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No.12307の一覧
[0] 【練習】角屋ブログ -VRMMOSACTRPG始めました-[カルピス](2009/11/17 19:32)
[1] 02 親切なガールと嫌味なヤロウ[カルピス](2009/10/12 05:57)
[2] 03.君が死ぬまで頭に斧を振り下ろすのをやめない[カルピス](2009/11/17 19:34)
[3] 04. 騎士との出会い(笑)[カルピス](2009/11/07 07:23)
[4] 05.チュートリアル『対象を指定してアイテムを使用(ブッカケ編)』[カルピス](2009/11/07 18:14)
[5] 06.出会う女性出会う女性みんな美人で胸が熱くなるな……![カルピス](2009/11/17 20:08)
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[12307] 05.チュートリアル『対象を指定してアイテムを使用(ブッカケ編)』
Name: カルピス◆74a9289a ID:89ed35fb 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/11/07 18:14
---------------

【ライフポーション+3】
 所持数:50 品質:平均A 効果:HP回復+400
 カテゴリー:一般消費アイテム
 製作:見習い薬剤師 シンゴさん
――解説――
【見習い薬剤師 シンゴさん】が【薬剤調合】スキルで製作したアイテム。
 品質は高く、高レベルの【薬剤投与】スキルと併用すれば、より高い使用効果と一部のバッドステータスの回復効果が得られるかもしれない。
 このアイテムの生成には三種類以上の素材アイテムと中レベルの薬剤調合スキルが必要そうだ。
 店頭での適正売却価格は分からない。
 このアイテムをより深く理解するには、【鑑定】スキルが必要だ。

---------------



 というわけで、以上、シンゴさんからもらったアイテム【ライフポーション+3】の解説である!
 アイテム欄からアイテムを選択すると、半透明のウィンドウがポップアップして、こんな解説を見られるわけだが――。

 違う、違うんだよ。
 俺が求めていた情報はそんなのじゃないんだ。
 言うなれば、そう、もっと根源的な問題というか、原始的というか、ぶっちゃけ基本的なことと言うか……。

 まあ、簡単に言ってしまえば、アイテムの使い方が分からん、とそういうわけでして。
 とりあえず現状分かっているのは、ボイスコマンドでアイテムを手のひらに呼び出せるということ。
『ライフポーションッ!』と叫べば手の中にライフポーションが現れているという仕様なわけだ。
 アイテムを使用する度にいちいちリングターミナルからメインメニューを呼び出して、メインメニューからアイテム画面を開いて、更にその中からアイテムを探して……なんてまどろっこしいことをしなくていいのは、まあ助かる、よしとしようじゃないか。

 だが問題はそこから先だ。
 俺の手の中にあるガラス瓶に入った乳白色の液体。
 問題は非常にシンプルである。
 俺は瓶を片手に首を捻る。

「えーと、何だコレ、どうやって使うんだ?」

 そう、問題はその使用法である。
 頭っから引っ被るの? それとも飲むの?
 まあ回復アイテムの使い方なんて、大概そのどっちかしかないだろうから、自分に使う場合はぶっちゃけどっちでもいい。

 でもほら、他人に使うときはどうすんの?
 引っ被る系だとしたら、つまりアレか、戦闘中の人の背後から忍び寄って、おもむろに瓶の中身をぶちまけるのか。
 俺だったら喧嘩を売られていると判断してしまうな。

 飲む系だとしたらもっとマズい。
 戦闘中の人の頭を引っつかんで、その口にこの瓶をねじ込めというのか。
 うわあ、それも嫌だなぁ。
 使用対象が女性アバターだったら妙な意味で興奮してしまいそうだ。
 戦闘中の女の子を引きずり倒し! 馬乗りになって、! その可憐な唇に固いものを捻じ込み! 白濁液を流し込む!
 ……最高ですね?
 対象が男性アバターだった場合のことなんて、考えたくもない。

 でもまあ、常識的に考えるならブッカケなんだろうなぁ。
 他プレイヤーに使用するって考えるなら、いちいち他人の口に瓶をねじ込むなんて手間にもほどがある。
 飲み干さないと効果が出ないとかだったら尚更だ、戦闘の最中に一気飲みなんて出来るかって話だ。

 とはいえブッカケ、ブッカケかぁ……。
 この白濁したライフポーションを? ブッカケ?
 なんというロマンチックアイテム。
 だってほら、エクスタのソフトでプレイアブルキャラクターのフリーエディットが可能になっているソフトの常として、女性型アバターというのは大抵図抜けた美女美少女だ。
 このゲーム【サクト レコンキスタオンライン】だってその例に漏れない。

