「で、これはどんな薬なんだい?」
「たぶん傷薬じゃないかと…」
赤ポーションの定番どおりなら回復だろう。
「ふうん。液体の塗り薬かい…珍しいね?」
「いえ、飲みぐすりかと」
ポーションだからな!
「傷薬なのに飲むのかい?」
まぁ、普通は傷薬っていったらついた傷に直接付ける、塗り薬だよな。
でもこれ、ポーションだからな!
さて、モノは試し。
ほぼ確実に回復薬だけど、確信が欲しいのだ。
ちょうどさっき先生に踏みつけられたのでHPが2ほど減っていることだし…。
先生に渡したのとは別にもう一個取り出した。
丸フラスコに入ったそれを、一気に飲む。
ん~、ほんのり甘いかな…。
結構飲みやすい。
HPは……よし、回復してる。
「やっぱり傷薬ですね。HPが回復してます」
「そんなにすぐ効くもんなのかい…」
「はい。飲んだ瞬間から効いてきますね。
ここにはそういう薬、ないんですか?」
「飲むだけですぐに効果のある傷薬なんてあるもんかい!
こんなもんそこらに転がってるようなら医者は廃業だよ?」
う、確かにその通り…。
「す、すいません」
「しかし、その効果は神聖方術の治癒に近いね」
あ、やっぱりあるんだな、回復魔法。
「治癒っていうのは?」
「至高神教会の熱心な信者の中には、極稀に神の奇跡ってヤツを使えるようになるヤツがいる。
治癒ってのはその奇跡のうちの一つさ。
もし使えるようになったら、そいつは神官の一員として厚遇されるようになる。
でも、方術使いは数が少ないから手が足りないのさ。
だから、教会は治癒にけっこうな対価を取るようにしてる。
お金とか、お金を払えない人は教会への奉仕活動とかだね。
お金は大金だし、奉仕活動は期間が長い。
死に掛けの重症でもないかぎり、縁がないと思うよ?」
へえ、なるほどね…。
それじゃあ奇跡を俺が使うのは無理か。
使おうにも、習得方法がわからないし、前提技能が多くて苦労しそうだ。
死の寸前でも普通に動ける俺は、使ってもらう方も縁がないしな。
「しかし。これじゃあ普通の診療には使えないね…」
「便利じゃないですか、なんで使えないんです?」
「それはね、いくらアンタが簡単に作れるといってもこれが市場に流通してるわけじゃない。
ひどく珍しい薬だ。実際には他に存在もしてないかもしれんものなんだよ。
そんなの使ってたら、一回の治療費に一体いくらになると思ってるんだい?」
むむ、そういうことなら。
「お世話になっているし、技能の鍛錬にもなるので、お金は別に…」
しかし先生は首を振る。
「そういうわけにも行かないんだよ。
患者さんから広まる評判ってものがあるから、噂が広まったら、人が押しかけちまう。
そうなったらあんたそんなに作れるのかい?」
…薬草集めに行く時間も必要だからまず無理だろう。
「そういうことだからうちでは扱えないね。
ギルドのショップに行って、治癒の魔法薬っていう名目で売っておいでよ。私が紹介状書いてやるから。
結構な高値で売れると思うよ?」
ギルドかぁ。あまり想像できないな…。
「そろそろ診療所を空ける時間だ。アンナも上で私達を探してる頃だろうよ。
じゃ、今日は手伝わなくて良いからギルドに行っといで。
ついでにギルド員として登録もしてきたらどうだい?」
アンタ度胸が足りないからね、と先生は笑った。
しょうがないだろ…?
俺は数日前まで争いとは無縁だったんだ。
「ああ、それと。こいつを簡単に作れるってことは黙っときなよ?
死ぬまで監禁されて、延々と作り続ける羽目になりかねないからね」
…ポーションって、そんなにヤバイものだったか?
ゲームでは最もメジャーな回復手段だと思うんだが…。
…ここでは違うってことを肝に銘じておこう。
先生は先に診療所に戻ったが、
俺はギルドに向かう前に手持ちの薬草をポーションに作り変えておく。
レッドポーション(小)を×12作成。
7個成功 5個失敗
さっきのあまりの1つと合わせて合計8個
リフレッシュポーション(毒)を×13作成
5個成功 8個失敗
これでメディカルミントがなくなった。
でも、これはかなり成功率低いな。
今のままだと最下級のポーションでも成功率4~6割ってところか。
本格的にコレで稼ぐなら熟練度上げて、成功率を上げる必要がある。
草採りながら作る方が効率いいかもしれんな。
さ、そろそろ行くか。
…
……
…………
ギルドの場所は町の入り口、門のすぐ近くだった。
かなり規模の大きい建物だ。
この街の図書館並みの大きさがあるな…。
入り口の横には、黒い影とそれに対峙する人が描かれた看板がある。
中からの音が漏れてきている。
かなり騒がしいな。
中に入る。
やはり広い。
受付がいくつもあり、何処も埋まっている。
奥のほうは食堂のようになっていて、
そこにいる人はほとんどが武装している。
たぶん依頼待ちの人達なんだろう。
でも、女の人もいるしひょろい男もいる。
別に厳ついおっさんばかりな訳じゃないらしい。
お、受付が開いた。
行こう。
「イスタディアギルドにようこそ。ご依頼ですか?」
「いえ、魔法薬を買い取ってもらいたくて」
「買取をご希望でしたら向こうにある冒険者用の買取窓口へどうぞ。
こちらはクエスト依頼用の窓口です」
「そうなんですか、すいません」
またしても受付は女性。
何か決まりでもあるのか?
言われたほうにむかうと強面のおっさんが暇そうにしている。
なんか値段交渉前から威圧されてる気がするよ…。