト王国軍や傭兵団の再編に何とか目処がつき、錯綜気味だった情報が何とか纏まった所でエルト王国軍+αで軍議を開く事になった。
 もちろんビルド王国側にも声は掛けたが、再編をはじめとした立て直しに全く目処がつかない状態では参加は不可能との返答が返ってきた。
 連絡将校程度の人員はもちろん派遣されてきてはいるが、能動的な発言なんて出てこない以上ある種いないも同然だ。

 発言が可能な人員がいたとして何か言う事があるのかというのは、また別の問題かもしれないが。

 なお、主な参加人員は、アルバーエル将軍、俺、エステマット伯爵、マーチカ男爵、ラルフウッド団長の5人だ。ラルフウッド団長の未来がどう転ぶかは知らんが、ノア将軍以外のエルト王国軍ベストメンバー勢ぞろいといった感があるな。
 オイゲンに関しては、ウチの隊の面々による偵察活動の指揮をするためにこの場を離れている。


「とにもかくにも、将軍が無事で良かったです」

「そう言うセージは少し腰が軽いぞ。賽は振られたのだから、領地にどっしり構えて一報を待つくらいの落ち着きが無ければエルト三公の重責は勤まらんと思え。
 ただ、満足に動かせる隊が無い中で無傷の騎兵が3隊使えたというのは助かった。それに関しては礼を言う。
 減点1に加点1、と言うには些か減点が大きいが……。まぁ、大目に見ておこう。次にやったら間違いなくカーロンの説教だな」

「……ご心配無く。どちらにしても帰ったらカーロンに公爵家当主心得をみっちり仕込まれる事になっていますから」

「はっはっは! セージも突然公爵家の当主になってしまった一面があるからな。カーロンも内心冷や冷やしっ放しなところはあるだろう。
 ただ、あまりやり過ぎ続けると笑い話では済まなくなる。気を付けろよ。俺はカーロンが心労で倒れたなんて話は聞きたくないからな」

「すみません……」

 形式上(宮廷序列上)は同格の俺とアルバーエル公爵ではあるが、もちろん俺がアルバーエル将軍に頭が上がるはずもない。むしろ、こうやって親身に忠告してくれたり叱ってくれたりと、足を向けて寝られないくらいだ。
 個人的にはいくら感謝してもし足りない。
 公人としては、リトリー公爵がウルザー公爵にあまりに近しいのはいずれエルト王国内部の政治力学に強い影響を及ぼすんじゃないかと思わないでもないが……。

 思わないでもないが、とにかく目の前の事を処理するので手一杯だ。手元足下とヴィスト王国に注意を払うので既に能力以上に働いている気がする。カーロンがいなけりゃそれすら不可能。
 ムストか宰相殿辺りを頼りにはしているが……。



 いや、今は目の前の問題を何とかしなければ。
 エルト国内の問題より、ビルド王国が今回の一連の戦闘でどれだけのダメージを受けるかが今後のコドール大陸南方戦線の行方に重大な影響を及ぼす。
 確実に、だ。


「アルバーエルのお説教が終わったところで、現状把握と洒落込むか。戦況の経緯は纏めて聞いておくか? リトリー公爵殿」

「ええ、頼みます」

「と、いう事で頼んだぞアルバーエル」

「お前はいつもそうだな。面倒な事ばかり俺に押し付けて……。まぁいい、戦端を開いてからの流れを説明する」


 ラルフウッド団長の妙に迫力のある悪戯顔にアルバーエル将軍が苦笑しながら説明を始める。



 戦端を開くのとほぼ同時に突出してきたカーディル王及び親衛隊は、ラルフウッド団長以下の傭兵団との激突を経て混戦状態へともつれ込んだ。
 両軍が最も分厚く陣を敷いた左翼での激突から遅れる事僅かの間で中央と右翼もそれぞれ接敵するが、この時点では戦況はほぼ互角。

 傭兵団が混戦状態へと持ち込んだ左翼はもみ合いから消耗戦へと移行。
 一方の中央も、ビルド軍の集団にバラつきがある隙を上手く突いたヴィスト軍が何故か動揺し、統制が乱れた所をビルド軍が逆襲。こちらも混戦に近い状態になったらしい。
 その間に、右翼は互いに戦線を形成して互角の叩き合い。

