目が覚めるとそこはいつものベッドの上
「なんだ。夢か。
そうだよな、やっぱ普通、猫が喋ったり、人に変身したりなんてありえないよな。」
そう自分に言い聞かすように呟くイザベラの耳に夢の声が囁く。
―――「確かにないですね。」―――
「ん?」
自分しか居ない筈なのに声が返ってくる。
「おはよう御座いますイザベラ。早くしないとご飯が冷めてしまいますよ。」
「きゃぁああああああああ~~~~~~~!!」
「だから大きな声を出さないでください。朝と同じじゃないですか!」
「っひ!」
朝!?同じそう言われ恐怖がフラッシュバックしてイザベラは怯えて声を出すのをやめる。
「そんな怯えないでください。」
そうは言ってもイザベラにとっては自分を攻撃するかも知れない自分の使い魔が怖くて仕方がないのであるがしかし、強気に行くのがイザベラである。
「黙れ! この、化け猫が!!」
「ば、化け猫? 私が化け猫だと仰るんですか?」
「そうだ、流暢に喋るは、人に変身するはでそんな猫今まで聞いたことがない。しかも良く解らん力も持っている正に化け猫じゃないか!」
「酷いですよ!」
「いいや、絶っ対に酷くない!!」
「そんな。」
ショックを受けているリニスに向かってさらに文句を言う。
「何が”そんな~”だ!ふざけるな、このバカ!」
「……朝のこと怒ってます?」
「当たり前だ!自分が何したと思ってるんだ?」
第一印象は最悪のようだ。
流石にいきなりあれ(サンダーアーム)はやり過ぎたか、そう反省するリニス。
「あの時はついやり過ぎてしまって、さすがにやり過ぎたと思っています。本当に反省します。」
「本当だろうな?」
「本当です。主人である貴女に誓って。」
「本当に私の使い魔だな?」
そこから疑いたくなるイザベラに
「もちろんです。」
そう言ってルーンを見せるよう胸に手を当てるリニス。
「はぁ~~~~もういい、じゃあ朝私に何をしてどうやって気絶させた?」
「ええっと、あの時やったのは《サンダーアーム》と言って魔力から変換した電撃を体の一部つまりあの時は手に集中発生させ、その手に触れた存在に電撃を流し込む魔力付与の防御魔法を使いました。こうやって。」
そうするとリニスは右腕を掲げるとその手からバチバチと電気が出ているのが見て取れた。
「っう。」
それを見たイザベラは、顔を引きつらせて1歩、2歩と下がる。
「魔法だと?お前は、メイ・・・違った。こいつは猫だよな、じゃあつまりお前は何か、先住魔法が使えるのか?」
メイジとは魔法を使う人を指す今は人型だがこいつは猫だ。そう考え指摘するが
「いいえ。私が使うのは先住魔法というものではありません。」
リニスはそれを否定する。
「だけど魔法を使うんだろ?他に何がある?」
「私が使う魔法とはミッドチルダ式という魔力を運用する技術の事を指します。
深く言えば、自然摂理や物理作用をプログラム化し、それを任意に書き換え、書き加えたり消去したりすることで、作用に変える技法を私たちは魔法と呼びます。」
「?・・?・・・ミッドチルダ?何だ、それ聞いたことがない?」
「魔力の運用方法の名称です。正確にいえば発祥の地がミッドチルダですのでそこから来た名称でもあります。」
「発祥の地?そこは何処なんだ?」
リニスの話すことすべてに質問していくイザベラにリニスは、応えていく。
「順に話します。まず、私が何者なのかについてですが。」
そう言ってイザベラに近寄ろうとしたが
「まて!それ以上こっちに来るな。」
「な、何で、ですか?!」
「何でだと? また朝みたいになったら堪ったもんじゃない。」
「それは貴女が・・・・・はぁ、解りました。では、説明しますね。」
「まず私は、居たところはこの世界ではありません。別の世界から来ました。」
「別の世界?ここ以外にどっかに世界が在るってのかい? 信じられないね。」
「これは事実です世界はここ以外にも幾つも存在します。私の居た世界の名前はミッドチルダと言います。そこはミッドチルダ式略してミッド式の発祥の地でもあります。」
「そんな場所が有るなんて証拠なんて無い。実はお前の妄想で東の砂漠の向こうとかじゃないのか?」
