第7話 歴史を変えるのです。
どうも、思わぬ出会いをして驚愕しているへっぽこ魔法少女アニスです。
とうとうこの国で一番濃いい人に出会ってしまいました。
ガンジー王……、いえまだ即位していないので王子です。
どこから見ても魔法使いに見えないマッチョな肉体
髪を正面から両サイドに跳ね上げたどうやって固定しているのか謎の髪型
服装は袖を引きちぎったような青い服にズボン
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あれ?正史と鬼畜王がごっちゃになってるような……。
『鬼畜王なら爆弾&千鶴子さまに捨てられる……?』
…ガクガク、ブルブル。
ちょっとトラウマものの将来なのです。
う、う、うー、あー、たー!
考えるのやめ!!
今こんな事をうじうじ考えていても何もならないのです。
はい、次行きましょう、次へ!
ところで…、
千鶴子さま、ガンジー王子と何時の間に知り合いになったのですか?
私の ハテナマークがでている顔を見て、千鶴子さまが教えてくれました。
「お知り合いになったのはつい最近よ。」
そこから千鶴子さまよりガンジー王子について説明を受けました。
・現在のゼスの情勢
・この状況に王子が胸を痛めている事
・まだ王子であるため実権が無い事
・貴族達を油断させるために政治に興味がないと装っている事
・いざ王になったときに備え人材を集めている事
・国民や地方を知るためゼス全土を回っている事
などをを教えていただきました。
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これは意外です。
小悪を倒して喜んでいる自己陶酔型の王とか視野の狭い政治に興味のない男などさんざんな評価をもらっているあのガンジー王が随分と立派な考えを持っているじゃないですか。(私もかなりひどい事を言ってる気が…)
千鶴子さまもそんなガンジー王子の人材収集のアンテナに掛かり、スカウトを受け、話し合ったところ意気投合したそうです。
はぁ~、いつの間にか話は進んでいるものですね。
ぼんやりしていたらどうなることやら。
さて、今回の虐殺法の情報、実はこのガンジー王子サイドの情報網から引っかかったそうです。
何とかしたいが、大貴族達の目があるため王子の権力は使えない。
そのため民間の協力者に協力を要請していたそうです。
こらこら、だったらこんな所に居るとまずいのではないですかガンジー王子。
「うむ、本来はまずいのだが、少女達を危険な目にあわせて自分だけ安全な場所で結果を待つと言うのはあまりにも情けない。
よって今回は王子ではなく、1人の魔法使いガンさんとして協力させてもらおう。」
はい…。
つくづく行動派なのですね。
けど、それならガンジーは性なのですから、あだ名はラグかロックまたはアークでは?
……似合いませんね、やはりあなたはガンさんがお似合いです。
◇◇◇◇
さて、いきなり濃い人にあって話が脱線してしまいましたが、現在ガンジー王子の運転するうし車のうえです。
「ガンさんと呼んでほしいといったであろう。」
サーセン
このうし車、牧歌的な乗り物の割に随分スピードの出るものです。この調子ならさほど時間が掛からず目的に到着しそうです。
ゲームなら一瞬で到着しているのであまり気に掛からないのですが長時間乗っていると疲れますね。
まぁ、村に着くまでしばらくかかるそうですからみんなでお話でもして親睦を深めましょう。
ちなみに今回のメンバーは私とガンさんの他には千鶴子さまとパパイアさんが同行しておられます。
千鶴子さまはともかくパパイアさんが同行するとは以外でした。
◇◇◇◇
「見えてきた、あれが『ムシ使い村』だ。」
いろいろ話し合いながら丸一日、ついに到着したようですね。
ガンさんが村の場所を知って助かりました。
なんでも以前何度か迫害を受けているムシ使いの方を助けたことがあったそうで、その際に村の場所を教えてもらっていたそうです。
なお、政府もこの場所を知っているとのこと。
ちゃんと村として登録していて税金も納めているそうです。
……迫害されている自覚があるのでしょうかこの方達?
というか、ここ隠れ村のはずだよね?
ガンさんが村の場所を覚えていてくれたおかげでこっそり調べるにしろ、正式に書類を上げて調べるにしろ、余分なリスクを負わないですみましたけれど…。
◇◇◇◇
「あ、あんた、この村に何か用かい?」
村の入り口に着き、うし車から降りてきた私たちに名も知らないムシ使いのおにーさんが話しかけてきました。
「うむ。」
おおう、びびってる、びびってる。
答えるガンさんにおにーさんが後ずさりしています。
けれどおにーさん、私はそれをチキンなどと呼びませんよ。
村の入り口で腕を組んで仁王立ちしているガチムチの巨人相手に話しかける勇気があるだけ大したものです。
私なら見なかった振りして通り過ぎるか、軍隊呼んできますね。
えっ、なぜ軍隊かって、…いえ警察官じゃ勝てそうにないんで。
「この村について重要な話をしに来た。この村の責任者と会わせてほしい。」
「……すっ、少しお待ち下さい。」
おにーさんは少し悩んでいるようでしたが直ぐに駆けていきました。
けどね、掛けていくその姿、ゴジラから逃げ出す一般人にしか見えませんよ。
「ガンジー王子様、なにゆえこの様な所へ?」
いっ、いきなりばれてるじゃありませんか!
