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No.12812の一覧
[0] 中の人などいない!!【王賊×オリ主】[ムーンウォーカー](2011/01/23 20:42)
[1] あ、ありのまま(ry なプロローグ[ムーンウォーカー](2011/01/23 20:11)
[2] 勢い任せの事後処理編[ムーンウォーカー](2011/01/23 20:18)
[3] 【人財募集中!!】エルスセーナの休日1日目【君も一国一城の主に!】[ムーンウォーカー](2011/01/23 20:23)
[4] ドキッ! 問題だらけの内政編。外交もあるよ ~Part1~[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:15)
[5] ドキッ! 問題だらけの内政編。外交もあるよ ~Part2~[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:16)
[6] 【過労死フラグも】エルスセーナの休日2日目【立っています】[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:17)
[7] ドキッ! 問題だらけの内政編。外交もあるよ ~Part3~[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:18)
[8] 【オマケ劇場】エルスセーナの休日3日目【設定厨乙】[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:19)
[9] 婚活? いいえ、(どちらかというと)謀略です。[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:20)
[10] いきなり! 侵攻伝説。[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:21)
[11] 始まりのクロニクル ~Part1~[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:22)
[12] 始まりのクロニクル ~Part2~[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:23)
[13] 始まりのクロニクル ~Part3~[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:24)
[14] 始まりのクロニクル ~Part4~[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:25)
[15] 始まりのクロニクル ~Part5~[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:26)
[16] 始まりのクロニクル ~Part6~[ムーンウォーカー](2010/08/15 13:22)
[17] 始まりのクロニクル ~Part7~[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:29)
[18] 始まりのクロニクル ~Part8~[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:39)
[19] 始まりのクロニクル ~Last Part~[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:40)
[20] それは(ある意味)とても平和な日々 ~Part1~[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:44)
[21] それは(ある意味)とても平和な日々 ~Part2~[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:44)
[22] 【休日なんて】エルスセーナの休日4日目【都市伝説です】[ムーンウォーカー](2010/06/27 18:15)
[23] 動乱前夜 ~Part1~[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:46)
[24] 動乱前夜 ~Part2~[ムーンウォーカー](2010/05/23 12:27)
[25] 動乱前夜 ~Part3~[ムーンウォーカー](2010/06/07 00:10)
[26] 【公爵家の人々】エルスセーナの休日5日目【悲喜交々】[ムーンウォーカー](2010/06/13 13:19)
[27] 【誰が何と言おうと】エルスセーナの休日6日目【この人達はモブな人】[ムーンウォーカー](2010/07/18 20:18)
[28] 【意外と】エルスセーナの休日7日目【仲の良い人達】[ムーンウォーカー](2010/07/18 20:17)
[29] 面従腹考[ムーンウォーカー](2010/12/12 10:00)
[30] 合従連衡[ムーンウォーカー](2010/08/15 13:35)
[31] 伏竜鳳雛 ~part1~[ムーンウォーカー](2010/08/29 12:19)
[32] 伏竜鳳雛 ~part2~[ムーンウォーカー](2010/12/12 10:43)
[33] 伏竜鳳雛 ~part3~[ムーンウォーカー](2010/12/12 10:43)
[34] 伏竜鳳雛 ~part4~[ムーンウォーカー](2011/01/23 20:33)
[35] 伏竜鳳雛 ~part5~[ムーンウォーカー](2011/01/23 20:01)
[36] 登場済みキャラクターのまとめ その1(始まりのクロニクルLastPart終了時点)[ムーンウォーカー](2010/05/23 12:49)
[37] 【あとがき的な】各話後書きまとめスレ【何かっぽい】[ムーンウォーカー](2011/01/23 20:02)
[38] 生存報告[ムーンウォーカー](2011/03/14 20:34)
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[12812] 始まりのクロニクル ~Last Part~
Name: ムーンウォーカー◆26b9cd8a ID:0c92d080 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/05/16 17:40




