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No.11883の一覧
[0] 【習作】 カオスゲートオンライン (VRMMO系 TSアリ)[南](2009/10/09 23:29)
[1] 【習作】 カオスゲートオンライン 第2話[南](2009/09/19 00:43)
[2] 【習作】 カオスゲートオンライン 第3話[南](2009/10/27 00:54)
[3] 【習作】 カオスゲートオンライン 第4話[南](2009/10/09 23:36)
[4] 【習作】 カオスゲートオンライン 第5話[南](2009/10/27 00:53)
[5] 【習作】 カオスゲートオンライン 第6話[南](2009/10/27 00:54)
[6] 【習作】 カオスゲートオンライン 第7話[南](2009/11/15 22:01)
[7] 【習作】 カオスゲートオンライン 用語集[南](2009/10/09 23:28)
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[11883] 【習作】 カオスゲートオンライン 第5話
Name: 南◆e65b501e ID:0d46516c 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/10/27 00:53
 あれから一週間が過ぎた。
 もっともそれは、ゲーム内時間の話で、現実ではまだ3時間位しか過ぎていない可能性が高い。
 皆から集めた情報を検討した結果、アレが起こったのは夜の11時前後らしいと言う事は判っているので、現実での体が意識不明などになっていたとして、それを家族などが見つけて大騒ぎになるとしても、それは朝以降だろうと言うのが、大半の人間の意見だ。
  騒ぎが表面化するのを朝6時と仮定しても、夜の11時から約7時間、ゲーム世界では3週間近い時間がある。
 そういった時間的余裕と、mobとの戦闘さえしなければ、PvP設定で身の安全を守れると言う安心とで、皆一応の落ち着きを取り戻していた。
 と言ってもそれは表面的なもの、不平や不満、そして不安は皆の中に確実に蓄積されていっており、それはまるで、内圧を高めつつある休火山のようだ。
 これが噴出する前に、何らかの展望を見出す事こそが求められているのだが、現状これと言った物は無く、嵐の前の静けさの様な緊張感漂う穏やかさが街を満たしていた。 

 「お、美味そうだな、俺にも一本くれ」

 リンドグラムの大通りで、ベンチに腰掛けぼんやりと通りを眺めながら、串にさした大きめの焼き鳥のような物をかじっていたシニスに、通りがかった犬丸が声をかける。
 シニスはちらりと犬丸の方を見ると、インベントリからもう一本串焼きを取り出すと、犬丸にむけて差し出した。
 犬丸がそれを受け取ろうと手を伸ばした所で、ふと気がついて問いかける。