「そんな場所ではなく、"そんな世界が"が正しい表現ですね。あと証拠についてですが、あとで色々とお見せしますので今は話を聞いてください。」
「……分かった。」
追求したい気持ちはあるが今は一応全部聞いてやろうと納得するイザベラ。
「では、続けます。先に言ったように私はミッドチルダという世界に住んでました。そしてそこの時の庭園と呼ばれるところで私は庭園の主人であるプレシア・テスタロッサの使い魔をしておりました。」
「使い魔?」
「はい、私は貴女に召喚される直前までプレシアの使い魔でした。」
「じゃあ何か私はプレシアっていう奴のおh『ッバチ』――っヒ――――――!」
そう言い切る前にリニスの手が光ったような気がしたので慌てて質問を変えるイザベラ。
「ちょ、直前ってことはそのプレシアって奴は、死んだのか?」
ちょっと聞く質問が悪い様な気もするがリニスはすこし悲しそうな顔をして否定するのだった。
「いいえ、この世界のあなた達メイジと使い魔は一生の主従の関係に在りますが私の居たところでは魔導師と使い魔の関係というのは此処とはだいぶ違いがあります。」
「どう違いがあるんだ?それと魔導師ってなんだ?」
「魔導師については先に説明したミッドチルダ式の魔法を使う人の事を基本指します。
分かりにくいようでしたら今はメイジの様なものと考えてもらって結構です。
では、魔導師と使い魔の関係ですが、まずメイジは使い魔を召還して現れた動物などと契約し使い魔にしますが魔導師は使い魔を何かしらの目的完遂のために使い魔を“作る”のです。」
「作る?どうやって?」
「まず、動物が死亡する直前もしくは直後に、人工の魂魄つまり魔力で出来た仮想生命を作り出しそれを憑依させる事で造ります。故に私のこの体は山猫が素体ですがプレシアの作った人工魂魄によって出来ているので完全な山猫とは呼べないかもしれません。
それでも私は猫だと自分を言い切りますが。」
「次に契約ですが、目的の達成まで契約をして使い魔に魔力を与え目的が達せられた後に契約を解除するのが一般的な使い魔です。そして、契約を解除された使い魔は主からの魔力供給を断たれ消滅します。それが私がいた世界の使い魔と魔導師の関係です。
また契約の形によっては私の様な意思を持たず、ただの人形のようにしか振舞えないものもあります。」
「お前も契約が完了したから直前って事なのか?」
「ええそうです。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・じゃあお前のその……契約って何だったんだ?」
「私の契約は主人であったプレシアの娘であるフェイトという子を一人前の魔導師にすることでした。」
「そのフェイトって子はプレシアって奴が望む様な魔導師に成ったってことか?」
聞かれたリニスの顔はよくぞ聞いてくれたそんな顔をしていた。
「ええ、それはもう。もともと才能のある子でしたが、努力を怠らず私の教えることを完璧に学んでいきました。
また、母であるプレシアに似て高い魔力と電気の魔力変換資質を持ち、それはもう何処に出しても恥ずかしくない立派な魔導師に成りました。」
そう言うリニスは正に親が自分の子供を自慢するそれであった。
………天才か
「………それで、それで、お前は良いのか?」
「何がですか?」
「だってそうだろう。用がすんだらポイなんてあんまりだ。」
この世界の使い魔との関係と照らすとあまりにも違うことに戸惑うイザベラ
「………たしかにそうかもしれません。ですが使い魔と魔導師にも絆はあります。
フェイトも使い魔を持っていますがあの子は、使い魔との契約を《ずっとそばにいること》そう契約したんですよ。
それに、いつも一緒にいてまるで仲のいい本当の姉妹のようでした。そう、本法に…………あの子は本当にやさしい子でしたから。」
「……だけどそれは、フェイトって子とその使い魔の話だろお前には、あったのか?」
「私はいいんです。私はあの子を、………フェイトをプレシアに任されそして育てることが出来てとても満足でした。」
……………………………………………………不思議とこいつの言っていることは嘘とは思わない。
魔力がどうとか何てよく解らないが何となくだがこいつの話はホントだと思う。
