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No.11883の一覧
[0] 【習作】 カオスゲートオンライン (VRMMO系 TSアリ)[南](2009/10/09 23:29)
[1] 【習作】 カオスゲートオンライン 第2話[南](2009/09/19 00:43)
[2] 【習作】 カオスゲートオンライン 第3話[南](2009/10/27 00:54)
[3] 【習作】 カオスゲートオンライン 第4話[南](2009/10/09 23:36)
[4] 【習作】 カオスゲートオンライン 第5話[南](2009/10/27 00:53)
[5] 【習作】 カオスゲートオンライン 第6話[南](2009/10/27 00:54)
[6] 【習作】 カオスゲートオンライン 第7話[南](2009/11/15 22:01)
[7] 【習作】 カオスゲートオンライン 用語集[南](2009/10/09 23:28)
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[11883] 【習作】 カオスゲートオンライン 第7話
Name: 南◆e65b501e ID:0d46516c 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/11/15 22:01


 「結構気持ちがいいなぁ」
 
 舳先から身を乗り出したシニスが、水平線に目を凝らしながら言う。
 ここは王都アルフレニアの沖に浮かぶ漁船の上、照りつける日差しと吹きぬける潮風が肌に心地よく、冷えたオレンジジュースを片手に、バカンス気分を満喫していた。
 だが、シニス達がこんな所に来ているのは、もちろんバカンスのためでは無い。

 「しかしまぁ、この年でマグロ漁船に乗る羽目になるとは」
 「こらこら、人聞きの悪い言い方をしなさるな、船長が気を悪くする」

 隣で気持ちよさそうに風を受けていたグレンが突っ込みを入れる。
 もっとも、この船の船長はNPCなので、気を悪くするような事はあり得ない。 
 だが、マグロ漁船と言う話はあながち間違いではない、シニス達がこの船に乗り込んでいる理由は、不足してきたマグロやカツオなどの外洋魚を釣る為だからだ。
 と言っても、シニス達に釣りスキル持ちは一人も居らず、実際に釣りをするのは、裏ミシュランの釣り師達だ。
 では、シニス達は何のために居るかと言えば、釣り上げた獲物を仕留めるためである。
 漁船で釣れる獲物は、マグロやカツオ、カジキマグロなど、釣り上げたらそれでおしまいの普通の魚の他に、人喰い鮫や大王イカ、鯨やシーサーペントなど、釣り上げた後仕留める為の戦闘が必要な物も多く、それら凶悪な獲物に対処するために、漁船での釣りは戦闘力必須となっている。
 その為にこの船に乗り込んでいる釣り師達は、それなりの戦闘をこなせる半生産半戦闘職といった者達ではあるものの、人手不足でいつもの人員を揃えられず、臨時に戦闘担当としてシニスたちに同行してもらっていたのであった。
 最も、今回の目的はマグロやカツオなどの普通の魚であり、シニス達はあくまで保険と言う立場、暇を持て余しているシニス達を尻目に、裏ミシュランの釣り師達は釣りに勤しみ、着実に漁果をあげつつあった。
 そんな中、船首楼で風を受けながら、釣りをする釣り師達を眺めつつ、グレンととりとめの無い話をしていると、船室から出てきたディーガンが声をかけてきた。

 「シニスさんは漁船に乗ったこと無かったっけ?」
 「ああ、釣りには手を出してなかったからね、ディーガンは?」
 「私は前に何度か、でもその時はこんな風に潮風や日の光を感じる事は無かったから、結構新鮮です」

 漁船と呼ばれてはいるが、この船の外見は海賊映画にでも出てきそうな、3本マストのキャラック船だ、コロンブスのサンタ・マリア号や、マゼランのビクトリア号と同型と言えば、興味のない人にも形くらいは判るだろう。
 
 「確かにね、これはなら単なるクルージングが目的でも、十分楽しめる」

 その言葉にディーガンもうなずく。
 現実では乗る事などほとんど出来ないであろう、本物の木造帆船でのクルージングは、遊覧船としても十分楽しめる。
 ただ、今までのゲーム内では、あくまで視覚的効果に過ぎなかった船の揺れなどを、ここでは実際の感覚として体感してしまうため、乗り物に弱い者は一発でダウンしてしまう。
 現に今、下の船室のベッドでは、裏ミシュランの釣り師や犬丸など、数人の酔いやすい体質の者が、船酔いで真っ青になって寝込んでいた。