 例えばヘザー、彼女だってちょっと現実には存在し得ないだろうレベルでの美少女騎士だった。
 俺の使っているアバター【カドヤ】はまあ、『親しみの持てる看板娘』がコンセプトなんで、そこまでトチ狂ったレベルの美少女ではないが、カドヤにせよヘザーにせよ、年頃の美少女が白濁液まみれになって『クる! キちゃう! HP回復しちゃうよぉ!」とかお前最高すぎるだろう。
 これをロマンチックアイテムと呼ばずして何とする。
 なんというかこう……胸が熱くなるよな……!
「いやぁん、ベトベトぉ……」とか、「このポーション、すっごく喉に絡むよぉ……」とか、言ってみてぇ!
 言ってみたいし、ヘザーとかに言わせてみてぇ!
 可愛い姫プレイヤーをあえて瀕死に追い込んで、ナイト君で取り囲んでみんなでライフポーションブッカケ祭りとかもうね!
 ああ……確かに姫プレイ悪くないな……俺が姫の立場でさえなければ!

 ――と、シンゴさんを変態扱いなんてとても出来ないレベルの妄想はここまでにしておこう。
 さておき、問題なのは実際ライフポーションの他プレイヤーへの使用方法がブッカケであってるかどうかだよな。
 いきなり誰かに使用して試すわけにはいかないし、シンゴさんはどうやって使ってたっけ?
 少なくともブッカケられた記憶はないが……。

 ……って、そうじゃん。
 俺シンゴさんにライフポーションで回復してもらってたじゃん。
 いかんいかん、あまりにもカルピスライクなライフポーションの驚きの白さに思考停止、もとい思考が暴走で妄想していた。

 とはいえ、ふむ、あの時はシンゴさん、ライフポーションどうやって使ってたっけ?
 ボイスコマンドでライフポーションを手元に召喚してたのは確かだ。
 ただそっから先がよく分からん。
 瓶の蓋を開けていたような気はする。
 で、気がついたら俺のHPは回復していたわけだが……うーん。

 まあ分からない以上、他人に聞くのが手っ取り早いか。
 オシエテ君うぜぇとか思われそうだが、背に腹は代えられないしな。
 というか今更だ。
 ヘザーにしろシンゴさんにしろ、さっきから俺はずっとオシエテ君丸出しだし。
 どこかその辺の、暇そうな人を適当に捕まえて――って、防衛戦の最中にそんな人いるのか?

 きょろきょろと辺りを見回す。
 さて、暇そうな人だが………………うん、実は結構いるな。

 今、聖堂前の広場は結構な数の人で溢れている。
 というか、より正確に言えば、戦線からあぶれた人たちで溢れている。
 数は30人を越えるくらいか?
 これがどういう人たちなのかと言えば、どうということはない話で、ついさっきまで聖堂の中に引篭もっていた人たちである。
 ジャイアントオーガ様の大投擲で聖堂が半壊したため、聖堂陥落に巻き込まれる危険を避けて広場に避難してきたのだ。

 聖堂陥落に巻き込まれると問答無用でHPゼロになるって話だし、となれば残機ゼロで引篭もっていた人は巻き込まれた即戦死だ。
 戦場が危険だからと聖堂に引篭もっていた人たちが、今度は聖堂が危険だからと危険な戦場に出ざるを得ない――まさに地獄、常世の闇に逃げ場なしといった感じだな。

 こうなると最早自ら剣を振るうことによってしか彼らは自身の安全を確保できないのだが、ところが肝心の戦場が彼らの参戦を拒んでいる。
 これもまた理由は簡単。
 主戦場となる領域は広場に繋がる三本の道、しかしこの道、多人数の人間が暴れられるほど広くないのだ。
 道の幅は僅か5m程度、この広さでは互いの得物が干渉し合わずに戦えるのは三人程度が精々だろう。
 実際広場に繋がるそれぞれの道では、横に三人並んだ前衛を二段揃えて防衛線を構築している。
 三人×2の前衛の背後にバリケード、そのバリケードを盾にして後衛が後背から前衛職を援護するという陣形だ。

 つまりだ、そういった形で防衛線が構築されているせいで、聖堂半壊の余波で出てきた余剰の人材を戦線に送り込むことが出来ないのである。
 バリケードの内側から援護が出来る後衛職ならばまだしも、前衛職は今のところ完全に需要がない。
 需要があるとすれば西正面側の道の奥でその巨体を見せ付けているジャイアントオーガ様相手の戦いであろうが、そんな致死率の高そうな戦場、今度は供給がないだろう。
 残機がゼロで聖堂に引篭もっていた人たちなのだ、あんなモン相手にしたかないだろうよ。

