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No.12073の一覧
[0] 【息抜きネタ】地獄生徒かみやん  上条さんの右手は『鬼の手』の様です[宿木](2009/11/01 22:11)
[1] 地獄生徒かみやん  登場人物紹介[宿木](2009/11/01 22:51)
[2] 序章 あるいは、上条当麻はやっぱり不幸である[宿木](2009/09/22 15:41)
[3] 地獄生徒かみやん ~石積みの数え唄~[宿木](2009/09/27 13:40)
[5] 地獄生徒かみやん ~真夜中に動く者~[宿木](2009/09/27 13:38)
[6] 地獄生徒かみやん ~願いと糸と~[宿木](2009/09/27 13:37)
[7] 地獄生徒かみやん ~葬儀場の骨喰らい~[宿木](2009/09/28 01:21)
[8] 地獄生徒かみやん ~鉄棒河童~[宿木](2009/09/29 23:11)
[9] 地獄生徒かみやん ~七人斬~[宿木](2009/10/03 22:09)
[10] 地獄生徒かみやん ~七狼首塚~[宿木](2009/10/08 00:59)
[11] 地獄生徒かみやん ~押しかけ氷娘~[宿木](2009/10/31 21:49)
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[12073] 地獄生徒かみやん ~押しかけ氷娘~
Name: 宿木◆442ac105 ID:075d6c34 前を表示する
Date: 2009/10/31 21:49



 地獄生徒かみやん ~押しかけ氷娘~



 【雪国の妖怪】


 人間が住むのに適さない、極限の世界に住む妖怪たちの事。
 災害・天災として恐れられるものが多く、その力は強大。
 人間を簡単に殺害しうる能力を保有し、一度目を付けられたらそう簡単には生き残れないが……気に入った人間個人とは仲良く付き合ってくれるらしい。
 勿論暑さが天敵である。



     ●



 それは、とある日のこと。
 妖刀《七天七刀》を始めとする大小様々なトラブルが集結し、夏休みも終わり、宿題の未提出による補習も終わり、もう時期に大学園祭『大覇星祭』が始まろうという頃。

 「上条当麻。質問をします。答えなさい」

 唐突に家に押しかけた少女は出会い頭に口を開き。


 「私を妻にしてくれますか?」


 そんなトンデモナイことを宣ったのである。



     ◇



 サーシャ・クロイツェフというのが、その少女の名前だった。
 髪が前の目を隠しているものの、顔立ちは美人といえるレベル。少なくとも同居人である同じくシスター、魔本《禁書目録》の自我意識ことインデックスよりは成長している体つき。肌は白いし、来ている衣服が拘束衣っぽい黒の露出の多いものであることを除けば、総合評価はかなり高い。

 「……で、あの。お願いですから事情を説明してください……」

 同居人に齧りつかれ、頭に負った傷を包帯の上から抑えながら上条当麻は言った。
 男子寮の彼の部屋。そこそこに整えられた部屋の中央。置かれた机で向かい合いながら座る二人である。

 「返答一。事情を説明とはつまり、私と結婚して新婚生活をする理由でしょうか?」

 「――――そうだけど、そうですけど!お願いですからもうちょっと言葉を選んで下さい!」

 無表情なサーシャに比べ、もう涙目の上条当麻。
 ストレートに単語を出されると、意外と純情な上条さんは困るらしい。
 そしてその上条当麻を睨みつける、銀髪のシスター・インデックス。
 ベッドの上に置かれた大きな、鎖で封印された本。その上に乗る彼女は、上条当麻が慌てている様子を見て、面白くないように頬を膨らませて膝を抱えている。

 「解答一。上条当麻、私を覚えていませんか?」

 「えーと……その……」

 言葉を濁す上条当麻の脳内では『上条さん!思い出しなさい!さあ私はこの少女になにをしたんでしょうか!結婚を申し込まれるヤバイことでもしたのでしょうか!?』――などと会議が開かれているのだが、結論は出ない。
 その様子を見ていたサーシャは。

 「覚えていないのですね?」

 やはり冷静なままで。

 「……………………はい」



 上条当麻には、大人しく彼女の話を聞く以外の選択肢は残されていなかった。



     ●



 私は大陸の氷の中で生まれた。


 私が生まれるよりもずっと昔。
 私たち雪と氷の一族は、大陸の雪山奥地でひっそりと生きていたのだという。
 けれども、文明の進歩と共に居場所を追われ、追い詰められ。
 その恨みは人間へと向けられた。
 運悪く迷った人間。
 雪山で出会う密漁者。
 あるいは妖怪を狩る仕事人たち。
 そんな人間たちを殺すことに――――私たちは罪悪感を得なくなっていった。
 一族は決して多くない。
 だからこそ、無駄に被害を出すわけにはいかないと親たちは必死になって教え込んだ。
 代々必死に教え込まれた異能の力は、長い年月の内に凝縮され上昇し、いつしか私たちの故郷の周辺は誰も近寄らない極寒の地獄へと変わった。
 大陸の雪国で生きる人々ですらも近寄らない、静謐な世界。
 けれども、私は出会った。


