「面白い、だが俺の戦い方を教えるということは、俺自身の弱点を教えるに等しい!
その理由をはっきり教えてもらおうかッ!!」
理由、ね。
武器が簡単に手に入る世界で、
わざわざ素手で格闘する必要がある体術を取るのには勿論訳がある。
まず、威力のありそうな重い金属の武器を、現在の『力の数値』では装備できそうにない。
剣術や槍術を手に入れて、果たして相手の攻撃を避けたり、防御したりできるのか。
攻撃方法しか手に入らないかもしれない。
体術なら体捌きそのものを覚えるから、回避力も上がるだろう。
…いや、結局のところ今までの理由は言い訳なのだ。
重いならまずレベルを上げてから武器を買えばいい。
防御手段が欲しいなら、盾を使えばいい。
本音は、人の形をしたものの相手にしたとき、切る感触の残る武器を使いたくないのだ。
今までは獣型や虫型相手だったが、魔物には結構人型のモノも多いらしい。
街道でも夜盗がでる所もある。
そのとき迷いなく倒せるのかわからない。
技能で補正された武器戦闘で手加減することは多分無理だ。
人間の体は急所だらけ。
腕を狙おうが足を狙おうが、直撃させれば出血で死んでしまう。
拳なら直接急所でも殴らない限り、死にはしない。
だから、躊躇いなく相手できる。
敵対する人間全てにポーションを無駄遣いできるわけじゃない。
最初から非殺傷系、戦闘技能を手に入れておくべきだろう。
甘い考えかもしれないが、
こちらはHPある限り死なないし、回復ポーションだってある。
急所さえ守れば、相打ちを狙っても構わないのだ。
といっても、こんな理由を正直に言えるはずがない。
「おい!ちゃんと聞いているのか?!」
と、考え込みすぎたようだ。
「すいません、聞いてませんでした。…もう一度お願いできますか?」
「そんなことで俺の技を伝授できるかぁっ!」
ぐふぁっ!
な、殴り飛ばされた…。
「な、何で…?」
「馬鹿、俺自身の技を教えるのならもう君は俺の弟子も同然!!
弟子が師匠の話を聞き逃すとは何事だ!?」
…なにその理論。
確かに俺にも非があったが、それはないだろ…。
まだアンタ、弟子入り了解してもいないだろうに。
でも、この人の今までの言動から考えて、
理不尽で自分勝手な理論振り回す人って訳じゃなさそうだ。
単に、こういう熱血なノリが好きな人なんだろう。
我慢我慢…、今回は我慢だ……。
「すいませんっ!申し訳ありませんでした、師匠っ!!」
「よろしい、では改めて理由を言ってみろ」
「試験の時のあなたの俊敏な動きに憧れました。
是非に、その技を教えていただきたい!」
…こういうノリの人にはこういう回答でいいだろうか?
「なっ、なに…?
ハハ、確かにそういうことなら仕方ないかもしれん。
弟子にしてやっても、いいぞ!」
…簡単に納得しすぎだろ。
この人騙され易いんだろうな。
あ、照れてる。
「俺の名前はグレイだ。厳しく行くから覚悟しておけ!」
「はい、よろしくお願いします!師匠」
…
……
…………
「おい、何時まで寝てんだ、そろそろ閉める時間だぞ?」
…あれ、どうなった?
うお…、もう8時になってる。
意識が飛んでたのか。
えーと、確か体術の基礎を教わって…。
[体術技能を習得、格闘での攻撃力と軽装での回避率にボーナス。
熟練度上昇により、さらに攻撃力と回避率が上昇します]
と、『声』が聞こえた。
この時点で習得完了したので、あとは一人で練習しようと思っていた。
甘かった。
そんなことは認めない、これからが本番だ。
とばかりに熱血グレイは離してくれなかったのだ。
それから、拳の打ち込み方、肘、膝、蹴り、果ては投げ技、関節技に至るまで徹底的に叩き込まれた。
本当に、コレ一つで体術…なのか?と疑った。
基礎体力をつけろと、延々と筋トレ紛いの事をした。
…全く疲れないのを見て、コレだけはすぐに合格を貰い終了。
実戦修行と称して、他の稽古中の人の相手をさせられた。
自分が与える痛みを自分で知れ、と体に技をうち込まれた。
当然そんなことしても熟練度は上がらない。
武術家の心得としては、間違ってはいないんだろうが…。
そんなことを休み無しで続けた。
…適度に休めという自分で言った言葉は忘却の彼方のようだ。
そのときにはグレイの目はすでに正気じゃなかったような…。
…それからも理不尽な稽古を続けていた…気がする。
途中から意識が飛んでいて、覚えていないのだから仕方ない。
普通なら過労で動けなくなっている所だ。
無理しすぎで死んでるかもしれん。
とりあえずステータス確認。
うわ、体術が半日で18まで上がってるよ…。
あれから一体どんな扱き方したんだ?
おいおい、HPが16しかないぞ…。
下手したら死んでる。
死なないためにする訓練で死んでたら洒落にならん。
…もうここには来ないほうがいいかも。
「おい、気がついたんなら早く出てけよ」
あ、すいません。今帰りまーす。
…
……
家についたら、恒例の魔法練習。
こつこつ上げていた基本魔法熟練度がついに10を超えた。
新しく覚えた魔法は『ウィンド』。
…確かめるまでも無く、属性そのまんまだ。
それにしても大分、戦闘用の技能も上がってきた。
そろそろ街の外に出てもいい頃合かもしれない。
…明日は訓練所のところに行く気力も沸いてこないしな。
予めボルドーさんからグレイに、
無茶しすぎるなって注意してもらうべきかな…?
今日の成果
弓術
熟練度が20.6まで上昇。
熟練度が20を越え、ステータスボーナス 器用さ+1
『パワーショット』取得。
体術
熟練度が18.1まで上昇。
熟練度が10を超え、ステータスボーナス 敏捷+1
『気合』取得。
基本魔法
熟練度が10.2まで上昇。
熟練度が10を超え、ステータスボーナス 魔力+1
(魔力が上がったことにより最大MP+3)
『ウィンド』取得。
所持金変動
元所持金 3550
ポーション売却金 9000
武器使用料 -270
残合計 12280ガット
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あとがき
更新まで間を空けてしまいました。
やっぱり全然物語が進まない。