主人と使い魔は何処かで繋がっているそう言われるくらいだ。
その繋がりから来る感なのかもしれない。
そう思うと悪くは無い気分だ。
肉親であるはずの父ですら何を考えているのか解らなかった自分が初めて本当に相手の事を解ることが出来たことはいい気分だ。
それに向こうも私の味方でいようとしてくれるのだ。
気分が悪い訳が無い。ただ少し怖いが。
だが、そんな味方であるリニスが使い捨てにされ消える直前だったと考えるといい気分ではない。
もし私が魔導師の使い魔なら消される前に何かしてやりたいね絶対に。
だというのにこいつは使い捨てにされたのに自分は満足だなんて言いやがっておかしいだろ普通。
リニスのいた世界の魔導師って奴らはどうかしてる。
あんまりじゃないか。
「…………………。」
いろいろと考えて黙っていると
「イザベラ?」
「ん?」
「少し冷めて仕舞いましたが話の続きは食事の後にしましょう。」
「……ああ、そうだな。」
そういえばまだ食べて無かったっけ。
こいつの話に夢中になりすぎて忘れてた。
そう言って食事の置いてあるテーブルに向い椅子に腰かけて待っているがリニスは来ないので見てみるとリニスは困ったような顔をしてさっきの所を動かないので如何したのか聞いてみる。
「如何したんだ?」
「近づくなって言いましたし。」
イザベラはそう言われて可笑しくなり少し笑う。
「もういいさ。こっちに来て一緒に食べよう。」
「はい!」
そういって2人は席に着き少し遅くなった食事を始めるので有った。
「お前の話だが、……一応は信じてやるよ。」
「如何して信じてくれるんですか?」
「何となくだ。それに半分まだ程度しか信じちゃいない。」
そう尋ねられたイザベラは素っ気なく答えたがリニスは嬉しそうだった。
「リニス。」
一応は言っとこうと思い手を止めて真顔でリニスを見るイザベラ。
「何でしょう?」
向こうも此方を見つめる。
「私は魔導師じゃなくメイジだ。メイジは使い魔を途中で捨てたりはしない。だから私が死ぬまで私はお前を散々扱使ってやるよ。」
「ええ、心得ておりますイザベラ。でも私は貴女を一人の魔導師として貴女と契約してるんですよ?」
「は?」
折角かっこつけて決めてみたのに再びよく解らないことを言われ顔を歪める。
「何を言ってる、私はメイジだ。お前とはメイジとしてリニス、お前と契約したんだぞ?
絶対に私は魔導師とか言う輩じゃない。」
「何言ってるんですか?あの時私に言ったじゃないですか『お前だけは私の味方でいてくれ』って。私はその契約を果たすまでは貴女の味方です。」
『それと貴女を一人前の魔導師にしたい』って言いたいのですが何だか変な誤解をしてる様ですから今は黙っときましょう。
「え?」
……じゃあ何か、こいつはその契約が有るから味方なだけで、本当は私の事はどうでもいいんじゃないのか?むしろ嫌じゃないだろうか?
「じゃあ契約が完了したらお前は今度こそ消えるのか?」
恐る恐る尋ねてみる。
「さぁ~、どうでしょうか?」
「分からないのか?」
「この契約内容を完了とするには主人である貴女と私の双方が完了したと思ったら完了なんです。あとこの契約どうやったら完了なのかよく解かりませんし、それに貴女を一人にするのは心配ですしね。」
「ふん、余計なことだ。せいぜい扱使ってやるさ。」
そう言って食事を再開するイザベラに
「ええ、契約が果たされるその日まで私は貴女の使い魔ですから。」
そう言いながらイザベラを見て小さく笑うのであった。
食事中にイザベラは思い出したようにリニスにあることを聞く。
「ああそうだ、そうだ、あとでお前の使う魔法を見せてくれよ。人に教えるくらいだ。
色々できるだろ?」
「ええ、元よりそのつもりでしたし、ここは少々手狭ですので後で外に行きましょう。」
「ここが狭い?」
何をする気だ?
冗談で言っているのかと思えたが、こいつの使う魔法がどんな物か分からない以上はもしかしたら本当に狭いのかもしれないそう考え冷や汗が出てきた。
「狭いですね。下手に撃つと此処が粉々になって仕舞うかもしれませんので。」
撃つ?何をする気だ?何を?
「……分かった。じゃあさっさと食べて外にいこう。」
「ええ。」
そう言って二人して食事をすませるのであった。