 ぐだぐだと話が長くなったが、とりあえず広場には暇そうにしている連中がちょこちょこいたわけだ。
 防衛線から漏れてくるレギオンを如何にも退屈そうに一撃で斬り殺す剣士。
 屋根からの侵入を試みる人型モンスターの、その股間を執拗に狙い撃つ弓使い。
 あろうことか広場の真ん中で座り込んで駄弁っている連中。

 ――誰に声を掛けても恐らく適当に相手はしてくれるだろうとは思うが、少なくともあの広場の真ん中に座り込んでいる連中には話しかけたくないな。
 みんなが頑張って戦っている中でああいう態度、あの手の場の空気を読まない、或いは無視する連中はあまり好きじゃない。

 そんな感じで話しかける相手を選り好みしていると、ふと目に留まった人物がいた。
 崩れかけの聖堂の壁に背を預けて佇むプレイヤーである。
 その人物が俺の目に留まった理由は至極単純、そのプレイヤーが身に包む装備が俺と同じ初心者装備であったこと。
 そして何より、組んだ腕の上に乗っかった我侭な果実、彼女が身じろぎする度にふるふると揺れる堪え性のない柔線形(※造語)――!
 そう、その人物が俺の目に留まった真の理由、つまりはおっぱい、もとい、女性型のアバターだったことである。





/





「なにかご用?」

 こんにちは、と声を掛けた俺に彼女はそう返してきた。
 ご用? という返し方が何か琴線に触れるものがある。
 それに彼女の容姿。
 くりくりとした、しかし眇められた猫目。
 上向きながらも小ぶりな鼻、薄桃色の唇はきゅっと引き締められている。
 作りとしては幼い印象の顔立ちなのに、それをあまり感じさせない。
 これは多分だが目だな、目の強さが幼さの印象を打ち消しているんだ。

 ハニーブロンドの髪は頭の両サイドでツーテールに纏められ、しかしくるくると巻いている。
 背はあまり高くない……というか小柄だ。
 身体は小柄なのに、前述したように胸に搭載されたのは巨峰である、所謂一つのロリ巨乳というやつなのだろう。

 視線はこちらに向けているのに、壁に背を預けたまま組んだ腕は解かない。
 そんな容姿と態度から、何となくだが俺は彼女の"キャラ"を想像してしまう。
 この娘きっと――、

「実はちょっと分からないことがあって、誰かに教えて欲しくて……もしアンタが暇してるなら教えてもらいたいんだけど、今時間いい?」
「……」
「あー……ひょっとして、駄目?」
「――……まあ、駄目ということはありませんけども、少なくとも貴女のソレは、人に物を尋ねる物言いではありませんわね。初対面の人に教えを請う、人に厚意を求めるのであれば、それに適した態度があるとは思いませんの?」

 きっと、どころではない。
 間違いない。
 この少女、疑いようも無く"お嬢様キャラ"だ――!

 ……ってまあ、別にどうでもいいんだけどな。
 エクスタ登場以前のMMOでもナリキリとかロールプレイをやっているプレイヤーはたくさんいたし、ある意味MMOの名物みたいなものだった。
 MMOのメイン層がVRゲーム、エクスタに移って"ナリキリプレイヤーは数を減らした"って聞いたことがあるけど、まあいる所にはいるんだろう。
 今思えばあのヘザーの口調だって、体育会系元気娘のナリキリだと思えば、そう思えなくもない。
 希少な人種に触れ合っているのだと考えればこれはこれで希少な体験だ、プレイ日記のネタにもなろう。

「えーと、あー……スミマセンです」
「……」

 ぺこりと頭を下げる。
 が、お嬢様は無反応、一応まだこちらから視線を外してはいない、つまりは相手をしてくれてはいるようだけど。

「えっと、俺の名前はカドヤです。今日初めてこのゲームをプレイしました」
「……」
「ホントなら色々とチュートリアルとかやりたかったんだけど、ログインするなりこんな状況で、正直このゲームの右も左も分かってないです」
「……フゥン?」

 お、ようやく反応が返ってきたか?
 腕を組んだまま小首を傾げるお嬢様、ううん、その仕草が様になっているというか、馴れた感があるな。
 仕草が自然なんだ。
 ナリキリ――というか、演技のレベルが高い人かもしれん。

「それで、まあ、さっき知り合ったプレイヤーから回復アイテムもらって、そいつで回復係とかやったらどうだって話になって……俺も乗り気だったんだけど、回復アイテムの使い方が分からなくて」
「……貴女に回復アイテムを与えたっていうプレイヤーはどうしたんですの? その方に教えを請えばよろしいのではなくて?」
「シンゴさんはちょっと今、無理で。あそこにいるもんですから」