 「そう言えば残月は?見当たらないけど、あの人もダウンしたのか?」

 出港した時は、皆と同じようにはしゃいでいた筈なのだが、今は姿が見えない。

 「いえ、残月さんは下で倒れた人の面倒見てます、何でもリフレッシュ・アリア使うとと具合が良くなるとかで」
 「……なるほど、船酔いは状態異常の一種扱いなわけか、まぁ納得できる話ではあるけどな」
 「ステータス画面で見ると、レベル1の病気扱いみたいです」
  
 リフレッシュ・アリアとは、状態異状回復効果を持つ音楽スキルで、演奏中効果範囲内のすべてのキャラクターのレベル1までの状態異状を解除する効果がある。
 そしてゲーム内での病気とは、ぼやけて波打つような視界の異常と、ヒットポイントとスタミナとマナの自然回復の停止と言う効果だったが、今ではそれに加えて頭痛や吐き気などもあるらしい。
 もっともこの頭痛などが、病気全般に付随した物か、船酔いだからかは判らないが、これでステータス異常が単なる不便な状態から、実害のある物にランクアップしたのは確実だ。

 「しかしこうなると、船に乗れる奴は結構絞られるかもな、遠洋漁業の人選基準は、釣りスキルより船酔いしない事を優先しないと駄目なんじゃないか?」
 「でもこう言う物は乗ってればそのうち慣れるって言いません?」

 そう言われて、乗船早々船酔いに倒れた連中の事を思い返してみる。
 どいつもこいつも、まるで死人のような顔をしてのたうっていた。

 「あの船室で呻いてる連中に、そのうち慣れるから頑張れなんて、とてもじゃないけど、可哀想で言えないよ俺は」

 その言葉にディーガンか苦笑する。

 「あ、やばい!」

 中央甲板で釣りをしていた釣り師の一人が、突然大声を上げる。
 その一言で、何が起こったのか理解した他の釣り師達は、すぐさま竿をたたむと、船尾の舵輪に飛びつき舵を切って船を加速させる者、武器や防具を身に着ける者、船室に人を呼びに行く者など、手馴れた様子を見せる。
 その間も、最初に声を上げた釣り師は、ぞんざいに竿を引き、わざと釣りゲージの失敗枠で止める事により、獲物を逃がそうと試みているのだが、これが中々外れない。
 普通の魚なら、あわせに失敗した時点でほとんど逃げられてしまうのだが、モンスターを釣った場合は、魚と同じように逃げる物と、逆に逃げずに食いついてくる物に分かれる。
 そして食いついてくる物は、高い戦闘力を持った難敵である事がほとんどだ。
 どうやら今かかっているmobも、そう言った難敵の一種らしい。

