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No.12307の一覧
[0] 【練習】角屋ブログ -VRMMOSACTRPG始めました-[カルピス](2009/11/17 19:32)
[1] 02 親切なガールと嫌味なヤロウ[カルピス](2009/10/12 05:57)
[2] 03.君が死ぬまで頭に斧を振り下ろすのをやめない[カルピス](2009/11/17 19:34)
[3] 04. 騎士との出会い(笑)[カルピス](2009/11/07 07:23)
[4] 05.チュートリアル『対象を指定してアイテムを使用(ブッカケ編)』[カルピス](2009/11/07 18:14)
[5] 06.出会う女性出会う女性みんな美人で胸が熱くなるな……![カルピス](2009/11/17 20:08)
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[12307] 06.出会う女性出会う女性みんな美人で胸が熱くなるな……!
Name: カルピス◆74a9289a ID:72e80db5 前を表示する
Date: 2009/11/17 20:08
 さて、聖堂前広場に繋がる道は三本ある。
 それぞれに築かれたバリケードが計三つあるわけだが、ここで問題になるのは果たしてどのバリケードのお手伝いをするのか、ということだ。
 まあぶっちゃけどのバリケードに向かってもやることは同じで、注意点もただ一つ、他人の邪魔をしないように回復役に専念するってだけである。

 そして俺が選んだのは、北西側にあるバリケードであった。
 理由?
 そんなものは適当である。
 とりあえず聖堂正面西側のバリケードだけは御免だ。
 対ジャイアントオーガ様戦線最前線に加わるのは、幾らなんでも荷が勝ちすぎる。
 あっこにはシンゴさんもいるしな。
 あの人俺がスケベポーション(笑)使ったら絶対ブッカケの間合いに飛び込んでくるわ。
 あれはそういう手合い。

 となると残りは北西側と南西側しかないわけだが、北西側ならほんの一瞬のことではあったが面識のある人間がいる。
 俺が戦闘処女を散らしたときに出会った名も知らぬ弓使いの誰かさん。
 ここは俺に任せて先に行け、をやってみたのにリアクションの薄かった彼だ……まあ俺もそれほどリアクションを期待してたわけじゃなかったけどさ。
 さてさて、まだ生きてるかな?

「FUOOOOOOO……」
「COOOOOO……」
「HOOOOOOOOO……」

 ――なんてことを考えている俺の眼前には三体……いや、五、六、七体のレギオン――七体のレギオン!?
 おいおいこれはどういうことだ。
 北西のバリケードに辿り着くには、どうやらこいつらの相手をしなくてはいけないらしい。
 ていうか七体?
 いや、さっきもこれくらいの数を相手にしたことはしたし、何とか勝ちを拾えはしたけど……七体?
 マジで?

「FOOOOOOOO!!」

 うおお、連中すでにやる気満々じゃねーか。
 仕方ない、ここでこいつらを始末しなければバリケードに向かえない以上、俺に連中の相手をしないという選択肢はないのだ。

「≪武装解放≫!」

 ボイスコマンドに応えて手のなかに現れる斧と盾の感触。
 腰を落とし、かかとを上げ、いつでも動ける姿勢を取って待ち構える。

「数ばかり多い連中が雁首揃えて……俺だってなぁ、いつまでもお前たちに組み付かれて爆殺されるばかりじゃないってこと、教えてやるぜ!」

 なんたって、さっきまでと違って今の俺はLv.2だしね。
 さぁ! 掛かってきな!





/





 ――【初級NCP カドヤ】のHPがゼロになりました。
 ――【初級NCP カドヤ】は戦闘不能です。
 ――【初級NCP カドヤ】はLPがゼロのため蘇生できません。
 ――【初級NCP カドヤ】は戦死しました。



 爆殺されました(笑)



 ――戦死によってデスペナルティが発生します。
 ――【初級NCP カドヤ】はの現在レベルは【Lv.2】、【ビギナーランク】のためデスペナルティが免除されます。

 ――Attention!
 ――ビギナーランクは【Lv.10】までの初心者に対する条件保護です。
 ――あなたのレベルが10になった時点で、この条件保護は外されます。
 ――条件保護がなくなると、LPがゼロとなって戦死した場合にデスペナルティが課せられます。
 ――ビギナーランクの間にHP、LPの管理によく馴れておきましょう。

 ――Attention!
 ――あなたが登録している蘇生拠点は【アイゼニア聖堂】――の一件です。
 ――ここで蘇生を選ばずにログアウトすることも出来ます。
 ――今すぐアイゼニア聖堂で蘇生しますか?



 そんなわけで、半ば廃墟と化した聖堂にて蘇生。
 辺りを見渡してみると、サクト神の御神像の前に平然と立っている司祭NPCのディーネの姿がある。
 廃墟の中一人立ち尽くす彼女の姿はホラーじみていてちょっと怖い。
 ――なんてことを思っていると、脳内にシステムメッセージが流れる。



 ――初めてのログインより一時間に満たない時間でLPを全て喪失、戦死したこよにより、新たな称号を獲得しました!
 ――【初級NCP カドヤ】は称号【死に急ぐ無謀者】を入手しました。
 ――称号の付け替えはステータス画面から行えます。



