【習作ネタ】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第80話 孫家的日常。その5。寿春城のとある一室。「お、終わったぁ・・・」がくり、と高順は自室の机の上にどっかりと突っ伏した。現状では、基本的に武官も文官も仕事は寿春城で行う。武官はそこに警邏や自己鍛錬が加わるし、文官、と言っても周喩にしか当てはまらないのだが、政務に飽きて街に突撃した孫策の捕縛という仕事も追加される。捕縛には高順達のような武官も動員される時があるし、高順自身も動員されたことがある。ところで、今高順がやっていた仕事と言うのは自分の部隊の事だ。ちょっと遅くなってしまったのだが、寿春の戦いが終わった時点での自部隊の戦死者を調べ、その家族がいるかどうか、というのものだった。家族がいれば、夫なり妻なり子供に見舞金と言う形で生活資金と、もしも現存すれば遺品を自分から渡しに行く。その一家の重要な働き手がいなくなった、と言うことになるし、その子供がまだ幼かったりしたら最低限その子が成人するまでは定期的に支給を行う手はずだ。これは何年も先の事に繋がる仕事である上、自分も何時死ぬか解らないからと周りの人々に「自分が死んでもこの作業だけはきっちり行ってくださいね」と伝えてある。高順の言う「終わった」とは見舞金の額の選定作業までで、その額を渡しに行く作業は残っている。ここまでは高順だけではなく、他の者も手伝っている仕事であるが今はこの部屋には高順以外誰もいない。もう少しでキリがつくからと既に昼時ではあったが、手伝ってくれた人々に「飯の時間ですよー」と外出させて、一人残って作業をしていたのである。「んん~~~・・・」と椅子に座ったまま伸びをする高順。さて、ちょっと遅くなったけど昼飯をと思ったところで、不意に扉がノックされた。「高順様はいらっしゃいますか?」聞こえてきた声に覚えは無いが、取次ぎの者だろう。「お、何か用事?」「なんでも高順様にお会いしたいと言う者が。如何致しますか?」「俺に・・・名前は?」「はぁ。華陀と名乗っておりますが。」「へ・・・華陀!? その華陀って人、赤髪の男性?」「は、よくご存知で。」「会う。通して・・・いや、俺が行く。何処にいるんです?」「は、応接室にお通ししました。」「解った、よく知らせてくれました。」空腹ではあったが、そんなものはどうでも良い、とばかりに高順は部屋を出た。~~~応接室~~~華陀は応接室の椅子に座ってじっと待っていた。卑弥呼と貂蝉は同行しておらず、ここにはいないのだが、それは前に徐州の陳羣(ちんぐん)に面会した時、2人に対して凄く胡散臭いものをみるような目を向けられたからである。怪しい人物と誤解されないように、という彼なりの配慮であった。「待たされる事も覚悟しなくては」と思った矢先、かちゃり、と扉が開いた。華陀はすぐに扉のほうへと向いて立ち上がる。その向こうに立っていたのは、今しがた待たされるかもな、と思った人物、高順であった。「華陀、久しぶりだな?」「高順、元気そうだな。」華陀も高順も笑顔で握手をした。高順にとっては急な来訪ではあるが、友人が自分を訪ねてくれたのだ。嬉しくないわけが無い。「よく訪ねて来てくれたよ。けど、なんだって急に。」「色々理由があってな。ところでお前、背が高くなったか? ・・・いや、違うな。」「? よく解らんが・・・で、その理由って?」「それなんだが。紹介したい人たちがいるんだが、ここでは少し不味い気がしてな。今から時間は空いているか?」「ん・・・飯がまだなんだが。」「そうか、それなら問題ないな。今から行くのは宿屋、すぐ下が酒場さ。ああ、それと。」「それと?」「馬超から伝言を預かっている。」「そっか。・・・いやちょっと待て。あんた、西涼に行ってたのか!」あっさり流しそうになった高順だが、馬超と言う言葉に反応する。「ああ。行く当てがなければ頼って来い、だとさ。まぁ必要は無かったか。」