 「やばい、どうもシーサーペントみたいだ、戦闘の方お願いします」

 あまり戦闘力に自信が無いらしい釣り師が、何やら達観したような口調で報告してくる、どうやらすでに死を覚悟しているようだ。
 もっともシーサーペントとの戦闘になると判れば、ヒットポイントや防御力の低い生産系プレイヤーは皆そうだろう。
 シーサーペントとは巨大な海蛇型のmobで、水棲mobの中ではトップクラスのヒットポイントと防御力を誇る。
 攻撃方法は直接攻撃と口から吐く水のブレスで、魔法等の厄介な特殊能力は大して持っていないものの、とにかく一撃のダメージが大きい上攻撃範囲が広く、ほぼ甲板上すべてがダメージ圏内となる攻撃法もあり、ヒットポイントや防御力に自信の無い生産兼業戦闘職では、生き残れと言う方が無理だ。
 とは言う物の、そう言った彼らをモンスターから守るのが、今のシニスたちの仕事である。
 シニス達は即座に中央甲板に集結、船室で寝込んでいた犬丸も、残月と共に甲板へと上がって来ると、接敵を前に各自buffなどの戦闘準備を整える。
 やがて、シーサーペントのものらしい巨大な影が、海面にゆっくりと姿を現す。
 水棲mobは、基本的に陸上やダンジョンにいるmobより巨大だ。
 現にこのシーサーペントも、今シニス達の乗る船に等しい全長を持っている。
 そして巨大な物は、ただ大きいと言うだけで、見る物を圧倒する。
 シーサーペントの巨体が水面を割り、その鰐に似た頭部をメインマストに等しいほどの高さに上げたと同時に、釣り糸が切れたのか、釣り師が尻餅をつく。
 滝のように雪崩れ落ちる海水が甲板を叩き、皆が一瞬にしてずぶ濡れになる。
 そいつはほんの数瞬、まるで値踏みするかのように、皆を睨め付けた。
 それは先制攻撃が可能な千載一遇のチャンス、だが誰一人として動く事はなかった。
 皆、現実には存在しない巨大生物の持つ、圧倒的な迫力に飲まれていたのだ。
 まるで蛇に睨まれた蛙のように、その馬をも一飲みに出来そうな口が開くのを、ただ呆然と見ていた。
 だが、その口腔で巨大な水球が膨れ上がった瞬間、シニスが反射的にスキルを使用する。
 瞬時に左腕が跳ね上がり、同時に青白いドーム状の光がシニスを中心に湧き上がると、間一髪の所でシーサーペントのウォーターブレスを防ぎとめる。
 フォースシールドと呼ばれるこの最上級の盾スキルは、使用者を中心に、敵からのダメージを減退させ、プレイヤーの防御力と魔法抵抗力を上昇させるフィールドを作り出す効果がある。
 防御スキルとしてほぼ最高位にあるものの、効果時間中は移動も行動も不可になる上に、スタミナの消費は激しくディレイも長いと効率は悪く、連続使用は出来ないが、ここ一番という時は頼りになる技だ。
 しかし、いかに最高レベルの防御スキルだろうと、ウォーターブレスのダメージをすべて防ぎ止めるには至らない、特に戦闘職でない釣り師の中には、今の一撃で瀕死状態になった者すら居る始末だ。
 ここで薙ぎ払いなどの広範囲攻撃がくれば、甲板には何人かの死体が転がる事になる。
 が、天はシニス達に味方したようだ。
 シーサーペントはゆっくりと船から離れていく。
 恐らく体当たり攻撃をかけるための距離をとっているのだろう、その隙を逃さず、残月がヒーリングウェーブで皆の体力を回復、それでも足りない分は、ヒーリングポーションなどで各自が回復していく。
 そんな中、シニスは目の前で尻餅をつきながらも、何とか生き残った釣り師に向かって叫ぶ。

 「あんたは早く逃げろ、次は死ぬぞ!」

 その言葉を聞いたとたん、男は船倉に通じるドアへ向かって、転がるように駆け出していく。

 「今のでヒットポイント半分切った奴も逃げろ、邪魔だ!」

 同時に犬丸が声を張り上げる。
 その声に従って、さらに何人かがドアの向こうへと消えて行った。
 結果、甲板上にはシニス達のパーティーの他に、船尾の舵輪に取り付いて操舵手を買って出てくれている4人が残る事となった。
 船上で戦う場合、舵取りが居ると居ないでは難易度は大きく異なる。
 特にブレスを持つシーサーペントなどが相手の場合、船ごと回避できるかどうかは、勝敗を大きく分ける要素でもある。
 水棲ペットに騎乗するなどして水中戦を挑むという手も無いわけではないが、水中戦特化構成でもない限り不利になるだけな上、リスポーン不可な現状では、死亡した場合の蘇生が非常に困難になるので、端っから選択肢に入っていない。
 いったん離れたシーサーペントが、波を蹴立ててこちらに急接近を始める。
 それに対し、弓を持つNonkoが、長射程のホークショットや大威力のイーグルシュートで迎撃を試みるが、ダメージこそ出てはいるものの、ほとんど意にも介さず激突コース一直線で突き進んでくる。
 遠距離攻撃手段を持たない前衛一同が、激突に備え防御を固める中、グレンが杖を前方に掲げて叫ぶ。
 
