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No.11810の一覧
[0] ミルク多めのブラックコーヒー(似非中世ファンタジー・ハーレム系)[かおらて](2009/11/21 06:17)
[1] 初心者訓練場の戦い1[かおらて](2009/10/16 08:45)
[2] 初心者訓練場の戦い2[かおらて](2009/10/28 01:07)
[3] 初心者訓練場の戦い3(完結)[かおらて](2009/11/19 02:30)
[4] 魔法使いカナリー見参1[かおらて](2009/09/29 05:55)
[5] 魔法使いカナリー見参2[かおらて](2009/11/14 04:34)
[6] 魔法使いカナリー見参3[かおらて](2009/10/27 00:58)
[7] 魔法使いカナリー見参4(完結)[かおらて](2009/10/16 08:47)
[8] とあるパーティーの憂鬱[かおらて](2009/11/21 06:33)
[9] 学習院の白い先生[かおらて](2009/12/06 02:00)
[10] 精霊事件1[かおらて](2009/11/05 09:25)
[11] 精霊事件2[かおらて](2009/11/05 09:26)
[12] 精霊事件3(完結)[かおらて](2010/04/08 20:47)
[13] セルビィ多元領域[かおらて](2009/11/21 06:34)
[14] メンバー強化[かおらて](2010/01/09 12:37)
[15] カナリーの問題[かおらて](2009/11/21 06:31)
[16] 共食いの第三層[かおらて](2009/11/25 05:21)
[17] リタイヤPT救出行[かおらて](2010/01/10 21:02)
[18] ノワ達を追え![かおらて](2010/01/10 21:03)
[19] ご飯を食べに行こう1[かおらて](2010/01/10 21:08)
[20] ご飯を食べに行こう2[かおらて](2010/01/10 21:11)
[21] ご飯を食べに行こう3[かおらて](2010/05/20 12:08)
[22] 神様は修行中[かおらて](2010/01/10 21:04)
[23] 守護神達の休み時間[かおらて](2010/01/10 21:05)
[24] 洞窟温泉探索行[かおらて](2010/01/10 21:05)
[25] 魔術師バサンズの試練[かおらて](2010/09/24 21:50)
[26] VSノワ戦 1[かおらて](2010/05/25 16:36)
[27] VSノワ戦 2[かおらて](2010/05/25 16:20)
[28] VSノワ戦 3[かおらて](2010/05/25 16:26)
[29] カーヴ・ハマーと第六層探索[かおらて](2010/05/25 01:21)
[30] シルバの封印と今後の話[かおらて](2010/05/25 01:22)
[31] 長い旅の始まり[かおらて](2010/05/25 01:24)
[32] 野菜の村の冒険[かおらて](2010/05/25 01:25)
[33] 札(カード)のある生活[かおらて](2010/05/28 08:00)
[34] スターレイのとある館にて[かおらて](2010/08/26 20:55)
[35] ロメロとアリエッタ[かおらて](2010/09/20 14:10)
[36] 七女の力[かおらて](2010/07/28 23:53)
[37] 薬草の採取[かおらて](2010/07/30 19:45)
[38] 魔弾の射手[かおらて](2010/08/01 01:20)
[39] ウェスレフト峡谷[かおらて](2010/08/03 12:34)
[40] 夜間飛行[かおらて](2010/08/06 02:05)
[41] 闇の中の会話[かおらて](2010/08/06 01:56)
[42] 洞窟1[かおらて](2010/08/07 16:37)
[43] 洞窟2[かおらて](2010/08/10 15:56)
[44] 洞窟3[かおらて](2010/08/26 21:11)
[86] 洞窟4[かおらて](2010/08/26 21:12)
[87] 洞窟5[かおらて](2010/08/26 21:12)
[88] 洞窟6[かおらて](2010/08/26 21:13)
[89] 洞窟7[かおらて](2010/08/26 21:14)
[90] ふりだしに戻る[かおらて](2010/08/26 21:14)
[91] 川辺のたき火[かおらて](2010/09/07 23:42)
[92] タイランと助っ人[かおらて](2010/08/26 21:15)
[93] 螺旋獣[かおらて](2010/08/26 21:17)
[94] 水上を駆け抜ける者[かおらて](2010/08/27 07:42)
[95] 空の上から[かおらて](2010/08/28 05:07)
[96] 堅牢なる鉄巨人[かおらて](2010/08/31 17:31)
[97] 子虎と鬼の反撃準備[かおらて](2010/08/31 17:30)
[98] 空と水の中[かおらて](2010/09/01 20:33)
[99] 墜ちる怪鳥[かおらて](2010/09/02 22:26)
[100] 崩れる巨人、暗躍する享楽者達(上)[かおらて](2010/09/07 23:40)
[101] 崩れる巨人、暗躍する享楽者達(下)[かおらて](2010/09/07 23:28)
[102] 暴食の戦い[かおらて](2010/09/12 02:12)
[103] 練気炉[かおらて](2010/09/12 02:13)
[104] 浮遊車[かおらて](2010/09/16 06:55)
[105] 気配のない男[かおらて](2010/09/16 06:56)
[106] 研究者現る[かおらて](2010/09/17 18:34)
[107] 甦る重き戦士[かおらて](2010/09/18 11:35)
[108] 謎の魔女(?)[かおらて](2010/09/20 19:15)
[242] 死なない女[かおらて](2010/09/22 22:05)
[243] 拓かれる道[かおらて](2010/09/22 22:06)
[244] 砂漠の宮殿フォンダン[かおらて](2010/09/24 21:49)
[245] 施設の理由[かおらて](2010/09/28 18:11)
[246] ラグドールへの尋問[かおらて](2010/10/01 01:42)
[248] 討伐軍の秘密[かおらて](2010/10/01 14:35)
[249] 大浴場の雑談[かおらて](2010/10/02 19:06)
[250] ゾディアックス[かおらて](2010/10/06 13:42)
[251] 初心者訓練場の怪鳥[かおらて](2010/10/06 13:43)
[252] アーミゼストへの帰還[かおらて](2010/10/08 04:12)
[254] 鍼灸院にて[かおらて](2010/10/10 01:41)
[255] 三匹の蝙蝠と、一匹の蛸[かおらて](2010/10/14 09:13)
[256] 2人はクロップ[かおらて](2010/10/14 10:38)
[257] ルシタルノ邸の留守番[かおらて](2010/10/15 03:31)
[258] 再集合[かおらて](2010/10/19 14:15)
[259] 異物[かおらて](2010/10/20 14:12)
[260] 出発進行[かおらて](2010/10/21 16:10)
[261] 中枢[かおらて](2010/10/26 20:41)
[262] 不審者の動き[かおらて](2010/11/01 07:34)
[263] 逆転の提案[かおらて](2010/11/04 00:56)
[264] 太陽に背を背けて[かおらて](2010/11/05 07:51)
[265] 尋問開始[かおらて](2010/11/09 08:15)
[266] 彼女に足りないモノ[かおらて](2010/11/11 02:36)
[267] チシャ解放[かおらて](2010/11/30 02:39)
[268] パーティーの秘密に関して[かおらて](2010/11/30 02:39)
[269] 滋養強壮[かおらて](2010/12/01 22:45)
[270] (番外編)シルバ達の平和な日常[かおらて](2010/09/22 22:11)
[271] (番外編)補給部隊がいく[かおらて](2010/09/22 22:11)
[272] (番外編)ストア先生の世界講義[かおらて](2010/09/22 22:14)
[273] (番外編)鬼が来たりて [かおらて](2010/10/01 14:34)
[274] (場外乱闘編)六田柴と名無しの手紙[かおらて](2010/09/22 22:17)
[275] キャラクター紹介(超簡易・ネタバレ有) 101020更新[かおらて](2010/10/20 14:16)
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[11810] (場外乱闘編)六田柴と名無しの手紙
Name: かおらて◆6028f421 ID:4d825c64 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/09/22 22:17
「ふあぁ……」
 {六田/ろくだ}{柴/しば}は大きくアクビをした。
 彼の登校は、早くもなく遅くもなく、だからこそ駅から学園までの道程は、最も通学する生徒の数が多い時間となる。
 校門前にはいつものように、風紀委員が服装や髪型の乱れのある生徒がいないかとチェックをしていた。
「おはようございまーす」
「うむ」
 などというやり取りが繰り返される校門を、柴は潜った。
 すると、そこには腕章を巻いた学ランの生徒が立っていた。竹刀を杖のように持ち、長い黒髪をポニーテールにした美青年だ。その竹刀は伊達ではなく、剣道部の部長でもあり、また街の剣術道場『詠静流道場』では師範代まで務めている腕前だ。
 風紀委員長の{夏目/なつめ}{桔梗/ききょう}は、多数の生徒の中から柴の姿を認めて、微かに顔を綻ばせた。
「おはよう柴殿」
「はよっす、桔梗先輩。今日もご苦労さんです」
 柴の挨拶に、桔梗はクルッと背後を向いた。