「いや、そんな事は無いさ。馬家の人々は元気だったか?」「ああ、馬騰の病気が酷かったがなんとか治せたよ。皆元気にしていたぞ。」「そっか。っておい、馬騰殿病気だったの!? しかも治したの!?」「ああ。」「・・・。その人、俺の親の友人なんだよ。ありがとうな。また借りが出来た。」気にするなよ、と華陀は苦笑する。「親の友人の事にまで借りを感じていたらキリがないだろう。借りは良いから、さっさと行くぞ。」「お、おぅ。」華陀は高順を促して共に部屋を出た。~~~宿~~~「なあ、そろそろ教えてくれても良いんじゃないか?」高順は2階に続く階段を上がりながら、前にいる華陀に話しかける。そろそろ用件を教えてくれても良いと思うのだが。「もうすぐそこだ。じゃあ、入るぞ」華陀がある部屋の前に立ち止まり扉を開ける。その部屋は華陀が当面の拠点として借りている場所らしく、そこそこ大きな部屋だった。部屋にはいたのは4人程。後で聞かされたが、10人を越す所帯であったそうな。そして、その部屋にいたのは袁紹・顔良・文醜・審配である。「この人たちって・・・?」高順は、彼女達を見て不審に思った。この4人が紹介したい人というのだろうか。全員女性・・・は構わないが、金髪の女性はどこかで見た覚えがある。一度も会った事は無いはずだが、誰かに似ているのだ。あれは誰だったかと思ったところで華陀が「紹介するよ、彼女は袁紹」とかるーく紹介をした。「はぁ。は・・・? えんしょう???」「貴方が高順さんですわね。お初にお目にかかりますわ。私は袁本初。」以後お見知りおきを、と袁紹は挨拶をする。「袁紹・・・? 袁本初だとっ!?」高順は殺気を漲らせて普段は護身用に腰から下げている剣の柄に手をかけた。それに反応して(高順は知らないが)顔良・分醜・審配も武器を構えるが、袁紹は驚きも慌てもせずに自分の部下に「おやめなさい」と声で制した。高順も柄に手をかけたままじっとしていたが、少しだけ思いなおした。この女がいなければ反董卓連合など出来なかったし、自分達は洛陽で平和に暮らしていた可能性だってある。が、しかし。自分自身も「自分の都合で」陶謙を攻撃したのだから、袁紹とそう変わりはしないのだ。丁原や友人達を喪わせた呂布に対してはまだ微妙な心境ではあるが。少し気持ちが落ち着いたか、高順はとりあえず柄から手を離して殺気を解く。どころか、そのまま剣を手近なところにあった机の上に置いて、とりあえず害意が無い事を示した。様子を見ていた華陀が「まったく、斬りかかると思ったぞ」と少しの不安を見せずに言う。彼は最初からこうなる事を想定している。こいつだから踏みとどまるだろう、と思われていたというのが正解だろうか。袁紹は特に怒りもせず「仕方が無い事ですわね」と頷いた。彼女も華陀から高順の置かれた状況を聞かされている。華陀に聞いたことと、自分で調べた事でも知っていたが高順は董卓陣営に身を置いていたと聞いている。反董卓連合を主導したかどうかはともかく、その盟主となっていたのは紛れもなく自分だ。謂われなく攻撃された彼らにしてみれば、恨みの1つや2つあって当然だろう。が、思うところがあるのかどうか、目の前の男は一応は怒りを納めた。感情にだけ任せて動くような人ではない、ということですわね。と袁紹は読んだ。「いや、すまない。しかし、貴方が袁紹・・・」どうも、聞いた話と随分違うな、と高順は呟く。「・・・どんな話を聞いていたのかしら。」「無謀でお馬鹿で名族の名を使ってやりたい放題。」「・・・。」評価を聞いて「ま、まぁ当てはまっていますわね」と、袁紹はずーんと落ち込んでしまうのであった。高順は華陀と袁紹、両者にあれこれと事情を聞き始めた。官渡の戦いの趨勢、曹操に見逃され華陀に出会ったこと。その後に徐州まで自分の行方を聞きに行き、ここまでたどり着いたことなど。「なるほど。で華陀。用事って言うのはこの人たちに関することなんだな?」「ああ。用件は・・・これは本人から言ってもらうほうが良いかな。」