 そう言って俺が指差すのは対ジャイアントオーガ最前線の西側バリケードだ。
 シンゴさんの姿は……お、いたいた。
 シンゴさんの装備は片手剣に盾。
 つーかすげぇなあの人、道の両側に建っている建物を足場に三角飛びの要領で飛び上がってジャイアントオーガに攻撃をしている。
 他のプレイヤーは……多分ジャイアントオーガの足元でチクチクとやっているんだろうな、モンスターの群れとバリケードのせいで見えんが。
 お陰でシンゴさんの姿ばかりが目立つ。
 やるな変態紳士、なかなか格好いいじゃないか。
 これでジャイアントオーガに目に見えてダメージが入っていれば手放しで賞賛したところだが、現実は非常であると言ったところだ。

「あそこ、西側のバリケードで、ピョンピョン飛び跳ねてる人」
「ああ……あのノミのような戦い方をしている馬鹿ですね?」
「ノミって――まあノミのようではあるけど」

 馬鹿という部分は否定できない、シンゴさんのあんな一面を知ってしまったがために。
 シンゴさん……どうしてああなった!

「まったく、本当に救いようのない馬鹿ですわね……貴女にアイテムを贈った理由が簡単に想像できますわ。相変わらずの姫プレイ、まあリアルじゃなくてバーチャルだからいいようなものを……バカシンゴ」

 苦虫を噛み潰したような声音……というか、実際に親指の爪を噛みながら口惜しそうに言っているお嬢様。
 なんだこの人、シンゴさんのこと知ってる人なのか?
 というか何だコレ、爪を噛むために口元へ運ばれた腕が――その所作の中で豊満な胸がより一層寄せられて、押しつぶされてっ!?
 ぐんにゃりと形を変え――すげぇっ!

「ワタクシ、興奮して参りました」
「は?」
「あ、いや、何でも――ってかアンタ……じゃない、えーと、何で呼んだら?」
「――ああ、こちらが名乗っていませんでしたね。人に向かって態度云々と言っておきながら、礼を失していたものです。私、ベアトリーチェと申しますわ。よしなに」
「よし……?」

 確かよろしくとかそんな意味だったか?
 古風な喋り方、これは気合入ったナリキリだな。

「ええと……それでベアトリーチェ様は」
「さん付けで結構。というか、何故様付けなんですの?」
「や、だってなんか、そんな雰囲気ですよね?」
「ですよね、とか言われても……まあそちらがその方が呼びやすいのであれば様付けでも構いませんが」
「じゃあ様付けで……で、ベアトリーチェ様は、シンゴさんとお知り合いで?」
「まあ、類の友と言ったところですわね」
「類の友?」

 なんじゃそりゃ。
 って、よもやこの人までアレと同じ類の姫プレイ愛好家だとか言うまいな。
 それは正直勘弁して頂きたい。

「リアル(ゲーム外)で付き合いがあるんですの。あの馬鹿に誘われてこのゲームを始めたんですわ、このゲーム、絶対面白いからって。だけどあの馬鹿、ゲーム始めたら私のところに山ほどアイテム持ってきて……」
「ああ……なるほど……」

 この人も姫に祭り上げられそうになった口か。

「そうなるのでしょうね? ただ私、この手のゲームってアイテム集めも含めて自分でやるから面白いと思っている人間で……まあくれるというものを断るのも了見が狭いみたいで体裁が悪いですし渋々受け取ったのですけど、そしたらあの馬鹿『リアルの知り合いに貢いでも面白くない、むしろリアルの顔がちらついてムカつく』とか勝手なことを抜かし始めやがりまして」
「うわぁ……」

 身勝手すぎるだろう、それは……何やってんだシンゴさん。
 というかこの人も今、軽く化けの皮が剥がれたよね?

「『俺は俺の嫁、もとい姫を探しに行く』とか言ってファーストログインの時以来ほとんど別行動ですわ。まあリアルでは嫌でも顔を合わせるから疎遠にはなっていませんけど……それで? 貴女がシンゴの新しいお姫様なんですの?」
「違います」

 それは違います、断じて。

「そ……まあ何でもいいのですけど。ああ、でもそうですわね、何やらドン引きしてらっしゃるようですけど、貢ぎたがりという以外は特に厄介な性癖の持ち主というわけでもないですから、適当に相手をして頂けると助かりますわ、私が。振られたの何のって、管を巻いたシンゴを相手にするのは面倒ですので」
「うわぁ、うざいですねシンゴさん……」
「もう慣れましたわ……でも慣れたからといってそれが苦行じゃないかと言えば、そんなことはもちろんないわけですけど」

 ため息をつきつつ苦笑するベアトリーチェ様である。
 そういう仕草の一つ一つが絵になっているというか、要は自然だ。
 もしかしてこの人、演技とかじゃなくてただ単にリアルでも女性だとか、そういう人なのかもしれない。