 くっ……屈辱……っ!
 死に急ぐ無謀者とか、別に死に急いだつもりはないし、無謀な行動をした覚えもないっ!
 ――ひょっとして、この自覚のないところが無謀と言われる所以なのか?
 いや、でもそれにしたってこれはあくまでも偶然だ、初めてログインしてみたらそこは戦場でした、なんて、ヘザーだって凶運の類だって言ってじゃないか!
 運が悪かっただけ、運が悪かっただけ……別に俺が無謀だとか死に急いでいるだとか、そういうわけでは決してない……。

 まあそれはどうでもいいとして。
 ハァ……いや実際、無謀だったかどうかはさておき、行けると思ったんだけどなぁ。
 何の話だって言われれば、当然さっきのレギオンとの戦闘の話だ。
 囲まれないように注意してたつもりだったんだが、戦ってる内にまた何時の間にか敵の数が増えてて、そんでもって気がついたら背後から組み付かれて、あれよあれよという内に連鎖自爆を許してしまった。
 ていうかさ、周りにあんだけ人いたんだから、誰か一人くらい助けてくれてもよさそうなもんなのに……薄情者どもめ!
 レベルが上がったからって、俺自身も慢心してたのかな……つーかしてたよな。

 だってよくよく考えてみたら、レベルアップでもらったステータス上昇値、割り振ってなかったし。
 レベルが上がってもステータスに割り振らなけりゃ、そりゃ強くなんてなってない。
 HP、SP、MPはレベルアップボーナスでちこっと向上したかもしれないけど、レギオンの連鎖自爆に耐え切れるほどのもんでもなかったようだし。

 やれやれ、とりあえず筋力に極振りだな。
 これで与ダメの基礎値が向上してくれれば、クリーンヒットでレギオン一撃死を狙えるかもしれんし。
 クリーンヒット瞬殺が出るようになれば、レギオン軍団との戦いも多少は有利になってくれるはず。
 もちろん剣を交えることなく北西側のバリケードに辿り着ければそれが一番いいのだけれど。

 ……というか、北西側のバリケードに拘る必要も無いな。
 西側に行くのは論外だとして、この際南西側のバリケードでもいいだろう。
 北西側と南西側、行くのに楽そうな方に行く、ということで一つ。

 さて、それじゃあ外に出る前にステータス値の割り振りでもやっておくとするか。
 あ、そういえば死に戻ったからHPも半分になってるんだったよな。
 ライフポーションも飲んどくか。
 ボイスコマンドでアイテムを取り出し、現れた瓶の栓をキュポッと抜く。
 さっきベア様にブッカケた忌まわしのエロ汁が瓶の中でとぷんと揺れている。

「……」

 何とはなしに周囲を見回し、人目がないことを確認。
 聖堂内に、今はもうプレイヤーの姿は無い。
 御神像の前にNPCのディーネ司祭がいるが、あれは人としてはノーカウントだろう。

「よ、し――」

 というわけで瓶を咥え、その中身を喉の奥に流し込み……

『あ、イヤぁ……熱い……喉の奥に絡んで……ぇっ!』

 あ……美味しい……。
 とかなんとか、わざわざ瓶の口にれろれろと舌を這わせながらそんなこと呟いてみる俺だった。

 ――……空しすぎるな。さっさとステータスを割り振ろう。
 ちなみにそんな飲み方をしてもHPはきっちり回復したし、ポーションの味自体もネクターとかいう桃のジュースみたいで普通に美味かった。
 さておき、



--------------
【カドヤ】
☆Lv:2 LP:3
 称号:初級ネットカフェプレイヤー
 所属拠点:鉄の城塞都市アイゼニア 市民レベル:Lv.1
 ギルド:無所属 流派:我流戦闘術 位:我流6級
 所持金:500G
【補正効果】
 称号【初級ネットカフェプレイヤー】:全基礎ステータス+1
☆各種スキル補正:筋力+2 体力+2 器用+3
【基礎ステータス】
☆HP:165 ☆SP:90 ☆MP:25 ☆残りステータス上昇値:3
 EXP:378 NextLvUp:512
☆筋力:15 (12+3)
☆体力:16 (13+3)
 敏捷:4 (3+1)
☆器用:9 (5+4)
 魔力:3 (2+1)
 幸運:6 (5+1)
【総合ステータス】
☆近接武器攻撃:190 (150+40)
☆近接格闘攻撃:150
 間接攻撃:--
 魔法攻撃:--
☆物理防御:195 (160+35)
 魔法防御:30
 クリティカル発生率:5%
--------------



 ステータス画面を確認してみて、その変化に目を丸くする俺である。
 おお? なんか☆マークがいっぱい出てるな。
 えーと……うん、多分だけどこれはレベルアップとかの兼ね合いで、ステータス値が更新された箇所についてるっぽいな。
 つーか筋力と体力、器用にも☆が出てるけどコイツはいったい……って、これか、各種スキル補正。
 というかスキル補正って何ぞ?
 今まで取ったスキルっていうと、薬剤投与のLv.0と我流体術なんちゃらだけのはずだが。

 タブでスキル画面を表示してみると、そこには俺がここまでに取得していたらしいスキルが表示された。



--------------
【カドヤ】
流派:我流戦闘術 位:我流6級
市民レベル:Lv.1
【一般スキル】
☆薬剤投与:Lv.0
【流派マスタリースキル】
☆我流片手斧マスタリー:Lv.1
☆我流盾防御マスタリー:Lv.1
☆我流体術マスタリー:Lv.1
--------------



 おお、片手斧と盾防御のマスタリーが追加されている! 何時の間に!
 で、この画面からそれぞれのスキルを選択すると、その詳細が見られるわけだが……どれ、片手斧マスタリーを見てみるか。