 「でかいの行くぞ!」

 その声と共に、グレンの持つ杖からまばゆい光球が放たれる。
 それは海上を一直線に走り、シーサーペントへと突き刺さると、巨大な火球となって炸裂、爆音と熱波が船上に居る全員を叩き、蒸発した海水が水蒸気となり視界を奪う。
 ダンジョンで使えば、広いはずのボス部屋すら覆い尽くすという攻撃範囲と、全攻撃魔法中1・2を競う火力を誇る、火の魔法最上位攻撃呪文ノヴァフレイム、まさにヌーカーの名に恥じぬ一撃だ。
 しかし、いかに大威力の攻撃を命中させようとも、所詮プレイヤーの与えられるダメージでは、膨大なヒットポイントを持つ大型mobを仰け反らせる事は不可能だ。
 分厚い水蒸気の雲を割って、まるで何事も無かったかのごとくシーサーペントが突っ込んでくる。

 「舵取り! 突撃かわせるか?」

 中央甲板の右舷側に陣取り、迎撃の準備を整えつつ、一縷の望みを託して聞く。
 mobの攻撃に対して、船体そのものは地形などと同じ扱いで、攻撃判定を受けない。
 が、このままだと、突撃してくるシーサーペントは甲板上を通過し、その進路上に居る者全てをひき潰し弾き飛ばす事になる。
 それを防ぐには、船ごと回避するか、甲板で盾役が受け止めるかの2択になるのだ。
 だが、基本的に船より足の速いシーサーペントを回避することは非常に困難で、せいぜい接敵位置を調節し、甲板上を走り回ったり、バックアタックのような攻撃を受けないようにするのが精一杯だ。 
 実際、舵取りの返事も否定的なものだった。

 「無理ッス! そっちの正面で受けますからヨロシク!」

 そう叫び返すオーガの男は、店売り品らしい無個性なスケールメイルを身に纏い、その前にはプレートメイルで身を固めたナイトらしい男が盾を構え、そして後ろにはレザーメイル装備の男が二人、それぞれ防御力上昇とヒットポント回復の効果を持つダンススキルを使用して踊っていた。
 彼等にとっては最大級に防備を固めているのだろうが、シニス達から見れば木で出来た家に立て篭もる子豚に等しい。
 まともに突撃を受ければ、生き残れる物は皆無だろう。

 「了解、そっちまでガード出来ないから、そっちの防御や回復は自分達で頼む」

 そう言って、すでに目と鼻の先までに迫ったシーサーペントと正対する。
 他のメンバーはメインマストより後ろへ退避し、まさにシーサーペントとの一騎打ち状態。
 そして波を蹴立てて突っ込んでくるそれは、まるで暴走する列車のようで、気分はまさに飛び込み自殺の瞬間だ。
 奥歯は噛み合わず、フリーフォールに乗った時の内臓を置き忘れたような不快感が腹腔を満たし、勝手に逃げ出そうとする足を必死でこらえる。
 しかし、迫り来る巨大な頭部を前に、意識が現実逃避を始めようとした瞬間、腹の底から沸き上がった衝動が、巨大な哄笑となって喉を突き、全身に力を与える。
 
 「畜生! メチャ怖ぇぇぇ!」

 叫びながら盾を突き出しスキルを入力、同時に目を閉じ両足に力を込めて、歯を食いしばる。
 スキルが発動した瞬間、耳をを擘く激突音と共に、目を閉じていてすら網膜を焼く派手なエフェクト光が乱舞し、全身をダンプにでも撥ねられた様な衝撃が貫く。
 だが、それだけだった。
 船体を横断し、甲板上のプレイヤー達を蹂躙する筈だったシーサーペントの突撃は、たった一人の盾によって防ぎ止められていた。
 イージスと呼ばれるパラディン専用のこの盾スキルは、高いダメージカットに加え、ノックバック無効の効果がある。
 すなわち、突撃などのスキルに付随するノックバック、いわゆる跳ね飛ばしを無効化し、相手を押しとどめる事が出来るのだ。
 ボスを含むほとんどの大型mobが持つノックバック攻撃を無効化するこのスキルこそが、パラディンが対ボス戦闘の要と呼ばれる所以でもある。 
 もっとも、いかに高いダメージカットを誇ろうとも、大型mobの突撃を受ければただではすまない。
 現にシニスのHPバーは一気に減少し、ほとんど瀕死になった所で停止、意識すら飛びかけた程だ。
 大量のヒットポイントを失った事による貧血にも似た急激な脱力感で、危うく腰を落としそうになった瞬間、暖かい光に包まれてHPがほぼ全回復する。
 後衛の残月が掛けた光の魔法中最大の回復魔法、パーフェィクトヒールの効果だ。
 同時に、左右から走りこんできた犬丸とディーガンが、フラッシュスラストとヘビースマッシュを、動きを止めたシーサーペントの首に叩き込み、後方からNonkoが、イーグルシュートやリボルバーシュートを撃ち込む。
 技後硬直状態のシーサーペントにこれを回避する余地は無く、無防備に被弾してヒットポイントを大幅に削られていく。
 