華陀は袁紹ののほうへと顔を向けて促した。「そうですわね。実は、高順さんにお願いをしたくてやってきたのですけど。」「はぁ。そのお願いと言うのは。」「私達を雇っていただけませんか?」「・・・はい? 雇う? 俺が貴方達を?」訝しがる高順に向かって「この通りですわ。」と袁紹はあっさりと頭を下げた。「れ、麗羽様ー!?」自分の主が頭を下げる。そんな場面を見たことが無い文醜にとっては驚きの叫びだった。「一応お聞きしますが、何故俺に?」高順の問いに、袁紹は頭を上げた。「曹操さんに見逃されたとは言え、そのまま北に留まっては何があるか解りません。私はともかく、部下の身が危険になってしまいます。」「それで孫家を?」「孫家、というよりも高順さんを・・・ですわね。華陀さんの推薦、ということもありますけれど。」この言葉に、高順は少し恨めしそうな目で華陀を見るが本人はそっぽを向いた。いつか泣かす。「一族に伝わる宝刀を売って、路銀か・・・皆に渡す金子に、とも思いましたがそれではただの一時凌ぎにしかなりません。きっちりとした働き口を、部下に与えてやりたいのです。」何分、袁家が滅んだ以上、私には何の伝手も無くて、と袁紹は肩を落とした。「私に出来る事であればなんでも致します。ですから、どうか・・・」なるほどね、だから華陀の伝手で俺を頼ってきた、か。袁紹の嘆願を聞いた高順は、噂って言うのはあまり当てにならないねえ、と感じていた。今まで袁紹に抱いていたイメージは「無謀でお馬鹿で名族の名を使ってやりたい放題。」だったが、目の前にいる女性は無謀ではあるかもしれないが、名族の名を使ってやりたい放題と言う性格には見えない。これが高圧的な態度であれば反発もして追い返すことも出来るだろうに。部下のために、と簡単に頭を下げる袁紹の姿に高順は同情して、今も変わらないかもしれないが、昔の自分の姿を重ねあわせた。何をやっても裏目に出て、行く先々で安定しない立場に置かれて、それでも自分を信じて付いて来てくれた皆の為にと動いていた自分。有体に言って、袁紹という人間に高順は一種の好意を覚えている。差し伸べる手があるなら、差し伸べても良いよな? と自分に言い訳をするような感じで自分の心を決めようともしている。まだまだ自分は甘いのかな、と高順は苦笑した。他者のために懸命に何かを為そうという姿勢は嫌いじゃないし、ここで受け入れないと自分を推薦してくれた華陀に恥をかかせることにもなる。ただ、受け入れるにしても、その為に1つ2つの手順を踏む必要がある。まず1つ目は自分の仲間だ。彼女達も袁紹をどう思っているか定かではないが好印象を持つものは少ないだろう。もっとも、彼女らはきっちり説明をすれば理解をしてくれるだろう。問題は2つ目。孫策にも言わなければいけないということだ。反董卓連合でお互いを見知っているはずだし、あの袁術の姉。袁家をまず好いていないだろう孫策の理解を得るのは随分苦労しそうだ。その上、曹操との対立理由になりかねない。袁家ということで何をするか解ったものではないという不安も付きまとう。色々とこっちも覚悟しないといけないかと、高順は溜息1つ吐いて華陀のほうへ体を向ける。「仕方が無い。華陀、あんたにも手伝ってもらうからな。」「何?」俺が? と不思議そうにしている華陀を置いておき、高順は袁紹にも顔を向けて「これから孫策殿のところに行きますよ」と語りかける。高順の意図を察しているのか、袁紹は素直に首肯した。「ふむ。解りましたわ。」「色々とこちらからの要望もありますし、それ以前に孫策殿がどう判断するかですけど・・・約束はします、必ず受け入れさせて見せますよ」~~~寿春城、政庁~~~「却下。」「一言ですか・・・」孫策の言葉に高順は、まぁそうだよなと思いつつ肩を落とした。政庁には孫策周喩孫権黄蓋などがおり、高順が華陀と袁紹一味を引き連れてやってきた時には「何事」と険悪な雰囲気だった。