 上条当麻に。


 その時のことはよく覚えている。
 私はその時、まだ幼かった。
 幼いと言っても妖怪の中での話。妖怪は外見と年齢が一緒のことの方が珍しい。けれども精神年齢は肉体に引っ張られるから――――その時の私は、知識こそ大人と同等に持っていたけれども、精神も肉体も十歳前後の少女と変わりが無かったはずだ。
 猛吹雪の中で、私は歌を歌っていた。
 露西亜の民謡を、幼い声で口ずさんでいた。


 ――Калинка, калинка, калинка моя!(ガマズミの樹、ガマズミの樹、ガマズミの樹と私)

 ――В саду ягода малинка, малинка моя!(庭のベリー、樹と私)


 雪の中で私は上機嫌に歌っていた。
 けれども。
 突然に。


 ――――私は撃たれた。


 銃声は、雪に掻き消されて。
 氷雪の中に、赤い血が滴り落ちる。
 常冬の世界で生まれ育った私が、初めて寒さを感じた瞬間だった。
 苦手なはずの熱さを。
 寒さよりは苦痛を。
 その身に感じた瞬間だった。
 倒れた私は、視界のなかに何人もの男を見つけて悟る。
 大陸の中でも名の知れた妖怪ハンター達が、最初に見つけた私を撃ったのだ。
 その時の恐怖は、今でも覚えている。
 妖怪だって死ぬことが怖い。
 死なないのは幽霊や黄泉の国の関係者だけ。私たちも生き物だから。
 ハンターは大人の男の人の集団で、全員が極寒対策の装備に身を包んでいた。
 息が出来なくて苦しくて、私は泣いたけれども助けは来なかった。
 近づいて来たその大人は、何かを言いながら私の頭に銃を突き付ける。
 たぶんその言葉は、呪詛や恨みの言葉だったのだろう。
 ひょっとしたら妖怪に家族を殺されたのかもしれない。
 だから妖怪を怨んでいるのかもしれない。
 でも、私は。
 死ぬ間際に、殺される時になって思った。


 ――――私は何か、悪いことをしたのだろうか。


 ゴツリ、と頭に突きつけられて。
 泣きそうになった時だ。
 その二人は、現れた。


 「どうやら唐突に事件の渦中だけれども……何時もの事だね、当麻」

 「――――ああ。どっちが原因なんだろうな、父さん」


 私の目の前に、上条当麻とその父親が現れた。



     ●



 「その時の光景は覚えています。ハンターと交渉して故郷を助けてくれた貴方のお父様も立派でしたが、私にとっては貴方の方が印象に残りました」

 雪女か氷柱女か、とにかく露西亜出身の、そういうタイプの妖怪はそんな風に話した。
 とうまが小さい頃、『鬼の手』を得た後に世界中を両親と放浪したことは妖刀の時に聞いていたけれども。

 (…………面白くない、かも)

 世界中を回っている時に、きっと父親と同じように女の子と接触しているに違いない。
 不幸だとか言いながら、きっと解決に動いてしまうのだ。
 彼女、インデックスを助けた時のように。

 「――――つまりその時の妖怪が私です」

 サーシャは、淡々と、でもおそらくは感情を込めて話す。

 「傷を負った私の治療をしてくれたこと。雪山に住む冬を統べる妖怪を恐れなかったこと」

 その時のことを思い出して、なにやら頭を押さえて唸っているとうまに視線を向けて。
 一拍置いて。


 「妖怪として、この人を伴侶にしようと」


 「ちょ、ちょっと!ちょっと待って下さいよサーシャさん!?」

 大人しく聞いていたけれど、流石にその論理の飛躍はとうまには受け入れ難かったみたい。

 「どうしてそこからそんな風に飛びますか!?」

 叫びながら強い口調で詰め寄ると。

 「解答二です。上条当麻、貴方が私に治療した時に何をしたのか覚えていますか?」

 「…………え?」

 唐突に、とうまの動きが止まる。
 サーシャの回想話を聞いて、どうやら過去に出会っていたことを思い出した感じだ。

 「……………………あ」

 その時の光景を思い出したのか、とうまの顔が青くなったり赤くなったりする。

 「そうです」

 無表情なままで、サーシャはやっぱり頷いて。



 「服を脱がせた私の体をその右腕で存分にまさぐったでしょう」



 「いえ!ですがそれは治療のためであってそもそもその時は当麻さんはまだ小学生で治療しないと貴方が危険で右腕ならば妖怪の治療が可能で寒さに強くて――――」

 わたわた、と立ち上がって言い訳をするとうま。

 (…………うん、まあわかってるけどさ)