村のほぼ中心にある家に案内された私たちは家の中にいた村の長老らしきおじーさんにいきなり正体を見破られてしまいました。
「あの時は……」
「いやいや、たいしたことはしていない。当然の事をしたまでだ。」
「しかし……」
「なんのなんの…」
いきなり和気あいあいと世間話をはじめましたよ。このひとたち。
まぁ、話からすると以前迫害を受けていたムシ使いのグループをガンさんが助けたのですがその時のグループに長老さんがいたそうです。
その時に村の場所を教えてもらったそうですが、同じ時に自分が王子だと話していたとか。
こらこら、本当にお忍びする気あるのですか、ガンさん!
まぁ、そんな心温まる交流があったので割とスムーズにお話を聞いてもらえたのですが、さすがに
『軍隊がくるから村を捨てて逃げてほしい』
と言うようなとんでも話はなかなか受け入れがたい様です。
まぁ、「私の部下がお前達を殺しに来るから逃げろ」と言っているのと同じですから。
しかし、このような事、一般人からすれば矛盾をはらんだ言葉かも知れませんが実は国単位では珍しい事ではありません。
右手のやっている事を左手が知らないなど国レベルの話ではよくある事で、そうでなければクーデターなど起こるはずがないのですから。
けれど一般人からすれば、
一番偉い人が知らないはずがない!
止められないはずがない!
なぜ?
と、考えます。
仕方のない事ですが、話がややこしくなる原因です。
今回の件でも当然そんな話がでました。
でも、下手な事はいえません。
いま、王には何も力が無く、そのため貴族主導の議会で今回の件が正式決定されてしまった事、すなわち今現在王族自身が国の決定に逆らう『反逆行為』をしていることなどは特にです。
本来ガンジー王子は今回の件に就いては黙ってみているか、私たちに村の場所を教えるだけで関わり合うのをやめておくべきでした。
しかし、責任感の強いガンジー王子は私たち子供だけで行動させることと自分が導くべき国が決めた愚かな事に負い目を感じここまで来てしまいました。
もし、村人がこの情報に疑問を持ち、国に確認をとり、その際村にガンジー王子が居る事がばれればただではすまないことになります。
へたをすれば反乱者として廃嫡か幽閉です。
今、ガンジー王子を失うわけにはいかないのです。
失えば、国家の改革改善の機会は失われ、王になった後に行われる『アイスフレーム』に対する影からの保護も無くなり、後の歴史に大ダメージを与えてしまいます。
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村人たちの話も村を捨てる事に抵抗があるのと魔法使いへの不信感からか、だんだん堂々巡りになってきましたね。
このままでは話し合いが長引くばかりか変な方向に進んでしまいかねません。
ここは私が何とかしなくては……。
とおぅ!
「ごめんなさい!」
ここは起死回生の『土下座』です。
かなりずっこいですが、ここは少女が涙を流しながら土下座をして魔法使いの行いについて謝罪を行う姿を見てもらって、少しでもムシ使いさん達に罪悪感を持っていただきます。
我ながらあざといやり方とは思いますが今はそんなこといってられないのです。
お互いに幸せになるには何が何でもこの場で納得してもらうしかないのですから。
ごめんなさい!
ごめんなさい!!
私がただひたすら地に頭をこすりつけて謝っていると私の両サイドで人が座る気配がしました。
「ごめんなさい!」
『ごめんなさぁい!』
あああっ!千鶴子さま、パパイアさんあなた達まで!!
何時の間にかお二人まで土下座をされています。
ごめんなさい、ごめんなさい!
巻き込んでしまってごめんなさい。
…失敗しました。
考えて見れば私1人に土下座させて黙って見ていられるようなお二人ではありませんでした。
最近の私の思慮の足りなさには我ながら情けなくなります。
けど、今はそんな事を言っている場合ではありません!
ごめんなさい、千鶴子さま、パパイアさん!
後で謝りますので今は許してください。
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あ、……れ……?
いきなり私の前に影が差しましたよ。
ちらりと見ると大きな背中。
ガ、ガ、ガンジー王子!
まさかまさかまさか。
しまったー!!
「やめてください!ガンジー王子!!」
思わず背中に飛びつきましたが、そんな事にはいっさい構わず土下座しましたよ、この王子。
「すまん。」
ただ一言、それ故に何よりも重い言葉が発せられました。
「何を考えているのですか王子!
いくら、実権のない王子だとしても王子は王子、あなたはゼスそのものなんですよ。」
思わず怒鳴りつけてしまった私に続き千鶴子さま、パパイアさんまで叫びます。
「おやめ下さい、ガンジー王子!