■ ――10th Day


 結論から言うと、何とか俺達は生き残った。



 ただし、戦闘の内容も結果も激戦と言うのも生易しいほどの死闘となったが。
 2000近かった兵のうち、死亡・行方不明または重傷者の数が半数を軽く超えるという状況だ。俺をはじめとする指揮官クラスが全員生き残ったのなんて奇跡に近い。

 それだけの犠牲を払ったおかげでと言うべきか、何とか戦略的な目標は達成出来たが……。それすらヴィストと痛み分けに近い。
 戦術的な面で言えば、緒戦こそ小細工で対等に近い状態で渡り合っていたが最後の最後に綱渡りの綱から転げ落ちかけて小指が残った、という感じか。
 被害状況を考えれば事実上の敗北だわな。

 ヴィスト軍もかなりの被害を出したはずだが、向こうはまだ整然と退却する余地を残していた。
 いや、あの時点での損害の程度で言えば大差は無かったから、あれだけ整然と退却出来たのは事前に準備が出来ていたという事だろう。あとは指揮官の力量だな。



 とりあえず敵を退けたと言ってもいい状況ではあるが……、その代償は高くついた。

 まず、敵のダヴー将軍とガチバトルを繰り広げたノア将軍の騎兵は損害が半数を超え、既に組織としての機能を果たしていなかった。
 今はノア将軍が無傷の連中をまとめて斥候だけは出しているが、戦闘状態に入るなど期待すべくも無い。

 ウチの連中も酷い有り様で、態度こそアレだが腕だけは良い奴を集めていた第1小隊は欠員4名というありえない戦績を叩き出していたが、他の小隊は軒並み半数以上、酷い隊では40名近い人数が小隊員名簿から永久に失われている。
 負傷者の手当てと並行して生き残った小隊長の下に再編をする作業はしてはいるが、しばらくはこっちも使い物にならないな。
 弓兵小隊は無傷だが、戦闘開始前に既に退却させてあるので被害が無いのは当たり前と言う他ない。虎の子の弓兵が損耗しなかった事は不幸中の幸いと言うべきか。

 最後に、獣人族だが……。最終局面で敵の前進を何とか圧し止めた事と引き換えに、殆どが冥府の門を潜った。
 400名を超えていた人数が、動ける者が一個小隊いるかどうかという数まで討ち減らされている。残存率1割未満とか、冗談のような数字だ。無傷の奴なんて片手の指で数えるほどしかいない。
 当然、全滅判定だな。
 まぁ、それを言ったら騎兵も槍兵も全滅判定食らってるんだけど。

 ビリーのおっさんが最後まで生き残ったのは、周囲の獣人達のカバーに依るところと……、あとは俺が釘をさしておいたからだろう。とはいえ、右足をやられて瀕死の重傷を負っていたが。
 戦闘の終結がもう少し遅ければ、あるいは手当てがあと一歩で間に合わなければ、彼も多くの獣人族の戦士達の後を追っていただろう。



 そう……。獣人族の連中は俺の盾になって散っていったようなものだ。
 そりゃあ確かに、後方の女子供と獣人族の戦士が引き換えになるかもとは言ってたけどさ……。

 はぁ……。



 敵が引いたのも敵を食い止めたのも、結局は獣人族の力が大きかった。特に、命令違反してでも引き返してきたクライドは決め手になった。あれが間接的におっさんの命を救ったと思うと、命令違反を咎める気にならないというのが心情だ。

 まぁ、そもそも正式には獣人族の戦力は全部ビリー殿の指揮下にあるという形式を取っているから、命令じゃなくて要請という事になっているし、反故にされても抗議ぐらいしか出来ないんだけどな。
 もちろん、罰則を適用しなくて済んで良かったという側面の方が大きいが。