 助けたい一心で行動していたことくらい、普通に予測がつく。《治癒(ヒーリング)》を右腕でしようと思ったのだろう。
 でも。
 サーシャ、氷雪の妖怪の貞操観念がどの程度なのかは知らないけれど、つまりそれでとうまを追いかけて来たのだ。

 「かまいません」

 同じように立ち上がったサーシャは、無表情なまま。
 じりじり、ととうまに迫っていく。

 「――――責任さえ取って頂ければ」

 「いきなりハードル高いですね!」
 
 「私のどこに不満がありますか」

 じりじり。

 「今の状況を除けば無いけどそういうもんじゃ無いでしょう!?」

 「ご安心を。母親から其れなりの手ほどきは受けています」

 「いえいえ、ちょっと考えて――――」

 じりじり。

 「考えて来たのです。さあ文句を言わずに押し倒しなさい。貴方のような男子高校生は日々劣情に苛まされていることを聞いています」

 サーシャ、押して押して押しまくっている。
 物理的な距離も、押されたとうまは。

 「まどろっこしいですね」

 どん、と突き飛ばされて転がる。


 ――――ベッドの上に。


 なんというか、狩人と獲物の立場が逆の様な気がする。

 (……むー)

 とうまは被害者のはずだけど、なんか気に入らない。

 「考えてみれば最初からこうすれば良かったのです」

 顔を引きつらせるとうまの上に、サーシャは乗った。
 膝から先がベッドからはみ出しているとうまの、腹の上に馬乗りになる。
 来ている衣裳が唯でさえ露出が多いのに、にや、と少しだけ口元に浮かべた笑みと赤い舌が扇情的だった。
 そのままとうまの顔を覗き込むように上半身を擦り寄せて。

 「では、いただきま――――」



 「お邪魔します。上条君」



 あいさが、顔を覗かせた。

 (……あ、そういえば)

 何日か前に相談したいことがあると言って、暇な時に訪ねる、とか言っていた。
 得せずして、修羅場になってしまったわけだけれど。

 「………………」

 無表情なサーシャ。

 「…………………」

 冷たい目で睨むあいさ。

 「――――――――――」

 引き攣った顔のまま、なにも言えないとうま。
 部屋に落ちた沈黙に耐えられなくなって、私はとっくに本の中だ。
 情報を遮断して閉じこもる寸前だった。
 だってそうでもしないと情事を見ることになるんだもん。
 部屋に落ちた冥府のような空気の中で。
 あいさは行き成り身を翻えした。

 「…………お邪魔しました」

 「姫神!誤解だ!」

 「寝台の上で絡む男女。しかも衣裳が卑猥。他にどうしろと」

 「誤解では無く私の裸を見たでしょう」

 「だからあれは仕方なくだ!――待て!姫神!待ってくれ!お願いだから!」

 「良いでしょう? 上条当麻。魔本も引き籠りました。これで事に運べるというものです」

 「…………やっぱり私。邪魔だね」

 「違うー!頼むから話を聞いてくれ姫神いいいいい!」


 ――――もう勝手にすれば良いもん。
 ふん、だ。



     ●



 「酷い目にあった……」

 昼食前の穏やかな時間帯。残暑が厳しい関東の夏であるが、本格的な暑さは過ぎ去っていて、秋の近さを感じさせる。
 近場の公園で上条当麻はため息を吐いた。
 結局なんだかんだで姫神の協力を取り付け、サーシャの束縛から逃れた彼であるが。

 「どこがでしょうか。私に言い寄られるのが不満だと?」

 「その前!いきなりやって来てあの台詞!あれが問題なんですよサーシャさん!」

 隣にはそのサーシャが座っていた。

 「主観一。――――人間の男は面倒です」

 サーシャの服は多少まともな物に変化していた。……というか、させた。
 ジーパンで下半身の露出を抑え、上半身にはシャツにジャケットを着せることで目立たなくしている。
 それでも良く見れば、衣服の下でまるで縛られているイメージを持つかもしれない。
 そうなれば、社会的な上条当麻の立場が危険だったりする。