--------------
【我流片手斧マスタリー】
 スキルレベル:Lv.1
 習熟度:4%
 補正値:筋力+1 体力+1
 *****
 既存の流派の技巧に拠らず、己の経験のみで片手斧を扱うスキル。
 今はまだその技術は拙く、流派の担い手たちには遠く及ばない。
 このスキルのレベルを上げるには、ひたすら片手斧を振り続ける必要がありそうだ。
 もしあなたが既存の流派戦闘術を身に付けるのであれば、ここで覚えたことは忘れるしかない。
--------------



 ほほー、この補正値がステータスの値に計上されているわけか。
 他のスキルも確認してみると、盾防御で体力と器用に+1、体術で筋力と器用に+1、薬剤投与で器用に+1の補正が入っていることが確認された。
 あと、我流系のスキルはどうも、正式な流派スキルを身に付ける――要は道場に入門した時点でスキルが失われるらしい。
 ならばさっさと道場に入門してしまった方がよさそうだが、それはとりあえずこの防衛戦が終わってからだな。

 さて、それじゃあようやく本題、ステータス上昇値を割り振るとするか。
 といっても筋力一択で極振りなんだけどな。
 というわけでピッピッピッ、と……。



--------------
【カドヤ】
 Lv:2 LP:3
 称号:初級ネットカフェプレイヤー
 所属拠点:鉄の城塞都市アイゼニア 市民レベル:Lv.1
 ギルド:無所属 流派:我流戦闘術 位:我流6級
 所持金:500G
【補正効果】
 称号【初級ネットカフェプレイヤー】:全基礎ステータス+1
 各種スキル補正:筋力+2 体力+2 器用+3
【基礎ステータス】
☆HP:180 SP:90 MP:25 残りステータス上昇値:0
 EXP:378 NextLvUp:512
☆筋力:18 (15+3)
 体力:16 (13+3)
 敏捷:4 (3+1)
 器用:9 (5+4)
 魔力:3 (2+1)
 幸運:6 (5+1)
【総合ステータス】
☆近接武器攻撃:220 (180+40)
☆近接格闘攻撃:180
 間接攻撃:--
 魔法攻撃:--
 物理防御:195 (160+35)
 魔法防御:30
 クリティカル発生率:5%
--------------



 ――んで、こうなりましたっと。
 最初レギオンとやりあったときと比べれば、既に今の俺はあの時の俺よりも50も攻撃力が上がっている。
 ていうかこのゲーム、ステータスの上昇量が半端ねぇな。
 高レベルかつ高スキルのプレイヤーと、その他プレイヤーの戦力差が尋常じゃなさそうだ。
 これでPvPとかもあるわけだろ?
 なにそれ、大丈夫なの?

 まあそんなこと今考えても仕方ないか。
 とりあえずはこれでもう、クリーンヒットが出ればレギオンくらい一撃だろう。
 んじゃまあ、もっぺん逝ってきますか。





/





 おや、いねぇ。
 何がと言われればモンスターである。
 先ほど俺が爆殺されたときは、広場内にはまだそれなりの数のレギオンがいたのに、ちょっと見渡してみても数匹のレギオンしかいやしない。
 この状態なら北西側の広場へもスムーズにいけそうなもんだが、何となく釈然としないというか、折角攻撃力を強化したのに試し斬り出来なくて寂しいというか。

「随分とお早いお戻りでしたのね」

 そんな感じで「ぬぅ……」とか呟いていた俺をを出迎えたのはそんな言葉であった。
 こんな口調で喋る知り合いは一人しかいない。
 声のした方に目をやれば、当然のようにそこにいたのはベア様である。
 壁に背を預けて腕を組んだ姿勢は先ほどと変わらず、組んだ腕の上に乗っかった重量級豊満物質も相変わらずだ。
 ついさっきまでこの肉プリンがエロ練乳でデコレーションされていたかと思うと感慨深い。

「まあ、ちょっとしたアクシデントが発生しましてね」

 爆殺されたのです。
 いや全く、恐ろしいアクシデントだった。

「レギオンは囲まれたら厄介ですものね。だからこそ、レギオンと戦うときは囲まれないように立ち回る。その立ち回りがこのゲームの基礎の基礎と言われているんですけど」
「うげ、見てたんですか?」
「うげ、は止めなさいと言ったでしょう? まあ見ていたかと問われれば見ていたのですけど」
「つーか、見てたんなら助けてくださいよ」
「確かに見てはいましたけど、背後に組み付かれたと思ったら爆発するまで一瞬だったんですもの。武器を抜いて一分経たずに死ぬとか思いませんわ」
「……すいませんね、情けなくて」
「別に謝って頂かなくても結構ですけど……それより大丈夫なんですの? 一人でバリケードまで辿り着けます?」
「……」

 一人でお使いだいじょーぶ? って聞かれている気分だな。

「こ、今度は大丈夫ですよ、きっと。レベルアップしたときにもらったステータス上昇値、ちゃんと割り振ってきましたから」
「あら、それは……というか、割り振ってなかったんですの?」
「そんな呆れたような目で見ないで頂きたい」
「呆れもしますわ」

 だって割り振ってる時間がなかったんだからしょうがないじゃないか。
 レベル上がったと思ったらジャイアントオーガの大投擲に巻き込まれて死ぬし、死んだと思ったらシンゴさんから姫プレイを要求されるし、かと思えば聖堂が半壊して焼きだされるしで……ごだごだしてる内にすっかり忘れてたんだよ!

