第21話 騒動終わって・・・何も解決していない?
・・・もう、パパイア伝でいいんじゃないですかね・・・
私、両腕飛んじゃいましたし・・・
私って、確かチート主人公ですよね。
なのに、ここまで悲惨な扱いを受けるなんて・・・。
きっと作者はアニスのことがきらいなんですねぇ~!!
びえええん!!!
byとあるへっぽこ魔法使い
いえ、大好きですよ、けどね・・・・・。
大好きな人ほどいじりたくなりません?
まぁ、エロいおねいさんが大好きということもあるのですが。
byとある二次小説書き
◇◇◇◇◇◇◇◇
≪sideパパイア≫
魔力の光が収まり私たちの前に現れたそれは・・・
私たちがよく知っている姿だった。
ただし両腕が肘から無くなった状態で。
「「アニス!!!!」」
私たちの前に現れたもの、それは私たちにとって最も大切な仲間だった。
わずか数年の付き合いのはず、にもかかわらず私の心にいつの間にか住み着き、大きな存在となった大切な『友達』。
いつも笑顔を絶やさない明るさ。
どんな苦境であっても前を向いて進んでいく強さ。
自分の大切な者のため、自分が守ると決めた者のため自らを傷つける事を厭わない危うさ。
そう、私は知っていたはずなのだ、気付いて当然のはずなのだ、あの子にとって大事な仲間を傷つけるということがどんな意味を持つのかを。
いま見えるその姿は、
私たちを攻撃魔法で引き裂くために集められた高密度の魔力が爆発したために消し飛んだ両腕。
声にならない悲鳴を上げ、その痛みと衝撃で歪んだ顔。
吹き飛んでいくアニスの肉体。
すべてがスローモーションのようにゆっくりと進んで行く。
・・・ん?
吹き飛んで?
アニスが危ない!!
その瞬間、私は縮地を発動させ、飛んでいくアニスの身体を捕まえ、その身体を確保した。
強烈な勢いで弾き飛ばされたアニスの身体を支えた事で私も一緒に飛んでいく。
だが、これ以上アニスを傷つけるわけにはいかない。
転がりつつもアニスを庇い、ようやく身体が止まった。
「アニス!!!」
勢いが止まり身体を起こしたとたん、再度、千鶴子の叫ぶ声が聞こえる。
だが、そんな事に構っている暇はない。
まずい、アニスが痛みでショック症状を起こしている。
声にならない悲鳴と、痙攣が止まらない。
「千鶴子!サポート!!
呆けてないで、アニスの身体を押さえて!!!」
私が怒鳴る。
「アニスアニスアニスアニスアニス!!!」
だが、千鶴子の精神は戻らない、アニスの名を連呼しながらこっちにかけてくる。
ええい、いつもなら直ぐに冷静になるのに。
このままじゃ、アニスに抱きついて揺さぶりかねない、この1秒が大事な時に。
「千鶴子!
あんたは、アニスを死なせたいの?
アニスがショック状態で麻酔が打ち込めないのよ。
腕ぐらい私が後から義手でもクローン培養でもして絶対直して見せるわよ。
だからお願い、正気に戻って!!
アニスを痛みから解放させて。」
ドン!!
その瞬間、私はアニスから無理やりひきはがされ、千鶴子がアニスに抱きついた。
千鶴子!あなたまだ・・・・・。
弾き飛ばされた、私が見たもの、それは狂乱状態になってアニスを振り回す千鶴子の姿・・・・・ではなく、涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら必死で暴れるアニスを押さえる親友の姿だった。
「ごめんねアニス、ごめんねアニス、ごめんねアニス、ごめんねアニス。
・・・パパイア!何をしているの!!
はやく、はやくアニスの痛みを無くしてあげて!!!」
もはや悲鳴に近い叫びをあげる千鶴子。
千鶴子が、千鶴子がギリギリで戻った。
私は慌ててアニスの手のない両腕を掴んだ。
私のセカンドスキルは『医術』。
冒険の回復役としては、アニスの回復魔法があるおかげで無用の長物となるべきスキルだった。
だが、アニスは、今後の事などだれにもわからない、私が回復に回れない状況になることだってありうる。
それに『医術』は『魔術』とちがったものを見せてくれるかもしれない。だからこのスキルは伸ばすべきだ。
そう言って、アニスは私が『医術』を研究することを勧めてきた。
当時はアニスが戦闘不能になって回復魔法が使えなくなるなど考えられなかったため軽く考えていたけど・・・あの言葉はこの時のためか!