「本当は怒らなきゃいけないんだろうけど……、正直に言って助かったよ」

「お前に死なれるとディランに申し訳が立たなかったんだがなぁ」

「伯父貴を死なせたとなると親父に怒られちまいますから。まぁ、髪一重とは言え間に合ってよかったです」

「それに関しては感謝している。ただし、ロイア殿やカーロン殿も一言あるだろうが、命令無視に関しては後で説教だから覚悟しておけ」

「うげ……」

「と、言いたいところだが……。それで助かったのも事実だ。結果的にはリトリー殿の命運を繋いだ事にもなるし、今回だけは許そう。……もっとも、次は無いからな」

「は、はいっ!」


 右足を膝下から失っているにも関わらず、ビリーのおっさんの声は全く平素と変わらない。松葉杖片手にクライドにプレッシャーかける姿なんぞ、全くの無傷で生還したのかと錯覚すらするくらいだ。
 ……まぁ、明らかに顔色悪いし、すぐ後に従卒をつけてるけどな。それすら必要無いとか言われた時はカーロンと2人がかりで説得したり。

 カーロンもノア将軍もかすり傷程度で済んだ、その幸運のしわ寄せを食らわせたみたいで、こう、何とも言えない気持ちになったんだよな。
 こんな事言ったら侮辱になるから絶対言わないけど。



 ところで、戦闘の幕引きがどんなものだったかと言うと。

 軽症程度のメンバーまで含めて引き返して来た獣人族義勇兵241名が村の南に潜んでいた敵伏兵と接触、交戦。これを完膚無きまでに叩きのめしている間に、敵本隊が決死隊の伝令によってこの増援を察知したらしい。
 村正面の敵がまず撤退。遅れてノア将軍と交戦中だった部隊も隙1つ無い見事な退きっぷりで撤退。
 ノア将軍曰く、供回りだけで追撃かけてやろうかとか思ったらしいんだが、その隙すらなかったらしい。まぁ、そもそも騎兵もボロボロで追撃戦どころの騒ぎじゃなかったっぽいが。

 あと1時間も遅れていれば俺以下全員玉砕だったはずなんだが、敵さんは未練の1つも無いみたいにさっさと退却していったからなぁ。
 恐らく、クライドの増援をビルド軍の露払いと勘違いしたのだろう。もしくは、そうでない可能性を考えながらもリスクを回避して退却したか。
 まぁ、後者だろうが。

 あの時点では日没までにカーロン隊を抜く事は不可能だったから、翌日に今度こそビルド軍が戦場に現れる事を考えれば退くのは不思議な事じゃない。
 と言うよりも、本来ならこっちが村に篭った時点で退くのだろうが……。ここで将来の禍根を断つ、とか判断されちまったのだろうか?

 ……目の敵フラグ立ちましたか? これで2度目? 勘弁してくれよ……。



 とりあえず、敵さんの考えに関しては考えないでおこう、精神衛生的に考えて。
 味方の現状を把握しておこう。

「それで、一緒に後退したネイはどうしているんだ?」

「流石に置いてきましたよ。最低限の守りの兵も居ますし、今頃はビルド王国の援軍と合流してるんじゃないですかね?」

「不満そうだな」

「……血を流したのは俺達とセージ様達エルト王国の援軍だけです。あいつらは何もしてないじゃないですか……!」

「何もしてない、というのとは少し違うな。彼らの3000という兵力の圧力が最終的に敵を撤退させたとも言えるからなぁ。
 正直に言って、最初からエルト王国の兵だけで動くとしていたらネイ達どころかビリー殿達も見捨てていた可能性もあるし」

「本当に、正直ですなぁ」

「勝算の無い戦いで流せる部下の血なんて一滴もありませんから」


 生意気なガキだとか、貴族の誇りを他国に切り売りしているだとか、そういう陰口は軽く無視できるんだけどな。
 部下を無駄死にさせた、なんて言われるのだけは我慢できない。というか、もしそんな事になったら俺自身が耐えれそうに無い。

 今回の戦いだって、どうにかすればもう少し損害を抑えられたんじゃないかとか、後悔の種は尽きないってのにさ。


「しかし、オオガー族もウルガー族も今回の戦いで働き手の成年男子がかなりの数戦死してしまったのではないですか?
 その一因になった俺が言うのもなんですが、これからどうするおつもりで?」

