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No.12307の一覧
[0] 【練習】角屋ブログ -VRMMOSACTRPG始めました-[カルピス](2009/11/17 19:32)
[1] 02 親切なガールと嫌味なヤロウ[カルピス](2009/10/12 05:57)
[2] 03.君が死ぬまで頭に斧を振り下ろすのをやめない[カルピス](2009/11/17 19:34)
[3] 04. 騎士との出会い(笑)[カルピス](2009/11/07 07:23)
[4] 05.チュートリアル『対象を指定してアイテムを使用(ブッカケ編)』[カルピス](2009/11/07 18:14)
[5] 06.出会う女性出会う女性みんな美人で胸が熱くなるな……![カルピス](2009/11/17 20:08)
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[12307] 【練習】角屋ブログ -VRMMOSACTRPG始めました-
Name: カルピス◆74a9289a ID:72e80db5 次を表示する
Date: 2009/11/17 19:32
 エレベータに乗ったときのような、奇妙な浮遊感があった。
 その浮遊感はエレベータのそれと同じく一瞬で終わり、足元にはしっかりとした地面の感触。
 真っ暗だった視界が開いていき、徐々に周囲の様子が目に入ってきた。

 目を開けば、俺が立っていたのは昼の光の差し込む聖堂だった。
 中世ヨーロッパ式の建築様式、何様式というのかは知らないが、RPGなどでよく見かける教会の礼拝堂のような場所に俺は立っていた。

「凄いな……こんなにリアルで、これで仮想現実、これがゲームの世界なのか……」

 思わず呆然と呟いてしまう。
 整然と並べられた長椅子、高い天井と天井に描かれた聖堂画。
 石畳の敷かれた足元は踵で蹴ればコツンと音を鳴らす。
 ステンドグラスから差し込む光は色取り取りで美しく、祭壇に祭られた聖像からは神々しさすら感じられた。
 そして何より、視線を落とせば嫌でも目に入る、俺の胸から盛り上がる豊かな双丘。

「なんという見事なおっぱい……これは揉まずにはいられない」

 躊躇無く自分の胸に手を伸ばし、揉みしだいてみる。
 なんという柔らかさ、そしてなんというか、こうむず痒いというか心地よいというか、ぶっちゃけ感じる。
 自分の乳首がぷっくりと勃起してきたのを感じて指先で転がしてみると、エクスターミナルというVRゲームハードが18禁であることを実感せざるを得ない。
 エクスターミナルというよりエクスタシーといった感じだな、なんてアホなことを思いつつ、エクスターミナルのセクシャルフラグ解放のために支払った諭吉さんたちに心の中で敬礼。

 出来ることなら何時までも自分のおっぱいを揉み揉みしていたかったところだが、そうもいかない事情がある。
 業務の一環として、俺はこのVRゲーム【サクト レコンキスタオンライン】のプレイ日記を作成しなくてはならないのだ。
 それが決まったのは、俺と邑上店長の間での何てことない会話の最中のことだった。





/





 -数時間前-

 薄暗いオフィスに若い男女が二人、と言えばなんとなく艶っぽい雰囲気があるかもしれない。
 俺に向かい合っている妙齢の女性が美人さんであればこそ尚更だ。
 しかし現実は非常である。
 そこで交わされる言葉は色っぽい睦言なんかではなくて、単なるお仕事の話なのだった。
 しかもちょっと愚痴混じり。

「――と、まあ今週の売り上げはこんなものですね」
「了解です。じゃあサインしますんで、後は父さ――じゃねえや、社長に報告上げちゃって下さい」
「はい、オーナー。それからこちら、お客様からの要望一覧です」
「はいはい」

 渡されたペーパーの書類にざっと目を通す。
 21世紀も半ばになって、いまどき紙の資料なんて、と思う方もいるかもしれないが、昔ながらのやり方でやっているのがうちの店だ。
 漫画茶房『角屋』――いわゆる漫画喫茶である。
 ネットカフェやら漫画喫茶やらがメジャーになり始めた21世紀初頭から続いているため、老舗店なんて看板をつけていたりもする。
 老舗といっても全国展開しているような大手というわけではなく、地方の県に小規模ながら複数店舗を出しているだけだったりするのだが、まあ一号店開店が1999年だったことを思えば、開店50年、前世紀からの歴史を持つの老舗という言葉の響きもあながち嘘ばかりではない。

