俺達は、上流に向かって移動していた。
未だにモンスターには出会わない。
先導しているラエルが魔物の匂いを感じて、相手に気付かれる前に避けているらしい。
1時間ほど歩いただろうか、急にラエルが立ち止まった。
「どうしたんだ?」
「あ~、今更言うのもなんなんスけど…。
シオンさんの戦闘スタイルを聞いてなかったッス。
サポートに徹するって話ッスけど、やっぱり聞いておきたいッスね」
あぁ、そういうことか。
今になって気付いたわけだね…。
「いや、先にこちらから言うべきだったね。
遠距離では弓術、中距離では初級の呪文と、あと近接では格闘が使える程度だよ。
正直格闘より弓の方が自信があるから遠距離の方が得意だね」
なにせスキルを使えば百発百中だ。
これはかなりのアドバンテージだろう。
ま、飛んでくる矢を叩き落とせるようなことができる相手にはちゃんと当たるか分からないが。
薬については言う必要はない。
何より戦闘スタイルには全く関係ないしな。
「後衛向けのオールラウンダーッスか…。
因みにオイラは短剣を使っての近接と投げナイフを投げての中距離戦闘の、
前衛向きスタイルッスから偶然ッスけど結構相性は良いみたいッス。
それに、今オイラは近距離戦しかできないッスから、よけいに好都合ッス」
どうやら、逃走中にゴーレムに対する足止めで投げナイフを全部使ってしまったらしい。
「無駄だと分かってても、攻撃しないことには狙いがこっちに向かないッスから」
つまりは結局お荷物君のせいだということだ。
つくづく迷惑なヤツだ。
ゴーレムの素材は鉄。
ファンタジー系のもので言うと、いわゆるアイアンゴーレムってヤツだ。
相手の素材の問題で、折れてるかもしれないが研究所内に行けば回収できる『かもしれない』とのこと。
……あまり回収は期待しない方が良さそうだな。
俺の手持ちのダガーは投げて使うには重心が悪いらしく、渡しても首を振って断ってきた。
…
……
………
「まずいっスね……」
上流に向かうこと半日。
もうすぐ到着、というところで俺達は足を止めていた。
「今までみたいにやり過ごせないかな?」
「魔物達が居るのが入り口に近すぎるッス。
しかもまるで離れる気配がないッス」
ちょうど俺たちが入るときに居るなんて、間の悪い。
「濃い花と獣の入り混じった匂いがするッス……。
ここいらの魔物でこの匂いをさせてるのは、多分花雀っすね」
「匂いで種類まで分かるのか。
なんていうか、すごいね」
「いやいや、あらかじめ下調べをしてなきゃわかんないッスよ。
ギルドの魔物図鑑に特徴が書いてあったのを丸暗記してるだけッス」
それでも十分すごいよキミ。
……次から俺もある程度下調べしようか。
「あいつらはFランクの雑魚ッスから、倒しちまうのが手っ取り早いッス。
オイラが突っ込むから、弓での援護お願いするッス」
「わかった」
弓の射程ギリギリまでゆっくり近づいていく。
雀というには大きすぎるが、鶏ぐらいの大きさの鳥が十数羽居るのが確認できた。
弓を引き絞る。
「いつでも良いッス」
「じゃあ行くよ!」
今回スキルは使わない。
ターゲットを決めてから、弦を離すと矢が一直線に空気を裂いていく。
直後、ラエルが放った矢を追うように地を駆けた。
こちらの矢が最初の獲物に刺さるとほぼ同時に、
最も手近な位置に居た一匹を短剣で刺し、抉った。
その間にもどんどん矢を放っていく。
ラエルはそのまま群れの中に飛び込むと、次の鳥を引き裂く。
一撃で一匹ずつ着々と数を減らしていく。
…ちなみに俺は当たり所が悪かった最初の一矢以外では、一発で倒せていない。
命中率は5発撃てば3発は当たる程度。
まぁ、スキル無しだとこんなもんだ。
当たったやつは動きが鈍くなって悶えてるし、役に立ってるんだから別に良いだろう。
因みに何故か誤射はない。
密集しているハズなのに、狙ったヤツ以外の他の鳥にも当たってくれない。
もしかしたらターゲット以外には当たらないのかもしれない。
数が5を割った時、一匹がこちらに向かってきた。
慌てず矢を二発放つ。
クソッ、当たらん!
今までは、こちらに向かおうとしたヤツをラエルは優先して倒していたのに、
数が減った今になって、通してしまうことはないだろうに。
……こりゃ、わざと通したかな?
が、一匹なら特に問題はない。
弓を離し地に落とすと、そのまま拳を叩き込み止めとばかりに踏みつける。
ラエルのほうを見ると、すでにラエルも最後の花雀に爪で止めをさしていた。
あっちにはまだ3匹居た筈なんだけどな……。
「いや、さすがだね。やっぱり強いね」
「そんなことないッスよ、最初はシオンさんが援護してくれてたッスから。
それにしてもシオンさんも結構ヤルじゃないッスか。
遠距離が得意って言ってた割には、近距離に移る時の対処も良かったし、
これでギルド所属したてだなんて、言われなきゃ絶対想像出来ないッスよ」
その言い草、やっぱり試してたな……?
俺が倒せなくても自分で駆けつけられる自信あっての事だろうが、一言あってもよかろうに。
戦いながらこっちを見る余裕まであったのはさすがか。
「まだまだだよ、やっぱり圧倒的に経験が足りてないから。
そう言ってもらえるのは嬉しいけどね。
それで、何処が入り口?」
あたりを見渡す。
幹が白くなり葉はすでに無く、折れ朽ちている樹木が乱立している。
枯れた森って表現が一番近いだろうか。
「ここッス」
……え?
ほんとにここ?
辺りには朽木と穴ぼこだらけにされてしまった地面しかないが。
「性格にはこの樹ッスね」
そう言ったのは目立たない完全に朽ちた樹の前だった。
元は相当な大樹だったのだろうそれは、残っている幹の部分だけでも相当な大きさだ。
「これをこうして…」
ラエルは懐から水晶の原石のようなものを取り出すと、それに近づけた。
すると、水晶は淡い光を放ち始めた。
それに共鳴するように、折れた樹も同じ光を纏いだす。
その光が少しずつ強くなっていく。
……なんというか初めて魔法的な現象というか光景を見た。
それを持つラエルが皮鎧を着た犬妖精というのも相まって、
幻想的というのだろうか絵画の一枚のような雰囲気をかもし出している。
俺はそれに見とれてしまっていた。
十数秒も経っただろうか。
淡い光が収まっていく。
両方の輝きが完全に無くなった。
そして、それと同時にパカッという間の抜けた音が響いた。
……なんだ今の音?
音の発生源を探してきょろきょろしている俺を尻目に、
ラエルが木の幹に近づいて手をかけた。
そしてそれを上に引っ張ると、幹が蓋を開けるように外れる。
中からは梯子が覗いている。
……幻想的なら、最後までそうしてくれても良かったんじゃないかなぁ。
例えば幹の部分が光になって消えるとか、さ。
「おーい、早く行くッスよ~」
ラエルは既に梯子に足を掛けている。
あ、ハイハイ今行きます。
矢を回収し、花雀の素材をこっそり剥いでからそれに続いた。
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あとがき
一月も放置してしまいました…。
年末年始の忙しさは異常