「それに、見た感じ広場の敵も殆どいなくなってるみたいですし……これならいけるでしょ」
「ああ、それは確かに。先ほどあなたがやられた連鎖自爆でほとんど連鎖して爆発しましたからね、広場のレギオン」
「え、それでいなくなってるんですか、連中」
「ええ。結構な爆発でしたよ。広場内にいたレギオンの位置が微妙に数珠繋がりになっていたようで、あなたの元での爆発を起点にしてドドドドンッと。ほら、広場の中央に座り込んでいたプレイヤー、いたでしょう? 彼ら、巻き込まれたようですわね」
「ええっ!?」

 それ、俺やっちまいました系ですか?
 や、系も何も、俺がやっちまったんだよな。
 くはー、やべぇー。
 角屋の看板背負った【カドヤ】なんて名前のキャラで他人に迷惑掛けるとか、これは邑上店長に怒られるかもしれん。
 というかベア様にブッカケしたのがバレた時点で折檻は免れ得んかもしれんと今更ながらに気づく。
 でもあの白濁塗れのベア様はとてもエロ可愛かったので後悔はないな。

「まあそう気になさらないことです。ああいうマナーの悪いというか、場の空気を読まないというか、そういう人たちには似合いの報いだったと思いますよ?」
「いやぁ、それはそうなのかもしれませんけど、巻き込みPKとか、巻き込んだ側としては気分はよくないですよ」

 店長に怒られるかもしれんし。

「ああ、そこは心配なく。死んでは彼らは死んではいませんから」
「へ? だって連鎖自爆に巻き込まれたんでしょ?」
「連鎖自爆は防御力無視のHPダメージですが、レギオンの最大HP分のダメージしか入りません。自爆の効果範囲が重複していれば重複したレギオンの数だけダメージを負うという仕組みですけど、たむろっていた彼らの周りにいたのは精々二、三匹ですから、それほど大きなダメージにはならなかったようですわ。ブチブチと文句を言いながら広場の隅に移動していきました」

 なるほど、効果範囲の重複か。
 レギオンのHPが幾つかは知らないが、仮に100だとして、7匹のレギオンの自爆効果の重複領域にいれば、こちらが喰らうダメージは700、10匹の効果範囲に居れば1000のダメージを喰らうが、逆に3匹程度の効果範囲であれば300程度しか喰らわないということだな。
 もっとも今の俺じゃあ2匹の効果範囲でも十分に死ねるわけだが。

「それでも気にしてしまうというのであれば、今後は十分に気をつければよろしいのでは? カドヤさんはまだこのゲームを始めて間もないのですし、失敗の一つや二つ、しても仕方ないですわ」
「そう言ってもらえると……」

 助かる。
 ついでに例のブッカケの件も仕方ないの一つや二つの内に含めていてくれると尚ベネ。
 嬉しいんだけどなぁ。

「ハァ……まあここで何時までも凹んでてもしょうもないですし、もっかい逝って来ますね」
「本当に大丈夫ですの?」
「ま、大丈夫でしょ。今なら広場内のモンスターも少ないですしね。ていうか、無理って言ったらついてきてくれるんですか?」

 いや、実際ついてきてくれると助かるんだけどさ。
 俺は初心者だし、戦場の空気が読めなくて邪魔をしてしまうこともあるかもしれない。
 回復薬に気を取られるあまり、背後が疎かになってレギオンとかに組み付かれて連鎖自爆を許してしまう可能性だってある。
 そんなとき、俺の背中を守ってくれる、或いは俺の周囲を警戒して注意を発してくれる誰かがいれば、それは非常に助かるだろうと思うのだ。
 とはいえ、ベア様がついてきてくれるなんてことは、まあ無いんだろうが――というくらいの気持ちで言って台詞なのに、何故かベア様は思案顔になった。

「……そう、ですわね」

 およよ?
 これはひょっとしてついてきてくれる流れですか?
 だとしたら非常に、ガチで助かるんだけど……。

「ベア様?」
「そうですわね……私としてはあまり気が進まないのですけど、見知った人、それも始めたばかりの初心者の方をむざむざと戦線に一人で放り出すというのは、やはり気が引けますわね。いいでしょうカドヤさん、あなたのお手伝いのお手伝い、やらせてもらいますわ」
「うおおっ! マジっすか!」
「うおお、とかやめなさい。はしたなくてよ?」
「いやぁんっ! マジですの!?」
「――いや、それも止めて頂けると……」

 ベア様をモチーフにしたリアクションをしてみると、がっくりと肩を落として深いため息をつかれた。
 まあ俺もノリでやっただけなので素直に謝る、ごめんなさい。



 ――【堅実なる初心者 ベアトリーチェ】からパーティ結成の申請を受けました。
 ――受諾しますか?