 そんな角屋の経営者であるところの角谷栄一氏……その息子であるのが現在大学二年生であるこの俺、角谷直巳(カドヤ・ナオミ)である。
 どこにでもいる大学生だと思ってもらっていい。
 そして先ほどから俺と仕事の話をしている美人さん、彼女は当店舗の雇われ店長である邑上悠子さん。
 邑上店長からは「オーナー」なんて呼ばれているが、ただ単に経営者の息子だからそう呼ばれているだけで、オーナーだなんて呼び名に相応しい仕事をしているわけではない。
 大学を卒業したら父さんの跡を継いで角屋を経営しなくちゃならんので、そのための勉強ということでこうして店に入り浸り、かつ邑上店長から色々報告を受けたりしているが、やっているのは精々それくらいだ。
 ……まあこの店舗、【角屋-戦技研大学駅前店】が書類上だけ俺名義の店になっていたりするのだが、俺がやっていることなんて店長からの報告を受ける以外では、バイトの諸氏がやっていることと本当に大差がなかったりする。
 というか、バイト連中の中には俺が経営者一族の人間だなんてことを知らないやつも少なからずいるだろう。
 別に気にしてないけど。

 まあそれはともかく目の前の書類である。
 お客様からの要望、アンケートの集計結果だ。
 あの漫画を入荷しろ、ドリンクバーのメニューを増やせ、某ブースがいつも満席なのは何とかして欲しい、禁煙席を増やして欲しい、あのゲームを導入しろ……云々云々。
『お客様がだということは、お客様の言葉は神様のお告げに等しい』
 なんてことを以前父さんが言っていたが、そうだとしてもこのアンケートの集計結果を見ると、俺はいつも苦笑をしてしまう。

「んー、相変わらずお客さんたちは好き勝手言うよなぁ」
「いつものことです。別に要望全部に答えなきゃってわけじゃないんだから、そこまで眉をひそめるものでもないですよ」
「そりゃそうだけど……あー、やっぱ【エクスタ】のブース増やせって意見が多いなぁ」
「うちの売りですからね、エクスタって」
「どうにかなります?」
「増やすんならまたどこか本棚潰さないと無理ですね。本棚潰してブース増設するんなら、まずは潰す本棚に収まってる漫画を全部デジコミに替えないと。デジコミのライセンス料、ブース増設のためのパーティション、それからエクスタ本体とソフトのリース、費用がすんごいことになりますね」
「具体的にはお幾らくらいでしょ」
「これくらいです」

 ぺちぺちと電卓を叩いて弾き出された数字に天を仰ぐ。

「そりゃ無理だ」
「ですよねー」

 エクスタ、とは【エクスターミナル】の略称だ。
 体感型ヴァーチャルリアリティゲーム、VRGのハードマシンのことである。
 脳信号によってゲームハードと接続し、ゲームの世界を感覚的にリアル仮想体験するという、半世紀前までは「夢のゲーム」と呼ばれていた類の代物だ。

 それが実際に開発され、売り出されたのは今から2年前だったか。
 開発の成功と一般向けの販売開始のニュースは全世界を熱狂させた。
 あの当時の俺は高校三年生とモロに受験生だったが、そのニュースが流れた直後、受験一色だったクラスメートたちの話題が一瞬で塗り替えられたのは懐かしい思い出である。
 そして価格が発表されたとき、全世界に流れた絶望感も懐かしい思い出だ。
 VRGハード『エクスターミナル』――メーカー希望小売価格780000円。
 桁一つ間違えてんじゃないの、とは全世界共通の感想である。
 とてもではないがゲーム一つに払える金額ではない。