アニスが勧めるので私は合間を見つけては『医術』の研究をするようになった、どうやら私には適応があったようで、研究しているうちに段々と楽しくなってきた。
ただ、薄笑いを浮かべながらメスを振るう私を見て、アニスが怯えるようになったのは・・・まったくの余談だが。
そして、これから使うのは、その研究の成果、『医術』と『魔術』の合体技、
「局所麻酔(ペインキラー)!」
私の両手を伝い魔力が染み込んでいく。
そして、両腕の痛みが治まり始めたためか、次第にアニスの顔から苦痛の表情が無くなり始めた。
ふう~、どうにか成功したようね。
本当ならば、苦痛から精神状態がボロボロのアニスを眠らせて、休ませてあげたかったが、けど今はまずい。
今のような苦痛でボロボロの精神状態のときに意識を失うと、精神が死んだと勘違いして心臓が止まってしまう可能性がある。
アニスには悪いがしばらくは我慢してもらわないと。
「おやおや、むごい状態ですね。いったい何があったのでしょうかね。」
私の後ろから、この場に場違いなのんびりした声が聞こえる。
その瞬間、アニスの身体が、私に預けられた。
「きさまと、もう話すつもりはない。
・・・死ね!」
そう、千鶴子だ。
私の麻酔でアニスから悲鳴と痙攣が無くなったのを見たのだろう。
千鶴子の精神はアニスへの心配や後悔の気持から、この状況を作り出した敵への純粋な殺意へと切り替わった。
縮地で仮面の人物の前に現れる千鶴子、そしてそのまま、すでに振りかぶっていた右手を打ちおろす。
いつの間に装着したのか手には『ナックル』が装着され、更に高密度に圧縮された魔力まで拳にまとっていた。
「白色彗星拳」
その言葉とともに、千鶴子の拳は仮面の人物を貫いた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
『白色彗星拳』
山田千鶴子の必殺拳。
属性パンチを参考に魔法剣士の魔法剣をベースに作成。
カラーの族長がつかう弓矢と同じと考えてください。
今回のは拳に白色破壊光線を圧縮して乗せたもの。
なお、今回魔法使いの千鶴子が魔法を使わずなぜ拳で戦ったのかについては、認識かく乱の魔法のため遠距離攻撃だと狙いを外される恐れがあったため。
「どこの天馬の闘士ですか。」(byアニス)
「うわ~、死んだねこりゃ、よりによって千鶴子の前でアニスに手を出すから・・・。」
そう呟きながら、私の手は高速でアニスの両手の血止めなどの応急処置を進めている。
くそ~、最悪の傷口ね。
高熱で焼けるようになっててくれれば、血止めにもなったのに、今回の傷口は内部から破裂するように破壊されている。
そのため傷口付近はズタズタで、肘位まで遡らないとだめだ。
どうりで、あそこまで苦しむわけだ。
危うく失血死するところだったわ。
そう考えながら今後の治療について考えていると、後ろの千鶴子の叫び声が聞こえた。
『違う!!』
その言葉に振り返る。
「どうしたの千鶴子?」
「こいつ、人形よ!」
千鶴子は身体を貫いていた右腕を引き抜き、首根っこを掴みこちらに見せつけた。
その身体、心臓の部分には大穴が開いており、一見異常は見られない。
穴?