北方で勢力を伸ばし、そして曹操に敗北した袁紹が何故 という事もあったし、まさか高順と通じていたのか と疑われもしたが。袁紹の説明を受け、何とか落ち着いた孫策達だったが、高順の「彼女達を受け入れたいのですが」という言葉にはやはり「却下」の一言であった。「どうしても駄目ですか」「駄目。聞くまでも無いわよ。」高順の嘆願を孫策は簡単にあしらう。孫策からすれば袁紹などは「面倒な奴が来た」というものでしかない。それに、袁術を追放したのに同族の袁紹を受け入れる理由も無い。受け入れて得る物・・・曹操を攻める理由の一つ位にはなるかもしれないが、その程度だ。利益よりも不利益のほうが多そうだ、という考えである。ただ、1つだけ驚いたことがある。前に比べて袁紹が随分とまともだ。反董卓連合の時にはすちゃらかというか馬鹿チンというか、どーしようもない奴だったのに今は随分と大人しい。何かあったのかしら と思う孫策だがそれはどうでもいい。「とにかく駄目よ。皆もそう思うでしょ?」「私も、姉上と同意見です。利益よりも損失が大きくなると思います」「ふむ」「うーむ。」孫権は賛成、周喩と黄蓋は微妙な態度を見せた。黄蓋は「別にどうでもいいし」な感じで周喩は「袁家の兵を糾合、呼び集める事もできるか? しかし、失地回復という名目で袁術と結ぶ事もありうるな」と損得の両面を考えている。袁紹の勢力はもっと北だから兵を集める事はできないだろうし、集めたところで資金も何も無い彼女では兵を養っていく事はできまい。南と北の袁家、ということで別れていて、同じ袁家でも支援勢力は全く違う。高順が出資して勢力を盛り返したところで脅威とはならない、と周喩は素早く考えを纏めた。だが、高順はこの沈黙を駄目、と受け取り(あまり使いたくないけど切り札使うかな・・・)と決心をした。「解りました。では。」「では?」高順は懐から1枚の紙を取り出し、ばさっと広げた。「今までお貸し、或いは融資した資金、この場できっちり全額返済お願いします。」『えっ・・・えーーーーーーーー!?』「領民への炊き出し、城の工事費用、何故か俺の元に来た黄蓋殿の酒代のツケ。あと人件費とか諸々。あ、利息込みですハイ。」「ちょ、まっ! 落ち着きなさい高順!?」「俺はお湯をへそで沸かせるほどに冷静ですよ さぁ、今此処で全額耳をそろえてー。」無理。孫策らの目が、そう言っていた。さしもの孫策も助けを求めるような目で周喩へと向くが、その周喩ですら困りきった表情である。いきなり全額返せと言われても無理だ。高順の貸した資金はそれだけの額。・・・祭殿の酒代は、後で本人を思い切り締め上げて吐かせよう。うん。「袁紹の保護を認めたらどうするのだ。」周喩の問いに、高順は「さぁ?」と含みがありそうな、曖昧な返事をした。「むぅぅ・・・」「どーしましょうかねー。認めてくれたら」今回に限って貸した事実は残しても、借金帳消しにしちゃおうかなー。と、高順はこんな事を言いだしたのである。「は? ちょ、帳消し!? あれだけの額を・・・!」「はい。」今まで舐めた態度を見せていた高順だが、すぐに真面目な表情に戻る。「ソレでお前に得る物があるのか?」「ありませんね。これはあくまで俺個人の理由で、巻き込む事は申し訳なく思います。しかし俺は商いの真似事をしています。その中で一番大事なものが信頼である、ということを理解しました。自分は袁紹殿に、必ず何とかする、と約束をしたんです。」その約束を破る事は、俺には出来ません。と少し苦しそうに言う。「それとも、孫策殿は都合が悪くなったら俺との約束を反故になさると仰るので?」「うっ。」これは孫策には痛い言葉であった。孫策は高順にある程度の自由と、いつか来るであろう曹操との戦いのため何処かの土地を任せるという約束をしているからだ。「いや、困らせるつもりは無いのです。ただ保護が認められたとして、袁紹殿にもいくつか飲んでいただく条件があります。宜しいですか?」「私ですか?」袁紹の言葉に高順が頷く。「ええ。1つ。