「……何故……っ! 某は三年生の役割……!」

 グッと拳を握りしめ、悔しげな顔をする。
「何か言ったッスか、先輩」
 柴の問いに、再び桔梗は彼の方に向き直った。
 小さく咳払いをする。
「う、うむ。いや何でもない。それよりも早く通るがよい。まだ時間の余裕がると言っても、もうしばらくすると門が閉まってしまう」
「うっす。……ま、あんまり長く喋ってると、後ろの女子連中の視線が怖いですしね」
 何だかものすごい殺意のオーラを持つ女子生徒の一団が、桔梗と談笑する柴を睨んでいた。
 はぁ……と桔梗は溜め息をついた。
「某としても、何とかしたいのだが」
「そして更に、騒がしい人が増えた、と」
 静かなエンジンの音に気がつき、柴は親指で指し示した。
 黒く長い車が校門を抜け、柴のほぼ真後ろで止まった。
 大輪の花を背景にして、白い学ランを着た生徒会長である{牛島/うしじま}{華也/かなり}が車から降りると、周囲から女子生徒達の黄色い歓声が沸き起こった。
 牛島コンツェルンの次期総帥候補筆頭であり、輝く金色の長髪と赤い瞳は嫌でも目を引く美貌だ。
 金髪を掻き分けながら、華也は柴と桔梗に近付いた。
「やあおはよう、風紀委員長。それと柴」
「ちゃっす、華也先輩」
 華也は柴に会釈すると、桔梗の肩を抱いた。
 そして、背後を向く。