あ、
「血が出てない・・・。」
そう、その仮面に人物の身体には大きな穴があいているにもかかわらず血が一滴も出ていないのだ。
千鶴子は荒々しく掴んだ身体から、仮面を取り外した。
そして仮面を取り外されたとたん、仮面の人物はただの人形に変わった。
「やられた・・・。」
仮面の人物はいつの間にか、伝話人形に変わっていた。
伝話機の人形版だ。
水晶電話が口にあり目の部分に映像を伝える水晶が取り付けられている。
そこらへんに普通にあるものではないが珍しいものではない。
子供へのプレゼントとしてよく贈られることから、子供を持っている貴族の屋敷に行けば1つや2つはあるはずだ。
いつの間に。
千鶴子が忌々しげに人形を地面に叩きつけた。
するといきなり地面に叩きつけられた人形がしゃべりだした。
「いや~、まさか問答無用で殺しにかかるとは思っていませんでしたよ。
さっさと、人形と入れ替わっていて正解でしたね。」
再び聞こえる、この場には場違いな声。
「あなた、いったい何が目的なの?!」
「いえ、パパイアさん。
私は別に貴方達を殺そうとか、捕まえようとか考えていたわけじゃありません。
さっきも言ったでしょう、私は理想の女性を探していると。」
「それがいったい・・・、」
「その女性をどうやって見極めたら良いと思いますか?」
え?
まさか・・・。
私が原因か!
「わたしの見極める方法としては、これはと思った女性に試練を与え、それを乗り越える事で見極めています。
ええ、本当は今回の試練、パパイアさん、あなたに『ノミコン』を与えその狂気を乗り越えられれば合格と考えていました。
・・・残念ながら今回はいきなりアニスさんに『ノミコン』を盗られちゃったので初手から失敗しちゃいましたけどね。
けど、そうなると、もうこの場所に私のいる理由はありませんよね。
だから貴方達がアニスさんに気を取られているうちにさっさと入れ変わらせていただきました。」
なんという自己中心的な男、自分の目的のためには他人の事などまったく考えない。
もっとも、たちの悪い性格だわ。
しかも、私の身代わりにアニスが傷つくことになるなんて。
だけど・・・。
「なら、まだ貴方はそんなに離れた所にはいないはず。
しかも認識かく乱の仮面は置き去りにしているから・・・・。」
「なーんて事は私も考えていました。だから私が逃げるため時間稼ぎをしてもらいましょう。
ねぇ『ノミコン』?」
なっ、しまった。
『ノミコン』!
「千鶴子!」
「わかったわ。」
私の一言に、千鶴子は『ノミコン』が投げ出されたと思しき場所に走り出す。
だが、遅かった、その千鶴子の前に黒い球体が現れる。
そして再び人形から声が。
「ねえ『ノミコン』、貴方はその2人の大事な人を操り傷つけました。
これは、貴方がいくら貴重な魔道書であっても許されないでしょう。
どうします?」
「い、いやだ。
消えたくねぇ。
俺様は、まだまだやりてぇ事があるんだ!」
「なら、そうですねぇ。」
その言葉とともに何かを考えるかのように間を空ける。
だけど、私にはその無言の裏に薄笑いをしている姿が見える。
「私は偶然にも貴方の『真名』を知っています。
これを唱えれば貴方は一時的にですが元の姿に戻れます。
元の『上級悪魔』の姿にね。」
その言葉を聞いたとたん、一気に背筋が冷えた。
上級悪魔?
ノミコンが?
そんな事聞いた事もない。
と、同時に私の身体は反応していた。
「そんなもの唱えさせてたまるものですか!
アンコク!!」
わたしのスペルとともに手から黒い魔力が打ち出され、人形に向かう。
ガキン!!
バリア?
は、はじき返された。
くっ!千鶴子は?