 「よし! 引っぺがすぞ! 離れろ!」

 その声と同時に、後方から飛来した火球が硬直が解ける寸前のシーサーペントの顔面で炸裂、跳ね上がるようにして頭が持ち上がると同時に後退し、船から引き剥がされる。
 グレンの放ったノックバック効果を持つ火の攻撃魔法、バーストインパクトだ。
 そのノックバック効果により、相手が船から離れたのを確認した残月が叫ぶ。
   
 「今です! 全速離脱!」

 その声を合図に舵取りが船を加速させ、硬直が解け自由を取り戻したシーサーペントの攻撃範囲から離脱を図る。

 「さて、これでまた突撃かましてきてくれると楽なんだが」

 船を追って加速を始めたシーサーペントを見ながら犬丸が言う。
 確かに突撃を食い止めて硬直中にたこ殴りと言うのは、必勝パターンの一つだ。
 これを後数回繰り返せば、仕留めるのは容易い。
 最も、それで楽なのは犬丸やグレンなどのアタッカーであって、タンクであるシニスはちっとも楽ではない。

 「お前気楽に言うけど、アレ受け止めるのは死ぬほど怖いぞ、何なら代わるか? ・・・・・・って、ヤバイ、ブレス来るぞ! 回避!」

 思わず愚痴をこぼしかけたシニスだが、こちらを追撃中のシーサーペントが突然停止し、大口を開けたのを見て叫ぶ。
 その警告を聞くでも無く、攻撃を察知した舵取りが大きく舵を右に切る。
 急な転舵で甲板が揺れ、皆が体勢を崩す中、左の舷側ギリギリをシーサーペントのウォーターブレスが掠める。
 すさまじい轟音と共に突風が甲板を叩き、後部甲板で踊っていたダンサーがすっ転ぶが、実害は無い。
 この手のブレスは直接照準のみで、追尾や偏差射撃は無いので、左右どちらかへの回避で簡単に避ける事が可能だ。
 最も、それは今回のような直線のブレスの話で、コーン状やガス状などのブレスの場合は、また違った対応を求められる。
 ともあれ、ブレスを回避されたシーサーペントは、再び接近を開始する。
 それが突撃のような急速な接近で無いのは、船に取り付き直接攻撃を仕掛けるのが目的なのだろう。
 追いかけられどんどん距離が詰まる中、船は出来うる限りの速度を出して接触時間までのを引き延ばし、弓と魔法でダメージを与え続ける。
 だが、シーサーペントは被弾をものともせず、一直線に突っ込んでくる。
 船はある程度接近された所で減速しつつ舵を右に切り、相手に対して横っ腹を向け、戦いやすい中央甲板を戦場にするべく位置を調整し、シニス達は中央甲板に集まり迎撃準備を整える。
 残月が皆にBuffを掛けなおし、魔法を連打したグレンはマナポーションをを飲んでマナを回復、Nonkoはインベントリから予備の矢を矢筒へと補充し、シニスはグレンに対しサクリファイスをかける。
 これはかけられた対象が持つヘイトを、すべて自分へと変更する物で、ヌーカーとして敵に大ダメージを与え、与ダメージによって累積するmobのヘイトを稼いでしまったグレンのヘイトを肩代わりする事で、脆弱な魔法使いがmobの優先攻撃目標となる事を防ぐのが目的だ。
 同時に他の者は、シニスへの攻撃の巻き添えを食らわないようシニスと距離をとる。
 そしているうちに、船に取り付いたシーサーペントは、変更されたヘイトテーブルに従ってシニスを照準、直上から叩き潰すがごとくその巨大な頭部を振り下ろす。
 しかしシニスは、そのモーションの大きい攻撃を、いとも簡単にをパリィで叩き落し、間髪入れずに左手の盾でスタンバッシュを叩き込む。
 連続した激突音と共に、重なり合ったエフェクト光がシニスの視界を焼く。
 それが回復した時には、星のエフェクトを頭上に頂き、無防備に立ち尽くすシーサーペントに対し、思う存分技を叩き込むディーガンと犬丸がいた。
 防御手段として使われた時と違い、攻撃として使われたスタンバッシュのスタン時間は長い。
 何も出来ないシーサーペントに対し、アタッカーの二人はクリティカルやダメージ貫通率の高い大技を撃ちこみ、Nonkoはアーチャーの持ち味である早い攻撃速度を生かして連打でダメージを稼ぎ、グレンは弱点属性である火の魔法を、残月はDebuffに加え、毒や衰弱などのDoTダメージ系の魔法をかける。