 「サンキュ、でこれ何?」
 「蛇肉」
 「・・・・・・」

 その答えを聞いた途端、犬丸の手がぴたりと止まり、世の終わりのような顔になる。

 「・・・・・・どったの?」

 そんな犬丸を不思議そうに眺めつつ、差し出した串焼きを軽く振る。
 じわじわと犬丸の手が後退し、大きなため息と共に心の底から哀願するような声で言った。
 
 「蛇を食うなよ・・・・・・」
 「前に買い溜めした分がまだ残ってるんだよ、いいじゃないか、トリシオみたいで美味いし」

 蛇肉をインベントリに戻し、代わりに鮎の塩焼きを一本取り出す。

 「ほら、これならどうだ?」
 「お、サンキュー」

 受け取ってがぶりと豪快に食いついた所で、またぴたりと動きが止まる。

 「どうした?」
 「鯵の塩焼きの味がする」
 「知るか」

 塩魚を齧りかけのまま、世にも情けない顔をした犬丸をそう切り捨てて、再び蛇肉を頬張る。
 蛇肉、正確には蛇焼肉と言うそれは、文字通り蛇系のmobからドロップした蛇の肉を、塩で焼いたものだ。
 蛇の肉は集めやすく、低スキルでも調理でき、重量も軽いためかさばらず、持ち運びに便利で、空腹度の回復量もそれなりにあったため、ゲームだった時は売れ筋の食べ物だった。
 このゲームでは、物を食わなければ満腹度が減っていき、半分を切ると、休息状態以外でのスタミナの自動回復が停止、3割を切ればスタミナの最大値が減少するペナルティーがある。
 ちなみに、飲み物の方は潤滑度で表され、これは魔力に関係している。
 だから、空腹状態にならないための手軽な食品として、蛇焼肉は定番の品だったのだ。
 だが、それはゲームだったからの話で、実際に喰うとなると話は違ってくる。
 確かにこれはゲームのアイテムとして作られた物であり、現実の蛇の肉とは違う、単に蛇型のmobからドロップしただけであり、現実の蛇とは何の関係も無い事は判っている。
 しかしいざ口にしようとすると、ギブアップするものが続出、蛇肉、鼠肉、犬肉など、効率重視の食品は主力商品の座を退く事となリ、代わりに、より高価で材料と手間はかかるが見慣れた食い物、うどんやピザ、カレーやすき焼きなど、かつて趣味品、高級品と言われていた物が飛ぶように売れている。
 何せ、食わないと腹が減るのだ、自分の腹具合を数値で見れるというのは、ある意味便利かもしれないが、空腹度が60%を切ると空腹感を感じ、10%を切ると激しい飢餓感を感じる。
 潤滑度に対する喉の渇きも同じで、故に食事は欠かせない要素となっている。
 そしてこのゲームでは、NPC売りされている食糧はほとんど無く、NPCから直接買える食料は、パンと水とミルク、後はいくつかの果物だけで、他は調理しないと使えない食材でしかない、ちなみにパンは、アイコンの図柄通りのコッペパンの味をしていた。
 また、光の魔法に、クリエイトフード、クリエイトウォーターという食料と飲み水を作る魔法があるが、これは乾パンと水しか出来ず、非常食以上のものではない。
 結果、料理スキルを持つ料理人が大活躍することになった。
 料理や醸造など食べ物関係のレシピは、追加要素としてお手軽だったためか、5年間の小規模アップデートのたびに様々な物が追加され、今ではかなりの数のレシピが存在し、何より料理人による味の変化すらある。
 たとえば、同じようにすき焼きを作ったとしても、料理人によって、関西風だったり関東風だったりするのだ。
 これは製作者の持つイメージが影響しているらしく、たまに鯵の味をした鮎なんて物も出来てしまうし、蛇焼肉やドラゴンの肉を使ったドラゴンステーキのような皆が味を知らないような物は、案外普通の鶏肉味やら牛肉味やらで落ち着いて、とんでもない味になったという物は今の所ほとんどない。
 もっとも、細かい理屈などは上手い飯が食えると言う現実の前には大して意味を持たず、理屈よりも実利優先、そもそもゲームの世界に取り込まれる事事態が異状なのだから、料理の味程度で一々驚いていられない、食生活が豊かになるのならそれで良いというのが大方の意見だ。
 だが、その豊かな食生活を維持するためには、先立つ物が必要なのは現実もココも同じ。
 手っ取り早く稼ぐ手段は簡単で、今まで通り狩をするればいいのだが、ココで問題なのが、全員が全員痛みを克服できたわけではないと言う事だった。
 そして、痛み以外でも死亡時のリスクを嫌った者、猛獣やモンスターの持つ圧倒的な迫力に恐れをなした者など、戦闘職や前線を離れる者も多く、とりあえずの金策として、今まであまり相手にされていなかった各種クエストや、リスクの少ない初心者用mob狩りがが大盛況となっていた。
 現に今もシニス達の目の前の大通りには、お使いクエスト途中の者達が走り回っているし、城門のすぐ外では蛇や鼠、狐や狸等、初心者用の弱いmonを狩る者達で溢れている。
 また、広大な農地や豊かな漁場を持つ王都アルフレニアでは、釣りを始める者達で釣りポイントは満員、農耕は農地は足りなくなり奪い合の様相を呈しているらしいし、鉱山都市ゼルガスでは鉱夫が大増員で、掘るべき鉱石が足らない有様だそうだ。
 だが、買う方はそれで良いとして、作る方の問題はむしろ増加している。
 何せ、複数のドロップ食材を必要とする料理の需要が突出しているのに、狩をするPCが激減したおかげで、食材の入手が入手が非常に困難になってしまっているのだ。
 それに加えて、キャラクターが固定されてしまった事による在庫不足の問題もある。
 このゲームでは1つのアカウントで3つまでキャラクターを作る事が出来る。
 そして、生産職は大量の素材や在庫を、同アカウントの別キャラクターを倉庫キャラクターとして、在庫や素材の預け先にしている者が多い。
 その為、キャラクターが固定され変更不可能な現状は、多くの生産職にとって倉庫キャラクターの持つ大量の素材や在庫を失った事により生産能力が激減していた。
 逆に、倉庫キャラでこの事態に巻き込まれ、抱えていた大量の在庫を放出してくれる者もいたため、多少は何とかなっていたが所詮焼け石に水、食材不足は徐々に深刻化している。

 「実際、食料の値上がりやら売り切れやらは増えてきたしな、食材調達にもっと力を入れないと、このままじゃコッペパンや乾パン食う羽目にになるぞ」
 「と言ってもなぁ、まぁ入手が厳しいのは一部の肉やら野菜で、皆って訳じゃないし、むしろ問題なのは計画的なな供給ルートの構築だろ」