千鶴子の方を見ると、千鶴子も『ノミコン』を壊すべく黒い球体に魔法をぶつけているがまだ壊れそうにない。
「無論、これは一時的なものです。
1時間もすれば元の魔道書に戻ってしまいますし、戻ったのち再度魔道書の封印を解くために必要な魂の量は増えてしまいます。
それでもよろしいですか?」
「かまわねぇ。生きてたもん勝ちだ。
早くしねぇと、このねぇちゃんデビルバリアを破っちまいそうだぁ。」
「・・・わかりました。『○◇△×☆』」
私達には意味不明の言葉が唱えられる。
それと同時に千鶴子のいる場所から巨大な魔力が現れた。
巨大な肉体に捻じれた角、尖った耳と牙。
・
・
・
・
・
・
・
私達の目の前に絶望が現れた。
上位悪魔、出会うとしたら魔人と並び最悪に位置づけられるだろう。
悪魔とは本来神様のものであるはずの魂を横取りするために存在している。
魂と神様のつながりは強く、たとえ殺して魂を奪ったとしても悪魔が魂を所有する事は難しい。
そのため、悪魔は人と契約する。
死後の魂の譲渡を求めて。
まぁ、そんな存在理由だから、悪魔が人間を無差別に襲うことはまずない。
もっとも、例外というのはどこにもいるもので、最下級の『くずのあくま』などは自らの快楽のために無差別に人を襲ったりするそうだけど。
だが、何らかの理由で襲いかかってくる中級以上の悪魔は最悪だ。
人間を遥かに凌ぐ魔力。
強靭な肉体。
人には再現不可能な特殊能力まで持っている。
唯一の救いは、魔人ほど強力な防御力を持っていないという事。
過去、魔人を倒したものはいないが、(勇者が魔王を倒したとの噂もあるが真偽のほどは確かでない。)悪魔を傷つけたり、撃退したとの話は割と残っていることだろう。
ちなみに、なぜ悪魔にここまで詳しいかと言えば、これまた対魔人戦に使えないかと候補に挙がったからだ。
結局のところ、デメリットの方が大きすぎて没になったが。
少し考えれば解る事だ、上級悪魔に匹敵する魔人と戦わせる契約を結ばせるにはどれだけの契約料(魂)がいることか、それどころか狡猾な悪魔の事だ何のかんのと理由をつけて魂だけ持って行きかねない。
まぁ、どっかの間の抜けた悪魔から『真名』を聞き出し奴隷にでもしない限りまず戦力としては考えられないわね。
「ちっきしょー、まだ戻るつもりはなかったてーのによぉ。」
現れた悪魔は、いきなり愚痴を漏らし始める、こちらを完全になめている証拠だろう。
だが、こちらはそんなものにつき合っている余裕はない。
先手必勝!
あちらが本気を出す前に、叩き潰す!!
私は消耗しているアニスを横たえ、立ち上がる。
「魔法リング、リミッター解除。
増幅。」
私の言葉とともに両腕に装着された腕輪とティアラ、ネックレスが光り始める。
最近千鶴子の情報魔法を利用した「マルチタスク」など、千鶴子にしか使えない新魔法について説明してきたが、一人だけ強くなっても戦争には勝てない。
だから、これらの研究を重ね、私達でも新魔法を使えるべく研究が進められている。
そう、私達でもマルチタスクを作り出し魔力を増幅する研究だ。
千鶴子の情報魔法、『雷帝カバッハーン』将軍の雷精、冒険で手に入れた魔力増幅アイテムを研究し、日夜開発が進められている。
そして、今私の両腕、胸元、額にあるアイテムがその詩作品だ。
嵩張る上に耐久力も弱く、いまだ実戦レベルとは言い難いが、4つの魔法陣を作り出すことに成功したのだ。
これにより私では不可能だった、破壊光線系の複数同時起動及び 、合成、圧縮が可能になった。
「白色破壊光線×2!
合成、圧縮!!
『巨神殺し(光系最強バージョン)』!!!」
そして、千鶴子もまた作り出す。
「右腕固定『雷神雷光』!
左腕固定『雷撃の嵐』!
術式統合!!
雷神槍『巨神殺し(雷系最強バージョン)』!!!」
千鶴子も自分が持つ最強の攻撃を作り出す。
私はただでさえ、朝の『天使の巣』制圧とさっきの合成魔法で消耗しているのだ、一気に方をつけないとジリ貧になる。
いかに、私が他の魔法使いに比べ強力な力を持っているとはいえ、いくらでも魔力の湧き出てくるアニスとは違うのだ。
「「シュート!!」」
私と千鶴子がノミコンを挟み撃ちにして魔法を開放。
黄色と白の光の槍が巨大な悪魔に迫る。
悪魔はようやく動き出し、両手を挟み撃ちに打ち込まれた槍に向かって突き出した。
たかが人間が繰り出す魔法と侮ったか。
なめないでよね。
この魔法はいずれ起こる魔人との戦いのために開発された切り札の一つ。
威力だけなら、この地上に防げるものはない!
ギャリン!!!
「「がっ!」」
悪魔に光に槍が衝突したとたん、塔内に巨大な不協和音が、響き渡る。
その音に思わず叫び声を上げる、私と千鶴子。
な、いったい何が・・・?