 「――――まあ良いでしょう。それでは私を案内しなさい」

 そう。
 これから上条当麻は、その危険を背負って。



 彼女と出かけるのである。
 分かりやすく言えばデートである。



 『解答三。……仕方ありません。出会ったばかりで行為に及ぶのが不満ならば一日付き合ってください。今はそれで我慢いたします』

 インデックスから事情を聞いた姫神は、サーシャを止めるべく奮戦し(とは言うものの狐の彼女にサーシャの寒波は随分と堪えたようである)。
 そんな言葉で、氷のサーシャと狐火の姫神の対決は決着がついた。
 その余波で家の中が滅茶苦茶になったりした。
 また色々買わないといけないのか、とか出費に嘆いたりもした。
 涙目になった上条当麻だが、そのシチュエーションが、世の中の男子が涙と共に悔しがる物だろうことを彼は気が付いていない。
 閑話休題。

 「……で、どっか行きたい場所はあるのか?」

 「解答四。貴方にお任せします。私が楽しめる場所をお願いします」

 「……へいへい」

 そんなわけで、二人は公園を出発する。



 当然のように、その背後には、後を付ける影があった。



     ●



 「最初の行き先は。新しいショッピングモール……」

 巫女服で後を付ける姫神秋沙。

 「とうま、多分まいかとか土御門からデートプラン幾つも貰ってるんだよ」

 その彼女に運ばれる《禁書目録》。
 思いきり尾行中である。
 サーシャの行動に、しぶしぶと同意したもののそれで彼女たちが安心するはずもなく、こっそりと様子を窺っていた。
 視界の中、並んで歩く二人はそれなりに良い関係に見える。

 (…………む)

 知らず知らずの内に巫女服の裾を握りしめていた事に気が付き、離す。
 最初に彼らが(というかサーシャが)足を止めたのは。

 「…………何故に?」

 オカルト系グッズを販売する『アイテム』という店。
 その名の示す意味は、関係者ならば明白である。
 サーシャが何に興味をひかれたのかと言われれば――――。



 「いや、サーシャさん?ちょっと違うんじゃないでしょうか?」

 「解答一。……これを要求します。上条当麻」

 「――――本当に?」

 「解答二。本当に、です」

 「…………りょーかい。……店員さーん、この断頭台のミニチュア、一つ」



 そんな感じで買い物をして。
 彼らが次に向かったのは、昼食ということで、最近評判のパン屋。

 「最近評判良いわね」

 「そうなんだ」

 姫神の横には、何故か、本来はいてはいけない人物がいたりしている。
 仕方がない部分もある。
 上条当麻の横にいる女子について彼女が尋ねるよりも早く、姫神が物陰に引っ張り込んだのだ。
 仮に彼女が上条当麻と接触していた場合、それだけで面倒な事になる。

 『じゃあ、私も同行させて貰うわ。文句ないわね?』

 理由を聞いてそう宣言したのは。
 「アイテム」の店長代理、学園都市の第四位、麦野沈利である。
 ちなみに彼女も姫神や上条当麻とは『とある縁』によって知りあいだったりする。

 「あー、青髪。昼食用のランチパック頼む。二つ分」

 入店して、働いていた級友に声をかける光景を見て。

 「かみやん……また女の子と仲良くなって、そろそろ怒るで?」

 「――――青髪?」

 「ひっ……冗談やて誘波ちゃん。……ほれ」

 彼らは手渡されたパンを持って、店内のテーブルへ。
 テーブルの上に広げたサンドイッチを食べる二人。



 「はむ、はむ、はむ――何か?」

 「……いや、食べ方が小動物っぽいな、と思ってな」

 「そうですか。……ああ、上条当麻。指にマヨネーズが」

 「……ん?ああ。――――――なあっ!?」

 「はむ、……ちゅ、……ぺろ――――取れました」



 姫神はギリ、と裾を握っていた手を緩める。
 《禁書目録》は笑顔の比率が増える。
 麦野の手が固く握られているのも気のせいではあるまい。



 それからも、二人のデートは続き。
 行く先々で尾行の人数は増えていった。



 ボーリング場で。

 「上条当麻。投げ方を教えなさい」

 「へいへ――――は?」

 「ですからこっちに来て、手取り足取り上手い投げ方を教えなさい。くっ付いても構いません」


 初春と一緒に来ていた佐天涙子が増えた。
 光景を見るたびにツインテールが波打っている。




 喫茶店で。

 「上条当麻。――――少し、そのコーヒーを分けて貰えますか?」

 「はい?」

 「解答一。――――いえ。味を確かめたいのです」

 「……?ああ。良いぞ」

 「感謝します。――――間接キスです」

 「ぶふぉあ!?」



 吹寄制理が増えた。
 何やら眼鏡が逆光に不気味に輝いている。




 ゲームセンターで。

 「凄いですね。こういう場所は初めてです」

 「ああ、そうか。そうだよな。……やってみるか?」

 「――――ええ。では、やり方を教えて下さい」

 「またですか……」

 「解答一。――――じゃあ、貴方のやっている所を見せなさい。膝の上に乗りますから」



 後輩の白井黒子共々、御坂美琴が増えた。麦野がいるのに喧嘩すら起こらなかった。
 バチバチバジバジと放電がされまくっていて、お姉さまという人がいるのにあの方は、とか呪詛の言葉が放たれている。