「しばらくは、生き残った者と女子供で何とかするしかありませんな。……本来なら皆殺しの憂き目に遭っていたのですから、まずは生き残れた事を喜ぶべきだと思っておりますから」

「土地とある程度の支援くらいはウチで用意しますけど、それで何とかなりますかね」

「十分過ぎるほどです。リトリー殿の御厚意に改めて感謝致します」

「その代わりといってはなんですが、ウチの領内に居を構える限りは領内の他の村落や街と同じように扱わざるを得ませんが、よろしいですね?」

「了解しております。もとよりそのつもりでおりましたから。我ら獣人族一同、セージ様に忠誠を誓う所存にございます」


 俺の言葉は、獣人族の特権的な自治権は認めないぞ、と言ったようなもんなんだけど……。
 割とあっさり受け入れたな。いいのかそれで?

 と、そう思ったのが顔に出てたらしい。
 ビリーのおっさんは息子でも見るかのような顔で俺の疑問に答えを返してきた。


「我らはセージ様に救われた恩義がございますし、そうでもないと他の住民が黙っておりますまい。それに……」

「それに?」

「セージ様ならば信用できると思いましたからな。無論、セージ様の後継が暗愚だと感じた際には一族揃って逃散するかもしれませんが」

「なるほど。まぁ、それならそれでいいです。ぶっちゃけた話、俺が死んだ後の事まで面倒見きれませんから。俺の息子だか娘だかがアホボンだったら容赦無く逃散していただいて構いません」

「即答ですか……。しかし本当によろしいのですか? 一度領内に住みついたものの逃散を許可するなど前代未聞ですが」

「さっき言った通り、俺が死んだ後の事まで面倒見切れません。つーか、正直に言って領内に住んでる人間に見限られるような君主なんぞ飾り以下の存在ですよ。逃げられるくらいなら御の字で、一揆起こされてぶっ殺されても文句は言えないと思ってますから」

「それはまた……、過激ですな。とても貴族の方の発言とは思えませんが」

「まぁ、俺が変わり者なだけですよ」


 っつーか、俺の前世(?)は一般ぴーぽーだっつーの。貴族にとっちゃ人民は虫ケラ同然なんて価値観馴染むわけねーだろ、と。
 そーいう価値観なんで今更言われてもなぁ、なんだよな。別に他のお貴族様にこの考え方を押しつけるなんてしねーけどさ。


「それと、これより我らはセージ様の配下として働きます故に他の配下の方と同列に扱って下さりますようお願いします」

「……分かった。容赦無く扱き使うから覚悟しておけよ」

「私自身は隠居するつもりですからな、その辺はクライドやネイに任せますよ」

「って、俺ですか?!」

「セージ様はお若いからな、お前達のような若者こそが支えるべきだろう。それに、この足では戦働きはもう無理だ。
 まぁ、集落のとりまとめくらいはするが、直接セージ様の力となるのはお前達に任せる」

「いや、でも、俺なんかじゃまだまだ……」

「まぁ、その辺りはカーロン達に扱いてもらえばいいさ。というか、ビリーにも最低限軍の幹部を養成する機関で働くくらいはしてもらう予定だし、楽はさせないからな」

「私でよろしいのですか?」

「一応、救ける相手の素性くらいはそれなりに調べている。ヘルミナ軍でもかつては一目置かれていたと聞いているし、実際の指揮もカーロンは絶賛していたんだぞ。
 それに、将の教育を任せられるような人物なんてそうそう転がってないからな……。このまま隠居するとか許可できないんだよ」

「ですが、私は獣人ですぞ」

「その程度の事で教えを拒むような奴なんぞ重用するつもりは無い。だから、安心して容赦無く教育してやって欲しい。なにせ、兵を育てるのは何とかなりそうなんだが、それを指揮する人間が不足しかねない状況なのでな」