そしてそこに見たものは、悪魔の両腕に掴まれ分解されていく私達が放った光の槍だった。
「うそ・・・。」
そのあまりの光景に呆然となる私。
なんなの、この反則すぎる力は。
再び伝話人形から声が聞こえる。
「ちょっとした昔話をしましょう。
嘗て強力な力を持った悪魔がいました。
その悪魔は生まれた時は低階級の悪魔であったにもかかわらず、負ければ下僕、勝てばその悪魔の階級を貰うという条件で決闘を行いました。
無論その悪魔は決闘に勝ち続け、ついには上級悪魔にまで出世しました。
ついには貴族階級の上級悪魔に挑もうとしましたが誰も挑戦を受けてくれません
当然ですよね、相手は貴族、下僕ならいっぱいいますし、わざわざ下僕になりたいと立候補してくる悪魔もいます。
なのに負ければすべてを失い勝っても下僕が出来るだけ。
こんな割の合わない決闘もありません。
しかし、あまりに強力な自分の力に驕ったのでしょう、この悪魔は決闘を了承していない貴族階級の上級悪魔に戦いを挑み負けてしまいました。
で、こんな危険な悪魔そばにおいていたらいつかまた戦うために小細工をするかもしれません。
けど、それなりに強力な悪魔でしたので消滅させるのもおしい。
だから、封印されました。
一冊の魔道書に、素の状態であれば人間にすらあっさり消滅させられる無力な存在として。
しかし希望も与えられました、悪魔界にもメリットがある形で。
力のある人間の魂を千人分集める事。
そうして、悪魔の魔道書は人間界に放逐されました、めでたしめでたし。」
「「どこがめでたいのよ!!」」
・・・おもわず、千鶴子とダブル突っ込みを入れてしまった。
「ひゅー、あぶねぇあぶねぇ。
姉ちゃん達、この槍とんでもねぇ威力だな。
まともに喰らったら上級悪魔でもとんでもねぇダメージ喰らうぞ。
けど、いやな昔話をしやがる。」
そう言いながら完全に槍を消滅させ、ノミコンは両手を振りながらこちらを向く。
「おほめいただき光栄、と言いたいところだけど、こうもあっさり奥の手を無効化されてるんじゃ嫌味にしか聞こえないわよ。」
「いやいや、姉ちゃん、実際大したもんだよ。
1万を超える攻撃力の魔法なんて、そうそうお目にかかったこともねぇ。
強いて挙げるなら、聖魔教団時代の要塞砲位だぜ。
個人で打ち出す魔法としては、間違いなく最強クラスだぜ。」
なるほど、威力に関しては問題なかったようだ、ならなんで!
「『ならなんで?』
そんな顔しているなお姉ちゃん。
そんなに不思議かい・・・ケェケケケ!
そうか、なら教えてやるぜ、俺様はやさし~い悪魔だからな。」
「冗談、どう見ても小動物をいたぶる獣にしか見えないわよ。」
「か~もな。
まぁいい、で、聞くが俺様は何のあ~くまだ?」
え?
何、いきなりクイズ?
悪魔?なんの?属性?
・
・
・
・
・
魔道書?
狂気の魔道書ノミコン。
まさか。
「ケェケケケ!
気付いたようだな。
そうさ、そのとおり、魔道書こそが、俺の二つ名なんだよ。
俺様の特殊能力は触れたものに対する魔力のコントロール。
この能力があるがゆえに上級悪魔になれたんだがな。
俺様にかかれば、打ち込まれた魔法を増幅するも吸収するも、分解するのもお手のものよ。
言いかえれば、この能力があるから、過去に俺様を所有した魔法使い達は危険を承知で使いこなそうとしたんだよ。
上級悪魔を操るなんてできっこねぇのによぉ。ケェケケケ!!」
最悪。
よりによってなんて特殊能力。
完全に魔法使いの天敵じゃないの。
じゃぁなに、あいつを倒そうと思ったら、『氣』を操れるレベル2以上の戦士が必要ってこと?