「……納得がいかないのは僕も同じだ。何故、シルバと同じ教室じゃないんだ……!」
「うむ。直訴するべきだ。これは断固として、神に直訴するべきだ」

 二人は小さな囁きを終えると、何事もなかったように距離を取った。
 桔梗は華也の服装に、何とも言えない難しい顔をした。
「……生徒会長」
「何かな、風紀委員長」
 パチン、と扇子を鳴らす生徒会長。
「前から何度も言っているが、その白い学ランは校則違反だ。改めるように言ったはずだが」
「問題ない。もうじき、校則の改正法が審議を通過する。そうすれば、この白学ランも晴れて、正式な制服となる」
「それは権力の濫用ではないか?」
「正当な行使さ。権力など、使ってナンボだろう。第一……」
 その時、ズン、と重い足音が響いた。
 柴が振り向くと、身長二メートルはあろうかという青い甲冑が近付いてきていた。
 柴が暮らす教会の近くにある病院で長い入院生活を送っていた、{北条/ほうじょう}{平良/たいら}である。
 入学式から既に一ヶ月、生徒達も彼女の異様にももうすっかり慣れていた
「お、おはようございます……柴さん。そ、それに生徒会長さんと、風紀委員長さんも……」
 ぺこり、と青甲冑が頭を下げる。
「ういっす、{平良/たいら}。今日も頑張ろうぜ。やばくなったらすぐ保健室に行くんだぞ」
「は、はい」
 そして、平良はズンズンと足を進めて、一年生の校舎に向かっていった。
 華也は、服装に厳しい風紀委員長を見た。
「……アレはいいのか?」
「移動式医療機械ではないか。問題ない」
「どうしてアレはよくて、僕が駄目なんだ!?」
「病弱な身体を押して学問に励む! 実に健気ではないか! 生徒会長殿の、その戯けた服装とは事情が違うのだ!」
 どうやら長くなりそうだ。
 このままチャイムまで待つのも不毛だな、と柴は判断した。
「……あー、そろそろ俺、行くっすね」
 途端に、華也も話を切り上げてしまう。
「あ、ま、待つんだ柴。僕も一緒にゆこう」
「そ、某も」
 桔梗もついてこようとしたが、ビシッと華也はそれを扇子で制した。
「君はまだ、仕事が残っているだろう風紀委員長」
 そう言われると、桔梗はどうしようもない。
「う、うう……! し、柴殿! またあとで!」
 ああ、と返事をしようとした時、柴の背後で爆音じみた足音が響いてきた。
 ヤバイ、と思ったが遅かった。
「ちゃーっす先輩っ!!」
「ぐぼあっ!?」
 後ろから腰目がけて弾丸のようなタックルを食らい、柴は相手と共に吹っ飛んだ。
「柴殿!?」
「柴!?」
 青空を仰ぐ柴の腰に、ちょこんと栗色の髪の少年(?)が乗っかっていた。
「あははー、先輩ったらもー、相変わらず身体弱いよね。もっと牛乳とか煮干しとか取り込まないと」
 ニパッと微笑む彼(?)の名前を、{阿国/あぐに}{比呂/ひろ}という。
「お、お、お前のタックルを背後から食らったら、大抵の男はこうなるっつーの……」
「大丈夫だよ。こんな真似をするのは先輩にだけだから」
「そ、それは光栄至極というか傍迷惑というか……」
 ペシッと比呂の頭を、華也が扇子で叩いた。
「もうちょっと、大人しく登校は出来ないのかね、比呂」
「あはは、ごめんねカイチョー。ってやば! 早弁する時間がなくなるかも!」
 比呂は立ち上がると、ダブッとした学ランの土埃を急いで払った。
 そして鞄を抱えて、一年生の校舎に向かって再びロケットダッシュを開始する。周囲の生徒達は慌てて、彼(?)の進路を回避する。
「ってお前は来たそうそう飯食うのかよ!?」
「道場で朝練して、それっきりだったからー」
 ドップラー効果を発生させながら、比呂は校舎に突っ込んでいった。何人かの生徒が吹き飛んだが、まあいつもの事だ。
「……相変わらず、ロケットみたいな奴」
「だね」


 三年生の校舎が近付き、柴は華也と別れる。
「んじゃ、華也先輩、また」
「うん。君も勉学に励み給え」
 そして柴は、中庭を抜け、二年生の校舎に向かう。
 牛島コンツェルンから多額の寄付を受けているこの学園は、規模が相当に大きく、校舎も各学年に一つずつという仕様になっている。
「やれやれ」
 朝から騒々しかったな、と柴は自分の肩を揉んだ。
 園芸部の花壇に、一人の男子生徒(?)が植木鉢を手に腰を屈めていた。
 銀髪のショートカットの彼(?)は柴に気がつくと、立ち上がった。
「に。おはよ」
 {森須/もりす}{葉/よう}。
 一年生の、園芸部員だ。実家は花屋で、とても怖いお父さんとやんちゃな三つ子&大人しい末っ子が経営していると評判だ。
「うっす、園芸部員。そろそろ教室に戻らないと、駄目だぞ」
「にぅ……昨日より、芽が出てる」
 言って、葉はちょっと誇らしげに、芽が出ている植木鉢を持ち上げた。
「ん? おお、そうみたいだな」
 そして背後の花壇を振り返る。
「おいもさん、トマト、ナスビ」
「……食べ物ばっかりだな」
「に。できたら、おすそ分け。手伝ってもらってるお礼」
 中庭が見える位置に保健室があり、保健委員である柴は暇そうな時、この園芸部を手伝っているのだ。
 もっとも花壇は、まだ芽がちらほらと見える程度でしかない。
「ふーむ。まだまだ先は長いが、楽しみに待つとしよう」
「……にぅ、待ってて」
 などと話をしながら、柴は葉と別れた。


 二年生の校舎に入り、下駄箱に自分の靴を入れる。
「さてさて、と」
 正確に入れようとした。
 上履きの上に、白い封筒が乗っていたのだ。
「……おぅ?」
 差出人はなし。
 中には一言だけ。


