こんにちは。
世界って意外に狭いんですね。
「おばぁ様、この子を僕に頂けませんか?大切に育てますから」
レシィはおばぁちゃんがいる部屋に戻ると開口一番に問うた。
「あら、その子が気に入ったの?
あなたのことだから心配ないと思うけれど・・・兄弟たちと離れるのは可哀そうじゃないかしら」
「僕がここへ来るときにこの子も連れてきますから、大丈夫ですよ。
そしてできれば、その子も譲ってもらえませんか?」
広い部屋の隅で一匹で遊んでいるアーネさんを指さす。
他の兄弟たちからすると、圧倒的に強いアーネさんは少し怖いみたいなんだよね。
「・・そうね。その方がいいかもしれないわ。
その子と特に仲がいいみたいだし、2匹ならさみしくないかもしれないわね」
おばぁちゃんはちょっと残念そうだったけど、割と簡単に私たちをレシィに譲ってくれた。
よかった。正直アーネさんのことはちょっと不安だったんだよね。
いつか家の誰かに大けがとかさせてしまうんじゃないかって。
力の加減はだいぶ上手になったけど、アーネさんはまだ子猫だから。
「ありがとうございます。おばぁ様」
おばぁちゃんの返事に、レシィの表情がぱぁっと晴れやかになる。
たぶんこれは素で喜んでるなぁ。
前世では結局死ぬまで飼えなかったから、念願の猫との生活だもんね。
「うみゃ~ん」
アーネさんがレシィに抱かれている私の方にやってくる。
たぶんアーネさんも気づいてるんじゃないかな。レシィと私のオーラが全く同じだって。
だからなのか、初対面だというのにアーネさんはレシィに対してとっても好意的だ。
今だって、彼の足にからだをすりすりしている。
弟がもう一匹できたような気分なのかも。
「あらあら、もうすっかり仲良しなのね」
おばぁちゃんも微笑んでいた。
おばぁちゃんの家と少し離れた場所にあるレシィの家でくつろいでいる。
レシィの両親は家を空けていることが多いので、一年のほとんど彼と使用人しかこの家にはいないらしい。
おばぁちゃん家よりは小さいけど、この家だって十分大きいのに、もったいない気がする。
まぁ私たちも気を使わなくていいから、その方がありがたいけどね。
私はおいしいごはんを食べれるし、アーネさんのフォローは問題ないだろうし、当分は安泰だね!
「キメラアントは?」
大きめの椅子にゆったりと腰掛けたレシィが不安そうに問いかけてくる。
内面はともかく、その様子は上品で、どこかの貴族みたいだ。
・・・それは原作の主人公がどうにかしてくれると思うけどなぁ。
主人公が敗北し続ける少年漫画なんて、読者が許しはしないと思うし。
それにいつ来るかなんて原作の年を覚えてない私たちにはわからないしね。
もしかしたら今は原作開始の随分前で、私たちが生きている間には起こらないことかもしれないのだ。
私の楽観的な意見にレシィは頭を抱えて返答する。
「・・それがそうでもないんですよ。」
へ?
「ニコルって、覚えてますか?」
ニコル?どっかで聞いたような・・・脇キャラだよね。
「原作のハンター試験の一次で脱落した受験者の名前です。
・・・おばぁ様の子ども、つまり僕の叔父も、ニコルという名なんです。」
まさか・・・
「そのまさかですよ。外見の特徴も似ているのでたぶん間違いありません。
そしてそのニコルが、今年ハンター試験を受けに行くとおばぁ様に話しているのを聞きました。」
じゃあ、今は原作の始まる直前!?
シャレにならない事態だ。
「そうです。まぁだからといってに立ち向かう気は僕はありませんし、あなたもないでしょう?
しかしいざというとき、逃亡できるだけの力がないと・・・」
確かに。あんなのの餌になって死ぬのはごめんだしね。
これは本格的に鍛えないといけないなぁ。
「・・そういう事情もあったので、実はかなり不安だったんです。
あなたたちが来てくれてうれしい。」
レシィは心底安堵したような笑みをみせた。
事情を知っているのが自分だけというのも不安だよね。
ましてや、元が『私』の性格なら・・・
うん、私も会えてよかったよ。
「そうだ、おばぁ様からはまだ、名前を頂いていないんでしょう?
レキという名前はどうですか?」
レキというのは、『私』が猫を飼ったらつけようと思っていた名前だ。
レシィとも似てるし、そうだね。それでいいよ。
少し昔を思い起こしながら返事をした。
「よかった!」
レシィの頬がほんのり赤く染まっている。
ずっとつけたかった名前だもんね。
「これでハンター試験のときも名前で呼び合えますね!」
・・・・は?
私の人生はまだまだ安泰とは言い難いようです。