上級悪魔を相手にするんだから、唯じゃすまないとは思っていたけど・・・よりによってここまでピンポイントに天敵な能力を持ってるなんて。
「・・・完全な嘘じゃないけど、すべてを語ってないというところか。」
この声は、千鶴子!
「悪魔お得意の『嘘はいってないけど・・・』
というやつでしょ?ノミコン。」
そう言って千鶴子はノミコンの前に出る。
「ケケケケケ。
姉ちゃん、なぜそう思う?」
「悪魔は基本的に魔力の塊みたいなものよ。
その魔力を自由に操れるなんて、悪魔に対してほとんど無敵みたいな能力のはず。
けどノミコン、あんたは他の悪魔に負けて魔法書の姿に封印されたと言っていた。
矛盾・・・あるわよねぇ。」
あ、確かに思い返してみれば確かにおかしい。
あいつの言う事が本当ならそもそも魔道書に封印される事すらおかしいはず。
その事に気付いた私がノミコンを見ると・・・
「ケェケケケ!」
いきなり笑いだした。
「ケェケケケ!
ケェケケケ!!
ケェケケケ!!!
・
・
・
・
・
・
・
・
お嬢ちゃん達、怖いわ。」
口調が変わった!
「悪魔として長い間人間と暮らしてきたが、ここまで真実に近付かれたのははじめてだよ。
魔法王国なんて大層な名前を付けてるとバカにしていたが四天王なんて地位についてる事はある。
まさかここまでとはね。
ああ、嬢ちゃん達の想像の通り、この力は完璧じゃねぇ。
そこまで完璧にできるのは精々両手の範囲位だ。」
「じゃあ、密着して魔法を打ち込めば。」
「そうだ、流石の俺でも完璧に防ぐことは不可能だ。
パパイアとか言ったなそこの嬢ちゃん。
顔に出てるぜ、「なんで弱点をここまで簡単にしゃべるのか?」てな。
…サービスだよサービス。
ここまで辿り着いたお前らに敬意を表してな。
で、今までの流れからわかるように俺様を倒すには近接戦闘で魔力か氣を叩き込まないといけないんだが・・・。
そんなことできるのか?」
そうだ、こいつのこの余裕、私達に手がないと解っているからの余裕だ。
今の私は、朝から大魔法を連発したおかげで魔力が残存魔力がかなりまずい状態だ。
千鶴子の方はまだ、多少余裕があるはずだが。
「一応言っとくが、俺は上級悪魔だから、身体能力的には遥かに人間を超えているし、そこのメガネの嬢ちゃんが使っていた『縮地』も使えるぞ。
タフさの方もさっきの光の槍位なら2発は耐えられるし。
さらにデビルバリアを張ってあるから、弱っちい攻撃は無効化しちまう。
どうする?
それでも無駄な抵抗ってやつをやってみるかい。」
は、ははは。
なんて無理ゲー。
必死になって戦線を突破したと思ったら、目の前に巨大要塞が現れたようなものだ。
しかもその要塞には当たったら死ぬ大砲までついている。
正直なところもう手がない。
「ざけんじゃないわよ。」
え、千鶴子?
「ふざけんじゃないわよ!
魔法は効かないし効いても充分耐えられるから諦めろですって。
人間を、人間をなめるな!!」
そう言うと千鶴子は胸のネックレスを引きちぎった。
千鶴子のネックレス、これは唯のアクセサリーではない。
千鶴子は何時もマルチタスクを利用して魔法をストックしている。ただ、起動させたままだと千鶴子の消耗が激しい事からいつもネックレスの魔法石を利用して封印している。
けど、・・・確か千鶴子、緊急できたから魔法のストックは用意していないって言ってなかったかしら。
「封印解除!」
千鶴子のキーワードとともに身体が光りだす。
て、これは刻印魔術!
「千鶴子!」
「これでも、ナギの師匠だからね。
一応研究はしていたのよ。」
「けど、それって・・・。」
完全な欠陥品。
そう、ラガールの刻印魔術は欠陥品なのだ。
確かに刻印を利用して一時的にLv3クラスに魔法を増強させる事はできる、だけど・・・。
アニスがいい例だ魔力は増強されても肉体は強化されない。
強力な魔法が使える代わりに肉体はどんどん崩壊していく。
これは魔法の強化じゃない、魔力の暴走だ!!