 戦況が動いたのは、エルト王国軍が左翼前衛同士のもみ合いを迂回するようにヴィスト軍側方へ進出したのがきっかけだったらしい。
 先手を取るべく動いたアルバーエル将軍の積極策が実ってダヴー将軍をアルバーエル将軍の攻勢正面へ釘付けに出来たのが大きく、完全にヴィスト軍を消耗戦へ引きずり込めたのだ。



 ここまでは、こちらの思う壺だ。
 ヴィスト軍は現時点での戦略予備が心許なく、さらには本国から伸びた補給線の長さが長すぎる。対するこちらには奈宮皇国をはじめとした諸国の兵力を後詰扱いにしても良いし、補給線も短い。
 消耗戦はこちらが圧倒的に有利だ。
 もちろんそうなった場合、ヴィスト軍相手に消耗しきったビルド王国は奈宮皇国辺りに保障占領を食らいかねないが、ヴィスト王国にとってはその辺りは心底どうでもいいだろう。

 もっとも、このチキンレースを仕掛けたのがビルド王国軍じゃなくてエルト王国軍な辺りはアルバーエル将軍も人が悪い。
 分かっていても、自国が同盟国に蹂躙されるかもしれない危険を冒してまでビルド軍がこの作戦を採れたかと思うと疑問だからな。
 このままいけばこちらの作戦勝ちで判定勝ちくらいには持ち込めたんだろうが……。

 ヴィスト軍も伊達に大陸有数の軍事強国を名乗っていない訳で。



 まず、攻勢に出る事で主導権を握っていたアルバーエル将軍の手勢がダヴー将軍に押し戻された。
 その過程において敵にかなりの打撃を与えたはずだ、とアルバーエル将軍が言っている以上、相当な無理押しで戦線を反発させたはずだ。最後までそれを成し遂げたダヴー将軍の力量とそれに応えたヴィスト軍将兵の実力は流石と言う他ない。

 この間に、右翼の戦闘は終結へ向かっている。ヴィスト軍もビルド王国近衛兵団も、それぞれ一時兵を下げて様子を見に掛かっていたからだ。
 ヴィスト軍はそのまま素早く兵を退いて、ビルド王国近衛兵団は追撃――する前に中央へのけん制を入れなければならなかった。



 で、問題の中央部だ。
 一時の動揺と混乱から脱しつつあったヴィスト軍中央部集団は、カーディル王が戦闘指揮に復帰したらしき事で統制を完全に取り戻し、戦線全体でビルド軍を押し込みつつあった。
 ここに側面から(中央の戦線が押し込まれた結果、全体で見ると凹陣に近い戦線状況になっていたようだ)近衛兵団が突き掛かり、それで手仕舞いと見たのだろう。中央部のヴィスト軍も引き上げを開始した。

 中央のヴィスト軍が引き上げを開始したスペースには、一旦戦線を立て直すために攻勢を弱めたアルバーエル将軍を振り切ったダヴー将軍と体勢を立て直したカーディル王親衛隊が入った。
 カーディル王がヴィスト全軍の指揮を執って後退するまでの殿といったところだろう。
 この瞬間に三方向から半包囲体勢を築いて攻勢に出られれば戦果はもっと大きかったかもしれないが、両翼は既に疲弊していて積極的な攻勢に出るのは不可能だった。
 というより、それを見越していたから敵も危地に留まっていたのだろう。

 数度の押し引きを繰り返した後、両翼の撤退に続いてヴィスト軍中央集団も撤退を開始した。
 ここで素直に兵を退いていればここまで大きな損害を受ける事は無かったはずなのだが……。


「突出した指揮官がおらず、混成状態だったのが拙かった。一部の貴族が撤退を潰走と誤認し、功を焦って突出。それに引きずられる形で他の貴族もなし崩しに深入りし過ぎて、タイミングを見計らった敵の最後の大反攻で壊乱した。
 ご丁寧に壊乱した中央集団を我々両翼に押し込んでくれたものだから、こちらまで混乱してしまって僅かながら同士打ちまで発生する始末だ。
 結局、悠々と引き上げられてしまったよ」

