翌朝、ここ数日と同じように宿を出て、診療所に到着。
昨日のギルドでのこと、出会った巨大蜂のことを話した。
「ふぅん、その蜂は多分「鳥喰い蜂」だね。Eランクの魔物だ。
いきなりEランクと戦うとは、結構根性みせたじゃないか?」
自分から戦闘を挑んだわけじゃないんだけどな。
俺のその心を読んだのか、
「魔物避けも付けずに街から離れれば襲われて当然さ。
偶然魔物に遭遇する確立は高いもんじゃないけど、
備えもせずに街から出るってことは、当然、戦う覚悟を持っておくものさ。
勝手に自分の判断で外に出るからそんな目にあうんだよ」
自業自得だね、と言って意地悪そうに笑った。
う、思い知りました。
「えーと、それで話の続きなんですが。
たまった薬草や、道具なんかを保存しておく倉庫か家を借りたいんですけど、
如何すればいいんでしょうか?」
「ん、なにを入れる気だい?
大量に物を持ってけるあんたには、必要ないんじゃないかい?」
「持ち運べる荷物の量にも、限界があるんですよ。
それがそろそろ一杯になってきてまして…」
「ほう、そうなのかい。なるほどねえ…。
うちにある程度置いてやってもいいが、あんたの収集ペースだとすぐに満杯だろう」
そこまでお世話になるのは忍びない。
人の家だと好きに出入りしたりはできないから、荷物を預けるには都合が悪いしな。
「結論から言うと、現状アンタが土地を含む何かを借りるのは難しいよ」
え、倉庫借りるくらいで、問題なんかあるのか?
「あんたがこの街の住人じゃないのが問題なんだよ。
……よし、あんたギルドに入っちまいな」
なにそれ。
展開の速さについていけなかった…。
…気を取り直して理由を聞こう。
「ギルドを薦める理由は何ですか?
俺は、できるだけ戦う危険を減らしたいんですけど」
「倉庫や家等の土地を含む何かの購入、借受には本人の身分証明がいるんだよ。
不審者や犯罪者が、勝手に街に住み着かないための処置だね」
けっこうしっかりしてるな。
なるほど、そういう仕組みか。
「この街で生まれたあたしらは、
教会が生誕の祝福をするときに記録してくれてるから、それが証明になる。
街を渡り歩いてる商人には、商人用の許可札があるから問題ない。
では、ギルドの傭兵達は如何してるか…。それは、ギルド自体が証明してくれるのさ。
ギルドに加入するときに契約カードを渡される。本来は傭兵としてのランクを見るためのものだけど、
それが本人確認にも使える。
手っ取り早く身分証明を得るには、登録すればいいだけのギルドに入るのが一番簡単さ」
やっぱり入らないと駄目か。
平和な日本で暮らしていた身としては、戦闘はしたくないんだけど…。
「ギルドは必要最低限の能力さえあれば誰でも入れるからね。
昨日Eランクの魔物を倒したって話だろ?
ならテストには受かるだろうさ」
テストもあるのか。
はぁ、倉庫が欲しいなんていわなきゃよかったかな?
「それで、テストの内容は?」
「あたしが話すよりも、直接ギルドに行ってやって来な。
難しいもんじゃないから、そっちの方がよほど早いよ。
うだうだ言ってないで、さっさといってきな!」
「は、はい!行ってきます!!」
さて、そういうわけで半ば無理やり送り出されてきたのだ。
二回目だから、ギルドの独特な雰囲気にも慣れたな。
昨日と同じように受付に行く。
「ギルドの傭兵になりたいんですが、如何すればいいですか?」
「ギルド加入の手続きですね。
こちらの球に触っていただけますか?」
出された蒼い玉に触れる。
特に変化はない…。
「はい、結構です。それでは地下の訓練場に行って、テストを受けてきてください」
なんだったんだ?
まぁ、何も言われなかったし、アレでいいんだろう。
地下の扉は鉄でできている。
おいおい、まるで監獄だな…。
扉を開けて中に入る。
「よう、新入り!
これからお前がギルドで働くのに必要な能力があるかテストする。
今のうちにお前ができることを言っておけ。
それもテストに影響してくるからな!」
やたら声が大きい熱血系(暑苦しい)兄ちゃんだ…。
とりあえず当たり障りのない技能だけ言っておく。
基本魔法と、薬草採集、一部の魔法薬を作れる事だけ告げた。
「うむ、了解だ。それでは実戦テストに移る。
俺が拳で攻撃していくから、それを避けて見せろ!
だんだん避けやすくして行く、せめて一発は避けろよ?」
うお、そんないきなり!?
…
……
「よし、終了だ!」
や、やっと終わったか。
息をつく。
疲れないんじゃないかって?
延々と拳を出してきて、当たる寸前に寸止め。
コレを何十、何百回もやられたら気力が擦り切れるぞ?
「一発も避けられないとはな、近接戦闘の判定は期待するなよ?
それじゃ、次の試験管のところに行け!合格すればまた会うこともあるだろう。
じゃあな!」
最後まで暑苦しかったな…。
次の試験官はローブを着た魔法使い風の人だ。
入った瞬間、こちらをジロジロと観察している。
「ここは、魔法を使えるものを対象にしたテストだ。
それでは、あの的に向かって魔法を使え。
威力に応じて的が光る。威力と、詠唱の速さを見るテストだ」
あの、白い鎧が的か。
フレアアローを1発飛ばす。
若干赤く光ったかな?
…コレでいいのか?
試験官は不満そうだ。
ならばと、フレアアローを2発連続で飛ばす。
今度は赤色がはっきり見えた。
…まだ疑いの目で見ている。
そんな目で見られても攻撃はコレしか使えない。
「それで、本当に本気出してるのか?
初級の魔法しか使わんし、威力の方はてんで話にならない。
詠唱速度は大したものだ、だがそれだけだ。
聞いた話では、かなり高位の魔法使いと聞いてるんだが…」
え?
何でそんなことになってるの?
さっき技能申請したときにはそんなこと言わなかったんだけど…。
「それ、誰に聞きました?」
「同僚のボルドーだ。昨日お前の持ちこみの薬を買い取った男、といえばわかるか?」
あのおっさんか!
余計なこと言うなよなぁ。
仕方ない…、誤魔化すか。
「ここだけの話、俺は研究専門でして…。戦闘はあまり得意じゃないんですよ。
だから、攻撃系の魔法というのもほとんど覚えてないんです」
「なるほど…。そういうこともある、か。よくわかった。
魔法戦闘はEだ。威力は最下級だが、詠唱速度が速い。
それなりに戦闘で役に立つだろう。
あくまで、"それなり"。
はっきり言ってたいしたことないレベルだ」
わかっちゃいたが、はっきり言われるとへこむな…。