 そして。
 割と危険なネオンの輝く方向に行こうとするサーシャを押し留めて。
 彼らは最後に、出発した公園に辿り着いた。




     ●



 「あー……結構、回ったな」

 久しぶりに、遊んだという感じだった。
 最初はぎこちなかったものの、昼食以降は別に意識することなく過ごせたと思う。
 まあサーシャが意外とくっ付いてきたり、体を寄せてきたりと驚いたが、まあ妖怪だから仕方がない。
 秋の訪れを感じさせる夜前の公園は静かで人気もなかった。

 「あー、サーシャ、楽しかったか?」

 「解答一 ――――はい。良い一日でした。私は今まで、こういった文化に触れた事が無かったので――――とても新鮮に感じました」

 「そりゃ良かった」

 彼も結構楽しめたのである。
 難しいことを考えずに遊べる(しかも女子同伴で)というのは、やはり男子高校生の上条当麻にも楽しいのだ。
 そんな風に思いながら、彼は頷いて。
 気がついたら。

 す、とサーシャが身を寄せてきていた。

 「――――――――!!」

 前髪に隠れているものの、その顔は結構に整っている。
 艶やかな唇とか、押しつけられた体温の冷たさとか柔らかさとか、なんか色々に危ない。
 周囲に人気はなく、静かな夜の公園でデートを終えた男女が二人。
 うん、色々と危ない。
 本当に。
 反射的に足を下げようとして。


 ――――足が、動かなかった。


 「サーシャ!?」

 足。膝から下が凍りついている。
 しかも中世の足枷よろしく、氷の球を繋いだ氷の鎖で拘束されている。
 先程とは違う意味での冷や汗が流れ出る。

 「これで抵抗はできません」

 呟いた声は、やはり平坦な物。
 だが、朝とは違う。

 「妖怪としての性なのでしょうか……一日、一緒に過ごしてより気に入ってしまったからでしょうか。」

 妖怪としての本能、あるいは本質なのか。

 「貴方を――――氷像にしたい。氷の中で愛でたい」

 なんか、病んでいた。

 (しまった!)

 内心で思う。
 雪の妖怪、雪女を始めとする種族は、気に入った男性を氷に閉じ込めて保存する(おかげで彼女を助けた際に、父親も凍らされそうになった)性質がある。獲物が少ないから長い時間を掛けるという意味かもしれないが。
 氷の中で、死なにままに繋ぎとめられる。
 別に妖怪を嫌ってはいない上条当麻だったが――――流石にそれは困る。
 その時だ。


 「――――邪魔ですね」


 サーシャが、突如明後日の方向に氷を発射した。
 それは、氷で構成された金槌であり、大車輪であり、鋸であり。
 氷で生まれた幾つもの拷問器具。
 群れは、上条当麻の斜め後方。
 叢の影に殺到して。

 「狐火――《蒼》!」「雷撃っ!」「展開!『歩く協会』!」「隠れて!」

 聞き覚えのある声がした。
 空中にあった氷の像が壊れ、弾かれる。
 ダストとなった氷の破片が降り注ぐ中。

 「サーシャ!?」

 困惑し、呼びかける上条当麻の声と交錯して、藪から出てくるのは――――知り合いたち。
 インデックス、姫神、御坂、吹寄、白井、佐天に麦野まで。

 「お前ら……なんで――――」

 まさか彼女たちが尾行していたとは露知らず。

 「…………いきなりなにするのよ」

 「――――――勝手に付いて来た貴方方が悪いのです」

 戸惑う上条当麻の前で、状況はあっという間に悪くなる。
 ただの修羅場では無い。
 太陽はもはやほとんど沈み。
 これから始まるのは、妖怪の時間。
 夜だ。

 「私見一。――――貴方達は、邪魔です。私と上条当麻の時間を邪魔しないでください」

 サーシャ・クロイツェフの。
 長い髪が、ザワリと逆立つ。
 それは紛れなももなく、戦闘態勢。
 同時に生まれ出でたのは、翼。
 ただの翼では無い。


 氷で造られた、長く巨大な、恐ろしく大きな翼だった。


     ◇


 「うそ…………」

 《禁書目録》が言う。
 妖刀の事件の際に知り合ったこの魔本、戦闘には殆ど役に立たないけれども、自在に展開出来る『歩く協会』の防御力は高い。学園トップクラスの彼女でさえも打ち破るのは難しいのだ。

 「銀髪!あれ知ってるの!?」

 「まさか彼女、『フリーカムイ』!?」

 「詳しく教えてほしいわね」

 周囲に、泡のような毛玉のような、よく分からない物を浮遊させながら言う麦野。学園都市内部では、はっきり言えば仲が悪い――けれども、今はそんな場合では無い。
 凄まじい勢いで、巨大な翼が振り下ろされた!