「先の偵察でも、お手本通りの撤退を継続中でした。隙あらば後ろから張り倒してやろうと隙を窺っていたのですが、ああも完璧な逆撃態勢を見せつけられてはやる気も萎えるというものです」

「エステマット伯爵で無理なら俺でも無理だな」

「アルバーエル将軍がお手上げなら俺だって手も足も出ませんね」


 エステマット伯爵とアルバーエル将軍の軽口に俺が乗っかり、マーチカ男爵が静かに笑みを浮かべる。戦闘結果が、エルト王国的には控えめに見ても痛み分けという内容だからこその空気だろうな。


「勇猛果敢な傭兵団長としては我こそがと名乗り出たいところではあるんだがな……」


 単身エステマット伯爵について行ったらしいラルフウッド団長ですら、ヴィスト軍の隙の無さは認めざるを得ないらしい。


「先程もリトリー公爵と話していましたが、マックラーの防衛に成功した、という点では戦略的勝利を得たと考えて良いのでは?」

「俺もそう思うが、どうやらセージとラルフウッドは違う意見を持っているらしいぞ」


 マックラーの防衛には成功しているが、それが即戦略的な勝利に繋がるとは思えないんだよな……。
 なにせ、既にノイル王国軍を手酷く叩かれた後だ。その失点を挽回するどころか、ビルド王国軍まで疲弊したっていうのはなぁ。


「俺個人としては負け戦だったからな。武器を圧し折られたのはエルト王国を出て以来初めての事だぞ。控えめに言っても面白くない」

「ラルフウッド殿はエルト出身なのか?」

「一応貴族の末席に名を連ねてもいる。まぁ、貴族と言っても領地も無い貧乏貴族だが。
 世が世なら、アルバーエルどころかエステマット殿やマーチカ殿にもこんな気軽に話しかけられる立場じゃない」

「その代わり、ラルフウッド殿には近隣諸国に知れ渡った武名があるではないですか。そちらの名声で言えば私もフリッツも及びませんからね」


 こう言っちゃ何だが、大陸有数の傭兵団の頭目と田舎国家の十把一絡げの貴族じゃ立場的にはトントンが良いトコだ。
 さすがにアルバーエル将軍クラスになるとそうでもないが、どーいう関係かは知らんがえらい親しいからな、あのふたり。


「で、セージが難しい顔をしている理由は何だ?」

「……現状では、戦略的見地に立った場合どう割り引いても痛み分けがいいところだと思います。
 結果だけを見ればマックラーを防衛出来ている分こちらの作戦目標は達成されたと考えられますが、敵が支払ったコストとこちらが支払ったの差分を考えるとどうにも。

 それに、まだクングールが残っています。
 クングールが陥落でもしたら全部ひっくり返りますよ」

「クングールは囮ではないですか?」

「アガレスの言う通りだ。クングールを攻めているのはヴィストでもそう名の通っていない2線級の将軍だろう。そもそも、要塞都市を落とすのに籠城する兵より少ない兵で囲んだところでどうにもならん。
 いくらヴィスト軍が強いと言っても、城攻めには少なくとも3倍以上の兵が必要だという条件をひっくり返せるほどでは――」


 それが、心理の陥穽だと思うのは穿ち過ぎだろうか?