軍政に関ることはしない。2つ。袁紹という名を捨て真名で過ごしていただく。」「つまり、袁紹という人間は死に、麗羽という私だけが残る。麗羽という人間として野心を持たず。そういうことですわね」袁紹は「考えるまでもありません、承りましたわ」と答えた。今の彼女にとって、そんな事は造作も無い話なのだろう。「私は曹操さんと争い、敗れましたわ。負けた以上天下を狙う野心があるわけでも無し。すでに死んだも同然の身、その程度の事がいかほどのものでありましょう。」「と、言っております。」顔良や文醜、審配が生きて孫家の武将となっても世間には影響無い。袁紹という人間が生きて孫家に渡った、ということに問題があるのだ。だが、本人は真名で呼ばれても良いとして、庶民として生きていくことを否定しない。しかも、それを認めるだけで高順は借金の帳消しも考えるという。周喩は「どうする?」と孫策の決断を待つ。暫く考え込んでいた孫策だが、根負けしたかのように「はぁあ・・・。」と脱力した。「解った、解りました。もう良いわよ、袁紹。いや、今は・・・。」「麗羽ですわ。」「そう。じゃあ麗羽。今からあなたと、あなたに付いて来た者全てを孫家の民として認める。でも、おかしな真似をしたら・・・解っているわね?」「重々承知しておりますわ、孫策殿。」孫策の脅しとも取れる言葉に袁紹いや、麗羽は静かに笑って答えた。「付け加えて、1人紹介したい男がいます。」「へ?」もう終わったんじゃないの? という孫策らを尻目に、高順は華陀を前に押し出した。「彼の名は華陀。医者です」「はぁ・・・」そんな事言われても、と孫策は少し困り顔である。「俺の知ってる中で・・・いや、多分この国で3指に入る腕利きですよ。」本当は1番だろうが、それを言ってしまえば本人は嫌がるだろう。「で、どうだ? 体の悪い人はいる?」高順のいきなりの質問に、華陀は頷いた。「ああ。ええと、周喩、と言ったか」「は? いきなり何を。」名指しで呼ばれた周喩は自分を指差して何か悪いところでも と問い返す。「このところ寝不足だろう? そうだな。3日ほど不眠不休といったところか。今は良いがそれでは体がもたないぞ。」「む。」華陀の言う通り、周喩は3日ほどほとんど寝ずに政務やら軍務やらに携わって駆け回っていた。疲れてはいるが、それを他人に悟らせないようにしていたのに。「それとな。ええと、あんた。」「は? わ、わし・・・?」今度は、華陀が黄蓋を指差した。黄蓋は自分に話が来るとは思っていなかったらしく、少し声が上ずっていた。「あんただ。酒の飲みすぎは体に良くないぞ」「むぐっ!? い、いやしかし酒は百薬の長というではないか!」「過ぎたればただの毒、だ。あんたは酒に滅法強いかもしれんが、3日に1度くらい酒を抜いて体を休めるべきだ。」「そんな馬鹿な!? あっけなさすぎるっっ!!」「何がだ。2人に薬を処方するからな。孫策、悪いがどこか開いている部屋を貸してもらうぞ」と言い置いて、華陀は周喩・黄蓋の首根っこを捕まえる。「さ、行くぞ」「お、おい。ちょっと待て・・・」「嫌じゃあああっ!、離せっ、わしは年寄りじゃが体は至って健康じゃーーー!」いや、言うほど歳じゃないでしょうに、という高順の突っ込みは無視され、2人はずるずると引っ張られて行くのであった。「えー、あんな男です。」どこぞの漫才みたいな流れだったが、孫策は華陀に興味がありそうな感じだ。「まさか、見ただけで容態が解るの?」「「診た」だけで解るそうです。麗羽殿の保護を認めてくれた礼に、彼が暫く此処に逗留するそうです。」「ふん・・・彼の仲介があったわけね。ところで、彼って怪我とか病気も治せたりするわけ?」孫策の質問に、高順は「よほど酷くない限りは」と答えた。「ふぅん。ねぇ、高順。あの華陀って子、貴方の友達なのかしら?」「ええ、かけがえのない友人の一人ですよ。」普通に答える高順に、孫策はふっと笑った。「そう。ふふ、貴方の交友関係って面白いわね。