 ビリー率いる獣人部隊は、ヘルミナ軍でも最精鋭の一角だったとか。
 機動力こそ騎馬に劣るが、夜襲奇襲速攻強襲なんでもござれの攻性部隊としての使い勝手は騎馬隊に勝るとも劣らない。ヘルミナの宿将メレフ将軍もそういった獣人族の強さを重宝していたという話らしいが……。

 何をトチ狂ったか、一部の貴族連中が獣人のような下賎な連中が国軍に属しているのはどうたらこうたらとイチャモンをつけたらしい。今にして思えば、それもヴィストの謀略だったんだろうな。
 結果として一部を除いた獣人族は軍を退役してそれぞれの故郷に帰る事となり、残った獣人族はラルンを巡る攻防でメレフ将軍と運命を共にした、と。

 そのメレフ将軍と運命を共にしたのがディラン――つまりビリーの弟だった。
 ある程度の自治権を欲している獣人達にとってヴィスト王国が徹底的な中央集権体制を固めているというのも大きいだろうが、ビリー達を突き動かした大きな原因は、そういう事だったんだろう。



 本当のところなんて聞く気も無いし、たぶんビリーも墓まで持っていくだろうが。



 ……それにしても、援軍はまだかよ?
 士気の都合上口に出して愚痴る訳にはいかないが、クライドが命令無視で引き返して来ていなきゃとっくの昔に玉砕してるぞ。
 アルバーエル将軍の子飼いの連中の奮闘は鬼気迫る物があったし、こちらから文句を言うわけにもいかないだろうけど……。

 何にせよ、今回の戦いは運任せすぎだ。一生分の運を使い果たした気がするな。





















 結局、ビルド近衛兵団を率いるアルバーエル将軍は戦闘終結の翌日に俺達と合流した。

 まず最初に入れた報告が、俺が率いていた先遣隊の事実上の壊滅という報告。
 さらにヴィスト軍の指揮官としてミリア=ダヴーが最終的に出てきた事や、推測される敵兵力とこちらが敵部隊に与えたであろう損害の報告。
 戦死者の埋葬がほぼ完了した事や、傷病者の手当てが一段落している事。

 さっさと自分の天幕に引っ込んだルーティンのおっさんはどうだか知らないが、アルバーエル将軍の表情は終始険しかった。


「正直に言って、こちらの将に死者が出なかった事と獣人族の避難が完璧に遂行された事以外は頭が痛い内容だな……」

「申し訳ありません。俺の判断ミスでアルバーエル将軍から預かった兵を半数以上失ってしまいました」

「謝る必要は無い。俺が指揮をとってもお前以上に上手く事を運べた気はしないからな。……むしろ、それだけの戦力でよくぞここまで敵を痛めつけたものだと思う。
 ノアも言っていたが、案外俺達がお前の指揮に従って戦う日も近いのではないかな」

「ご冗談を。俺がアルバーエル将軍を指揮下におくなんて想像も出来ませんよ。それに、今回の戦いは運やマグレの要素が大きすぎます。同じ事をもう一度やれと言われても絶対に無理ですね」


 次やれって言われたら少なくとも3倍くらい矢は持っていくな。あと、限界ギリギリまで動員も掛ける。

 逆に言えば、今回の動員は失敗だったという事だ。特に、矢の消費量を大きく読み間違えたのは痛い。
 兵員の動員は無理をしない程度に出せる限界の量を連れて来たが、1会戦であんなに大量の矢を消費するとは思わなかった。

 今回はたまたま助かったが、1歩間違えば明確な敗因になっていただろう。


「……表立っては言えないが、援軍が遅れたのはルーティン卿の介入もあってな」

「…………」


 昨日1日考えてはいたけど、やはり、か……。



 比較的早い段階で避難民の受け入れが出来ていたのであれば、近衛兵団を預かってきた彼からしてみれば近衛兵団が傷付く状況にはしたくはないだろう。
 戦闘状態に入る事を渋る可能性はあるかもしれないとは思っていたが……。