「……あの馬鹿のせいで話が脱線しましたわね。それで? 回復アイテムの使い方でしたっけ?」
「あ、はい、そうです、それです」
「別に使い方と言っても、基本は飲むか被るかしかないと思いますけど? 回復アイテム……ポーションでしょう?」
「あー、やっぱりそうなんですか。や、自分に使用するのはそれでいいと思うんですけど、他人に使用するときはどうするのかって、それが分かんなくて。他人の口に瓶ごと捻じ込んだり、ブッカケたりするわけにもいかないじゃないですか」
「ブ――ま、まあ瓶を捻じ込むというのは確かに論外ですけど、その、ぶ、ぶ……ブッカケるのは、間違った使用法ではありませんわよ?」
「え、そうなんですか?」

 だってブッカケですぞ?
 この白濁液を。
 あと、ブッカケで言い淀んだの、ちょっと可愛いな。

「コホン。ええ、もちろんそうする以外にも使い方はありますけど、そうした使い方も出来るという話ですわ。確かに直接掛ける方法だと、対象との距離が離れてると失敗しますしね。だからまあ……基本は栓を抜いて、筒先、瓶の口ですわね、それを使用対象に向けて、『あのプレイヤーに対して使用する』と念じるだけで使えますわ。【シンクコマンド(思考操作)】の一種ですわね。貴女、カドヤさんでしたっけ? メインメニューのシステム画面、シンクコマンドの画面は確認してらっしゃる?」
「シンクコマンドですか……あ、いえ、してないです」
「でしたら一度そこを確認してみるのもいいかもしれませんわね。登録済みのシンクコマンドが確認できますから。まだ何も弄ってないのであればプリセットのコマンドしか登録されていないでしょうけど、画面を確認すれば今の貴女がシンクコマンドで何が出来るのか、それくらいは分かりますから」
「ああ、なるほど……」

 確かにそれは道理だ。
 登録されている内容は今の俺に出来ること。
 後で確認しておこう、今はちょっとそんなことをしている余裕はないし。

「なんでしたら、今からちょっと試してみます?」
「いいんですか?」
「別に悪いってことはないでしょう。生憎私のHPは全快なので効果は得られないでしょうけど、試すだけならそれでもいいんじゃないかしら」
「……そうですね。じゃあすいませんけど、お願いします」
「よくってよ」

 よくってよ(笑)
 ああいや、笑っちゃ失礼だよな。

「それじゃ早速――≪ライフポーション≫!」

 ボイスコマンドでライフポーションを手元に呼び出す。
 そういえばライフポーションってボイスコマンドに登録されているからアイテム名を口にするだけで手元に出てくるんだろうけど、会話の端々でちょっと口に出してしまった場合とか、そういうときにこんな風にまろび出てきてしまうのだろうか。
 だとしたら少し面倒だな。
 なんかこう、システム的にそういうのを回避してるんだろうか。
 それについて聞いてみると、

「手元に出そうとか、使おうとか、そういう意識が篭ってないときは呼び出されないようになってはいるようですわね。ボイスコマンドはあくまでも音声をトリガーにして任意のコマンドを実行する機能ですから、まあそういうものかとも思いますけど」

 そんな答えが返ってきた。

「あ、ちなみにですけど、両手が塞がっている時はボイスコマンドでアイテム名を呼んでも出てきませんわよ。アイテムを使うときは片手は空けるようにしておくことが必須ですわね」
「ええ? じゃあアイテムを呼び出すたびに武装解除しなくちゃいけないんですか?」
「何も武装解除までしなくとも、両手剣なら片手で持てばいいし、剣やら斧やらなら、鞘に収めるなりベルトのホルダーに吊るすなりすればよいでしょう? カドヤさんの得物はなんですの?」
「斧ですけど」
「じゃあ腰のところ……ベルトにフックがあるでしょう? そこに引っ掛けるんですわ」
「フック? ああ、これですか」

 言われてみればベルトに鉤状の部品が引っ付いている。
 ここに斧のグリップを引っ掛けるのだろう。
 ……誤って腕に引っ掛けたりしたら痛そうだな……気をつけよう。

「っと、また話が脱線しましたわね。気を取り直して続けましょうか」
「ういっす」
「返事はハイで」
「ハイ、分かりました」

 なんというか、礼儀とかに細かい人だな。
 そういうキャラを演じてるからか?