 放課後五時、校舎裏にてお待ちしております。



 チャイムが鳴った。
 柴は幼馴染みであり、クラスメイトの{星/ほし}{黒江/くろえ}にとってもあやしい件の手紙の相談をしていた。
「……黒江、一体、誰が出したか分かるか?」
 鴉の濡れ羽色をした艶やかな長髪に冬服のセーラー服がよく似合う、美少女だ。
 このクラスの二大美少女の一人とも言われている。
 そんな彼女は、軽く首を傾げ、時計を確認した。
「何とかやってみますけど、もうちょっと時間が欲しいですね。待ち合わせまで、あと数時間じゃないですか」
「だねー。いくら何でも柴っち無茶言いすぎー」
 グテーッと机にもたれて言うのは、{早野/はやの}{真珠/しんじゅ}。柴の悪友であり、暴力団早野組の一人娘である。
「ともあれ、受けた依頼を果たすのが、私達学園探偵のお仕事ですから」
「やるしかないかー」
 そんな二人に柴は頭を下げた。
「よろしく頼む。……んで、後ろでやさぐれながら呪詛をひたすら撒き散らしている、お前は一体何なんだ」
 金髪の子供が、隣の席からジト目で柴を睨んでいた。真珠と同じく悪友の一人、{寺下/てらした}{勝斗/かっと}である。
 小学生のように見えるが、れっきとした柴達の同級生だ。
「ま・た・フラグ立てやがりましたよこの男はまったくどうしてこーいつもいつもお前ばかり……」
「羨ましがるのは結構だけど、毎度毎度事件に巻き込まれる俺の身にもなれ」
 うんうん、と真珠が頷く。
「そだねー。何か柴っちってどこかの不幸の星にでも見込まれたみたいに、変なトラブルがくっついてくるよねー」
 黒江は手紙を柴に返すと、窓の外を指差した。
「柴。そろそろ北斗七星の横に小さな星とか見えません?」
「死兆星!?」
「何だよー。その分巡り合わせは多いんだから、いいじゃねーかよー。大体お前、住んでる教会でも、一年生の{千紗/ちさ}ちゃんとか、最近新しく入ってきた{白/しろ}ちゃんとか囲まれて、ウハウハじゃねーかよう」
「アイツらは別にそんなんじゃねーっつーの」
 恨み言を続ける勝斗を、柴は否定した。
「あ、そろそろホームルーム始まるかも」
 教室の生徒達が慌ただしげに席に座るのを眺め、黒江は教科書とノートを机から取り出す。
「はい。皆さん席に着いて下さいね」
 入ってきたのは、真っ白い髪に真っ白い法衣。頭に山羊のような角を生やし、槍のような尻尾を生やした優しそうな女性だった。
「って、先生角っ! 尻尾!」
「はい? どうかしましたか、ロッ君」
 ぱちくり、と目を瞬かせるストア・カプリス――ではなく、{雁笛/かりぶえ}{幸弥/さちや}。
「その呼び方も駄目ですから! 空気読みましょうよ、先生!」
「細かい事は言いっ子無しですよ、ロッ君。この世界を構築する主が、厳密な事に拘る性格だと思いますか?」
「ううう……アバウトすぎる」
「ちなみにその神様はこの世界では、理事長やってますけど、今上級生二人の直訴の対応中です。それはさておき、今日は転校生を紹介したいと思います」
「はい?」
 初耳だった。
 耳の早い黒江や勝斗を見るが、彼らも知らなかったようだ。
「新しいお友達を、拍手でお迎えしましょうね」
 すかさず勝斗が手を挙げた。
「先生、男ですか女ですかーっ!」
「それは見てからのお楽しみです。それじゃ、どうぞ」
「うん」
 そんな声が聞こえ、柴は嫌な予感がした。
 入ってきたのは学ランを着た、美少年(?)だった。
「{明屋/めいや}{那智/なち}です。よろしく」
 男子と女子、両方から一斉に拍手がわき起こった。
 違うリアクションをしているのは、クラスで二人だけだった。
「あらあら、ロッ君、星さん。座りながらずっこけちゃ、駄目ですよ?」
「そうだぞ、柴」
 言って、勝斗は再び手を挙げた。
「質問!」
「いいぞ。何でも聞いてくれ」
 むん、と胸を張る那智に、勝斗は真剣な顔で尋ねた。
「男なのか女なのか、そこが重要」
「他に聞く事がないのかお前は!?」
 ようやく立ち直った柴は、そのままツッコミにスライドした。
「馬鹿野郎! スリーサイズとかを聞くのは女の子と確定してからだ! マナーを弁えろ!」
「残念な事に、柴と同じ教室で体育の着替えは出来ないんだ」
「「「「「おおおおおおおおお!!」」」」」
 那智の言葉に、男子が一斉に盛り上がる。
「って男子連中、何でそんなに盛り上がれるんだよ!?」
 那智は構わず、白い先生に尋ねた。
「先生。僕は柴を婿に取るつもりでいるので、隣の席にして欲しい」
「お前は何を言い出すんだ!?」
「そういう事ならしょうがないですね。勝斗君、どいてもらえますか?」
 先生の要求に、勝斗は魚が死んだような目で、席を立った。
「あ、いいっすよー。俺今日早退して、近所の神社にお百度参りに行きますから。柴死ねって呪い掛けてきます」
「あ、俺も」「俺も俺も」
 男子が続々と立ち上がる。
「あらあら、ロッ君以外の男子全員ですか。困りましたね」
「困ってないで止めましょうよ!? もろに学級崩壊じゃないですか!?」
「僕としては、出来れば二人きりがいいんだが」
 勝斗の席に座りながら、那智はそんな事を言った。
「お前はもっと空気を読めっ!」
 ふと思いたち、柴は那智に尋ねてみる事にした。
「あ! まさかあの手紙は、お前が犯人じゃないだろうな!」
「手紙?」
 ハズレ。
 しまった、という顔をする柴に、那智は楽しそうな顔を向けた。
「詳しく聞きたいね」
 そのタイミングを見計らったように、校内放送用のスピーカーが鳴り響いた。
『生徒会長だ。これより臨時の生徒会会議を行なう。各委員の委員長と2年1組の六田柴は至急、会議室に集まるように。繰り返す。これより臨時の生徒会会議を行なう』
「華也先輩ーっ!?」