 しかし、後の事を考えたら普通はそうはしないと考えたんだけどなぁ。
 先遣隊のエルト勢を見殺しにしたとなれば、今後のエルト王国との関係に重大な影響が出る事は避けられないだろう。っつーか、下手をすれば国際紛争だ。
 そうでなくとも、次から援軍に応じてくれる相手がいなくなる可能性も十分考えられる。

 ヘルミナ王国が失陥して仮想敵国と隣接する状況となった今、そういうリスクはとらないだろうjk
 いやほんと、常識的に考えてさぁ……。


「ビルド王国に人なし、ですか」

「セージは知らないかもしれないが……、先代のビルド王は少しばかり強引な手法で王権の強化に努めようとした事があってな。一部の有力貴族に反乱を起こされた事すらあるんだ。
 ヘルミナ王国の暗然たる支援付きでな」

「げ……、ヴィスト王国とヘルミナ王国の決戦にビルドが我関せずを貫いたのにはそういう経緯が合ったんですか」

「まぁ、ヘルミナ王国は公式には否定したが、な……。
 その反乱である程度才覚のあった連中が消え、今のビルド王国は目に見えない国力が大幅に低下しているという状況にあるんだ」

「反乱軍をまがりなりにも打ち破ったんでしょう? その時の将はどうしたんですか」

「当時御歳70歳のご老体が総指揮官だったんだぞ。とうの昔に天に召されている」

「……他の有力な指揮官は?」

「先代のビルド王に粛清されたり、それを見て国から逃亡したり、だな」


 ……マジで最悪だな。
 神楽家領国でもお家騒動がありーの、ビルド王国がこの状況で、奈宮皇国も安泰とは言えず……。
 そりゃあ、ヴィスト王国が好き放題できるってもんだな。

 そんな中でヴィスト王国に対して戦意を持つ存在を救援できたのは好運だったのかもな。
 ただ、“突撃軍団長ネイ”のフラグを結果的に叩き折ったのは良かったのか悪かったのか……。
 見捨てるに見捨てられなかったし後悔はしていないんだが、後々どういう影響が出てくるか分かったものじゃないからなぁ。

 ま、“俺”がいる時点でどういう影響が出るか把握しきれない部分もあるし、そもそも原作での情報が少なすぎるってのもあるし。あんまりそういう事で悩むのは無意味か。
 原作知識っつートリッパーならではの強みを活かしきれない事に関しては……、仕方ないな。



 まぁ、今のビルド王国の現状に関してすら全く情報が無かった原作知識(笑)なんて人材関係以外じゃアテに出来ないんだけどな!


「今のビルド王は良くやっていると思うのだがな……。ヴィスト王国の急拡大に対して国内の立て直しが間に合っているとも思えん」

「なるほど……。それで俺に対して便宜を図ってくれたんですかね」

「セージは恩を売っておく相手としては悪くないからな。もっとも、今回の件で貸し借りの関係は微妙なものになるかもしれんが」

「1回死に掛けたくらいじゃ返済しきれているとも思えないんですよね……」


 警察隊設立の時に動いた金はかなりの額になる。
 もちろんそれに見あった成果は出しているし、ビルド王国南部まで含めたリトリー領近辺の治安は劇的に改善している。
 どのくらい改善してるかというと、開発途上国のスラム街レベルからニッポンの地方都市レベルまで改善済み。

 改善なんてレベルじゃねーぞってな具合なんだが、まぁ、金も投じたし馬車馬の如く働いたし。警察隊の責任者にした奴なんてこの1年で体重が軽く10キロは落ちたとか言ってたくらい。
 実働部隊の連中も訓練しながら実戦投入というまさに泥縄一歩手前、阿鼻叫喚の過労スパイラルを抜けてきたしなぁ。
 ここんとこ落ち着いてきたけど、一時期のヤバい時は皆「発案者氏ね」と「悪人に人権はない」を合言葉にふんばって来たとか。