 「・・・・・・なんか一方的だな、アレ」
 「やっぱ純戦闘職パーティーは違うわ」
 
 船尾楼から、なにやらあきれたような声が聞こえてくる。
 パラディンの防御力に加え、ウィザードやビショップの持つ魔法の効果が兼業戦闘職であった彼らとは桁違いなのだ。
 魔法職はその専門性から、使えるレベルにしようとすると、種族や性別等の修正を上手く利用しない限り、他職との兼業はほぼ不可能になる。
 故に兼業職であった彼らの持つ魔法は効果が低く、特に効果が術者の魔力に左右されやすいDebuffやDoT系の魔法は、魔法抵抗の低いシーサーペント相手ですら大した効果を与えられず、今までは防御力の高い相手に肉弾戦と言う、ある意味漢らしい戦いしか出来なかったのだ。
 その後、スタンから回復したシーサーペントが、ブレス、呑み込み、薙ぎ払いなどの攻撃を仕掛けるも、その都度ガードしたり攻撃をそらしたりと、シニス達は大したダメージを受ける事無く順調にシーサーペントのヒットポイントを削り取っていく。
  
 「そろそろ逃げにいはいるぞ、足止めよろしく」

 mobには、瀕死状態になると逃走を図る性質を持つタイプがあり、シーサーペントもそのうちの一つだ。
 陸上のmobなら走って追っかけられるのだが、水棲mobの場合水中に潜られれば、水中戦能力をほとんど持たないシニス達では手も足も出なくなる。
 それを防ぐには、スタンや麻痺などで逃走を防ぐ必要があるのだが、シニスはスタンバッシュを先ほど使用したばかりでまだディレイ中だった。

 「悪い、こっちスタンまだ駄目なんで、誰か頼む」
 「了解です、ゴーストハンド行きます」

 宣言と共に、残月の杖の先から白いもやのような物が放たれ、シーサーペントに命中した途端、海面から沢山の半透明な手が生えてきてシーサーペントに絡みつく。
 闇の魔法のゴーストハンドは、亡霊の手を呼び出し、相手の移動を禁じる効果があるのだ。
 逃走に移ろうとしていたシーサーペントは、その手に移動を封じられ動くことが出来なくなる。

 「場所が場所だけに船幽霊みたいだ」

 そんな犬丸の意見に皆が同意する。
 船幽霊にたかられるシーサーペントという、オカルト雑誌の記事みたいな光景は妙にシュールで、戦闘の緊張感が霧散していく。
 ゴーストハンドが禁じるのは移動だけであり、その場での攻撃や防御は可能なのだが、逃走モードにはいったmobのAIは、攻撃や防御と言う選択肢を採る事無く、ひたすら逃げようと無意味にのたうつだけなので、シニス達は苦も無く残りのヒットポイントを削り取っていった。
 やがてHPバーが0になり、シーサーペントは一度海中へ没した後、高く飛び上がって断末魔の絶叫を響かせ、ドロップアイテムを甲板に撒き散らすと、そのまま海中へと消えていった。
 