 まあとてもゲーム一つに払える額ではないからこそ、角屋の商売にもなるわけだが。
 その圧倒的な魅力によって、78万円という高額ながら発売一週間で数十万台を売り上げたエクスターミナルだが、やはり78万円という金額は誰にも払えるものではない。
 開発元であり発売元であるメーカー、EXE社もその点は予め了承済みだったらしく、エクスターミナルは公式サイトに法人向けページが用意されていた。
 ゲームセンターやらネットカフェやら、遊興店向けのリース専門ページである。
 このページではエクスターミナル本体とソフトウェアのリースはもちろん、定期的なメンテナンスを含む保守契約の概要が掲載されており、そこに大手のネットカフェチェーンやゲームセンターが群がっていき、我が角屋もそうした業界の流れに乗り遅れまいとした結果、今に至るというわけなのだが。

 店舗運営用の携帯端末を叩いて、店内のブース使用状況を表示させる。
 エクスタのブースは店内に12席用意されているが、それらは当然のように全席が埋まっていた。
 12席中6席は完全予約制を敷いているのだが、その予約状況も三日先まで隙間無くみっちりと埋まっている。

「まあこの盛況振りを見ると、ブースを増やしても元は取れるかなって気はするけど」
「元は取れるでしょうが、先立つものがなければやっぱりブースは増やせませんよ」
「店長、それも含めて社長に報告してもらえます?」
「エクスタブース増設用の予算申請ってことですか。となると店内の整理とか書架の再配置とか、色々と申請書の類の準備しなくちゃなんですけど、オーナー、手伝ってくれるんですよね?」
「それはもちろん。でも、とりあえずはユーザーからの要望があってエクスタブース増やしたいんだけど、それ用の予算って下りますか、って軽く探りを入れるくらいでよろしく」
「それくらいなら家族の夕飯時にオーナーが社長に確認して下さいよ」
「んー、こないだ【サクト レコンキスタ・オンライン】の導入の件でオネダリしたばっかなんだけど……」
「ああ、あのクソゲーですか」

 言って、とても冷たい視線を俺に向けてくる邑上店長。
 気持ちは分かるがそんな目で見ないでもらいたい。

【サクト レコンキスタ・オンライン】とはエクスターミナル用のゲームの一つだ。
 ストラテジックアクションというゲームジャンルの頭文字を取ってSACT、つまりサクトというタイトルらしいのだが、まあこの際名前はどうでもいい。
 大学の友達の熱烈な推薦があり導入を決めたのだが、どうもこのゲーム、あまり評判がよろしくない。
 ゲームバランス(笑)、といったような評価がどこのサイトでも見受けられる。
 どうも恐ろしいくらい死にやすいゲームなのだそうだ。

 これを推薦してきた友達はこのゲームが大好きなようで、太鼓判を押し捲りだったのだが、実際のところ店内エクスタブースの稼動履歴を見ていると、この一週間で【サクト レコンキスタ・オンライン】をプレイした客は10人にも満たなかったりする。
 ぶっちゃけて言おう。
 赤字だ。
 赤字だからこそ邑上店長も言うのだ、クソゲーだと。

 ネットカフェではゲームを一本導入するのにもそれなりに手間が掛かる。
 ゲームの商用プレイライセンスをメーカーに払わなくてはならないし、メーカー公認店舗としてネットカフェプレイ特典をつけてもらうのにも別途費用が掛かる。
 そもそも、現状で漫画茶房角屋のエクスタブースは常に満員御礼で引きが切れない状況なのだから、そこまで金を掛けて新規にゲームを導入する必要はないのではないか、と邑上店長も言っていた。

 そこをオーナー特権でもってゴリ押し導入を進めさせた挙句、この有様では正直俺は立つ瀬がない。

「エクスタブースの増設も必要だけど、サクトの方も何とかテコ入れしなくちゃだよなぁ……」
「オーナーがゴリ押して無理に導入しなければ、そんな風に頭を悩ます必要もなかったでしょうに」
「ぬぅ、申し訳ない」
「まあエクスタのブースがフル稼働している以上、どうテコ入れしたところで、エクスタブースからこれ以上の利益を引き出すのは無理なんですけどね。オーナー、頑張ってテコ入れして下さいね」
「邑上店長はこの件になるとガチで物言いから容赦が消え失せますよね」
「だって、これで赤字増やして評価が下がるのが私なんですもん。容赦なんてしません」
「ですよねー」
「ですよねー、じゃないですよ」