 ――ドオン!と。

 それはどれ程重かったのか、翼が着地した地面を軽々と押し潰す。
 立ち込める土煙。
 一番戦闘能力が低い、というか皆無な佐天さんは、吹寄さんに庇われてとっくに後方に下がっている。
 黒子は姫神さんと一緒にすでに臨戦状態。黒子には猫耳と尻尾が、姫神さんには狐耳と尻尾がはえている。黒子は長い針を、姫神さんは扇に巫女服。
 かくいう私も雷獣としての性質を出しているし、麦野も長い髪がロールし始めていた。さすが『未』。『寅』の私が言うのもなんだけれども。

 「フリーカムイ、別名をフリーとかヒウリとか言う。北海道もといアイヌ民族の伝承に出てくる鳥だよ。極地の山奥に住んでいて美しい水を好み、好物は海の生き物。川の源流とかに住む」

 鎖を魔本からジャラジャラと広げ、周囲一帯に防御結界を張り始めた《禁書目録》は、なおも続ける。

 「でも、フリーカムイの最大の脅威は、その大きさ。彼らの食べるものは――鮭や『鯨』」

 「くじ……?」



 「完全に大人になれば、原型になった時、一説では両翼で五〇キロメートルを超えるんだよ。大げさに書かれていたと考えて、一桁減らしても五キロ」



 「ごき――!」

 五メートルでは無くて、五キロメートル。
 そりゃ個体数も少ないに決まってる。秘境の奥地でしか暮せないはずだ。

 「あれはまだ雛鳥に近いよ。五キロ以上まで育つには数千年以上かかるらしいし。百年で五十メートル前後。今の彼女は多分、まだやっと三桁。つまり両翼の大きさは、完全に姿を取っても五十メートル。――――大きいよ」

 相手が『神獣』でないことは幸いか。

 「…………というか、何で彼女私たちに攻撃してくるのかしら――――ね!」

 繰り出される鋭利な、氷の一撃を回避。

 「知らないっての。あの鬼の野郎が目当てだ、ろ!」

 妖怪同士での戦いは基本的に厳禁なのだが、そうも言ってはいられない。
 今が夜で良かった。太陽があると、どうしても戦意に支障が出る。
 麦野が繰り出したのは、潰れた泡のようなもの。周囲に浮いていた球体を高速で射出したのだ。
 その一撃は、さらに生まれた氷で阻まれる。

 「舞え!狐火《藍》!」

 先ほどよりも威力の高い、濃い青色の炎が舞う。
 周囲一帯に拡散したその炎に紛れて。

 「にぁ、にゃ、にゃあっ!っと――あの殿方はともかく、お姉さままで巻き込んだのは許せませんわ!」

 黒子が掛け声と共に長い鉄の針を投げる。飛燕のように飛ぶその長い針は、氷の弾幕を縫ってサーシャに。
 その針は、長い氷の毛皮で防がれて対して効果がない。
 けれど、私が攻撃を放つには十分だ。

 「雷撃!」

 私の体から生まれ出でた光の塊が直撃!
 鳥が電気に弱いことは有名だ。空を飛んでいる以上電気エネルギーの逃げ場がないのだから。
 バシイ!――と、閃光の中ではじける音がする。
 目がくらむ中で、それでも。

 「って、――効いてない!?」

 空から降り注ぐのは、氷の羽の砕けた物。
 咄嗟に生み出して受け止めた物が、砕けて降り注ぐ。

 「私見一。――――純粋な水は電気を通しません」

 (…………強い!)

 内心で舌打ちしつつ、美琴は、繰り出された氷の翼を身をおとして回避。
 気がついたら、氷の翼は十枚以上にもなっている。
 中心にいるサーシャの周囲に広がる五十メートルもの翼。
 氷から作り出された偽物の、しかし鋭利な刃物のような翼。
 数刻前までは、大人しい夜の空間だったはずが――――気がついたら氷の暴風が暴れまわる中、いつの間にか戦闘になっていた。
 妖怪の性質上、避けられぬものもある。
 確かに悪意をもって行動する存在や、妖怪よりもよほど狡猾に動く人間もいる。
 けれども。
 彼女、サーシャ・クロイツェフはそうでは無い。
 要は上条当麻を要求しているだけだ。

 (まあ、だからこそ……!)

