「時に聞くが、君は女の子か」
ちびネイトの問いに、チシャは首を傾げた。
「本来精霊に性別の概念はありません。しかし、敢えてどちらかと問われれば、女性型です。創造主は、精霊には美の概念も必須という考えの持ち主でした」
むぅ、とヒイロが唸る。
「……タイランのお父さんも、そうだったの?」
「わ、わ、私は、生まれた時からこうだったんですけど……」
「ともあれ、安心した」
「あ、ああ、それは僕もだ」
ちびネイトが頷き、扉が開いたかと思うとカナリーが飛び込んできた。ダンディリオンは逃がしてしまったようだ。
「お帰りカナリー。……で、何で?」
「これはフラグだからだ」
「ああ……うん。シルバなら、余裕だと僕も思う」
「だからその一言で全部片付けるんじゃねえよ!?」
「フラグとは何ですか」
チシャは不思議そうだ。
「ふふふ、落としのシルバに抗う術はない。諦めるんだ」
「何と……貴方を越える尋問術の持ち主だというのですか」
ちびネイトの脅しに、彼女は素直に驚いていた。
「ああ、何と君は自分から望んで話すようになってしまうという……」
「いい加減にしろ」
ちびネイトの頭を、シルバは指先で弾いた。
「あいた」
「何という羨ましいスキル……」
にゅるり、と影から現れたダンディリオンが、羨望の眼差しでシルバを見上げていた。
「ダンディリオンさんも、本気で羨まないで下さい! と、とにかく、尋問を再開する! 出来れば、自分から話してもらえると助かるんだけど」
「何度も言いますが、協力する気はありません」
チシャの中にいる精霊は、頑なだ。
「ならば、私が出張るしかないな。まずは名前から聞こうか」
「う……」
ちびネイトに見つめられ、彼女は目を逸らした。
しかし、その程度でネイトの読心を免れることは出来ない。シルバの頭の中にも、彼女の思考が流れ込んで来る。
「カイワンね……どこか、タイランと韻を踏んでいるな」
「で、そのカイワンさんは、一体どういう手順を踏んで、ここに潜入したんだ? いや、それより重要なのは、何故アーミゼストにタイランがいることが分かった?」
「わ、私がやっぱり、力を使いすぎたんでしょうか」
タイランは、自分の不備を恐れているようだった。
けれど、それが原因ではないようだ。
「違うな。……なるほど、各国首都に精霊達を配置したらしい」
「私が何も話していないまま、全部進めないでもらえますか?」
チシャは不満そうな顔をした。
「いやだって、喋らないんだもん」
「うん」
仲間と相談していたシルバがシレッと答え、その横でヒイロも同意する。
「という訳で君は、情報を貯め込んでるデータベースとして扱うことにする。会話に参加したければ、自分から語る事だ」
「ふむー、儂にはよく分からぬが、参加してもよいかの。これでも施設に損害を被った被害者なのじゃ」
ナクリーも、小さく手を挙げて会話に参戦してくる。
「いいんじゃないか? ……とにかく、各国配置とはものすごい力業だな」
「単純な、人海戦術じゃな。それにしても人工精霊とやら、そんなに簡単に造れるものかの?」
「……言われてみれば、そうだな」
ナクリーの疑問はもっともだった。
さすが、技術屋らしい意見だ。
シルバは、タイランを見た。
「第一、それが出来るなら、タイランやそのお父さんを追う動機は薄い」
「そういう時の理由は単純だよ。タイラン君にあって、彼女に足りない物があるという事さ。そうだね、例えば現界での精霊としての身体を維持する時間に限界があるとか。はい、カナリーならどう思うかな?」
父親の促しに、カナリーも思案顔で応じる。
「出力……とか? タイランの本気を何度か見た事があるけど、あのレベルまで到っていない……とかかな」
「人工精霊というのはよく分からぬが、やはりコスト的な問題が気になるの。一体作るのに、どれほどのエネルギーが必要なのじゃろうかの?」
「え、えっと……属性の切り替えが出来ないとか?」
「いや、普通それは出来ない。それに関しては、確かにタイランの特異性じゃないかと思う。シルバは何か意見があるかな?」
「んんー……」
カナリーに聞かれ、シルバは少し考えた。
技術的な方面は他の人に任せて、シルバは別方向からアプローチしてみることにした。
「……カイワンさんさ」
「何ですか」
「タイランをアンタの創造主とやらが捕らえて、どうするか分かる?」
「それは、私の考える事ではありません」
「一応、タイランってアンタの姉に当たるんだけど」
「それが、どうかしましたか?」
「特に思うことは」
「ありません」
「優しさが足りない」
「精霊には必要ありません」
シルバは小さく息を吐くと、肩を竦めて皆を振り返った。
「タイランを欲しがってるのは、つまりこういうのもあるんじゃないのか?」
「……理解、出来ません」
「実際の所、製造過程で試行錯誤しているみたいだね。何度か装置を動かして、やっと一体、みたいな。精霊の出現に法則性を見出せないようだ。コスト面や出力の不安定もあるようだし、やはりコラン氏とタイラン君は重要なキーになっているのだろうね」
納得のいかなそうなチシャの心を、ちびネイトはさらに読んだ。
「問題点としては、彼女は既に私達の居場所を知らせている。元々、彼女はそういう役割を与えられていた訳だから、その任務は達成出来たようだが」
「ねーねー先輩、そもそも『天』って属性って何なの? 精霊って『火』とか『水』とか以外にもあるの?」
ヒイロの疑問に、シルバは答える。
「こっち方面だと地水火風の四大精霊がメジャーなんだけど、例えば『雷』『氷』とかの精霊がいるのは分かるな? リフは『木』だし」
「あー、うん」
「前に戦った天使は『金』だし、東方だとあらゆるモノに精霊が宿っているっていう教えがある。『光』や『冥』といったモノの他に空そのモノである『天』っていうのもあるんだよ。つーか、それを信仰してる巫女さんの知り合いがいてだな、実際以前、猪集団と戦った時に、俺も使っただろ?」
「そういえば、タイランのお父さんってサフィーン出身だっけ」
「は、はい。……リュウさんも、確かそっちの血が入ってたと思います」
その時、後ろの扉が開いて、聖印を持ったシーラが部屋に入ってきた。
「――主、持ってきた」
※カイワンの名前は天空神から取りました。
ヒイロの台詞が少ない……。
とりあえず、この尋問は次回で終了。
そろそろキキョウとかリフとか出したいし、チシャも復活させて上げたい所なので。