 授業はどうしたとか、細かい事を言ってはいけない。
 とにかく会議室に、生徒会の役員や各委員長、そして柴は集められた。
 生徒会長である、牛島華也はドン、と机に拳を叩き付けながら、身を乗り出した。
「不純異性交遊は許すべきではないと思う!」
「まったく同意見だ!」
 力強く主張する風紀委員長、夏目桔梗である。
 そして、室内のほぼ全員から、「またお前か」と白い目を向けられる柴であった。
 おずおずと、手を挙げ、主張する事にする。
「えっと、あの……何か俺、ものすごく視線が痛いんですけど……そもそも、こんな会議を開く必要がないですし……」
 深く息を吐き、後ろの入り口からこっそりと覗いている(つもりの)比呂を睨んだ。
「お前は何野次馬してるんだ」
「や、面白そうだから」
「主役らしい俺は、別に面白くない」
 よし、と柴は立ち上がった。こうなったら、後は度胸だけである。
「そもそも、一体どうするつもりですか、先輩方! 受け入れるにしろ断るにしろ、その手紙の差出人には会いに行くつもりですよ、俺は!」
「「な、何だってーーーーーっ!?」」
 柴の発言は、少なくとも生徒会長と風気委員長には衝撃だったらしい。
「当たり前でしょう。単純に名前を書き忘れただけかも知れませんし、一応は出向かないと。あと、野次馬禁止でお願いしますからね!」
 二人は、何やら考え込んでいるようだった。
「……秘密部隊を使うか」
「隠形の技を習っていてよかった……」
「不穏な事を言わない!」
「やれやれ。柴も大変だね」
 いつの間に入り込んでいたのか、那智は柴の背後からもたれかかるように身体を預けてきた。
「って、その態度はふしだらであろう!」
「ほとんど当たるモノはないですが、そういう問題じゃないですね」
「うむ!」
 柴のコメントに、頬を真っ赤にしながら頷く桔梗。
 しかし那智は平然としている。
「やはり校内ではマズイか」
「あ、当たり前だ」
「なら柴。家に帰って子作りだ」
「不純異性交遊は禁止だ!」
「不純ではないぞ、風気委員長殿。純粋な恋愛だ」
「……お前、俺の意思完全に無視しながら言うなよなぁ」
 柴は、もう何度目になるか分からない溜め息をついた。
「意思を尊重してもいいぞ。柴なら多分、全裸で夜這いを掛ければイチコロだと思う」
「チョロいな俺!?」
 ふむ、と那智は考える。
「……半裸の方が好みか」
「そういう問題じゃねえ!」
「ソックスはちゃんと残しておくから安心するんだ」
「何一つ安心出来る要素がねえよ!?」
「そうだな。バリバリの危険日だ」
「むしろ俺の今夜の方がデンジャラスになってきたよ!?」
「ひとまず、転校生だったかな明屋那智」
 新しい敵が出てきた、と言わんばかりの華也である。
「ああ。どうでもいいけど、キャラクターが微妙に被っていないかい、会長殿」
「……僕は君ほど軽くはない。あともうちょっと自重したまえ」
「ふうむ、ある種の停戦協定のようなモノが結ばれているのかな。しかしそんなモノはぶっちゃけ、抜け駆けした者の勝ちだよ?」
「……!」
 ハッと目を見開く、桔梗であった。
「風紀委員長も、何開眼したような顔になってるんだよ!?」


 そんなよく分からない会議も終わり、いつの間にか昼休みになっていた。
 保健委員の当番だった柴は、保健室で昼食を取っていた。
「あーもー……」
「た、大変ですね、先輩も」
「……いやまったくだ。ひとまずはここが一番落ち着くかも」
 小さなお弁当箱を広げ、ベッドに腰掛けているのは、妖精のように美しい少女だった。
 ほとんど知られてはいないが、北条平良の甲冑を脱いだ姿である。もちろんちゃんと制服は着用しているのは、言うまでもない。
 抜け殻となった巨大な青い甲冑は、力尽きたように壁際に座り込んでいる。
「わ、私、退散しましょうか?」
「いや、いいから。平良はそこがホームグラウンドみたいなもんだし」
「それも、どうかと思いますけど」
 などと話しながら二人で弁当を食べていると、爆発音と共に校舎が揺れた。
「きゃっ!?」
 ベッドから落ちそうになる平良を、柴は慌てて抱き留めた。
「爆発音!? 科学準備室の方……って事は、あの人か」
「……あ、あ、あの人ですね」
 柴に抱きすくめられ、顔を真っ赤にしながら、平良は言う。
「やれやれ、ちょっと怪我人が出てないか、確認してくるよ」
 柴は平良をベッドに座り直させると、救急箱を手に取った。
「あ、わ、私もお供します。これが、お役に立てるかも知れませんし」
「……悪い。頼むわ」


 校舎の壁を突き破り、平良の青甲冑を凌ぐ、巨大な甲冑が中庭に現れていた。
 そしてそれを見上げ、爆発したような白髪に白衣を着た老人が、誇らしげに高笑いを続けていた。
「カカカカカ! 大・復・活! ゆくぞいモンブラン二五六号!! まずは試運転じゃ!」
「ガ!」
「待て、黒部老!」
 地響きを上げながら進む一人と一体の行く手を阻んだのは、竹刀を持つ美青年(?)だった。
 校舎の窓から見下ろしている女生徒達が、黄色い悲鳴を上げる。
 風紀委員長、夏目桔梗その人だ。
「む! またしてもお前か、風紀委員長!」
「いい加減、科学部の私物化はやめるべきだと、某は忠告したはず。一ヶ月の停学でも、何も学ばなかったのか」
「カカカ……! 留年六十年のこの{黒部/くろべ}{坪人/つぼひと}、貴様のような小童の戯言で、信念を曲げると思うてか!」
「本当に、懲りねー爺さんだなぁ……」
 追いついた柴と平良は呆れたようにモンブランを見上げた。
「ぬう! 貴様もか、小僧!」
「柴殿! それに平良も!」
「お、お手伝いします……」
 おずおずと、青甲冑が桔梗に頭を下げる。
「……またでかくなってるけど、これ、竹刀で相手になるのか、桔梗先輩」
「ふ……柴殿、案ずるな。詠静流に斬れぬモノなど、ない! では参る!」
 桔梗は軽く竹刀を振るい、モンブラン二五六号に躍りかかる。
「カッカッカ! 掛かってこい、小童共! ゆくぞ、モンブラン! 始動テストには手頃な相手じゃあ!」
「ガオン!」