 ぺしんと頭を引っぱたかれ、平身低頭するしかない俺である。
 そんな俺に邑上店長も諦めたようなため息をつくのだ。
 これが地味に痛い。

「これで、せめてサクトの稼働率が他のVRゲーム並であれば、多少の言い訳もできるんですけど」
「サクトのためだけに広告打つわけにもいかんしなぁ」
「そんな予算ないですしね……。お金の掛からない広告、というのもないわけではないですが」
「え、あるの、そんな広告?」
「あるって言えばありますけど」

 ただし、凄く面倒ですよ?
 嫌そうな顔で言う邑上店長に、俺はそれがどんな広告なのかを尋ねたのだが……。





/





 鳴り響くのは荘厳なるパイプオルガンの調べ、教会音楽。
 回想はここまでにして現実に目を向けることにする。

「ブログを使ったプレイ日記ねぇ」

 確かに面倒だわ、と聖堂内で(自分のアバターのおっぱいを揉みつつ)ため息をつく俺である。
 邑上店長の提案したお金の掛からない広告、というのがプレイ日記のことであった。
 店のホームページのトップにブログサイトへのリンクを張って、そのブログで【サクト レコンキスタ・オンライン】のプレイ日記を掲載していく。
 確かにちょっとwebサイトを弄るだけなので金は掛からないだろう。
 ただし、そのプレイ日記が詰まらなければ見向きもされないだろうし、ブログの内容次第では逆にそっぽを向かれる可能性もある。
 面白可笑しく、お客様方の興味を引くようなプレイ日記がお前に書けるのか、などと言われてしまえば、素直にイエスと頷ける自信なんてあるはずもない。

「だってのに、安請け合いしちゃったもんだよなぁ」

 そして、イエスと頷ける自信もないのに、俺は「任せとけ」なんて邑上店長に言ってしまったのである。
 だって、それくらいしか出来ることはないのだ。
 何であれ出来ることがある以上、導入を決定した責任者として、それを試さないわけにはいかない。
 そして為さねばならないことがある以上、いつまでもおっぱいを揉んで悦に浸っているわけにもいかない。

「ま、いつまでもこうしてても仕方がない。とりあえずゲームを進めるか」

 気を取り直し、俺はようやくおっぱいから手を放した。
 聖堂の正面、祭壇の位置には司祭っぽい格好をした女性NPCがいる。
 NPCは頭上に表示されるキャラ名の横に、丁寧に小文字で【NPC】と表示されるから一目両全だ。
 これまで遊んできたゲームのセオリーからすれば、あの司祭はチュートリアル担当か、物語のプロローグを語って聞かせてくれるNPCなのだろう。
 というかだが、今更ながらに聖堂内に自分以外のプレイヤーがいなかったことに安堵する。
 ログインするなり自分のおっぱいを揉みしだいているプレイヤーなんて、変態か童貞の何れか以外の何者でもない。

「おお、新たな戦士よ、よくぞ参られました! 私はディーネ、この【鉄の城塞都市アイゼニア】の結界を守護する司祭をしています」

 祭壇に近づくとディーネと名乗った女性司祭から声を掛けられる。
 しかし近づいてよく見てみるとこのディーネ司祭、ちょっと薄汚れているというか、なんというか若干ボロ臭い感じがする。
 普通こういうキャラって、もっと煌びやかな格好をしているもんなんじゃないのか?