あなたがこんな事をしてしまったら、何のために私たちがここにいるのですか!」
「あ、あの~王子さま、さすがにこれはまずいんじゃないかな~とおもうんですけど。」
なぜ土下座くらいでここまで慌てるのか?
政治家達が選挙時期に土下座を乱発するのをみている方々にはよく分からないかも知れません。
ここは王制と民主制の違いから来る問題があります。
民主制では民衆が選んだ代表が行うのですから、土下座も個人の問題、好意的に見れば必死の覚悟の現れと捉えられます。
しかし、王制では違います。
王制は力で押しつけたもの、それゆえプライドが信用になるのです。
プライドがあるからこんな事はしないだろう。
プライドがあるからこの約束は守るだろう。
こんな感じです。
王権を司る王族か土下座をする、それは即ち国のプライドを捨てることとなり今後の信用を著しく損なう事になりかねません。
直ぐ謝るような王の支配する国は信用されないのです。
村に来るまで話した感じではこんな軽率な事をする様には見えなかったのですが。
失敗しました、へたをすれば村の人たちからの信用がなくなり余計な混乱を生む可能性があります。
更に言葉を紡ごうとした私たちに王子の声が遮ります。
「わかっておる!
わしが頭を下げる意味も危険性もな。」
分かっているなら……
「しかし、今回の責任は王族にある。
議会を止められぬほど力が弱まってしまった故に愛すべき国民であるムシ使い達に危機が訪れたのだ。
これが国外からの要因なら国のためとして言い訳が効くかもしれん。
だが今回は国が守るべき国民をわしが指揮すべき軍隊が害そうとしているのだ、なら、例え信用がなくなろうと蔑まれようと、最大限の謝罪をしその対策を速やかに行う事こそもっとも重要な事。
そのためならこの頭、地に着けても悔いはない!」
私は馬鹿です。
この世界に来てもう11年、この世界はゲームじゃない現実だと自覚していたにもかかわらず、まだ向こうの世界の見方に捕らわれていたようですね。
立派に王族してるじゃないですか、ガンジー王子。
さすがにこの王子の行動と魂からの思いを聞かされて村の皆さんにも動揺がはしっているようです。
おっ、長老さんが前に出てきましたよ。
「頭をお上げ下さい、ガンジー王子。」
「おおっ!では!!」
「村を捨てて別の場所に隠れさせていただきます。」
やりました、ついにやりましたよ。
歴史を変えました。
ムシ使い村は既に300人位に人口が減っていますがそれでも今歴史が変わったのです。
感動です。
感激です。
感無量です。
思わず千鶴子さまとパパイアさんに抱きついてしまいましたよ。
けど、・・・良いのでしょうか?
長老さんだけで決めてしまって、他の方々と相談せずに返答されたようですが。
そんな思いが顔に出ていたのでしょう。長老さんが説明してくれました。
もともと、不穏な空気は感じていたそうです。
しかし、長い迫害の歴史の間にすっかり村にはあきらめの気持ちが蔓延していたのです。
迫害による隔離政策。
それによって新しい血が入らない事による出産率の低下。
奇形で生まれてくる赤ん坊の増加。
緩やかに減少していく村の人口。
普通の職に就けないため危険な仕事に就かざるえない現実。
その為に増えていく体内へのムシの数。
失われていく精神の安定。
この悪循環に村人の心は次第に折れていったそうです。
今回の私たちの警告に否定的であったことについても、疑っていたり村に愛着があったりするよりも、
『ああ、やっぱり』
というあきらめの気持ちが先に立っていたのが原因とか。
そんな時に私たちやガンさんがプライドを投げ捨て、
『生きてほしい。』
と、生の感情をぶつけてきたものですから
『自分たちは生きてていいんだ。』
となったようです。
もともと、完全に疑っていたわけではなかったため、私たちの土下座でみんなの心は決まったそうです。
単純と言わないでください、追いつめられていた人間が立ち直るのは、千の言葉よりこんな心のこもった一言なのかもしれません。
しかしやっと、一安心です。
◇◇◇◇
その後、私たちには村の家の一軒で休むよう案内されました。
村の方々は村のものだけで避難先や今後について話し合うそうです。
私たちを外して話し合いをすることについて大変謝罪されていましたが仕方ありません。
仲間内だけで話し合いたい事もあるのでしょうし、所詮私たちは異邦人なのですから。
けど、良かったです、国軍が準備をして攻めてくるまで、まだ一週間以上あります。
明日には準備をして村を出るそうですから、脱出中を追撃される心配もありません。
行軍が早まったり、先遣隊を出してくるような事があれば国軍の中にいるガンさんの親派の方が直ぐに連絡をくれる事になっています。
完璧です!
今回の私に穴はありません。
やっと、安心できますねぇ。
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そんなのんきな事を考えている私を殴りたくなるような事が後で分かるとはその時は思っても見ませんでした……。