 ……正直スマン。



 まぁそんな訳で、この件では非公式ながら感謝状を受け取ったりもしたけど。
 こちらもお金を投資してもらったという借りがあるわけで……。


「とにかく、事は全部終わったので敵の襲撃を警戒しつつ撤退、という事でいいんじゃないですか。獣人族の救援という目標は達成したわけですし、国境地帯に長居する理由はありません。
 ヴィスト軍も、ヘルミナ王国領の平定という戦略目標は達成しているのですから、おそらくこれ以上の戦闘は望まないでしょう」

「そう考える我々の意表を突いて来るという可能性は無いか?」

「5000もの兵力を動員した結果がこれですよ。すぐにもう一度大規模な動員を行う余力は無いはずです。
 仮にあったとしても、他の方面への備えを考えると大規模な攻勢に出るのは難しいでしょう。ビルド王国軍は無傷なわけですしね。
 暫くは国境付近で警備の巡回部隊が小競り合いを行うくらいだと考えているんですが……」

「暫く――という事は期間を置けばまた再度侵攻が再開されると考えているのか」

「そう思って備えておいた方が無難でしょうね」


 今のヴィスト王国は膨張戦略によって国が成り立っているんじゃないかと、そう思う時もある。
 自分で常備軍を編成しようと悪戦苦闘して分かったが、軍備というのは恐ろしいほど金がかかるものなのだ。ましてや戦争をするとなると、さらに負担は増える。

 占領地からの過度の搾取は行っていないようだが、ヘルミナ貴族はその殆どが没落したらしい。事実上消滅した王家も含めると、没収された資産はどれほどの額になるか……。
 その資産のかなりの部分が軍費に流入するであろう事は想像に難くない。なにせ、今やヴィスト王国は四方に敵を抱える状況となっているわけだからな。

 軍事強化→侵攻→資産獲得→軍事強化……、の繰り返しか。ヴィスト国内に金は落ちる事になるから、景気は悪くは無いだろうが……。
 国民は果たして付いて来れるのだろうか?

 まぁ、付いて来れようと来れまいと、カーディル王は止まるわけにはいかなくなるだろうが。サイクルを止めれば破産しかねないだろうしな。
 だって、今のヴィスト王国の国力を明らかに超えるレベルの軍事力が無いとヴィスト包囲網に対抗できないし。



 問題は、カーディル王の個人的武勇を含めてヴィスト軍が強すぎるって事だな。
 ちゃんと包囲網が機能すれば少なくとも互角くらいにはならなきゃおかしいはずなんだけど……。


「そうだな……。我が国としても備えておくべきか。帰国次第、宰相殿や陛下には俺から進言しておこう」

「当面はヴィスト王国と直接対峙している国への援軍が主体となるでしょうが、我が国への直接侵攻は避けたいですからね……」

「まぁ、セージの領地は北部方面の玄関口だからな」

「ハイマイル峠を抑えれば何とかなるとは思いますが、ホント他人事じゃないんですよ……。アルバーエル将軍も、万が一ノイル王国が失陥するようなことがあれば領地が最前線に早変わりですよ」

「そうなる前に財政が破綻して降伏してるさ」

「それはそれで妙にリアルなんで勘弁して下さい……」


 本当に、何で俺こんな事してるんだろうなぁ。
 破産とかマジ勘弁だし、死ぬとか怪我するとかも勘弁して欲しい。危険な目に遭うのも極力避けたい。そんな小市民だったはずなんだけど……。



 気が付いたらご覧の有り様だよ!



 今更愚痴っても仕方ないんだけどさ。
 せめて美人で気立ての良い政治的地雷じゃない嫁さん貰わないとわりに合わないってコレ。もう、時既にお寿司だけどさ。


「なにはともあれ、ここまでご苦労だった。ここからは俺が全軍の指揮を取る。殿はビルド勢に出てもらう予定だから、お前達はゆっくり休んでくれ」

「了解です」


 とにもかくにもこれで任務完了だ。領地へ帰れれば、束の間の平和を享受できるな。

 ……まぁ、自分で束の間とか認識しちゃう辺りが今のカーディルクオリティなわけだけど。






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