「戦士よ、あなたの名前を聞かせてもらえますか?」

 俺の訝しむ様子に気づかないで話を進める辺りは実にNPCらしい。
 まあ別にNPCが多少ぼろっちくても俺に何か影響が出るわけでもなし、気にすることもないか。

「カドヤだ」
「カドヤ、カドヤですね。あなたの名前はこの祭壇で神の心に刻まれました。戦士カドヤ、まずは私の話を聞いてください。長い話です、忌々しき西の魔王が現れて以来の、このコンクレティア大陸を襲った悲劇の話です」

 そして始まったのはこのゲーム【サクト レコンキスタ・オンライン】の設定のお話である。
 プレイ前に公式サイトを流し読みしてきたからディーネの話す内容は全部知っている。
 かつてコンクレティア大陸には七つの国があり、七つの国は神聖教会の教皇を盟主として仰ぎながら緩やかな連帯を築き、平和を謳歌していたそうだ。
 それが今から五年前、大陸西部の小国【ウェスタヴィア】の地で古の伝承に謳われる魔王が降臨する。
 魔王の軍勢はその圧倒的な物量でコンクレティアの諸国へと侵略を開始し、今では大陸北部のこの国【ノーズテルム】を残して大陸諸国は軒並み滅亡してしまったのだとか。
 そしてコンクレティアに唯一残された人類の王国であるノーズテルムにしても、残っているのはそれぞれ大都市結界で守られた【鉄の城塞都市アイゼニア】、【鋼の王都ベイゼル】、【青銀の聖都サフィラス】の三つの都市のみ。
 ゲームのプレイヤーたちはこの絶望的な状況下から反攻を開始し、コンクレティア大陸全土を奪還するのが目的であるらしい。

 司祭のディーネはそんな内容のことを如何にも仰々しく、ゲームの演出っぽく俺に語って聞かせた。
 尤もそれを聞かされる俺としては、既に知っている内容だったのでかなりいい加減に聞き流していたのだが。

「それでは戦士カドヤよ、大陸奪還を志す貴方に、我らが神【サクト】より守護の祝福を」

 ディーネが手にした錫杖を高くかざす。
 すると辺りにゆっくりと光が満ちていくようなエフェクトが現れ、俺の耳に神の声が聞こえてきた。


 ――【アイゼニア守護司祭 ディーネ】より、サクト神の祝福を授けられました。
 ――【名も無き戦士 カドヤ】は10ポイントのステータス上昇値を入手しました。
 ――入手したステータス上昇値をパラメータに割り振って下さい。
 ――このステータス上昇値は今すぐに割り振らずにプールしておくことも可能です。
 ――ステータス上昇値の割り振りは、リングターミナルのキャラクターステータス画面から行えます。
 ――ステータスの割り振りを終了する場合は、ステータス画面を閉じて下さい。


 神の声というか、単なるシステムメッセージなわけだが。
 とりあえずリングターミナル、右手の人差し指に装備した指輪を弄る。
 指輪にはめ込まれた透明な石が起動ボタンになっているようで、石に触れると半透明のウィンドウが現れた。

 メニューウィンドウにある項目は、【ステータス】【スキル】【バトルセットアップ】【アイテム】【クエスト】【ライブラリ】【システム】の7項目。
 タッチパネル的な操作でステータス画面を開くと新たにウィンドウが立ち上がって、そこに俺のプレイキャラである【カドヤ】のアバターモデルと、各種ステータスが表示された。


---------------
【カドヤ】
 Lv:1 LP:3
 称号:名も無き戦士
 拠点:鉄の城塞都市アイゼニア 市民レベル:Lv.1
 ギルド:無所属 流派:我流戦闘術 位:我流6級
 所持金:0G
【補正効果】
 なし
【基礎ステータス】
 HP:75 SP:40 MP:10 ☆残りステータス上昇値:10
 EXP:00 NextLvUp:300
 筋力:7
 体力:8
 敏捷:3
 器用:5
 魔力:2
 幸運:5
【総合ステータス】
 近接攻撃:110
 間接攻撃:--
 魔法攻撃:--
 物理防御:120
 魔法防御:20
 クリティカル発生率:5%
---------------


 なるほど、確かにステータス上昇値の項目に10ポイント追加されている。
 このゲームでのキャラ育成は、レベルアップ時とイベントで支給されるステータス上昇値を割り振ることで行われるシステムだ。
 確かレベルアップ時に支給される上昇値が3ポイントだったはずだから、神の守護によって実質レベルが3上がった以上の上昇値が支給されたことになる。