 などという騒動を片付け、柴が教室に戻る頃には、昼休みはほぼ終わろうとしていた。
「ふへぇ……」
 疲れ果て、自分の席に戻ろうとする柴を、那智が出迎えた。
「お帰り柴。ところで教室に面白い人が入ってきたのだが、アレも生徒か?」
「面白い? あー……」
 そんな表現が似合う生徒がこのクラスには多いが、それでも朝にいなかった人物となると大体の心当たりがある。
 やけに暗い教室に入ると、スポットライトが机の上に立ったツインテールの可愛らしい女生徒を照らしていた。
「あ、戻ってきたね、転校生!」
 彼女は那智に気がつくと、ビシッと指を差した。
「ただいま」
 そしてその後ろにいる柴に気がつくと、むーと難しい顔をする。
「柴君! また貴方の関係者なの?」
 黒江と並ぶこのクラスの二大美少女の一人、{平瀬/ひらせ}{乃亜/のあ}だ。現役の芸能人でもある。
 やれやれ、と柴は頭を振った。
「……違うと言いたい所なんだが、残念な事に関係者だ」
「妻です」
「違う!」
 ガガーンと乃亜は衝撃を受けていた。
「つ、妻!? 芝君ってばもう妻帯者なの!?」
「俺の否定の声は完全にスルーですか!?」
「とにかく! この教室の主役は乃亜なんだから! 転校生ごときに負けたりしないの!」
「……お前は一体何と戦っているんだ。ついでに言えば男子連中。お前らお百度参りに行ったんじゃねーのかよ」
 ようやく教室の暗さになれると、男子生徒の大半が乃亜を崇めていた。まるで宗教である。
 勝斗は耳をほじりながら、ざるを手にクラスメイト達に声を掛けていく。
「こっちの方が面白そうだから、戻ってきたんだよ。さー、今んとこ柴が不利、柴が不利だよ! まだ賭ける人はいないかっ!」
 男子生徒も女生徒も、皆それぞれに賭けながら、金をざるに放り込んでいた。ちなみに集計をとっているのは真珠である。
 柴はうんざりをした顔で、やたら突っかかってくるクラスメイトを見上げた。
「俺は別にお前と揉める気はないし、やるんなら好きにしてくれ」
「あ! もー、柴君ってばまた乃亜をスルーする! この! 国民的アイドル平瀬☆乃亜が相手にしてるんだから、構うのが礼儀だよ!」
「悪いが、そんな礼儀の国は俺は知らん。学生は学業が本分であって、目立つ事が仕事じゃないだろ」
 そう言って、すっかり疲れた柴は、自分の席に座った。
「もー、そうやって柴君はまたすぐ正論ぶる!」
「乃亜さん、スケジュールが押していますよ」
 それまで黙っていた銀髪のマネージャー、{渡船/とせん}{十司/じゅうじ}は時計を確かめていた。
「そんなの後後!」
「大体俺、家でテレビ見ねーし、芸能人とか興味ないって」
「そもそも、今時アイドルというのは如何なものなのか」
 柴に続くように、那智も言う。
「乃亜の存在全否定されちゃったぁ! こうなったら……」
 乃亜が指を鳴らすと、スポットライトが消え、カーテンが開く。
 教室は昼の明るさを取り戻した。
「{龍/りゅう}君、引田さん、よろしくお願いします」
 マネージャー、十司の言葉に、スポットライトを持っていた黒服の青年と巨漢が頷いた。
「今日こそ芝君に、乃亜の魅力を徹底的に知らしめてやるんだから! ウチの地下室に閉じ込めて、一週間ぐらい叩き込んであげる!」
「それは犯罪だ!」
「そもそもそれは、ヤンデレのテンプレートじゃないか。しかし二人相手か。なかなかに厄介だな」
 柴が喧嘩がからっきしなのを知っている那智が、ポケットに手を突っ込みながら前に出る。
「ぶじゅつをつかうようにはみえないが」
 ぬん、とポーズをとる巨漢、{引田/ひきた}{仁蔵/じんぞう}。
 そして彼を諫めながら、ネクタイを緩める青年は、{樽本/たるもと}{龍/りゅう}。
「引田。目を見るな。怪しげな術を使う」
「おっと、なかなかやるね」
「ちょ、超能力バトルに突入!?」
 今回そういうのは無しだったはずだよな、と柴は思う。
 その柴の背後、窓から木刀を持った比呂が飛び込んできた。
「先輩、助太刀お待たせ!」
「ってどっから来るんだよお前は!?」
 ここは四階である。
「や、階段登るのが面倒くさくて」
「だからって壁をよじ登ってくる奴があるか!」
「に……駄目なの?」
 入っていいのか迷っているのは、葉だった。
「……お前まで、付き合う事ないだろ。いや、危ないから入っていいって」
「に」
 柴を守るように、那智、比呂、葉が並ぶ。
 それを見て、乃亜は唇を尖らせた。
「むー! 芝君、守られたばっかりで恥ずかしくないの! それでも男!」
「って一番後ろから偉そうに説教垂れてるお前に言われたくねーよ!」
「あ、そ。十司君」
「はい」
 十司が鞄から取り出したのは、二本の小さな斧だった。
「じゃ、乃亜も出よっか」
 ニッコリと天使の笑顔を浮かべる乃亜に、柴の表情は引きずった。
「銃刀法違反だろそれは!?」
 だが、乃亜はお構いなしに、机の上で身体を捻る。
「だぼーとまほーく……」
 やば、と柴は身を屈めた。
「ぶーめらん!!」
 直後、勢いよく窓の外に、二本の斧が飛んでいった。
 それを見送り、葉は首を傾げた。
「げったー合体とか、する?」
「されても困る!」
 慌てて、葉の頭を下げる柴。
 彼方に去ったはずの二つの斧が、鮮やかに乃亜の手元に戻った。
「やれやれ、それじゃ私もお手伝いしましょうか」
「だねー。そっちの人見覚えあるし」
 今まで見物に徹していた黒江と真珠が、席を立つ。
「ギクッ」
 真珠の笑みに、何故か十司が後ずさった。
「何か知ってるのか、真珠」
「日曜日にねー、街でスカウトされそうになったの。モデルにならないかって。何か胡散臭いから逃げたけど」
「……おいおい」
 柴を始め、みんなの視線が十司に集中する。
 十司は笑みを崩さないまま、弁明を試みた。
「嘘じゃないですよ? 僕のコネで、芸能人の仲間入りはそれほど難しくはありません。ただその後は、実力ですが」
 柴は携帯電話を取り出すと、生徒会長に繋げた。
「あ、華也先輩? 従兄弟の十司さん、また妙な事やってるみたいっすよ」
「それは卑怯じゃないか、芝君!? 学校では携帯電話の使用は控えるように!」
「こんな騒ぎを起こしてる連中が何言っても、説得力皆無だろうが!?」