 「よし、終了」
 「お疲れ~」
 「お疲れさま~」

 戦闘終了と共に、皆が労いの言葉を掛けつつ武器を収める。
 散々水を被った服が肌に張り付いて少々気持ち悪いが、これは放っておけばすぐに乾くので問題ない。

 「どうも、お疲れ様でした」
 「すいません、リザ下さい」

 と、戦闘終了を見て取った船尾楼の方から声がかかる。
 見ると、ダンスを踊っていた二人のうちの一人が倒れて死んでいた。
 打撃や呑み込みなどの攻撃は皆こちらで捌いていたが、ブレスや薙ぎ払いなどの広範囲の攻撃では、あちらにもダメージがでていたのだ。

 「はい、すぐ行きます」

 あわてて残月が船尾への階段をかけ上がっていく。
 戦闘終了と同時に気が抜けたシニスは、座り込んで辺りをぼんやりと見ていると、ドロップアイテムを回収していたNonkoが感嘆の声を上げる。

 「おっ! 海王の槍がでた、ラッキー!」

 その台詞を聞いて、皆がNonkoの所へ集まる。
 Nonkoの手には、黄金に輝く三叉の槍、一般にトライデントと呼ばれる武器が握られていた。
 シーサーペントなどの一部の水棲大型mobからドロップするこの槍は、水中行動でのボーナスに加え、水棲mobに対するダメージボーナスが付くレア武器の一つだ。
 最も、ドロップ率はあまり低くなく、入手しやすいレア武器でもあり、効果も特化的なので、売りに出したとしてもそれほど高く売れるわけではない。
 また、同じドロップ武器でも、能力に多少のばらつきがあり、上はA級品から下はD級品までに分類され、A級品ならかなりの値が付くが、D級品辺りだと買い手が付く事は稀で、NPC売りになる物がほとんどだ。 

 「で、どうする? 使う?」

 犬丸の方を向いたNonkoが聞く。
 ドロップアイテムの取り扱いについては、食材などの生産素材は釣り師が、それ以外のアイテムや金はシニス達がと言う事で、話が付いている。
 槍スキルを取っているのは犬丸だけなので、犬丸が使わないのなら、換金アイテムとなるわけだが、現状武器を買い込むPCはほとんど居ないし、どうやらB級品らしいそれを、NPC売りするのももったいなくはある。
 
 「そうだな、ボーナス付くし船の上でああ言うの相手にするなら、これ使ったほうが良いだろ、水棲mob以外だと今まで使ってた十文字槍のほうがダメージ出るけどな」
 
 武器のステータスを確認した犬丸は、そう言って装備を変更する。
 純和風な当世具足に、ギリシャ神話のポセイドンが持つような三叉戟という格好は、妙にミスマッチで、それを見たディーガンが驚きの声を上げる。

 「珍しいですね、犬丸さんが和風装備以外を使うなんて」

 スタイルに拘りを持つ犬丸は、侍という自身の職に拘って、今まで和風装備以外の物を使う事はほとんど無かったのだ。
 
 「ま、今はあまりスタイルに拘ってられる時じゃないからな、それにこれもそんなに悪くない、何となく傾奇者っぽくないか?」
 
 そう言って手にしたトライデントをくるくる回すと、歌舞伎役者のごとく見栄を切ってみせる。
 そしてそのポーズのまま、それをボーっと見ていたシニスに声をかけた。

 「つか、お前大丈夫か? 戦闘中突然ゲラゲラ笑い出だしたりで結構怖かったが」
 
 心配そうな顔をする犬丸に、大丈夫だというように手を振って立ち上がる。

 「ああアレな、悪い。 なんか怖いのが限界超えたら突然笑えてきちまった、まぁおかげで吹っ切れたんで、結果的に良かったけどな」

 その言葉に得心がいったのか、軽くうなずきながら言葉を返す。

 「なるほど、ジェットコースターとかで笑い出すのと似たような物かな」
 「どっちかって言うとバンジージャンプじゃないかな、正直アレと正面から向き合うのはかなり怖い、肝っ玉の小さい奴だとへたり込んでもおかしくないぞ」