 現在の基礎ステータスはキャラメイク時に与えられる30ポイントを適当に割り振った形だ。
 傾向としては防御型のキャラになるのだろうか?
 このゲーム【サクト レコンキスタ・オンライン】では敵の出現率が尋常ではないとのことなので、防御力に影響を与える筋力と体力に重点を置いてステータスを割り振ってみたのだが……。
 ちなみに初期装備もキャラメイク時に選択する。
 俺が選んだのはワンハンドアクスとライトバックラー、軽鎧のブレストプレートだ。
 剣や槍といった選択肢もあったのだが、斧というごつい装備を細身の女キャラが装備しているというギャップが俺の萌えポイントだったりする。
 筋力と体力に重点を置いてステータスを振っているのだから、キャラ性能的にもミスマッチではないと思うのだが、これが吉と出るか凶と出るかは今のところ不明だ。
 戦闘をしてみないことには何とも言えない。

 さておき、とりあえず今もらった上昇値を割り振るのは止めて置こう。
 まずは街の外で敵と戦ってみて、それから割り振るポイントを決めることにする。
 今ここで振ってしまって、いざ戦いになってからポイント配分に失敗したと後悔するのは悔しいだろう。
 システムメッセージでもポイントの割り振りは今すぐじゃないくてもいいって言ってたしな……。

 ステータス画面を閉じる前に、現在のステータス画面のスクリーンショットを撮っておくことにする。
 プレイ日記をつける以上、こういうのも必要だろうという判断だ。
 スクリーンショットはリングターミナル搭載されているカメラ機能で撮るのだが、このカメラ機能、実は有料の課金アイテムである。
 尤もネットカフェでのプレイであれば、公認店舗でのプレイ特典として無料でカメラ機能を使うことも出来る。
 このことも一応宣伝としてプレイ日記に書いておくかなぁ。

「おや、守護の祝福を使わなかったのですか?」

 ステータスウィンドウを閉じるとディーネ司祭がそんなことを言ってくる。

「与えられた祝福をどう使うかは貴方次第です。確かに無理に今すぐ使う必要はありませんが、なるほど、どうやら貴方は慎重な人物のようですね」

 苦笑するような、実に人間くさい微笑みを浮かべるディーネ。
 これが仮想現実、コンピュータによってプログラム制御された笑顔だというのだから、何とも感心してしまう。


 ――アイゼニア守護司祭ディーネより慎重な人物という評価を受けました。
 ――【名も無き戦士 カドヤ】は【周到なる初心者】の称号を入手しました。
 ――称号の付け替えはステータス画面から行えます。


 そしてまた響く神の声(システムメッセージ)。
 ステータス画面を開いて称号の項目に触れてみると、現在付けられる称号のリストが表示された。
 その数三つ……三つ?


---------------
【名も無き戦士】(称号補正:なし)
 コンクレティア大陸にやってきた新参戦士。
 彼/彼女の戦いはまだ始まったばかり。

【周到なる初心者】(称号補正:器用+2)
 コンクレティア大陸にやってきた慎重な新参戦士。
 石橋を叩いて渡るその慎重さが、この先きっと彼/彼女の助けとなるだろう。

【初級ネットカフェプレイヤー】(称号補正:全基礎ステータス+1)
 サクト-レコンキスタ・オンラインの公認店舗へようこそ!
 貴方の公認店舗でのプレイは1回目です。
 公認店舗でのプレイ回数によってこの称号は強化されていきます。
 次の機会も是非サクト-レコンキスタ・オンライン公認店舗で遊んで下さいね!
---------------


 あー、そうか、そういえばそんなのもあったな、公認ネカフェでのプレイ特典って。
 これはネカフェプレイのプレイ日記的にも、そしてもちろん実用的にも【初級ネットカフェプレイヤー】の称号を付けざるを得ないだろう。
 ということで【初級ネットカフェプレイヤー】の称号を選んでみると、このようにステータスが変わった。


