流れてくる犬っぽい生き物を使っていた釣具を使って引き寄せる。
よしっ、うまく引っかかった。
針が刺さってしまったが、まあ許してもらうしかない。
死ぬよりはましだろう?
このまま引き寄せて……。
お、重ッ。
だめだ、糸が切れる。
所詮はただの釣り糸、大型魚用の専用物という訳でもないし、現代のものほど丈夫でもない。
耐え切れずにプツリと切れてしまった。
……あ~、くそ!
痛いだろうが覚悟するしかないか。
岸から助走をつけて……。
幅跳びのように跳躍、着水した。
水中に入るとすぐに目標に向かって泳ぐ。
ティラキアたちが寄ってきた。
無視して泳ぐ。
喰い付かれた。
無視。
更によってくる。
無視。もう少し!
喰い付かれ……。
よし、掴んだ!
既に意識は無くぐったりしている。
暴れないだけ良いが、まだ生きてるだろうか?
後は戻るだけ……?!
痛ででででで!
其処を狙うのはあんまりだろう?!
うぎやぁあああ!!
な、何とか陸に上がった。
急所をアタックしてきた不届き物を文字通り叩き潰すと、素早くポーションを3本喉に流し込む。
体にくっついていた分は自分の体ごと地面に叩きつけて息の根を止めていく。
一通り取れたことを確認すると、犬に集っているティラキアを両拳で挟み潰すように殺していく。
俺みたいに傷が残らないわけじゃないから無理に引き抜かず、慎重に歯を外してやった。
後は、さっき引っ掛けた針と絡まり気味の糸を外してやる。
遠目や泳いでるときはそれどころじゃなかったんで分からなかったが、確かに亜人っぽい。
二足歩行できるような体と、それにあわせた服と皮鎧を着ている。
背丈はだいたい140センチ程だろうか。
「おい、生きてるか……?」
げ、息してない!
脈は……こっちはあるか。
気道を確保して人工呼吸を何分か繰り返す。
体つきが人に似ていてよかった。
まるきり犬だったら、気道の確保の仕方も分からん。
「ゲハッ、ゴボッ、グヘッ!」
ようし、水を吐いた。
ひとしきり咽た後、なんとか呼吸を再開してくれた。
でも、安心するのは早い。
噛まれた箇所が多すぎる。
このままだといずれ出血多量でお陀仏だ。
口を無理やりあけてポーションを……
駄目だ、むせて吐き出す。
たたき起こしてでもコイツにもポーションを飲ませないと。
顔を手で張りながら呼びかける。
「おい、起きろ!
このままだと死ぬぞ!」
「……ぅ、痛…」
ゆっくりと目を開ける犬。
だが、意識が朦朧としているのか反応が薄い。
ええい時間が無い、無理やりにでも飲ますか。
「いいか、よく聞けよ。
出血がひどい、このままだと確実に君は死ぬ。
だが、これを飲めば助かる。
無理なら口をあけるだけでも良い」
声が聞こえたか、何とか少しだけ口を開けた。
わずかに開けた口にゆっくり回復ポーションを流していく。
4本目で完全に出血か止まり、6本目で抉れた傷が目立たなくなり、
9本目を飲み終えたときにはもうただ濡れている様にしか見えなくなった。
飲み終えると安心したように、気絶してしまった。
9本も使うなんてな。
回復手段が無ければ確実に亡くなっていただろう。
……何とか助けられたか。
さ、焚き火でもして起きるのを待つか。
体を温めてやらんと風邪を引きかねない。
…
……
意識を取り戻した彼(?)は、さきほどのことを覚えているのか、暴れたりすることは無かった。
「いやー、おかげで助かったッス。
おいらはクー・シー族のラエル。
必ず恩は返すッス」
「生きてて何よりだ。僕はシオン。
君は悪運が良いね?
もう少し助けるのが遅かったら確実に魚の餌にだったよ」
それにしてもクー・シーか。
コボルト系の獣人だと思ってたんだが、違ったみたいだ。
妖精族でその名前ということは語感的には……。
「クー・シーって聞いたこと無いんだけど、ケット・シーの犬版みたいなものかな?」
「確かに同じ妖精族ッスけど、あんな気まぐれで自分勝手な一族と一緒にしないで欲しいッス!!
クー・シー族は、恩義を忘れない義理堅い一族ッスよ」
「あ、ああ。ゴメンゴメン、今後は気をつけるよ……」
どうやら怒らせてしまったようだ。
どうにも相手の気にするポイントがわからない…。
ケット・シーはここにもいるんだな。
もしかしたら、地球にもクー・シーという妖精は居たのかも。
いまさら調べようが無いが。
「それにしても一体どうやったんスか。
おいらの傷、ほとんど無くなってるンスけど……。
まさか、あんた教会の司祭様ッスか?」
「ああ、そういう訳じゃないんだ。
さっき飲ませた薬があっただろう?
これを何本か飲めば大抵の傷は治るんだ」
といって、鞄から取り出すように見せながら未使用のポーションを取り出す。
「……それってもしかして、ギルドで売ってたあの馬鹿高い薬ッスか?」
お、知ってるのか。
どうやら普通に店に並んでるようだ。
「よくこんな馬鹿高い物を何本も持っていたッスねぇ。
おかげで助かったんスけど、なんか財力の違いを見せ付けられてるみたいで、ちょっと羨ましいッス」
……馬鹿高い?
「ちょっと聞きたいんだけど、これって君が見たとき幾らだったんだい?」
「おかしなことを聞くッスね。
えーと、確か一本10000ガットほどじゃなかったッスか?」
ギルドの値段設定はどうなってんだ?
……幾らなんでも10倍はひどい。