 さて、ベア様と一緒に行動するということで、一応パーティを組むことになった。
 これはベア様からの提案で、パーティを組むと得られる経験値の多少の共有、どれだけ離れていても声を届かせられるなど、そこそこにメリットがあるらしい。
 今回は他人の回復役である俺と、あくまでその護衛という立場のベア様なので、経験値の共有も声が届くのなんのもメリットと数えるのは難しいだろう。
 まあそれでもやらないよりはマシだろうし、組んでいれば後になってそれが何かの助けになることもあるかもしれない……とのベア様の意見を全面的に受け入れる形でパーティを組むことになったのである。



 ――【堅実なる初心者 ベアトリーチェ】とパーティを結成しました。
 ――現在のパーティメンバーは二名です。
 ――構成員は以下のようになっています。
 ――・【初級NCP カドヤ】Lv.2 流派:我流
   ・【堅実なる初心者 ベアトリーチェ】Lv.7 流派:我流



 ちなみにパーティリーダーは俺。
 俺でいいのか、と聞いてみたが、私はあくまでも護衛ですから、とベア様に固辞されてしまった以上は俺がやるしかないわけで。
 リーダーになったからといって別段やることが増えるわけでもないし、まあこれもブログのネタになるかもだし、とりあえずやるだけやってみよう。

「さて、それじゃベア様。行くとしますか」
「ええ。まあ広場内がこの様子なら暫くは何事もないでしょうけど……いつまでこれが続くとも思えないですしね。あなたの背中、私が守って差し上げますわ」
「ただし相手はレギオンに限る」
「そうそ……って、確かにその通りなんですけど、折角の台詞に水を差さないで下さるかしら」
「あはは、すいませんです。でも頼りにしてるのはホントなんで、よろしくお願いしますね」
「こちらこそ。さあ、行きましょうか」
「うっす!」

 うっすではなくて、ハイでしょう……とベア様に脇腹を突付かれつつ出発する。
 目指す先は北西側バリケード。
 ベア様を仲間に加えたとはいえ、果たして俺は無事に辿り着けるのであろうか……。



 ――なんて言ってみるが、ぶっちゃけ目と鼻の先だし、行く手を遮るモンスターもいないのだから辿り着けないはずもねぇ。
 俺とベア様の波乱に満ちた旅は数十秒で目的地に達したのであった。





/





 さて、北西側のバリケードに辿り着いてみると何処かで見たような光景が。

「あだっ!? ってクソっ! またレギオンかよ!」

 北西側のバリケードの防衛に当たっていたプレイヤー、後衛の弓使いの一人に数匹のレギオンが群がっている。
 おいおい、あれってさっきの――って、あ!?
 周囲の建物の屋根伝いにやってきたゴブリンが三匹、その包囲網に加わったぞ!?

「やべっ、ゴブリン!? 悪い、誰か援護してくれ! 間合いが近すぎて弓じゃどうにも――」
「るせー! 何度も同じこと言わせんな!」
「前衛は回せない! さっきも何とかなったんだから今度も何とかしろ!」
「頑張れ若黄忠! こんじょだこんじょ!」
「こいつら薄情過ぎる! うおお! ≪武装解放、四番≫!」

 そして得物を弓から槍に持ち替えてレギオンとゴブリンに対し始める弓使い。
 ちょろっと出た"若黄忠"っていうのはあのプレイヤーの名前かね?
 しかしまあどっかで見た光景だ。
 つーかついさっき、俺の初戦闘のときとほぼ同じシチュエーションだな。
 また集られてるのかあの人、リアルラック無ぇな。
 そんなことを思っていると横からベア様の声。

「さて、どうも初仕事のようですわよ、カドヤさん。助けに行くのでしょ?」
「うむ、そうなんですけど」
「ですけど?」

 見た感じ、あの弓使いの兄ちゃんのライフバーはまだマックス近い。
 囲まれてて現状ヤバいのは確かだが、今すぐ生命の危機というわけではなさそうだ。

「あの兄ちゃんが二、三発ぶん殴られて、ライフが減ってからの方がありがたみが出ると思うんだが、どうでしょ」
「出待ちするというんですの? 理屈は分かりますけど……それって、人としてどうなんです?」
「ダメですかね、人として」
「ダメでしょう、人として」

 外道の行いです、と呆れたように言われる。
 やっぱダメか、人として。
 まあ俺も本気で言ったわけじゃないし、この案が駄目だというなら普通に彼を援護して救助するだけだ。

「ベア様、俺はレギオンの方に行く。ゴブリンは任せたいんだけど、いける?」
「対ゴブリンの適正レベルは10からなんですが、こちらに背も向けてくれていることですし、あの程度の数なら今の私でも裁ききれるでしょう。やりますわ。カドヤさんこそ、よろしくて?」
「フッ……レベルアップした俺の実力を見せ付けてやりますよ」
「はいはい、脳筋乙ですわ――……では、話もまとまったことですし、参りましょうか」
「了解」

 そして俺たちは声を合わせて、



「「≪武装、解放≫!」」



 ボイスコマンドに応えて手の中に現れる、相変わらず薄っぺらいほどに軽い盾と斧の感触。
 ベア様に視線を向ける。
 彼女の装備は腕に固定された手甲と一体型の幅広短剣、それを両手に装備している。
 あれも確か初期装備にあったな。
 あんな見てくれだが装備品カテゴリ的には【短剣】ではなく【爪】ということになっていたはずだ。

 名前は確か【ダガークロー】。
 攻撃力は低めだが、それを両手装備による手数と、クリティカル発生率上昇という武器特性によって補う、そんな戦闘スタイルを推奨する武器だったはずだ。
 お嬢様キャラをロールするベア様には似つかわしくない装備に思えるが……。

「何をボサっとしているんですの? 行きますわよっ!」
「って、お、おうっ!」

 んなことを考えている内にベア様がゴブリンに向かって走り出した。
 俺も慌てて足を動かす。
 ゴブリンに向かって一気に距離を詰めたベア様は、その背後を取るとまずは背中に右手のダガークローで袈裟懸けの一撃。
 ベア様の攻撃だからこっちにはシステムメッセージは聞こえないが、ゴブリンだって人型モンスター、弱点が背中と頭であることに違いは無いだろう。
 であればあれはクリーンヒットの一撃だ。
 その一撃で大きく仰け反ったゴブリン、結果的にベア様に向かって突き出された形になる頭に、左手のダガークローによる追撃の一突きが叩き込まれる。
 あれも問答無用でクリーンヒットだ。
 というか、人型をした生き物の頭に、悠々根元まで幅広短剣が突き刺さる光景っていうのは結構グロい。
 その追撃でゴブリンは見事黒い塵に還った。
 すげぇ、適正レベルが10のモンスター……レベル7のベア様からすれば格上モンスターであるゴブリンを一撃!?