---------------
【カドヤ】
 Lv:1 LP:3
 称号:初級ネットカフェプレイヤー
 拠点:鉄の城塞都市アイゼニア 市民レベル:Lv.1
 ギルド:無所属 流派:我流戦闘術 位:我流6級
 所持金:0G
【補正効果】
 称号【初級ネットカフェプレイヤー】:全基礎ステータス+1
【基礎ステータス】
☆HP:85 ☆SP:45 ☆MP:15 残りステータス上昇値:10
 EXP:00 NextLvUp:300
☆筋力:8(7+1)
☆体力:9(8+1)
☆敏捷:4(3+1)
☆器用:6(5+1)
☆魔力:3(2+1)
☆幸運:6(5+1)
【総合ステータス】
☆近接攻撃:120
 間接攻撃:--
 魔法攻撃:--
☆物理防御:130
☆魔法防御:30
☆クリティカル発生率:5%
---------------


 なるほど、括弧内の数字が称号による補正効果ってことか。
 HP、SP、MPも基礎ステータスの上昇を受けて向上している。
 総合ステータスの数値も上昇してるし、何気に美味しいな、この特典称号。
 しかも公認店舗でプレイを続けると称号の補正も強化されるというのだから、何気にというか露骨に美味しいような気がしないでもない。
 一応この称号変更後のステータス画面もスクリーンショットを撮っておくか、ということでカメラ機能でパシャリ。

「それでは【初級ネットカフェプレイヤー カドヤ】よ。貴方の戦いは今日この時より始まります。まずは街の道場を周って貴方に合う流派戦闘術を身に付けるのがよいでしょう。貴方の武運長久を祈っております」

 ディーネが胸の前で手を組んで頭を垂れる。
 しかし「【初級ネットカフェプレイヤー カドヤ】よ」って、このシチュエーションでその称号を呼ばれると、なんだかすげぇ微妙な気分だ。
 なんとも言いがたい表情をしているだろう俺の脳内に、またしても神の声が響く。


 ――ランク1クエスト【プロローグと守護の祝福】をクリアしました!
 ――クリア報酬として【500G】と【ライフポーション】【スタミナポーション】【マジックポーション】を
   それぞれ3本ずつ入手しました。
 ――入手したアイテムはリングターミナルのメインメニュー、アイテム画面から確認できます。


 ああ、これイベント――というかクエストだったのか。
 というか最初のチュートリアル(?)がクエスト扱いで報酬ももらえるって、これも結構美味しいな。
 なんて思っていると、先ほどまで鳴り響いていた教会のBGMがゆっくりとフェードアウトしていく。
 クエスト進行時だけ音楽が流れる仕様なのか。
 まあ確かに聖堂内を見渡してもパイプオルガンらしき物体は置かれていないから、そんなものかと思う。

 そしてふと気づいてみれば、いつの間にか聖堂内には複数のプレイヤーキャラが存在していた。
 長大な両手剣を背負った男、長柄武器を杖のようにしてすがりつき、何とか身体を支えている女戦士。
 座り込んでしまっている剣士キャラに回復魔法を掛けている僧侶っぽいキャラもいる。
 他にも俺と同じような格好をした、見るからに初心者というキャラも数名。
 祭壇の方を見ればNPCであるディーネ司祭もちゃんといるが、そこら辺のプレイヤーキャラらしき人物たちはいったい何時の間に現れたんだ?
 クエスト中のイベント時だけ、個別マップ扱いになっていた、ということだろうか。
 となると彼らからしてみれば、俺の方が突然ポンッと現れた感じになるんだろう。

 まあ、どっちでもいいか。
 それより気になるのは、クエスト終了と同時に聖堂の外から何やら妙な喧騒が聞こえてくるようになったことだ。
 教会の壁越しでよく聞こえているが、金属と金属を打ち合わせるような音に混じって、断続的に悲鳴のような声も聞こえてくる。
 いったいなんだ?
 興味を引かれた俺は聖堂の出口に向かって歩き出す。
 簡素というか分かりやすい作りをしているこの聖堂は、祭壇の正面にある大扉がそのまま外への出口になっているらしい。
 扉に手を掛ける。