 馬鹿騒ぎと午後の授業が終わると、柴はもう疲労困憊であった。
「お、終わった……やっと放課後だ……」
 机に突っ伏す柴の背を、ポンポンと那智が叩いた。
「お疲れ、柴」
「もう一つ、やる事が残ってるんでな」
 よっこいせ、と柴は立ち上がる。
「ああ、例のラブレターの件かい」
「そ。相手が誰であれ、すっぽかす訳にはいかないだろう」
「名前も書かないような手紙なんて、僕は無視してもいいと思うけどね」
「書き忘れの可能性もあるし、ズルズルと引っ張るのも厄介だ。……いや、もしちゃんとした相手なら、厄介というのも失礼な話だけど」
「それで黒江は、相手を掴めたのかな」
 その黒江は今は教室にいない。
 夕暮れの放課後、ほぼ生徒は残っていなかった。
 約束の時間までもうすぐだ。
 鞄はこのままでいいだろうと、柴は教室を出ようとする。
「さすがに、時間がなかったし、途中で変な妨害も入った。今回は分からなくても、しょうがないだろ」
「どちらにしろ、あと十分後には分かる事だしね」
「そうそう……って、おい」
 柴は足を止め、振り返った。
「何かな、柴」
「……どこまでついて来るつもりだ、那智」
「地獄の果てまでお供するぞ?」
「いや、来るなよ!?」


 そして校舎裏。
 柴は、不良達に取り囲まれていた。
 そしてそのボス、着崩した学ランを着た褐色の大男を見上げ、汗を拭う。
 ジャラリ、とピアスやネックレスが音を立てる。
「よく来たな糞ガキ」
 三年生の{浜/はま}{勇治/ゆうじ}。
 この学園の番長であり、暴走族グループ『グレート・ハマー』の族長でもある。
「……一応、一年しか違わない設定ッスよね。つーか字、きれいっすね」
 柴は、手紙を開くと、字を確認した。
 細いペンで書かれたそれは、とても目の前の粗野な男のモノとは思えない。
「褒めたところで、何も出ねーぞ。ちなみに書道一級」
「そもそも、何で名前を書いてないんっすか」
「テメエに名乗る名前なんてねえ」
 ああ、あれ伏線だったんだ、と柴は変なところで納得した。
 つい先日の日曜日、繁華街で彼に絡まれていた女生徒を助けた柴である。何とか勇治の手から逃れる事は出来たが、顔は見られていた。
 つまり、呼び出した理由というのはそれだろう。
「今時番長ってのも、どうかと思うんっすけど」
「大きなお世話だ。……おい」
 勇治が顎をしゃくると、彼の手下が二人、柴の両腕を固めた。
「げ」
 獰猛な笑みを浮かべ、勇治は腕をボキボキボキッと鳴らした。
「俺も、舐められたままじゃ、下のモンに示しがつかねーんでな。ま、全治三ヶ月ぐらいで勘弁してやるよ」
「ひ、卑怯とは思わねーの?」
「悪いな。俺様は効率重視なんだ。お前らしっかり固めとけよ?」
「は、はい!」
 勇治が、拳を大きく振りかぶる。
 それを見ながら、柴は呟いた。
「なら、こっちも遠慮はいらないな」
「何?」
「父上!」
 勇治の背後で声がした。
 様子を伺っていた葉の声に、勇治に劣らない壮年の巨漢が建物の影から現れた。
「やれやれ……倅共に店を任せて何をさせるのかと思えば」
 顎髭を扱きながら、不愉快そうに息を吐く。ワンポイントの花と『森須フラワーショップ』と刺繍されたエプロンが何とも似合わない。
「小僧、一つ貸しだぞ」
 げえ、と不良の一人が呻き声を上げた。
「ア、アンタは町内一怖い花屋さんで知られる、森須フラワーショップの店長!」
 やけに説明的な台詞で紹介された葉の父親、{森須/もりす}{張男/はりお}であった。
 さらに塀の上から声が響く。
「父ちゃん!」
「……ん」
 塀の上に立つ阿国比呂の隣で、鍛え抜かれた上半身を露わにした巨人が、ギョロリとした目で勇治を見下ろしている。
 ズザザ……とわざとらしく不良の一人が後ずさる。
「照れ屋で有名なプロ格闘家! {阿国/あぐに}{紅蓮/ぐれん}!」
「っていうかまだ未出ですよね、ヒイロの父さん!?」
「……うむ」
 柴のツッコミに、紅蓮は頷いた。
「学園の秩序を守る為、とー」
 のんびりした口調で柴の背後から現れたのは、麦藁帽子に作業着と用務員の格好をした目元まで伸びた長髪の青年だ。
 不良達が一斉に動揺する。
「学園長、{護堂/ごどー}{仁/じん}だと!?」
 さらに校舎の影から、次々と生徒達が現れる。
「そして、生徒会役員と――」
「風紀委員会」
 パチンと扇子を鳴らす華也と、竹刀の先で地面を突く桔梗。
「わ、私も、そのお邪魔してます……」
 青い甲冑の平良が現れたかと思うと、バットやボクシンググローブで武装した一年生達が続く。
「え、えっと……お兄ちゃん、助けに来ました! 一年の、皆さんです」
 その先頭にいる髪を後ろで一本に束ねた可愛らしい女生徒は、{春井/はるい}{千紗/ちさ}。
 教会で暮らす柴とは、長い付き合いになる。
 という紹介を知り、現れた那智がうーむ、と唸る。
「僕としては、千紗君はポジションが美味しすぎると思うんだ」
「元凶はわたし。わたしが始末を付ける」
 さらに金属バットを持った黒髪に色白の少女――{雁笛/かりぶえ}{白/しろ}。日曜日に勇治に絡まれた女生徒であり、現在は柴や千紗と同じ教会で暮らしている。
 それらを見渡し、柴は突っ込んだ。
「お前ら、全員覗いてやがったな!?」
「相手は分かったんですけどね。伝えるよりこれは、助太刀を頼んだ方がいいと思いまして」
 塀に腰掛けながら、黒江が笑った。
 圧倒的な人数に、勇治はともかく不良達はもうすっかり及び腰だ。
「て、テメエ……」
「まさか、卑怯とは言わないよな」
 柴が言うと、勇治は歯をギリ、と鳴らした。
「野郎共! やっちまえ!」
「やれるもんならやってみろ!」