さて、麗羽の事は認めたし、華陀には暫く力になってもらう。そして借金は帳消し・・・私にとっては良い条件。だけど本当にこれで良いのね? 貴方の得る物は何も無いのよ?」「ええ、問題ありません。では、どうぞ。」高順は借用書を未練気なく孫策に手渡した。彼女は文面にさっと目を通してそれが本物であるかどうかの確認をする。借用書に書いた自分の名、自身の筆跡・・・間違いない。「確かに。でも高順。くれぐれも・・・」「解っていますよ。馬鹿な真似をしないように、ですよね?」「宜しい。それじゃ、退がって良いわよ。」上機嫌の孫策の言葉に従い、高順と袁紹一行は退室して行った。廊下を歩いていく高順達。麗羽が後ろから「あの」と呼びかけ、高順は歩きながら「何です?」と答える。「先ほど、貸し付けた金がどうとか宜しかったですの? 相当な額だとお聞きしましたが・・・」「構いませんよ。」戻ってくるかどうかは微妙だったしね、と高順は苦い笑みを顔に浮かべる。確かに相当な額だと思うのだが、あのお金が多少でも役に立てばそれはそれで、と考えている。「そう・・・それと、商いをしているとか?」「ええ。」「あの、経理くらいなら出来ますわよ」遠慮がちに言う麗羽に、高順が歩を止めて振り返った。「本当に? って、それもそうか。仮にも一勢力を築いたお人ならそれくらいできるよねぇ・・・」「顔良さんと文醜さんは強いですし、付いて来た者も親衛兵。皆、扱いは傭兵、或いは店の警備と言うことでも良いでしょう。審配さんだって経営というものを知っておりますわ。」「え、あたいらの意思はむぐっ」「はいはい、文醜ちゃんは黙って。」文句を言おうとした文醜だが、顔良に口を押さえられて「むー」とか「もー」と呻き声を上げるだけである。「ふむ・・・?」高順は顎に手を当てて一寸考えた。そういえば、今は店の経営を担っている闞沢ちゃんが「一人じゃ無理ですーーー!!」とか嘆いていたな。それは当然だろう。何せ店の経営から部隊の輜重までこなさないといけない。一人では無理だから、と泣きつかれて何人か手伝いに向かわせたがそれでも足りないとか。向かわせた人々も、素人だったから余計に手間がかかってしまっていたらしい。それを思えば、ちょっと方向性が違っていても素人とはいえない麗羽達のほうが戦力になるかもしれない。ちょっとした賭けになりそうだが、この人たちにやらせてみるか。と思う高順であった。こうして、麗羽達は店の経営を一時的に且つ見張りつきで任される事になる。彼女達は「拾ってもらった恩は返す」とばかりに働いたせいか、周りの疑いもすぐに晴れている。顔良も審配もよく働いてくれているし、文醜はたまーにおかしな事をやらかすが。袁家の2枚看板と言われた猛将だけあって、押し入ってきた盗賊の類を鮮やかに組み伏せたり、と高順が思う以上の働きを見せてくれたりする。また、麗羽の凄まじいまでの「強運」が異様な儲けをたたき出して倉の増設まですることになった。「あら、高順さん。儲けを納める倉が足りなかったのでいくつか増設いたしましたわ。事後承諾になって申し訳ないのですけど、宜しかった?」「えっと・・・どういうことなの・・・」中身満載の、増設された倉を見渡して高順は呆然としてしまった。これ、もしかして俺たちが今までに稼いだ額より多いんじゃないだろうか・・・?~~~楽屋裏~~~いろいろ書き加えてこのザマデスヨあいつです(やけ気味に挨拶しかも5回以上修正した! ZETUBOUした!孫家的日常が長いですね。修正する前にも話しましたが後1話か2話で終わる予定です。まだ西涼とか色々な話あるんですが「こんな戦いがあったよ」なダイジェストにして終わらせるべき、と書いた所「とっとと終われよ」という感想も見受けられました(違高順伝自体が冗長になってますからねぇ、真っ当な感想です(遠いっそ、やりたかったお話全てを削って、一気に最終回(それもダイジェスト)でしゃっきりぽんと締めるべきか・・・。意見を貰うべきかどうか。悩みますな。それではまた次回。