 それを止めたいのだが。
 抜け駆け禁止、というのが暗黙の了解だったりする。
 それを態々、掻っ攫われる訳にはいかない。
 この場合、鳶に攫われるのは油揚げでは無くて将来なのだから。

 「私見一。――――中々ですが、私を止められません」

 その言葉と同時に。
 暴風と共に、猛烈な寒波が押し寄せる。
 それは、ただの寒波じゃ無い。
 冬の寒波。
 言い換えれば――――。
 フラリ、と勝手に足がもつれる。

 「動物の行動を阻害する――《冬眠》」

 (まず……!)

 強制的に相手を眠りに(それも凍死できる寒さの状態で)落とすような技。
 全員がそうだ。
 狐の姫神、猫の黒子、犬科と猫科両方を持つ美琴、羊の麦野。《禁書目録》以外の面々、特に攻撃の面々がそろってダウンする。
 意識が混濁する中で。


 「サーシャ、そこまでだ!」


 鋭い声。
 上条当麻が、背後から右手を封印から解き放ち――――突きつけていた。




     ●



 ピタリ、と停止した暴風の中で。

 「質問一。――――どうやって、束縛から解放されましたか?」

 私は最初に、そう話しかけた。

 「炎の魔神が渡してくれたカードがあってな……、ちょっとばかり足を火傷したけどな、氷は全部溶けた」

 右腕を微動だにせずに、彼は言う。
 その目に映るのは、強い意志だ。

 「サーシャ、俺はお前の事を嫌ってるわけじゃ無い。でもな、それは駄目だ。そんな技は止めて欲しい」

 彼は言う。

 「例えお前が妖怪であっても俺は嫌わない。でも、だからこそ――――殺す姿は見たくない」

 ――そう言われてみれば。
 上条当麻を狙っているであろう女子たちも、私に攻撃をしてきこそすれ、殺意はなかったように思える。
 私の動きを止めるように行動しているような気がした。

 「サーシャ、まず羽を収めてくれ。そして聞いてくれ」

 ――――上条当麻ならば。
 きっと、羽を収めた処で右腕で攻撃するようなことはしないだろう。
 そんな卑怯な男ならば、容赦無く氷漬けにする。
 羽を収めた私に、彼はありがとう、と言った。

 「妖怪ってのは人間を対象にするのが役目だ。でも、だから何でもして良いわけじゃ無いんだ。俺のことを思ってくれるのは有難い。好いてくれるのは嬉しいぜ?」

 「…………ならば、私と共に」

 「でもな、俺はまだやることがあるんだ」

 そう言って、彼は私の言葉を封じた。

 「家に来てからずっと言おうと思ってたんだけどな。俺にはやらなきゃいけないことがある。最初に会った時とは違う。やらなきゃいけない事が出来たんだ。――――この『右手』のことや、この都市を狙ってる奴らの事もある。俺に出来ることは少ないけどな、でも俺には譲れないことなんだ」

 私は――――黙る。
 でも。
 ならば――――どうすればいいのだ。
 故郷の首長、ワシリーサは両親が死んだ日から育ててくれて、その彼女に上条当麻を自分のものにすると言って出てきてしまったのだ。
 帰っても慰めてくれるだろう。
 でも、ならば――――私の、彼への感情はどうすれば良い?

 「悪いサーシャ。だから、俺は。お前とは一緒に行けない。そして」

 彼は私に、右腕を突き付ける。

 「もしもそれでもお前が俺を連れて行くのなら、俺は自分の為に――――」



 「サーシャ、お前を切る」



 その言葉に。

 「…………わかり、ました」

 自然と、私の口から言葉が零れ出た。
 その強さ。
 優しくて、同時に彼は自分の為に行動する指針を持っている強さ。
 思い起こせば――――初めて出会った日。
 雪山で人間を見て、私は上条当麻を殺そうとすら思った。
 でも彼は言った。


 『良いか、お前が俺を信じられないのは分かる。当然だと思う。でもな、お前は今死にかけてるんだ!――――俺はお前を助けられる。助けたいと思ってる!助けた後で俺を殺してくれてもかまわない。でもお前を助けるために、今だけは俺を信じてくれ。頼む!』


 そう言って、当時十歳前後の彼は、私の上着を肌蹴て『鬼の手』で傷を治してくれた。
 彼はきっと、その時から変わっていない。
 目的の為に死ね無くなったけれども、その分強くなった。
 そのせいで周りに女の子が多いのは気に食わないけれども。

