翌朝目が覚めると、見慣れない光景。
いつもの宿じゃない…。
ぼ~っとした頭が覚めてくると、
昨日新しく自分の家を借りたのを思い出した。
これからはここで暮らすんだ。
もっと慣れないとな…。
そういえば、宿じゃないから飯も出ない。
そして昨日は何も買ってきていない。
…歩きながら何か買うか。
だが、家を出る前に…。
そろそろ資金が心許なくなっている。
という訳で調剤スキルの出番だ。
資金源となるポーションを5個ずつ作る。
赤ポは3個、毒直しは2個できた。
…成功率が低いところには目を瞑ろう。
そして、何時も通り先生のところに向かう。
先生にギルドに入ったこと、家を借りたこと、技能の訓練のために暫らく来れないことを告げる。
「やれやれ、しょうがない子だよ。
弟子入りしてからこっち、ほとんど診療所にいないじゃないか。
あたしが言いつけてることもあるけど、それにしたって少しは遠慮しな」
…というお小言を貰ったが、一応は承諾してもらえた。
これは、訓練終わったら暫らくは診療所に通い詰めないと行けないな…。
ギルドに着くと、まずはポーションを売り払う。
担当の小太りの男は売ったポーションのことを知っていたらしく、
特に問題なく、前回の値で買い取ってもらう。
地下訓練場に着くと、今日も今日とて弓を引く。
今日の教官はボルドーさんじゃなかった。
見た目25歳くらいの、爽やか系イケメン君だ。
指導は丁寧なんだが女の子を優先しすぎだ。
指導待ちの列(女の子率大)ができてしまってる。
そのおかげで射場はスカスカだが。
……世のイケメンなんていなくなればいいと思うヨ。
…
……
………
昼過ぎ、弓の熟練度が20を越え、『パワーショット』を覚えた。
ちょうどいい機会だったので、現時点での射程と威力、覚えた弓スキルを調査する。
射程は30M程にまで伸びていた。…が、威力は変わってない。
弓術は熟練度では、威力変わらないのか?
攻撃力を上げるには良い弓を揃えるか、ステータスを上げるかだな…。
『ロックオンシュート』は、射程内であれば100%当たる。
MP消費は5だ。
スキルを使ってから一発目に放った矢は百発百中。
例え的から目を逸らしても、『狙っている』という意識さえ向けていれば当たるのだ。
効果はスキル直後の一発目だけ。
二発目以降は関係ないようだ、威力も普通。
素早くて、とても攻撃できない相手には使えるかも。
『パワーショット』はその名の通り、ただ単に威力が上がるだけだ。
これはMP消費8。
…上がった威力はなかなかにすごかったが。
的が当たった衝撃で大きく揺れた。
ただし、番えてから実際に放つのに5秒以上かかる。
まずパワーショットを使うと、射つ体勢のまま腕が動かなくなった。
その状態で5秒経つと、自由に動かせるようになる。
それから放った矢は高威力を持つようだ。
システム的には2~3倍って所なのかな?
5秒はそれなりに痛いが、先制攻撃には使える。
普通一射撃つのに5秒以上絶対かかるからな。
消費MPがネックだけど。
…5秒腕が動かなくなるのはターンの最後に行動、とかを再現しようしているのかもしれない。
分析は終わったが、さっきのパワーショットで結構な音が鳴ってしまった。
周りが少しざわついてる。
注目される前に使った消耗分のお金払って退散だ。
次に来たのは近接武器用の道場のようなところだ。
案山子相手に延々と突撃している漢達がいる。
……汗臭っ!
…なるほど、この男臭さなら遠距離射場に女が集まるのも頷ける。
むしろ、まともな神経残ってるなら、一刻だってココに居たくない。
むせ返る漢臭に早くも立ち去りたい気分になってきた…。
だが、目的を忘れるわけにも行かないのだ。
できるだけ鼻で息をしないようにしながら、
指導担当のギルド員を探す。
あ~、あれかな?
部屋の中で一際暑苦しい空気を醸し出している場所へ行く。
其処にいたのは試験のときに居た熱血兄さんだった。
…ふう、それなりにまともそうでなによりだ。
ヤマジュン的な人だったら、目的を諦めてでも帰っていた。
それに熱血兄さんは見るからに格闘系。
…これから取る技能のためにも、この人に教わるのは都合がいい。
「どうも、こんにちわ。
訓練しに来たんですけど…」
「お、お前合格できたのか!
あの成績で受かったってことは、他のテストはそれなりにできたんだな?
俺はあんな鈍いヤツ、落としとけっていったんだけどな!」
声をかけると、そんなことを言ってハッハッハ、と笑った。
…それを、本人に向かって言うなよ。
そういうこと言われても不思議と憎めない人だけど。
「はい、なんとか。
テストではてんで駄目だったので、せめて少しでも戦い方を覚えようと…。
少しは戦えるようになっておかないと、町の外にも出れませんし」
「努力するのはいいことだぞ、努力は自分を裏切らないッ!
ただし、何事もやりすぎは禁物だがな!
それで、この俺に何を教わりたいのか言ってみろッ!!」
まずシャドーボクシングしながら話すなよ、暑苦しいからさ…。
だが、我慢我慢。
俺が教わりたい技能は、この人に教えてもらうのが最適なのだ。
「教わりたいのは、まず基本的な体の動かし方と…
あなたの戦い方そのもの、つまりは体術です」