 日も暮れ、下校途中にあるお好み焼き屋『弥勒亭』に、柴達はいつものように集まっていた。
「……毎日毎日、これじゃ身が持たねーっての」
「よくよく災難に巻き込まれるな、柴殿は」
「業が深いんだろう。自分から首を突っ込む事も多いし」
「喧嘩は弱いのにねー。あ、今晩のパーティーのセコンド、よろしくね先輩」
「……あの、比呂、ストリートファイトもいいですけど、あんまり危ない真似はしない方がいいですよ」
「にぅ……お好み焼き、美味しい」
 みんな、好き勝手な事を言いながら、ソースの香ばしい匂いが立つお好み焼きを頬張っていた。
「つーかお前、外国に何しに行ってたんだよ、那智。何も言わずに出て行ったモンだから、黒江も俺も心配したんだぞ」
「ああ、ちょっと余所の国の国籍を取りに」
「うん?」
 柴には、よく分からない。
「東欧にね、一夫多妻制有りの小国があって、そこの国籍を取得した。これで柴にどれだけ女性が増えても大丈夫だぞ」
 グッと親指を立てる、那智。
「って、変な方向に気を利かせてるんだよ!?」
「でかした、那智」
「大したモノだ」
 いつの間にか、華也会長と桔梗が、ガッシリと那智と手を取り合っていた。
「いやいやいや、先輩方何握手してるの!? 葉も万歳しない! お前のお父さんが――」
 ガラッと店の扉が開き、エプロン姿の張男が姿を現わした。
「許さんっ!!」
「出たーーーーーっ!?」


 六田柴の日常は、今日も平和です。


※最後のフィリオさんはアグ○スのイメージでも可。
 ……『手紙が届いて、それを何とかする』って以外、特にノープロットでした。
 あーもー、エイプリルフールには間に合わなかったなぁ、残念。
 もったいないので、こっそり掲載。
 というかすごく普通のラブコメにするはずだったのに、何故にこんな事(いわゆる大惨事)になってしまったのでしょう。
 なお今回登場のキャストは以下の通り。名前の元ネタ公開です。

六田 柴(ろくだ しば):二年生、保健委員、教会で生活している
シルバ(柴)・ロックール(ロック=六)で。
他に銀なので、銀太という名前の案もありました。

夏目 桔梗(なつめ ききょう):三年生、風紀委員長、剣道部員
キキョウの場合は、ほぼ漢字を当てるだけでした。

牛島 華也(うしじま かなり):三年生、生徒会長、牛島コンツェルン次期総帥候補
カナリー(華也)・ホルスティン(ホルスタイン=牛→牛島)です。

阿国 比呂(あぐに ひろ):一年生の剣道部員
阿国 紅蓮(あぐに ぐれん):比呂の父親、プロ格闘家
ヒイロ。阿国は、裏設定でのヒイロの一族、アグニ一族から。
グレン。アグニ族の戦士であちこち放浪しては、強い奴と戦っている。

北条 平良(ほうじょう たいら):一年生の甲冑娘、病弱
タイラン(平良)・ハーベスタ(ハーベスト=豊穣(ほうじょう)→北条)。
適当な当て字がなくて、苦しんだキャラの一人。

森須 葉(もりす よう):一年生の園芸部員
森須 張男(もりす はりお):葉の父親、超怖い花屋さん
リフ(リーフ=葉)・モース(=森須)。
あんまり名前が可愛くなくて、ちょっと残念。
タイランにも共通するのですが、コンセプトは男でも女でも通用する名前なのですよ。
フィリオ(=張男)。

明屋 那智(めいや なち):二年生、柴の幼馴染みで転校してきた
ネイト(=那智)・メイヤー(=明屋)
ほぼ当て字。ネイトで那智はちょっと苦しかったかも。


雁笛 幸弥(かりぶえ さちや):世界史の担任教師
ストア・カプリス。
雁笛 白(しろ):幸弥の養女
シーラ。
春井 千紗(はるい ちさ):一年生
チシャ・ハリー。この子の名前が正直一番楽でした。
教会で共同生活を送る三人です。

星 黒江(ほし くろえ):柴の幼馴染み、便利屋
クロエ・シュテルン。シュテルンはドイツ語で星を意味します。
寺下 勝斗(てらした かっと):柴の悪友、超童顔
カートン(orテースト)。カートン=勝斗です。
早野 真珠(はやの しんじゅ):柴の悪友、ヤクザの娘
シンジュ・フヤノ。
柴の悪友三人。

平瀬 乃亜(ひらせ のあ):芸能人、二年生
渡船 十司(とせん じゅうじ):乃亜のマネージャー
樽本 龍(たるもと りゅう):乃亜のボディーガード
引田 仁蔵(ひきた じんぞう):乃亜のボディーガード
それぞれ、ノワ(乃亜)、クロス(=十字→十司)、ロン(龍)、ヴィクター(引田)。

黒部 坪人(くろべ つぼひと):留年六十年の生徒
モンブラン二五六号:黒部の作った巨大マシン
浜 勇治(はま ゆうじ):番長
それぞれテュポン・クロップ、モンブラン、カーヴ(カーブ=U字→勇治)・ハマー(浜)。

追記。
護堂 仁(ごどう じん):学園長、外見は用務員
ゴドー(=護堂)。神(じん)を変換して仁。


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