 俺は――俺だけは知っている。ロンゼンとセルバイアンの2人は、いずれヴィスト王国軍を背負って立つトップエリートだという事を。
 その2人が共同して作戦に当たっているんだ。ただの牽制や囮などと舐めてかかると酷い目に遭うのは間違いない。

 特にロンゼン。こいつがヤバい。

 王道的なリディアにセルバイアン。打撃力のネイ。支援戦力としての火山。それぞれ原作でも厄介な相手として描写されていたが、ロンゼンの役回りは――軍師。



 鹿が迷い込んだ、なんて手に引っ掛かるとは思わないが……。しかし、どう転んでもロンゼンの打った手は損が無い。

 マックラーのオルトレア連合軍が無視すればカーディル王の来援でクングールが落ちる。
 決戦に打って出れば、結果如何ではマックラーが陥ちてビルド王国が崩壊する。
 そして、カーディル王という存在そのものが囮としては最高の効果を発揮する。

 誰だってカーディル王が本命だと思うだろう。兵力も大きい、役者は揃っている、狙うのは王都マックラー。
 そう、誰だってマックラー狙いだと考える。



 煙幕としては最高じゃないか。視線がマックラーに向いている内に、あのロンゼンが好き勝手暗躍出来るんだぞ。

 もちろんそうじゃない可能性だってあるが、現実はいつだって最悪の斜め下を行くと相場が決まってる。


「敵より少ない兵で要塞都市を囲む。不自然だとは思いませんか?
 逆襲を受ければ各個撃破の危険すらあるのだから、牽制の意図があるにしても陣を張って対峙するのが普通でしょう」

「牽制だからこそ囲んでいるのだろう。攻めっ気を見せなければ牽制にすらならん」

「攻めっ気を見せるだけなら適当に門に押し寄せて見せればいいでしょう。牽制が主目的であるにしてはリスクを取り過ぎていると、俺は考えているんです。
 ……言い変えましょう。
 ヴィスト軍は、リスクを取ってでもクングールを囲まなければいけないと考えているはずなんです」

「つまり、本気で陥としにかかっているのか? あのクングールを、僅か2万で?」

「おいおい、冗談だろう? 5万の兵に囲まれても小揺るぎもしなかった要塞だぞ。
 それをたかだか2万で陥とすなんて、いくら豪気な傭兵でもそこまで威勢のいい事は言わないぞ」

「力押しでなければいいんでしょう。搦め手、謀略の類は城攻めの手法としてはむしろ陳腐なものです。
 ……それだけに有効です」


 しかも、今のクングールには頭が2つある。ほぼ同格の、拠って立つ考え方も後ろ盾も何もかも違う指揮官が2人だ。
 それぞれの能力がどんなに高かったとしても付け入る隙なんて幾らでもあるだろう。


「……つまり、クングールを囲んでいるのは情報の遮断が目的か?」

「マーチカ男爵の言う通りです。囲まれたという事実は知る事が出来ましたが、しかし囲まれたという知らせは受け取らなかったのでは?」

「…………。確かに、その通りだ。
 ラルフウッド、お前のところでは何か情報を掴んでいるか?」

「幾ら傭兵の情報網が独自なモンだと言っても限度がある。無理を言うな」

「ビルド王国の方では……、まぁ、そうでしょうね」


 俺が言い終わるより早く、ビルド側の連絡将校は首を横に振った。その顔色が心なしか悪いのは気のせいではないだろう。



 普通は攻囲されてると言っても情報伝達が皆無になる事なんてそうそう無い。
 いやまぁ、攻囲されてるまっ最中に堂々と情報を伝達できるものではないのは当然そうなんだが、攻囲される直前の状況報告や敵の隙を突いた伝令なんかが多少なりとも無いというのは考え難い。
 囲んでいると言っても、四六時中猫の子一匹漏らさないような警戒網を敷くなんて事は相当な難事だからだ。