「流石ベア様、縦ロールもなしにお嬢様キャラをロールしているのは伊達じゃないな!」

 どうでもいい感想を漏らしつつ、俺もレギオンの背中に向かって手にした片手斧を振り下ろす。
 当然だがこれがクリーンヒットの一撃になり、見事一発でレギオンを塵に還した。
 その結果に堪えようもなく唇の端が持ち上がってしまう。

「よっしゃ、一撃死出た! これで勝つる!」

 続けての動作で別のレギオンの頭を狙って横薙ぎの一撃!
 これも狙い通りクリーンヒットが入り、レギオンを一撃で塵に還す。
 残るレギオンは二匹。
 内の一匹が突然の闖入者である俺に気づきこちらに身体を向けてくるが、俺はあえてその脇を通り抜け、まだこちらに気づいていない――つまりは無防備な後姿を晒しているもう一体のレギオンに向けて間合いを詰め、その隙だらけの背中に向けて片手斧を叩き込む。



 ――クリーンヒット!



 うはははー! いいぞー、凄いぞー、カッコいいぞー!
 ついさっきまで苦戦していたレギオンを相手に、不意打ちで背後から強襲、クリーンヒット狙いまくりとはいえ、一撃死連発で無双状態!
 これは気持ちいい!
 レギオンが一番弱い雑魚であるのは確かだ。
 そんな相手に無双しても俺Tueeee!になんてなっていないのは分かっちゃいるが、この爽快感は異常だ。

 残るレギオンは一匹。
 完全にこちらに身体を向けてはいるが、相変わらずこのレギオンというモンスターの動作は緩慢で、頭部を狙ってクリーンヒットを放つのは容易だろう。
 だが俺はそこであえてクリーンヒットを狙わない。
 胴体を狙って真一文字に振りぬく薙ぎの一撃を放つ。
 クリーンヒットでない素の一撃で、レギオンに対して今の俺がどれだけのダメージを与えられるのか、それを確認しておく必要があると思ったからだ。

「どっせーい!」

 放った一撃はレギオンのライフバーを半分よりちょっと足が出るくらいに削り取る。
 よしよし、これなら素の一撃でも二発かませばレギオンを倒せるな。
 レギオンが苦し紛れに繰り出してきたパンチに盾を叩きつけてやり過ごし、空いた脇腹に向かって更に攻撃を叩き込む。
 塵に還るレギオンの向こうに、ベア様が二匹目のゴブリンの首を跳ね飛ばす姿が見えた。
 これでゴブリンは残り一匹。

「す、すまん! 助かった! ――……って! お前さっきの新参ちゃんじゃねーか!」
「ども、ご無沙汰」
「ぬあああああ! またしても新参に助けられるって! 俺ってやつはぁぁぁ!」
「まぁまぁ、さっきも見たような自己嫌悪はいいから。それよりあっち、ゴブリン。倒すの手伝ってあげてよ。あんたのレベルがどれくらいかは知らないけど、俺たちよりは高いでしょ、きっと」
「あっち? ……ってなにぃ!? あっちも新参!?」
「そゆこと。俺ら二人ともまだレベル10にも届いてないから、彼女もゴブリンの相手、大変だと思うんだよね」
「ぐぬぬ、俺の矜持が……いや、そんなこと言ってる場合でもないか、くそっ! ――≪武装解放、一番≫!」

 弓使いの兄ちゃんは手にしていた槍を本来の得物――獣骨製の長弓に持ち替える。

「そっちの新参ちゃん、離れろ! そいつは俺が射抜く!」
「っ! お任せ致しますわっ!」
「"ますわ"……? っ、お、お嬢言葉だとっ!? ちっ、気になるが、まあいい! 喰らえっ、≪チェイサーアローズ≫!」

 お嬢言葉に反応とか。
 まあそれはいいとして、弓を引く兄ちゃんの右手が光を発する。
 そして放たれた矢は狙い違わずゴブリンの頭を急襲し、しかし、ヤツの頭に突き立った矢の数は三本だ。
 兄ちゃんが放った矢の数は一本だったはずなのに、ゴブリンの頭に刺さったのは三本だと?
 そうか、ボイスコマンドによる戦闘用アクティブスキルってやつだな。
 攻撃を放つ直前に口走った【チェイサーアローズ】という言葉、あれがスキル起動用のボイスコマンドだったのだろう。

「ご無事ですか、カドヤさん?」
「レベルの上がった俺に死角は無かった。ベア様は? ダメージ受けてない?」
「問題ありませんわ。……というか、ダメージを受けていたらどうするつもりだったのです?」
「無論そこは俺のいやらしたくましいライフポーションで」
「何てこと……傷一つ負えない絶対致死の戦場に足を踏み入れてしまったようですわね……!」

 絶対致死て。
 恐れ慄くベア様に俺が微妙な顔をすると「冗談ですわ」と言ってふわりと微笑む。
 うん、やっぱり可愛いなこの人。
 シンゴさんは贅沢者だ、この可愛い人に貢がないで誰に貢ぐよって話「もちろんカドヤさんの発言も冗談ですわよね?(ゴゴゴゴゴゴ」このプレッシャー……!
 無抵抗にコクコクと頷かざるを得ない……!