「――あ! ちょっとそこの君! 聖堂の外に出るなら今はちゃんと装備を――」

 背後から掛けられたそんな声に、俺は反応を返すことは出来なかった。
 何故なら扉を開けた聖堂の外、そこに広がっていた予想外の光景に俺が固まってしまったからだ。







「くそっ、負けるな! 押し返せぇー!」
「雑魚どもがぁ! 鬱陶しいんだよぉっ!」
「うわやばいまじやばい、誰かライフポーション掛けてぇ! 死ぬ死ぬ!」
「ちょ、まwwww うは、ジャイアントオーガさんマジぱねぇwww」
「おい! ジャイアントオーガが櫓タゲってるぞ!?」
「やっば! 櫓の弓使いたち気づいてる!? 気づいてなくない!?」
「櫓ぁ、弓撃てぇ! 盾持ちの近接職急げ! オーガの足止めしろよぉ!」

 ――中央広場が陥落しました。
 ――アイゼニア所属プレイヤーの士気が低下します。
 ――士気低下効果によってアイゼニア所属全プレイヤーのSPが100ポイント低下します。

「ちょ! 中央広場落ちたってマジっすか!?」
「うは、俺士気低下でSP100切ったwwww 一旦下がりますwwww」
「ばっ、おま、お前が下がったら誰がここ支えんだよ! ほれ、スタミナポーション!」
「ヤバスwwww ありがたすwwwwww マジかっけーっすwwww」
「うぜぇ! いいから戦え!」

 ――東弓櫓がジャイアントオーガによって破壊されました。
 ――アイゼニア所属プレイヤーの士気が低下します。
 ――士気低下効果によってアイゼニア市内東街区のプレイヤーのSPが20ポイント低下します。

「やwwwwぐwwwwwwらwww」
「うおおおお! 久々にやべぇぇぇぇ! スタポ、スタポぉぉぉぉ!」
「いいから早く誰かあのジャイアントオーガ潰せよぉぉぉ! もおぉぉぉ!」
「やばいやばい! 雑魚が警戒網抜けた! 聖堂向かってる!」
「聖堂守れぇ! 復活拠点落ちたらマジ洒落になんねぇぞぉ!」
「今向かってるし! っつか誰かほんと、あのオーガ何とかしてぇ!」
「よーし、ここは私に任せて皆は先に行ブベラ!?」
「し、死んだー!?」







「……なんだ、こりゃ」

 聖堂の扉を開けたそこに広がっていた光景は、とんでもない修羅場だった。
 街中に雲霞の如く溢れかえるモンスターの群れ。
 古式ゆかしい名台詞を使えば、「敵が多すぎて街が見えない! 敵が七分で街が三分! 敵が七分で街が三分だ!」というレベルである。
 そしてそんな敵から街を守ろうと奮戦するプレイヤーたち。
 しかし奮戦空しく、街を守るプレイヤーたちはどんどん押し込まれているように見える。

 そして俺の脳裏を過ぎったのは、プレイ前にレビューサイトで見たこのゲームの評判だ。
 曰く、『絶望的なゲームバランス』。
 レビューサイトを見たときはいまいちピンと来なかったが、今はその評価にも納得できる。

 圧倒的な物量で押し寄せる魔王軍、ジャイアントオーガの一撃で呆気なく打ち崩される大櫓、紙の如く破られるバリケード。
 殺しても殺しても終わりが見えない戦い、どんなに頑張っても守りきれず死んでいく仲間たち。
 確かにこれは絶望的なゲームバランスだ。
 ていうかここって、街のマップだよな。
 当たり前のように街を襲ってくるモンスター、というか普通に街がモンスターに落とされそうになっているゲームってどうなんだ。

 魔王軍によって次々と大陸各地の拠点を落とされ、コンクレティア大陸の人類の命運は風前の灯火だという、【サクト レコンキスタ・オンライン】の舞台設定に嘘偽りは全く無いようだった。


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