 であるというのに、クングール方面でヴィスト王国軍が動いたという一報以降何の報告も来ていないという。

 普通なら見過ごされる事なんてありえない異常だ。

 ……カーディル王が動いた、なんていう大事で上書きされない限りは。


「まさか、ヴィスト軍の主力はクングールを囲んでいると?」

「親衛隊こそカーディル王と共にありましたが、その他の最古参の精鋭はこちらにはいなかったのではないかと思います」

「セージがそう言う根拠は――いや、いい。俺も耄碌したか。こんな単純な事を見逃しているとは」

「アルバーエル?」

「俺とラルフウッドが左翼に釘付けになっている間、中央の戦況が互角に推移していた事自体がおかしい。そういう事だな」

「アルバーエル将軍、それはいくらなんでもビルド王国軍を過小評価し過ぎなのでは?」

「ヴィスト王国軍の過大評価ではない、と暗に言う男爵の言葉が既に状況を明白な物としている気がするがな。
 第一、セージの推測通りだった場合の方が筋が通る」


 苦虫を噛み潰した様相でそう言うアルバーエル将軍の言葉に、それ以上の反論は無かった。
 ビルド王国からの連絡将校ですら、今更怒って見せる気にもならないという顔をしている。
 兵力だけは集めたが、その実態が――個々の戦闘能力は別としても――烏合の衆であったというのは否定できない事実だ。
 今まさにマックラー平原にその証拠が転がっているとあっては、何を言っても負け犬の遠吠えにしか聞こえないという事を自覚しているのだろう。


「せめて、近衛兵団並みの指揮系統が存在していればあのような無様は晒さずに済んだのですが」

「まぁ、我らエルト王国とて軍の内実は似たり寄ったりです。むしろ、この場にいるアルバーエル将軍指揮下のエルト軍やリトリー公爵の手勢の方が例外と見るべきでしょう。
 我がマーチカ家やフリッツの黒騎兵もその例外に入るとは思いますが――」

「数が足りん」

「――とまぁ、そういう次第です。あとは、ラルフウッド殿の傭兵団くらいなものですか」

「戦慣れしているから目立たんだけで、寄せ集めなのは大差無いだろう。個々の判断が高いレベルで一致しているから有機的に動けているように見えるだけで、旗印の俺の号令のもと一糸乱れぬ統制が取れるかと言われれば、な」

「結局、奈宮皇国頼りになってしまうか……」


 個々の兵の精強さもそうだが、組織化された大軍が存在するかどうかという判断基準で言ってしまえば奈宮皇国以外の南方諸国家は有象無象レベルでしかない。
 アルバーエル将軍が深いため息をつくのも分かるし、ガンド王国が野戦では無く城砦に拠っての籠城戦に活路を見出そうとした事も理解できなくはない。


「話を元に戻そう。セージの言う通り、ヴィスト軍の最精鋭がクングールを囲んでいると仮定すれば……」

「クングールを陥とすのに、何らかの方策を持っていると考えるのも一理あるか。
 それが何であるかは……、流石に分からないだろうが」


 そりゃあ、それが分かれば苦労はしない。
 ただ、堅固な城砦に籠った敵を打ち破るのにどうすればいいのかなんて、古今東西いくらでも戦訓はある。


「……外から陥とせぬのであれば、中から陥とすしかないでしょう。
 完全に情報を遮断すれば、同格の指揮官の間に不和の種を捲いて大きく育てるくらい簡単にやってのけるんじゃないかと」

「リトリー公爵殿は敵を高く買っているようだが、敵の指揮官はそんなに厄介な相手なのか? 聞いた話によれば、若手の参謀格が主将らしいが……」

「あのカーディル王が、無能な指揮官に一方面軍を任せるとは思いません。クルガに寄せたスーシェ将軍ほどでは無くとも、それに準ずる将才を持った人物のはずです。
 でないと、ダヴー将軍がこちらに来たりはしないはず」

「逆に言えば、ダヴー将軍をわざわざこちらに持ってくる事の出来るだけの余裕がある、という事だな。
 それは同時に、敵の狙いがクングールにあるとすればこちらの目を欺く良い囮になるか」

「だが、それが分かったところで迅速に動けるか? アルバーエルの隊はすぐ動かすには疲労の蓄積が厳しいだろうし、俺の傭兵団はそもそも給料以上には働かんという手合いが大半だ。まぁ、金を積まれてもすぐ動けるかどうかは、アルバーエルのところと似たり寄ったりかも知れんがな」


 で、俺の率いてきた援軍は騎兵2000。……ヴィスト軍2万を相手取るには不足も良いところだ。しかも、懸念がピタリ当たっていれば最精鋭とぶち当たるハズ。
 南ヘルミナ騒乱の時どころの騒ぎじゃない。あの時は賭けが成立しそうだったが、今回のはただの自殺だ。俺達だけで先行するなんて事は出来ない。