 犬丸の指摘は最もだ。
 蛇焼肉の様な単純な料理と違い、今需要がある料理のほとんどは複数の素材が必要なのだが、この辺りで採れない物を買出しに他の街へ行っても、売っている場所が分からなかったり、逆に売り手が他の街へ行商に出かけた後で行き違いが起こったりと、上手く噛み合っていない事が多い。

 「それだよなぁ、あと、需要と供給のバランスが取れてないのが問題だよ、門前で狐とか狸とか狩ってる奴が、鹿あたりを狩れば結構違うんだけどなぁ」

 今、門前で大量に狩られている狐や狸は、毛皮がドロップ品で肉を落とさないのだ。
 同じような初級mobでもウサギは肉を落とすのだが、この辺りには沸かないので、ここで採れる肉は蛇肉や鼠肉となるが、これは食う奴がほとんどおらず、NPCに売られて金に換わるだけで、食材調達の役には立っていない。

 「だけど鹿とかが狩れる所まで遠出すると、熊やら虎やら出るからなぁ、門前狩りに転向したような連中じゃ無理だろ」
 「だよなぁ、バッファローは無理としても、鹿くらい狩ってくれれば楽になるんだが」

 肉料理の主な食材となる鹿やバッファローのうち、牛肉の獲れるバッファローは、単体でもそれなりに強い上、同属リンクと言って、攻撃を受けるとそばにいる他のバッファローが一斉に襲い掛かって来るシステムがある為、狩ろうとすると群れ一つ相手にする事となり、それ相応の戦力が要求される。
 何せ殲滅に手間取れば、repopしたバッファローが次々参戦してきて、延々戦い続ける羽目になるのだ。
 持久戦に持ち込まれ粉砕されたパーティーは、枚挙に遑がない。
 実際、食材調達の為に、シニス達も他のパーティーらと共にバッファロー狩りに行っているだが、下手なボス戦以上の苦戦を強いられ、何度か死者を出す羽目になった。
 しかし、それで獲れた牛肉の量は、現在の需要から見ると少なく、とてもではないが全プレイヤーの胃を満たすほどではない。
 その点鹿はそれほど強くはないし、同属リンクなどという厄介な物も持っていないので、鹿自体を狩るのは楽だが、周囲にヒグマや虎がいる為、危険が無いわけではないので、門前狩りに転向したような連中は行きたがらない。
 現在は、3パーティー一組編成のバッファロー狩りにあぶれたパーティーを回してはいるが、少人数なので効率はあまりよくない。
 いっそバッファローはあきらめて、鹿一本に絞ろうかという意見もちらほら出ているが、牛肉の魅力には勝てないでいる。

 シニスは、食い終わった蛇肉の串をそこらに投げ捨てて天を仰ぐ。
 串は地面に落ちると同時に、雪が溶けるように消えていった。

 「ゲームの時みたいに、狩場まで数分と言うのならもう少しやる奴も多かったんだろうけどなぁ」
 「近場でも2~3時間、下手すりゃ1日がかり、途中で襲われる危険もありじゃ小銭目当てで行く奴がいなくなるのもしょうがない」

 シニスの嘆きに、犬丸が相槌を打つ。
 食材狩りが廃れている理由の一つがこれ、フィールドの広さがゲームの時より広くなったのだ。
 全マップがシームレスで繋がったのは良いのだが、距離がゲーム内時間での移動距離に準じる形になっているのだ。
 つまりゲームで1分かかってた距離を移動するのに約1時間かかる事になり、他の都市との行き来や、狩場への移動に支障をきたす結果となっていた。
 最も全部が全部ゲーム時間基準の距離にされたわけではなく、街や建物などは、多少広くなったとはいえ常識的な範囲で落ち着いている。

 「この調子だと、そのうち気軽に食える肉料理は兎焼肉と兎肉のスープ位になっちまいそうだな」
 
 天を仰いだままそう呟いたシニスに、犬丸が答える。

 「だけど野菜や魚は獲れるんだし、野菜や魚主食にすればいいんじゃないか?」
 「野菜はともかく、街の川で釣れるのは鮎や鯉だろ? 鯵の味した鮎の塩焼きが出来る位だから、秋刀魚の味した鯉の丸揚げが出てきても俺は驚かんね」

 城塞都市リンドグラムは、街の中を川が流れており、そこでは釣りをする事が可能で、リスク無く低スキルでも釣れるので、金稼ぎ兼食材確保として大量の釣り人が糸をたらしている。