「おいおい、嬢ちゃん随分と無茶をしてんな。
あっちこっちから、血を噴き出してるぜ。」
起動させただけで毛細血管が破裂している。
こんなの身体が持たない。
「ま、生き残るためだし、こんな無茶もするか。」
「やかましい!
私の命なんかどうでもいい。
『あんたはアニスを泣かせた。』
『あんたはアニスを傷つけた。』
わたしが命を掛ける理由はそれで十分よ。」
そうして、暴力の暴風が始まった。
千鶴子と一緒に修業した私にすら残像しか見えない高速機動。
その高速から繰り出される無数の蹴りや拳、その一発一発に高密度の魔力が込められている。
その暴風に巻き込まれたノミコンは対応しきれず完全にサウンドバック状態だ。
「止め!白色流星拳!!」
千鶴子の叫びとともに無数の光の拳がノミコンに打ち込まれた。
やった、『白色流星拳』、その拳に白色破壊光線を纏わせ千鶴子の必殺拳。
いくらやつかタフでもこれを喰らえば。
ポコ
え?
千鶴子は急に失速し拳がノミコンにあたると同時に倒れ込んだ。
・・・あ、千鶴子が危ない!!
「千鶴子ー!!」
私は直ぐに『縮地』で飛び、千鶴子を確保しノミコンから離れた。
千鶴子・・・どうしたの ?
なに?
もう肉体の限界が来たの?
・・・ちがう!
これは肉体の限界じゃない。
魔力の欠乏だ。
どういう事・・?
確かにこの技は魔力の消費が激しいけど刻印魔術まで使っているのだ、この程度で千鶴子の魔力が無くなるはずがない。
しかも、身体に影響を及ぼすほどの急激な消費。
「ザーン念だったな。」
そして勝ち誇ったノミコン。
「仲間が傷ついた事に怒り、主人公は命を掛けた賭けに出る。
身体が傷つくことの厭わず戦い、ついには怒りの必殺技で強大な敵を倒す。
めでたしめでたし。
・・・な~んてな。
世の中そんなに甘かねぇーんだよ。」
「な、・・・なんで・?」
千鶴子!意識が戻ったの。
「ケェケケケ!
確かにてめぇの魔法を無効化させるには両手で掴まなきゃいけないがよ。
・・・俺の能力は魔力のコントロールだぜ、例え掴む事が出来なくても、俺様の圏内いる限り、少しは影響を及ぼす事が出来るんだよ。
たとえば、魔力を10消費するところを20にするとかよ。」
「まさか!」
「特に、てめぇは魔力を暴走させた状態だったからやりやすかったぜ。
魔力が剥き出しの状態だったからな。
一気に5倍位にできたぜ。」
や、やられた。
こんな小細工までできるなんて。
「いくら魔力がでかくても、かたき討ちのために命を掛けても所詮は人間だってことだな。
親切に俺様が戦う前に注意してやったのによー。
それともなにか、四天王てのは間抜けの集まりか?
ケェケケケ!」
ノミコンの勝ち誇る声が聞こえる。
私達に対する侮蔑の声、だけど今の私達に返す言葉がない。
「いつもなら、こんなミスなさらないのですが。
あまりいじめないであげてもらえますか。」
え、今の声は・・・アニス!
私は声のした方向へ顔を向ける。
すると・・・いた!
アニスはノミコンの背中にぶら下がっていた。
「て、てめぇ、いつの間に。」
「いくら、千鶴子さまとの戦いが苦しかったといっても、私が瞬間移動してあなたの後ろに回り背中にへばり付いたことにも気付かないとは。
間抜けすぎですよ、ノミコン。」
「てめぇ。
引っぺがしてやる!
が!!
か、身体が、身体がうごかねぇ。」
「充分細工する時間がありましたのであなたの得意技使わせていただきました。
密着した状態で相手との魔力バイパスを繋ぎ、そこを通してコントロールするですか。
残念ながら私はあなたほどコントロールが得意じゃないもので、大量の魔力を送り込んで身体を麻痺させることしかできませんが。」
アニス・・・いつの間に。
私が突然の事に呆然としていると、
「アニス!
大丈夫、無茶は止めて、こんなやつ私が直ぐに片づけるから・・・。」
立ち上がった!