「しかし、クングールが陥ちるのを座視している訳にもいきますまい。ここは多少無理やりでも派兵せざるを得ないのでは」

「……セージとエステマット伯爵、マーチカ男爵の2000を基軸として、俺のところから幾分マシな隊を抽出して1万前後を捻りだそう。
 その1万でクングールに急進して、籠城しているビルド王国軍と呼応してヴィスト軍を叩く。それしかないな」

「俺はどうする?」

「ラルフウッドはビルド王国に雇われたという形になっているからな。今回はマックラーに留まっていてもらおう。
 それに、万が一カーディル王が舞い戻ってきたらお前の力は絶対に必要になる」


 クングールに可及的速やかに進出する方向で話は纏まったか。

 ……今更だけど、本当にいいのだろうか?



 俺の論の根底にあるのは、本当に信用しても良いのかどうか分からんあやふやな“知識”だ。
 論理的な理由はそれを裏付けるために積み重ねていったもので、言うなれば演繹的な推測だ。

 敵の動向の推測とは、本来帰納的に積み重ねるべきものだ。
 だからこそ敵の意図を正確に察知できる将が名将や名軍師と呼ばれるのだし、だからこそ彼らは正確な情報という物の価値が何物にも優る物だという事を理解している。
 敵の意図・行動という頂点の情報は、何段にも渡って正確に積み重ねられた情報や思考のピラミッドの上にしか載らないものなのだ。

 それを演繹的に導き出せるからこその“チート”だと言ってしまえばそれまでだが……。


「不安か、セージ」

「……今回は既に一度、外していますから」

「それはこの際どうでもよろしい。勝敗は兵家の常です。
 アガレスも俺も、リトリー公爵殿の能力は見るべきものがあると思っています。ムスト殿で見た目の判断など案外当てにならないものだとは痛感していたはずなのですが……。
 まぁ、実際にリトリー公爵殿の推論通りに事が運ばなかったとは言え、今この状況を鑑みれば全くの見当違いな事を言っていたとは思わない以上、迅速に事を進めるべきかと」

「それに、我らがこの場を離れる事で大きな不利益が発生するとも思えません。また無駄骨だったのならばそれはそれで良しとして動くべきでしょう」

「確かに、結果無駄骨だったのなら笑い話で済むだろうが、逡巡した結果間に合わなかったでは笑えない結果になるからな。俺はふたりの意見に賛成だ。
 アルバーエルはどうだ?」

「……困ったな。これでは慎重な意見を言う奴が誰もいないではないか」


 そう言って豪快に笑うアルバーエル将軍が、わしゃわしゃと俺の髪の毛をかき混ぜる。
 何とも言えないくすぐったい感情が胸の内から湧き出るのを自覚した俺は、乱暴に頭を撫でられるままに俯くしかなかった。
 何というか、耳まで赤くなっている自信がある。


「さて、そうと決まれば巧遅より拙速を貴ぶべきだろう。すぐに兵を再編して――」

「――軍議中失礼致します!」


 アルバーエル将軍の発言を遮るように、天幕に転がり込んできた兵が倒れ込むようにして片膝を突き、声を張り上げる。軍装は濃い青を基調とした装飾の少ない無骨な物――というか、兵の顔に普通に見覚えがある。
 言わずもがなだが、ウチの隊の兵だ。

 ……嫌な予感しかしない。


「何事だ?!」

「クングールが――クングールが陥落致しました!」















【あとがき的な】筆者の主張【何かっぽい】

 正月に書き進めようと思ったら天候不順で風邪を引いたでござる。



 と、いう訳で。大変お待たせしました。皆様の期待(?)を裏切っての更新でございます。
 遅筆なのは自覚していますが、絶対完結させてやるという意地だけはあります。
 ……お気楽な作品も書きたいという食い意地(?)もありますがw

 いやまぁ、遅筆な上に連載増やすとか確実にエターフラグだし止めておきましょうねー。
 今更やった恋姫が思ってたより良かったとか一部気に食わなかったとかそーいうのはうわなにをすくぁwせdrftgyふじこlp;@:


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