 「ま、今時川魚の味知ってるやつなんて少ないだろうしなぁ、海産物の方に期待するしかないだろ」

 そう言いつつ、鮎の塩焼きを食い終わった犬丸が串を投げ捨てる。
 こちらの串も、地面に落ちると同時に跡形も無く消えていった。
 
 「王都のほうの漁船は閑古鳥らしいじゃないか、海岸で釣れるのはハゼとキスと鯛くらいだろ、それでも川魚よりは味が期待できそうだけど」
 「蟹とか海老とかタコも釣れるよ、それに漁船は、昨日今日釣りを始めた奴が乗っても、スキル足りなくて何も釣れないだろうし、戦力そろえずに釣りして、鮫やら海竜やら大王イカやら釣って、あえなく全滅なんて事になるのも現状では困るしな、それ以前に輸送ルートの確保だ、残月はその事で王都の方に話し合いにいってるんだろ?」
 「ああ、食料の安定供給とかで、それぞれの都市仕切ってる連中との会議だと、色々忙しい人だなあの人は」

 シニス達が今こうして暇しているのは、リーダーである残月が会議のために王都へ向かった為であり、ディーガンとNonkoは王都に居るカナメ達に会いに同行、グレンは個人的なフレンドに会いに行くと言って、やはり王都へ同行して行った。

 「あの人のあのバイタリティーには恐れ入るよ。 ま、それを言ったら、今会議に出てる連中は皆そうだがな」
 「そうだな、ホント、あの人たちには頭が下がる、あの人達が居なかったら、今頃こんな所でのんびりはしてられなかったろうからな、下手すりゃ北斗の拳かマッドマックスかって状態になっててもおかしくなかったわけだし」

 シニス達は、昨日まで泊りがけで、食材調達のためのバッファロー狩りに駆り出されていたのだが、いくら怪我もスタミナも魔法や薬で簡単に回復すると言っても、偶には休みを取らなければ心が持たない。
 実際休んでみて、初めて自分が酷く疲れている事に気がついた位だ。
 だからこそ、連日の激務にさらされながらも、何とか皆の不満や要望を処理し続ける、最近では執行部という名が定着しだした彼らの働きには感謝の念が絶えない。
 最も他の者から見れば、シニス達も執行部の一員と同義なのだが、当人達は気付いていない。

 「それでも不満はたまるんだよなぁ」

 ぽつりと言うシニスに、犬丸が言葉を返す。

 「それはしょうがない、人間何をやっても不満は出るものだ」
 「そんな物ですか」
 「そんな物ですよ」

 妙に年寄り臭い台詞を交わしつつ、インベントリからほうじ茶を取り出して啜る。
 と、犬丸が手を出してきたので、もうひとつ取り出して渡してやる。
 受け取って一口飲んだ犬丸が、また妙な顔をする。

 「今度はなんだ?」

 もう一口・二口、確かめるように飲んだ後で、ボソリと言った。

 「なんかサービスエリアの、無料サービスのほうじ茶の味に似てないか?」
 「だから知らねぇって、ほうじ茶の味なんかどれも似たようなもんだろ」
 
 言いつつ、飲み終えた湯飲みを脇に置くと、これも瞬く間に消えていく。

 「でもここ、物は食えても出す方は無くてある意味助かったよな」
 
 周囲の建物などに目をやりながら呟くシニスに、犬丸が答える。

 「確かに、性別やら変わったやつ多いしな、そんな物まであればさらに混乱して収拾付かなかったかもな」
 「いや、それもあるけどそうじゃなくて……」
 「何だよ?」

 シニスの言いたい事が分からず、眉をひそめる。

 「ここ、トイレ無いじゃん」

 その言葉に、ポカンとした表情になる犬丸。
 街のマップやらギルドハウスの間取りやらを思い返しても、確かにこの世界にはトイレは存在しない、そもそもゲームにトイレなど必要ないのだから、当たり前な話だ。
 もっとも、トイレが必要なゲームなど余りやりたいとも思わないが、今トイレが必要な状態になっていたら、かなり悲惨な状況になっていただろう。

 「……それもそうだな」 

 力なく答えてほうじ茶を啜る。
 お茶は冷める事無く、適温のままだ。
 この世界では料理もお茶も、インベントリから取り出せば、作りたてそのままの状態を維持し続ける。
 トイレなどの煩わしい物は存在せず、調理等はいつも出来立て最高の状態を維持し、使い終わった食器類は勝手に消えてなくなる。
 この世界は色々便利だが、これに慣れると現実に戻った時苦労しそうだ。
 そんな事を考えながら、飲み終えた湯飲みをベンチ脇の植え込みに投げ捨てる。
 湯飲みは地面に落ちると同時に消えてなくなった。


 


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