 今まで相手にしていた、熊やら虎やらバッファローやらといった相手も、決して気楽な相手ではなかったが、大型mobは桁が違う。
 現実でやったら確実に死ぬような事を、現実と同じようなリアリティーの中やらなければいけないのだ、どこぞのヒーローの特訓みたく、建築物破壊様の鉄球を受け止めるような、常識の埒外のクソ度胸が必要だ。

 「まぁ判る、隣でお前が叩き潰されそうになったのを見てただけでも肝が冷えたしな」
 「一度実際に経験して、大した事無いと実感できればもう大丈夫なんだろうけどな、それまではやっぱ怖いよ」

 そういった途端に犬丸が顔を微妙に赤くし、あさっての方を見る。

 「どうした?」

 その様子に不審を思えたシニスが追求する。

 「いや、その、すまん、なんかHな想像をしてしまった」
 「死んで来い貴様は!」

 どうせダメージは出ないのだ、容赦なく蹴りを入れる。

 「つか、お前船酔いはどうした」

 ふと思い出し、ゲシゲシ蹴りを入れながら聞く。
 
 「ああ、あれ。 なんか戦闘してたら収まった、やっぱ慣れだね、慣れ」

 蹴られて転がりながら返事をする犬丸には、船酔いで半死人のようだった時の弱々しい気配は微塵も無い。
 そんな犬丸の能天気さに無性に腹が立ち、さらに蹴りをくれてやる。
 そんな事をしていると、船室から退避していた釣り師達が上がってきた。
 
 「お、兄ちゃん兄ちゃん、大漁ですぜ、どうぞ」

 その中にシーサーペントを釣った釣り師を見つけたNonkoが、早速彼の取り分を渡しに行く。
 渡されたアイテムを見て、釣り師連中が驚きの声を上げる。
 定番であるシーサーペントの肉と鱗の他に、レア素材の目玉と心臓が出ていたのだ。
 こちらの取り分である海王の槍も含めて、あのシーサーペントはなかなかに美味しい獲物だった事になる。

 「よし、船を戻すぞ!」

 釣り師達とリーダーの言葉と共に、漁場に向けて舵が切られ、船が大きく揺れる。
 さっきの戦闘で漁場から離れてしまった事に加え、獲物である魚は一定の回遊コースを巡っているため、それを追いかける必要もあり、再び漁を始めるまでしばらく時間がかかる事になる。
 その時間を利用し、釣った魚を料理して、皆で食事にする事になった。
 流石に料理ギルドの釣り師連中の事だけあって、料理の腕前は見事な物だ。
 刺身に寿司にマグロ丼、たたきにマリネと、マグロ尽くしの食事に、皆が舌鼓を打つ。
 そのうち、誰かが出してきた酒に酔っ払う者が出始め、少しはやめの夕食が徐々に宴会へと変わっていく。
 ここではいかに酔っ払おうが、呪文一発で酔いが覚めるのだ、そんな気安さもあって、皆酒を飲む事に抵抗が無い。
 だが、その酔いを覚ますはずの者が、真っ先に酔っ払って正体を失っていては話にならない。
 すでに漁果が予定を超えていた安心感も手伝ったのか、漁場に付いた頃には、漁船は宴会舟へと姿を変え、そのまま酔い潰れて寝てしまう者まで出る始末で、漁が出来る状態ではなく、多少正気を残していた者も居たのだが、この状態では下手に釣りをしてモンスターを釣ろうものなら、全滅の危険すらある。
 逆に酔っ払って釣りを始めようとする者を全力で阻止することとなり、結果宴会が続行され皆、酔い潰れることと相成った。
 やがて時が過ぎ、船の使用時間が満ちると、今まで船長室にいた船長のNPCが船尾楼へとやって来て舵綸を握り、港へと帰還するための針路が取られ、大量の漁果と酔っ払いを乗せた船は、誰が上げたのか大漁旗を掲げつつ、魚を切望する者達の元へとひた走る。
 が、その時王都アルフレニアは、もはや魚どころでは無くなっていた。
 この自体を引き起こした元凶とも言える者達とのファーストコンタクトが、今まさに始まっていたのだ。



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