もう、千鶴子の肉体も精神もボロボロのはずなのに。
ちがう、こんなこと考えている場合じゃない。
「少しだけ待ってて、今、今行くから。」
私も立ち上がろうとするが・・・身体が動かない。
しまった、私もとんでもなく消耗している。
「無理は行けませんよ。
もうボロボロじゃないですか。」
爆心地にいて両手を無くし、身体もボロボロのあなたが言う!
「大丈夫ですよ。
私がちょっとこいつを片づけてきますから。」
え!
なにをいってるの・・・。
「じゃぁ、いってきます。」
その言葉とともにアニスが消えた。
ノミコンと共に。
そして、そのすぐ後、王都郊外の高空にもう一つの太陽が出来、すぐに消えた。
どれくらい経ったのだろう。
アニスが消え、郊外に太陽が出来たのを見、そしてそれが消えると同時に私たちから力が抜け、二人ともその場に座り込んだ。
何も考えられない。
何も考えたくない。
けど、・・・・・考えてしまう。
アニス・・・。
あの太陽はアニスだ。
何年も付き合ってきた魔力の波動だ、間違えるわけがない。
じゃあ、アニスは・・・。
「いかなきゃ・・・。」
千鶴子の声がする。
まるで幽鬼のように声に力がない。
「アニスを迎えにいかなきゃ・・・。」
そう言って立ち上がろうとするが、中腰の状態になると足から力が抜けへたり込んでしまう。
再び立ち上がろうとするが今度は足が動かない。
「あれ、おかしいな、いかなきゃいけないのに。」
だめだ、千鶴子は壊れる。
もう心が現実を否定し始めている。
ダンダンダン!!!
扉をたたく音が聞こえる。
「パパイア様、パパイア様!」
キャロットの声、騒ぎを聞きつけて上がってきたのかしら。
けど・・・もうなにか・・・どうでもいい。
「パパイア様、大変なんです。
いま、下に傷だらけのアニス様を背負った女の子がやってきまして・・。」
・・・え?
アニス?
傷だらけ?
その瞬間、私と千鶴子は飛びあがるように立ち上がり、お互いに顔を見合わせるとフルスピードで玄関に向かった。
「ぶべっ!」
何かドアのところで、音がしたけどそんなものに構っている暇はない!
「「アニス!!」」
私たち二人はほぼ同時に叫びながら玄関を飛び出した。
そしてそこには12、3歳の女の子がいた。
「はじめまして。
私、悪魔のフィオリと申します。
町の郊外の林にアニスさんが落ちてましたのでお届けにまいりました。」
え、なにこの子。
あくま?
いきなりの言葉に、私達の思考が混乱する。
モゾモゾ
すると女の子の後ろで何かが動いた。
「ぷはー。
フィオリさん、いくら身体が小さくて背負いにくいといっても荷物のように丸めて持ってくるのは酷いです。」
そこにいたのは・・・
「あ、アニス?」
すると、アニスはこちらを向き、太陽のような笑顔でしゃべったのだ。
「あ、千鶴子さま、パパイアさん。」
「アニスただいま戻りました。」
≪あとがき≫
みなさんお待たせしました。
21話を送らせていただきます。
たくさんのご感想ありがとうございました。
相も変わらず遅筆な私ですが、なんとか続けていきたいと思っておりますので、長い目で見ていただければ幸いです。
追記
次回はアニスが消えてからの説明編
久しぶりにアニス視点ですよ。
通りすがり様
残念、ストーカーは逃げてしまいました。
ルアベさま
ご感想を見たとたん思わず吹き出してしまいました。
わたしってそんなに読みやすいですか。
心の設定。
まさか、これを読まれるなんて。
ちなみにこの設定はかなり後で利用するつもりでした。
マトリョーシカ様
はい、実はアニス頑張っています。
努力の甲斐あってドジっ子属性はかなり矯正しました。
ただいまだバナナの皮は天敵ですが。
まほかにさま
私もやっとランスクエスト終了しました。
ちょっと不完全燃焼かな。
好きなキャラが多いので「もう少し可愛がってほしかったな。」と思っています。
リセットちゃんの愛らしさは癒されましたねぇ。