「で、そちらの弓使いの方も大丈夫ということでよろしいんですの?」
「あ、ああ、そだそだ……なあアンタ、大丈夫か?」
「ぬぅぅ、一度ならず二度までも、一人どころか二人もの新参に窮地を救われるとは……不甲斐ないっ、不甲斐ないぞ俺っ!」
「あー、もしもし? 聞いてます?」
「かくなる上は修行……! 目指すべきは更なる高み……っ! 決して新参どもの辿り着けぬ……! それは領域……っ! それが至高……!」
「大丈夫じゃないかもしれんね」
「なんなんですの、この人は」

 二人して呆れた視線を送ってみるが、弓使いの兄ちゃんはそれにも気づかず何やらブツブツというかざわざわといった感じで呟いている。
 気のせいか、顎と鼻がやけに尖がって見える……気のせいだよな?

「……若黄忠、助けてもらっておいて礼も言わずに何をやっているの、あなたは」

 と、顎と鼻が福本化しつつあった兄ちゃん――どうも名前は若黄忠で決まりらしい――の頭に後方から激しい突っ込みが入る。

「いでぇっ!? って、せ、星花姐さん!? 何すんですかっ!」

 若黄忠氏に突っ込みを入れたのは、褐色の肌に銀髪というなかなか珍しい色合わせの女性アバターであった。
 背は高く、体格はキュッと引き締まった均整の取れたプロポーション、涼しげな目元にちょんと浮かぶ泣き黒子は、確かに"姉さん"ではなく"姐さん"といった感じ。
 こちらもまた、現実ではなかなかお目に掛かれそうにない美女ですな!

「何をする、じゃないわよ全く。守るべき新参の子たちに逆に助けられておいて、その新参の子たちに対して礼も言わない、言おうともしない。あなたのそういうマナーの無さが、うちのギルドの評判の一つ一つを貶めることに繋がりかねないって、そういう自覚がないからあなたはうちでも何時までも新参扱いなのよ」
「ぬ、ぐぅぅぅ!」
「ぐぅの音を出している余裕があるのならさっさと礼を言いなさい」
「ぬぐぐ……す、すまん、正直助かった、新参のお二人さん。改めて礼を言わせてくれ……」
「そんな悔しげに言うものではないでしょう、礼というものは――……はぁ、全くもう。二人とも、私からもお礼を言わせてもらうわ。うちの馬鹿、若黄忠を助けてくれて、ありがとう。私は星花、ギルド【ニュービーズゲート】の副代表をやっている者よ。名前を教えてもらえるかしら」

 すっと手をこちらに手を出してくる星花さん。
 握手ってことだよな?
 俺は斧を腰のベルトに吊るして彼女の手を取る――っ!?
 手のひらまでもが、柔らかいっ!

「ええと、俺はカドヤです。今日このゲームを始めたばっかりで……あ、で、こちらがベア様……じゃねぇ、ベアトリーチェ、俺の保護者です」

 超適当なデマカセ混じりの紹介をしてみると、ニュービーズゲートというギルド名を聞いて目を丸くしていた(可愛い)ベア様がムスっとして俺の脇腹に肘鉄を一発。
 大して痛くもなかったのはともかく、何故か嬉しかった俺はもう駄目かもしれんね。

「誰が保護者ですか、誰が。コホン、はじめまして星花さん。ベアトリーチェと申します。評判高いニュービーズゲートの副代表と知遇を得られて、嬉しく思いますわ」
「そう言ってもらえるのは光栄ね。カドヤさんにベアトリーチェさん、新参の子たちを助けることを目的としているギルドの人間として、将来有望な二人と出会えたこと、こちらも嬉しく思っているわ」

 星花さんとベア様が握手をする。
 ううむ、絵になる二人だな。
 背が高くスレンダーで褐色銀髪の星花さんと、ロリ巨乳で色白金髪なベア様。
 見た目的には対照的な二人だからこそ、こうして一緒にいるのが非常にハマっている。
 この光景は映像として残しておくべきだな……よし、こっそりとスクショだ。
 パシャリ。


「……」

 ……ふと気づくと若黄忠が仲間になりたそうに――ではなく、物欲しげな眼差しでこちらを見ている。
 ああ、なるほど、彼もこの至高の光景を映像として残しておきたい人間か。
 だったら自分でスクショ撮ればいいのに、と思わなくもないが、とりあえずグッと親指を立ててサインを送ってやる。

「……!」

 若黄忠もグッと親指を立ててサインを返してきた。
 まあ後で余裕があるときにでもメールアドレスを交換しよう。

「さて、自己紹介とお礼も済んだことだし……若黄忠、あなたはさっさと戦線に戻りなさい。まだまだ未熟なあなたとはいえ、絶対的に人手の足りていない現状では未熟者とはいえ遊ばせておく余裕はないわ」
「は、はい、了解です!」

 指示を出された若黄忠は、俺に向かって少しだけ視線を寄越す。
 言わんとしていることは分かったので、頷きを返してやると憂いの無い顔でバリケードに戻っていった。
 あいつもどんだけだよな。