「えーと? これの栓を抜いて、筒先を対象に向ける、それで使用することを強く意識する、そんな感じでしたっけ?」
「そうです。そうなんですけど……貴女、それは……」
「はい?」

 ベアトリーチェ様が指差しているのは俺の手の中にある【ライフポーション+3】だ。
 言い直そう、白濁回復汁だ。

「シンゴさんからもらった例のブツですが、これがなにか?」
「何かって、貴女、分かって言っているでしょう……セクハラですよ?」

 ですよねー。
 でも頬を赤らめるベアトリーチェ様はちょっと可愛い。

「いやまあ、悪乗りしたのはすいませんです。でも文句なら女性型のプレイヤーに向かって慈しむような視線でコレを渡してきたシンゴさんに言ってくださいよ」
「慈しむような――あの、馬鹿シンゴ……っ!」

 まあシンゴさんも問題と言えば問題だけど、本当の問題はライフポーションの色をこの白濁に設定した、このゲームの製作陣だよな。
 彼らが何を思ってこの色に設定したのか知らないが、明らかにロマンチック回路が熱暴走している。
 嫌いじゃないけどな、そういう卑猥さ。
 心の片隅にいつもエロスを、ってどっかの誰かも言っていたし。

 というわけでシンゴさんに対する罵声を吐き続けるお嬢様を尻目に、俺はこのエロ汁の栓を抜いてみる。
 キュポンッというコルクの抜ける耳心地のいい音、今の俺にはこのキュポンッさえ厭らしく聞こえる。
 軽く瓶を振ってみる、するとトプンという水の揺れる音。
 この音からお分かり頂けるように、このエロ汁、多少粘度があるようだ……ますますもってこれは酷い。

 そしてその筒先をベアトリーチェ様の横顔に向け――ああっ、このままブッカケてしまいたいっ――が、それをやったら軽蔑されること請け合いだ。
 まあここは大人しく、シンクコマンドで使っておこう。
 このままここで縁を途切れさせなければ、いつか彼女に向かってこの白濁をぶちまける日も来るかもしれないし。

(ええっと……使用対象≪ベアトリーチェ≫……ライフポーション+3、≪使用≫っ!)

 と、そこでベアトリーチェ様が勝手にエロ汁を使おうとしている俺に気づく。

「あのセクハラ馬鹿、今度リアルで躾け直して――って、カドヤさん!? それを使うならもう少し距離を取って――」

 距離?
 しかし、俺が彼女の言葉に不審を覚えるよりも早く、手の中の瓶が軽く震える。
 ――な、なんだっ!?
 そして次の瞬間、ベアトリーチェ様に向けた瓶の筒先から、どこか有機的な雰囲気を漂わせる勢いで、白濁エロ汁が飛び出したのである!
 何と言うかこう、ビュルビュルッ、といった感じで!

「ちょ、きゃ――イヤぁんっ!」

 飛び出したエロ汁はベアトリーチェ様の髪と言わず顔と言わず、全身に降りかかる。
 まるで枯れた大地を覆う白雪のように……なんてことは当然なく、どう見てもブッカケです本当にありがとうございました。
 女性型アバターを使っていて本当によかった。
 ベアトリーチェ様の顎のラインを伝って零れ落ちたエロ汁が、大きく開いたビギナーシャツ(初期装備)の胸元から覗く豊かな谷間に白く濁った水溜りを為す光景など、股間の徳川吉宗が白馬に乗って走り出していたこと請け合いである。



 ――【初級ネットカフェプレイヤー カドヤ】は【ライフポーション+3】を使用しました。
 ――スキルブック【薬剤投与の『あかさたな』】の所持効果によって【ライフポーション+3】の回復量が10%向上します。
 ――【堅実なる初心者 ベアトリーチェ】のHPが全快しました!

 ――【初級ネットカフェプレイヤー カドヤ】の所持する【ライフポーション+3】の残量は49個になりました。

 ――スキルブック【薬剤投与の『あかさたな』】の所持効果によって、
   【初級ネットカフェプレイヤー カドヤ】は【薬剤投与 Lv.0】スキルを"暫定入手"しました!
 ――【薬剤投与 Lv.0】スキルは"練習レベル"のスキルです。
 ――練習レベルのスキルを正式に取得するには、スキルブックを所持したままスキルの修練を続けてください。
 ――スキルブックを捨てる、売る、倉庫に預けるなどをすると練習スキルが失われるので注意しましょう。
 ――スキルレベルが1になったらスキルブックは手放して構いません。



 おお、やったースキルゲットだぜー……。
 なんて言ってみたりするが、こ、これは……。

 目の前には俯いて肩を震わせるベアトリーチェ様。
 これはハッキリ言って不味いかもしれない。
 如何にもなお嬢様キャラだし、ここまで話した感じ結構潔癖っぽい印象もある。
 そんな彼女に向かって、あえて言葉を取り繕わずに言えばGANSHA的BUKKAKE。
 セクハラで訴えられても文句なんて言えないんじゃないだろうか……。

「あ、あのー……ベアトリーチェ、様?」
「……」

 くっ――、無言っ!
 いや、しかしめげるな俺っ!
 これは不幸な事故、不幸な事故なのだっ!
 だってそうじゃん、シンクコマンドで使えばブッカケにならないってベアトリーチェ様だって言ってたじゃん!
 それがなんの因果かこうも見事なブッカケになってしまったこと、正直眼福ではあったが故意じゃない。
 言うなれば未必の故意だ!

