「そろそろ閉館です。本の返却をお願いします!」
受付からかなりの大声が聞こえた。
…もうそんなにたったのか。
この街に来てから最も有意義な時間だっただろう。
相当数のスキルを覚えられた。
ほぼ知識系統だったが、それぞれ、
『鉱石一覧』から鉱物知識
『魔力の溜まる自然物』から魔法素材知識
『危険指定生物達とその特徴』から魔物知識
『世界の有名魔法具一覧』から一般魔法具知識
魔物知識は魔物素材採取の前提だった。
魔物素材の本は見付からなかったが。
森で襲ってきた狼は『フォレストウルフ』という魔物だった。
危険度レベルE
野生の狼より大きいだけ。特徴は獣と同じ。
最低ランクはFだからあいつは下から2番目ってことか。
…あの~、やられかけたんですけど。
戦闘で使えそうな技能としては
魔法学校の初等教本である『魔法技術初歩』から基本魔法
そして魔法術『ライト』『フレアアロー』の二つを覚えた。
これで先の見通しが立ってきたな…。
全ての技能を使うわけじゃないが、これでかなり成長の余地がでてきた。
特に魔法、これは戦いで使えそうだ。
期待しておこう。
まだ書庫で手をつけた本は半分以下だが、これは絶対得してる。
少ない所持金から入場料払って良かった…。
さて、出るかな。
あ゛。
「この体のことや、元の世界のこと、調べてない」
この街での目標見失ってどうするよ。
でも、もう時間が…。
「あの、本日は閉館です。本の返却お願いします」
「あ、ごめんなさい。今返します」
はぁ、時間切れだな。
この後の予定もある。
次回の機会に調べるか…。
外は既に暗くなり始めている。
急がないと待たせてしまう。
魔法が使えるようになったみたいだが、結局お金稼ぎの手段は必要だ。
それに、こっちの都合で時間をとってもらってるんだ。
早く行かないと…。
…
……
どうにか完全に日が落ちる前に着いた。
診療所はまだ開いている。
中では、残り2、3人となった診療待ちの患者が。
よかった、間に合ったみたいだ。
「あ、来ましたね。今の診療待ちの人が終わったら閉めるので、もうちょっと待ってくださいね?」
「あ、はい」
大体10分ぐらい待っただろうか、最後の人が帰ったようだ。
あ、奥から誰か出てくる。
「あ~、やっと終わったよ。疲れるねえ。で、あたしに弟子入りしたいって馬鹿は何処のどいつだ?」
「あ、この方ですよ~。シオンさんというらしいです」
お、意外とまともそうだ。
50歳くらいの初老の女性だ。ちょっとやせすぎな感じはあるが顔立ちは整っている。
若い頃は美人だったろう。
よかった。
最悪尻のあなをアッーしそうなイイ漢を想像してただけに、これは一安心。
「こんばんわ。シオン=ラークといいます」
「ふぅん。挨拶ぐらいは出来るみたいだねぇ。それにしても…アンタ」
すごいジロジロ見られてる。
なんか悪寒が…。
顔、顔近いです。
「いい体してるねえぇ」
ジュルリと唇を舐めてこちらに寄りかかってくる。
「うひゃぁぁ」
「結構筋肉質なんだねぇ。ん~、若い体もてあましてるんじゃないか?どうなんだい?」
ギャァァァ!
服!服の中に手を突っ込んできてる?!
下、下もか?!下だけは絶対に死守しなくては!!
「先生、その辺で…」
「おっとっと。やっぱ若い男はイイねえ。10は若返る」
た、助かった…。
ありがとう、美人の受付さん。
はぁ、はぁ。
男の診療患者が少なかった理由はこれか。
後ろの穴を掘られるよりはましだが、この人も相当強烈な個性だ…。
この人に弟子入りする、のか?
「あたしはミシェル。んでこっちがあたしの姪の」
「助手のアンナです。よろしく」
「よ、よろしく…ミシェル先生。アンナさん」
「じゃ、緊張もほぐれたところで本題に入ろうか」
緩んでいた空気が引き締まる。
ココからが本番だな。
「いくつか質問するから正直に答えな。なんで医者に弟子入りしようと考えた?」
「はい、実は最近住んでいた場所付近をフォレストウルフが根城にしたらしくて住めなくなったんです。
それで町に来たんですが、最初は飲食系の店で働こうとしました。ですが、向いてないらしくて…。
それで、できることといったら、普段やっている俺がやっていた薬草採集くらい。
それを役立てるのは、薬師か医者のところだと思ったんです」
これでどうだろう。
あんまり矛盾してなさそうだと思うが…。
「ふぅん…そいつは気の毒だったねぇ」
「災難でしたね~」
アンナさんも同情的だ。
心が痛む…。
「でもね…それならあんた、なんでギルドに退治を依頼しなかった?」
ギルド?なんだそれ。
「お金が全然なくて…」
「へぇ…お金がなかった…」
不審そうな目でこちらを見てくる。
変な解答だったか?
「嘘もいい加減にしな!フォレストウルフの毛皮は高級品、
ほとんど小銭みたいなはした金でも傭兵が来るような魔物だよ?」
げ、そうなのか?
そんなこと一言も書いてなかったぞ…。
魔物素材の本が見付かればこんなことには…。
「し、知らなかったんです」
「こんなことは誰だって知ってることなんだよ。
あいつを狩りたがってるやつは山ほどいる。
狩られすぎてほとんど見付からないようなヤツだ。
それにアンタ…」
更に目付きを鋭くした先生がこちらを睨む。
「さっき触った感じ…。普通じゃない。肌に傷が一つもない。まるで貴族のお嬢ちゃんだ。
それにその体格にしちゃ私を払いのけようとする力が弱すぎる。
人に化ける魔物にしては、そんな魔力も感じない。さぁ、白状しな…。出ないと…」
「ミ、ミシェル先生…?」
にじりよる先生。
あとずさる俺。
ガシッ
「あれ?」
「ごめんなさいね、シオン君?」
アンナさんに捕まった。
「さ、痛くしないからね…。早く喋っちまえば楽になるよ?」
「う、うわぁぁぁ!!」
ぐう…。純潔が奪われるところだった。
最後の一線だけは死守したが、結局全部喋らされた。