「それからあなたたち二人なんだけど」

 と、今度は星花さんの視線がこちらを捉えている。

「あなたたちはすぐにここを離れて広場に戻った方がいいわね。人手が足りないとは言ったけど、まだ初期装備で身を固めているような新参だと、逆に足手まといだわ。ギルドの人間を助けてもらっておいて、こんな言い方をするのは申し訳ないとは思っているのだけど……」
「星花さん、そのことなんですけども」
「?」
「こちらのカドヤさん、この方はとある奇特なプレイヤーからライフポーションを大量に譲り受けていますの。まだレベルは2だしログインしたのも今日が初めてで、とても戦力とは言いがたいでしょうけども、ポーションタンクとしてならお役に立てるのではないかと思うのですが、如何でしょう?」
「回復役……そう、なるほどね。そうなるとあなたはどういう立場なのかしら、ベアトリーチェさん?」
「私は……成り行きですわね。カドヤさんよりは少しレベルが高くて、彼女よりは多少は詳しくこのゲームのことも知っています。レギオンくらいからなら彼女のことも守ってあげられますし……先ほどは否定しましたけど、保護者というのも言い得て妙という気もしますわね」
「無鉄砲な新参の子を守ってくれているというわけね。いいわね、それ。ニュービーズゲートの信条にも沿う立派な行いだと思うわよ。で、カドヤさん?」
「は、はいっ」
「あなたが受け取ったというライフポーション、数は幾つ」
「50個もらいました。二個は使っちゃったんで、後は48個ですね」
「なるほど、数は十分、か。種類は?」
「……+3です」

 一番エロいのです、と答えてやってもよかったが、ここは自重しておく。
 ここでふざけると防衛戦に混ぜてもらえなくなる予感がしたのだ。
 対する星花さんはといえば、+3ですと答えた俺の返事に顔を引きつらせていた。
 なるほど、この反応、彼女も中身とアバターの性別が一致しているタイプと見た。

「! ……あなたにそれを渡したプレイヤーって、男?」
「男ってよりも漢って感じですね。あの煩悩、そして躊躇いの無さ、人として見習いたくはないけど」
「そ、そう……+3のライフポーションか。回復量としては申し分ないし、持ってる数も文句のつけようがないくらいなんだけど……」
「何を心配しているのか嫌と言う分かるのですけど、カドヤさんにはこのポーションを他人に使う上での注意事項は教えておきましたわ」
「重要なのは"対象との距離"だよね、ベア様」
「ええ。不用意に近づいてはいけませんよ、カドヤさん」

 無論だ、可愛い女の子が相手ならともかく、その辺の野郎にブッカケをするつもりはない。
 星花さん相手ならブッカケてみたい気もする(褐色の肌にエロポーションのデコレーションはとても映えると思うのだ)が、仮にも一ギルドの副代表を名乗る人間にそんなことをする度胸はない。
 副代表に対するブッカケ行為に対して組織的な報復が行われたとしたら、俺がどんなエロい目に合わされるか、わかったもんではない。

『ぐはははー、躾のなっていない新参にこのゲームの流儀ってものを教えてやるぜよ!』
『まずはラヴポーションだ、腹ポテになるまで飲ませてやるよ!』
『ポーションの瓶をそのはしたない胸の谷間に挟みな! 全員にエロポーションをお酌するまで帰してやるつもりはないぞ!』
『ほぅら、俺様自慢の品質Sのライフローションだ。どうだ、品質Aのなんかよりもずっとベトベトねっとりだろう?』
『そーら、その締りの悪いケツにもう一発だ! どうだ、そろそろライフポーション+3なしでは生けてはゆけない肢体(残りHP的に)になってきたんじゃないか?」

 俺が報復を受ける側でなければ是非とも現場に立ち会いたいところなんだがなぁ。
 と、そんなことを考えていると、ドスッとまたしても脇腹に肘鉄が入った。
 さっきのよりも、ちょっと痛い。

「ベ、ベア様、いきなり何を……」
「不埒なことを考えている顔をしていました」

 この人エスパーですね?
 上目遣いに睨み付けてくる様子が恐ろし可愛らしい。

「二人とも」

 そんなやり取りをしている俺らに、思案顔でしばし黙っていた星花さんが声を掛けてくる。
 何かを決めた、そんな顔をしている。

「わかったわ。ポーションの種類が種類だけど、使い方を心得ているなら問題ないと判断させてもらう。新参の二人を過酷な防衛戦に巻き込むのは本意ではないけれど、人手が足りない現状、回復役が増えるのは大歓迎だわ」
「それじゃあ……」
「ええ、あなたたち二人を当てにさせてもらうわ。ただ、こちらからのサポートは出来る範囲でしか行えない。最低限は自衛してもらうしかないのだけど、それでもよければ一緒に来て。私たちと一緒に、戦って頂戴」

 その言葉に俺とベア様は顔を見合わせて小さく頷きあい、そして今度は星花さんに顔を向けて、大きく頷いたのだった。






************

相変わらず遅筆ですみません。
書きたいことを詰め込めるだけ詰め込んだせいでよく分からない話になってしまいました。
おかしいな、本来のプロットでは既に回復役として動き始めているはずだったのに、気がつけば今回も繋ぎみたいな話に。

というか主人公が回を重ねるごとにアホになっている気がする。
これはきっと気のせいじゃない。


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