「あの、いや、ワザとじゃないんですよ?」
「……」
「その、本当に、俺は言われた通りやっただけでして、や、まさかこんなことになるなんて、俺、これっぽっちも思ってな――」
「――……の前に」
「は、はい?」

 お、ようやくリアクションが――、

「言い訳の前に、何か言うべき言葉があるんじゃなくて?」

 毛先から白濁を滴らせつつ、地の底から響くような声音――これは怖い!
 これはもうごめんなさいと謝らざるを得ない恐ろしさだ。
 以前に誤って邑上店長が着替え中の更衣室のドアを開いてしまった時に匹敵する恐ろしさである。
 邑上店長もアレでスタイルがいいからなぁ……怒っているのは怖かったが、思わずごちそうさまでしたと言ってしまうくらいには眼福だったものだ。
 ともあれこのような気合の入った怒気を発している人に向かって謝らないという選択肢はあり得ない。

「ご、ご――、ごちそうさまでした!」

 ナイス顔射! ――ってちげぇ!
 しまった、眼福感の余りつい本音が!

「違う! そこは『ごめんなさい』でしょうが!」
「で、ですよねー!」
「ですよねー、じゃありませんわ! なんでそこで『ごちそうさま』なんですの!? ありえませんわ! 貴女、下手するとシンゴ以上にアレな思考回路ですわよ!?」

 シンゴさん以上……だと!?
 確かに変なことを口走ってしまった事実は否定できないが、あの一言でそこまでは言われたくない。

「ちょ、それは心外だ! 幾らなんでもあの人ほど変じゃないと思います!」
「いいえ、互角の勝負ですわ。だいたいシンゴ、あの馬鹿は女性に貢ぐことに掛ける腐った情熱のただ一点を除けば、アレはアレで真っ当な人格ですもの。貴女にはそういう厄介な性癖はないのかもしれませんけど、貴女の思考回路からは確かな腐臭を感じますわ!」
「腐臭!? な、なんて言い草!」
「腐ってやがる……エロ過ぎたんですわ……!」
「この俺が巨チン兵呼ばわりとは!」
「そういうところが腐っている証左でしょうに……自覚なさい!」
「その振りで下ネタを返さないのはむしろマナー違反だろうに!」
「私がエロスだとでも言うつもりですの!?」
「適正は高い……と思う!」
「心外ですわ!」

 しかし『ブッカケ=アダルト』を即等号で繋げて赤面した辺りからも彼女のエロスは確定的に明らかだと言える。
 この娘にとろろぶっかけ蕎麦(商品名)とか食わしてみてぇ。

 ――さておき。
 俺とベアトリーチェ様――いちいち長ったらしいなこの名前、もうこのお嬢様のことはベアでいいや、ベアで。
 というわけで、俺とベアトリーチェ様改めベア様のこの微笑ましくも見苦しい口論は、防衛線(しかも劣勢)の最中であるにも関わらず、大声で飛び交う心持ちエロい単語の嵐に周囲の視線が厳しくなるまで続けられることになる。
 といってもまあ、ほんの数分のことであるのだが。





/





 下らないことに時間を使ってしまった――というのはベア様ことベアトリーチェの言だ。
 無論その言葉には俺も全力で同意する。
 確かに事の発端は俺のイージーミスだ、使用に当たっての注意事項を全て聞く前に勝手に使ってしまったのは、正直すまんかったとしか言い様がない。

 シンクコマンドでのライフポーションの使用、瓶の栓を抜いて云々というやつだが、アレは対象との間に多少の距離――大よそ2m程度らしい――がないと、瓶から飛び出した内溶液がそのまま使用対象にブッカケられてしまうらしい。
 これが適正な距離が空いていた場合であれば、飛び出した内溶液は空中で光のエフェクトと共に消失、使用対象となったプレイヤーの周囲にエフェクトは光としてのみ表れ、回復の効果を与えるとのことらしい。

 この点についてはベア様も、話の途中で他所事に気を取られて肝心の説明が疎かになったことを謝ってくれた。
 といってもベア様が他所事に気を取られる切欠を作ったのも俺で、しかもやらかしてしまった後で謝る前に言い訳をしたり、謝ると見せかけてボケてしまったのもこの俺なわけで、俺たちは口論から今度は頭の下げ合いという新しいバトルに突入することになる――などということは、勿論なく。
 まあ普通に互いの非を詫びて、全ての責任は何も知らない無垢な新人にエロスアイテムをプレゼントしたシンゴさんにある、ということでこの些細な諍いは幕を収めた。