 「…………私見二。とても、羨ましい」

 私は呟く。

 「貴方達の間にある絆が、羨ましいです」

 彼の周囲の少女たちは――――きっと彼のその性格を、理解しているのだろう。
 私は故郷の中でも一人だった。
 両親は死んでいた。
 族長は声をかけて世話をしてくれたが、他の皆からは疎まれていた。
 理由は分からないけれども、私は一人だった。
 だから私は、私を妖怪だと知っても、私を恐れなかった彼に思いを抱えた。
 でも、私よりも――――彼女たちの方がよく知っていた。
 全部ひっくるめて。
 上条当麻という存在が持つものと立場を、知ってしまった。

 「…………溶けてしまいそうなくらいに」

 私は羽を仕舞う。
 数十メートルの氷の翼は、私の力だ。
 でもその力では、彼は――――振り向いてはくれないだろう。
 それが分かってしまった。
 言い切った時の瞳。
 その意志を秘めた強くて優しい瞳に。

 「…………上条当麻。今日は楽しかった。礼を言います――――」

 私はもう、彼を連れて行けない。
 それを知ってしまった。
 でも悪い気分では無い。
 これからどうするのかは、これから考えよう。


 だから、まあ――――これは彼への気持ちだ。
 深い意味はない。


     ◇


 何の目的もなく出歩いていたら、偶然クラスの馬鹿、上条当麻に出会った。
 なにやら女子を連れていたので話しかけようとしたら、姫神さんたちに物陰に引っ張り込まれた。
 事情を聞く限りでは、馬鹿と一緒に行動しているのは、露西亜から態々訪ねてきた雪とか氷とかの妖怪らしい。
 しかもその目的というのが『嫁になる』。

 ――――あの馬鹿は、本当に。

 毎度毎度、なにをしているのだろうか。
 確かに私、吹寄制理も彼には助けられたことがある。
 色々と言ってはいるものの、嫌ってはいない。
 デートをそのまま追跡して、腹が立つくらいに立派な恋人風空間を構成した後に、公園で決着をつけた。
 まあ、それは良い。
 妖怪にありがちな暴走というかで、少しは大変だったけれども、怪我も無かったしいいとしよう。
 でもだ。

 「…………上条当麻。今日は楽しかった。礼を言います――――」

 そう言って、サーシャ・クロイツェフは最後に何を思ったのか。



 思いきり上条当麻にキスをしていった。



 その瞬間、弛緩していた(あるいは弾に魅せる上条当麻の真面目な姿に気を取られていた)空気が一気に緊張した。
 おそらく確信犯だったサーシャさんは、挨拶をして夜の闇に去って行った。
 彼女の来ていた、上条当麻の物をその場で脱いで、かなり危険な格好で空に消えて行った。
 残されたのは、呆然とした上条当麻。
 先程までサーシャさんが来ていた衣服一式。
 そして。

 「で、随分と楽しく過ごしていたようね上条当麻」

 自分でも驚くほどの、冷静な声をだった。

 「事情を話してもらうわよ?」

 恐る恐るといった様子で。
 上条当麻が振り向いた先にいるのは、何やら笑顔を浮かべた女子達。


 鎖を盛大に伸ばしている《禁書目録》。


 犬耳から放電しまくっている御坂美琴。


 狐耳に尻尾を顕現させ手扇を揺らす姫神秋沙。


 周囲に泡の毛玉を浮かべた麦野沈利。


 太腿から長い針を取り出した白井黒子。


 そして涙目の佐天涙子。


 もちろん私の笑顔も、とびっきりのものだろう。



 ……夜の公園で何があったのかって?
 取りあえず言えることは、翌日の教室で上条当麻は、それはもう生きているのがやっとという状態で登校してきたこと、それからしばらく私たちを見る目に恐怖が混じったことだけ伝えておくわ。



     ●



 それから一週間後。
 私、姫神秋沙が上条君を尋ねに行くと、なにやら騒がしい声が聞こえてきた。

 「ちょ、……待っ――、――!」

 その言葉には何やら聞き覚えがある。
 上条君。
 君はやはり、何時も通りなんだね。
 溜息を吐く。
 けれども、ある意味では予想通りだ。

 扉を開けた先にいたのは――――。


 「お久しぶりです上条当麻。あの後、故郷に行って首長に訪ねた処『その男をモノにするまで帰ってこなくて良い』と言われました。というわけで、これからは上条当麻、貴方に自分から、『私を嫁に取るように』させます。――――よろしく」


 そういって彼女は静かに笑った。




 これが。
 後に関係者が語る、妖怪たちの『争奪戦』の始まり。
 あるいは、上条当麻の周辺にこれでもかと言うほどの、今まで以上の女性の影がチラつく様になるのだが――――――ま、それは又、別のお話である。








 そんなわけで、氷の世界に住む巨大な鳥、原作のような翼を操る、サーシャ・クロイツェフにフラグが立ちました。
 ちなみに複線にヒントを加えると、御坂=『寅』、麦野=『未』で、削板=『亥』となります。


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