 ちなみにだが、このライフポーション+3という卑猥アイテム、ちまたでは「ライフローション」とか「ラヴポーション」とかいう異名で呼ばれているらしい。
 最早完全にアレでソレですね。
 これを50個も所有しているシンゴさんとか、本当にもう死ねばいいと思う。
 薬剤調合のスキルレベルを上げるために已む無く製造していたと言う可能性も無きにしも非ずだが、そうだったとしてもその上で死ねばいいと思うよ。

「……えーと、まあ色々ゴチャゴチャとありましたが」
「そう、ですわね……とりあえずさっきのことは忘れましょう、お互いのために」
「そっすね……」

 なんとなく、二人揃ってため息を重ねる。
 気を取り直そう。
 ここで二人してため息をついてても話が何も進まない。

「ま、それはそれとしてです。ありがとうベア様、お陰でアイテムの使い方が分かりました」
「ええ、助けになったようで何よりですわ。……行きますの?」
「うん。物が物とはいえ折角回復アイテムもらったわけだし、使い道も決まってるんだからその通りにやってみますよ」
「そうですか……デスペナが無いとっても死なないに越したことはないでしょうし、気をつけて下さいましね」
「ういっす。ベア様はこれからどうするんです?」
「私ですか? 私はまあ、特に防衛線に貢献できることもないでしょうから……聖堂(ここ)が陥ちるまでは、この場所で成り行きを見学させてもらいますわ。防衛線の中途での離脱は市民ランクへのペナルティになるという話ですしね」
「うげ、このゲームってそんな縛りもあるんですか?」
「ログインの際に、事前にログアウト時間を指定してタイマーを掛けておけばペナルティの対象にはならないそうですけど……もともとユーザーフレンドリーとは言えない仕様に満ち溢れているゲームですから、それがルールだと言われてしまえば納得してしまうしかない、そんな感じですわね。あと、関係ないですけど『うげ』は止めなさい、『うげ』は。仮にも女性型のアバターを使ってらっしゃるのだから、下品な振る舞いはみっともないですわよ」
「う……コホン、気をつけます」
「分かればいいのです」

 改めて腕を組みなおし、満足げに頷くベア様。
 しかし相変わらずそのおっぱいは凶器だ。
 こう、ぐんにゃりと形を変えるそれを見ているだけで心が俗に塗れる。

「それではカドヤさん、お気をつけて」
「ベア様もね。やるだけやって無理だなって思ったら戻ってくるし、そしたらその時はまた話し相手になって下さい」
「上品なお話であれば歓迎しますわ――って、さっきのことは忘れるんでしたわよね」
「あはは……まあ上品なお話がどんなのかなんて想像もつかないけど、頑張りますよ」
「期待していますわ」
「じゃ、行って来ます」
「はい、武運をお祈りしていますわ」

 見送ってくれるベア様に手を振り返して、俺は防衛線の最前線であるバリケードに向かう。
 途中一度だけ振り返ってベア様の様子を伺うと、もうこちらには興味がないようで、西側正面のバリケード、ジャイアントオーガ様相手の最前線、つまりはシンゴさんのいるバリケードの戦いに意識を向けているようだった。

 ……なんだなんだぁ? シンゴさんのことをブーたれていた割には結局アレか、アレなのか?
 やれやれだ、そう思ってしまうと二人の関係が微笑ましくも羨ま妬ましい。
 やってられんぜよ、いつかシンゴさんの見ている前でベア様にラヴポーションしてやる。

 まああの二人のことはもういい。
 俺は俺の仕事をするのみである。
 あの二人のことはもういいと言いつつ、俺の仕事というのが件のシンゴさんから頼まれた回復係だというのはちょっと頂けないが。
 気にしたら負けだ、負け。
 ひとしきり負け惜しみを吐き捨て、俺は北西側のバリケードに向かうのだった。






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カドヤエログ……。
それは「思春期の心」と「小学生並みの躊躇いのなさ」と「大人の身体と性知識」を併せ持つ危険人物のブログである。
嘘である。

さておき、遅筆で申し訳ありません。
どうも巧くまとまりませんで、書いては削り、削っては書きを繰り返す内にこんな遅くなってしまいました。
今回の話はとりあえず繋ぎ的な感じで。
こんだけ時間かけて繋ぎって……orz

そして、たくさんの感想ありがとうございます。
感想のお返事は出来ませんが、皆様の感想を励みに頑張って(?)おります。
遅々として話の進まない作品ですが、これからもよろしくお願い致します。

※2009/11/7-18:14 誤字脱字修正。ご指摘ありがとうございます。


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